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会計利益と企業価値評価モデルの数理的分析

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(1)

会計利益と企業価値評価モデルの数理的分析

著者 矢部 孝太郎

雑誌名 同志社商学

巻 67

号 4

ページ 349‑368

発行年 2016‑03‑15

権利 同志社大学商学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000014424

(2)

会計利益と企業価値評価モデルの数理的分析

矢 部 孝 太 郎

Ⅰ はじめに

Ⅱ 会計の基礎構造

Ⅲ 会計の基礎構造上の企業価値評価モデルの分析

Ⅳ 会計操作と株主資本価値の関係

Ⅴ おわりに

Ⅰ は じ め に

本稿では,純利益,その他の包括利益および包括利益を計算する会計の基礎構造(複 式簿記の数理的構造)と企業価値評価モデルの関係について考察する。

企業の取引の変更およびそれに伴う会計数値の変化・変更や,会計帳簿上のみでの会 計数値の変更が,企業価値評価モデルによって算定する株主資本価値にどのような影響 を与えるかを正確に計算するための枠組みを構築する。また,その枠組みは,会計の基 礎構造と企業価値評価モデルの数値関係に関する体系的な記述の枠組みでもある。

その枠組みの1つの応用として,会計帳簿上のみでの会計数値の変更が企業価値評価 モデルによって算定する株主資本価値に影響を与えないという命題およびその内部構造

・メカニズムを明確に示すこともできる。

本稿の構成は以下の通りである。Ⅱ節では,会計の基礎構造と会計の基本的制約条件 に関する記述の枠組みを説明する。Ⅲ節では,会計の基礎構造と企業価値評価モデルで ある割引超過利益モデルの数値関係について説明する。Ⅳ節では,Ⅲ節の枠組みの応用 として,「会計帳簿上のみでの会計数値の変更が,企業価値評価モデルによって算定す る株主資本価値に影響を与えない」という命題について考察する。Ⅴ節では,今後の課 題について述べる。

Ⅱ 会計の基礎構造

1.基礎等式

任意の一会計期間の期末時点を"時点とし,その会計期間を"期とする。"""時点 は,"""期の期末時点となる。微小の時間経過を!"として,""!"#"とし,"時点 を"""期の期首時点とする。このとき,"期の期間は#"!"!"$もしくは!"!"!"$と表

349)133

(3)

記する。.""期の期間は#.!.""$もしくは!.!.""$となる。以下,変数記号の添字の .は,.期における値ということを意味するものとする。また,企業の設立時点は0時 点とし,企業の解散時点はT 時点とする。なお,本稿では企業の形態として,株式会 社を想定する。

企業を会計数値として写し取るための基礎となる数理構造としての会計の基礎構造

(複式簿記の構造)は,次のように表記される。

!.#'."(!. [貸借対照表等式] (1)

!.#"."!-. [資産構成等式] (2)

(!.#&."!)". [純資産構成等式] (3)

$."%.#*. [損益計算書等式] (4)

"%.#%.")"%. [包括利益計算書等式] (5)

(!.#(!.!"",+.""%. [純資産残高変動方程式] (6)

,+.#%".!*".!#/. [株主取引収支定義式] (7)

&.#&.!"",+."%. [株主資本残高変動方程式] (8)

!)".#!)".!"")"%. [その他の包括利益累計額残高変動方程式] (9)

!.:資産 '.:負債 (!.:純資産

".:キャッシュ !-.:非キャッシュ項目の資産

&.:株主資本 !)".:その他の包括利益累計額

*.:収益 $.:費用 %.:純利益

"%.:包括利益 )"%.:その他の包括利益

,+.:株主との取引によるキャッシュフロー %".:出資によるキャッシュフロー

*".:減資によるキャッシュフロー #/.:配当によるキャッシュフロー

株主資本価値の評価と企業価値評価モデルを考察するためには,出資,減資,配当と いう株主との取引によるキャッシュフローという変数を独立した項目として取り扱う必 要があるため,上記の会計の基礎構造の基礎等式において,独立した項目として扱って いる。また,株主との取引によるキャッシュフローに関して,数式を短くするための便 宜として,株主との取引によるキャッシュフローを(7)式のように定義する。企業か ら見て収入がプラス,支出がマイナスとなる形で定義している。

なお,本稿では,(6)(8)(9)式を基礎にして,その他の包括利益のリサイクリング を行う会計計算構造を想定する。

これらの等式を集約した,同値である等式は,次の試算表等式(10)式である。会計 期間期中の企業の取引(決算整理事項等の記録上の取引を含む)は,この等式が成り立 つように記録される。

同志社商学 第67巻 第4号(2016年3月)

134(350

(4)

!/##/$&/#%/!$#!("/!$#+*/#)/#("$/[試算表等式・複式記入等式] (10)

資産,負債,純資産(株主資本,その他の包括利益累計額),収益,費用,その他の 包括利益などの変数項目は,数式による記述というレベルで考える場合でも,当然,さ らに細かい個々の勘定科目に分解しうるが,ここでは,数式による記述を簡潔にするた めに,これ以上分解しない。

2.終端条件

企業の解散時点(会計帳簿の閉鎖時点)である+時点において,満たさなければな らない条件である終端条件(企業解散条件・企業清算条件)は,(11)(12)(13)式で 示され,それは,解散時点(+時点)において,資産,キャッシュ,非キャッシュ項目 の資産,負債,純資産,株主資本,その他の包括利益累計額の残高がすべて0となって 清算されることを要求している。

!+$"+$!,+$# (11)

&+$# (12)

'!+$%+$!("+$# (13)

3.残高変動方程式

純資産,株主資本,その他の包括利益累計額の残高変動方程式,(6)(8)(9)式は,

時点をずらして代入を繰り返し展開すると,(14)(15)(16)式を導くことができる。

(14)(15)(16)式の0は0時点と.時点の間の時点の中から任意に選んだ時点であ る。!#"0"."。

'!.$'!.!$#+*.#"$.$'!##!

-$$

.+*-#!

-$$

."$-$'!0#!

-$0#$

. +*-#!

-$0#$

. "$- (14)

%.$%.!$#+*.#"$.$%##!

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-$0#$

. +*-#!

-$0#$

. $- (15)

!(".$!(".!$#("$.$!("##!

-$$

.("$-$!("0#!

-$0#$

. ("$- (16)

(14)(15)(16)式は,任意の時点の純資産,株主資本,その他の包括利益累計額の 残高を,企業の設立時点(0時点)からの金額変動の累積として表す式である。これら の式は,ある時点.までの会計上の利益と株主との取引によるキャッシュフローの時 系列の履歴が,純資産,株主資本,その他の包括利益累計額の.時点における残高に 反映されることを示している。

会計利益と企業価値評価モデルの数理的分析(矢部) 351)135

(5)

4.会計上の損益計算の基礎的前提(基本的制約条件)

企業の設立時点(0時点)から一定時間が経過した後の任意の+時点をとって,+時 点から解散時点((時点)までという部分期間!+!($を考察するという場合を考える

(このとき,+#"とすれば,部分期間!+!($は,全体期間!"!($となる。)。

会計上の純資産,株主資本,その他の包括利益累計額の残高変動方程式(14)(15)

(16)式について,*として(時点をとり,,として+時点をとると,次のようになる。

%!(#%!+"!

)#+"#

( (')"!

)#+"#

( "#) (17)

$(#$+"!

)#+"#

( (')"!

)#+"#

( #) (18)

!&"(#!&"+"!

)#+"#

( &"#) (19)

(17)(18)(19)式に,終端条件(13)式を代入すると,(20)(21)(22)式を得ら れる。

!

)#+"#

( "#)"%!+#!!

)#+"#

( (') (20)

!

)#+"#

( #)"$+#!!

)#+"#

( (') (21)

!

)#+"#

( &"#)#!!&"+ (22)

+"#時点から解散時点((時点)までに計上する損益の金額は,(20)(21)(22)式

によって,規定される。その意味でこれらの式は会計上の損益計算の基礎的前提あるい は制約条件を表す式である。

(20)式は,+"#時点から(時点までの期間において計上する包括利益の合計は,

同じ期間における株主との取引によるキャッシュフローの合計と+時点における純資産 の金額の和にマイナスの符号を付けた値と等しくなければならないことを表している。

(21)式は,+"#時点から(時点までの期間において計上する純利益の合計は,同 じ期間における株主との取引によるキャッシュフローの合計と+時点における株主資本 の金額の和にマイナスの符号を付けた値と等しくなければならないことを表している。

(22)式は,+"#時点から(時点までの期間において計上するその他の包括利益の 合計は,+時点におけるその他の包括利益累計額の金額にマイナスの符号を付けた値と 等しくなければならないことを表している。

同志社商学 第67巻 第4号(2016年3月)

136(352

(6)

5.会計の基礎構造上の変数変化の比較の枠組み

企業の設立時点(0時点)から一定時間が経過した後の任意の*時点をとって,*時 点から解散時点((時点)までという部分期間!*!(%を考察対象とし,部分期間!*!(%

において,変数の時系列ベクトルを変化させて,変数の数値を変更し,変更後と変更前 の比較をするという場合の記述と分析の枠組みは以下のようになる。

変数の時系列ベクトルの変化は,企業の取引を変更し,また,それに伴って会計数値 が変化・変更される場合に生じる。また,企業の取引は一切変更せず会計帳簿上のみで 会計数値の変更をした場合にも生じる。

変数の数値の変更後と変更前の記述は,変更前の変数の数値に,"という記号を付し た場合,変更後の数値であるものとする。変更前の変数の数値をベースにして,変数の 様々な変化を考える場合を想定している。変数の数値の変更後と変更前の変化分を記号 で表す場合,変数記号の前に!という記号をつけることにする。例えば,*##時点の 包括利益"#*##を"#*##" に変化させた場合,その変化分!"#*##は,

!"#*##$"#*##" !"#*##である。

(17)(18)(19)式について,変数の時系列ベクトルを変化させた後の変数の数値に 関して記述すると,次のようになる。

%!("$%!*"#!

)$*#"

( (')"#!

)$*#"

( "#)" (23)

$("$$*"#!

)$*#"

( (')"#!

)$*#"

( #)" (24)

!&"("$!&"*"#!

)$*#"

( &"#)" (25)

(23)(24)(25)式と(17)(18)(19)式について,変数の時系列ベクトルの変更後 と変更前を比較した変化分で記述すると,次のようになる。

!%!($!%!*#!

)$*#"

( !(')#!

)$*#"

( !"#) (26)

!$($!$*#!

)$*#"

( !(')#!

)$*#"

( !#) (27)

!!&"($!!&"*#!

)$*#"

( !&"#) (28)

(26)(27)(28)式について分析すると,(13)式の終端条件より,最終時点である

(時点の純資産,株主資本,その他の包括利益累計額の残高は0に固定されているか

ら,次の式が成り立つ。

会計利益と企業価値評価モデルの数理的分析(矢部) 353)137

(7)

%!($%!("$" !%!($" (29)

$($$("$" !$($" (30)

!&"($!&"("$" !!&"($" (31)

また,任意の*時点から解散時点((時点)までという部分期間!*!($において,変 数の時系列ベクトルを変化させることを考える場合に,この部分期間の初期時点*時点 における値は所与とするため,次の式が成り立つ。

%!*$%!*" !%!*$" (32)

$*$$*" !$*$" (33)

!&"*$!&"*" !!&"*$" (34)

したがって,(26)−(34)式より,次の(35)(36)(37)式が成り立つ。

!

)$*##

( !"#)$!!

)$*##

( !(') (35)

!

)$*##

( !#)$!!

)$*##

( !(') (36)

!

)$*##

( !&"#)$" (37)

企業の設立時点(0時点)から一定時間が経過した後の任意の*時点をとって,*時 点から解散時点((時点)までという部分期間!*!($を考察し,かつ,その部分期間

!*!($において,変数の時系列ベクトルを変化させて,変数の数値を変更し,変更後と 変更前の比較をするという場合は,(35)(36)(37)式の関係が,変数に与えられる基 本的な前提としての制約条件となる。

(35)式は,部分期間!*!($における,包括利益の変化額の合計は,株主との取引に よるキャッシュフローの変化額の合計にマイナスの符号を付けた値と等しくなければな らないということを表している。

(36)式は,部分期間!*!($における,純利益の変化額の合計は,株主との取引によ るキャッシュフローの変化額の合計にマイナスの符号を付けた値と等しくなければなら ないということを表している。

(37)式は,部分期間!*!($における,その他の包括利益の変化額の合計は,ゼロに 等しくなければならないということ,および,ある期のその他の包括利益を増加(減 少)させれば,それ以外の期において同額だけその他の包括利益を減少(増加)させな

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138(354

(8)

ければならないということを表している。

また,(35)(36)(37)式は,収益,費用,その他の包括利益についても,それらの 式を満たすように変化しなければならないことを表している。

Ⅲ 会計の基礎構造上の企業価値評価モデルの分析

1.割引超過利益モデル

本稿では,考察に用いる企業価値評価モデルとして,割引配当モデルと割引超過利益 モデルを用いる。割引配当モデルは,企業と株主の間の,出資,減資,配当によるキャ ッシュフローの割引現在価値合計として,企業価値のうちの株主に帰属する価値(株主 資本価値)を求める企業価値評価モデルである。割引超過利益モデルは,包括利益から 1期前の純資産額に割引率を乗じた額である正常利益を控除した超過利益の割引現在価 値合計と現在時点の純資産額の和として株主に帰属する価値(株主資本価値)を求める モデルである。

割引配当モデルは(38)式で示され,割引超過利益モデルは(39)式で示される。な お,本稿では,割引率)は時間を通じて一定の定数であり,$!)"#とする。

'&%*$!

($*#$

& !&%(

!$#)"(!* (38)

'&%*$!

($*#$

& "#(!)$!(!$

!$#)"(!* #$!* (39)

'&%*:株主資本価値

2.割引配当モデルと割引超過利益モデルの同値性

割引配当モデルによって計算した株主資本価値と割引超過利益モデルによって計算し た株主資本価値は一致する。それは割引超過利益モデル(39)式に純資産の残高変動方 程式(6)式を代入して計算し,終端条件(13)式を考慮することで,次のように示さ れる。

'&%*$!

($*#$

& "#(!)$!(!$

!$#)"(!* #$!*$!$!*#!

($*#$

& !&%(

!$#)"(!*#$!*$!

($*#$

& !&%(

!$#)"(!*(40)

包括利益と純資産の数値は株主に帰属する価値(株主資本価値)の計算に資する情報 であると言える。これは,全体期間において,その他の包括利益の増加額の通時的合計 と,減少額の通時的合計は等しくなるということによっている。

会計利益と企業価値評価モデルの数理的分析(矢部) 355)139

(9)

3.株主資本価値の変化分析の一般的枠組み

企業の設立時点(0時点)から一定時間が経過した後の任意の*時点をとって,*時 点から解散時点(&時点)までという部分期間!*!&&を考察し,かつ,その部分期間

!*!&&において,変数の時系列ベクトルを変化させて,変数の数値を変更し,変更後と

変更前の割引超過利益モデルによる株主資本価値の比較を行う。この場合,設立時点

(0時点)から*時点までのすべての企業活動・経済事象は所与とし,*時点の純資産,

株主資本,その他の包括利益累計額の残高の金額は所与の初期値となる。

ここで考察する変数の時系列ベクトルの変化は,企業の取引の変更し,また,それに 伴って会計数値が変化・変更される場合および企業の取引は一切変更せず会計帳簿上の みで会計数値の変更をする場合の両方である。

変数の時系列ベクトルを変化させ比較する場合における,変化前の割引超過利益モデ ルによる株主資本価値は,割引超過利益モデル(39)式に純資産の残高変動方程式(6)

式を代入して書き下すと(41)式のようになる。

'&%*$!

($*##

& "#(!)$!(!#

!##)"(!* #$!*

$"#*##!)$!*

!##)"# #"#*#$!)$!*##

!##)"$ #"#*#%!)$!*#$

!##)"% #"""#"#&!#!)$!&!$

!##)"&!#!*

#"#&!)$!&!#

!##)"&!* #$!*

$"#*##!)$!*

!##)"# #"#*#$!)!$!*#&%*###"#*##"

!##)"$

#"#*#%!)!$!*#&%*###&%*#$#"#*###"#*#$"

!##)"%

#"""#"#&!#!)!$!*#&%*###&%*#$#"""#&%&!$#"#*###"#*#$#"""#"#&!$"

!##)"&!#!*

#"#&!)!$!*#&%*###&%*#$#"""#&%&!##"#*###"#*#$#"""#"#&!#"

!##)"&!* #$!*

(41)

*時点から解散時点(&時点)までという部分期間!*!&&において,変数の時系列ベ クトルを変化させ比較する場合における,変化後の割引超過利益モデルによる株主資本 価値は,(42)式のようになる。

同志社商学 第67巻 第4号(2016年3月)

140(356

(10)

'&%*#%!

('*$$

& "#(#!)$!(!$#

!$$)"(!* $$!*#

%"#*$$# !)$!*#

!$$)"$ $"#*$%# !)$!*$$#

!$$)"% $"#*$&# !)$!*$%#

!$$)"& $"""$"#&!$# !)$!&!%#

!$$)"&!$!*

$"#&#!)$!&!$#

!$$)"&!* $$!*#

%"#*$$# !)$!*#

!$$)"$ $"#*$%# !)!$!*#$&%*$$# $"#*$$#"

!$$)"%

$"#*$&# !)!$!*#$&%*$$# $&%*$%# $"#*$$# $"#*$%#"

!$$)"&

$"""$"#&!$# !)!$!*#$&%*$$# #&%*$%# $"""$&%&!%# $"#*$$# $"#*$%# $"""$"#&!%# "

!$$)"&!$!*

$"#&#!)!$!*#$&%*$$# $&%*$%# $"""$&%&!$# $"#*$$# $"#*$%# $"""$"#&!$# "

!$$)"&!* $$!*#

(42)

変更後と変更前の割引超過利益モデルによる株主資本価値の比較を行い,(41)式と

(42)式の変化分をとると,次のようになる。ただし,(32)式の$!*%$!*#という関 係を使う。

!'&%*%!"#*$$

!$$)"$$!"#*$%!)!!&%*$$$!"#*$$"

!$$)"%

$!"#*$&!)!!&%*$$$!&%*$%$!"#*$$$!"#*$%"

!$$)"& $"""

$!"#&!$!)!!&%*$$$!&%*$%$"""$!&%&!%$!"#*$$$!"#*$%$"""$!"#&!%"

!$$)"&!$!*

$!"#&!)!!&%*$$$!&%*$%$"""$!&%&!$$!"#*$$$!"#*$%$"""$!"#&!$"

!$$)"&!*

(43)

(43)式は,次の(44)式のように展開することができる。

会計利益と企業価値評価モデルの数理的分析(矢部) 357)141

(11)

!%$#($!!"(#%

!%#'"%#!'!!"(#%

!%#'"&#!'!!"(#%

!%#'"'#"""#!'!!"(#%

!%#'"$!%!(#!'!!"(#%

!%#'"$!(

#!!"(#&

!%#'"& #!'!!"(#&

!%#'"'#"""#!'!!"(#&

!%#'"$!%!(#!'!!"(#&

!%#'"$!(

#!!"(#'

!%#'"' #"""#!'!!"(#'

!%#'"$!%!(#!'!!"(#'

!%#'"$!(

##

#

# !!"$!%

!%#'"$!%!(#!'!!"$!%

!%#'"$!(

# !!"$

!%#'"$!(

#!'!$#(#%

!%#'"&#!'!$#(#%

!%#'"'#"""#!'!$#(#%

!%#'"$!%!(#!'!$#(#%

!%#'"$!(

#!'!$#(#&

!%#'"'#"""#!'!$#(#&

!%#'"$!%!(#!'!$#(#&

!%#'"$!(

##

#

#!'!$#$!%

!%#'"$!%!(#!'!$#$!%

!%#'"$!(

#!'!$#$

!%#'"$!( (44)

ここで,次の変数を定義する。

!!&$!$#&#!!"& (45)

この変数は次のような関係を持つ。

!

&$(#%

$ !!&$!

&$(#%

$ !!!"&#!$#&"$!

&$(#%

$ !!"&#!

&$(#%

$ !$#& (46)

(35)式によって示される基本的な前提の下では,(46)式より,次の関係が成り立 つ。

!

&$(#%

$ !!&$$ (47)

この変数を使って,(44)式は以下のように書き換えることができる。

同志社商学 第67巻 第4号(2016年3月)

142(358

(12)

!%$#'$!!"'#$

!$#&"$#!&!!'#$

!$#&"%#!&!!'#$

!$#&"&#"""# !&!!'#$

!$#&"$!$!'#!&!!'#$

!$#&"$!'

#!!"'#%

!$#&"%#!&!!'#%

!$#&"&#"""# !&!!'#%

!$#&"$!$!'#!&!!'#%

!$#&"$!'

#!!"'#&

!$#&"&#"""# !&!!'#&

!$#&"$!$!'#!&!!'#&

!$#&"$!'

##

#

# !!"$!$

!$#&"$!$!'#!&!!$!$

!$#&"$!'

# !!"$

!$#&"$!'

$!!'#$!!$#'#$

!$#&"$ #!&!!'#$

!$#&"% #!&!!'#$

!$#&"& #"""# !&!!'#$

!$#&"$!$!' #!&!!'#$

!$#&"$!'

#!!'#%!!$#'#%

!$#&"% #!&!!'#%

!$#&"& #"""# !&!!'#%

!$#&"$!$!' #!&!!'#%

!$#&"$!'

#!!'#&!!$#'#&

!$#&"& #"""# !&!!'#&

!$#&"$!$!' #!&!!'#&

!$#&"$!'

##

#

#!!$!$!!$#$!$

!$#&"$!$!' #!&!!$!$

!$#&"$!'

#!!$!!$#$

!$#&"$!'

$ !!'#$

!$#&"$#!&!!'#$

!$#&"%#!&!!'#$

!$#&"&#"""# !&!!'#$

!$#&"$!$!'#!&!!'#$

!$#&"$!'

#!!'#%

!$#&"%#!&!!'#%

!$#&"&#"""# !&!!'#%

!$#&"$!$!'#!&!!'#%

!$#&"$!'

# !!'#&

!$#&"&#"""# !&!!'#&

!$#&"$!$!'#!&!!'#&

!$#&"$!'

##

#

# !!$!$

!$#&"$!$!'#!&!!$!$

!$#&"$!'

# !!$

!$#&"$!'

#!!$#'#$

!$#&"$#!!$#'#%

!$#&"%#!!$#'#&

!$#&"&#"""# !!$#$!$

!$#&"$!$!'# !!$#$

!$#&"$!' (48)

会計利益と企業価値評価モデルの数理的分析(矢部) 359)143

(13)

ここで,自然数&"'について,'#&"&#$"'#%としたとき,次の(49)式が成 り立つ。

$

!$$("&!(!

%%&$$

' $

!$$("%% $

!$$("' (49)

したがって,(48)式は,次の(50)式のように書き換えることができる。

!#"!)% !!)$$

!$$(""!)$ !!)$%

!$$(""!)$ !!)$&

!$$(""!)$"""$ !!"!$

!$$(""!) $ !!"

!$$(""!)

$!!"!)$$

!$$("$ $!!"!)$%

!$$("%$!!"!)$&

!$$("&$"""$ !!"!"!$

!$$(""!$!)$ !!"!"

!$$(""!)

% $

!$$(""!)

!

$%)$$

"

!!$$!

$%)$$

" !!"!$

!$$("$!) (50)

基本的な前提(35)式の下では,(47)式の !

$%)$$

"

!!$%#が成り立つから,(50)式 は,次の(51)式のように書き換えることができる。

!#"!)%!

$%)$$

" !!"!$

!$$("$!) (51)

このようにして,変数の変化分で考えた割引超過利益モデルを展開した(44)式は,

変数の変化分で考えた割引配当モデル(51)式に帰着される。すなわち,変数の変化分 で考えた場合であっても,割引配当モデルと割引超過利益モデルは同値であるというこ とが示された。

企業の取引を変更し,また,それに伴って会計数値が変化・変更されるときに生じる 変数の時系列ベクトルの変化が株主資本価値に与える影響を考察する場合も,企業の取 引は一切変更せず会計帳簿上のみで会計数値の変更をするときに生じる変数の時系列ベ クトルの変化が株主資本価値に与える影響を考察する場合も,このⅢ.3節の枠組みで考 察すればよいことになる。

企業の取引の変更や,会計数値の変更が株主資本価値に与える影響を分析するとき,

結局は,株主との取引によるキャッシュフローの時系列ベクトルの変化のみが株主資本 価値に影響を与える唯一の原因となり,会計の基礎構造に基づいている整合的な会計数 値のみの時系列ベクトルの変化は,どのようなものであっても,株主資本価値に影響を 与えないことが(44)式から(51)式までの数式により示されていると言える。

同志社商学 第67巻 第4号(2016年3月)

144(360

(14)

4.構造の検討

(44)式と(51)式を,つなげて書き下せば,以下の(52)式のようになる。ここで は,(44)式から(51)式を導く構造を別の角度から検討する。

!%$#($ !!"(#$

!$#'"$

!

#!'!!"(#$

!$#'"% #!'!!"(#$

!$#'"&#"""# !'!!"(#$

!$#'"$!$!(#!'!!"(#$

!$#'"$!(

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!$#'"% #!'!!"(#%

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!$#'"$!$!(#!'!!"(#%

!$#'"$!(

#!!"(#&

!$#'"& #"""# !'!!"(#&

!$#'"$!$!(#!'!!"(#&

!$#'"$!(

##

#

# !!"$!$

!$#'"$!$!(#!'!!"$!$

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!$#'"$!(

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!

#!'!$#(#$

!$#'"&#"""#!'!$#(#$

!$#'"$!$!(#!'!$#(#$

!$#'"$!(

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(52)式の1つ目の大括弧は,次の(53)式に等しい。

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(53)

(52)式の2つ目の大括弧は,次の(54)式に等しい。

会計利益と企業価値評価モデルの数理的分析(矢部) 361)145

(15)

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!$#'"&!( (54)

したがって,(53)(54)式より,(52)式は,以下の(55)式あるいは(56)式のよ うに書き換えることができる。

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(56)

基本的な前提(35)式の下では,(56)式の真ん中の辺の第一項と第二項の和は0に なるため,残りの項が右辺の値となるという構造になっていることがわかる。

(56)式は,基本的な前提(35)式の下では,次の(57)式のように書き換えられる。

同志社商学 第67巻 第4号(2016年3月)

146(362

(16)

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(56)式と(57)式が,(44)式から(51)式を導く構造となっている。

Ⅳ 会計操作と株主資本価値の関係

1.会計利益操作無効命題

設立時点(0時点)から任意の(時点までのすべての企業活動・経済事象を所与とし て,(時点における株主資本価値の評価をするとき,確実性下を仮定して,(時点から 解散時点($時点)までの部分期間!(!$%におけるすべての企業活動・経済事象が1通 りに定まっているものとすれば,部分期間!(!$%における,株主との取引によるキャッ シュフローの時系列ベクトルも1つに定まっているため,割引配当モデル(38)式によ って,株主資本価値の値は1つに定まる。

企業の設立時点(0時点)から一定時間が経過した後の任意の(時点をとって,(時 点から解散時点($時点)までという部分期間!(!$%を考察し,かつ,その部分期間

!(!$%において,変数の時系列ベクトルを変化させて,変数の数値を変更し,変更後と 変更前の割引超過利益モデルによる株主資本価値の比較を行う。この場合,設立時点

(0時点)から(時点までのすべての企業活動・経済事象は所与とし,(時点の純資産,

株主資本,その他の包括利益累計額の残高の金額は所与の初期値となる。

ここで考察する変数の時系列ベクトルの変化は,企業の取引は一切変更せず会計帳簿 上のみで会計数値の変更をした場合のみとする。つまり,企業の取引の変更し,また,

それに伴って会計数値が変化・変更される場合は除くものとする。これにより,会計帳 簿上のみでの会計数値の変更が,割引超過利益モデルによる株主資本価値に与える影響 を考察することにする。

Ⅲ節の枠組みを使えば,「会計帳簿上のみでの会計数値の変更が,企業価値評価モデ ルによって算定する株主資本価値に影響を与えない」という命題が成り立つこと,およ び,その内部構造・メカニズムを示すことができる。

会計利益と企業価値評価モデルの数理的分析(矢部) 363)147

(17)

2.企業実態不変の仮定

Ⅲ節の枠組みにおける(52)式は,会計の基本的な前提である(35)式の下で成り立 つ。ここでは,(35)式と(52)式が成り立つ状況すなわち基本的な会計の基礎構造に おいて,次のような仮定を追加し,分析を進めることにする。

「複式簿記の構造上の制約は満たす会計帳簿(財務諸表)上のみでの会計操作によっ て会計数値の変更をしても,企業活動・経済事象は会計数値の変更の影響を一切受け ず,不変であると仮定する」。これを,以下での記述の便宜上,「企業実態不変の仮定」

と呼ぶことにする。

「企業実態不変の仮定」により,株主との取引によるキャッシュフローおよびその時 系列ベクトルは,会計帳簿上のみでの会計数値の変更の影響を一切受けない。同様に,

営業・事業によるキャッシュフローや債権者との取引によるキャッシュフローおよびそ れらの時系列ベクトルも,会計帳簿上のみでの会計数値の変更の影響を一切受けない。

このようにして,Ⅲ節の枠組みの,企業の取引を変更し,また,それに伴って会計数 値が変化・変更される場合および企業の取引は一切変更せず会計帳簿上のみで会計数値 の変更をした場合の両方を取り扱う考察から,企業の取引は一切変更せず会計帳簿上の みで会計数値の変更をした場合だけの考察に限定されることになる。

株主との取引によるキャッシュフローを&期から$期までの期間分並べた時系列ベ クトルを,時系列ベクトルの変化前"!#と変化後"!#$について記すとそれぞれ次の

(58)式と(59)式のようになる。

"!#&!$#&!$#&%$!"""!$#$" (58)

"!#$&!$#&$!$#&%$$!"""!$#&$" (59)

ここでは,「企業実態不変の仮定」により,株主との取引によるキャッシュフローお よびその時系列ベクトルは変化しないため,次のようになる。

$#%&$#%$!!$#%&$#%$!$#%&# !&%$#%#$", "!#&"!#$ (60)

したがって,「企業実態不変の仮定」の下では,(35)(36)式は,次の (61)(62)

式のように書き換えられる。

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%&&%$

$ !!"%&# (61)

!

%&&%$

$ !"%&# (62)

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148(364

(18)

(61)(62)式は,会計の基本的な前提である(35)(36)式の成り立つ状況すなわち 基本的な会計の基礎構造のうち,さらに特定の状況に絞り込んだ状況を示している。

(61)(62)式は(35)(36)式の十分条件であり,(35)(36)式は(61)(62)式の必 要条件である。

(61)式は,部分期間!'!$&において,「企業実態不変の仮定」の下で,会計帳簿上の みでの会計数値の任意の変化を考える場合,包括利益の変化額の合計は,ゼロに等しく なければならないということ,および,ある期の包括利益を増加(減少)させれば,そ れ以外の期において同額だけ包括利益を減少(増加)させなければならないということ を表している。(62)式は,部分期間!'!$&において,「企業実態不変の仮定」の下で,

会計帳簿上のみでの会計数値の任意の変化を考える場合,純利益の変化額の合計は,ゼ ロに等しくなければならないということ,および,ある期の純利益を増加(減少)させ れば,それ以外の期において同額だけ純利益を減少(増加)させなければならないとい うことを表している。また,(61)(62)式は,収益,費用,その他の包括利益について も,それらの式を満たすように変化しなければならないことを表している。

3.調和的相殺メカニズム

「企業実態不変の仮定」により,(61)(62)式が成り立つ状況においては,「会計帳簿 上のみでの会計数値の変更が,企業価値評価モデルによって算定する株主資本価値に影 響を与えない」という命題が成り立つ。その命題の下では,株主資本価値に影響を与え るための会計利益操作は無効となる。以下では,その命題および会計帳簿上のみでの会 計数値の変更が,企業価値評価モデル上において無効化されるメカニズムを示す。

Ⅲ節の(43)式は,(60)式を使うと,次の(63)式になる。

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!##&"##!!"'#$!&!!"'##

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!##&"$!#!' #!!"$!&!!!"'###"""#!!"$!#"

!##&"$!'

(63)

(63)式を展開すると,あるいは,Ⅲ節の(44)式に(60)式を使うと,次の(64)

式になる。

会計利益と企業価値評価モデルの数理的分析(矢部) 365)149

(19)

!%$#($!!"(#%

!%#'"%#!'!!"(#%

!%#'"&#!'!!"(#%

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!%#'"$!%!(#!'!!"(#&

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# !!"$!%

!%#'"$!%!(#!'!!"$!%

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# !!"$

!%#'"$!( (64)

この(64)式は,複式簿記の構造上の制約を満たす会計数値(変数)の変更が割引超 過利益モデル(39)式によって算定する株主資本価値に対してどのように影響を与える かを示す式である。

(49)式を使うと,(64)式は,次の(65)式に書き直すことができる。

!%$#($ !!"(#%

!%#'"$!(# !!"(#&

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!%#'"$!(# !!"$

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$ %

!%#'"$!(

!

&$(#%

$ !!"& (65)

そして,「企業実態不変の仮定」により,(61)(62)式が成り立つ状況においては,

(65)式は,次の(66)式に書き換えることができる。

!%$#($$ (66)

すなわち,「企業実態不変の仮定」の下で,部分期間!(!$(において,複式簿記の構 造上の制約を満たす会計帳簿上のみでの会計数値の変更を行うとき,その変更によって もたらされる株主資本価値の変化はゼロとなる。

(61)(62)式が成り立つとき,(64)−(66)式は,複式簿記の構造上の制約を満たす 会計数値(変数)の変更による各期の包括利益や純資産の金額の変化が引き起こす割引 超過利益モデル上の株主資本価値への個々の影響の重ね合わせが,調和的に完全に相殺 され,全体としては無影響になる調和的相殺メカニズムの数理構造を示している。

ある期の包括利益の変化は純資産の残高変動方程式(6)式を通して,変化した期以 降の各期の純資産の金額を変化させる。すなわち,ある期の包括利益の変化は,その期 以降の純資産の金額を変化させる影響として最終期まで波及して伝わっていく。各期の

同志社商学 第67巻 第4号(2016年3月)

150(366

(20)

包括利益を変化させた場合,この純資産の残高変動方程式(6)式を通した影響は重な り合っていく。そして,それらの個々の影響が割引超過利益モデル上において株主資本 価値への影響となって重なり合っていく様子が(64)式によって表されている。

包括利益,純利益,その他の包括利益,収益,費用,純資産,株主資本,その他の包 括利益累計額の部分期間!"!!"における時系列のベクトルをどのように変化させても,

(38)(39)式によって定まる株主資本価値は不変である。

根本的な理由としては,割引配当モデル(38)式には,包括利益,純利益,その他の 包括利益,収益,費用,純資産,株主資本,その他の包括利益累計額という変数が独立 変数として入っておらず,かつ,「企業実態不変の仮定」により,会計操作によって会 計数値を変更しても,企業活動・経済事象は一切の影響を受けず不変であり,株主との 取引によるキャッシュフローおよびその時系列ベクトルも影響を一切受けないからであ る。

一方,割引超過利益モデル(39)式には,包括利益と純資産という変数が入ってい る。このため,複式簿記の構造上の制約は満たす会計帳簿上のみでの会計操作によって 会計数値を変更し,包括利益,純資産(その他の包括利益,収益,費用,株主資本,そ の他の包括利益累計額)の部分期間!"!!"における時系列のベクトルが変化した場合,

割引超過利益モデル(39)式による株主資本価値は変化するように思われるが,(64)−

(66)式の内部構造により,包括利益と純資産の時系列のベクトルの変化が割引超過利 益モデル上において株主資本価値に与える影響は,全体として完全に相殺されることに よって,株主資本価値は不変となる。会計数値の変更によってもたらされる各期の利益 や純資産の金額の変化が引き起こす割引超過利益モデル上の株主資本価値への個々の影 響の重ね合わせが調和的に相殺され,全体としては無影響になるのである。

このように,会計帳簿上のみでの会計数値の変更は,企業価値評価モデルによる株主 資本価値に対して無影響となる。したがって,株主資本価値を変化させようとする会計 上の利益操作は無効となる。

以上のような会計利益操作無効命題は,「企業実態不変の仮定」が成り立つ状況にお いて成立する。

なお,会計の基礎構造の基礎等式(複式簿記の構造上の制約)を満たす会計帳簿上の みでの会計操作の場合は,以上の命題は成り立つが,財務諸表上の数値を単純に書き換 えるような,会計の基礎構造の基礎等式(複式簿記の構造上の制約)を満たさない,会 計的整合性を欠く,会計数値の変更の場合は,上記の命題は成り立たない。

会計利益と企業価値評価モデルの数理的分析(矢部) 367)151

(21)

Ⅴ お わ り に

本稿では,会計の基礎構造と企業価値評価モデルの数値関係を体系的に記述する枠組 みを構築し,企業の取引の変更およびそれに伴う会計数値の変化・変更と,会計帳簿上 のみでの会計数値の変更が,企業価値評価モデルによって算定する株主資本価値にどの ような影響を与えるかを正確に計算するための枠組みを構築した。

本稿での記述の枠組みは,離散時間での枠組みであったが,それを連続時間の枠組み にすること,本稿では,将来の不確実性を取り扱う理論を,理論的枠組みに取り入れて いないが,それを理論的枠組みに取り入れること,本稿では,有限期間の枠組みであっ たが,それを無限期間の枠組みに拡張すること,これらが今後の課題である。

〔謝辞:本稿は,日本会計研究学会第74回大会(20159月,於神戸大学)における自由論題報告にお いて報告した内容をまとめたものである。ここに記して感謝申し上げます。〕

参考文献

1〕Beaver, W. H.[1997]Financial Reporting: An Accounting Revolution, Third Edition, Prentice Hall.(伊 藤邦雄訳[2010]『財務報告革命 第3版』白桃書房。)

2〕Christensen, J. A., and J. S. Demski.[2003]Accounting Theory: An Information Content Perspective, Ir- win Professional Pub.(佐藤紘光監訳[2007]『会計情報の理論:情報内容パースペクティブ』中央 経済社。)

3〕Christensen, P. O., and G. A. Feltham.[2003]Economics of Accounting: Information in Markets, Klu- wer Academic Publishers.

4〕Ohlson, J. A.[1995] Earnings, Book Values, and Dividends in Equity Valuation, Contemporary Ac- counting Research,Vol.11, No.2, pp.661-687.

5〕Palepu, K. G., V. L. Bernard, and P. M. Healy.[1996/2000]Business Analysis and Valuation 1sted., 2nd ed., South-Western College Publishing.(斎藤静樹監訳[1999/2001]『企業分析入門 第1版/第2版』

東京大学出版会。)

6〕Watts, R. L. and J. L. Zimmerman[1985]Positive Accounting Theory, Prentice Hall.(須田一幸訳

[1991]『実証理論としての会計学』白桃書房。)

7〕大日方隆[2007/2013]『アドバンスト財務会計 理論と実証分析 第1版/第2版』中央経済社。

8〕斎藤静樹[1988]『企業会計 利益の測定と開示』東京大学出版会。

9〕瀧田輝己[1995]『財務諸表論〔総論〕』千倉書房。

〔10〕瀧田輝己[2002]『簿記学』同文舘。

〔11〕矢部孝太郎[2015]「企業価値評価において会計利益操作が無効化される基礎的メカニズム」『産業 経理』744号,84-93頁。

〔12〕山桝忠恕[1983]『複式簿記原理(新訂版)』千倉書房。

同志社商学 第67巻 第4号(2016年3月)

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参照

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