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知的財産権の価値評価に関する基礎的検討

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知的財産権の価値評価に関する基礎的検討

A Fundamental Study on the Evaluation of

Intellectual Property Rights

Yasuhiro YABUSHITA

藪 下 保 弘

はじめに

 知的財産権は、知的創造活動により生み出されたものを、創作した者の財産として保護する権利 の総称である。わが国の制度では、「特許」「実用新案」「商標」「意匠」に対する排他的独占権であ る「産業財産権(工業所有権)」と知的創作物に対する「著作権」がこれに該当する1。知的財産は、 無体物であるがゆえ視認性を有しないところに有体物とは異なる特徴がある。無形かつ一物一価の 法則が成り立たない知的財産の性質は、有形の資産と同様に将来キャッシュ・フローの流入は期待 できるものの、その予測の確実性に乏しいところが難点である。不確実性が限定的な場合には、キャッ シュ・フローの予測はある程度可能で恣意性が介入する余地も限定される。しかし、知的財産のよ うに不確実性の高い事業資産を対象とするには、より柔軟性を考慮した評価方法を選択する必要が ある。加えて、知的財産権は法的に存在を認められた権利であるにもかかわらず、現行会計制度で はオンバランスされない資産である。それゆえ、この価値が一層わかりにくいものになっている。 本稿では知的財産の特徴を踏まえたうえで、価値の可視化の観点から知的財産のオンバランスの可 能性を考察しつつ、同財産権の価値評価に関する測定アプローチついて検討する。

2.議論の前提

 まず議論の前提として、図表2-1を用いて本稿における知的財産権の範囲を定義しておこう。 会計制度上の「無形資産」と「知的財産権」の関係を整理すれば、「知的財産」は「無形資産」の一 部を成すものであり、かつ「その他の知的財産」を除外すれば「知的財産権」は「知的財産」から「外 部から取得した知的財産」ならびに「ブランド・ノウハウ」を控除したものである2  ところで、知的財産権に限らず資産の価値評価を行うためには、なんらかの理論や尺度を用いて これを貨幣単位であらわす必要がある。現行の財務報告制度では、特許などの出願、審査請求、年 金および代理人への報酬などを資産計上するにとどまっており、知的財産権の価値はオフバランス である。一般に、有形資産の価値評価方法には当該財が将来もたらすキャッシュ・フローを現在価 値に割引計算を行う「DCF法(discounted cash flow method)」が広く用いられている。一方、無 形財である知的財産権は「自社使用」「他社使用(ロイヤリティ収入)」「クロス・ライセンス」など

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多種多様な利用形態があることに加え、「事業のライフサイクル」、「特性」、「権利期間」などを加味 する必要があり、これらを網羅して将来のキャッシュ・フローを推定することは困難である。  しかし、知的財産は企業が現在から将来にわたり稼得するキャッシュ・フローの創出能力である ことは衆目の一致するところである。三菱総研[2010]3によれば、昨今の企業価値の形成要因とし て、無形資産の占める比重が大きくなっており、その中でも特に知的資産が企業価値創出の源泉になっ ているという。また、加賀谷[2006]4からは無形資産の開示と企業価値増大の関連性には、知的財 産情報を開示した企業が開示前後の期間において業種平均の株式投資収益率を上回るリターンをあ げる結果を得たとの実証研究が報告されている。

3.価値評価の目的と手法

 知的財産権の利用者は、企業とそのステイク・ホルダー、裁判所や課税当局などの法務利用をはじめ、 その利用目的もM&A、裁判査定、ライセンス料、技術移転料の算定などに用いられ、その範囲は多 岐にわたる。加えて、知的財産権は企業、大学・研究機関、個人など所有者の形態が一様ではないた め価値評価の目的や手法は権利を所有ないしは利用する者により異なる。この点に関して、「日本弁 理士協会[2010]6」では、知的財産の評価目的・分類に「定量評価」と「定性評価」を挙げている。 (1)定性的評価・分析  定性評価は、スコアリング、ランキング、ポイント等により対象財産権の価値を分析し、定量評 価実施前に評価対象の有用性、希少性などの金銭的価値の算出に役立つ情報を得るためのものとして、 ①法的価値分析と②技術的価値分析、③その他の定性分析に分類している。 ① 法的価値分析・評価  基本特許、周辺特許あるいは防衛特許など権利の有効性や権利価値などを法的側面から分析する。 有効性の判断として、対象技術の先行技術文献調査が重要となる。また、ライセンスなどの契約の有無、 他の特許との利用・抵触関係、対応外国特許の存在、他の法域の権利なども事前に調査する必要がある。 図表2-1 知的財産と会計上の資産の関係 出所:経済産業省知的財産政策室[2007]5, p.6を参考に筆者が加筆・修正した。 ※産業財産権:特許権・実用新案権・商標権・意匠権 知的財産権(自己創出) 産業財産権・著作権等 ブランド・ノウハウ 土地・建物・ 在庫等 借地権・電話加入権等 外部から取得した知的財産 その他知的財産 知識・提案書/報告書・ 顧客リスト・研究デー タ等 その他 プロセス/戦略・人的 資源・提携関係等 知的資産 <知的財産> オン・バランス資産 有形資産 無形資産

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② 技術的分析・評価  基礎技術、高度技術、周辺特許、防衛特許または代替技術など対象となる特許の技術的な側面か ら分析するもので、対象技術の特許調査を行い、パテントマップの作成や、特許文献に限らず論文 などの技術情報を調査する。また、代替技術の有無とその将来予測、技術のライフサイクルや技術 の優位性などを判断する。 ③ その他の分析・評価 a) 意匠権:基本意匠か部分意匠か、物品の範囲、デザイン的優位性、ライフサイクルなど b) 商標権:周知・著名性、ブランド力、識別力、指定商品・役務の範囲など c) 著作権:著作物の創作的な優位性、ライフサイクル、著作物の特質、知名度など (2)定量的評価・分析  企業の保有資産の経済的価値を評価する手法として、「コスト・アプローチ」「マーケット・アプロー チ」「インカム・アプローチ」の3つの方法が存在していることは周知のとおりである7。知的財産権 の価値評価においても同じくこれら3つのアプローチが基本的な選択肢となる。図表3-1・図表 3-2はそれぞれ、価値評価例と評価手法の長所と短所を整理したものである。概ね、割引現在価 値の考え方を基礎とするDCF法、歴史的コストおよび金融工学の実務で用いられているオプション 理論を応用しているものに大別できる。また、利用分野(目的)については、自社または他社実施 のケースと企業の持つ技術そのものの価値評価を求めるものに分類できる8  知的財産権の価値評価にはさまざまな手法が存在し、それぞれ一長一短がある。決定的にどの手 法が優れているとは断定できないが、実務的には目的に応じてフレキシブルにこれらの手法を選択 利用することになろう。なお、最終的な経済的価値の算出は定量的評価の役割であるが、その前段 階として定性的評価が重要な役割を担っていることに留意が必要である。 図表3-1 特許権の価値評価例 特許評価の目的 特許評価の手法 財務諸表へ計上 購入特許については取得原価で評価する=マーケット・アプローチ 実施料率(ライセンス料)の決定 インカム・アプローチ(医薬品事業など) 特許権等契約ガイドライン方式H10.6特許庁長官通達) スコアリング方式 業界標準実施料率を参考にする方法 特許の売買 インカム・アプローチロイヤリティ・アプローチ マーケット・アプローチ 技術開発型ベンチャー企業の価値を評価 (増資、株式公開のため) 主にインカム・アプローチ 特許の証券化 ロイヤリティ・アプローチ 出所:山本・森[2002]9, p.10

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4.考 察

 現行会計制度の枠組みから、知的財産のオンバランスの可能性を考察するには、会計理論上の「資 産性(定義)」と「資産の要件(認識規準)」について検討する必要があろう。本章では、第一に概 念フレームワークのパラグラフを援用しつつ、知的財産が資産として具備すべき定義を満たすもの か否かについて検証し、次いで認識要件との関連から会計理論に整合的な測定アプローチについて 論考をすすめる。 4-1 資産性の論点  「資産の定義」について、国際財務報告審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)の 概念フレームワーク「IASB Framework11」および「SFAC No.612」に依拠すれば13、「資産とは、過 去の事象の結果として当該企業が支配し、かつ、将来の経済的便益が当該企業に流入することが期 待される資源をいう(IASB Framework, par.49(a))」と記され、「資産とは、過去の取引または 事象の結果として、ある特定の実体により取得または支配されている、発生の可能性の高い将来の 経済的便益である(SFAC No.6, par.25)」と記されている。また、制度化に至ってはいないが、わ が国の企業会計基準委員会(ASBJ)の『討議資料 財務会計の概念フレームワーク』においても「資 図表3-2 各定量評価手法の長所と短所 定量評価手法 利用分野(目的) 長所および短所 単純DCF法 自己実施特許および自己実 施 の 予 定 の あ る 特 許、 特許群 長所:企業価値、事業価値の算定に用いられ、DCF法を使っ ているためわかりやすい。 短所:特許の寄与度を測る按分比率に客観性がない。将来 CFの予想が困難および将来のリスクを考慮した割引 率の設定が困難。 確率的DCFアプローチ (モンテカルロDCF法) 企業の持つ特定の技術の価値評価 長所:価値が分布で評価されるので、直感的にわかりやすい。 短所:CF予測に必要なパラメーター(売上、コストなど) に確率分布の設定が困難なケースでは適用できない。 ブラック・ショールズ法 企業の持つ特定の技術の価値評価 長所:将来の可能性の価値を定量的に評価できる。短所:評価に必要なデータ収集が困難。 デシジョンツリー・ アナリシス法 企業の持つ特定の技術の価値評価 長所:将来の経営のオプションを盛り込めるため柔軟性が あり、意思決定の違いによる価値変化がわかりやすい。 短所:DCFと同じ割引率を用いるため、延期オプションが 将来CFを考慮していない。 リリーフ・フロム・ ロイヤリティ法 イセンスしている特許および特許群アウト・ライセンスおよびクロス・ラ 長所:ライセンス実施者にとってなじみやすい。短所:将来のライセンス料率の減額等の考慮が困難。 25%ルール 実施権を設定している特許 長所:長年の慣行上受け入れやすい。短所:25%の根拠が希薄。 類似取引比較法 企業の持つ特定の技術の価値評価 単純DCF法と同 TRRU(Pl-x社) 企業の持つ特定の技術の価値評価 長所:株価を使うため評価の客観性が高い。短所:評価対象企業と同じ技術を持つ類似企業が存在する とは限らない。 再構築費用法 自己実施特許および自己実施の予定のある特許、特許群 長所:評価方法が単純である。短所:特許の持つ経済的価値を評価できない ヒストリックコスト法 (原価法) 自己実施特許および自己実施の予定のある特許、特許群 長所:評価方法が単純である。短所:特許の持つ経済的価値を評価できない 出所:日本弁理士協会[2010]、発明協会[2003]10, pp.103-107をもとに作成

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産とは、過去の取引または事象の結果として、報告主体が支配している経済的資源をいう(第4項)」 とされており、同義の定義を示している。概念フレームワークにおいては、総じて資産の本質的な 特徴を「(a)将来の経済的便益」、「(b)支配」、「(c)過去の取引その他の事象」を要件としている ととらえられる。  この定義についてFASBを例にとれば、「資産は有償で取得され、有形であり、交換可能であり、 または法的強制力があることがあるが、これは資産の本質的特徴ではない。資産は無償で取得され うるかも知れないし、資産は無形であるかもしれない。たとえ交換可能性がないとしても、他の財 貨または用役を生産したり分配したりする際に、その実体によって用いられることがあるかもしれ ない。(SFAC No.6, par.26(筆者要約))」とされており、資産が有形である必要はなく、交換可能 性を必要条件としているわけではない。知的財産権は、自社実施あるいは他社へのライセンスや権 利の譲渡により権利を保有する企業に将来キャッシュ・フローをもたらすと考えられるため、企業 の超過収益力もしくは企業価値を向上させる源泉である。また、企業の超過収益力や企業価値は最 終的に正味キャッシュ・フローに収束する。少なくともこのパラグラフに照らせば、知的財産は「将 来の経済的便益」の要件を満たし得るものと考えられる。  つぎに「支配」の要件に関しては、「資産から経済的便益を獲得し、第三者が資産に接近すること を支配する実体の能力が、一般に法的権利に基づいているとしても、その実体がその他の方法で経 済的便益を獲得し支配する能力を有するならば、経済的便益に対する請求権の法的強制力は、便益 が資産としての資格を認められるための必要条件ではない。(SFAC No.6, par.26(筆者要約))」と 述べられている。同フレームワークでは「ある資産の将来の経済的便益を獲得し、第三者がそれに 接近するのを排除または支配する実体の能力は、一般に法的権利を基盤にしているが、もしもその 実体が他のなんらかの方法で便益を獲得し、支配する能力を有しているのであれば、その権利の法 的強制力は、実体が資産を所有するための不可欠な前提条件ではない。例えば、製法または工程の 秘密化より、将来の便益に対する排他的な接近を維持できるであろう。(SFAC No.6, par.187(筆者 要約))」と補足している14。知的財産権は、独占的排他的使用権として権利の所有者以外はこれを使 用して経済的便益を得ることができない旨を法的に保護されているものであるが、支配要件の絶対 条件とはされていないものと読み取れる。  しかし、技術のスピルオーバーやフリーライディングなどを完全に防止し経済的便益を独占的に 支配するのは困難である。同様に、知的財産権の保護期間満了後はこの技術を第三者が利用するこ とは法的に問題ないため、第三者は当該技術に研究開発費用を投じることなく自由に経済的便益を 享受することができる。この点に関連して、「部分的排除」という特性を有するがゆえに支配の要件 を満たさないことが多いという指摘もある。(Lev[2001]15)一方、「分離可能性および契約/法律 上は資産の特性の本質的要素ではないが、支配という本質的特性の証拠であるとして、資産性の要 件は「法的確定性」と「分離可能性」に左右されることになる16」ため、要件を満たす場合と満たさ ない場合があるとの論者もいる。反面、「法的権利は無くとも、製法またはノウハウについて従業員 に守秘義務を与えるなどの方法で便益を獲得し支配する能力が明らかな場合はこの概念を満たす。17」と

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の見解もある。両論はあるが、知的財産は支配の要件を限定的に満たす可能性を持っていると考え られる。  続けて「過去の取引その他の事象」について概念フレームワークは、「ある実体の現在の資産 がもつ将来の経済的便益と将来の資産がもつ将来の経済的便益とを区別している(SFAC No.6, par.190)」ものであり、「将来の経済的便益を得るための現在の能力のみが定義による資産であり、 それらはその実体に影響を与える取引その他の事象または環境要因の結果として特定の実体の資産 となる(SFAC No.6, par.190)」としている。さらに、「将来の経済的便益に対するその実体の権利 を生み出す取引または事象がすでに発生していなければならないので、定義では、将来にある実体 の資産になるかも知れないがいまだその実体の資産になっていない項目を資産から除外している。 (SFAC No.6, par.191)」、「経済的便益に接近させ、また経済的便益を支配させるような取引または 事象がなお将来のことであるならば、実体は特定の将来の経済的便益に対する資産を有することに はならない(SFAC No.6, par.191)」と明記されている。このパラグラフに依拠すれば、知的財産権 の権利発生時点は「設定登録時」になることから18、当該財産権の取得・手続きに要した費用以外は 要件に合致しないものと解釈できる。また、知的財産は、価値創造主体内部で自己創設されるため、 外部との取引やその他の事象は「登録時」時点で発生していない。よって、権利取得時の知的財産 は当該要件を満たしうることはできない。ただし、技術を他社へライセンス供与によりロイヤリティ 収入を得る場合には、当該要件はクリアできるであろう19  以上、概念フレームワークに立脚して知的財産権のオンバランスの可能性を考察するに、①将来 の経済的便益の要件は満たすが、②支配の要件を満たすことは限定的であり、③過去の取引・事象 の要件は他社ライセンスなどの場合にのみ適応できる余地があるとの解釈が成り立つ20 4-2 認識規準と測定アプローチ

 「SFAC No.521」では、財務諸表の構成要素の基本的認識規準として「(a)発生の可能性の高い経 済的便益」「(b)十分な信頼を持った測定可能性」をあげている(par.63)22。順序は前後するが、(b) の規準から知的財産の測定アプローチを検討しよう。上述のように、知的財産の価値評価・測定方 法には「コスト・アプローチ」「マーケット・アプローチ」「インカム・アプローチ」が用いられて いるが、資産の性質から鑑みて、知的財産は有形資産のように使用や経年変化により価値が減少す るものではなく、逆に価値を増大させる可能性を持つ。したがって、コスト・アプローチを採択す ることは適合的ではないと考えられる。ただし、公的な大学や研究所で創出された職務発明にあっ ては、もともとキャッシュ・フローの流入を目的としていないと考えられるため、対象特許の技術 移転にともなう費用、発明に要した研究費や人件費などを評価額としてコスト・アプローチを選択す る場合はありうるであろう23。また、知的財産権には金融資産のように活発に売買取引される市場そ のものが存在しないため、妥当な公正価値は存在しない。このため、マーケット・アプローチの適 応も限られている。一方、インカム・アプローチについては、知的財産の本源的価値は当該資産の 利用により将来のキャッシュ・フローを創出するものであるから、評価・測定に適合的であると考

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えられる。なお、インカム・アプローチにおいて期待キャッシュ・フロー・アプローチを採択する 場合であっても、割引率の決定にあたっては定性的な判断を求められることから、この適用は限定 的なものとなる。  次に(a)の規準については、たとえば知的財産権が基礎研究、応用研究または商品開発のどの段 階で利用されるのか一様でなく、経済的便益の発生の可能性は不確実である。また、一般的にひと つの商品は複数の権利の利用で成り立つものが多いため、権利群の中から単独の権利が生み出す将 来キャッシュ・フローの額を特定することは困難である。よって、知的財産はこの規準を満たさな いケースが多々あると考えられる。 4-3 測定アプローチの課題と解決方法  周知のように単純DCF法では、対象資産から生じる将来のキャッシュ・フロー(FCF)の流列を 予測し、これらを資本コストで割引いてその総和をもって現在価値を計算する。(4-1)式からわ かるように、現在価値の計算には⑴将来の各期のキャッシュ・フローと⑵資本コストを推測する必 要がある24。不確実性の高い知的財産権の価値評価・測定において、この2つの推測は厄介な問題で ある。  ⑴の将来キャッシュ・フローの推測の困難性を解消する手法が、「TRRU25」である。TRRUは、 将来キャッシュ・フローの予測を不要とするもので、金融工学で用いられる「ブラック-ショール ズ方程式(BSモデル)26」を応用したものである27。BSモデルではオプション価格Cを求めるには 図表4-1に示す5つのパラメータを、(4-2)式、(4-3)式に代入し、N( )として標準正規 累積密度関数を仮定する。TRRUではパラメータを図表4-1のとおりに置き換えて特許権の価値 を評価する。 図表4-1 BSモデルとTRRUパラメータ対比 パラメータ BSモデル TRRU X 行使価格 製品開発コスト(技術を製品にするために保有者が費やさねばならない金額) S 原株式価格 製品が完成した場合の原技術の価値(評価する特許権と同じ領域の、3~30社の小規模公開企業(=ピュアプレイカンパニー) に関する、発売開始時の製品ごとの平均事業価値に基づく代表値) τ 権利行使までの時間 発売までの時間(資金力が十分な会社が、現在の開発状況において特許を発売可能な製品にするまでに費やすであろう時間) σ2 原株式の分散 類似技術の変動性の測度(Sの算出に用いた会社の株価リターン の自然対数値をとった平均に関する平均的分散) r リスク・フリー・レート リスク・フリー・レート(90日米国国債利率)

Σ

n=1N FCFn 現在価値(PV)= ――(4-1) (1+k)n FCFn:第n期の予測キャッシュフロー、k:資本コスト ――(4-2) C=SN(d1)-Xe-rτNd1-σ τ) ――(4-3) d1= ln

(S/X)+rτ+σ2τ/2

/

σ τ

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 しかし、TRRUはBSモデルを用いているとはいえ、中心的特許による実質的保護期間の推定にア ナリストの経験による分析が介在するなど、単にパラメータを代入すれば自動的に価値評価できる という手法ではない28  また、⑵資本コストの推測問題についても様々な手法があるがJICPA[2004]29では、現在の事実 上の標準としての支持を得ているものとして「資本市場モデル(CAPM)30」をあげている。  以下に、CAPMからみた価値評価について考える31 [リスク調整済み割引率アプローチ]  第j資産の価値(PVj)は、それが生み出すフリーキャッシュフロー(FCF)の予想値をリスク 利子率にリスクプレミアムを加味した資本コストで割引くことで求めることができる32  (E(Rm)-Rf)は市場ポートフォリオの無リスク利子率(Rf)を超える超過収益率部分を示し、 βjは第j資産のリスク感応度を意味する「ベータ」であり、(Rf+β(E(Ri m)-Rf))がリスク調整 済みの割引率である。COV(Rj,Rm)は、市場ポートフォリオの収益率と第j資産の収益率との共 分散である。 [確実性等価アプローチ]  (4-5)式に対して、E(FCF)から,リスクの市場価格または市場でのリスクプレミアムλと、 第j資産のFCFと市場ポートフォリオの収益率(Rm)との共分散(COV(FCF,Rm))からなる リスクプレミアム分を差し引いた確実性等価額(分子)を求め、無リスク利子率(Rf)で割引い ても同一の値を導出できる。  このように、「特許権の価値評価においても,フリー・キャッシュ・フローの期待値E(FCF)から,(4 -6)式のλCOV(FCF,Rm)に対応する何らかの適切なリスク調整ファクターを減じて確実性 等価を求めることにより、将来の期待キャッシュ・フローを推測することができる。

5.わが国の価値評価提案モデルの提案

 前章までの検証と考察を踏まえたうえで、「知財評価研究会」が提案する「特許権価値評価モデル ――(4-4) Ri=Rf+βi(Rm-Rf) Ri:自己資本コスト, Rf:リスク・フリー・レート, βi:当該企業の株式のベータ係数, Rm:証券市場全体の利回り ――(4-5) PVj=E(FCF)

/

(1+Rf+βj(E(Rm)-Rf)), βj=COV(Rj, Rm)

/

σm2 PVj:第j資産の価値(価格), E(FCF):第j資産のフリー・キャッシュ・フローの期待値, Rm:第j資産の価値(価格),E(Rm):期待収益率,σm2:分散 ――(4-6) PVj=E(FCF)-λCOV(FCF,Rm)

/

(1+Rf) , λ=(E(Rm)-Rf)

/

σm2

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(PatVM33)」について概観しよう34

 PatVMは、特許権の「自社実施による独占的事業価値(VM:Monopoly Value)」と「他社実施 によるロイヤリティ収入価値(RV:Royalty Value)」の和をもって「特許権価値評価額(PatV)」 を算定する構造となっている。

 PatVMは、図表5-1で示すようにMVおよびRVの算定にそれぞれ「キャッシュ・ジェネレーショ ン・ドライバー(CGD:Cash Generation Driver)」、「ロイヤリティ・ドライバー(RD:Royalty Driver)」を用い、加えて特許権の法的な強度および技術特性を表すための「プロテクション・ドラ イバー(PD:Protection Driver)」の3つの作用因により算定される。

5-1 キャッシュ・ジェネレーション・ドライバー(CGD)

 「予測キャッシュ・フロー(PCF:Projected Cash Flow)」は、税引後営業利益(OP)に「営業 利益調整係数(OPAC:Operating Profit Adjustment Coefficient)」を乗じて算定される。OPACは、 「生産効率」、「意匠・商標力」「市場規模力」「創業度の正常性」「販売力」の6項目からなる「キャッ

シュ・ジェネーレーション・ドライバー・スコア(CGDS:Cash Generation Driver Score)にも とづき算定された係数である36。次いで、PCFに製品から創出されるキャッシュ・フローに占める 特許権の貢献度合いである「総特許起因率(PCR:Patent Contribution Rate)」を乗じて当該特許 権が寄与する部分CGDを求める。よって、これらの手順は次式により表される。  なお、PCRは、直近5期の営業費用の総額(OE:Operating Expenses)に対する同期間にかか る実際研究開発支出額(R&D)の割合で計算されるものとされており、次式で示すとおりである。 CGD=OP×OPAC(CGDS)×PCR=PCF×PCR ――(5-2) ――(5-1) PatV=MV+RV 図表5-1 PatVMのコンセプト 出所:広瀬[2006]35, p.46 を筆者加筆・修正 特許権の価値=キャッシュ・フローの創出 自社実施による独占的事業価値(MV) 他社実施による特許権収入価値(RV) キャッシュ・ジェネレーション・ドライバー(CGD) ロイヤリティ・ドライバー(RD) プロテクション・ドライバー(PD) 特許権価値評価額(PatV) 法的な強度・技術の特性

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 また、ひとつの製品に複数の特許群が用いられている場合は、CGDに特許群別の配賦を考慮する。 この際、専門家などの当該技術に詳しい評価鑑定人により特許群に分類しておく必要がある。たとえば、 自社実施の特許群Aの価値評価額を算定するにあたり、特許製品の技術要素の総数をnとして、当該 製品に用いられている技術をn個の技術要素に分解する37 5-2 プロテクション・ドライバー(PD)  プロテクション・ドライバー(PD:protection Driver)の算定は、キャッシュ・フローの予測年 数に法定の特許残存年数を基礎値とする。ただし、プロテクション・ドライバー・スコア(PDS: Protection Driver Score)により修正され、特許の強度を加味した年数に変換する。両者の関係は 次式で計算するものとされている。

 また、PDSの算定にあたってはリーガル・プロテクション・スコア(LPS:Legal Protection Score)とテクノロジー・プロテクション・スコア(TPS:Technology Protection Score)により各々 スコアリングされた数値を用いる。LPS、TPSともに全項目の最高点は50点とされ、LPSにおいて は⑴権利自体の法的な強度:⑵ライバル企業との法的関係:⑶権利保護における制約的条件=3:2: 1、TPSにおいては⑴技術事態の独創性:⑵その他の要因=2:1の比率で傾斜配点される。両者 ともに定性要因であり、スコアリングにおいては専門家に委ねる必要があるとされている38。このよ うなプロセスを経て計算されたPDSを、式(5-5)に代入し求められたPDをキャッシュ・フロー の予測存続年数として現在価値に割引き、その総和をもって確実性等価キャッシュ・フローを表し ているものとみなす。  CGDとPDをまとめたものが、「自社実施による特許権の独占的事業価値(MV)」であり、次式で ――(5-4) CGDA=CGD×1

/

n f:法律上の権利残存期間 ――(5-5) PD=f×PDS/100

Σ

t=-40 R&Dt

/

Σ

t=-40 OEt PCR= ――(5-3) 図表5-2-2 プロテクション・ドライバー算定の構造 出所:広瀬[2006], p.51 プロテクション・ドライバー(PD) プロテクション・ドライバー・スコア(PDS) リーガル・プロテクション・スコア(LPS) テクノロジー・プロテクション・スコア(TPS) スコアを年数に変換 技術的要因 法的要因

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示される。

5-3 ロイヤリティ・ドライバー(RD)

 「他社実施の特許権収入価値(RV)」は、ロイヤリティを当該特許権の「機密保持の自由度」、「ラ イセンスの制約条件」および「権利の安定性」の3項目からなるロイヤリティ・ドライバー・スコア(RDS: Royalty Driver Score)により修正した額を、前節で用いたプロテクション・ドライバー(PD)を ロイヤリティの存続期間として割引いた現在価値とする。ただし、知的財産の特性上特許権が特許 群単位で行われているとは限らないため、自社実施の独占的事業価値(MV)との合算に際しては、 MVの算定対象に含まれるすべての特許権のすべてのRVを算出する必要がある39。この特許群を構 成する個々の特許権:j = 1…J、ライセンス契約数:i = 1…I、第i契約の第j構成特許のロイヤリティ 年額:Rij、各RDSij:Rij のロイヤリティ・ドライバー・スコアとすれば、RVは次式により算出される。  以上の導出過程より、PatVは次式により算出される。

むすび

 知的財産権の評価手法は、定性的評価と定量的評価に分類される。前者は、主に対象資産の有用 性や希少性などから経済的価値の算出に役立つ情報を得る目的で行われ、後者は同財産権の価値を 貨幣単位に測定することを目的とし、DCF法を基礎にこのメソッドの欠点を補うために金融工学を 応用して算定する工夫がなされていることを確認した。定性的評価・定量的評価はともに対峙する ものではなく、後者が価値算定額を示し、前者を後者の実施前に行うことで、計数ではあらわし得 ない価値情報を提供する役立ちにあることが明らかになった。  次いで、知的財産権が有する価値の可視化について考察するため財務諸表への計上の可否に着目 して、FASBの概念フレームワークを拠りどころに同財産権のオンバランスに関する制度上の理論 を検証した。その結果、岡田[2002]40に代表されるように、たとえ企業に経済的便益をもたらすも のであっても、支配の要件を満たさなければ企業に帰属する資産とはいえず、資産の要件を満たし ても企業会計上の認識規準を満たさないものはオフバランスの資産とされることを確認した。よって、

Σ

t=-40 R&Dt

/

Σ

t=-40 OEt×-n1PD(PDS)

Σ

T=11

/

(1+r)T MV=OP×OPAC× ――(5-6)

Σ

i=1I

Σ

j=1J(Rij×RDSij

/

15)× RV= PD(PDS)

Σ

――(5-7) T=11

/

(1+r) T

Σ

PD(PDS) T=1

Σ

I i=1

Σ

J j=1 15 RDSij Rij× × ×-n ×1

Σ

t=-40 OEt (1+r)T 1

Σ

t=-40 R&Dt =OP×OPAC× PatV=MV+RV=MV(CGD,PD,r)+RV(R,PD,r)

PD(PDS)

Σ

T=1(1+r)1 T

(12)

現行の会計制度の枠組みでは、知的財産をオンバランスすることには制約があるとの結論にいたった。 実務上この役割は、非財務情報のレポーティングが担うことになろう。  さらに、価値評価に適した測定アプローチの選択について、その論拠を同じくFASB概念フレームワー クの認識規準の要請に求めた。この結果3つの測定アプローチのうち、知的財産の本源的価値は対 象資産の利用により将来のキャッシュ・フローを創出するとの観点から「インカム・アプローチ」が 最も適合的な評価アプローチであろうとの結論にいたった。ただし、割引率の決定などについては 専門家の定性的な判断を必要とする。  以上の思考プロセスを経て、「知財評価研究会」が開発した「特許権価値評価モデル(PatVM)」 について概観した。PatVMは、期待キャッシュ・フロー・アプローチを採用し、この構築の目的を ビジネス目的としているところに特徴がある41。また、なによりもバランスシートへのオンバランス を措定しているようにうかがえるところは注目に値しよう。加えて、定性的評価にあたり具体的に スコアリング規準を設定することで定性データの定量化を図っているところにも着目したい。  知的財産と他の有形資産や買入のれんの大きな相違点は、取得原価が存在しないところである。 また、ひとつの資産が、同時に複数の異なった価値を創出することを可能とするところも、当該資 産特有の性質である。こうした点が、資産の取得に要した費用と対象知的財産が将来キャッシュ・ フロー流入の蓋然性、すなわちコストとベネフィットの比較困難性の文脈で論ぜられる所以であろ う。しかし、知的財産は経営主体の知的活動により生み出された企業価値創造の源泉にほかならず、 このことは一般的にコンセンサスを得ていることも事実である。  現状では、価値測定においては定性的な判断に委ねるところが多く、恣意性の介入する余地を容 認している点は否めない。しかし、昨今は「ビッグ・データ」など情報技術の飛躍的な発展にともな い、より高度かつ迅速に分析する手法が登場し、価値の評価・測定にかかるコストも逓減し得る技 術が現実のものとなっている。今後は、論理整合性と実務適応性に加え、データ・サイエンスから のエビデンスをも取り入れた、新たな評価モデルが開発されることを期待したい。 注: 1 不正競争防止法などの適用を受けるものもあるが、本稿では割愛する 2 本稿でいう、「知的財産」は「知的資産」の部分集合かつ「知的財産権」は「知的財産」の部分集合であるとの前提で論 考をすすめる。 3 三菱総合研究所『平成21年度 特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書 企業等における知的財産の評価に関する調 査研究報告書』特許庁, 2010, pp.10-11 4 加賀谷哲之「日本における無形資産開示の経済効果」伊藤邦雄編『無形資産の会計』中央経済社,2006,pp.515-530 5 経済産業省知的財産政策室『知的資産経営報告の視点と開示実証分析調査報告書』2007.3(みずほ総研調査・編集);日 経資産経営フォーラム2006におけるあずさ監査法人芝坂佳子氏によるプレゼンテーション資料(一部改変) 6 日本弁理士会知的財産価値評価推進センター『弁理士による知的財産価値評価のための手引き』,2010, 7 本稿では、各アプローチの詳述は割愛する。 8 もっとも、特許権は利用または利用予定があり、将来キャッシュ・フロー流入の見込みがついた段階で初めて価値を見 出せるものである。 9 山本大輔・森智世『入門 知的資産の価値評価』東洋経済新報社, 2002 10 発明協会特許流通促進事業センター『平成14年度特許庁調査報告書 特許流通市場における特許価値評価システムに関 する調査』2003

(13)

11 International Accounting Standards Committee(IASC), Framework for the Preparation and Presentation of Financial Statements, 1989(日本公認会計士協会訳:『国際会計基準書2001』, 同文舘)

12 Financial Accounting Standards Board(FASB), Statement of Financial Accounting Concepts No.6: Elements of Financial Statements, 1985(平松一夫・広瀬義州訳『FASB財務会計の諸概念』中央経済社, 1988)

13 2010年9月に両審議会からIASBから「The Conceptual Framework for Financial Reporting」、FASBから「Financial Accounting Concepts No.8, Conceptual Framework for Financial Reporting: Chapter 1, The Objective of General Purpose Financial Reporting, and Chapter 3, Qualitative Characteristics of Useful Financial Information 」が共通の概 念フレームワークとして公表されている。ただし、「財務報告の目的」および「財務情報の質的特性」について述べられ ており、本稿の取り扱い範囲とは異なる。このため、本稿では両審議会の旧フレーワークを用いる。なお、2013年7月 にIASBから「ディスカッション・ペーパーDP2013/1『財務報告に関する概念フレームワーク』の見直し(A Review of the Conceptual Framework for Financial Reporting)」が公表されているが、本稿における議論に支障がないためIASC 概念フレームワークを用いる。

14 わが国では知的財産権を保護する法律のうち、不正競争防止法における「営業秘密」に該当する。

15 Baruch Lev, Intangibles: Management, Measurement and Reporting, Brookings Institution Press, 2001(広瀬義州・桜井 久勝監訳『ブランドの経営と会計-インタンジブルズ』東洋経済新報社, 2002, p98)

Wayne S. Upton, Jr., “SPECIAL REPORT : Business and Financial Reporting Challenges from the New Economy”, Financial Accounting Series, FASB, 2001, pp-70-71

16 戸田統久「知的資産情報開示の現状と課題」『商経学叢』第57巻第2号, 近畿大学, 2010, p.164 を参照。なお、支配の要件と分離可能性/法的確定性の関係および支配の要件の必要性については、

Financial Accounting Standards Board(FASB), Discussion Memorandum: an Analysis of Issues Related to Conceptual Framework for Financial Accounting and Reporting: Elements of Financial Statements and Their Measurement, 1976(津 守常弘『FASB財務会計の概念フレームワーク』中央経済社, 1977 pp.92-111)」に詳しい。 本稿では議論を簡潔にするため、この点には立ち入らない。 17 石田幸嗣「無形資産のオンバランス化に関する考察」『マネジメントレビュー』関西学院大学大学院商学研究科マネジメ ント研究会, 2006, p.96 18 知的財産権のうち、「著作権」は「産業財産権」とは異なり、著作物の「創作時」に権利が発生する。ただし、創作時に 「過去の取引その他の事象」があるとは考え難い。 19 「ブランド」は、明確な権利の発生時点は定まらないが、オン・バランスを考慮する時点では「過去の取引その他の事象」 は存在しているものと考えられる。この点は、知的財産権と性格を異にする。 20 ただし、SFAC No.6(par.191)の例示にある埋没資源の開発権など、この制約を満たす可能性があるものもあるが、 本稿では知的財産権の範囲に限定していることに留意されたい。

21 Financial Accounting Standards Board(FASB), Statement of Financial Accounting Concepts No.5: Recognition and Measurement in Financial Statement of Business Enterprises, 1984(平松一夫・広瀬義州訳『FASB財務会計の諸概念』 中央経済社, 1988) 22 SFAC No.5では、「定義」「測定可能性」「目的適合性」「信頼性」を資産の基本的認識規準としてあげているが、本稿で は議論を簡潔にするため、「目的適合性」「信頼性」に関する議論は割愛する。 23 「バイドール法」制定以降、大学の知を企業にライセンスする動きがある。またTLOなどが介在する技術移転が行われ る際には、インカム・アプローチ、マーケット・アプローチないしはその他のアプローチもあり得るだろう。 24 問題の所在については、小林啓孝「リアルオプションの有用性と活用範囲」『企業会計』Vol.56 No.6, 中央経済社, pp.18-19、小林啓孝『事業再編のための企業評価』中央経済社, pp.99-110 25 「TRRU」は、Pl-x社の登録商標である。

26 同モデルについては、Fischer Black, Myron Scholes, “The Pricing of Options and Corporate Liabilities,” Journal of Political Economy, The University of Chicago Press, 1973を参照されたい。

27 以下、鈴木公明「特許権の価値評価」『企業会計』Vol.56 No.5, 中央経済社, 2004, p.39 に依拠し引用する。 28 鈴木公明,同上書, p.39

29 JICPA「経営研究調査会研究報告第24号 知的財産評価を巡る課題と展望について(中間報告)」,日本公認会計士協会, 2004, p43

30 CAPM( Capital Price Asset Pricing Model):1960年代にW.F.Sharp と J.Lintnerにより開発され、H.M.Markowitzのポー トフォリオ選択理論を資本市場の均衡分析に適用できるように拡張した理論。(JICPA[2004], 同上)。 31 鈴木公明「特許権の価値評価と評価モデル」『パテント』Vol.59 No.6, 日本弁理士会, 2006, p.16に依拠引用する。 32 実務上は,加重平均資本コスト(WACC)を用いる。 33 「PatVM」は、「知財評価研究会」の登録商標である。(登録商標番号4886222) 34  鈴木公明[2006], pp.16-22 に依拠・引用。 35 広瀬義州編著『特許権価値評価モデル(PatVM)』東洋経済新報社, 2006 36 OPにOPACを乗じることで、予測キャッシュ・フローの合理性を担保するものと説明されている。(鈴木[2006]) 37 「この場合、特許群Aに配分しなければならないが、均等な価値を持つn個に分解するだけでは各々の技術価値が単にn分 の1に按分されるにすぎず、各技術要素の特許群の保護の強さが異なる。したがって、特許群は単純にn分の1に配分さ れるわけではないことを考慮しなければならない。このため、同モデルではCGDの算定にあたり最初にn分の1の価値 を持つ技術要素に分解し、プロテクション・ドライバー(後述)を加味して特許群ごとのキャッシュ・フローの確実性 等価を算定するとしている。仮に、ある技術要素に対応する特許権をまったく持っていない場合には、特許群に対する プロテクション・ドライバーの評価をするまでもなく、かかる技術要素は認識しない(nに算入しない)ものとする。特 許群Aの価値評価額(自社実施分:CGDA)の割引現在価値が自社実施による特許群Aの独占的事業価値(MV)となる。」 (鈴木[2006], p.19) 38 LPS、TPSの詳細な内容については、広瀬[2006], pp.81-97を参照。 39 専用実施権が設定されている場合も想定されるが、本稿では議論の対象としない。 40 岡田依里『企業評価と知的資産』税務経理協会, 2002, p.235 41 広瀬義州『知的財産会計』税務経理協会, 2006, p.112

参照

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