年齢による区別と憲法 : ルイジアナ州憲法を素材 として
著者 浅田 訓永
雑誌名 同志社法學
巻 61
号 5
ページ 71‑116
発行年 2009‑11‑30
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000012047
年齢による区別と憲法七一同志社法学 六一巻五号
年齢による区別と憲法 ―ルイジアナ州憲法を素材として―
浅 田 訓 永
(一四一七)
目 次はじめに第一章 ルイジアナ州憲法における個人の尊厳に対する権利︵Right to Individual Dignity︶条項の概観 一 個人の尊厳に対する権利条項の成立
︵
一︶個人の尊厳に対する権利条項の草案
︵
二︶個人の尊厳に対する権利条項の草案の趣旨説明と審議内容
︵
三︶個人の尊厳に対する権利条項の成立
二 個人の尊厳に対する権利条項の解釈に関する判例理論の現段階
︵
一︶ Sibley v. Board of Supervisors of Louisiana State University判決の内容
年齢による区別と憲法七二同志社法学 六一巻五号
︵
二︶ Sibley v. Board of Supervisors of Louisiana State University判決の評価 ⑴ 個人の尊厳に対する権利条項の第二文の解釈 ⑵ 個人の尊厳に対する権利条項の第三文の解釈第二章 年齢による区別の合憲性に関するルイジアナ州の判例理論の展開 一 年齢による区別に関する﹁違憲審査基準﹂
―
﹁中間的審査基準﹂の確立︵
一︶Manuel v. State判決の内容
︵
二︶Manuel v. State判決の評価 二 年齢による区別に関する﹁中間的審査基準﹂の適用
︵
一︶Pierce v. Lafourche Parish Council判決の内容
︵
二︶Wal-Mart Stores, Inc. v. Keel判決の内容
︵
三︶ William Dale Walker v. State Farm Mut. Auto. Ins. Co.判決の内容
︵
四︶三判決の評価第三章 年齢による区別に関する﹁違憲審査基準﹂再考 一 年齢による区別に関する﹁違憲審査基準﹂の適用をめぐる連邦・ルイジアナ州の判例理論の対比
︵
一︶手続面
︵
二︶目的審査
︵
三︶手段審査
二 年齢による区別に﹁中間的審査基準﹂が適用されるべき理由むすび
(一四一八)
年齢による区別と憲法七三同志社法学 六一巻五号 は
じ
め
に 本稿は︑年齢による区別をめぐる憲法問題︑とりわけ年齢による区別に関する﹁違憲審査基準﹂をめぐる問題 (
るを法一条三節第三文の解釈素州材として︑検討しようとす憲ナ事項︑年齢を﹁区別禁止ア﹂と明記しているルイジて つにい 1)
ものである︒
⑴
あって︑人種︑信条︑別性︑社会的身分又は門地で平等は日本国憲法一四条一項︑﹁にすべて国民は︑法の下に より︑政治的︑経済的又は社会的関係において︑差別されない﹂と規定している︒多数説・判例は︑同条一項は︑あらゆる区別を禁止しているのではなく︑合理的根拠のある区別を許容するものである︑と解している (︒このような理解に 2)
おいては︑区別を定める法令に関する﹁違憲審査基準﹂をどのように考えるべきかが重要な論点となる︒多数説は︑同条一項後段列挙事項に﹁特別の意味﹂を認め︑後段列挙事項による区別に厳格審査基準 (
を適用すべきとする 3)(
︒多数説は︑ 4)
後段列挙事項以外による区別については︑合理性の基準を適用すべきとする (
の例﹂を認めず︑﹁示意的なものである味 ( ︒挙判例は︑後段列事別項について︑﹁特 5)
的質が﹁事柄の性に法即応して合理令る﹂判としている︒例めは︑区別を定 6)
と認められる差別的取扱 (
い﹂近最︑は例判︑おな︒るてはし査審をかうどかるあでで 7)(
︑区別された権利・利益の重要性 8)
と区別の理由とされた事項を考慮して︑﹁厳密な違憲審査を行っている (
﹂︒ 9)
⑵
︑後段列挙事項の﹁社会的身分﹂に含まれないと解ずらお項年齢は︑憲法一四条一後て段列挙事項に明記されさ れている (べ械の人に対して機的れに一律平等に適てすさよ︒従来︑年齢にるて区別は︑﹁原則とし用 10)(
理れ容許てしと別区的る合︑ばべれ較に合場の幅が一般的に広いさ ( 項事挙列﹁段後﹂︑ 11)
﹂︑と解されてきた 12)(
︒しかし︑最近では︑年齢によ 13)
る区別は︑﹁個人差を無視した一般化した扱いをするものであって︑性差別と比較しても︑その合理性が疑わしいもの
(一四一九)
年齢による区別と憲法七四同志社法学 六一巻五号
として︑厳格な合理性の基準ないし中間審査の基準により判断されるべきである (
のら人︒るいてれわあが説学ういと﹂ 14)
処遇は︑人の意思と能力によらず︑年齢を基準にして画一的に決定されるべきものではないとするならば︑最近の学説が指摘するように︑年齢による区別に関する﹁違憲審査基準﹂を厳格化する必要があるかどうか︑改めて考え直すべき
であるように思われる︒本稿は︑以上のような問題意識から︑ルイジアナ州憲法一条三節を取り上げ︑年齢による区別に関する﹁違憲審査基準﹂をめぐる問題について考察する手がかりを得ようとするものである︒
r d s j l p ua eq e th n tio ic isd ur it te in ith w n so er p ny a to no ro ct en la io s. w y e of n th
︑﹁項事止禁別区みでのる定規と︶す﹂⑶ …
第⁝⁝︑﹁は節一条四一﹂︵何修法憲国衆合カリメア正も人等なれさ定否を護保な平いの法ていおに内轄管のそ を明記していない︒アメリカ連邦・諸州の憲法の中で︑年齢を﹁区別禁止事項﹂と明記しているのは︑ルイジアナ州憲法のみである (︒ 15)
⑷
A . C
ONST. a rt. I, § 3 R ig ht to In div id ua L l
厳一現行のルイジアナ︹州憲法条に三節の﹁個人の﹂︵利権る尊対すD ig nit y
︺︶条項は︑次のように規定している︒︿第一文﹀﹁何人も法の平等な保護を否定されない﹂︵
N o pe rs on s ha ll be d en ie d th e eq ua l p ro te ct io n of th e la w s.
︶︒︿第二文﹀﹁いかなる法も︑人種又は宗教的な見解︑宗教的な信条︑若しくは︑宗教的な団体の構成員であることを理由 に︑差別してはならない﹂︵N o la w s ha ll dis cr im in at e ag ain st a p er so n be ca us e of ra ce o r r eli gio us id ea s, be lie fs , or a ffi lia tio ns .
︶︒︿第三文﹀﹁いかなる法も︑出生︑年齢︑性別︑文化︑身体の状態︑又は︑政治的な見解若しくは政治的な団体の構成員であることを理由に︑恣意的に︑専断的に︑又は不合理に差別してはならない﹂︵
N o la w s ha ll ar bit ra ril y, ca pr ic io us ly, o r un re as on ab ly d isc rim in at e ag ain st a p er so n be ca us e of b irt h, ag e, se x, cu ltu re , p hy sic al co nd iti on ,
(一四二〇)
年齢による区別と憲法七五同志社法学 六一巻五号
or p oli tic al id ea s o r a ffi lia tio ns .
︶︒︿第四文﹀﹁犯罪による刑罰としての意に反する苦役を除いては︑奴隷及び本人の意に反する苦役に服させられない﹂︵
Sla ve ry a nd in vo lu nt ar y se rv itu de a re p ro hib ite d, ex ce pt in th e la tte r c as e as p un ish m en t f or c rim e.
︶︒
⑸
三節第三文の解釈上︑齢年による区別に関する﹁条法一論ルイジアナ州の判例理は憲︑︵後でみるように︶州違 憲審査基準﹂を連邦の判例理論 (性条に齢年︑もで下の四る一法憲国本日いないよ区し準要必るす化格厳を﹂基別査審憲違﹁るす関にて記と﹂項事止明 を本アジイルが稿て︒るい州し化格厳もナ取憲︑禁別区﹁を齢年は法由理るげ上りより 16)
如何を考えるうえで︑ルイジアナ州の判例理論が何らかの示唆を与えるのではないか︑と思われることによる︒
これまでのところ︑ルイジアナ州憲法一条三節の解釈を整理・検討した論稿は︑みあたらない (
︒そこで︑本稿では︑ 17)
次のような構成をとる︒第一章は︑同条三節の成立過程と州の判例理論による同条三節の解釈を概観する︒第二章は︑年齢による区別の合憲性に関する州の判例理論を﹁違憲審査基準﹂に焦点をあてながら紹介する︒第三章は︑年齢によ
る区別に関する﹁違憲審査基準﹂をめぐる連邦・ルイジアナ州の判例理論を対比し︑州の判例理論が当該区別に関する﹁違憲審査基準﹂を連邦の判例理論よりも厳格化している理由を明らかにする︒最後に︑このような理由は︑年齢を﹁区
別禁止事項﹂と明記していない日本国憲法一四条の下でも︑年齢による区別に関する﹁違憲審査基準﹂を厳格化する必
要性如何を考えるうえで︑どのような意味をもつかについて考えてみたい︒
(一四二一)
年齢による区別と憲法七六同志社法学 六一巻五号
第一章
ルイジアナ州憲法における個人の尊厳に対する権利(
Right to Individual Dignity
)条項の概観 現行のルイジアナ州憲法は︑次のように構成されている︒まず︑自由が与えられたことを︑全能の神︵A lm ig ht y G od
︶に感謝する前文がおかれている︒次に︑一条は︑個人の尊厳に対する権利条項︵三節︶を含めて二七の権利宣言 (18)
︵
D ec la ra tio n of R ig ht s
︶について︑規定している︒続く二条以下では︑権力分立︑立法府︑執行機関︑司法機関などの統治機構に関する規定等がおかれている︒本章は︑一条三節の成立過程と州の判例理論による同条三節の解釈について︑概観する︒
一 個人の尊厳に対する権利条項の成立
(一)個人の尊厳に対する権利条項の草案
⑴ 個人の尊厳に対する権利条項の目的
ルイジアナ州憲法は︑一八一二年の制定当初︑平等に関する規定をおいていなかった (︒平等に関する規定がおかれた 19)
のは︑現行の︵一九七四年︶州憲法のときである (
﹂題利権るす対に厳尊の人個︑﹁は表の定規るす関に等平の法憲州︒ 20)
とされた︒個人の尊厳に対する権利条項に関する審議において︑当該条項の﹁唯一の目的は︑州が︑州の管轄内において︑各人をもっぱら各人の功績︵
m er it
︶と価値︵w or th
︶に基づいて評価される個人として取り扱うこと︑を確保す ることである (﹂とされた︒ 21)
(一四二二)
年齢による区別と憲法七七同志社法学 六一巻五号
⑵ 個人の尊厳に対する権利条項の草案
個人の尊厳に対する権利条項の草案は︑次のような規定であった︒︿第一文﹀﹁何人も法の平等な保護を否定されず︑いかなる法も︑個人の諸権利の行使において︑出生︑人種︑年齢︑性別︑社会的出身︑身体の状態︑又は︑政治的な見解若しくは宗教的な見解を理由に︑差別してはならない﹂︵
N o pe rs on sh all b e de nie d th e eq ua l p ro te ct io n of th e la w s no r sh all a ny la w d isc rim in at e ag ain st a p er so n in th e ex er cis e of rig ht s o n th e ac co un t o f b irt h, ra ce , a ge , s ex , s oc ia l o rig in , p hy sic al co nd iti on , o r p oli tic al or re lig io us id ea s.
︶︒︿第二文﹀﹁犯罪による刑罰としての意に反する苦役を除いては︑奴隷及び本人の意に反する苦役に服させられない﹂︵
Sla ve ry a nd in vo lu nt ar y se rv itu de a re p ro hib ite d, ex ce pt in th e la tte r c as e as p un ish m en t f or c rim e.
︶︒⑶ 草案の源泉( source )
草案の段階では︑草案第一文に類似した規定としてモンタナ州憲法二条四節︵M
ONT. C
ONST. a rt. II , § 4
︶の﹁個人の 尊厳﹂︵In div id ua l D ig nit y
︶条項が (定規第正修法憲国衆合てしと条た三し似類に文二第案草︑りあ一 22)(
N ew
でアされず︑あくまでもルイジ州ナは独自の﹁新しい﹂︵︶もの解と案はしかし︑草る源泉の︑規こに定あのられ が︒たれさと︑るあ 23)あるという認識が示された (
︒ 24)
⑷ 草案と現行の個人の尊厳に対する権利条項の相違点
草案と現行州憲法一条三節の相違点として︑以下のことを指摘することができる︒ 第一に︑草案は︑﹁区別禁止事項﹂を全て第一文に明記した︒しかし︑現行州憲法一条三節は︑﹁区別禁止事項﹂を第二文︵人種︑宗教的な見解等︶と第三文︵年齢︑性別等︶に分けて明記している︒第二に︑現行州憲法一条三節第三文は︑﹁恣意的に﹂等の副詞を付している︒しかし︑草案第一文は︑﹁恣意的に﹂等
(一四二三)
年齢による区別と憲法七八同志社法学 六一巻五号
の副詞を一切付していなかった (
︒ 25)
第三に︑現行州憲法一条三節第二文は︑草案第一文列挙事項の﹁宗教的な見解﹂に加えて︑﹁宗教的な信条︑若しくは︑宗教的な団体の構成員であること﹂を明記している︒そして︑同条三節第三文は︑草案第一文列挙事項の﹁政治的な見 解﹂に加えて︑﹁政治的な団体の構成員であること﹂を明記している (
︒ 26)
第四に︑草案第一文は︑﹁区別禁止事項﹂として﹁社会的出身﹂を明記した︒しかし︑現行州憲法一条三節は︑﹁社会 的出身﹂を削除している (
︒ 27)
なお︑草案第二文は︑修正されることなく現行州憲法一条三節第四文に規定されている︒
(二)個人の尊厳に対する権利条項の草案の趣旨説明と審議内容
⑴ 草案の趣旨
草案の趣旨説明によると︑草案は︑合衆国憲法の平等に関する修正条項の成立後も存在していた﹁不当な差別︵in vid io us dis cr im in at io n
︶﹂の除去を意図してつくられた (の第係関のと条四一正問修法憲国衆合を別で題るたも万百何︑てっがしと︒たっかなこてし区よ項事挙列文一第案草に た別項事止禁第区﹁に文一が案﹂の明記され︒は︑﹁連邦裁判所が︑草 28)
人々が︑法の平等保護を否定され続けてきた﹂からである︒草案の趣旨説明では︑草案第一文列挙事項による区別が草案第一文に違反しないことの立証責任は︑州側にあるとされた︒州側は︑当該区別が合理的根拠に基づいていることを
立証しなければならないとされた︒
⑵ 草案第一文列挙事項に年齢が明記されたことについて
草案第一文列挙事項に年齢が明記されたことについて︑次のような質疑応答がなされた︒(一四二四)
年齢による区別と憲法七九同志社法学 六一巻五号
第一は︑﹁なぜ︑草案第一文に年齢が明記されたのか (
るめたれさとるあでた州るすに確明をとこ︒側あ根いていづ基に拠的は理合が別区該当︑るに州︑は任責証立のとこ側 第︑に齢年あはれそ︒るるよ一区別が草案﹂文に違反しないで 29)
ことを立証しなければならないとされた︒
第二は︑裁判官の定年制度は︑草案第一文に照らしてどのように評価されるのかである︒この質疑に対して︑裁判官
の定年制度は︑定年年齢が差別の要因となっていない限り︑草案第一文に違反しないとされた︒
第三は︑少年法︵
Ju ve nil e L aw
︶は︑草案第一文に照らしてどのように評価されるのか (である︒この質疑に対して︑ 30)
少年法は︑草案第一文に違反しないとされた︒それは︑州側が︑ポリスパワーに基づいて︑少年の最善の利益のために︑少年を︵刑事裁判とは異なる少年審判手続により︶特別に取り扱うことができるからである︑とされた︒
これらの質疑応答では︑憲法上︑年齢を﹁区別禁止事項﹂として明記することの理論的説明は︑なされていない︒強調されたのは︑憲法上︑年齢を﹁区別禁止事項﹂と明記することにより︑年齢による区別を採用する法令の合憲性の立 証責任が︑州側にあるということである (
︒かついて︑明らはにれていないさ らればなにないかなけでたのかし︑州側に課され立︒証責任がどの程度のもし 31)
⑶ 草案に対する修正案
草案に対して︑﹁何人も法の平等な保護を否定されない﹂︵N o pe rs on s ha ll be d en ie d th e eq ua l p ro te ct io n of th e la w s.
︶という修正案が提出された (案れのように説明さた︑︒すなわち︑草次は記由こに年齢が明さ︒れなかった理こ 32)
第一文のように︑﹁区別禁止事項﹂として年齢を明記すれば︑異なる年齢層の間での区別や高齢者に対する社会保障給付等を定める法令が草案第一文に違反しかねないからであるとされた (
︒ 33)
(一四二五)
年齢による区別と憲法八〇同志社法学 六一巻五号
(三)個人の尊厳に対する権利条項の成立
草案及び草案に対する修正案への再修正案︵後の州憲法一条三節︶が提出された (
︒に案を四つの規定分たけたものである草いて つ修正案は︑二の︒規定から成っ再 34)
再修正案の第二文︵﹁⁝⁝人種又は宗教的な見解⁝⁝を理由に︑差別してはならない﹂︶と第三文︵﹁⁝⁝年齢︑性別︑⁝⁝を理由に︑恣意的に⁝⁝差別してはならない﹂︶について︑次のように説明された︒第二文は︑第二文列挙事項に
よるいかなる区別も絶対的に禁止している︒それに対して︑第三文は︑第三文列挙事項による区別が﹁恣意的に﹂なされてはならないとしている︒この説明は︑第二文列挙事項による区別が合理的根拠のある区別になることは絶対にない
が︑第三文列挙事項による区別は合理的根拠のある区別になりうることがあるという理解に基づくものであるとされた︒再修正案の説明では︑第三文列挙事項の年齢について︑退職年齢を定めることは合理的であるとされた (
が︑年齢による 35)
区別がどのような場合に﹁恣意的に﹂なされたことになるのかは述べられていない︒概略︑以上のような審議を経て︑再修正案は︑一〇二対三で可決された︒
なお︑州憲法一条三節第一文
行もでなく私人による州為拘だ束する︑と解されているけ ( 第︑は文四節三︑文は︑州を拘束するものであり私同人による行為を拘束しないが︑ − 第
︒ 36)
二 個人の尊厳に対する権利条項の解釈に関する判例理論の現段階 ルイジアナ州最高裁判所は︑当初︑区別を採用する法令が州憲法一条三節に違反するか否かを判断する際︑合衆国憲法修正第一四条に関する﹁違憲審査基準﹂を適用していた (
up niv er vis or s o f L ou isi an a St at e U er rd sit y, 47 7 S o. 2 d 10 94 L a. 19 85 o f S oa B v. y le Sib
あで︶︵った︒ 八のの︒州最高年裁がこよ九うな立場を五えたのは︑一変 37) (一四二六)年齢による区別と憲法八一同志社法学 六一巻五号 (一)
Sibley v. Board of Supervisors of Louisiana State University
判決の内容⑴ 事実の概要と第一巡回区控訴審判決
Ja ne S ib le y
は︑ルイジアナ州立大学M ed ic al C en te r
の精神科の患者であった︒彼女の担当医は︑彼女に抗精神病薬を誤って適量以上投与した︒この薬の副作用により︑彼女は︑一九八〇年九月一五日︑抗コリン作用反応を起こし︑心肺停止状態に陥り︑脳損傷を被った︒大学側の医療過誤によって︑彼女が被った損害額は︑五〇万㌦以上であった︒そこで︑
Sib le y
の保佐人︵cu ra to r
︶は︑大学側に対して︑医療過誤による損害賠償請求訴訟を提起した︒州地裁︵未公刊︶ と控訴審のSib le y v. B oa rd o f S up er vis or s o f L ou isi an a St at e U niv er sit y, 44 6 S o. 2 d 76 0
︵L a. A pp . 1
stC ir. 19 83
︶は︑大学側の損害賠償責任を認めたが︑医療過誤による損害賠償額の上限を五〇万㌦と定める州法︵L A . R
EV. S
TAT. A
NN.§ 40 : 12 99 . 39
︵B
︶︶により︑五〇万㌦以上の賠償額を命じる判決を下さなかった (︒に法は︑州憲法一条三節違る反するとして上告した州めを限上の定
Sib le y
過側は︑医療に誤︒る損害賠償額よ 38)⑵ 再弁論前の州最高裁判決
州最高裁は︑Sib le y v. B oa rd o f S up er vis or s o f L ou isi an a St at e U niv er sit y, 46 2 S o. 2 d 14 9
︵L a. 19 85
︶において︑合衆 国憲法修正第一四条に関する﹁違憲審査基準﹂に基づいて︑合理性の基準を適用した︒州最高裁︵C alo ge ro
裁判官による法廷意見︶は︑問題となった州法は︑医療過誤による損害賠償額に上限を設けることで︑州民が負担する医療費を抑え︑州民に対する医療サービスを維持するという目的と合理的に関連している︑とした︒以上から︑州最高裁は︑問
題となった州法が州憲法一条三節に違反しないとした (
⑶ 再弁論後の州最高裁判決
︒ 39)州最高裁は︑判決後︑
Sib le y
側の再弁論の申立て︵R eh ea rin g
(D en nis
多対相るよに官判裁数︵裁高最州︒ため認を︶ 40)(一四二七)
年齢による区別と憲法八二同志社法学 六一巻五号
意見︶は︑再弁論後の
Sib le y v. B oa rd o f S up er vis or s o f L ou isi an a St at e U niv er sit y, 47 7 S o. 2 d 10 94
︵L a. 19 85
︶において︑次のように判示した︒
まず︑再弁論後の判決は︑合衆国憲法修正第一四条に関する﹁違憲審査基準﹂が州憲法一条三節に関する﹁違憲審査 基準﹂に十分な理論的枠組みを提供しないとした (
性基例に合理べの準きを適用する場合事 ( がるれさ用適準高基の理由は︑合衆国最裁︒が︑時折︑①厳格審査そ 41)
場緩査と異なり︑やのかな審査を行う審で間︑の﹂準基査審的下中﹁の常通② 42)
合 (
査審え加を査審な密厳︑りな異と合の場で下の準基の性理合の常通③︑る 43)(
︒らできていないかで展ある︑とされた開 をあ﹂り︑統一性のるが﹁違憲審査基準あ 44)
次に︑再弁論後の判決は︑州憲法一条三節を次のように解した (
︒ 45)
第一に︑同条三節第二文︵﹁⁝⁝人種又は宗教的な見解⁝⁝を理由に︑差別してはならない﹂︶は︑第二文列挙事項に
よる区別を絶対的に禁止している︒
第二に︑同条三節第三文︵﹁⁝⁝年齢︑性別︑身体の状態⁝⁝を理由に︑恣意的に⁝⁝差別してはならない﹂︶は︑第 三文列挙事項による区別が﹁恣意的に﹂なされることを禁止している︒再弁論後の判決は︑当該区別は︑適切な州の目的︵
ap pr op ria te s ta te p ur po se
︶を実質的に促進していないのであれば︑第三文に違反するとした︒判決は︑このような立証責任を州側に課した︒
再弁論後の判決は︑問題となった州法は︑﹁五〇万㌦で回復できるような障害を負った者﹂と﹁五〇万㌦でもなお回
復できないような障害を負った者﹂の区別であり︑州憲法一条三節第三文列挙事項の﹁身体の状態﹂による区別であるとした︒第三文の解釈上︑州側は︑問題となった州法が第三文に違反しないことを立証しなければならない︒しかし︑
再弁論後の判決は︑このような第三文の解釈を提示したのは本件がはじめてであるから︑上記の解釈に従って審理する
(一四二八)
年齢による区別と憲法八三同志社法学 六一巻五号 ために本件を破棄差戻しにするとした (
︒ 46)
(二)
Sibley v. Board of Supervisors of Louisiana State University
判決の評価 再弁論後の判決は︑区別を採用する法令が州憲法一条三節に違反するか否かを判断する際︑合衆国憲法修正第一四条 に関する﹁違憲審査基準﹂のこれまでの適用を否定した︒それは︑当該﹁違憲審査基準﹂に対する批判と州憲法一条三節が修正第一四条よりも手厚い平等保障をしているという再弁論後の判決の認識があったからである (︒なお︑再弁論前 47)
の判決で法廷意見を執筆した
C alo ge ro
裁判官は︑再弁論後の判決では︑修正第一四条に関する﹁違憲審査基準﹂を否定したが︑その理由の詳細を述べていない (︒ 48)
⑴ 個人の尊厳に対する権利条項の第二文の解釈
再弁論後の判決は︑州憲法一条三節第二文が第二文列挙事項︵人種︑宗教的な見解等︶による区別を絶対的に禁止し ているとした︒そして︑州最高裁は︑一九九六年のL ou isi an a A ss oc ia te d G en er al C on tr ac to rs , I nc ., v. St at e, 66 9 S o. 2 d 11 85
︵L a. 19 96
︶判決︵=LAGC
判決︶において︑第二文が第二文列挙事項によるアファーマティヴ・アクションも絶対的に禁止しているとした︒この事件では︑公共事業の一部をマイノリティ系企業と優先的に契約することを命じた州
法の合憲性が争われた︒州最高裁は︑当該州法が州憲法一条三節第二文に違反するとした︒州最高裁は︑第二文列挙事項による区別が絶対的に禁止される理由を次のように述べた︒もし︑当該区別が合憲とされる場合があるなら︑第三文
にある副詞︵恣意的に等︶を第二文に付すことも可能であった︒しかし︑第二文には︑そのような副詞は付されていない︒以上から︑州最高裁は︑第二文列挙事項を﹁絶対的な区別禁止事項﹂であると解した (
︒ 49)
(一四二九)
年齢による区別と憲法八四同志社法学 六一巻五号
⑵ 個人の尊厳に対する権利条項の第三文の解釈
再弁論後の判決は︑同条三節第三文は︑第三文列挙事項︵年齢︑性別︑身体の状態等︶による区別が﹁恣意的に⁝⁝﹂なされることを禁止しているとした︒判決は︑当該区別は︑適切な州の目的を実質的に促進していないのであれば︑第三文に違反するとした︒このような﹁違憲審査基準﹂は︑合衆国最高裁が性別による区別に適用している﹁中間的審査基準﹂︵﹁性別による区別は︑重要な政府目的に仕え︑かつ︑当該目的の達成に実質的に関連するものでなければ
ならない (
﹂準説学るす解と︑るあでる基あ査審憲違﹁たし似類に﹂︶が 50)(
︒ 51)
⑶
衆国憲法修正第一四条のそれとは異なるものである合釈がのこのように︑再弁論後判解決は︑州憲法一条三節のとした (
は解がたいてれか分 ( ︑どうかをめぐっての同判決直後る判例の理かす提用っとも︑再弁論後の判決が示︒した﹁違憲審査基準﹂を採も 52)
示査した﹁違憲審基提準﹂が用いられるがい理︑現在の判例論決の下では︑同判て 53)(
︒ 54)
第二章 年齢による区別の合憲性に関するルイジアナ州の判例理論の展開 年齢による区別の合憲性に関するルイジアナ州の判例では︑未成年による区別︵成人年齢未満の者に対する区別︶︑
非高齢成年による区別︵成年者の中で一定の非高年齢の者に対する区別︶︑高齢による区別︵一定の高年齢以上の者に対する区別︶の合憲性が問題とされた︒本章では︑これらの区別の合憲性が争われた事例において︑ルイジアナ州の裁
判所は︑いかなる﹁違憲審査基準﹂を適用したのか︑﹁区別禁止事項﹂としての年齢をどのように考えているのか︑といった点を中心に︑紹介する︒
(一四三〇)
年齢による区別と憲法八五同志社法学 六一巻五号 一 年齢による区別に関する「違憲審査基準」
―
「中間的審査基準」の確立 ルイジアナ州最高裁判所は︑一九九六年のM an ue l v . S ta te , 69 2 S o. 2 d 32 0
︵L a. 19 96
︶において︑はじめて︑年齢による区別の合憲性についての判断を示す (︒るたし立確を﹂準基査審憲違﹁す関に別区るよに齢年︑にもとと 55)
(一)
Manuel v. State
判決の内容 本判決は︑飲酒年齢を二一歳以上とする州法の合憲性が争われた︑非高齢成年による区別に関する事例である︒もともと︑ルイジアナ州における飲酒年齢は︑成人年齢︵一八歳︶と同一であった︒しかし︑飲酒年齢を二一歳に引き上げ ない場合︑幹線道路資金に関する連邦の各州への補助を削減するとした連邦法︵23 U .S .C . § 15 8 , e t s eq
︶を受けて︑ルイジアナ州法は︑一九八六年に二一歳未満の者の飲酒を禁止し︑さらに︑一九九五年の改正で︑二一歳未満の者にアルコール飲料を販売した業者に対して罰金を科した︒なお︑合衆国最高裁は︑
So ut h D ak ot a v. D ole , 48 3 U .S . 20 3
︵19 87
︶において︑この連邦法が合衆国憲法一条八節第一項により連邦議会に付与された支出権限の行使であるとした︒⑴ 事実の概要と州地裁判決
ルイジアナ州現行制定法集一四編九三条一二節︵L A . R
EV. S
TAT. A
NN. § 14 : 93 . 12
︶は︑二一歳未満の者によるアルコール飲料の購入等を禁止し︑違反者には一〇〇ドル以下の罰金等を科すと規定している︒同条一一節は︑二一歳未満の者にアルコール飲料を販売すること等を禁止し︑違反者には一〇〇ドル以下の罰金等を科すと規定している︒
Jo dy W . M an ue l
とアルコール飲料販売業者は︑問題となった州法が州憲法一条三節第三文に違反するとして︑差止訴訟を提起した︒州地裁︵未公刊︶は︑年齢による区別を定める法令は違憲であるとして︑暫定的差止命令︵
pr eli m in ar y
(一四三一)
年齢による区別と憲法八六同志社法学 六一巻五号
in ju nc tio n
︶を下した (に﹂違憲と判断されたケ例ースを﹁最高裁判所が条問はこで︑州側は︑題︒となった﹁法律又そ 56)
上訴できる﹂と規定している州憲法五条五節
⑴
に基づいて︑州最高裁に直接上訴し︑原告側は︑州最高裁に終局的差止命令︵pe rm an en t i nju nc tio n
︶を求めた︒⑵ 再弁論前の州最高裁判決
州最高裁は︑M an ue l v . S ta te , 69 2 S o. 2 d 32 0
︵L a. 19 96
︶において︑次のように判示した︒K im ba ll
裁判官による法廷意見は︑Sibley
再弁論後判決を引いたうえで︑同条三節第三文の解釈上︑年齢による区別は違憲の推定を受けるとした︵at 32 5
︶︒法廷意見は︑問題となった州法は︑重要な州の目的を実質的に促進していないのであれば︑第三文に違反するとした︒法廷意見は︑このような立証責任を州側に課した︒
法廷意見は︑州側が主張した目的︑すなわち﹁幹線道路の安全性を向上する﹂という目的を重要なものとした︒しか し︑法廷意見は︑問題となった州法がこの目的を実質的に促進していないとした︒その理由として︑法廷意見は︑各年齢層の飲酒運転による事故数をみれば (
一者二︶いなはで象対用適の法州︑︵ 57)
用数適の法州︵が故三事該当の者の歳 − 二
対象者である︶一八
︒多たし摘指をとこいも〇りよれその者の歳 − 二
なお︑法廷意見は︑﹁州側が本件における立証責任を果たせなかったことは︑⁝⁝州側が一八
〇歳の者にアルコ − 二
ール飲料の購入等を禁止することを永久に排除されたことを意味しない︒一八
︒おしてアルコール飲料の消費よにび購入を禁止できる﹂とした対らもは側州︑ばれけ多とっも彼 者飲の〇の歳運酒数転による事故が − 二
以上から︑法廷意見は︑問題となった州法が州憲法一条三節第三文に違反するとした (
⑶ 再弁論後の州最高裁判決
︒ 58)州最高裁は︑州側の再弁論の申立てを認めた︒州最高裁は︑
M an ue l v . S ta te , 67 7 S o. 2 d 11 6
︵L a. 19 96
︶において︑(一四三二)
年齢による区別と憲法八七同志社法学 六一巻五号 問題となった州法が州憲法一条三節第三文に違反しないとし︑州地裁判決を破棄した︒
L em m on
裁判官による法廷意見は︑同条三節第三文の解釈上︑年齢による区別には合憲性の推定が働かないとした︵
at 11 9
︶︒法廷意見は︑問題となった州法は︑適切な州の目的を実質的に促進していないのであれば︑第三文に違反するとした︒法廷意見は︑第三文に関する﹁違憲審査基準﹂は︑合衆国最高裁がC ra ig v . B or en , 42 9 U .S . 19 0
︵19 76
︶で 適用した﹁中間的審査基準﹂と﹁実質的に同じ﹂︵vir tu all y th e sa m e
︶であるとした︵at 12 0 n 4
︶︒法廷意見は︑州側が主張した目的︑すなわち幹線道路の安全性を向上するという目的を適切なものとした︵
at 12 1 – 12 2
︶︒そして︑法廷意見は︑問題となった州法がこの目的を実質的に促進しているとした︒その理由として︑法廷意見は︑各年齢層の飲酒運転による事故率をみれば (
八象一︶るあで者対用適の法州︑︵ 59)
用率適の法州︵が故〇事該当の者の歳 − 二
対象者ではない︶二一歳以上の者のそれよりも高いことを指摘した︒
なお︑法廷意見は︑一八
のら考慮すれば︑彼に性アルコール飲料を熟〇自歳の者の飲酒と動未車の運転に関する − 二
購入等を認めることは幹線道路の安全性に有害な影響を与えるので︑飲酒年齢の引き上げは若年層の飲酒運転に関する問題の解決にとって合理的で恣意性のないアプローチであるとした︒
以上から︑法廷意見は︑問題となった州法が州憲法一条三節第三文に違反しないとした (
︒ 60)
(二)
Manuel v. State
判決の評価Manuel
判決は︑一九九六年三月八日の再弁論前の判決と同年七月二日の再弁論後の判決で結論を異にした (︒点るきでがとこるす摘指をの次︑はていつに 決判両︒ 61)
第一は︑州憲法一条三節第三文の解釈上︑年齢による区別に違憲の推定が及ぶか否かである︒両判決は︑第三文の解
(一四三三)
年齢による区別と憲法八八同志社法学 六一巻五号
釈上︑年齢による区別に違憲の推定が及ぶとした︒なお︑
Sibley
再弁論後判決は︑第三文列挙事項による区別に違憲の推定が及ぶか否かについて︑触れていない︒
第二は︑年齢による区別に関する﹁違憲審査基準﹂である︒両判決は︑年齢による区別は︑重要な州の目的︵再弁論
前︶︑適切な州の目的︵再弁論後︶を実質的に促進していないのであれば︑州憲法一条三節第三文に違反するとした︒
Sibley
再弁論後判決は︑第三文列挙事項による区別に関する﹁違憲審査基準﹂を﹁合衆国最高裁が適用している合理 性の基準よりも厳格なものである﹂と述べるのみであった︒しかし︑Manuel
再弁論後判決は︑当該区別に関する﹁違憲審査基準﹂が合衆国最高裁の適用している﹁中間的審査基準﹂と﹁実質的に同じ﹂であるとした (︒ 62)
第三は︑両判決の﹁違憲審査基準﹂の適用における目的審査である︒両判決は︑州側が主張した目的︑すなわち幹線道路の安全性を向上するという目的を重要なもの︵再弁論前の判決︶︑適切なもの︵再弁論後の判決︶とした︒しかし︑
両判決は︑問題となった州法の目的をどのように評価するのかについて︑詳細を明らかにしていない︒
第四は︑両判決の﹁違憲審査基準﹂の適用における手段審査である︒再弁論前の判決は︑﹁州法の適用対象者である
一八
一と二いなで者象対用適の法州﹁﹂〇数故事るよに転運酒飲の者の歳 − 二
八︑﹁た︒再弁論後の判決は州下法の適用対象者である一しを比断判憲違︑し較を 飲の三者の歳運酒事転による故数﹂ − 二
﹂転率故事るよに運〇酒飲の者の歳 − 二
と﹁州法の適用対象者でない二一歳以上の者の飲酒運転による事故率﹂を比較し︑合憲判断を下した︒両判決は︑それぞれの結論を正当化する統計資料を考慮している (
ほ弁の料資計統の述前が決判の後論再︑しかし︒るいてし通共はで点 63)
かにも問題となった州法を正当化する統計資料をいくつか考慮している (
︒るな異は 統と慮考の料資計るよに決判の前論弁再︑は点 64)
(一四三四)
年齢による区別と憲法八九同志社法学 六一巻五号 二 年齢による区別に関する「中間的審査基準」の適用
Manuel
再弁論後判決は︑年齢による区別に関する﹁違憲審査基準﹂が﹁中間的審査基準﹂であるとした︒ここでは︑同判決後︑高齢による区別と未成年による区別の合憲性が争われた事例について︑﹁中間的審査基準﹂がどのように適用されているのかをみてみる︒
(一)
Pierce v. Lafourche Parish Council
判決の内容 本判決は︑老齢年金受給者に対する労災保険給付の支給期間を老齢年金非受給者よりも短くしている州法の合憲性が争われた事例である︒
アメリカ連邦の社会保障制度は︑社会保険︵老齢年金︑労災保険等︶︑公的扶助︑福祉サービスから構成されている︒ 老齢年金︵
42 U .S .C . § 40 1 , e t s eq
︶は︑六二歳以上の完全被保険者資格を有する者の年金受給申請が認められた場合に支給されるものであり︑連邦直轄の公的年金プログラムのひとつである (補保災労邦連︑は付給険災労︑てし対にれそ︒ 65)
償法︵連邦職員労災補償法︑港湾労災補償法等︶と各州の労災補償法により運営されている (
︒一九一四年に制定された 66)
ルイジアナ州の労災補償法は︑現在︑州現行制定法集二三編一二二一条︵
L A . R
EV. S
TAT. A
NN. § 23 : 12 21
︶以下で︑傷病の被用者︑その被扶養家族および遺族に対して︑障害補償給付︑遺族給付等を用意している︒障害補償給付は︑一時 的完全障害給付︵Te m po ra ry T ot al D isa bil ity B en ef its
︶︑永久的完全障害給付︵P er m an en t T ot al D isa bil ity B en ef its
︶︑補足的所得給付︵Su pp le m en t E ar nin gs B en ef its
︶︑永久的部分的障害給付︵P er m an en t P ar tia l D isa bil ity B en ef its
︶に分けられる︒補足的所得給付は︑我が国の労働者災害補償保険法一二条の八第一項二号の休業補償給付に相当する︒一
(一四三五)
年齢による区別と憲法九〇同志社法学 六一巻五号
時的完全障害給付︑永久的完全障害給付︑および永久的部分的障害給付は︑同項三号の障害補償給付に相当するもので
ある (
⑴ 事実の概要と第一巡回区控訴審判決
︒ 67)ルイジアナ州現行制定法集二三編一二二一条
条被的足補に者用の得病傷︑きとい所給き定同︒るいてし規付とるす給支をなでがるとこ
⑶
は︑被用時が傷病により傷病者⒜の賃の九〇%以上の賃金を稼得す金⑶
⒟は︑補足的所得給付の支給期間を五二〇週とし︑同条
ie rc e ch ur afo L e P
︑は病議るあで者給受金年郡会老歳傷に中務業︑きとの二の七︑がたっあで員職齢︒いてし定規とた⑶
し者用被るいて金給受を対年齢老︑はに⒟す給週四〇一を間期支るの付給得所的補足 し︑従前得ていた賃金の九〇%の賃金を確保できなくなった︒L afo ur ch e
郡は︑同条条を同︑は郡︑しかし︒たし給支付給
⑶
⒜得所的足補に彼︑ていづ基に⑶ e P ie rc
︑は老給齢年︒たし了終を支⒟一に基づいて︑〇の四週で当該給付金受給者に対する労災保険給付の支給期間を老齢年金非受給者よりも短くしている同条
︒︑に違反するとして宣三言的判決を求めた文第三条一法憲州節
⑶
よは︑年齢に⒟る区別あり︑で 州地裁︵未公刊︶は︑問題となった州法が州憲法一条三節第三文に違反しないとして︑原告の請求を棄却した (ish ar v. L afo ur ch e P 29 rc C ou nc il, 73 9 S o. e ie d . 99 19 ir. P 1 C pp A a. L 7 2
︵︶において︑回︑は決判審訴控区し︑巡一第st ︒かし 68)問題となった州法が同条三節第三文に違反するとして︑州地裁判決を破棄差戻しした︒判決は︑第三文の解釈上︑第三文列挙事項による区別は﹁法の平等保護﹂を否定したものと推定されるとした︒そして︑判決は︑問題となった州法は︑
正当な州の目的を実質的に促進していないのであれば︑第三文に違反するとした︒判決は︑州側がこのような立証責任を果たしていないとした︒そこで︑郡側は︑州最高裁に上告した︒
(一四三六)
年齢による区別と憲法九一同志社法学 六一巻五号
⑵ 州最高裁判決
州最高裁は︑P ie rc e v. L afo ur ch e P ar ish C ou nc il, 76 2 S o. 2 d 60 8
︵L a. 20 00
︶において︑次のように判示した︒ 州最高裁は︑問題となった州法は︑正当な州の目的を実質的に促進していないのであれば︑州憲法一条三節第三文に違反するとした︒州最高裁は︑このような立証責任を州側に課した︒まず︑州最高裁は︑州側が主張した第一の目的︑すなわち使用者の労災保険給付にかかるコストを下げることによって︑労災保険システムの財政的健全さを保持するという目的を適切なものとした︒しかし︑州最高裁は︑問題となる州
法がこの目的を実質的に促進していないとした︒その理由として︑老齢年金受給者に対する補足的所得給付の支給期間を一〇四週にすることが︑労災保険システムの財政的健全さを保持するうえで︑重要な効果を持つとは信じ難いからで
あると指摘された︒
次に︑州最高裁は︑州側が主張した第二の目的︑すなわち︑傷病した被用者が︑所得喪失に対する填補機能を持つ老
齢年金給付と労災保険給付を重複して受給しないように調整するという目的を適切なものとした︒しかし︑州最高裁は︑問題となった州法がこの目的を実質的に促進していないとした︒その理由として︑当該州法は︑傷病した被用者が両給
付を重複受給しないように調整したものではないからであると指摘された︒また︑州最高裁によれば︑問題となった州
法は︑老齢年金受給者に対する補足的所得給付を老齢年金の受給額に関係なく一〇四週で終了する︒一〇四週後︑老齢年金受給者は︑従前の賃金の三分の二を確保できる保証がない︒
以上から︑州最高裁は︑問題となった州法が州憲法一条三節第三文に違反する︑とした︒
(一四三七)
年齢による区別と憲法九二同志社法学 六一巻五号
(二)
Wal-Mart Stores, Inc. v. Keel
判決の内容 本判決は︑老齢年金受給者に対する労災保険給付の減額を定めた州法の合憲性が争われた事例である︒⑴ 事実の概要と州地裁判決
ルイジアナ州現行制定法集二三編一二二五条⑴⒝は︑老齢年金を受給している被用者に対する障害補償給付を減額すると規定している︒一九九五年︑
W al- M ar t
店のパートタイム被用者で︑老齢年金を月額七二八・八〇㌦受給してい たK ee l
は︑業務中に負傷した︒W al- M ar t
は︑彼女に対して自発的に一時的完全障害給付を毎週八六・四三㌦支給した︒しかし︑一九九七年︑W al- M ar t
は︑同条⑴⒝に基づいて︑当該給付の減額請求を州の労災補償局に行った︒労災補償局は︑当該請求を認め︑一時的完全障害給付から七九・六五㌦の減額処分を行った︒
K ee l
は︑第二巡回区州控訴裁判所に︑減額処分の取消を求めて訴えを提起した︒第二巡回区州控訴裁判所は︑W al- M ar t S to re s, In c. v. K ee l, 73 4 S o.
2 d 74
︵L a. A pp . 2 d C ir. 19 99
︶において︑K ee l
の訴えを認めた︒その後︑州最高裁は︑W al- M ar t S to re s, In c. v. K ee l, 76 5 S o. 2 d 32 5
︵L a. 20 00
︶において︑前述のPierce
判決に照らして︑審理を尽くすよう労災補償局に命じた︒そこで︑K ee l
は︑問題となった州法が州憲法一条三節第三文に違反すると主張した︒彼女の訴えは︑州地裁に移送された︒州地裁︵未公刊︶は︑当該州法が同条三節第三文に違反するとした (al- W M ar t
は題又律法﹁たっなとは問︑側︑でこそ︒ 69)条例が違憲と判断された﹂ケースを﹁最高裁判所に上訴できる﹂と規定している州憲法五条五節
⑴
に基づいて︑州最高裁に直接上訴した︒⑵ 州最高裁判決
州最高裁は︑W al- M ar t v . K ee l, 81 7 S o. 2 d 1
︵L a. 20 02
︶において︑次のように判示した︒ 州最高裁は︑問題となった州法は︑正当な州の目的を実質的に促進していないのであれば︑州憲法一条三節第三文に(一四三八)
年齢による区別と憲法九三同志社法学 六一巻五号 違反するとした︒州最高裁は︑このような立証責任を州側に課した︒
州最高裁は︑州側が主張した第一の目的︑すなわち︑使用者の労災保険システムに関するコストを抑制するために︑ 傷病した被用者が所得喪失に対する填補機能を持つ老齢年金給付と労災保険給付を重複して受給しないよう調整するという目的を適切なものとした︵
at 6 – 8
︶︒しかし︑州最高裁は︑問題となった州法がこの目的を実質的に促進していないとした︒その理由として︑次のことが指摘された︒州最高裁は︑労災保険給付が業務中の傷病により収入を失った被用者を補償するものであるのに対して︑老齢年金は所得喪失の填補であると考えられていないとした︒老齢年金は︑保険
料を納付していれば︑業務中の傷病に関係なく一定年齢に到達することにより︑支給されるものであるとされた︒このことから︑州最高裁は︑問題となった州法が州側の主張した第一の目的を実質的に促進していないとし︑当該州法と当
該目的の間には﹁合理的関連性を要求する最低限のテストさえ満たしていない﹂とした︒
州最高裁は︑州側が主張した第二の目的︑すなわち︑使用者の労災保険給付にかかるコストを下げることによって︑ 労災保険システムの財政的健全さを保持し︑高齢者の雇用を促進するという目的を適切なものとした︵
at 8 – 9
︶︒しかし︑州最高裁は︑問題となった州法がこの目的を実質的に促進していないとした︒その理由として︑老齢年金受給者のみ︑一時的完全障害給付を減額することが︑労災保険システムの財政的健全さを保持するうえで︑重要な効果を持つとは信
じ難いからである︑と指摘された︒
州最高裁は︑州側が主張した第三の目的︑すなわち︑高齢者の所得喪失は稼得活動からの引退︵=退職︶によること から︑労災保険給付を高齢者の受け取っている退職給付の上積みとなるような給付にしないという目的を適切なものではないとした︵
at 9 – 11
︶︒州最高裁によれば︑州側は︑問題となった州法を老齢年金受給者が退職しているという反証を許さない推定︵
irr eb ut ta ble p re su m up tio n
︶規定であるとしている︒この推定によれば︑老齢年金の完全受給開始年(一四三九)
年齢による区別と憲法九四同志社法学 六一巻五号
齢︵六五歳︶以降の高齢労働者の所得喪失は︑傷病ではなく︑退職に起因する︑ということになる︒しかし︑連邦社会
保障法上︑老齢年金を受給している高齢労働者は︑老齢年金を受給しつつ︑就労が可能である︒州最高裁は︑さらに重要なこととして︑使用者が︑老齢年金を受給している高齢労働者に対する一時的完全障害給付を減額するために︑彼ら
を退職者と推定することは︑州憲法一条三節第三文に違反するとした︒
以上から︑州最高裁は︑問題となった州法が州憲法一条第三節第三文に違反するとした︒
(三)
William Dale Walker v. State Farm Mut. Auto. Ins. Co.
判決の内容 本判決は︑未成年者の親に対する訴訟提起を禁止した州法の合憲性が争われた︑未成年による区別に関する事例である︒⑴ 事実の概要と州地裁判決
ルイジアナ州現行制定法集九編五七一条︵L A . R
EV. S
TAT. A
NN. § 9 : 57 1
︶は︑﹁⑴
親権に服している未成年者は︑両 親の婚姻関係が継続している間︑すなわち︑裁判別居︵ju dic ia lly s ep ar at ed
︶の状態にないとき︑親に対して訴訟を提起することができない︒⑵
親権に服している未成年者は︑両親の婚姻関係が解消されたとき︑又は︑裁判別居の状態に あるとき︑監護権︵cu st od y
︶を有する親に対して訴訟を提起することができない︒﹂と規定している︒ 一九九八年︑Su sa n W alk er
が運転する自動車が︑ミシシッピー州W ar re n
郡の州間高速自動車道において︑トレーラ ートラックの後部と衝突した︒この衝突によって︑同乗していた息子︵Sla de W alk er
︶は負傷し︑彼女の夫と娘︵N in a
︶は死亡した︒Sla de
とSu sa n
のもう一人の子ども︵C ar m en W alk er
︶の仮の後見人として裁判所から指名された伯父︵W illi am
D ale W alk er
︶は︑Su sa n
と保険会社︵St at e F ar m F ire a nd C as ua lty C om pa ny o f M on ro e an d St at e F ar m M ut ua l A ut om ob ile
(一四四〇)
年齢による区別と憲法九五同志社法学 六一巻五号
In su ra nc e C om pa ny o f B lo om in gt on , I llin ois
︶に対して︑父親とN in a
の不法死亡訴訟︵w ro ng fu l d ea th a ct io n
︶と訴権存続訴訟︵su rv iv al ac tio n
︶を提起した︒州地裁︵未公刊︶は︑同編五七一条により︑原告には訴権︵rig ht o f a ct io n
︶ がないというSu sa n
の異議の申立てを認め︑原告の訴えを棄却した (︒第州法が州憲法一条三節三っ文に違反すると主張したたなと題問
, W Sla de , C ar m en illi am D ale W alk er
︒は︑︑でこそ 70)⑵ 第二巡回区州控訴審判決
第二巡回区州控訴審判決は︑W illi am D ale W alk er v . S ta te F ar m M ut . A ut o. In s. C o., 76 5 S o. 2 d 12 24
︵L a. A pp . 2 d C ir. 20 00
︶において︑次のように判示した︒ 判決は︑問題となった州法は︑正当な州の目的を実質的に促進していないのであれば︑州憲法一条三節第三文に違反 するとした︒判決は︑州側がこのような立証責任を果たさない限り︑問題となった州法は違憲と推定されるとした︒しかし︑判決は︑未成年・成年による区別を定める法令に対して︑このような推定が及ぶことに疑問を呈した︵at 12 28
︶︒なぜなら︑若年者と高齢者は︑︵各年齢に応じて︶特別の取扱い︵
pr ef er en tia l t re at m en t
︶を受けることがありうるからである (︒ 71)
判決は︑州側が主張した目的︑すなわち﹁家族関係の調和の保護﹂という目的を適切なものとした︒判決によれば︑﹁﹃親
は子どもに種々の世話を行い︑中には金銭に換えがたい世話もある︒その世話は︑子どもが親に対して世話ができるようになるまで継続すると推定される︒子どもとしてのふさわしい義務は︑訴訟に対する極度の必要性が迫っていない限
り︑親の過ちを公にし︑訴訟により親を苦しめることを控えることである﹄︵
qu ot in g B ird v . B la ck , 5 L a. A nn . 18 9 , 19 6
︵L a. 18 50
︶︶︒そして︑﹃それ︹親が子どもからの訴訟を免除されること︺は︑家族関係の調和の保護のためであり︑訴訟が 家族関係を乱すおそれがあるからである﹄︵qu ot in g R uiz v . C la nc y, 16 2 S o. 73 4 , 18 2 , L a. 93 5
︵19 35
︶︶﹂︵at 12 27
︶︒(一四四一)