一 資料 ‑ 高 岡 短 期 大 学 紀 要 第6巻 平 成7 年3月
Bul l.Taka oka N at io n al College, Vol.6, M a r ch 1 9 9 5
シ ン ガ ポ ‑ ル の
初 等 教
育に お け る華 語 教
育1)一南華小学校の場合 ‑・
山 田 鼻
(平成6 年1 1月1 日受理)
辛
多民 族 国 家シンガポ ー ルで は国 語の マ レ ー 語 以外に, 公 用 語として、 英語、 華語( 標準中 国語),
タ ミ ー ル語 が 認めら れて い る。 この多言 語社 会にお ける言 語環 境に関 して は, シンガポ ー ル に関 する書 籍の ほとん ど において述べら れてお り, 学 校教育におい ても二言 語 教育政策が と ら れて い
ることは
, よく 知 ら れて いる。 す なわちt 初等 教 育の段階 から, 英語 を第 一 言語と し, 民族 語 を 第二言 語 と する二言 語教 育が行なわ れ てき た。 し か し, 1 9 〔)2 年以 降, 教育 制 度の改 革が行わ れ 従 来の 二言 語 教育にも 少 な か らぬ変 化が見ら れ る。 本稿で は, 初等 教 育段階にお ける言 語 教育 ( 華語 教育) の実態と問 題点につ いて, 南華小学校を 例に考 察するものである。
キ ー ワ ー ド
シンガポ ー ル, 多言 語 社会, 二言 語 教育, 華語
1 はじめに
近 年, 驚 異 的な経 済 発 展 を 遂 げ, 「四 つ の
小 竜」 の ひとつ に数 えら れ るシ ンガ ポ ー ルは,
わずか64 1 kⅢ子の面 積し かな い が, 多民 族 国 家
であ り, 多言 語 社 会であること は よく 知ら れ て いる。 シ ンガポ ー ルの民 族 構 成を19 9 0年の 統 計2 ) に よ っ てみ る と, シ ン ガ ポ ー ル の総人 口3 0 1 万6千人のう ち, 7 7 .7 % が華 人 (中 国 系)3 ) , 1 4.4 % が マ レ ー 系, 7 .1 % が イ ン ド系, その他が1.1 % となっ て い る。 また, シ ン ガ ポ ー ル の憲 法はマ レ ー 語 を 国 語と定め, 公 用 語と して は, マ レ ー 語の他に英 語, 華 語 (標 準 中 国 語), ダ ミ ー ル語 を 認めて い る。 これ ら 四つの言 語は建て前と して は平 等に扱わ れ る。
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し か し, 実 際は, 政 治, 経 済 活 動の分 野では英 語が使わ れており, 教 育 言 語 も 英 語
が中 心と な っ て い る。 つ ま り, 多言 語 社 会シ
ン ガポ ー ル にお い てもっ とも 勢 力 を 持つ言 語 は国語ではな く, 公 用 語の 一 つ である英 語で あ り, シン ガ ポ ー リアン のほ とんど は, その 言 語 能 力, コミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン能 力の到 達 レ
ベ ルに差はあるに しても, 英 語と民 族 語の混 在し た多様な言 語 生 活を送っ て いる。 なぜシ ン ガ ポ ー ル の言 語 政 策に お いて英 語が重 視さ れ る にい た っ た か につ いて田村(1 99 3)5 ' は,
(1) 英 語が国 際 語であ り, 科 学 技 術の言 語であ ること。 (2)植 民 地 時 代か らの諸 記 録, 行 政,
司 法の連 続 性を保 証できること。 (3) 華人, マ
レ ー 系, イ ン ド系の各グル ー プにと っ てt 中 立的 言 語であ り, 共 通 語と して適して いるこ と。 (4)外 国 人 投資家の用いる言 語であること, とい っ た政 府 当 局の説 明に加 えて , (5) 英 語が リ ー ・ ク アン ユ ー ら党 指 導 者の母 語であっ た 産業情 報 学科
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こと を挙 げて い る。 対 外 経 済 活 動の道 具と し て の英 語,国 内の各民 族 間の Link L a ng u age と して の英 語とい っ たことの他に, シンガ ポ ー ル建 国以来 ず っ と政 権 を 担 当してきて いる,
人民 行 動 党 (Pe op le
'
s A ct io n P a rt y) の指 導 者の母 語が英 語であっ た ことも, た し かに シン ガ ポ ー ル に おい て英 語 重 視の政 策が と ら れ た 理由である と考 えら れ よう。
英 語 重 視の政策は, 初 等 教 育 機 関における 言 語 教 育にとりわけ 如 実に現れて いる。 建 国 以来 一 貫して, 初 等 教 育における第一一 言 語は 英 語であ り, 英 語の他に民 族 語 を 学ぶという 言 語 教 育 政 策が取ら れてきてい る。 言 語 政 策
の変 遷につ いて はすでに, 田中(19 87), 田 村 ( 前 掲 書), 太田 (19 94)6 ) な ど先 行 研 究に おい て述べ ら れてい るの で, 祖 述 すること は 避 ける が, シン ガポ ー ル における言 語 教 育 政 策のね らい は, 将 来 同 国の政 治, 経 済 を 担 う
エ リ ー ト を養 成 する こと にあ り, 上級の学 校
‑ 進むには, 英 語と民 族 語の成 績が重 要 視さ れ るの である。 こうし た, 英 語 重 視という 基 本 方 針に変 更は ない もの の, 19 92年に教 育 制 度が改め ら れ, 第二言 語の教 育に いくつ かの 点で従 来と は異る点が見ら れ る。
そこ で, 次 章以 下で は特に初 等 教 育段 階 を 中 心に, 19 92年以降の教 育 制 度につ いて, そ れ 以前との相 違 点に言 及し な が ら見ていくこ と にする。
2 教 育 制 度 改 革
s .G op i。 at ha n (19 94)7 ) に よ る と, シ ン ガ
ポ ー ルに おけるこれまで の教 育 制 度 改 革, と りわけ 言 語 教 育 制 度の改 革は, 二つ の報 告 書
が基と な っ てい る。 そのう ちの,
一 つ は1979
年に出さ れ たもの で, も う 一 つ は199 1年に出 さ れて い る。
シ ン ガポ ー ル型 教 育で知ら れ る初 等 教 育 段 階か らの振 り 分 け選 別 別のもとになるものは,
1 9 7 8年8 月にリ ー ・ ク ア ン ユ ー が当 時の副 首 相ゴ ー ・ ケン ス ウイに命じて作 成させ 1 9 7 9年
2 月に出 版さ れ た, Rep o rt o n t he M inistry of E du c atio n 1978 ( い わ ゆ る ゴ ー レポ ー ト)
である。 こ の報 告に基づき8 0年以降は, 初 等 教 育 段 階か ら選 別 削が と ら れ ることにな る。
そ れ は,
′ト学 校1 年か ら 3 年 までは語 学 学 習 を 中 心にし た共 通 教 育 課 程を受 け, 3 年生修 了 時に, 英 語, 民 族 語, 数 学の三科目の試 験 (str e a ming e x a min atio n) を受け, その結 果と平 常の成 績 を 総 合 的に判 断して, 3 コ ー ス に振 り 分 けら れ る という もの である。 3 コ ー ス と は, (1)N o r m al biling u al c o u r s e ( 二 言 語正規コ ー ス),(2)E xte nded bilingu al c o u r s e
(二言 語 延 長コ ー ス),(3)M o n olingu al c o u r s e
( 一 言 語 コ ー ス) の三 つ である。
8 0年 代はこ の制 度に基づいて教 育が行わ れ たの だ が, 振 り 分 けの時 期が早 す ぎる,
一 言
語の生徒は早い 時 期に ドロ ッ プア ウト して し まうな どの いくつ かの問 題 点が出てきた。 そ こ で, 1 991年3月に教 育 省は, 初 等 中 等 教 育 改 革 案 提 言, すな わち Im p r o ving P ri m a ry
Scho ol E d u c at io n (I PSE) を発 表し, 以 下 のような改 革 提 言 を 行っ ている。
(1) 初 等 教 育 段 階 を 次の 三つ の段 階に分 けて,
英 語, 母 語, 算 数に重 点 を 置 く。 三 つ の段 階 と は, 1 年の 小 学 校 準 備 期 間, ′J、学 校1 年か ら4 年 まで の基 礎 期 間, 小 学 校5 年 ‑ 6 年の オ リエ ンテ ー シ ョ ン期 間であるo
(2) 小 学 校1 年 ‑ 4 年の教 科 時 間 配 分の め や すは次のようにする。 英 語 (3 3% ), 数 学(2 0
%), 母 語お よ び道 徳 教 育 (2 7% ), 科 学 ・ 芸 術 ・ 体 育な ど その他の教 科 (20 % )。
(3) PSL E(Prim a ry Scho oI L e a ving E du c a
t io n) ( 初 等 学 校 卒 業 試 験) を合 否 試 験か ら,
コ ー ス選 別 試 験にする。
(4) 振 り 分け試 験を小 学 校3 年か ら4 年にず らす。 5 年と 6 年に は 三つ の言 語コ ー ス を設 け る。 すな わちE M l ( 英 語と母 語を第 一 言 語 水 準一 上級 水 準) , E M 2 ( 母 語は第二 言 語 水 準一普 通 水 準) , E M O ( 母 語は話し言 葉
の水 準) である。 (図1 参 照)
シンガ ポール の初 等 教 育に お け る華 語 教 育
教 育 制 度 図
大 学 準 備 教 育 (1 6 ‑ 1 8+)
後 期 中 等 教 育
中 等 教 育 (12 ‑ 16+ )
初 等 教 育 (6 ‑ 12 +)
就 学 前 教 育 (4 十 ‑ 6+)
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1) Gener al C e rtific ate of E d u cation A dv anced le v el( 中 等 教 育資格 試 験 上級 レベル)
2) G e n e r al C e rtific ate oil E du c atio n N o r rn al le v el ( 中 等 教 育 資 格 試 験 普 通レベル) 3) G e n e r al C e rti fic ate o[ E du c atio
? O rdin ary le v el ( 中 等 教 育 資 格 試験 一 般レベル)
4) pri m a ry Scho ol Le a\′ing Ex a m l natio n ( 初 等 学 校 卒 業 試 験) 5) E ng lish a nd M other to ngu e / E M l ( 母 語を 上級レベル で学 習)
E M 2 ( 母語を普通レベル で学 習) E M 3 ( 母 語を話し言 葉の レベル で学 習)
図1
1 2 0 山 田 晃 一
な お, 小 学 校4 年 修 了 時に行わ れ る 「 振 り 分 け 試 験」 は各小 学 校が独 自に行う ものだ が,
学 校 側の 一 方 的な判 断で振 り 分 けら れ るの で はな く, 家 長は学 校 側の決 定に異 議 を 申し立
て ること ができる ようにな っ て い る。 た とえ ば, 試 験の結 果E M 2 に振 り 分 けら れ た児 童
の親が, 子 供 をE M l で学ば せ たい と学 校 側 に申し出れ ば, E M l で学ば せ ること ができ る。 また, E M O と いう 名 称は、 新し い初 等 教 育 制 度が発 足し た ときに, E M 3 と名 称が 変 えらえれ た。
こ の ように, 92年 以 前と以後とでは教 育 制 度に若 干の変 化が み ら れ る。 振 り 分 け試 験の 時 期を遅ら せ る と ともに, 小 学 校5 年, 6 年 をオ リエ ンテ ー シ ョ ン段 階と位 置づけるなど,
初 等 教 育にある程 度の余 裕 を 持た せ た ように 配 慮さ れて いる かのようである。 し か し, 初 等 教 育 段 階か らの エ リ ー ト養 成 教 育という 点 に はいさい さ かの変 化 もなく, 9 2年以降の制 度では, E M l が エ リ ー ト養 成コ ー ス になり,
こ の コ ー ス で は, 英 語と民 族 語のバ イ リ ン ガ ル養 成が目 的と さ れてい るの である。
3 初等 教 育にお ける華語 学 習 指 導 要 領 と華語 教 材
こ の章では, 華 語 教 材と, その編 集の基 準 と な る学 習 指 導 要 領につ いて記 すことにする。
シ ン ガ ポ ー ル における教 育 行 政 官 庁である教 育 省に は, 教 材 開 発や教 科 指 導 を 行 う 部 門と して, カリ キュ ラ ム開 発 局(C u r ric ulu m D e
v elop m e nt) とカリ キ ュ ラ ム 計 画 課 (C u r ric
ulu m P la n ning D ivisio n) がある。 こ の 二
つ の部 局は密 接な関 連を持 ちな が らも, そ れ ぞ れの役 割が はっ き りして いる。
シンガポ ー ル は義 務 教 育 制 度を と っ てお ら ず, 教 科 書 も 有 償である が, 教 科 書は国 定 教 科 書 と検 定 教 科 書に分け ら れ る。 国 定の教 科 書はカリ キュ ラム 開 発 局が執 筆 ・ 編 集 する。
た とえば, 初 級 段 階の華 語であれ ば, カリキ ュ ラム 開発 局の小 学 華 文 教 材 組が執 筆 ・ 編 集し,
教 育 出 版 社 私 営 有 限 公 司か ら出 版さ れる こと にな る。 カリ キ ュ ラ ム開 発 局は教 科 書のみな らず, 教 師 用のマ ニ ュ ア ル, 宿 題 帳, 漢 字 練 習 帳, 補 助 教 材, 視 聴 覚 教 材 などの作 成 も 行 う。 な お, 筆 者が参 観 を 許さ れ たカリ キュ ラ ム開 発 局の教 材 展 示 室には, 試 用 版である が 文 字 ・ 音 声 ・ 映 像 教 材が 一 枚の レ ー ザ ディ ス ク に収め ら れ たものも あっ た。 また, 補 助 教 材と して の読み物は, 後 述 する 「 中 小 学 華 文 文 字 表」 にある学 年 別の配 分 漢 字 を 使っ て作 成さ れて い る と いうか ら, その執 筆には た い
へ んな 時 間と労 力が か け ら れ るに違い ない 。
検 定 教 科 書は, カリ キ ュ ラ ム計 画 課で検 定 する。 カリ キ ュ ラ ム計 画 課で は, 教 科 書の検 定の他に, 「 小 学 華 文 科 課 程 標 準」 (19 9 3) と
い っ た教 科 指 導 要 領や, 「 中 小 学 華 文 字 表」
(19 9 3) を 作 成し, 教 材 を 作る際の ガイ ドラ イ ンを示して いる。
3.1 華 語 学 習 指 導 要 領
シ ン ガ ポ ー ル の 初 等 段 階で の 華 語 教 育で,
日本の学 習 指 導 要 領に相 当 するのが, 「 小 学 華 文 科 課 程 標 準」 である。 い ま, その 全て の
項目 につ いて論じ るい とまは ない が, 全 体の 構 成は次のように な っ て いる。
第 一 章 前 言 第二章 教 育目標 第三章 教 材 選 択の原 則と範 囲 第四章 結 合 数 授 法 第五章 教 学 活 動に関 する意 見 第六章 言 語 技 術 第七草 評 価 法
さ ら に付 録と して(1) 小 学 華 文 科の期 待さ れ る教 育 効 果 (2) 華 族 文 化と伝 統 的 価 値 観の綱 目(3) 課 外 閲 読の手 引 き (4) 自 学 学 習 能 力の育 成 (5) 字 表の説 明 (6) 成 語 表 (7) 特 選 小 学 高 級 華 文 課 程 ( 小 一 ‑ 小四) の 手 引 きがあ り, 最 後に 「 基 礎 華 文 科 課 程 教 学の手 引 き」 がつ い て い る。
これ らの内か ら重 要と思わ れるもの につ い
て だ け, 言 及 する ことにする。
(5)字 表の説 明で は、 基礎 段 階の 1 年か ら4
年の 間に 1 3 0 0字を覚 え、 オ リ エ ン テ ー シ ョ ン