日本と韓国の初等教育段階における英語教育
―オンライン学習用コンテンツの視点より―
〇山本 元子(常磐会学園大学) 〇李 知研(常 磐 会 学 園 短 期 大 学非) 1.はじめに 発表者らはこれまで本学会で、韓国の就学前・初等・中等教育段階における英語教育におい て、カリキュラムと指導の実態、予算や教員研修制度などを日本と比較し、日本の英語教育に 資すると考えられる具体的提案を行ってきた。本発表では、コロナ禍でその重要性がクローズ アップされているオンライン学習用コンテンツ(以下、コンテンツ)を主に取り上げ、韓国と 日本の初等(以下、小学校)教育におけるコンテンツを比較検証する。現状では教育全般にお いて、様々なデジタルコンテンツの制作や教育現場での実践で韓国が日本に先行しているが、 「新しい日常(生活様式)」下で推奨される「日本型のコンテンツ」はどのようであるべきか、 紙数の許す限り述べたい。 2.調査研究対象としての釜山と大阪 本発表で、調査研究対象とするのは、韓国は釜山市(以下、釜山)、日本は大阪市(以下、大 阪)である。釜山と大阪はともに港湾貿易を中心とする商業都市として発展してきた歴史を有 し、地域的類似性が認められる。人口比は 346 万:274 万(1.2:1)、小学校数は、304:289 (1:1)で、小学生数は 15.4 万:11.4 万(1.3:1)、英語教育予算については、18 億 7,050 万円:7 億 7,300 万円(2.5:1)である。(それぞれ大阪を1とした 2020 年現在の数値) 18億718億718億718億718億718億718億718億7 3.釜山におけるコンテンツの実情 韓国におけるオンライン学習プログラムの開発や使用の推奨は、2005 年に教育庁が公教育の 正常化と私教育費の削減を目的として、韓国教育学術情報院(Korea Education &. Research Information Service)に、e-learning の推進を図るよう決定したことが始まりである。2013 年 SK テレコム調査によると一家族当たり PC を 2 台保有する家庭が 88.9%であり、OECD が発表 した報告書で、韓国は高速無線インターネットアクセスの 100%普及率を超過した最初の国であ るとして紹介している。PC を含め、モバイル端末使用は一般化しており、ネット環境はすでに 整っている。特に釜山では、現在、釜山教育庁英語課担当講師たちが中心になって、デジタル ツール活用英語授業改善提案に対する HP が開設され、小学生が自ら学習できる環境を作るのに 役立てている。そして、学習内容と指導案を英語担当講師、または担任から親に直接メールと SNS で連絡する。このようなオンライン学習システムはすでに定着しているようである。 2020 年は 2 月頃からコロナ感染症の影響で、本来は 3 月に新学年が開始されるところが 6 月 中旬まで対面式の授業は再開されなかった。しかしながら、小学生らはオンライン学習に習熟 一般研究発表【 一般 A-5 】 比較・国際教育 76 -日本教育学会第79回大会しており、釜山(韓国)では学習面での大きな遅れを危惧する声は比較的小さい。 4.大阪におけるコンテンツの実情 日本において、文科省は外国(英語)語学習理論等に基づくコンテンツの作成ガイドライン などは示しておらず、HP を閲覧しても、コロナの影響を受けて新設された(と思しき)「臨時 休業期間における学習支援コンテンツポータルサイト(子供の学び応援サイト)」は存在するも のの、英語のサイトを開くと、英検協会や NHK(for school)、教科書会社が作成した動画等の 閲覧が可能になっているレベルである。モバイル端末などハード面では、当初 2023 年までに PC などの端末を小学生1人あたり1台配備する計画だったのを、コロナ禍の学校休業を受け、 オンライン学習を進めるため計画を今年度に前倒ししたばかりである。 大阪市の既整備分は小中併せて 2,056 台、全体整備台数は 181,944 台で、19 年度末現在で 8 人に 1 台の整備状況であることがわかる。端末の整備状況がこのレベルであり、実際に家庭で オンライン学習が行える状況にないことは明らかであるが、学習に使用されるコンテンツの整 備も甚だ進んでいない現状であると言わざるを得ない。大阪市教育センターでは、教員向けの 「waku×2.com-bee ポータルサイト」を設けているが、これは教室での使用・授業準備のため の内容であり、実際小学生がアクセスして学習するコンテンツは存在しない。 5.おわりにかえて コロナ感染症の第 2 波が懸念されるなか、小学生が家庭で自学できるコンテンツの重要性は 増すばかりである。本発表では紙数の都合上、コンテンツの内容を論じることはかなわなかっ たが、韓国は韓国教育学術情報院を中心とした様々な研究・開発・検証が行われており、それ を基に各自治体の教育庁が独自のプログラム・コンテンツ開発が進み、すでに実施されている。 まず、日本が整備すべきは英語の教科学習の特性・4 技能(読む・聞く・書く・話す)の伸長 を目指した効果的なコンテンツ作成の指針であろう。それには、学習指導要領で示された目標 と内容を具現化する具体的方策が示される必要がある。文科省 HP で掲載されている会社等のサ イトを否定するものではないが、これらはサイトを利用する学習者の側から見れば、理論的な 一貫性のないバラバラな動画等の羅列である。釜山教育庁と、文科省 HP のサイトを比較すれば、 サイト作成のスタンスに対し、レベルの違いを目の当たりにすることになるのである。 コロナ禍の日本では、ハード面は今年度中に充足される予定となったが、教育の機会均等を 目指す側面からも、一刻も早く上述の「指針」を策定することを提案したい。 <参考文献> 大韓民国教育部 https://www.moe.go.kr/main.do?s=moe 釜山教育庁 HP http://www.pen.go.kr/ 文部科学省 HP (子供の学び応援サイト)https://www.mext.go.jp/a_menu/ikusei/gakusyushien/ 大阪市教育センターHP(waku×2.com-bee) http://www.ocec.jp/center/index.cfm/ 他 一般研究発表【 一般 A-5 】 比較・国際教育 77 -日本教育学会第79回大会