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支配筋摘出術による三叉神経運動枝除神経モデルの 創出

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

支配筋摘出術による三叉神経運動枝除神経モデルの 創出

関, 善弘

九州大学大学院歯学府口腔顎顔面病態学講座顎顔面腫瘍制御学分野

https://doi.org/10.15017/14246

出版情報:Kyushu University, 2008, 博士(歯学), 課程博士 バージョン:

権利関係:

(2)

支配筋摘出術による三叉神経運動枝除神経モデルの創出

Establishment of the rat trigeminal denervation model by removal of the innervated muscles

2009年

九州大学大学院歯学府口腔顎顔面病態学講座 顎顔面腫瘍制御学分野

関 善弘

九州大学大学院歯学研究院 口腔顎顔面病態学講座顎顔面腫瘍制御学分野 指導教員 中村 誠司 教授

九州大学大学院医学研究院 神経病理学分野 研究指導教員 岩城 徹 教授

(3)

本研究の一部は以下の学術雑誌に投稿中である

Degenerative and protective reactions of the rat trigeminal motor nucleus after removal of the masseter and temporal muscles

YOSHIHIRO SEKI, SATOSHI O. SUZUKI, SEIJI NAKAMURA, and TORU IWAKI

Submitted to Journal of Oral Pathology & Medicine

(4)

目次

要旨

5

緒言

8

材料と方法

1. 三叉神経運動枝除神経モデルの作製 11

2. 免疫組織化学染色法 11

3. 細胞培養と遺伝子導入 12

4. 免疫細胞化学染色法 13

結果

1. 三叉神経運動核の経時的変化 15

2. 傷害側三叉神経運動核でのsynaptophysinの発現の低下 15

3. ミクログリアおよびアストロサイトに着目した除神経後の 三叉神経運動核内の経時的変化 18

4. 除神経後の三叉神経運動核におけるストレス蛋白の応答 21

5. 除神経後の傷害側三叉神経運動核神経細胞におけるRab24の発現 21

6. ミクログリア細胞株の樹立 25

考察

30

謝辞

37

参考文献

38

(5)

略語表

DAB: diaminobenzidine hydrochloride DL: dorsolateral

DMEM: Dulbecco’s modified Eagle’s medium DNA: deoxyribonucleic acid

FITC: fluorescein isothiocyanate

GDNF: glial cell line-derived neurotrophic factor GFAP: glial fibrillary acidic protein

GFP: green fluorescent protein

GLAST: glutamate aspartate transporter HRP: horseradish peroxidase

HSP27: heat shock protein 27

Iba-1: ionized calcium-binding adapter molecule-1 IGF: insulin-like growth factor

LAMP: lysosome-associated membrane glycoprotein LC3: microtubule-associated protein light chain 3 PBS: phosphate buffered saline

PFA: paraformaldehyde

SDラット: Sprague-Dawleyラット VM: ventromedial

(6)

要旨

緒言:近年、血管吻合を用いた再建術を行うことにより口腔外科領域における 進行癌の治療が可能になったが、いまだ長期的な機能的再建(咀嚼、嚥下、構 音)は困難である。その理由として、移植した筋皮弁に適切な神経支配が再生 されないことが挙げられる。これを克服するためには末梢レベルにおける軸索 の再生を図るとともに、中枢レベルにおける運動神経細胞死を防ぐことが必要 である。そこで本研究では第一に、成体ラット三叉神経運動枝除神経モデルを 作製し、免疫組織化学染色法を用いて、除神経後の三叉神経運動核の病理学的 変化を解析し、三叉神経運動核の変性過程および保護応答について検討した。

また、生体の脳内への遺伝子導入や薬剤送達のためにさまざまな方法が開発さ れているが、これらの手法には、標的細胞に特異的な送達が困難であることや、

侵襲度の高い外科手術を要するという短所があり、新たな手法の開発が望まれ ている。近年、ミクログリアを血中投与すると血液脳関門を破壊せずに脳特異 的に実質内に到達することが報告されており、さまざまな脳疾患の治療につな がる可能性が示されている。そのため、本研究では第二に、新しい細胞治療の 試みとしてミクログリアの細胞株を樹立し、その細胞生物学的性状について検 討した。

方法と結果: 雌成体ラット(体重:200 g-400 g)の左咬筋および側頭筋を摘出 後、灌流固定し、三叉神経運動核の細胞病理学的変化を経時的に検索した。術 後3日目で三叉神経運動核の神経細胞においてオートファジーのマーカーであ

る Rab24 の発現亢進を認め、神経細胞周囲にはミクログリアの集簇を強く認め

(7)

た。術後4週目をピークにアストロサイトの反応を認め、神経細胞におけるheat

shock protein 27(HSP27)の発現が亢進していた。術後8週目で傷害側三叉神経

運動核の萎縮を認めたが、神経細胞に central chromatolysisやアポトーシスは観 察されず、細胞死は明らかでなかった。同時期に synaptophysin に対する免疫染 色を施行したところ、傷害側三叉神経運動核に発現低下を認めたことから樹状 突起およびシナプスに変性が起きていると考えられた。

次に、ミクログリア細胞株を樹立するため、生後 3 日のラットの脳室下帯か ら初代混合培養細胞を準備し、SV40 large T 抗原遺伝子を導入して不死化させた。

増殖した細胞を剥離・分散し、Aclar filmを浸漬してこれに付着した細胞を分離 し、培養を継続した。さらに生体内での観察のために、これらの細胞に green

fluorescent protein (GFP)およびDsRed遺伝子を導入し、高発現細胞をクローニン

グすることによって蛍光標識を行った。細胞の純度を検定するために、形態学 的および免疫細胞化学的に検討した。

分離した細胞はほぼ均一な形態を示し、円形ないし多極性の細胞質内に多数 の空胞がみられるとともに、よく発達したラッフリングメンブレンを有し、ミ クログリアの形態的な特徴を示した。免疫組織学的にはほぼ全ての細胞がSV40 large T抗原およびミクログリアのマーカーであるionized calcium-binding adapter molecule-1(Iba-1)、CD11b、MHC class I、CD45に陽性であったが、CD68およ びアストロサイトのマーカーである glial fibrillary acidic protein(GFAP)と glutamate aspartate transporter (GLAST)には陰性であった。

(8)

神経損傷の中枢レベルへの影響の解析に有用であり、これまでほとんど知見の ない脳幹脳神経核の潜在的な再生能についての研究の材料として、将来の再生 医療の開発に寄与しうると考えられた。また、我々が樹立したラットミクログ リア細胞株は、脳病変部位に特定遺伝子を限局して発現させるデリバリーシス テムの開発、および多様な脳疾患の治療の開発に寄与し得る可能性がある。今 後は、ラット三叉神経運動枝除神経モデルを含む、さまざまな脳疾患モデル動 物への適用を検討していく予定である。

(9)

緒言

口腔外科治療では、しばしば頭頸部領域に大きな組織欠損を伴うことがあり、

日々の生活に必要不可欠な機能や顔面の形態も失うことが多い。口腔外科手術 後の血管吻合を用いた顔面・頚部の再建術を行うことで進行癌での治療が可能 になったが、筋皮弁に適切な神経支配が再建されないため、咀嚼、嚥下、構音 障害など、術後さまざまな機能不全を生じる(1-3)。また、末梢神経の再建につ いては、神経吻合や末梢神経の自家移植などが行われているが、これらの術式 を用いても再生された末梢神経は軸索の密度の減少や不完全な形態を示すこと が知られている。また、不完全な神経再建により筋萎縮が生じ、審美的・機能 的に不十分な再建となることが多い(4-6)。

これらの問題を解決するためには筋皮弁に適切な神経支配を再建することが 必要である。近年、末梢神経の再生にガイダンスチューブを用いることにより、

軸索の伸展に関しては良好な成績を修めている(7)。

一方で末梢神経に切断や、引き抜きなどの損傷を与えると、その末梢神経の 標的である筋肉およびその軸索を取り巻くシュワン細胞由来の神経栄養因子が 途絶えることにより長期的な変化として神経細胞死が起こることが知られてい る(8-12)。また、神経細胞の生存は末梢神経の再生に必要不可欠である。神経 細胞の生存は、神経栄養因子、神経系サイトカイン、インスリン様成長因子

(insulin-like growth factor: IGF)、グリア細胞由来神経栄養因子(glial cell line-derived neurotrophic factor: GDNF)などの栄養因子の投与により促進される

(10)

は、末梢における軸索伸展と中枢における神経細胞の保護および再生療法を組 み合わせることが必要であると考える。

現在までに、脊髄引き抜き損傷モデル、坐骨神経引き抜き損傷モデル、顔面 神経引き抜き損傷モデル、舌下神経切断モデルなどの動物モデルが作製され、

末梢神経損傷後の運動神経細胞変性過程が検討されているが、口腔外科手術後 の状態を模倣した三叉神経損傷モデルは存在していない(18-22)。

従って本研究では第一に、将来の再生戦略の一助とするために、成体ラット咬 筋、側頭筋の摘出により口腔外科手術後の状態を模倣した三叉神経運動枝の除 神経モデルを作製し、三叉神経運動核の変性過程をアストロサイト、ミクログ リアの反応を中心に、また神経細胞保護過程をストレス蛋白およびオートファ ジーに着目し、免疫組織化学的に検討した。

この先行研究の結果を受け、さらに三叉神経運動核変性に対する治療戦略を 開発すべく、以下の如く、ミクログリアに関する基礎的研究を行った。

ミクログリアを血中投与すると脳血液関門を破壊せずに脳特異的に実質内に到 達することが報告されている(23)。脳特異的に神経栄養因子を送達する運搬役 としてミクログリアを利用することによって、病変部位に遊走して液性因子を 放出させることや傷害を受けた細胞に細胞融合によって遺伝子導入させること が可能であり、さまざまな脳疾患の治療につながる可能性が示されている(23、 24)。我々の口腔外科手術後の状態を模倣したラット三叉神経運動枝除神経モデ ルでは傷害部位に術後 3 日目にミクログリアの増加、集積を確認しており、血 中より投与したミクログリアも脳病変部位に移行する可能性が高いと考える。

また、神経細胞の生存に重要な役割を果たす GDNF(25-27)などの神経栄養因

(11)

子は、経口または経静脈的投与を考えた場合、半減期が非常に短いことや脳血 液関門を通過できないことから(28、 29)、いかに脳病変部位に効率よく送達さ せるかが医療応用に向けて重要な課題である。そこでミクログリアが GDNF な どの神経栄養因子を脳病変部位特異的に送達させ、神経細胞温存療法に応用可 能かどうか確認するため、まずミクログリア細胞株を樹立することを試み、得 られた細胞の純度を検定するため形態学的、および免疫細胞化学的検討を行な った。

(12)

材料と方法

三叉神経運動枝除神経モデルの作製

全ての実験手技は九州大学大学院医学研究院動物実験指針に則り実施された。

本研究の研究材料は雌成体 Sprague-Dawley(SD)ラットを使用した。ネンブタ

ール(50 mg/kg)を腹腔内投与し麻酔をかけた後、左側側頭部から顎下部にかけ

て弧状切開を加え、左側咬筋および側頭筋を露出した。その後、出血を十分に 制御しながらこれら筋肉を完全に摘出した。

手術後のラットは補助なしで固形餌の摂食が可能であることを確認した。術 後1日、3日、5日、14日、28日、42日および56日(それぞれの時点で3頭)

で深麻酔後4% paraformaldehyde(PFA)/phosphate buffered saline (PBS)による 灌流固定を行い、脳を摘出し同じ固定液で4℃で24時間の浸積固定を行った。

免疫組織化学染色法

摘出した脳は凍結保護のため30% sucrose/PBSで置換し凍結切片を作製した。

三叉神経運動核を含む脳幹部を切り出した後 OCT コンパウンド (Tissue-Tek, Torrance, CA, USA)を用いて包埋し、−80℃に冷却した2-methylbutane中で急速 凍結させた。切片は 20 μm厚で、三叉神経運動核全体を網羅するように薄切し

た。Rab24 に対する免疫組織化学染色では、切片を PBS に浮遊させ 4℃で保存

した。術後それぞれの時点の切片にヘマトキシリン・エオジン染色を行った。

免疫組織化学染色は streptavidin-biotin complex 法、または Envision(DAKO, Glostrup, Denmark)を使ったenhanced indirect immunoperoxidase法を用いた。内

(13)

因性ペルオキシダーゼ活性除去のため、切片に 0.3%過酸化水素水を室温で 30 分反応させ、抗体の非特異的吸着を防ぐため5%正常ヤギ血清/PBSで一次抗体を 希釈し4℃で一晩反応させた。用いた一次抗体については(表1)に示した。発 色はdiaminobenzidine hydrochloride(DAB)を用い茶褐色の発色を陽性反応とし た。

細胞培養と遺伝子導入

生後3日目の新生仔SDラットを使用した。低体温麻酔後、脳を摘出し脳室下 帯よりcell strainer(BD Falcon, Flanklin, Lakes, NJ)を用いて初代混合培養細胞を 準備した。培養には神経細胞培養用基礎培地であるNeurobasal medium(Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)にB-27(GIBCO)、L-glutamine、ペニシリン/ストレプトマ イシンおよびアンホテリシンBを添加したものを用い、37℃、CO2濃度5%環境 下で培養を行った。

初代混合培養にSV40 large T 抗原をコードするプラスミドdeoxyribonucleic acid

(DNA)(東京大学菅野純夫教授より供与)をCalPhosTM Mammalian Transfection kit(Clontech, Mountain View, CA, USA)を使用し、リン酸カルシウム沈殿法で導 入した。その後、増殖した細胞を剥離・分散し、Aclar film(Nisshin, EM, Tokyo,

Japan)を2時間浸漬してこれに付着した細胞を分離し、PBSで2回洗浄した後、

Dulbecco’s modified Eagle’s medium(DMEM)にウシ胎児血清とペニシリン/スト レプトマイシンを添加した培地に移し、37℃、CO2濃度5%環境下で培養を継続 した。

(14)

さらに生体内での観察のために、これらの細胞に同様の方法でネオマイシン 耐性遺伝子を含むgreen fluorescent protein(GFP)およびDsRedをコードするプラ スミドDNAを遺伝子導入した。G418添加培地中で生存し、蛍光顕微鏡下にGFP

およびDsRedによる蛍光シグナルが確認された細胞のみを選択した。

免疫細胞化学染色

細 胞 はAclar film上 で 培 養 し 、0.1 M Hepes-KOHで 二 回 洗 浄 し た 後 、4%

PFA/Hepes-KOHで10分間、室温で固定した。抗体の非特異的吸着を防ぐため5%

ヤギ血清/PBSで一次抗体(表2)を希釈し4℃で一晩反応させた。二次抗体は fluorescein isothiocyanate(FITC)または Texas red標識二次抗体(Southern Biotech, Birmingham, AL, USA)を用いた。

(15)

表1 免疫組織化学染色に使用した一次抗体

抗体 宿主、クローン、供給元 希釈

synaptophysin抗体 ウサギ、polyclonal、 DAKO 1:100

Iba-1抗体 ウサギ、polyclonal Wako Pure

Chemical Industries 1:500

GFAP抗体 ウサギ、polyclonal、 DAKO 1:1000

HSP27抗体

ウサギ、polyclonal、愛知県コ ロニー研究所生化学部 稲熊 裕博士、加藤 兼房博士より 供与(30)

1:500

Rab24抗体 マ ウ ス 、monoclonalBD

Biosciences Pharmingen 1:500

表2 免疫細胞化学染色に使用した一次抗体

抗体 宿主、クローン、供給元 希釈

SV 40 large T抗原抗体 マウス、monoclonalSerotec 1:100

GFAP抗体 ウサギ、polyclonalDAKO 1:1000

GLAST抗体 マウス、monoclonalNovocastra 1:100

Iba-1抗体 ウサギ、polyclonalWako Pure

Chemical Industries 1:500

CD11b抗体 マウス、monoclonalSerotec 1:100

MHC class I抗体 マウス、monoclonalSerotec 1:100

CD45抗体 マウス、monoclonalSerotec 1:100

CD68抗体 マウス、monoclonal、Serotec 1:100

(16)

結果

三叉神経運動核の経時的病理変化

三叉神経運動核全体を網羅するように冠状断で連続切片を作製し、傷害側、

反対側それぞれにおいて神経核が最大面積を示すレベルで比較した。三叉神経 運動核の経時的病理変化を示す(図 1)。筋摘出後8 週目で反対側と比較し傷害 側三叉神経運動核の萎縮を認めた(図 1D、 H)。強拡大にて神経細胞に変性を

示すcentral chromatolysisや膨化した神経細胞は観察されなかった(図2A、B)

が、反対側と比較し傷害側三叉神経運動核神経細胞の形態が突起の少ない類円 型の形態を示す傾向にあった(図2A、B)。

傷害側三叉神経運動核での synaptophysinの発現の低下

Sumner らはウシガエルの除神経モデルにおいて除神経後傷害神経細胞に樹状

突起の収縮が起こり、その結果シナプス関連蛋白である synaptophysin の発現が 低下することを報告している(31)。そこで本モデルにおいてもsynaptophysinの 免疫組織化学染色を施行したところ、傷害側三叉神経運動核に synaptophysin の 発現低下を認めた(図2C、 D)。このことから傷害側三叉神経運動核の萎縮は、

運動神経細胞死よりも、樹状突起およびシナプスの変性によるものであること が示唆された。

(17)

(図 1)三叉神経運動核の経時的病理変化

左側咬筋、側頭筋摘出後 2週間(A、E)、4週間(B、F)、6週間(C、G)および 8週間

D、H)の三叉神経運動核の変化をH&E染色で示す。摘出側が(A、B、C、D)で、反

対側が(E、F、G、H)である。術後6週間までは三叉神経運動核に組織学的な変化は認

められないが、術後 8週間で傷害側三叉神経運動核に萎縮がみられる。Bar= 100 μm

(18)

(図 2)筋摘出後 8週目の神経細胞の形態学的な変化およびsynaptophysinの発現低下 術後 8週目の形態学的な変化(A、B)およびsynaptophysinに対する免疫組織化学染色の 結果を示す。傷害側神経細胞は反対側(B)と比較し、突起の少ない類円形の形態を示す 傾向にある(A)。また、反対側(D)と比較し傷害側神経細胞体周囲に著明なsynaptophysin の発現低下を認める(C)。Bar= 30 μm

(19)

ミ ク ロ グ リ ア お よ び ア ス ト ロ サ イ ト の 反 応 に 着 目 し た 除 神 経 後 の 三 叉 神 経運動核内の経時的変化

除神経後、運動神経細胞周囲に反応性アストロサイトやミクログリアの集簇 がみられ、グリア細胞が運動神経細胞の再生過程に影響を及ぼしていることが 報告されている(32)。そこでアストロサイトのマーカーである GFAP、ミクロ グリアのマーカーであるIba-1に対する免疫組織化学染色を施行した。術後2週 間目より GFAP の発現が上昇しており、アストロサイトが多極性に突起を伸長 し胞体が肥大していた(図3)。またその反応は術後4週目がピークであった(図 3B)。術後3日目で傷害側三叉神経運動核に Iba-1 陽性細胞が高密度で集簇し、

傷害神経細胞周囲に突起を伸張していた(図4A)。

(20)

(図 3)咬筋、側頭筋摘出後の三叉神経運動核におけるアストロサイトの反応

術後 2週間(A、C)、4週間(B、D)での三叉神経運動核における glial fibrillary acidic protein

GFAP) に 対 す る 免 疫 組 織 化 学 染 色 の 結 果 を 傷 害 側 (A、B) と 反 対 側 (C、D) を 比 較 して示す。アストロサイトの反応は術後 2週間で観察され(A)、その反応は術後 4週間 でピークを迎えている(B)。Bar= 30 μm

(21)

(図 4)咬筋、側頭筋摘出後の三叉神経運動核におけるミクログリアの反応

術後 3日目の Iba-1に対する免疫組織化学染色の結果を傷害側(A)、反対側(B)と比較

して示す。術後 3日でミクログリアの反応はピークを迎え、傷害側神経細胞(N)に突起 を伸長する様子が認められる(A)。Bar= 30 μm

(22)

除神経後の三叉神経運動核におけるストレス蛋白の応答

近年、熱ショックや酸化傷害などさまざまなストレスから細胞を保護するた めに熱ショック蛋白が誘導されることが知られている(33、34)。特に、シャペ ロン蛋白として知られている低分子量 HSP27は、さまざまな傷害に対して発現 が増加することが報告されている(35-37)。除神経後の傷害側脊髄後角おいて

HSP27 の発現上昇を認める報告があること(19、35)から、本モデルにおいて

HSP27 に対する免疫組織化学染色を施行した。正常コントロール群において弱

い HSP27の発現は運動神経細胞体、神経突起、アストロサイトおよび上衣細胞

において認められることがわかっている(38)。反対側と比較し、傷害側三叉神 経運動核において術後 2-8 週間を通して背景の神経突起網および神経細胞体に

HSP27の発現亢進が認められた(図5)。また、その発現は術後4週目がピーク

であった(図5C)。加えて、術後2-8週間を通し、傷害側三叉神経運動核の内側 に比し外側でより強い HSP27の発現が認められ、核内における局所的な発現レ ベルの違いが認められた(図6)。

除神経後の傷害側三叉神経運動核神経細胞における Rab24の発現

近年、舌下神経の除神経モデルにおいて、傷害側の舌下神経核神経細胞にオ ートファジーが生じており、神経細胞生存および軸索再生に必要なアミノ酸の 補充を行っているとの報告がある(22)。そこで本モデルにおいてもオートファ ジーのマーカーである Rab24 の発現について免疫組織学的に検討した。反対側 三叉神経運動核神経細胞にもごく弱い発現であるが Rab24 陽性反応を認めた。

術後 3 日目において傷害側三叉神経運動核の神経細胞において劇的な Rab24 の

(23)

発現亢進が観察された。強拡大において Rab24 の発現は核周辺部に認めた。こ れは従来報告されているオートファゴソーム、およびオートライソソームの局 在と一致していた(22)。

(24)

(図 5)咬筋、側頭筋摘出後の傷害側三叉神経運動核における HSP27の発現上昇 術後4週目の三叉神経運動核におけるHSP27に対する免疫組織化学染色の結果を示す。

反対側(B)に比較し傷害側(A)に HSP27の発現上昇を認める。Bar= 100 μm

(図6)傷害側三叉神経運動核におけるHSP27の発現の不均一性

筋摘出後 2週間(AE)、4週間(BF)、6週間(CG)及び 8週間(DH)の傷害 側三叉神経運動核の外側領域(ABCD)と内側領域(EFGH)の HSP27に対 する免疫組織化学染色の結果を示す。術後 2-8週間を通して内側領域と比較し、外側領域 に強い発現を認める。Bar= 30 μm

(25)

(図 7)咬筋、側頭筋摘出後の傷害側三叉神経運動核における Rab24の発現上昇

筋摘出後の 3日目の三叉神経運動核の Rab24に対する免疫組織化学染色の結果を示す。

反対側(B)と比較し、傷害側(A)に顕著なRab24の発現を認める。Bar= 50 μm

(26)

ミクログリア細胞株の樹立

咬筋および側頭筋摘出後に三叉神経運動核が傷害される事が示されたため、

三叉神経運動核保護療法の検討が必要であると考えられた。そこで、新しい脳 特異的治療因子送達法の試みとして、ミクログリアを治療因子の運搬役に用い た送達法を検討するために、ミクログリア細胞株を樹立した。(材料と方法参照)。 分離した細胞はほぼ均一な形態を示し、円形ないし多極性の細胞質内に多数の 空胞がみられるとともに、よく発達したラッフリングメンブレンを有し、ミク ログリアの形態的な特徴を示した。(図8)。

次に、SV40 large T抗原遺伝子導入細胞が選択されているかを確認するために

分離した細胞におけるSV40 large T抗原の発現を免疫細胞化学的に検討した。得 られた全ての細胞にSV40 large T抗原が陽性であり、継代培養の結果、SV40 large T抗原遺伝子非導入細胞は死滅し、導入細胞のみが選択されたと考えられた(図 9)。

また、得られた細胞がミクログリア由来であるかどうかを確認するためにミ クログリアの特異的マーカーであるIba-1の発現を免疫細胞化学的に検討したと ころ、全ての細胞がIba-1陽性であった(図10A)。この結果よりミクログリア由 来細胞株が得られたと考えられた。さらに、ミクログリア特異的な機能分子の 発現を確認するため、CD11b、MHC class I、CD45、CD68に対する免疫細胞化学 染色を行った。得られたミクログリア由来細胞株はCD11b(図10B)、MHC class I(図10C)、CD45(図10D)に強陽性を示し、CD68には陰性であった(図10E)。 アストロサイトの混入を検討するため、GFAPおよびGLASTに対する免疫細胞化 学染色を行ったが、全ての細胞が陰性であった(図11)。また、生体内での観察

(27)

のためにGFPまたはDsRedを遺伝子導入し、蛍光標識されたサブクローンを得た

(図12)。

(28)

(図 8)位相差顕微鏡による得られた細胞の形態学的特徴 位相差顕微鏡にて得られた細胞の形態を示す。Bar= 100 μm

(図 9SV40 large T抗原の検出

SV40 large T抗原に対する免疫細胞化学染色の結果を示す。免疫染色で全ての細胞に SV40

large T抗原の発現を認める(左)。右図は DAPIによる核染。Bar= 100 μm

(29)

(図 10)ミクログリアマーカーに対する免疫細胞化学染色

Iba-1、CD45、MHC class I、CD11bに強陽性であり、CD68には陰性である。Bars= 100 μm

(30)

(図 11)アストロサイトマーカーに対する免疫細胞化学染色

GFAPA)と GLASTB)に対する免疫細胞化学染色を示す。一部に非特異的反応がみ

られるが、全ての細胞で陰性であると判定した。Bars= 100 μm

(図 12GFPまたは DsRedによる蛍光標識

GFPA)または DsRedB)を遺伝子導入し蛍光標識した。Bar= 200 μm

(31)

考察

本研究は成体ラット咬筋、側頭筋摘出後、三叉神経運動核に緩徐な変性が起こ ることを明らかにした。末梢神経近位軸索損傷(引き抜き損傷)モデルと末梢 神経遠位軸索損傷(軸索切断)モデルを比較すると末梢神経引き抜き損傷モデ ルの方が、当該運動ニューロンが著明に変性脱落することが報告されている

(21)。このことから、本研究の咬筋、側頭筋摘出による除神経モデルでみら れた三叉神経運動核の緩徐な神経変性は遠位軸索損傷モデルに準じたものであ ると考えられる。引き抜き損傷と軸索切断の違いの生物学的基盤については、

引き抜き損傷では神経切断と異なり末梢神経部分が中枢側から完全に除去され るため、より近位での軸索傷害とともにシュワン細胞が失われることによる神 経保護因子供給の枯渇によって、より重篤なニューロンの変性が生じると考え られている(21)。また、軸索切断と引き抜き損傷を起こした当該神経細胞の 遺伝子の発現パターンが異なることにより細胞死に及ぼす影響も異なることも 報告されている(39)。

過去の報告において、咬筋神経切断により三叉神経運動核神経細胞に変性が 起こることが示されている(40、 41)が、組織学的な変化については報告がな い。そこで、我々はただ神経を切断するのではなく、咬筋、側頭筋を完全摘出 することにより口腔外科手術後の状態を模倣したラット除神経モデルを作製し た。

本モデルにおいて術後 3 日目にミクログリアの反応がピークを迎え、ミクロ

(32)

た。これはsynaptic strippingと呼ばれ、ミクログリアの突起が当該神経細胞の樹 状突起や神経細胞体からシナプス前終末を乖離させている像と考えられている。

軸索切断後に神経細胞にみられる退行性変化の特徴の一つであり、軸索切断後 2-3 日以内に活性化ミクログリアが突起を伸長し傷害神経細胞体を堅く取り囲 むことにより生ずる(42)。これは、ミクログリアが活性化し傷害後の神経細 胞の生存に重要な働きを果たしている姿であると考えられている(43)。本モデ ルにおいてもミクログリアが傷害神経細胞の生存に寄与している可能性が示さ れた。

軸索切断後のHSP27の発現は神経細胞の保護に寄与すると考えられている(19、 35)。咬筋、側頭筋摘出後 2-8週間を通して傷害側三叉神経運動核の神経突起網 および神経細胞に HSP27の発現上昇を認めたことから、傷害三叉神経運動核神 経細胞に神経細胞死に対する保護過程が起きているものと考えられた。

ラットの三叉神経運動核は通常、吻尾側方向に核全体に延び、外背側を占める 外背側領域(DL)と、核の尾側方向3分の2におよび内腹側を占める内腹側領 域(VM)に分けられる。DL では、主に閉口筋に投射する運動神経細胞が、大 きく咬筋浅部領域、咬筋深部領域、側頭筋領域、内側翼突筋領域、外側翼突筋 領域に、VMでは、開口筋に投射する運動神経細胞が、顎二腹筋前腹領域、顎舌 骨筋領域に区分されて分布することが知られている(44)。本研究において

HSP27 の発現の上昇は DL でより顕著に認められ、摘出した咬筋および側頭筋

の支配領域に一致して保護機序の応答が生じていると考えられた。

Rab24もまた本モデルにおいて傷害側運動神経細胞に誘導された。最近の研究

により飢餓状態にRab24-green fluorescent protein(GFP)の融合蛋白がオートフ

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ァゴソームに集積することがわかっており、酵母蛋白 Apg8/Aut7 の哺乳動物の 相同分子であるmicrotubule-associated protein light chain 3(LC3)と共局在を示す ことから、Rab24はオートファジー経路に関与する分子であることが示唆されて いる(45、46)。オートファジーの機能は自己成分を分解し、生命活動に必要な 栄養のリサイクルや生存に必要なアミノ酸のリクルートを行なうことである。

軸索傷害刺激に対して運動神経細胞は神経細胞保護分子および神経線維再生に 必要な分子の合成を始める。これらの反応には莫大なアミノ酸とエネルギーが 必要であり、オートファジーによるアミノ酸のリサイクルが行われている可能 性がある。Egamiらは舌下神経切断モデルにおいて傷害後、傷害側舌下神経核に

Rab24の発現が上昇することを示し、神経細胞保護、または再生の過程にオート

ファジーが関与している可能性を示した(22)。本モデルでみられた咬筋、側頭 筋摘出後のRab24の発現も、同様の機序が生じていることを示唆する。

末梢神経傷害後の影響はラットモデルとマウスモデルの間で違いが認められ ることが知られている。例として、成体C57BL/6マウスとWisterラットとの比 較において、舌下神経損傷後 8 週目には、マウスでは生存している運動神経細 胞が 20%にまで減少するのに対し、ラットではほぼ全ての細胞が生存していた との報告がある(47)。本研究のモデルでは、傷害側三叉神経運動核で、神経突 起の変性に起因すると思われる萎縮が認められたが、当該ニューロンの明らか な細胞死は認められなかった。軸索切断後の運動神経細胞の変性の程度の違い が生物種間で違うことを考えると、今後剖検症例の検討などを通じて、ヒトに おける神経損傷後の運動神経核の病理学的変化を検討する必要があると考えら

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本研究で得られた結果より、咬筋、側頭筋摘出後 8 週間で傷害側三叉神経運 動核の神経細胞において萎縮、および synaptophysin の発現低下がみられたこと から、変性変化が起きていることが示唆された。また、グリア細胞の反応、HSP27 の発現上昇とオートファジーが観察されることから保護的応答が起こっている ことが示唆された(図13)。

退行性変性モデルとして、本モデルの病理学的所見は、現在までに報告され ているラット末梢神経遠位軸索切断モデルの病理学的所見に準ずるものであり、

口腔外科手術後の神経保護、および神経再生戦略を開発し、病理学的変化をよ り理解するために有用なモデルであると考える。

(35)

(図 13)支配筋摘出後の傷害側三叉神経運動核の病理学的変化および保護応答

筋 摘 出 後 3 日 目 を ピ ー ク に 傷 害 側 三 叉 神 経 運 動 核 に ミ ク ロ グ リ ア の 反 応 、 お よ び Rab24 の発現亢進を確認した。2週間目よりアストロサイトの反応、HSP27の発現を認め、4週 目 を ピ ー ク に 、 そ れ ぞ れ の 反 応 お よ び 発 現 が 徐 々 に 減 弱 し て い く の を 確 認 し た 。 ま た 、 筋摘出後 8週目で傷害側三叉神経運動核の萎縮を認めた。

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生体に遺伝子を導入するさまざまな方法が開発されており、既に臨床試験が 行われているものもある。今日、最も広く受け入れられている方法のひとつと してレトロウィルスを用いた遺伝子導入法がある。この方法は宿主の染色体に 導入遺伝子を組み込ませ、永久的に遺伝子を発現させることができるものであ るが、標的細胞特異的な感染の制御が困難であることやウィルスの持つ強い抗 原性により再投与が困難であることなど欠点も挙げられる(48、49)。他にも電 気穿孔法(50)やヒト免疫不全ウィルスを基盤とした遺伝子導入法が開発され、

高い効率で遺伝子導入させることが可能であるが、いずれの方法も侵襲度の高 い外科手術が必要となる。Sawadaは、非侵襲性で脳特異的に薬剤投与、および 遺伝子導入を行う方法としてミクログリアの血中投与による脳特異的薬剤また は遺伝子送達システムを提唱している(24)。そこで本研究ではこのシステムの 有用性を検討するために、ミクログリア細胞株を樹立し、形態学的および免疫 細胞化学的に検討した。得られたミクログリア細胞株はミクログリア特異的マ ーカーであるIba-1、インテグリンを示すCD11b、MHC class I、白血球共通抗原 であるCD45に強陽性であり、lysosome-associated membrane glycoprotein(LAMP) ファミリーに属すCD68が陰性であったことから、貪食能力よりも強い接着能を 有し、抗原提示能力を維持したミクログリア株であると考えられた。

我々が樹立したミクログリア細胞株は脳の病変部位に特定遺伝子を限局して 発現させる送達システムの開発、およびさまざまな脳疾患の治療の開発に寄与 し得る可能性がある。現時点において、ミクログリアが中大脳動脈塞栓症モデ ルにおける神経保護作用(51)、グリオーマモデルにおける腫瘍細胞毒作用を有 していることも報告されている(52)。今後は本研究で確立したラット三叉神経

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運動枝除神経モデルを含むさまざまな脳疾患モデル動物への適用を検討してい く予定である。

最終的な目標はヒトへの応用であるが、そのためにはヒトミクログリアを分 離する必要がある。近年、骨髄におけるミクログリア前駆細胞の存在が示唆さ れており(53)、骨髄よりこの細胞を分離、増殖させることができれば、この細 胞を用いた治療が現実化するかもしれない。

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謝辞

稿を終えるにあたり、この様な研究の機会を与えて頂きましたと共に終始御懇 篤なる御指導、御校閲を賜りました九州大学大学院医学研究院神経病理学分野 岩城徹教授ならびに九州大学歯学研究院口腔顎顔面病態学講座中村誠司教授に 深甚なる謝意を表します。また終始実験の御指導を頂きました九州大学医学研 究院神経病理学分野鈴木諭准教授に謹んで謝意を表します。また、研究へのご 協力ならびに励ましを頂きました九州大学医学研究院神経病理学分野、九州大 学大学院歯学研究院口腔顎顔面病態学講座の教室員のみなさまに深く感謝致し ます。

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対応可能です。 1台のDMP 64 Plus ATモデルは、ネットワーク経由

Zlehen(ユ934)57>の記載を参考して,両原形質突起閥

さらに、NSCs に対して ERGO を短時間曝露すると、12 時間で NT5 mRNA の発現が有意に 増加し、 24 時間で Math1 の発現が増加した。曝露後 24

NGF)ファミリー分子の総称で、NGF以外に脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフ

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