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8.1 中国語と日本語の複合動詞の形態統語論的相違点

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Academic year: 2021

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(1)

第八章 結語

 本論文では、中国語の結果複合動詞を軸に、中国語の結果複合動詞の意味と統語、

そして、日本語の結果複合動詞及び英語の結果構文との対照から、中国語・日本語・

英語の類型論的な共通点と相違点について、論考を重ねてきた。以下、いくつかの 観点から、結論を述べる。

8.1 中国語と日本語の複合動詞の形態統語論的相違点

 中国語も日本語も共に複合動詞が存在するが、複合動詞形成のメカニズムは、異な る部分が大きい。形態的特徴という基準でみれば、中国語が孤立語的特徴をもち、日 本語が膠着語的特徴をもつからである。また、語順という基準からみても、中国語は SVO語順、日本語はSOV語順と全く異なっている。こうした類型的な相違は複合動 詞の形成メカニズムにどのような相違をもたらすのだろうか?

 まず、孤立語対膠着語という形態的特徴の相違は、複合動詞形成上の制約と深く関 わる。孤立語的特徴をもつ中国語は、動詞の自他の形態的区別、形容詞・動詞の形態 的区別、そして主格・対格の形態的標識が存在しない。このため、複合動詞形成上の 形態統語論的な制約から自由である。一方、膠着語的特徴をもつ日本語には、

動詞の自他の形態的区別、形容詞・動詞の形態的区別、そして主格・対格の形態的標 識が義務的に表示されなければならない。形態的区別があるからこそ、動詞の自他、

格標識という、ヴォイス上の形態的一致が必要になる。第三章及び第四章で考察した

「他動性調和の原則」「主語一致原則」は、日本語がこうしたヴォイス上の形態的一致 を複合動詞形成において必要とすることに帰結する原則である。

 第一章で挙げた中国語と日本語の結果複合動詞が相違する例は、こうした形態統語 論的な制約の有無が生み出す相違である。ここで、第一章であげた(8)〜(12)の例を、(1)

〜(5)として再録しよう。

(1)a.太郎 把蚊子 拍死 了。

Tailang ba wenzi 太郎   BA 蚊

pai−si      le.

叩く一死ぬ  LE      215

(2)

 b.太郎は、蚊を叩き殺した。

(2)a.太郎 把大樹 欲倒 

了.

   Tailang  ba  dashu   kan−dao       le

   太郎   BA 大木  切る一倒れる LE   b.太郎は、大木を切り倒した。

(3)a.オー介月,太郎 就把這劫鮭 穿遮

   Cai yigeyue, Tailang  jiu  ba  yundongxie chuan−po    le.

   たった一ヶ月太郎   すぐ BA  運動靴   履く一破れる   b.太郎は、運動靴をたった1ヶ月で履きつぶした。

(4)a.太郎   把  蜻畑  吹廻     了。

  Tailang  ba  lazhu  chui−xi      le.

  太郎  BA 蝋燭  吹く一消える LE   b.太郎は、蝋燭を吹き消した。

(5)a.我 終干   把 槍文     写完     了。

  Wo zhongyu ba lunwen   xie−wan    le

   私やっとBA 論文  書く一終わるLE

  b.私は論文を書き終えた。

了。

LE

 (1)から(5)のく拍匹〉(叩き殺す)、〈歓倒.〉(切り倒す)、〈穿醒〉(履きつぶす)、

 〈吹偲〉(吹き消す)、〈写完〉(書き終える)は、中国語では、V2が自動詞であるの に対し、日本語では、「〜殺す」「〜倒す」「〜つぶす」「〜消す」「〜終える」とV2が 他動詞であるという顕著な対照がある。これは、日本語においては、他動性調和の原 則に基づき、「他動詞+他動詞」の組み合わせになるのに対し、中国語の結果複合動詞 の鋳型においては、V2が原則として状態変化を表す自動詞又は形容詞であるという違 によるものである。

 次に、中国語がSVO語順、日本語がSOV語順という相違は、中日語間の補文型複 合動詞の内部構造の相違をもたらす。まず、中国語はSVO語順であるために、目的語 補文は、動詞の後に来る。例えば、

216

(3)

(6)a.剛オ  ⌒L,現在  告垢 弥  咀。

   Gangcai wang le shuo, xianzai  gaosu  ni    ba.

   さっき 忘れるLE話す  今   言う あなた 〜ようか  b.さっき話すのを忘れたから、今お話しますね。

 c.さっき話し忘れたから、今お話しますね。

 (6a)の中国語では、<忘wang>の目的語節は、 []に入れたく説shuo>で、主語及び 目的語が省略された目的語節となっている。中国語では、目的語節は動詞の後ろにく る。一方、日本語では、目的語節は動詞の前にくるため、(6b)のように「話すのを忘 れる」となるが、これが複合動詞化したものが、(6c)のような「話し忘れる」で、こ の複合動詞の語順は日本語のOV語順を反映した語順である。ちなみに、

中国語では、「〜忘れる」は複合動詞化されない。もし、<Vl+忘wang>という形式が あるならば、それは、「V1の結果、何かを忘れる」という因果関係として意味解釈さ れる。なぜなら、目的語節は中国語では、動詞の前にこないため、こうした語順で日 本語の「〜し忘れる」というような意味を表すことができないからである。

 中国語と日本語の補文型複合動詞の内部構造の相違は、以下のような鋳型の相違に

帰結する。

(7)a.中国語の補文型結果複合動詞の内部構造(時間順による語順)

 V1

先行事象

 V2

結果事象

 一完wan(Vlの結果、終わる/V1し終わる)

 一尽jin(v1の結果、 v1が極限に達する/Vlし尽     くす)

 一光guang(Vlの結果、対象がなくなる/Vlし切      る)

 一漏lou(V1の結果、もれがある/Vlし落とす、

    Vlしそこなう)

 一措cuo(Vlの結果、間違いだとわかる/〜し間違う)

     217

(4)

b.日本語の補文型結果複合動詞の内部構造(OVによる語順)

 Vl

V2の目的語補文の動詞

〜V1ということを

 V2

+主動詞  V2する

〜終わる(e.g.書き終わる、読み終わる)

〜尽くす(e.g.書き尽くす、考え尽くす)

〜切る(e.g.食べ切る、飲み切る)

〜落とす(e.g.書き落とす、読み落とす)

〜そこなう(e.g.言いそこなう、食べそこなう)

〜間違える(e.g.書き間違う、言い間違う)

 このような鋳型の相違により、中国語では、結果事象として捉えられる場合は、

(7a)のように、日本語の補文型複合動詞と対応する結果複合動詞が存在するが、

結果事象として捉えられないような場合、例えば「〜し始める」「〜し続ける」「〜し 直す」「〜し忘れる」といった非常に生産性をもつ日本語の補文型複合動詞には、中国 語では複合動詞として表すことができない。

8.2 主語指向型結果述語と脱使役化:「なる」的言語との関わり

 中国語と日本語の複合動詞は、形態統語論的に8.1で述べたような相違点があるが、

その一方で、ともに主語指向型結果述語が存在するという点で、共通点をもつ。主語 指向型結果述語には、中国語及び日本語ともに、結果複合動詞全体の脱使役化を経て 状態変化を被る対象を主語におく型と、V2が主語の生理的・心理的状態変化を表す型 の二つの型がある。

(8)結果複合動詞全体の脱使役化を経て状態変化を被る対象を主語におく型   「打ちあがる、積み重なる、組み合わさる」

   <芙湿ku−shi、城唖han−ya、穿破chuan−po>

(9)V2が主語の生理的・心理的状態変化を表す型

  「〜疲れる、〜くたびれる、〜飽きる、〜慣れる、〜ほれる」

      218

(5)

〈〜累lei(〜疲れる)、〜賦ni(〜飽きる)、〜慣guan(〜慣れる)〉

 形態統語論上の制約が適用される日本語の複合動詞においては、(8)は「他動性調 和の原則」及び「主語一致原則」の例外、(9)は「他動性調和の原則」の例外となるに もかかわらず、なぜ日本語は主語指向型結果述語を許すのであろうか。この現象は、

状態変化を被る対象を主語におく表現型を好むという個別言語的な特性が、「他動性調 和の原則」や「主語一致原則」よりも優位に立った現象と思われる。

 一方、英語においては、結果構文においても、SVOCという使役起動型が基本で、

動作主又は原因が意味的に存在する場合、それを主語として具現化させる、という表 現型が無標である特性をもっている。この相違は、英語が「する」的、日本語が「な

る」的であるという従来の指摘に、さらに根拠を与える現象となる。

 中国語の場合も、日本語のように形態統語論的な制約がないとはいえ、使役他動詞 を形成するために形成した結果複合動詞を、なぜ再び自動詞化するような脱使役化現 象がおこるのだろうか。これは、中国語も、日本語と同様、状態変化を被る対象を主 語におき、結果状態だけを表現する表現型を好む「なる」的言語としての特性をもっ ているからだと思われる。

8.3 中国語結果複合動詞の特徴

 中国語の結果複合動詞には、使役化と脱使役化という二つの相反する現象がみられ る。中国語動詞における使役化は、状態述語(V2)の前に行為動詞(V1)を複合させる ことによっておこり、他動詞か否かを決定しているのは、V1であるため、従来中国語 学の分析では、V1が中国語の結果複合動詞の自他を決定している主要部であるという 分析が主流を占めている。しかし、本論文の第五章及び第六章において、結果複合動 詞がVl及びV2よりどのように項を受け継いでいるかを検証してみると、Vlの動作 主は、結果複合動詞全体の項構造には引き継がれないような脱使役化現象があること が観察され、結果複合動詞の項構造を決定しているのは、Vlではなく、V2であるこ

とを示した。

 中国語の結果複合動詞における主要部の位置は、日本語の複合動詞では、右側が主 要部というような画一性を以って決められるものではない。統語的視点からすれば、

      219

(6)

中国語は、SVO語順で、動詞句の主要部が左であるから、句の構造が語の構造に反映 するという一般原則を考えるならば、複合動詞の主要部の位置も左といえる。しかし、

その一方で、意味的な視点からみれば、結果重視型で項の受け継ぎを決定している部 分や、行為に完結性を与える部分が右側であるから、主要部の位置は右ということに

なる。

 本論文で論考した中国語の結果複合動詞の特徴を考えると、中国語が「なる」的言 語の特徴を備えていることを強く示唆するようである。第一の根拠として、中国語の 語彙的使役化が、「状態→変化→使役」と、状態述語を基本とした使役化であることが 挙げられる。第二に、中国語の結果複合動詞の項の受け継ぎが、V2優先であり、V1 の動作主はしばしば具現化されないことが挙げられる。第三に、状態変化使役構文で ある結果複合動詞が、ある一定の意味条件のもとに脱使役化されうる、という現象が あげられる。第四に、主語指向型結果述語が中国語に許されるのも、状態変化を被る 対象を主語におくことに起因する。第五に、中国語の結果複合動詞の起源が、<刺殺 ci−sha>のように、「他動詞+他動詞」の事象の時間順の並列構造であったのに、 V2が他 動詞から非対格動詞へと歴史的変遷を遂げたという現象も、脱使役化現象とみなすこ

とができ、中国語の「なる」的特質を反映するものと思われる。

 こうした中国語の「なる」的特徴は、本論文で行った統計的調査によっても裏付け られる。即ち、中国語の結果複合動詞文のうち、「動作主」「原因」主語の他動詞文 1,314用例中554例(42.1%)であるのに対し、「対象」「経験者」主語の自動詞文・受身 文が1,314用例中760例(57.8%)と多かったことを示したが、こうした統計からも、中 国語がTai(1984,2003)が主張する「対象指向」(Patient−Oriented)型、すなわち「なる」

型言語としての性質の反映であることを示した。

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