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第二十章 責任能力

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〔翻 訳 〕

クラ ウ ス ・ロ ク シ ン 『刑 法 総 論 』 第 一 巻(第 三 版)〔 十一 〕

ク ラウス ・ロク シ ン 著 吉 田宣 之/秋 山栄 一 訳

第二十章 責任能力

文献:省略

A.成 人 の 責 任 能 力

第一節 法律規定 の基礎

1立 法 者 は 、 刑 法 上 の不 法 を実 現 す る成 人 に は 、 通 常 、 責 任 能 力 が 存 在 す る 、 と考 え て い る。 そ れ 故 、 立 法 者 は、‑少 年 の 場 合 とは 異 な っ て (Rn.51参 照)‑責 任 能 力 を規 定 す る の で は な く、 そ の 能 力 の例 外 的 な 欠 如 を規 定 して い る 。 す な わ ち 、 責 任 無 能 力 で あ る(20条)。20条 の規 定 は 、 二 段 階 に構 成 され て い る 。 第 一 段 階 で は 、 病 的 精 神 障 害 、 根 深 い 意 識 障 害 お よ び 精 神 遅 滞 並 び に重 い 精 神 的 変 性(Abartigkeit)と い う四 つ の 精 神 病 理 学 上 の 所 見 を列 挙 して い る 。 こ れ らの 所 見 の うち の 一 つ が 確 定 さ れ た 場 合 に 、 は じめ て 、行 為 者 は、 そ れ 故 、 「行 為 の 不 法 を弁 別 す る能 力 が あ る の か 、 あ る い は この 弁 別 に従 っ て行 為 す る能 力 が あ る の か 」 を 、 「第 二 段 階」 で 検 討 し、 決 定 す る の で あ る。

2そ の場 合 に は 、 伝 統 的 に、 責 任 無 能 力 を確 定 す る 生 物 学 的‑心 理 学 的 方 法 に つ い て論 じ られ る 。 そ の 基 礎 に は 、第 一 に 、一 定 の 器 質 的(「 生 物 学 的 」)所 見 が 確 定 され な け れ ば な らず 、 そ れ に続 き、 「心 理 学 的 」 弁

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桐 蔭 法学16巻2号(2010年)

別 能 力 あ る い は 抑 制 能 力 が そ の こ と に よ っ て 排 除 さ れ て い る の か が 検 討 さ れ な け れ ば な らな い 。 け れ ど も、 こ れ に よ っ て は 、 責 任 無 能 力 の 所 与 性 が ま だ正 し く特 徴 づ け られ て い る わ け で は な い 。 とい うの は 、 多 く の 意 識 障 害(例 え ば 、 強 度 の 情 動 、通 常 の心 理 学 的精 神 遅 滞 お よ び 重 い 精 神 的 変 性 、 そ の 変 性 は、 と りわ け 、 精 神 病 質 、 神 経 症 並 び に性 欲 異 常 (Triebanomalien)を 包 含 して い る の で あ る が)は 、 少 な く と も身 体 的 一 器 質 的(「 生 物 学 的 」)な 欠 落 現 象 に基 づ く と は限 らな い か らで あ る 。 ま た 、 他 行 為 の 能 力 を確 定 す る こ と は、 上 述 の よ う に(第19章,Rn.37

‑42) 、単 な る 心 理 学 的所 与 性 な の で は な く、 本 質 的 に 、 あ る 規 範 的 な 設 定 に も基 づ い て い る か らで もあ る 。そ れ 故 、今 日、文 献 にお い て は 、種 々 に 「心 理 的‑規 範 的」 あ る い は 「心 理 学 的‑規 範 的 」 方 法 につ い て 論 じ ら れ て い る 。 そ れ は 、 以 前 の議 論 よ り も良 くは な っ て い る が 、 事 実 を未 だ 厳 格 に捉 え て い る と は い え ない 。 実 際 、ま た 、心 理 学 的 欠 陥 状 態 は 、「重 い 」 とか 「根 深 い 」 とい う要 素 が 知 らせ る よ う に 、 評 価 的(規 範 的)特 徴 な く して は 必 ず し も確 定 可 能 で は な い 。 他 方 、規 範 的 対 応 可 能 性 を決 定 す る 基 準 と して の弁 別 能 力 お よ び抑 制 能 力 は 、 少 な く と も こ こで 主 張 さ れ た 見 解 に従 え ば 、純 粋 に規 範 的 に書 き加 え られ た もの(Zuschreibung) に基 づ い て い るの で は な く、 む しろ 経 験 的 一 心 理 学 的 基 礎 を持 つ の で あ る(第19章,Rn.36〜42参 照)。 そ れ 故 、二 つ の 「段 階」 は 、等 し く、「心 理 学 的‑規 範 的 」 行 動 を要 求 す る 。 そ の 結 果 、 二 つ の 検 討 の 歩 調 を異 な る方 法 論 に よ っ て特 徴 づ け る と い う手 法 は放 棄 され る こ とが 、 む しろ望 ま しい 。

3精 神 病 理 学 上 の 連 結 観 点 で あ る今 日の 規 定 は、 「精 神 医 学 的 」 疾 病 概 念 と 「法 律 学 的 」 疾 病 概 念 との 間 で の 論 争 の 成 果 で あ り、 ま ず 、 立 法 史 を背 景 と し て は じめ て 理 解 が 可 能 と な る。1974年 の 終 り ま で 有 効 で あ っ た 旧 総 則51条 は 、 「意 識 障 害 」、 「精 神 活 動 の 病 的 障 害 」 お よ び

「精 神 薄 弱 」 とい う三 つ の 精 神 病 理 学 上 の 要 素 を 含 む も の で あ っ た。 実 際 的 に、 最 も際 立 っ た 「精 神 活 動 の 病 的 障 害 」 の 事 例 は 、 影 響 力 の 強 いKurt  Schneider学 派 に よ っ て 次 の よ う に 理 解 され た 。 す な わ ち 、 そ れ

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ク ラウ ス ・ロク シ ン 『刑 法 総 論 第 一 巻 第 三版 』(吉 田 宣之 ・秋 山 栄 一)

は欠 落 現 象 が 身 体 的‑器 質 的原 因 に基 づ く場 合 にの み 存 在 す る もの で あ り、 少 な く と も こ の こ と は 、 内 因 性 の精 神 病 の場 合 にお け る よ う に 、 推 定(前 提 と)さ れ うる も の で な けれ ば な ら なか っ た 。 身 体 的 欠 陥 に は起 因 し な い 精 神 病 質 、神 経 症 お よ び性 欲 異 常 は、 「人 間存 在 の 変 種 」 と見 な さ れ て き た こ とか ら、 免 責 され る べ き で は な か っ た の で あ る 。 判 例 は、 この 狭 義 の 精 神 医学 的 疾 病 概 念 を越 え て お り、 次 の よ うに 「精 神 活 動 の 病 的 障 害 」 と して器 質 的 な もの で は な い 精 神 病 理 学 的現 象 を も承 認 して い た 。 す な わ ち、 「こ こ に は、(つ ま りは 、 法 律 学 的 疾 病 概 念 で あ る が)単 に 臨 床 的‑精 神 病 理 学 的意 味 にお け る 精 神 障 害 の み な らず 、 分 別 の 活 動 並 び に意 思 の 活 動 、 感 情 の 活 動 あ る い は 性 生 活 の 活 動 の あ ら ゆ る 種 類 の障 害 が 含 まれ る。 そ の 障 害 は 、 通 常 の 且 つ 精 神 的 に成 熟 した 人 間 に存 在 す る 、 つ ま りは意 思 形 成 を 可 能 にす る 表 象 と感 情 を害 す る もの で あ る … 。 こ れ は 、 性 的 な 衝 動 性 につ い て も ま た妥 当 す る。 そ の 衝動 性 は … 、 担 い 手 が 自 己 の す べ て の 意 思 の力 を傾 注 す る場 合 に も、 自 身 で 十 分 に対 抗 し え な い ほ ど に、 強 く際 立 っ た特 徴 を もつ も の で あ る」

(BGHSt14,32)と 。

4  1962年 草 案 は 、 こ の 判 例 と は反 対 に、 「精 神 医 学 的 」 疾 病 概 念 を編 纂 し、 精 神 病 質 、 神 経 症 お よび 性 欲 異 常 の よ う な精 神 障 害 を免 責 に し よ う とは せ ず 、たか だ か 責 任 を減 少 させ る作 用 を営 ませ よ う と した(24,25 条)。 そ の 理 由 は 、さ も な け れ ば 、「ダム の決 壊 」 とい う事 態 に至 りう る 、 す な わ ち 、 責 任 無 能 力 とい う理 由 で 一 般 予 防 の要 求 を犠 牲 に す る こ とに よ り、 多 くの無 罪 判 決 が 下 さ れ る とい う、 お よ そ支 持 しえ な い事 態 に至 りう る とす る懸 念 に あ っ た 。 た だ 、 特 別 委 員 会 の審 議 会 に よっ て 、 再 び 状 況 が 一 変 した 。 なぜ な ら ば、 専 門 家 が 、 次 の よ うな 幾 つ か の 点 を 明 ら か に した か らで あ る。 そ れ は、 稀 有 な事 例(そ の 言 葉 は 、 特 に告 訴 さ れ た精 神 病 質 者 の2パ ー セ ン トの もの で あ っ た)で は あ る が 、 「生 物 学 的 」 基 礎 の な い 精 神 障 害 の 場 合 に も、 弁 別 能 力 、 抑 制 能 力 の 排 除 が 認 め られ

な け れ ば な ら な い とい う もの で あ る 。 そ の よ う な事 例 で は 、 単 に責 任 の 減 少 の み を言 い 渡 す の か 、 そ れ と も、 本 来 で あ れ ば、 単 に器 質 的 欠 陥 の

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桐 蔭 法 学16巻2号(2010年)

み を把 握 す べ きで あ る 「病 的 精 神 障 害 」 の 概 念 に責 任 の 減 少 を も包 摂 す る の か とい う判 断 を しな け れ ば な ら な くな るが 、 そ れ を、 委 員 会 が 担 う に は 荷 が 重 す ぎ る と思 わ れ た か らで あ る。 「責 任 無 能 力 お よ び 限 定 責 任 能 力 につ い て の規 定 は、 責 任 主 義 に対 す る 信 仰 の信憑性 を は か る た め の 尺 度 を表 現 す る だ け に、 そ れ だ け 一 層 議 論 の 余 地 の な い 規 定 」 を必 要 と す る 。 か く して 、 「そ の 他 の 、 重 い 精 神 的 変 性 」 とい う術 語 は 、 器 質 的 な基 礎 を もた な い 精 神 障 害 の 種 概 念 と して 、 あ る 身体 的 な所 見 を要 件 と す る 「病 的精 神 障 害 」 と同 列 に置 か れ る こ と に な っ た の で あ る 。

5可 能 的免 責 効 果 に お い て 、は じめ か ら議 論 の 余 地 の な い 「精 神 遅 滞 」 は 、 次 の 点 に も か か わ ら ず 、 独 立 した 要 素 と して20条 に取 り残 さ れ て い る 。 す な わ ち 、立 法 者 に よ る と 、精 神 遅 滞 は 、単 に 「重 い 精 神 的 変 性 」 とい う現 象 形 態 と し て の み 理 解 され 、 そ れ 以 外 の 変 性 事 例 は 、 そ れ らが 単 な る限 定 責 任 能 力 に配 分 さ れ た 場 合 に の み 、 特 別 な 言 及 を必 要 とす る と さ れ て い た の に もか か わ らず 、 で あ る 。 「根 深 い 意 識 障 害 」 は 、 最 終 的 に は、 催 眠 状 態 若 し くは 重 い情 動 とい う よ う な 、病 的 な原 因 、 あ るい は 心 理 学 的 に 「変 質 した」 原 因 を も ち合 わ せ て い な い 行 動 制 御 能 力 の 欠 落 を把 握 す る もの で あ る 。

6一 定 の精 神 病 理 学 的 な 所 見 が 行 為 者 の 弁 別 能 力 と抑 制 能 力 に つ い て の広 範 な判 断 の基 礎 と な る と され る 「混 合 的方 法 」 は 、立 法 者 に よ っ て 、 他 の 二 つ の 可 能 性 、 す な わ ち、 一 定 の精 神 障 害 の 現 象 の み に 照 準 を 合 わ せ る とい う可 能 性 や 、 あ る い は 具 体 的 な 連 結 点 を放 棄 して端 的 に 弁 別 能 力 と抑 制 能 力 と に 照 準 を合 わせ る とい う可 能 性 よ り も優 先 され て い た 。 最 初 の方 法 は拒 否 さ れ て い た。 そ の理 由 は、 責 任 能 力 は、 原 則 的 に 、 あ

る 一 定 の所 見 を 基 礎 と して 抽 象 的 に確 定 さ れ る の で は な く、 具 体 的 な行 為 を考 慮 して の み 確 定 され うる も の で あ る か らで あ る。 病 的 精 神 障 害 の 場 合 で さ え も、 そ の 者 の 一 切 の 態 度 に つ い て 責 任 能 力 を排 除 す る 必 要 は な い 。 す な わ ち 、 「同 一 の 人 間 は 、 一 定 の 時 点 で の 一 定 の 行 為 に つ い て 責 任 無 能 力 で あ りう る が 、 他 の 時 点 で の 他 の行 為 に つ い て は、 責 任 能 力

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ク ラ ウス ・ロ ク シ ン 『刑 法 総 論 第 一巻 第 三版 』(吉 田宣 之 ・秋 山 栄一)

を有 す る」 もの と され て い る か らで あ る。

7一 定 の精 神 病 理 学 的 に連 な る所 見 を完 全 に放 棄 し、 最 終 的 に は 、 決 定 的 に重 要 で あ る弁 別 能 力 お よ び抑 制 能 力 に端 的 に照 準 を合 わす とい う こ との 方 が 、 む しろ 自然 で あ る 。 か く してArndtは 、 特 別 委 員 会 の 審 議 会 に お い て 、 現 行 の20条 を次 の よ う に単 純 に規 定 す る こ とを提 言 した 。 す な わ ち 、 「行 為 の 不 法 を弁 別 す る こ と、 あ る い は この 弁 別 に従 っ て 行 為 す る こ とに無 能 力 で あ る者 は 誰 で も、責 任 な く行 為 す る者 で あ る 」 と。

こ の提 言 は認 め ら れ な か っ た 。 なぜ な らば 、 そ もそ も如 何 な る条 件 の 下 で 責 任 無 能 力 が 考 慮 され う る の か と い う点 につ い て の 指 示 を、 裁 判 官 に 与 え る こ とを放 棄 し よ う とま で は 、 望 ま れ な か っ た か らで あ る。 こ れ ら 諸 概 念 の 「操 縦 価 値 と制 御 価 値 」 が 拠 と され 、 こ れ ら概 念 を削 除 した 場 合 に は 、 多 大 な 法 的不 安 定 性 、 お よ び 十分 な所 見 な しに感 情 に導 か れ て 責 任 無 能 力 を宣 言 す る こ とが 懸 念 さ れ る と さ れ た 。 この 規 定 の 四 つ の 連 結 所 見 の 一 つ す ら存 在 し ない 場 合 に も、 一 定 の所 与 が 行 動 制 御 能 力 を排 除 す る とい うの で あ れ ば 、 無 論 、20条 が 類 推 適 用 さ れ う る の か が 問 題 と な る 。 そ の 問 い は、 一 般 化 され た 見 解 に もか か わ らず 、 原 則 的 に肯 定 され るべ きで あ る 。 とい うの は 、 どの よ うな も の で あ れ 、 こ れ 以外 の見 解 を承 認 す る こ と は責 任 主 義 に違 反 す る か らで あ る 。 しか しな が ら、 そ れ は実 践 的 な意 味 を 持 た な い 。 な ぜ な ら ば 、 「意 識 障 害 」 と 「変 性 」 と い う概 念 は 、 そ の概 念 が 考 慮 さ れ るす べ て の 諸 事 情 を受 け 入 れ う る とい う ほ どに 、 広 く把 握 さ れ て い る か らで あ る 。

第二節 生物学的‑心 理学 的連結所見

一.病 的精 神 障害

8こ の概 念 は 、 か つ て の 「精 神 活 動 の病 的 障 害 」 の代 わ りを な す もの で あ り、 身 体 的 、 器 質 的 原 因 に基 づ く同様 の精 神 障 害 を 包 含 す る。 「精 神 活 動 」 の 障 害 の み に照 準 を合 わ す とい うか つ て の概 念 は 、 常 に 以 前 か

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桐 蔭法 学16巻2号(2010年)

ら狭 す ぎ る もの で あ っ た 。 なぜ な らば 、当 該 疾 病 は 知 的領 域 の み な らず 、 全 心 理 的 領 域 に 欠 落 現 象 を もた ら し う る か らで あ る。 「精 神 障 害 」 とい

う今 日の 術 語 は 、 心 理 的 領 域 の す べ て を包 摂 す る。 そ れ 故 、 数 あ る もの の 中 で 、 語 の 狭 義 の 精 神 障 害 を包 摂 す る にす ぎ な い 。 「障 害 」 とい う こ と は 、か つ て 正 常 な状 態 が存 在 した と い う こ とを前 提 と し な い 。 よ っ て 、 先 天 的 な 疾 病 も ま た 「病 的精 神 障 害 」 た り うる の で あ る。

9「 病 的 精 神 障 害 」 の 一 部 に属 す る も の は 、 まず 第 一 に 、 外 因 性 の 精 神 病 で あ る 。 「外 因 性 」 と は 、 外 部 か ら生 物 体 内 に侵 入 す る とい う こ と

を意 味 す る。 そ れ に よっ て 、 証 明 可 能 な脳 器 質 の障 害 に基 づ く疾 病 が 考 え られ て い る こ と か ら、 「身体 的 に 理 由 づ け が 可 能 な 精 神 病 」 と もい わ れ て い る 。 こ れ に 含 まれ る の は 、 例 え ば(脳 の 傷 害 に よ る)ト ラ ウ マ に よ る精 神 病 、 比 較 的 新 しい 見 解 に従 え ば 、 ア ル コ ー ル 、 そ の 他 の薬 剤 に よ っ て惹 き起 こ され た酩 酊 状 態 に も属 す る 中 毒 に よる 精 神 病 で あ る 。 更 に 、(進行 性 の 麻 痺 の よ う な)感 染 性 精 神 病 、脳 器 質 の 痙 攣 性 疾 病(癲癇) や脳 器 質 に 基 づ く人 格 の解 体 の 諸 事 例(脳 動 脈 硬 化 症 お よ び脳 萎 縮 症)

も ま た そ うで あ る 。 ま た 、 例 え ば 、 脳 皮 質 の 炎 症 脳 腫 瘍 あ る い は脳 の 代 謝 性 疾 患 も病 的精 神 障 害 の も と と な り う る と され て い る。 脳 の 損 傷 、 あ る い は重 い 発 病 に よ っ て 出 現 す る病 理 学 上 の 酩 酊 もそ こ に属 す る(こ の 点 につ い て はJR1995,117のBlauの 評 釈 の あ るBGHSt40,198)。

10酩 酊 は 、 か つ て 大 部 分 の場 合 に意 識 障 害 と解 さ れ た が 、 既 に、 この 病 的 精 神 障 害 に位 置 づ け ら れ う る。 そ の 理 由 は 、(同 様 に麻 薬 や 薬 物 に よ る酩 酊 の 場 合 の よ うに)身 体 的 な 中毒 に 関 わ る問 題 と さ れ るか らで あ る が 、 た だ 、 実 際 上 、 こ の 位 置 づ け に よ っ て 、 無 論 、何 か が左 右 され る わ けで は な い 。 ア ル コ ー ル の 影 響 下 で 犯 さ れ た 犯 罪 行 為 に対 す る見 渡 す こ とが 不 可 能 な ほ ど多 数 の 裁 判 例 に 詳 細 に立 ち 入 る こ と は 、(つ ま り、

交 通 事 犯 で あ る が)こ こ で は 不 可 能 で あ る 。 留 意 され るべ き は 、ア ル コ ー ル の 摂 取 の 際 に 、 一 定 の ア ル コ ー ル 濃 度 の 限界 が 責 任 無 能 力 の 開始 と し て 示 され るべ きで は な く、 事 例 の 個 別 性 が 重 要 で あ る とい う点 で あ る 。

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ク ラ ウス ・ロ ク シ ン 『刑 法 総 論 第一 巻 第 三版 』(吉 田 宣 之 ・秋 山 栄 一)

3パ ー ミ ル以 上 の 場 合 に は 、(重 大 な 暴 力 犯 罪 の 場 合 に は3.3パ ー ミル 以 上 で あ る が)し ば し ば 責 任 無 能 力 で あ る と い え る で あ ろ う(BGHStrV

I990,107:「 注 目 に 値 す る徴憑 」)。け れ ど も、 普 遍 的 に妥 当 す る こ の 種 の経 験 則 は 見 当 た ら な い(BGHGA1974,344;1988,271)。 更 に 、BGH NStZ1987,545に 従 え ば 、3.94パ ー ミル の 場 合 で さ え も、 未 だ 必 ず し も 20条 の 事 例 と され る べ きで は な い 。 非 常 に高 い血 中 ア ル コ ー ル 濃 度 の 際 に は 、 断 片 的 に維 持 され た 記 憶 も(単 純 な行 為 の 典 型 か ら成 る)犯 罪 の 実 行 も ま た 、 行 動 制 御 能 力 の 完 全 な排 除 に否 定 的 に働 くべ きで は な い (BGHNStZ1996,227)。3パ ー ミル 未 満 で は 、ア ル コ ー ル の 常 習 摂 取 者 は、

原 則 的 に、帰 責 無 能 力 と は され ず(BGHVRS28,[1965]190)、 更 に ま た、

2.5パ ー ミル 未 満 で は 責 任 能力 は た い て い の場 合 に維 持 され て い る 。2 パ ー ミル の 場 合 に は、 特 別 な事 情 が あ る場 合 に の み 、 責 任 無 能力 が 承 認

され うる 。 例 え ば 、 そ れ は、 薬 物 の 服 用 や 、 あ る い は 強 度 の情 動 が 累 積 的 作 用 を惹 き起 こす よ う な場 合 で あ る。 よ って 、 そ れ に対 して は 、 原 則 的 に21条 の 事 例 が 承 認 され う る で あ ろ う。 殺 人 犯 の 場 合 に は 、 限 定 責 任 能 力 の 限 界 は 、 生 命 を攻 撃 す る 際 に高 め られ た制 御 の 限 界 を理 由 と し て 、2.2パ ー ミ ル の 場 合 に 設 定 され る 。 た だ 、 血 中 ア ル コ ー ル 量 を確 定 す る た め に は、 常 に 精 神 診 断 上 の評 価 の す べ て が 付 け加 わ え られ な けれ ば な ら な い 。

11ア ル コー ル に よ って 惹 起 さ れ た責 任 無 能 力 の 場 合 に は 、 行 為 者 は そ れ に もか か わ らず 原 則 的 に 不 処 罰 と な る わ け で は な く、 む しろ323条a に よ る酩 酊 、 あ る い は 原 因 に お い て 自由 な行 為(Rn.55ff.参 照)に よ っ て処 罰 さ れ う る。 責 任 能 力 が 維 持 され て い る場 合 、 ア ル コー ル に基 づ く 行 為 は 可 罰 的 で は あ る が 、 け れ ど も、 限 定 責 任 能 力(21条)が 問 題 と な る(こ の 点 に つ い て は 、Rn.32ff.)。 そ れ に加 わ る の は、 道 路 交 通 に お け る酩 酊 を理 由 と して の 可 罰 性 で あ る(316条)。 よ っ て、判 例 は 、1.1パー ミ ル の 際 に、‑つ ま り、 責 任 無 能 力 の発 生 よ り もか な り前 の 時 点 で一 絶 対 的 に 運 転 不 可 能 な心 身 の 状 態 を承 認 す る。 け れ ど も、この こ とは 、個 々

の 事 例 に お い て は 更 に 早 い 段 階 で も生 じ う る の で あ る。

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桐 蔭 法 学16巻2号(2010年)

12病 的精 神 障 害 に 数 え られ る もの に は 、 そ の他 に、 内 因 性 の精 神 病 が あ る。 「内 因 性 」 と は 、 身体 の 内 部 で 生 じ る こ と、 内 部 か ら起 こ る こ と で あ り、 そ れ に よ っ て 、 精 神 障 害 が 特 徴 づ け られ て い る とい う こ と で あ る。 そ の精 神 障 害 の 身 体 的‑器 質 的 基 礎 は こ れ まで 明 確 に は証 明 さ れ て は な い が 、 学 問 に よ っ て推 定(要 求)さ れ る とい う こ と を意 味 す る。 こ の点 で は 、 統 合 失 調 症 と循 環 気 質 とい う二 つ の大 ま か な形 態 の 領 域 が 考 慮 さ れ る 。 循 環 気 質 は 「躁鬱病 」 と して も特 徴 づ け ら れ る 。 な る ほ ど、

循 環 気 質 は 、 そ の 際 に は 、 しば しば躁 と鬱 の 段 階 が 一 定 の 「周 期 」 で 入 れ替 わ る とい う こ とか ら、 そ の よ う な名 称 を もつ の で あ る。

二.根 深 い 意 識 障 害

13こ の概 念 に よ って 特 徴 づ け られ るべ きで あ るの は 、 病 的 で ない 「正 常 な 心 理 学 上 の」 意 識 障 害 で あ る 。 よっ て 、 そ の 他 の事 例 は 、 既 に 、 病 的精 神 障 害 に包 括 され て い る。 これ に属 す る の は、例 え ば 、疲 労 、過 労 、 寝 ぼ け状 態 、 催 眠状 態 あ るい は後 催 眠 状 態 で の行 為 、並 び に と りわ け 情 動 の 一 定 の 形 態 と して 行 わ れ る行 為 に基 礎 を置 く意 識 障 害 で あ る。無 論 、 こ の 意 識 障 害 は 「根 深 い」 もの で な け れ ば な ら ない 。 そ れ に よ っ て 、「未 だ正 常 な領 域 に あ る あ らゆ る意 識 障 害 は 、 排 除 され るべ き で あ る。 正 常 な 人 間 で も繰 り返 し多 か れ 少 な か れ 睡 眠 不 足 、 過 労 、 興 奮 、 驚 愕 あ る い は そ の 他 の 身 体 的原 因 若 し くは精 神 的 原 因 に基 づ い て 、 意 識 が 過 度 に減 退 した 状 態 の 下 に あ る場 合 が あ る 。 そ の よ うな 状 態 は 、 原 則 的 に、 責任 能 力 の 領 域 に属 す るの で は な く、 恐 ら くは責 任 の 程 度 を評 価 す る際 に考 慮 さ れ う る もの で あ る 」。 本 来 的 に 、 立 法 者 は 、 そ の こ と を病 的 精 神 障 害 に 「等 価 値 の 」 意 識 障 害 を要 求 す る こ と に よ っ て 表 現 し よ う と した 。 け れ ど も、 こ の定 式 化 は 、 心 理 学 者 の抗 議 に 出 くわ した 。 彼 ら は、 精 神 病 学 上 の疾 病 概 念 を健 全 な人 間 に類 推 的 に転 用 す る こ と に よ っ て も、 そ の権 限 が 脅 か さ れ る と見 た の で あ る。 か く して 、本 質 的 に は、「等 価 値 性 」

とい わ れ る も の 以外 の 何 も の を も意 味 す る もの で は な い 「根 深 い」 とい

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ク ラ ウス ・ロ ク シ ン 『刑 法 総 論 第 一巻 第 三版 』(吉 田宣 之 ・秋 山栄 一)

う文 言 で 合 意 さ れ た。 す な わ ち 、 障 害 は 、 「当 該 者 の精 神 構 造 が 破 壊 さ れ る ほ どに 、 あ る い は21条 の 事 例 に お い て … 動 揺 せ られ る ほ ど に、

そ の よ うな 強 度 の もの で な け れ ば な ら な い … 」 と され た の で あ る。

14実 際 上 、 広 く注 目 さ れ て い る の は 、 強 度 の 情 動 に基 づ く責 任 無 能 力 で あ り、 こ れ は 、法 的 に特 別 な、 未 だ 完 結 的 に は明 らか に さ れ て い な い 問題 を提 供 して い る 。 精 神 病 学 的 な 疾 病 概 念 の 虜 に な っ て い る精 神 医 学 で は 、 か つ て 種 々 に 、 専 ら正 常 な心 理 学 上 の情 動 、 換 言 す れ ば 、病 的 な 身体 的 現 象 に基 づ くこ との な い 情 動 が 、 責 任 能 力 を排 除 す るの は不 可 能 で あ る とさ れ て 来 た が 、 戦 後 の 判 例 は 、 そ の よ う な可 能 性 を(例 外 的 な 事 案 で は あ る け れ ど も)常 に 認 め て い る。 指 導 的 判 決 で あ るBGHSt11, 20は 、戦 後 の判 例 を 「刑 法51条(現 行20条)の 意 味 に お け る意 識 障 害 は 、 極 限 の 興 奮 状 態 で 行 動 して い る行 為 者 につ い て は 、 彼 が 疾 病 に罹 患 して い な い 場 合 で あ る 、 ま た は彼 の 情 動 状 態 が そ の 他 の 欠 落 現 象(例 え ば 、 ね ぼ け 状 態 、 催 眠 状 態 、 高 熱 あ るい は類 似 の状 態 の よ うな もの)を 伴 っ

て い な い 場 合 で あ っ て も、 存 在 し う る」 と総 括 して い る。 ま た 、 今 日、

経 験 科 学 も、主 と して 強 度 の 興 奮 の 中 で 生 じ る 「情 動 の 出現 」の場 合 に は 、 行 為 の 時 点 に お け る行 動 制 御 能 力 は種 々 に排 除 され う る し、 情 動 の 出 現

は 「制 御 機 関 の解 体 を ま さ に前 提 とす る」 との 認 識 を 出 発 点 と して い る 。

15他 方 、 そ の こ とに よ っ て 開 か れ た免 責 の 可 能性 は、 一 般 予 防 の理 由 か ら、 し ば しば 広 過 ぎ る と見 な され て い る 。 判 例 は この よ うな 懸 念 につ い て 、部 分 的 に で は あ る が 、 免 責 に対 して‑無 論 、 ア ク セ ン トの 置 き方 は 種 々 で あ るが‑情 動 の 無 責 性(Unverschuldetheit)を 要 求 す る と い う 方 法 で考 慮 を払 お う と し た。影 響 力 の あ る判 決 で あ るOGHSt3,23で は 、

「回 避 可 能 な性 格 の 欠 点 と道 徳 上 の 逸 脱 が 行 為 に至 る 」 よ う な場 合 で あ る と して 、 責 任 無 能 力 が 否 定 さ れ て い る 。OGHSt3,82に よ れ ば 、 責 任 無 能 力 は 、 「自 ら有 責 に 、軋轢 や 暴 行 に至 る 関係 を招 来 す る」 行 為 者 の 場 合 に は存 在 しな い とい う。 ま た 、BGHSt3,199も 、 無 責 性 に照 準 を合 わ せ て い る 。BGHNJW1959,2315は 、 免 責 を 拒 否 す る た め に は 「行 状

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桐 蔭 法学16巻2号(2010年)

責 任 」 で は 十 分 で は な い とい う こ と に よ っ て 、 制 約 的 な精 密 化 に取 り組 ん で い る。 す な わ ち 、「有 責 性 とい う もの の 基 礎 づ け に は 、『短 絡 的 行 為 』 と密 接 に関 連 す る行 為 事 情 の み が 引 き合 い に 出 さ れ う る」 と して い るの で あ る 。BGH MDR1977,459は 、 例 え ば、 「制 御 さ れ て い な い 情 動 の 爆 発 とい う危 険 領 域 に 陥 る こ とが 認 識 可 能 で あ る よ う な抑鬱 的 な気 分 の 変 調 へ た め らい も な く身 を ゆ だ ね る こ と」 を例 と して挙 げ て い る。 そ れ に 対 し、BGHSt7,327f.が 疑 わ しい と し た の は 、 「無 責 的 な情 動 の み に責 任 阻却 の 効 果 が 当 然 与 え られ る とい う … 制 限 は 、 情 動 に条 件 づ け ら れ た す べ て の 意 識 の完 全 排 除 の 事 例 にお い て は 、法 律 との 一 致 が み られ る の か ど う か 」 とい う点 で あ る 。 ま た、BGHSt8,126も 、 こ の 点 につ い て 疑 わ しい と見 な して お り、他 方 で 、BGHStll,26は 、 具 体 的事 例 に お け る問 を 「黙 過 」 し よ う と して い る。

16正 し くは 、 行 為 時 に行 動 制 御 能力 そ の もの が 排 除 さ れ る場 合 、 免 責 は 、 情 動 が 自 己 の 落 ち 度 に よ っ て惹 起 さ れ た と い う理 由 が あ っ て も、 拒 否 され る こ とは あ りえ な い とい わ れ て い る 。 と い うの は 、法 律 の 文 言 は 、

「行 為 の 遂 行 の 際」 の根 深 い 意 識 障 害 に 、 一 義 的 に 照 準 を合 わ せ て い る か らで あ る 。 よ っ て 、既 に1962年 草 案 の 理 由 書 も「自己 責 任 の 無 意 味 性 」 を前 提 とす る と強 調 した の で あ る 。Langeが 「行 為 の 遂 行 の 際 に」 とい う文 言 を構 成 要 件 の 実 現 の 時 点 に 限 定 せ ず に、Kruempelmannも 「動 機 的 発 生 条 件 」 と い う も の を持 ち 出 す 場 合 、 そ れ はKruempelmannが 考 え る の と は相 違 して 、 も は や 、 「極 限 の 限 界 に ま で 推 し進 め られ た 解 釈 」 な の で は な く、新 解 釈 を施 す もの で あ る。 そ の 背 後 にあ る の は、 さ もな け れ ば 、 「殺 人 犯 の1/4の 場 合 に」、 行 為 者 が 無 罪 と さ れ な け れ ば な ら な く な る とい う、 耐 え難 い 状 態 へ の 危 惧 で あ る 。 しか し、 第 一 に は そ れ は過 度 の 懸 念 で あ る。 なぜ な らば 、 当 然 の こ と なが らあ らゆ る情 動 が 「根 深 い 意 識 障 害 」と して 格 づ け さ れ るわ け で は な い か らで あ る。 第 二 と して 、 構 成 要 件 に 関 連 づ け ら れ た 責 任 主 義 は、 あ ら ゆ る衝 突 事 例 に つ い て 、 こ の 主 義 を法 律 の 文 言 に反 して 予 防 上 の 利 益 の た め に犠 牲 に供 す るわ け で は な い 場 合 に 限 っ て 、 信 ず る に値 す る。 更 に、 第 三 と して 、 責 任 無 能 力

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ク ラ ウス ・ロ ク シ ン 『刑 法 総 論 第 一巻 第 三 版 』(吉 田宣 之 ・秋 山栄 一)

の た め に免 責 に す る こ とが 犯 罪 を促 進 す る とい う点 につ い て も、 賛 成 者 は 皆 無 で あ る。

17若 干 の論 者 は 、 「責 任 な き」 情 動 と い う要 件 を 回避 不 能 な 禁 止 の 錯 誤 の み が 責 任 を 阻 却 す る と規 定 して い る17条 の類 推 適 用 に依 拠 さ せ よ う と して い る。 しか し、こ れ ら の規 定 は 、比 較 不 可 能 で あ る 。とい う の は 、 17条 は 、 は じめ か ら回 避 不 能 な禁 止 の 錯 誤 の 免 責 を 明 ら か に して い る に す ぎず 、他 方 で 、20条 で は、 回避 不 能 な行 動 制 御 無 能 力 の み が 責 任 能 力 を排 除 す る な ど とは 何 も語 っ て い な い か らで あ る。 ま た、17条 は 、 回避 可 能 性 の存 在 で は な くて 、 錯 誤 が 「行 為 の遂 行 の 際 に」 存 在 す る と い う こ と を 要 求 す る に す ぎな い 。 そ の 上 、 禁 止 の 錯 誤 は 、17条 の 大 多 数 の 事 例 に お い て 、 「行 為 の 遂 行 の 際 に 」 は 、 回 避 可 能 で あ ろ う し、他 方 で 、 こ こ で 克 服 の努 力 が な され た見 解 は 、 情 動 の 場 合 に 、行 為 と責 任 の 同 時発 生 を す べ て の事 例 で放 棄 して い る の で あ る 。 更 に見 込 み の少 な い 試 み は 、 答 責 性 阻却 的 緊 急 避 難 の規 定 を20条 に転 用 す る と い う もの で あ る 。 な る ほ ど、緊 急 避 難 行 為 は 、35条1項2文 に よ っ て危 険 が 「自 ら惹 起 さ れ た 」 場 合 に は 、 刑 罰 は 免 除 さ れ な い 。 しか し、35条 は 、 ま さ に責 任 能 力 あ るい は責 任 を 阻却 す る の で は な く、温情 とい う もの か ら、

刑 事 政 策 的 に動 機 づ け られ た許 可 を意 味 す る にす ぎな い 。 そ れ 故 、 こ の 温 情 は 、行 為 者 の 事 前 の 態 度 に依 拠 す る こ とが 許 さ れ るの で あ り、 ま た

これ は 自明 の こ とで あ る 。

18こ れ に対 し、 情 動 状 態 の 行 為 者 の 刑 法 上 の 答 責 性 を場 合 に よ っ て は 、 原 因 に お い て 自 由 な行 為 の 原 理 に 依 拠 させ る とい う可 能 性 は 十 分 に あ る 。 そ の よ う な可 能 性 は 、精 神 医 学 的 な 所 見 に よっ て 支 持 され て い る 。 そ れ に従 え ば 、 情 動 行 為 は 、 晴 天 の霹靂 の よ う に生 じる の で は な く、 よ り長 く継 続 す る心 的 葛 藤 の結 果 で あ り、 そ れ は 、 た い て い の 場 合 、 発 生 (Entstehung)、 激 化(Verschaerfung)そ して爆 発(Entladung)と い う三 段 階 を経 て 顕 在 化 す る と さ れ る 。 発 生 の段 階 に お い て は 、 そ れ ほ ど手 が 込 ん で い な い侮 辱 や 拒 否 が 、第 二 段 階 で 自 己 の 問 題 と して の 「背 負 い 込 み 」

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が 、破 壊 的 な 表 象 に 転 化 す る よ うな 心 理 的 な緊 張 状 態 へ と導 くの で あ る 。 そ の 結 果 、 第 三 段 階 に お い て は 、 操 縦 能 力(Steuerungskapazitaet)の 完 全 な崩 壊 状 態 、 更 に は 情 動 の 出 現 状 態 が 、 し ば しば 、 表 面 的 に は 、 ほ ん の 僅 か の き っ か け に よ っ て創 出 さ れ るの で あ る。 第 二 段 階 で 、 未 だ 行 動 制 御 能 力 が 存 在 して い る場 合 に は 、 た い て い は、 行 為 者 が 自己 の 攻 撃 的 な傾 向 と葛 藤 す る状 態 を確 認 す る こ とが で き る。 彼 が 、 この 段 階 にお い て 起 こ りう る 情 動 の爆 発 や後 に な っ て か らで は もは や 制 御 不 能 な そ の爆 発 に対 す る予 防 措 置 を講 じず 、 しか も、 例 え ば 、想 定 し う る被 害 者 に影 響 を与 え る 範 囲 か ら遠 ざ か る こ とを しな い 、 そ れ ど こ ろ か 、 更 に は 銃 器 を購 入 す る とい う よ う な場 合 に は 、 既 に そ こ に 、 刑 法 上 の 答 責 性 を基 礎 づ け う る事 後 の 結 果 の 惹 起 が あ る 。 無 論 、 た い て い の場 合 に は 、 行 為 者 の そ の よ うな 態 度 は 過 失 で あ る に す ぎ な い が 。 そ の 理 由 は、 彼 が 軽 率 に

も情 動 の 出 現 の 回避 可 能 性 を あ て に して い た か らで あ る 。 しか し、 と り わ け 、222条 、230条 で 考 慮 さ れ る 処 罰 範 囲 は 、 そ の よ う な犯 罪 の 責 任 の 内 容 を まっ た く正 当 に評 価 す る も の で あ る と され て い る。

19無 論 、 原 因 に お い て 自 由 な行 為 は 、 そ れ 自体 、 非 常 に議 論 の あ る 法 形 象 で あ る。 そ れ に 関 連 す る争 点 は 、Rn.55ff.で 取 り扱 わ れ て い る。

Behrendtは 、 情 動 の 場 合 にお け る 刑 法 上 の 答 責 性 を 失 念 に お い て 自 由 な行 為(actio libera in omittend)と して 把 握 して い る。 す な わ ち 、 彼 は 、 行 為 者 が 情 動 の 生 成(Affektgenese)の 第 二 段 階 に お い て 、 破 壊 的 志 向 を 制 御 して い な い と して 、 そ の場 合 に不 作 為 犯 を承 認 す る 。 よ っ て 、 結 果 回避 義 務 は、 先 行 す る行 為 か ら生 じる べ きで あ る とす る 。 け れ ど も、

エ ス カ レー トす る情 動 の 軌 跡 の 進 展 の 中 に存 在 す る も の は 、 結 果 を惹 起 す る作 為 で あ る 。 不 注 意 の 「不 作 為 の 要 素 」 は 、 作 為 に よ る過 失 に もま た 固 有 の もの で あ る。 加 え て 、 未 必 の 故 意 で もあ る よ う な 場 合 に は、 な お の こ と、 積 極 的 な行 為 に よっ て 犯 罪 が 進 行 して い る。

20Jakobsは 、 彼 固 有 の 責 任 の 見 解 に 基 づ い て 、(こ の 点 に つ い て は 、 第19章,Rn.33ff.)情 動 を 期 待 可 能 性 の 観 点 の 下 で 取 り扱 っ て い る。

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ク ラ ウス ・ロク シ ン 『刑 法 総論 第 一 巻 第三 版 』(吉 田宣 之 ・秋 山栄 一)

少 な く と も、 彼 もま た 、 単 に 「機 能 の進 行 に よ る 受 動 的 客 体 」 にす ぎ な くな る行 為 者 を、 専 ら、 帰 責 無 能 力 と定 義 しよ う とす る 。 そ れ 以 外 に も 彼 は 、 未 だ責 任 能 力 が排 除 さ れ て い な い 場 合 に も、 事 情 に よ っ て は免 責 を許 容 しよ う とす る。 そ の 免 責 は 、 もち ろ ん一 般 予 防 的 に 支 持 可 能 な枠 内 に お い て の み 許 容 され 、 そ して 行 為 者 が 自 ら情 動 を有 責 に 招 来 した場 合 に は 、 拒 否 され な け れ ば な らな い 。 そ の こ とは 、 未 だ 責 任 が 僅 か に存 在 して い る よ う な場 合 で も、 予 防 上 の処 罰 必 然 性 が 欠 け て い る 事 例 で あ れ ば 、答 責 性 阻 却 が な され るべ きで あ る とい う 、 こ こで 支 持 され た見 解 と完 全 に一 致 す る(第19章,Rn.3ff.,53参 照)。 広 く一 般 に認 め ら れ た 免 責 の懸 念 を鑑 み れ ば(前 掲,Rn.15f.参 照)、 確 か に、 さ しあ た り、 こ の 領 域 に お け る 裁 判 所 の 温情 を見 込 む こ とは 未 だ不 可 能 で あ ろ う。

三.精神遅滞

21立 法 者 は 、 精 神 遅 滞 を 「証 明 可 能 な 原 因 の な い 先 天 性 の知 的 障 害 」 と理 解 す る。 胎 内 にお け る脳 の損 傷 、 分 娩 時 の 外 傷 に よ る損 傷 、 あ る い は 幼 児 期 の損 傷 に起 因 す る 精 神 遅 滞 は 、 そ れ 故 、 既 に 「病 的精 神 障 害 」 の 要 素 に含 ま れ る 。 そ れ は 、 な お の こ と、事 後 的 に生 じた脳 器 質 の 疾 病 が 進 行 す る こ とに 基 づ く 白痴 化 に も妥 当 す る 。 精 神 遅 滞 は、 既 に法 律 の 文 言(「 そ の 他 の 」 精 神 的 変 性)が 知 らせ る よ う に、 単 な る精 神 的 変 性 の 現 象 形 態 にす ぎ な い(そ の 個 別 的 な命 名 の 立 法 史 的 基 礎 に 関 して は 、 Rn.3〜5参 照)。

22知 的 障 害 の程 度 に従 っ て 、 精 神 遅 滞 は 三 種 類 に 区別 され る 。 最 も軽 度 な も の は 、 軽 愚(Debiltaet)で あ る 。 そ の 場 合 に は 、 特 殊 学 校 の卒 業 が 可 能 で あ り、 大 部 分 の 場 合 、 職 業 を ま っ た く習 得 し え な い が 、 しか し、 実 生 活 上 の 行 為 を な す こ とは 可 能 で あ る 。 中 程 度 の も の は 、 痴 愚 (Imbezillitaet)であ る。 そ れ は、 自立 的 な 生 活 を ま っ た く許 容 せ ず 、 家 族 あ るい は施 設 の 養 育 を必 要 とす る 。 最 も重 度 の もの は 、 白痴(Idiotie) と され る 。 そ れ は 、 養 育 の必 要 性 が あ り、継 続 的 に拘 禁 され る こ と に な

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る の で あ る。 白痴 の 場 合 に は 、 しば しば 既 に 言 語 能 力 が 欠 如 して い る 。 刑 法 に と っ て は、 主 と し て、 軽 愚 の み が 注 目 さ れ て い る。 とい うの は 、 精 神 遅 滞 に よ る、 よ り重 度 の 形 態 の 場 合 に は 、 いず れ にせ よ監 督 が 必 要

と さ れ る の で あ る か ら、 そ の 形 態 が 刑 法 的 に重 要 な 態 度 に な る な ど とい う こ と は ほ と ん ど考 え ら れ な い か らで あ る 。

四.そ の 他 の 、 重 い 精 神 的 変 性

23重 い そ の 他 の精 神 的 変 性 は、 責 任 無 能 力 とな りう る前 提 条 件 で あ る と して 、 刑 法 改 正 の た め の特 別 委 員 会 に よ って 、 まず は 、 成 文 化 され て い る(Rn.3f.参 照)。 そ こで は 、 委 員 会 は 、 病 的 精 神 障 害 と 「比 較 可 能 な重 い 精 神 障 害 」 の 一 つ で あ る と述 べ 、 そ れ よっ て 「変 性 」 とい う不 利 益 な効 果 を も た らす 差 別 的 な 表 現 を 避 け よ う と して い た代 案 と見 解 が 一 致 して い た(1966年 刑 法 代 案 総 則21条)。 そ の 実 体 に よ れ ば 、 重 い 精 神 的 変 性 とい う表 現 に よ っ て 、 身体 的 な疾 病 に起 因 す る こ と な く正 常 な

もの か ら心 理 的 に逸 脱 す る こ とが 意 味 さ れ て い る 。

24そ の 主 た る現 象 形 態 は 、‑従 来 の 用 語 法 に従 え ば‑精 神 病 質 、 神 経 症 お よ び性 欲 異 常 で あ る 。 そ こ で 、 精 神 病 質 と され る の は 、 た い て い の 場 合 、 素 質 に よ っ て 条 件 づ け られ 、 社 会 共 同 生 活 の 能 力 を著 し く侵 害 す る こ と に な る 性 格 の 特 異 性 で あ る。 そ れ に 対 し、 神 経 症 は 、 後 天 性 の 、 しば しば 治 療 に よ っ て 克 服 可 能 な 態 度 の 異 常(Verhaltensanomalien)で あ っ て 、 異 常 な経 験 に基 づ く反 作 用 と して 現 れ る も の で あ る。 無 論 、 素 質 と環 境 に よ っ て 条 件 づ け ら れ た 心 理 的 障 害 は 、 た い て い 判 別 しず ら く、 しば しば 複 合 的 に作 用 す る の で あ る 。 そ れ 故 に、 「『神 経 症 』 あ る い は 『精 神 病 質 』 とい っ た述 語 を使 用 す る こ と は 、広 範 に 学 説 が 解 決 す べ き問 い で あ る」 と され て い る。 と はい え 、 刑 法 上 の 評 価 は 、 そ れ と は 無 関係 で あ る。 そ の 他 の 性 的 異 常 性(sexuelle  Andersartigkeit)も 、 異 常 に 高 め られ た性 的 特 殊 性(過 度 の 性 欲)も また 、 性 欲 異 常 に属 す る 。 そ の 場 合 、判 例 に よ れ ば 、「自然 に 反 す る性 欲(Trieb)」 は 、事 情 に よ っ て は、

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標 準 的 な 強 度 の もの で あ る と して も、免 責 可 能 で あ るべ き と さ れ て い る 。 他 方 で 、 標 準 的 な性 欲 は 、 抵 抗 しが た い ほ ど強 度 もの で あ る 場 合 に 限 っ て 、 責 任 無 能 力 と さ れ る 。 い う まで もな く、 そ の他 の 重 い精 神 障 害 も ま た 、 そ の 障 害 が 上 述 の概 念 の 一 つ に組 み込 まれ る場 合 を 除 い て 、 考 慮 が 払 わ れ る。 例 え ば 、 強 度 の 好 訴 者 、 中毒 に基 づ か ない 嗜 癖 的 な 依 存 症 、 情 緒 的核 の 障 害(emotionale  Kernstoerungen)、あ る い は もち ろ ん 稀 で あ り、

議 論 の 多 い‑放 火 癖 、 窃 盗 癖 、 若 し くは 性 的 な 虜(sexueller  Hoerigkeit) の 事 例 で あ る。

25関 係 す る 判 決 は 、例 外 な く新20条 の施 行 よ り も以 前 の 時 期 の もの で あ り、 当 時 の法 律 学 的疾 病 概 念 に 該 当 す る(Rn.3参 照)。 既 に 、 こ の こ と は 、 懸 念 さ れ た 「ダ ム の 決 壊 」、 つ ま り旧法 と比 較 して 、 免 責 化 の 著 しい 拡 大 が 生 じて い な か っ た とい う こ と を示 して い る 。 統 計 上 の 資 料 も ま た こ の こ と を 裏 づ け て い る。 責 任 無 能 力 が 容 認 され た 大 多 数 の 事 例 は 、 性 欲 異 常 者 に よ る もの で あ る 。神 経 症 や 精 神 病 質 の場 合 に は 、 ま っ た く稀 な事 例 に 限 っ て 責 任 能 力 の排 除 が 肯 定 され て い る 。む し ろ判 例 は 、 性 格 の 欠 陥 お よ び 意 思 の 薄 弱 は克 服 可 能 で あ る と して い る。 しか も、 性 欲 異 常 者 の場 合 に も、 「精 神 的 に健 全 な 人 間 は 、 自然 に 反 す る 性 の衝 動 か ら彼 に起 こ る傾 向 性 を 克服 す る た め に、 必 要 と さ れ る 内 面 的 な 力 を 自 由 に 用 い る こ とが で き る」 との 前 提 か ら 出発 して い る。 文 献 も免 責 の 可 能 性 に対 して 非 常 に抑 制 的 で あ る 。か く して 、Witterは、精 神 的 変 性 が 「精 神 病 に類 似 す る場 合 、 換 言 す れ ば 、 そ の 変 性 が 、 精 神 病 、 あ る い は 精 神 病 性 お よ び脳 器 質 性 人 格 変 動 に対 す る 限 界 領 域 、 若 し くは 移 行 段 階 の 領 域 に あ る」 場 合 に 、 責 任 無 能 力 を肯 定 しよ う と して い る にす ぎ な い 。 ま た 、Kruempelmannも 、 「20条 か ら精 神 的 変 性 を排 除 す る こ と」 に全 面 的 に賛 成 す る。

26け れ ど も、 そ の よ う な立 場 に立 つ こ と は 、 旧 来 の 精 神 医 学 的 疾 病 概 念 に 非 常 に 強 く結 び つ く こ と を示 して い る。 しか も、 そ の 旧 来 の 概 念 は、 従 来 の 判 例 に よ っ て 承 認 され な か っ た もの で あ っ て 、且 つ 成 文 化 も

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さ れ て お らず 、 しか も責 任 主 義 と も合 致 して い な い の で あ る。 精 神 病 に 左 右 され る動 機 が 、 強 度 の精 神 的変 性 以 上 に態 度 を決 定 づ け る とい う 主 張 を 証 明 す る証 拠 は 、 存 在 しな い。 重 要 な の は 、精 神 病 との 類 似 性 とい う こ とで は な く、行 為 の 生 成 が 行 為 者 の標 準 的 な対 応 可 能 性 の侵 害 を ど の 程 度 認 識 させ る の か と い う点 で あ る。 正 当 に も、BGHSt34,22(24);

35,76(79)は 、 重 い 精 神 的 変 性 は 、 率 直 に い っ て 病 理 学 的 な 所 見 を前 提 に は しな い とい う点 を 指 摘 して い る 。BGHStrV1988,384に 従 え ば 、 そ れ を行 為 者 の 経 歴 の み か ら導 き出 す こ と は許 され ず 、 む しろ行 為 者 の 人 格 の 「全 体 的 考 察 」 か ら導 き出 さ な け れ ば な ら な い と され る 。 「重 い 」 変 性 とい う法 律 的 要 件 が 、 精 神 病 に類 似 して い な い 、 す べ て の精 神 障 害

を は じめ か ら法 律 か ら排 除 す る こ と に使 用 され る と い う議 論 は 、免 責 が 、 ま ず 「第 二 段 階 」 にお い て 、 換 言 す れ ば 、 弁 別 能 力 と抑 制 能 力 を検 討 す る場 合 に お い て 、 は じめ て 決 定 され るべ きで あ る と い う点 を 、見 逃 して い る の で あ る。

第三節 弁別能力 と抑制能力

27率 直 に い っ て 、 「行 為 の 不 法 を 弁 別 す る 、 あ る い は こ の 弁 別 に従 っ て 行 為 す る 」 とい う行 為 者 の 能 力 に対 す る 問 に は 、 経 験 上 「答 え る こ とは 不 可 能 で あ る」 と い う 見 解 が 精 神 医 学 者 に よ っ て 主 張 さ れ る こ と は 、 稀 で は な い 。 この こ と は、 そ の場 合 に、 鑑 定 人 と裁 判 官 の 次 の よ う な任 務 の違 い を認 識 させ る こ と に な る 。 す な わ ち、 鑑 定 人 は 、 生 物 学 的

‑ 心 理 学 的 連 結 所 見 を確 定 し、 他 方 、 裁 判 官 は 、 評 価 的 な手 続 きの道 筋 の 中 か ら、 弁 別 能 力 あ る い は抑 制 能 力 に関 して 、 そ こか ら推 論 を引 き出 す の で あ る 。 け れ ど も、 そ の こ と に よ っ て 、 物 事 の本 質 は 、正 し く見 ら れ て は い な い 。 とい う の は 、 第 一 に 、連 結 所 見 の 確 定 も ま た 、 裁 判 官 に と っ て体 験 可 能 で な け れ ば な らず 、 裁 判 官 よ って 闇雲 に借 用 され て は な らな い か ら で あ る 。 特 に 、 「根 深 い」 と か 「重 い」 と い う よ う な 要 素 は 、 著 しい規 範 的特 徴 を有 す るか らで あ る 。 第 二 に、 鑑 定 人 が 弁 別 能 力 と抑

制 能 力 につ い て何 も言 及 す る こ とが で き な い とい う思 い 込 み は、 広 範 に

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次 の よ う な誤 解 に基 づ い て い るの で あ る。 そ れ は 、 こ こで は 、 意 思 の 自 由 あ る い は個 別 的 な 他 行 為 可 能 性 に つ い て の み 語 られ る こ とが 要 求 さ れ て い る とい う誤 解 で あ る。 だ が 、 実 際 上 は 、上 述 の よ うな 議 論 が 問 題 な の で は な く、行 為 者 が 行 為 時 にお い て 規 範 的 に対 応 可 能 で あ っ た の か ど う か 、 そ して あ る とす れ ば 、 どの 程 度 対 応 可 能 で あ っ た の か(第19章, Rn,20ff.,33ff.参 照)で あ る 。 換 言 す れ ば 、 「法 規 範 が そ もそ も行 為 者 の 動 機 の 過 程 の 中 で効 果 を もつ 可 能 性 が あ っ た の か と い う点 につ い て の 判 断 が 、 問 題 で あ る に 過 ぎ な い の で あ る 。 鑑 定 人 の 任 務 は 、 行 為 者 の 精 神 的 状 態 につ い て 、 行 為 者 は有 用 な規 範 の 名 宛 人 で あ っ た の か ど うか を指 摘 す る とい う点 に あ る 」 と され て い る 。 こ の こ と は、 現 代 の 精 神 医 学 と 心 理 学 が 一 貫 して物 申 す こ との で きる 、 原 則 的 に 経 験 上 の 問 題 設 定 で あ る。 な る ほ ど、 そ の 場 合 に は 、 規 範 的 な価 値 判 断 の 余 地 が 存 在 して い る の で あ るが 、た だ 、そ れ は そ の 他 の 法 概 念 の場 合 に も、原 則 的 に は異 な っ て い る わ け で は な い 。 そ の 他 の 場 合 に お け る と同様 に 、 こ こで も専 門 家 が 排 除 す る こ と の許 され な い 裁 判 官 の確 信 が 決 定 的 な の で あ る。 とは い え 、 こ の こ と は 、20条 に含 ま れ る 二 つ の 「段 階 構 造 」 の 中 で 、 経 験 的 な専 門 家 と裁 判 官 の 間 で の 共 同 作 業 が 同 一 の規 則 に よ っ て 進 行 す る とい う こ と を変 更 す る もの で は な い の で あ る。

28「 行 為 の 不 法 を弁 別 し」、且 つ 「こ の 弁 別 に従 って 行 為 す る」 とい う こ とに つ い て の 無 能 力 は、 しば しば混 合 的 に変 化 し、 しか もそ の場 合 に は 、 明確 な 区別 は不 可 能 で あ る とい わ れ て い る 。 結 果 的 に は、 常 に行 動 制 御 能 力 の 欠 如 が 問題 で あ る 。 そ の能 力 は、 弁 別 能 力 が 欠 如 して い る こ と に基 づ くの で あ る が 、 ま た 、 そ の他 の事 情 に も、 更 に は 種 々 の 要 因 の 絡 み 合 い に も起 因 して い る。 弁 別 能 力 の 欠 如 を特 別 に 挙 示 す る必 要 は 、 17条 の 禁 止 の 錯 誤 規 定 に よ っ て責 任 が 阻 却 さ れ る場 合 に は、 そ の 限 り で は 、既 に無 用 で あ る 。 け れ ど も、 そ れ は少 な くと も、 証 拠 規 則 の 価 値 を もっ て い る 。 そ れ は 、 連 結 所 見 が 弁 別 能 力 の検 討 を推 し進 め 、重 度 の 事 例 に お い て は そ の 能 力 の 欠 如 を も徴憑 しう る か らで あ る 。 継 続 的 に 存 在 す る弁 別 能 力 も現 存 す る不 法 の 弁 別 も、 他 方 、抑 制 能 力 へ の 逆 推 論 す

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桐 蔭 法 学16巻2号(2010年)

る こ と を 許 す もの で は な い 。 酩 酊 状 態 の 場 合 に は 、 抑 制 能 力 は た い て い 弁 別 能 力 よ り も前 の 時 点 で 排 除 され て い る。 した が っ て 、 身 体 、 生 命 に 対 す る行 為 にお い て は 、健 全 な 人 間 の 場 合 の 「著 しい ア ル コー ル量 」 も、

通 常 、 抑 制 能 力 を排 除 す る状 態 に は な い の で あ る 。

29責 任 無 能 力 は 、 「行 為 」 が 法 律 学 的 意 味 にお い て 否 定 され え な い 場 合 に、 検 討 さ れ れ ば 十 分 で あ る 。 こ の こ とか ら、 責 任 無 能 力 か ら の行 為 無 能 力 の境 界 づ け とい う問 題 が 生 ず る 。 この 区 別 は 、 高 度 の情 動 、 分 娩 開 始 の 陣痛 状 態 、 同 じ く正 気 を 失 っ た 酩 酊 の 場 合 で あ れ 、 催 眠 お よ び 後 催 眠 状 態 の 場 合 で あ れ 、 常 に容 易 に な され る もの で は な い し、 更 に どの よ う な行 為 概 念 が 基 礎 に置 か れ る の か とい う こ と よ っ て も、 左 右 さ れ る の で あ る 。 本 書 で 支 持 され る 、 人 間 の 「行 為 」 を 「人 格 の 表 現 」 と して 理 解 す る 理 論 に従 え ば 、 列 挙 され た事 例 で は 、 原 則 的 に行 為 能 力 の排 除 が 問 題 とな る の で は な く、 責 任 能 力 の排 除 が 考 慮 さ れ る の で あ る。 個 別 的 に は 、 上 述 の 説 明 で 指 摘 さ れ て い る(前 掲,第8章,Rn.44ff.,66ff.)。

30弁 別 無 能 力 お よ び抑 制 無 能 力 は 、 抽 象 的 な も の で は な く、 常 に 具 体 的 な 構 成 要 件 の 実 現 を 考 慮 して の み 確 定 さ れ う る。 こ の こ と は 、 判 例 に お い て 、 特 に 酩 酊 状 態 の 行 為 の 場 合 に 、 次 の よ う に強 調 され て い る (BGHSt14,114[116])。 す な わ ち、「と りわ け 、抑 制 能 力 の 問 は 、種 々様 々 な 犯 罪 行 為 の場 合 に は 、 統 一 的 に 回答 され る こ とは稀 で あ る 。 い う なれ ば 、 性 の衝 動 を も は や 支 配 しえ ず 、 そ れ 故 、 酩 酊 状 態 に お い て 、 強 姦 未 遂 を遂 行 す る酩 酊 者 は 、 場 合 に よ っ て は、 十 分 に 強 盗 の 動 機 を抑 制 す る 能 力 を有 して い る。 また 、 酩 酊 の 結 果 と して 、 責 任 な しに 思 わず 侮 辱 を した者 で あ る と して も、 危 険 な 傷 害 に関 して は未 だ答 責 的 た り うる の で あ る」 と。 しか も、弁 別 能力 の諸 区 分 も、一 貫 して現 実 に近 い もの に な っ て い る 。 従 っ て 、 軽 度 の 精 神 遅 滞 に あ る者 に は、 複 雑 な経 済 犯 罪 あ る い は 環 境 犯 罪 に 関 して の 弁 別 能 力 は 欠如 して い る もの の 、 強 盗 の不 法 に 関 して は 未 だ 十 分 に弁 別 し うる の で あ る。 そ れ に対 して 、 一 定 の構 成 要 件 と の 関 係 で 、責 任 を 阻却 す る精 神 障 害 が 存 在 す る場 合 、「明 確 な 中 間領 域 」

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ク ラウ ス ・ロ ク シ ン 『刑 法 総 論 第一 巻 第 三版 』(吉 田宣 之 ・秋 山 栄 一)

(lucida intervalla)の 可 能 性 は 、今 日で は承 認 さ れ て い な い 。 した が っ て 、 行 為 が 、 外 部 的 な疾 病 症 状 が 一 時 的 に後 退 して い るそ の 時 間 内 に遂 行 さ れ た場 合 で あ って も、 責 任 阻却 が 肯 定 され る。

31行 動 制 御 能 力 に対 す る生 物 学 的‑心 理 学 的連 結 所 見 の 影 響 に 関 して は、 生 物 学 的原 因(換 言 す れ ば 、 病 的精 神 障 害)が 責 任 能 力 を原 則 的 に 排 除 し、 他 方 で 、 心 理 学 的 な所 見 は(と りわ け、 心 理 学 的変 性 を)例 外 的 に免 責 す る に す ぎ な い とい う見 解 が 主 張 され て い る。 こ の 見 解 は、 そ の 方 向性 にお い て は妥 当 とす る こ とが で き るの で は な か ろ うか 。 け れ ど も、 個 別 事 例 に対 して は 、 そ こ か ら無 思 慮 に結 論 を導 き 出す こ と は許 さ れ な い 。 か く して 、J.E.Meyerは 、 障 害 の 強 さ は そ の 診 断 に対 し徐 々 に 司 法 上 の 重 要 性 を獲 得 した と い う点 と、 「い わ ば 、 老人 性 の 精 神 錯 乱 状 態 、 あ る い は急 性 の 統 合 失 調 性 の精 神 病 」 とい う僅 か な診 断 の み が 「あ た か も 自動 的 に」 責 任 能 力 を排 除 した にす ぎ ない とい え る とい う点 を強 調 して い る。Venzlaffは 、 「例 え ば、 幼 児 期 の あ る い は トラ ウ マ 的 な 脳 の損 傷 に よ る 身体 上 の 所 見 が 、 特 にそ れ らが軽 度 の精 神 遅 滞 … と結 び つ い て い る場 合 に」、 「犯 行 の 原 因 が 時 と して こ こ か らは ま っ た く生 じ な い に もか か わ らず 」、 あ ま りに も容 易 に免 責 を認 め て し ま うの で あ る 、

と述 べ て い る。 他 方 、身 体 的 に は条 件 づ け られ て い ない 精 神 的 異 常 性 は 、 行 動 制 御 能 力 へ の効 果 の点 で 度 々軽 視 され て い る。 そ れ故 、 規 範 的 な 対 応 可 能 性 に 関 す る判 断 は 、 障 害 の 原 因 よ り もそ の 重 さ に依 拠 さ れ な け れ ば な ら な い で あ ろ う。

第四節 著 しく限定 された責任能力

一.21条 の 条 件

32著 し く限定 さ れ た 責 任 能 力 は 、 責 任 能 力 と責任 無 能 力 との 間 に存 在 す る 「半 帰 責 能 力 」 とい う独 立 した 形 態 な の で は な く、 責 任 能 力 の 一 場

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桐 蔭法 学16巻2号(2010年)

合 で あ る。 とい う の は 、行 為 者 は、行 為 の 不 法 を弁 別 し、そ の 弁 別 に従 っ て 行 為 をす る とい う能 力 を 、(未 だ)有 して い る か らで あ る。 け れ ど も、

行 動 制 御 能 力 は 程 度 づ けが 可 能 な概 念 で あ る 。 す な わ ち 、規 範 に よ って 動 機 づ け られ う る とい う こ とは 、 人 間 に とっ て よ り容 易 な こ と で あ っ た り、 あ るい は よ り困難 な こ とで あ っ た りす る 。 そ の 難 易 度 に応 じて 、 未 だ 現 存 して い るが 、本 質 的 に は 減 退 され た行 動 制 御 能 力 の 場 合 、責 任 は 、 原 則 的 に減 少 して い る の で あ る(Rn。36ff.参 照)。21条 は、 刑 の 減 軽 事 由 を創 設 す る こ と に よ っ て 、 そ れ に 考 慮 を 払 っ て い る。21条 は、 実 務 に お い て は 、 責 任 無 能 力 を 理 由 とす る免 責 よ り もか な りの 頻 度 で 用 い ら れ 、 そ して 四 つ の 生 物 学 的‑心 理 学 的 連 結 所 見 す べ て に つ い て適 用 さ れ て い る 。 す な わ ち 、 そ れ は 、 と りわ け、 軽 度 の麻 痺 性 また は統 合 失 調 症 に よる 欠 陥 の 場 合 、初 期 の 動 脈 硬 化 症 に よ る、 あ る い は老 齢 に よ る認 知 症 の発 現 の 場 合 、癲癇若し くは精 神 遅 滞 の軽 度 の 形 態 の場 合 、 比 較 的僅 か の 心 理 的 影 響 を伴 う脳 の 損 傷 の 場 合 、 情 動 、 酩 酊 状 態 、神 経 症 、 精 神 病 質 、 性 欲 異 常 の場 合 で あ り、 ま た 同様 に、 自殺 を意 図 して 惹 起 さ れ た 火 薬 の爆 発(Sprengstoffexplosion)の 事 例 にお い て も当 て は ま る 。 麻 酔 剤 に依 存 す る場 合 につ い て は 、 判 例 に 従 え ば、 例 外 的 に 、21条 の 適 用 が 承 認 され る こ と に な る。 例 え ば 、 「長 年 に わ た る麻 酔 剤 の 服 用 が 最 も 重 い 人 格 の 変 動 に 至 っ た 、 あ る い は行 為 者 が 強 度 の 禁 断 症 状 に苦 しみ 、

しか も そ の 症 状 の た め に 、 犯 罪 行 為 に よ って 薬 物 を調 達 す る とい う状 況 に 追 い 込 まれ た場 合 、 更 に、 事 情 に よ っ て は 、彼 が 犯 罪 を現 在 の 酩 酊 の 状 態 下 で行 っ た よ う な場 合 」 で あ る。 また 、 既 に、 ヘ ロ イ ン依 存 者 の 禁 断 症 状 へ の危 惧 が 彼 の 行 動 制 御 能 力 を著 し く減 退 させ る と い う こ と も、

排 除 さ れ て は い な い 。

33立 法 者 は 、行 動 制 御 能 力 に つ い て は 「著 しい 」 減 退 を 要 求 す る 。 そ の 理 由 は、 比 較 的 僅 か な程 度 の 行 動 制 御 能 力 の 侵 害 は 、 「重 大 犯 罪 、 性 欲 犯 罪 、傾 向 犯 罪 の 場 合 に も、原 則 的 に存 在 す る」 か ら で あ る。 この こ と は 、規 範 的 対 応 可 能 性 につ い て の 、 さ ほ ど重 大 で は な い 限 定 は無 視 さ れ るべ きで あ る とい う意 味 で は ない 。 しか し、 そ の 限 定 の た め に は 、49

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ク ラ ウス ・ロ ク シ ン 『刑 法総 論 第 一 巻 第 三 版 』(吉 田宣 之 ・秋 山栄一)

条1項 の特 別 の処 罰 範 囲 の 扉 が 開 か れ て い る わ け で は な い 。 む しろ、 そ の 限 定 は量 刑 の 際 に通 常 の 処 罰 範 囲 内 で考 慮 され るべ きで あ る 。 責 任 能 力 が さ ほ ど著 し く減 退 しな い とい う こ と と、 「著 しい」 減 退 と を 区 別 す る こ とは 、 い う ま で もな く裁 判 官 の 評 価 に 幅 広 い 領 域 を委 ね る こ と に な る 。 原 則 的 に、21条 に よ っ て 開 か れ た 特 別 の処 罰 範 囲 を 承 認 す る た め に は、 行 為 者 の 精 神 状 態 が 、 正 常 性 の 平 均 値 を 明 白 に下 ま わ っ て お り、

しか も、 責 任 無 能 力 へ と近 づ い て い る こ と が 必 要 で あ る 。 規 格 化 さ れ た 測 定 値(Standardisierte Masswerte)は 、飲 酒 に よ る酩 酊 の 場 合 に の み 示 す こ とが で きる 。 こ の 場 合 に、 判 例 の 前 提 に よれ ば、2パ ー ミ ル以 上 の 血 中 ア ル コー ル濃 度 の 場 合 に は、 な る ほ ど、 限 定 責 任 能 力 が 必 然 的 に存 在 して い る と判 断 され る わ け で は な い が 、 そ れ に もか か わ らず 、 と りあ えず 、 そ の 能 力 の有 無 は検 討 され な け れ ば な らな い の で あ る。 更 にそ の 能 力 が 否 定 され る場 合 に は そ れ は基 礎 づ け られ な け れ ば な ら な い の で あ る。 集 団 で犯 さ れ た 犯 罪 行 為 に お け る 集 団 力 学 的 な 過 程 は、21条 の 事 例 と して は判 断 さ れ え ない で あ ろ う。

34限 定 責 任 能 力 の 構 成 要 件 関 連 性 か ら明 らか に な る の は 、 な る ほ ど、

行 為 者 の 弁 別 能 力 は 一 般 的 に 著 し く減 退 して は い るが 、具 体 的 事 例 に お け る 不 法 の 認 識 は 有 して い る よ う な場 合 に は、21条 が 適 用 さ れ な い と い う 点 で あ る 。 そ れ故 、 裁 判 所 は、 限 定 責 任 能 力 が 弁 別 能 力 あ る い は 抑 制 能 力 の い ず れ の 欠 如 に基 づ くの か を 、 明 白 に 述 べ な け れ ば な らな い の で あ る 。 無 論 、 不 法 の 認 識 が 存 在 して い る場 合 で あ っ て も、 抑 制 能 力 の 著 しい 減 退 は存 在 し う る 。 同様 に 、21条 は 、 な る ほ ど、 抽 象 的 に著 し

く減 退 され た抑 制 能 力 は 認 め られ う る もの の 、 行 動 制 御 能 力 が 実 現 され た 構 成 要 件 との 関 係 で 減 退 して は い な い 、 あ る い は 非 本 質 的 に減 退 して い る に す ぎ な い 場 合 に も、 適 用 され な い の で あ る 。 抑 制 能 力 の 著 しい 減 退 は、 弁 別 能 力 の 同程 度 の 減 退 と比 較 して 、 責 任 を減 少 させ る程 度 が 少 な い とす る 結 論 を認 め る の は、 正 し くな い(BGHNStZ1985,357)。

35限 定 弁 別 能 力 の 事 例 に 関 し て 、21条 の規 定 は 、 禁 止 の 錯 誤 の 規 定

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桐 蔭 法 学16巻2号(2010年

と矛 盾 関 係 にあ る 。 つ ま り、 行 為 者 が 自 らの 行 為 の 不 法 を認 識 し なか っ た 場 合 に、 彼 は、17条2文 に よ れ ば 、49条1項 に 従 っ た刑 の任 意 的 減 軽 に至 る、 禁 止 の 錯 誤 に 陥 っ て い る 。 しか し、 同 様 の 刑 の 減 軽 が21条

で認 め られ るの は 、 禁 止 の 錯 誤 が 著 し く減 退 さ れ た 弁 別 能 力 に基 づ く場 合 にす ぎ な い 。 この 非 一 貫 性 は 、 行 為 者 に有 利 な17条2文 の 規 定 を優 先 させ る こ と に よ っ て 解 決 さ れ る 。 そ の 結 果 、21条 は、 そ の 限 り に お い て は 無 意 味 に な る 。 とい う の は、 精 神 的 に 且 つ 心 理 的 に ま っ た く健 全 な 行 為 者 が 、 す べ て の 回 避 可 能 な禁 止 の 錯 誤 の 場 合 に 減 軽 の可 能 性 を 受 け 、 他 方 で(著 しい とは い わ な い ま で も)限 定 責 任 能 力 者 が 、 同 様 の 事 態 の 場 合 に、 通 常 の 処 罰 範 囲 で 処 罰 さ れ るべ き だ とす る な らば 、 そ れ は無 差 別 的 取 扱 い の 命 題(Gleichbehandlungsgrundsatz)に 対 す る 耐 え 難 い 違 反 に な る の で は な い か と考 え られ る か らで あ る。 これ に 対 して 、 Jakobsは 、 「21条 に 規 定 され て い る著 しい と い う概 念 の 意 味 」 を 、 刑 法

17条2文 の 中 で 解 釈 さ れ る べ き要 素 と見 な そ う と、 ま た 、 そ れ よ っ て 単 純 な 回避 可 能 な 禁 止 の錯 誤 の 場 合 に ま で も、 減 軽 の 可 能 性 を容 易 に 認 め る こ とに は な ら ない と主 張 して い る 。 け れ ど も、そ れ よ って 、17条 は 、 行 為 者 の負 担 に な る よ う に修 正 され て し ま う の で あ り、 許 さ れ るべ きで

は ない 。

二.刑 の 任 意 的 減 軽

36  21条 は 、 任 意 的 減 軽 を 保 障 す る に す ぎ な い 。21条 で 議 論 され て い る 問 題 の 中 心 は 、 こ の こ とが 責 任 主 義 と調 和 し う る の か ど うか 、 とい う こ と に あ る。 刑 罰 は責 任 の 程 度 を超 え て は な ら な い とい う一 般 に認 知 さ れ た命 題 が 前 提 と され る な らば 、 著 し く限 定 され た責 任 能 力 は 、 著 し く 減 軽 され た 刑 罰 を も導 く も の で な け れ ば な らな い と い う こ と と同 時 に 、 単 な る任 意 的 減 軽 は 「責 任 主 義 に対 す る 明 らか な違 反 」 で あ って 、故 に 、 そ れ を修 正 して 必 要 的 規 定 と解 釈 す るべ き で あ る と い う こ とが 、 ほ ぼ 、 自 明 の こ と と思 わ れ る 。 ま た 、1966年 代 案 総 則22条 も この よ う な理 由 か ら義 務 的 な刑 の 減 軽 を規 定 した 。 そ れ に対 して 、判 例 と支 配 的 見 解 は 、

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ク ラ ウス ・ロク シ ン 『刑 法総 論 第 一 巻 第 三 版 』(吉 田宣 之 ・秋 山栄一)

任 意 的 な処 罰 範 囲 の 減 軽 の み を保 護 しよ う と、 種 々 の 基 礎 づ け を試 み て い る。BVerfGE50,5ff.は 、 裁 判 官 の 裁 量 に委 ね られ た 刑 の 減 軽 に対 し て 、 憲 法 上 の 疑 念 を有 しな い とす るが 、 そ の他 の 点 につ い て は 、 立 場 決 定 を 自制 して い る 。 す な わ ち 、 「如 何 な る見 解 を刑 法 的 解 釈 の 観 点 の 下 で 優 先 させ るべ き な の か とい う こ と につ い て 決 定 す る こ とは 、BVerfGE の 問 題 で は な い」 と(a.a.O.,S.10)。

37正 し くは 、 な る ほ ど、49条1項 に よ る刑 の 減 軽 を拒 否 す る こ とは 、 端 的 に違 憲 で あ る と見 な され る わ け で は な い が 、 そ の拒 否 の場 合 の 適 用 範 囲 を限 定 しな け れ ば な らな い で あ ろ う し、加 え て、 減軽 さ れ た処 罰 範 囲 の 選 択 を義 務 的 な もの と しな け れ ば な らな い で あ ろ う。 こ の よ う に さ れ る こ とが 望 ま しい 。 と い うの は 、単 な る任 意 的 減 軽 に導 くに至 っ た 歴 史 的 な根 拠 は 、 今 日で は 過 去 の もの で あ る か ら で あ る。 か つ て の51条 2項 、 つ ま り現 行 の21条 の 前 身 が 、1933年11月24日 の常 習 犯 罪 者 法 に よっ て 導 入 され た 際 に 、 と りわ け 限 定 責 任 能 力 で あ る精 神 病 質 者 の 場 合 に 、予 防 的 根 拠 か ら刑 の 減 軽 が 見 送 ら れ よ う と した 。す な わ ち、そ れ は 、

「精 神 病 質 者 お よび そ の 減 弱 した 抵 抗 力 に つ い て い え ば 、 不 適 切 な 寛 大 さ に よ る よ り も、峻厳 且 つ 長 期 の刑 罰 に よ る ほ うが 、後 々 に 至 る ま で種 々 に影 響 を及 ぼ す こ とが で きる 」 か らで あ る 。Mezgerは 、 これ に 関 連 し て 、「不 可 避 の 実 践 的 な 要 求 」 は 、「責 任 刑 を離 れ て 保 護 刑 」 に至 り、「一 定 の 性 質 を もつ 人 格 」 を責 任 刑 法 か ら 「取 り除 く」 とい う こ とが 必 要 で あ る と述 べ て い る。 そ れ に対 して 、 比 較 的 最 近 の判 例 が 適 切 に も強 調 す る の は 、 裁 判 官 が 「責 任 と は異 質 の 考 慮 に 基 づ く刑 の 減 軽 を 怠 る こ と」

も、「責 任 に相 当 で あ る と さ れ た刑 罰 の 程 度 」を越 え る こ と は許 され な い、

とい う 点 で あ る(BGHSt7,28)。

38だ が 、 刑 の 減 軽 の制 限 を責 任 主 義 と調 和 させ る とい う種 々 の 試 み は あ るが 、有 用 な も の は 、ほ ん の 僅 か で あ る 。「行 状 責 任 」に立 ち戻 る こ と は、

現 行 の 行 為 刑 法 の 地 盤 を失 う こ と に な る た め(第19章,Rn,58参 照 〉、 禁 止 さ れ て い る 。 判 例 は 、 度 々 、 法 定 刑 を維 持 す る こ と を基 礎 づ け る た

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