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スルガ銀行不正融資事件の事例研究(Ⅱ)

樋 口 晴 彦

 キーワード:組織不祥事,リスク管理,コンプライアンス,組織文化,創業家  目 次

  はじめに   1.事件の概要   2.スルガ銀行の組織   3.融資の概要   4.チャネルの関与   5.融資関係資料の偽装   6.その他の問題行為   7.銀行の対応状況

   (以上,第 58 巻第 2 号に掲載)

  8.営業の暴走と創業家の関与   9.リスク管理部門の機能不全   10.創業家による私物化   11.取締役等の責任と企業統治   12.事件の原因メカニズム

  13.事件発覚後も続けられた不正融資   14.他の金融機関への波及

  おわりに

8. 営業の暴走と創業家の関与

 スルガ銀行では,前述(5.5 参照)のとおり相当数の行員や所属長,さらに執行役員ま でもが偽装の蔓延を認識し,あるいは自ら関与していた。この点について第三者委員会報 告書は,「偽装に関与してでも融資を実行するという姿勢がパーソナル・バンク全体で貫 かれている」(同 162 頁)とした。その原因として,以下の諸点が挙げられる。

8.1 パーソナル・バンクへの依存

 スルガ銀行では,毎年,営業本部内の営業企画部が,銀行全体の数値目標である「営業 推進項目」を立案する。その決定には取締役会の決裁を必要とするが,2016 年度までは 取締役会の配賦資料に営業推進項目の数値の記載がなく,最高執行責任者である岡野(弟)

氏に一任されていた。こうして決定された営業推進項目を,営業企画部が過去の実績や態 勢等に応じて各バンク(地域担当)に配賦し,バンクでは営業店の特性等に応じて目標数

〔論 説〕

(2)

値を配賦し,さらに営業店内で各行員に割り当てた。

 このプロセスの問題は,営業企画部が現場から意見聴取をせずに目標数値を一方的に立 案するだけで,その達成状況についてモニタリングを行っていなかったことである。現場 の営業担当者は,「何を基にノルマの数字が決められているのか分からない。ノルマの問 題は,その地域における住宅着工事例や 1 か月の売買実績等の市況だとか,潜在的な市場 がどのくらいある商品なのかといったことを全く考えず,単に数字だけ押しつけられる」

(第三者委員会報告書 164 頁)と受け止めていた。

 収益不動産ローン関係の営業推進項目の達成率は,表 9 のとおりである。2011 年度か ら 2015 年度まで,首都圏を担当するパーソナル・バンクへの依存度は 9 割を超えている。

その理由として,収益不動産ローンの顧客や投資対象となる物件の所在地が,首都圏方面 に集中していることが挙げられる(1)

 営業推進項目の達成に当たって,銀行全体がパーソナル・バンクに強く依存していたた め,他の部署にはパーソナル・バンクに対する遠慮が生じた。そのことが,麻生氏以下の 営業関係者の慢心と,後述(9. 参照)するリスク管理部門の機能不全につながった。この 点について第三者委員会報告書は,「かかる依存構造は,別項で述べる人事等における越 権行為に対して本部や他のバンクとしても黙認せざるを得ないという結果につながり,ま た,パーソナル・バンクも自身が銀行の収益を支えているとの自負心からそれを正当化し ていたものと推察され,パーソナル・バンクの聖域化の一因となった」(同 166-167 頁)

と分析している(2)8.2 数字第一主義

 第三者委員会報告書は,「融資の実行残高さえ積み上げれば良い,数字だけしか見ない」

表 9 収益不動産ローンの達成率推移

2011 年度 2012 年度 2013 年度 2014 年度 2015 年度 2016 年度 2017 年度 全体の達成率 114.8% 90.6% 83.1% 91.3% 94.8% 48.8% 25.3%

パーソナル・バンクの達成率 127.3% 101.5% 92.3% 101.4% 94.6% 55.8% 25.8%

パーソナル・バンクへの依存度 92.3% 93.9% 98.3% 100.0% 94.5% 89.3% 71.4%

(第三者委員会報告書別紙 2 から抜粋)

(1)「不動産投資をする個人や投資物件は,おおむね首都圏に集中するものであり,パーソナル・バンクの主戦 場となった。他方,静岡及び神奈川のコミュニティ・バンクは,地域に密着した支店網であり,これらのエ リアでは,そのような個人投資家も少なく,投資物件もない状況であって,貸付残高は減少傾向にあった」(第 三者委員会報告書 228 頁)。

(2) 事業部門の聖域化のリスクについては,「ビジネスを取り巻く環境が変化すれば,当然にリスク管理に関す る判断も適時に見直していかなければならない。そうした見直しが正当な理由なく怠られる場合があり,そ れが赤字部門の不合理な放置,聖域化した事業領域の発生など,企業の不健全性を生む原因となり得る。なお,

聖域化する事業領域の中には,赤字・債務超過部門の放置のような事例だけでなく,高い収益を上げている 事業部門(いわゆる「勝てば官軍」的な領域)や,企業の絶対的な最重要・コアの事業部門(他所が遠慮せ ざるを得ない領域)の場合もある」(武井(2007),69 頁)と指摘されている。

(3)

という「数字第一主義」と呼ぶべき企業風土が存在したとする(同 162 頁)。この数字第 一主義が会社全体に定着していたとまでは言い難いが,少なくとも営業本部内では,組織 文化に近い状況であったと認められる。その原因として,以下の諸点が挙げられる。

8.2.1 目標達成の圧力とパワハラの常態化

 麻生氏などパーソナル・バンクの幹部は,「パーソナル・バンクの実績が低迷すること は銀行全体の低迷につながってしまう」(第三者委員会報告書 170 頁)との危機感のもとに,

割り当てられた目標値をさらに積み増しして営業店に課していた。このパーソナル・バン ク独自の目標値は「ストレッチ目標」と呼称された(3)

 この過大なストレッチ目標を達成するため,パーソナル・バンクでは,センター長会議 や定期報告などの場で強い圧力をかけ,成績不振の所属長は厳しく叱責された。その様子 について第三者委員会報告書は,「行員アンケートにおいても,所属長経験者から,センター 長会議において本部から「そんな数字では(報告は)受け取れない」「無理やりでも数字 を作れ」「目標達成できないのであれば(所属長が)存在する必要がない」といった反応 をされるほか,「会議に出る時間があれば営業をしてこい」などといわれて所属長が退席 させられることや,会議への出席を認められずにコールセンターで若手の行員と一緒にテ レマーケティングをさせられるといったことも行われていた旨の回答が寄せられている。

(中略)フォレンジック調査においても,営業本部から所属長に対して,月曜日の午前中 に本部から予算達成率 40% 以下の支店の所属長に「週末手を打ったのか?土日の活動結 果を報告せよ」といったメールや,「獲得できないままで終わるな」「各店とも実行ゼロは 不可」といった檄を飛ばすメールが検出された」(同 60 頁)と認定している(4)

 個々の営業担当者にも同様に厳しい目標が課せられ,それを達成させようと圧力をかけ るあまり,以下に示すようなパワハラが常態化していた(第三者委員会報告書 173-176 頁。

一部について誤字や句読点の位置などを修正)。

 ・「月末近くになってノルマが出来ていないと,応接室に呼び出されて「バカヤロー」

と机を蹴ったり,テーブルを叩いたり,1 時間,2 時間と永遠に続く。「給料返せ」な どと,怒鳴られる。こういう本部長や支店長,センター長は 1 人 2 人ではない。知っ ている限りでは全体の半分ぐらいそうだ。数字で怒鳴ったりしない支店長は珍しく,

社員の中で噂が流れるほどだ。ノルマが出来ないと夜の 10 時過ぎても帰れない。残 業代など支払われるはずがない」

 ・「営業会議の場で案件がないことを理由に「今から営業してこい」と追い出された」

 ・「数字ができないなら,ビルから飛び降りろといわれた」

 ・「センター長より営業成績が上がらないことに対し,「銀行の収益の足を引っ張る社

(3) 例えば,2016年度の営業推進項目では,パーソナル・バンクの収益不動産ローンの目標値は 89,310 百万円 であったが,ストレッチ目標は 150,800 百万円(約 69% の積み増し)と設定された。

(4) 営業店の所属長経験者は,「毎月,中間,(月末の)前日,月末と,ストレッチ目標に対する達成度合いを管 理され,数字が足りないとセンター長会議の場や,電話で叱責された」「センター長会議では,麻生氏のみ ではなく,パーソナル・バンクの本部の部長,副部長も怒っていた。「パーソナル・バンクが(中略)こけ たら,銀行なんてどうすんだよ」等とよく言われた。毎週,行くのが嫌だった」と証言している(第三者委 員会報告書 169-170 頁)。

(4)

員」,「去れ」,「お前に給与を支払うのが勿体無い」,「大した営業成績も上げずに時間 外ばかりつけやがって」など厳しく叱責されました」

 ・「上司に呼ばれ個室で 2 人になり叱責を受けた。他の社員の前でも叱責を受けた。「な ぜできないのか?」「それで?それで?だから?」「銀行員なんてやめちまえ」「でき ないくせに偉そう」等パワハラだと感じていた」

 ・「チームの目標数字に対し進捗が不調であったとき,チーム全体を前に立たせ,でき ない理由を言わされた。時間は 2 時間以上にのぼり,支店の社員の前で給与額を言わ れそれに見合っていない旨の指摘を受け,週末に自身の進退(退職)を考え報告を求 められた」

 ・「毎日 2~3 時間立たされて詰められる,怒鳴り散らされる,椅子を蹴られる,天然パー マを怒られる,1ヶ月間無視され続ける等々」

 ・「上司の机の前に起立し,恫喝される。机を殴る,蹴る。持っていった稟議書を破ら れて投げつけられる」

 ・「毎日,毎日,怒鳴り続けられ,昼食も 2 週間ぐらい全然行かせてもらえず,夜も 11 時過ぎまで仕事をさせられ体調が悪くなり,夜,眠れなくなってうつ病になり,銀行 を 1 年 8ヶ月休職した」

 ・「融資実績が上がらない人は口なし(意見をしてはいけない雰囲気)。目標に対して達 成率が低いとどうするんだと椅子を蹴られ,机を叩かれ,恫喝されながら育った。当 時は数字があがらないならば休日はなしという雰囲気。数字があがらないならば,時 間外請求するな。融資実績があがらないならば,会社に給与返せ。いつまで会社から 定額自動送金してもらっているんだというモラルの欠片もない会社だった」

 ・「毎日ローンのノンストップ運動をやっており,途切れたり,数字ができなかった場 合に,ものを投げつけられ,パソコンにパンチされ,お前の家族皆殺しにしてやると いわれた。上司の目の前で土下座させて謝罪させた。いすの背面をキックされた」

 ・「会議中にはターゲットになる者を特定され,多人数の前で罵声を浴びせる。結果そ の被害者が精神的に追い詰められて休職や退職に至ったら,それを反省するどころか,

営業推進を一生懸命に行った結果だと肯定し,その数や追い詰め方を自慢し競い,賞 賛されるような状況にあった。まさしく恫喝,強要でパワハラ以外の何でもないこと が各地で行われていることを知っていながら,誰も止められなかった,本気で止めよ うとしなかった」

 このように営業店や担当者に対して目標達成を求める強い圧力がかけられ,パワハラが 繰り返された結果,営業本部内に数字を出すことが何よりも優先される数字第一主義が蔓 延したと認められる。

8.2.2 成果主義の業績評価

 スルガ銀行では,BSC(バランス・スコア・カード)制度に基づく業績評価を実施して いた。具体的には,「ビジョン・ミッション」「営業」などの評価視点毎に比重を設定し,

それぞれの達成度に基づいて決定された評価ポイントを総合するというやり方である。

 各行員に割り当てられた営業推進目標の達成度は,評価視点「営業」の評価ポイントと なる。総合評価に占める評価視点「営業」の比重は,2015 年度に所属長が 35%(固定),

(5)

その他の行員は上限を 50~60% としていた。2016 年度以降はさらに比重を上げることが 可能になり,営業推進目標の達成度が各自の業績評価を大きく左右した。また,「営業」

以外の評価視点にも,フリーローンの提案件数や有担保ローンの登録数が含まれており,

「結局のところ,スルガ銀行では,内実において BSC の評価項目の大半が営業成績に関 するものとなってしまっていた」(第三者委員会報告書 199 頁)とされる。

 その一方で,実行された融資に関して,その後に延滞や回収不能など債権管理上の問題 が生じても,それを営業担当者の業績評価に反映する仕組みはなかった。第三者委員会報 告書は,「融資後の債権管理状況が人事考課に一切反映されないとなれば,優良な融資先 を探索しようとの営業担当者のインセンティブは低くなるであろう。それこそ,目先の目 標を達成すれば良好な人事評価が得られるのだから,収益不動産ローンの担当者にしてみ れば,チャネルが連れてくる顧客に対する融資を 1 件でも多く実行してしまおうとの意識 に傾いてしまっても何ら不自然ではない」(同 200 頁)と分析している。

 2013 年度から 2016 年度までの BSC 表彰では,2014 年度下期を除き,シェアハウスロー ンを最も積極的に取り扱っていた横浜東口支店が上位 3 位以内に入っていた。ちなみに,

「横浜東口支店の営業担当者の BSC シートを参照すると,大多数の担当者の「営業」の 項目が 50~60%と,上限又は上限に近い値に設定されていた」(第三者委員会報告書 199- 200 頁)とのことである。

 ちなみに,スルガ銀行の表彰制度では,コンプライアンスやリスク管理の観点から問題 のあった店舗又は個人は表彰の対象外とされていた。ところが,前述(7.2 参照)のとお り 2015 年 2 月にスマートライフに対する内部告発がなされたにもかかわらず,同社の案 件を多数引き受けていた横浜東口支店への表彰が続けられた。この点について第三者委員 会報告書は,「(コンプライアンス重視の)建前とは裏腹に,それを捕捉するモニタリング 体制が整備されておらず,実際上は営業成績ありきの表彰になっていたと考えざるを得な い」(同 167 頁)と認定している。

 個人的にも,パーソナル・バンクに所属する行員が相対的に高い業績評価を受け,報酬 面でも優遇されていたことは否めない(5)。賞与の平均支給率(2013~2017 年度の各半期)

は,所属長など幹部行員について,コミュニティ・バンクの 320.4% に対しパーソナル・

バンクは 360.5%,ローン担当の一般行員について,コミュニティ・バンクの 343.4% に対 しパーソナル・バンクは 390.8% であった。ちなみに,麻生氏に対する同期間の平均賞与 支給率は 518% に達した。

 このようにスルガ銀行の業績評価制度が営業偏重であったことが,営業本部内における 数字第一主義の形成を助長したと認められる。

8.2.3 不透明な人事制度

 スルガ銀行の人事業務は,経営企画部内の人事部が所管していた。一般行員の人事異動 については各バンク長が異動案を作成した上で人事部が調整し,幹部行員については全体

(5)「麻生氏からは,賞与ファンドの各部門への配分に関し,静岡,神奈川のコミュニティ・バンクへの配分を 下げて,銀行の業績への貢献度の高いパーソナル・バンクへの配分を大きくするようにとの強い要請が,毎度,

行われていた」(第三者委員会報告書 202 頁)。

(6)

最適の観点から人事部長が一元的に異動案を作成することとされていた。しかし実際には,

営業本部長兼パーソナル・バンク長の麻生氏が,他のバンクの行員に関する異動案も作成 していた上に,人事部長の頭越しに岡野(弟)氏に異動案を提示していた。「麻生氏より 提示された人事異動案は,故岡野副社長により,一部修正されることもあったが,現実に は,大方,提案通りの異動となることが多かった」(第三者委員会報告書 194 頁)とされる。

この人事介入により,営業成績の優秀な社員をパーソナル・バンクに集中させるとともに,

後述(9.1.2 参照)のとおり審査部にもパーソナル・バンクに従順な行員を送り込んでいた。

 一般行員から幹部行員への昇進については,各種資格試験(法務・税務・財務各 3 級と 証券外務員 1 種)の合格と研修等受講によるポイントが要件とされていた。しかし,パー ソナル・バンク経験者については,資格やポイントが不足していた場合でも,「人事部が 否定的な意見を述べたにも拘わらず,麻生氏から,当該候補者は営業成績が良好であるた め合格させるべきであるとの強い意向が示されるケースが少なからずあった。実際,そう した候補者が上位職に登用されるケースは少なからずあった」(第三者委員会報告書 195 頁)とされる。

 ちなみに,2010 年以降に幹部行員に登用された 165 人のうち,パーソナル・バンク経 験者は 61 人(全体の 37.0%)を占め,そのうち 17 人は資格不足,25 人がポイント不足で あった。第三者委員会報告書は,パーソナル・バンク経験者以外にも要件を満たさない行 員が相当数登用されている点を踏まえて,「全社的に昇進・昇格基準が形骸化しており,

それが故に,麻生氏からの意向表明に対しても抵抗できなかったというのが実態のように 見受けられる」(同 196 頁)と分析している。

 このように麻生氏の不当な人事介入を許したことによって,営業偏重がさらに強まると ともに,営業成績が優秀な行員が登用されるという「飴」がインセンティブとなって,営 業本部内における数字第一主義の形成を助長したと認められる。

8.3 エリア制の未採用による内部競争の激化

 パーソナル・バンクでは,営業担当地域を指定するエリア制を採用していなかったため,

過大な営業目標の達成を迫られた各店が案件を奪い合う状況が生じていた。その結果,「偽 装の疑いがある案件を自店が断ったとしても,どうせ他店が融資してしまうのだから,ス ルガ銀行全体としては同じこと。それならば,自店で融資して業績を上げたほうがよい」

との自己正当化の心理が生じ,不正融資を助長した。第三者委員会報告書によれば,「無 理がある案件であっても他の支店よりも(業者にとって)都合良く円滑に取り扱うことが 指向され(る)」という「悪い意味でのサービス競争」(同 183 頁)が支店間で繰り広げら れていた(6)

(6) 第三者委員会による事情聴取の際に営業担当者が,「融資について厳しく言うと不動産業者は他の支店へ案 件を持っていってしまう」「業者からも「〇〇支店ではやってくれている」などと言われる」「業者と上手く やるのが「出来る人」としてパーソナル・バンク内で認められる雰囲気だった」と証言している(第三者委 員会報告書 183 頁)。

(7)

8.4 キックバックの授受

 行員に対するアンケート調査では,チャネルからキックバックを受けていた可能性のあ る行員として 14 人の氏名が挙がった。このうち 4 人は,3 人以上の行員から指摘を受け ていることから疑いが濃厚である(7)

 第三者委員会報告書は,「フォレンジック調査においても,「キックバックの話が出ると まずい」といった行員間のやり取りや,一部の行員(新宿支店)が業者の担当者から,当 該担当者自身が会社(業者)から受け取るインセンティブ報酬を行員に分配するのと見返 りに,当該業者に不動産の物件を持ち込むことを働きかけるメッセージを LINE 上で受け 取っているやり取りなど,キックバックの存在を窺わせる証拠が発見された」としている

(同 116 頁)。

 前述(4.3.2 参照)の加藤弁護士は,某チャネルが融資 1 件につき行員に 300 万円のキッ クバックを支払っていたことや,新宿支店の某行員がそれによって巨額の裏収入を得てい たとの証言を入手している。こうしたキックバックの受領が,不正融資を実行するインセ ンティブの一つとなっていた可能性は否定できない。

 また,前述のとおりパーソナル・バンクではエリア制を採用していなかったため,遠方 の顧客に対しては,行員が出向いて貸付契約の手続きを行っていた。この出張の交通費に 関して行内に特段のルールはなく,当該案件を手配したチャネルが行員に支払う慣行が定 着していた。こうした業者との馴れ合いもコンプライアンス上の問題であるが,さらに行 員には実費を超過する金額が支払われていた。

 この点について第三者委員会報告書は,「フォレンジック調査によって,行員同士のメー ルで,「1,2 万(筆者注:万円)かと思ったら引くほど入っている」「〇〇(行員の名前)

ががんばる訳だ」というやり取りも発見されており,交通費の名目で業者から行員に対し て不適切な支払が行われていたことも否定できない」としている(同 115 頁)。名目は交 通費であっても,実費を大幅に超えた部分はキックバックと解すべきであり,多数の営業 担当者がそれを受け取っていたことは不適切と言わざるを得ない。

8.5 創業家本位の組織文化

 樋口(2012)は,環境適合性や社会倫理の面で特段の問題がない組織文化であっても,

組織不祥事を誘発するおそれがあると指摘し,そのメカニズムを以下の 2 点に整理した。

 ・コンプライアンス軽視のリスク 組織文化が法令や内部規則を超越する上位規範とし て作用することにより,コンプライアンスが相対的に軽視されるリスク

 ・リスク管理弱体化のリスク 組織文化の影響により,リスク管理対策を徹底せず,あ るいはリスク管理体制に所要の資源を配分しないために,組織不祥事に対するリスク 管理が弱体化するリスク

 さらに,いずれも組織文化が過剰に強い場合に発現する点に着目して,これらを包括的 にとらえて「組織文化の過剰性のリスク」と整理し,「組織文化が過剰に強いために,コ ンプライアンスが相対的に軽視され,さらにリスク管理体制の機能も低下することにより,

(7) 第三者委員会報告書の発表時点で 4 人全員が退職していた。

(8)

組織不祥事が誘発されるリスク」と定義した。

 本事件と類似するケースとして,大王製紙の特別背任事件が挙げられる。同事件を分析 した樋口(2013a)は,創業家出身の会長からの不正貸付の指示に連結子会社側が盲従し,

さらに内部統制部署である本社経理部もそれを放置していた背景として,創業家出身の経 営者に社員が無条件に服従する「経営者絶対型の組織文化」を指摘した。スルガ銀行の場 合にも,それと同様に創業家出身の経営者に迎合する組織文化が醸成されていたと認めら れる。2018 年 11 月にスルガ銀行が金融庁に提出した業務改善計画では,「創業家本位の 企業風土」と分析していることを踏まえ,本稿でも「創業家本位の組織文化」と呼称する(8)。  この組織文化が形成された事情として,創業家が大株主であることや,歴代の経営トッ プが創業家出身であったことがまず挙げられる。さらに岡野兄弟の父の岡野喜一郎氏(1964 年~1981 年に頭取在任)は,そのワンマン経営や貴族のような暮らしぶりを従業員組合 から批判された際に,経営寄りの労働組合を新たに立ち上げるとともに,従業員組合の委 員長を懲戒解雇するなどして行内の批判の芽を摘んだ(9)

 1985 年に社長に就任した岡野(兄)氏は,創業家の威光を背負っていたことに加え,

岡野(弟)氏とともに長年にわたり経営を掌握し,特に個人向けローンに注力する経営方 針を立てて業績を大きく伸ばしたことで,社内で絶大な権威を有していた。その結果,行 員の間には,創業家に迎合することが当然とされ,いかなる手段を用いても創業家の求め る結果を出さなければいけないとする考え方が深く浸透した。麻生氏は,この創業家本位 の組織文化を体現した人物であった(10)。少し視点を変えると,前述した数字第一主義は,

創業家本位の組織文化によって生み出された「症状」と位置付けられる。

 COO は取締役会が任命する役職であるが,執行会議の議長という以外に組織規程上の 記述はなく,その権限も明らかでない。COO が強大な権力を揮うことができたのは,創 業家出身の岡野(弟)氏がその地位に就いていたからである。麻生氏の役職の Co-COO もやはり権限が不明確であるが,「COO の代理」というイメージがある上に,麻生氏が Co-COO に任命されたのは岡野(弟)氏の意向であった。

 その結果,周囲が岡野(弟)氏に忖度するあまり,麻生氏に対しても遠慮するようにな り,「麻生氏の暴走とも言うべき行動・言動についても,その背後に絶対的権力者である 喜之助氏による承認があったことから,麻生氏を監視監督すべき営業管掌取締役を含め,

麻生氏に対し,誰も異を唱えないという状況に陥った」(取締役等責任報告書 15 頁)とさ れる。創業家の権威の下に岡野(弟)氏が組織規程上の根拠なしに業務執行を差配してい たため,同氏を後ろ盾に持つ麻生氏も不当な強権を行使できたのである。

 「麻生氏に対しては,故岡野副社長がしばしば数字を上げるよう厳しく要求していた」(第 三者委員会報告書 230 頁)とされる。また,審査部人事への麻生氏の介入(9.1.2 参照)

(8) 筆者は,樋口(2013a)の執筆当時には経営者の権力の強さに着目していたが,本事件と照合した結果,そ の強大な権力の源泉となった「創業家」の位置付けが非常に重要であると再認識し,「創業家本位の組織文化」

と呼称することが適切と考えるに至った。

(9) この解雇は,後に不当労働行為と認定された。

(10)「「創業家にはこびを売り,部下には厳しく当たって追い込む人が偉くなる。そんな社風は 90 年代から助長 された」。複数の OB はそう口をそろえる」(朝日新聞 2019 年 3 月 16 日朝刊記事「スルガファミリー下 「夢 前案内人」,現実は」)。

(9)

や不正融資を助長する制度変更(6.1 参照)は,岡野(弟)氏の承認の下に行われていた。

その意味では,麻生氏率いる営業部門の暴走は,岡野(弟)氏の意向に沿った行動であっ たと言えよう。

 第三者委員会報告書も,「故岡野副社長は営業の増長と審査の弱体化を知りつつ放任し ていたといわざるを得ないし,むしろそれを推進していたのではないかと疑わざるを得な い。(中略)業績向上のために執行の現場は強力に営業推進する者をトップにして自由に やらせるが,それは経営層が自ら手を汚すのではなく,少々営業部門が逸脱あるいはやり 過ぎることにも目をつぶる(経営層にはそういう情報は入らない),という態勢を採って きたといわれてもしようがない」(同 231 頁)と分析している。

 岡野(弟)氏は,出口ミーティングの開催にみられるように,融資の問題点の把握にも 努めており,営業の行き過ぎにブレーキをかける役割も果たしていた(11)。しかし,ブレー キをかけると業績を維持できないというジレンマに陥り,次第に営業部門を放任するよう に変化していった(12)。岡野(弟)氏が 2016 年 7 月に死去すると,代わりに岡野(兄)氏 が後ろ盾となり,その後も麻生氏は強権を行使し続けることができた。執行会議の議長も 引き続き麻生氏が務めた(13)。その一方で,岡野(兄)氏は業務執行に関与しなかったため,

ブレーキ役が不在となり,麻生氏の行動がエスカレートしたと推察される(14)8.6 小括

 東芝不正会計事件を分析した樋口(2017)は,当期の業績目標の達成を至上課題とする

「当期利益至上主義」が組織文化のレベルにまで浸透・定着していたため,経営幹部以下 が揃ってコンプライアンスを軽視し,部下に過度の圧力をかけ,社員は自発的に不正会計 を発案・実行していたと指摘した。その上で,成果主義に基づく厳しい業績評価が続けら れた結果,不正な指示であっても上位者に迎合することが下位者にとっての処世術となっ

(11)「喜之助氏は,営業に対してアクセルをかけるとともに,営業に対するブレーキも意識していた。当委員会 のヒアリングにおいても,複数の元取締役が喜之助氏は審査の話を聞いており,ストッパーの役目も果たし ていたと述べている」(取締役等責任報告書 61 頁)。

(12)「元取締役の供述によれば,2016 年 3 月,融資していた医師が自己破産した際,最後は無担保で貸付をして いたため,喜之助氏に対し,「こういうやり方はまずい。」と伝えたところ,喜之助氏もまずいと思っている と述べたものの,「もう麻生には言わないよ。」と述べたとのことである。これは,2015 年 2 月に喜之助氏が スマートライフとの取引を禁止した際,融資の実行額が下がり,喜之助氏は麻生氏から「ストップをかけた からこうなった。」と言われたため,もう喜之助氏から麻生氏にブレーキをかけるようなことを言わないと の趣旨の発言とのことであった。このやりとりからすれば,以後,喜之助氏は,営業の問題点や重大なリス クを認識した際も,融資残高を維持するために,営業にストップをかけることをしなかったものと推測され る。そのため,これ以後,喜之助氏の営業に対するブレーキの役割は弱まっており,シェアハウスローンの リスク分析手法が機能しないままの状態が放置されたものと考えられる」(取締役等責任報告書 99-100 頁)。

(13)「米山氏は「2017 年 4 月に自分が COO になって,会長(光喜氏)に「執行会議の議長は僕がやります。」と言っ たら,会長から「お前はやらなくていい。麻生がやるから一番後ろで聞いていろ。」と言われ,麻生を大事 にしているのだなと思った。」と述べるなど,喜之助氏の死去後も光喜氏は麻生氏を重用していた」(取締役 等責任委員会報告書 68 頁)。

(14)「喜之助氏は,光喜氏を除けば,麻生氏に対してブレーキを掛けることができる唯一の存在であったことから,

喜之助氏の死去後には,麻生氏を止められる者がいなくなり,結果として,本件一連の問題が極めて重大化 するに至っている」(取締役等責任報告書 15 頁)。

(10)

ていた問題について「上位者への迎合のリスク(15)」及び不正行為が次第にルーティン化 していくことで関係者の心理的負担が軽くなり,不正の規模や範囲がエスカレートしてい た問題について「不正行為の自己正当化のリスク(16)」を指摘した。

 本事件も,東芝不正会計事件と共通の構図が認められる。創業家本位の組織文化と創業 家の営業重視方針を背景として,営業本部内では数字第一主義が蔓延し,目標達成を求め る強い圧力と成果主義に基づく業績評価により「上位者への迎合のリスク」が発現してい た。また,資産形成ローンの比重が次第に大きくなり,その対象物件もリスクが高いシェ アハウス・簡易宿舎に移行していくなど,融資の健全性が時間の経過とともに失われていっ たことに鑑みると,「不正行為の自己正当化のリスク」も発現していたと認められる。

 数字第一主義や上位者への迎合が形成されたのは,麻生氏の強引な管理手法によるとこ ろが大きい。その一方で,執行役員にすぎない麻生氏が強権を揮うことができたのは,岡 野(弟)氏の後ろ盾あればこそである。その意味では,創業家の営業偏重の経営方針とそ れに盲従する創業家本位の組織文化が,営業部門の暴走をもたらした本質的な原因と言え よう。

 なお,第三者委員会報告書は,不正融資が行われた大きな原因として,「書類だけ揃え ればよいという極端な形式主義」及び「過度の効率性重視によるチャネルとのもたれ合い」

を指摘したが,この分析には首肯できない。形式主義の外観を呈したのは,偽装を看過す るための便法にすぎない。チャネルとのもたれ合いは,融資額の拡大が目的であって,効 率性重視によるものではない。不祥事の原因分析に当たっては,「目的と手段の混同」や「因 果関係の取り違い」に注意する必要がある。

9. リスク管理部門の機能不全

 スルガ銀行の 2018 年 3 月期の内部統制報告書は,「開示すべき重要な不備」として,「シェ アハウス関連融資については,シェアハウス案件のビジネスモデルや不動産業者を窓口と した営業に起因するビジネスリスクを把握しないまま,それまでの投資用不動産関連融資 の一つとして捉えて,融資を推進した」と分析したが,これは事実に反している。前述(7.1 参照)のとおりシェアハウスローンが開始される以前から収益不動産ローンでは偽装が行 われており,そのリスクに関しても行内で広く認識されていた。それにもかかわらず,こ の問題が放置されていたのは,審査部・監査部・経営企画部などのリスク管理部門が機能 不全に陥っていたためである。

9.1 審査部

 金融機関にとって最大の課題である信用リスクの管理を担当する審査部は,審査第一

(15)「強圧的な上位者に対して下位者が迎合的になるために,上位者の不適切な指示に対する組織内の抵抗が希 薄となり,あるいは上位者に追従した報告が行われることにより,組織不祥事が誘発されるリスク」(樋口

(2017),120 頁)。

(16)「不正行為を自己正当化する事情が存在するために,心理的抵抗が軽減されて不正行為の実行が容易になる リスク」(樋口(2017),122 頁)。

(11)

部・審査第二部・審査第三部・融資管理部・審査業務センターから構成され,本事件に主 に関係したのは,個人ローンを審査する審査第二部と,延滞債権を管理する融資管理部で あった。

 スルガ銀行の信用リスク管理規程は,「審査部において,営業推進部門との独立性を確 保し,牽制機能を発揮させる態勢を整備」と審査部の独立性を明記している。さらに,「審 査部において,営業推進部門に対し定期的な研修を行なう等,信用リスクに係わる内部規 程・業務細則を周知させ,遵守させる態勢を整備させる」として,審査部が営業部門に対 してリスク管理研修等を行うこととされていた。しかし審査部は,麻生氏の圧力や人事介 入などにより独立性を喪失し,機能不全に陥っていた。

9.1.1 問題点の認識

 前述(7.1.2)のとおり 2011 年時点で収益不動産ローンの不良債権が表面化しており,

審査部でも,チャネルによる不適切な勧誘,安易に融資を申し込む顧客,レントロールの 偽装,チャネルと銀行側の馴れ合いなどの問題を認識していたと考えられる。2013 年 11 月には審査部長通達により融資事務手続が改正され,チャネルに対する信用調査が義務付 けられた。この件に関して第三者委員会報告書は,「(手続改正の経緯に鑑みると,)チャ ネルのなかには不正行為等への関与などの面で問題を抱える業者が多数存在しており,そ うした不良チャネルを排除すべき必要性を審査部において認識していたことが窺われる」

(同 126 頁)と認定している。

 シェアハウスは,新しい賃貸形態であって市場予測が困難である上に,物件の構造が非 常に特殊で処分価値が大きく下落するおそれもあるなど,他の収益不動産ローンには見ら れないリスクが存在した(17)。そのため,「審査担当者のなかには,シェアハウスローンの 稟議申請がなされるようになった当初の時点から,そのビジネスモデルの合理性を疑って いた者が複数いた」(第三者委員会報告書 154 頁)とのことである。また,「特定の不動産 チャネルが特定の営業店との間での取扱件数を急激に伸ばしていることも,審査担当者は 異常値として注視しており,なかには不正行為を厭わない不良チャネルも存在することが 審査担当者にはなかば常識であったようである」(第三者委員会報告書 156 頁)とされる。

 2015 年 2 月にはスマートライフに対する内部告発が行われ,同 4 月から審査部がシェ アハウスの物件調査を開始した。その結果,入居状況の確認が困難であること及び入居率 がかなり低いと推定されること(18)などの問題点が認識された。前述(7.4 参照)のとおり 2015 年 5 月に審査第二部長がシェアハウスローンの稟議に異議を唱え,シェアハウス会 議の開催に至ったのも,こうした認識を踏まえての行動と思量される。

 ちなみに,内部告発を受けてスマートライフやそのダミー会社が取引禁止とされたが,

(17)大地(2016)の 79 頁の図解によれば,スマートライフのシェアハウスは 2 階建で,各階に個室 7 室(各 4.4 畳)

と,共用部分として炊事室 1 箇所・トイレ 1 箇所・シャワー室 2 箇所が設置されている。このように間取り が非常に特殊であるため,シェアハウス事業が成功しなかった場合,建物を他の用途に転用することは困難 である。

(18)2015 年 4 月に 72 件の入居状況を調査した結果,「明らかに満室」が 3 件,「明らかに未入居」が 8 件,「問題 あり先」が 1 件,その他は「目視では入居率 50% 程が妥当と思える」とのことである(第三者委員会報告書 155 頁)。

(12)

その後も審査担当者は,「現況確認をしたところ,カボチャの馬車の表示があり,スマー トライフとの取引が実質的に継続されているのではないかとの疑い」(第三者委員会報告 書 156 頁)を抱いていた。2016 年 12 月の審査部の「物件調査ミーティング」では,取扱 業者としてスマートライフの名前が挙げられ,同社との取引が継続されていること及び取 扱件数の約 6 割がスマートライフ関連であることを審査部は把握していた。

9.1.2 独立性の喪失

 上記のとおり審査部では収益不動産ローン等の問題点を認識していた。しかし,個々の 融資案件の稟議では,「審査担当者が営業担当者に対し,偽装の疑義などについて指摘し たとしても,すぐに反論され,再度疑義を指摘すると,所属長が登場して威圧的に反論が なされ,最終的には麻生氏が審査第二部長や審査部長に対し,直接かけあって,稟議を押 し通していた」(第三者委員会報告書 156-157 頁)とされる。その背景として,審査部が 独立性を喪失していたことが挙げられる。

9.1.2.1 麻生氏の圧力

 麻生氏は,執行役員専務・営業本部長という立場にありながら,個々の融資案件につい て審査担当者に直談判して圧力をかけていた。この点について取締役等責任報告書は,「個 別の融資案件について,執行専務兼 Co-COO として業務執行におけるトップの地位にあ る麻生氏が自ら出て行って直に談判すること自体ありえないことである。そのような絶大 な権力を持っていた麻生氏に詰め寄られれば,審査担当者が恫喝以外の何物でもないと感 じるのは当然であり,麻生氏の行動は正常な審査の機能を阻害していたことは明らかであ る」(同 115 頁)と批判した。その具体例として,審査担当者は以下のとおり証言してい る(第三者委員会報告書 157-159 頁)。

 ・「自己資金についておかしいときママ考えたときは現場と話をして,資料を確認しようと することもあった。しかし,麻生氏から,「なぜ現場の所属長を信じられないのか」「何 をこそこそやっているんだよ」と怒られたりした」

 ・「審査第二部長が麻生氏の部屋で厳しく叱責されていた場面は何度か目撃した。自分 が麻生氏から呼ばれることもあったが,麻生氏から審査第二部長や審査副部長と相談 したのかと言われ,相談した結果難しいと判断したと伝えると,審査第二部長や審査 副部長が麻生氏に呼ばれていた」

 ・「麻生氏は審査部にほぼ毎日来ていた。冗談っぽく,全部承認しろと言っていた。プレッ シャーは感じた。麻生氏が怒鳴ることもあった」

 ・「麻生氏などは怒っていると怒鳴っていく。月に一度や決算の前月などはよく怒って いた。例えば,「この野郎ふざけるな」と審査部の個人名を名指しで言うこともある。

また,営業担当者に電話で審査結果を伝えると,別の日に麻生氏が来ることもあった。

実際,私も,一度否決にしたところ,麻生氏が反論してきて,承認せざるを得ないこ ともあった」

 融資額 1 億円以上の案件について営業側と審査側が意見交換をする SSP 会議にも麻生 氏は毎回出席し,「SSP 会議ではパワハラで恫喝が当たり前」(第三者委員会報告書 174 頁)

という振る舞いで,審査担当者に圧力をかける場に変質させていた(19)。さらに営業担当

(13)

者が麻生氏の名前を持ち出して稟議の承認を迫ることもあり,麻生氏の直接指揮を受けて いた横浜東口支店では,稟議書の冒頭に「パーソナル・バンク協議済み」(= 麻生氏の承 認済み)と記載して審査部に圧力をかけた(20)。一部には,営業側が審査部を軽視するあ まり,稟議の決裁前に融資契約を締結していたケースさえ見受けられた。

 かくして審査部は独立性を喪失し,不正融資の追認機関と化していった。資産形成ロー ンの承認率は,2015 年度の取扱い開始から 2017 年度上期まで常に 99% を超えていた。

土地を保有していない(≒個人資産が少ない)顧客を対象としていたことを考えると,異 常な高率である(21)。金融庁行政処分も,「営業部門の本部長ミーティングで妥当とされた シェアハウス向け融資をほぼ全件(99%)承認するなど,実質的に審査が形骸化している」

と批判した。

 ちなみに,一部の審査担当者は,審査部内でのみ閲覧できる特記事項として,問題案件 について審査意見を書き残していた。その趣旨は,「審査の意見を残しておくことが,デフォ ルト時に審査部の抵抗材料として役立つという判断」(第三者委員会報告書 158 頁)であり,

審査部の責任回避を目的とするものだった。審査意見の数は計 261 件に達したが,その中 でもレントロールの妥当性に関する疑義が 159 件(全体の 60.9%)と最も多かった。2016 年に審査意見の数が急増しており,同年に審査の形骸化が急速に進んだと推察される。

9.1.2.2 人事への介入

 前述(8.2.3 参照)のとおり麻生氏は人事異動に不当に介入しており,審査部に対して も同様であった。第三者委員会報告書は,「個人向けの収益不動産ローンの審査を主に担 当する審査第二(東京)の人事に関しては,ほぼ,パーソナル・バンク長の麻生氏が起案 していた」(同 193-194 頁)と認定している。営業側に従順な者を審査担当者として,審 査を形骸化させる狙いだったと考えられる。

 2013 年 4 月時点の審査第二部の体制は計 8 人,そのうち麻生氏の直属部下だった経歴 を有する者は 1 人,パーソナル・バンクの勤務歴を有する者は 4 人であった(重複あり。

次も同じ)。しかし 2018 年 4 月には,計 14 人のうち前者が 7 人,後者が 13 人に増加して いた。こうした経歴の人物が,営業側に対して及び腰になりがちなことは言うまでもない。

 人事介入の中でも特に重大な事案が,2014 年 5 月の審査第二部長の交代である。当時,

審査第二部長は 2 人配置され,1 人はスルガ平本部(静岡県長泉町所在)に所在し,もう 1 人が東京本部でパーソナル・バンクの審査を担当していたが,この 2 人の勤務地を入れ 替えるという異例の人事が行われた。スルガ銀行の人事は 4 月と 10 月の定期異動が原則 であり,時期的にも異例であった。この人事は麻生氏が主導したもので,「当時のキャス

(19)SSP 会議で配付される資料(SSP シート)には,「シェアハウスローンに係る融資案件の申込者の年収や勤 続年数から見て異常に多額の預貯金が記載されているなどの不自然なケースが散見されていた」(取締役等 責任報告書 117 頁)とされる。

(20)審査担当者は,「麻生氏と協議済みといわれてしまうと,審査役のレベルで反論することは難しかった」「「協 議済み」の場合には,通常審査ではなく,できるだけ前向きに見て,審査を通す方向で検討しなければなら なくなっていた」と証言している(第三者委員会報告書 159-160 頁)。

(21)2008 年度から 2010 年度までは,土地を保有している(≒個人資産が多い)顧客を対象としていたにもかか わらず,承認率は 80~90% 程度であった。

(14)

ティング部(現人事部)としても,通常,あり得ない異動という認識だった様子であり,

また,上記異動の当事者である 2 名の審査第二部長の上席者である審査部長の意向確認す ら行われずに断行されたようである」(第三者委員会報告書 199 頁)とされる。

 その理由について麻生氏は,「東京勤務であった審査第二部長は,案件が集中すると決 裁スピードが落ちる傾向があった(麻生氏の認識では,難しい案件をなかなか上席者に持っ て行けずに,案件が停滞する傾向にあった)」(第三者委員会報告書 198 頁)と説明してい る。同時期に前述(6.1.3 参照)のとおり資料確認を簡素化している事実と考え合わせると,

収益不動産ローンの決裁が遅い(= 営業側に従順でない)審査第二部長を排除したと認め られる。これほど乱暴な人事を見せつけられ,審査部が萎縮したことは想像に難くない。

 なお,第三者委員会報告書は,「(岡野(弟))副社長の指示がなかった場合にも,麻生 氏が管掌外の部署の人事案の起案をしていたというのが当委員会の認定した事実である が,一方で,同副社長から指示があったケースがあったこともまた事実とみられる」(同 267 頁)と認定している。麻生氏の人事介入は基本的に岡野(弟)氏の承認の下に行われ ており,経営企画部管掌(人事部担当)取締役を含む人事関係者が特段の抵抗をしなかっ たのも,やはり岡野(弟)氏への忖度によると考えられる。

9.1.2.3 審査部上級幹部の迎合

 柳沢氏は,2013 年 4 月から執行役員(後に執行役員常務)・審査部長を務め,2017 年 4 月からは常務取締役として審査部を管掌した。同氏は,以下のとおり収益不動産ローン等 の問題点を認識していた。

 ・柳沢氏は,2013 年以降,偽装に関する 30 件以上の外部通報の報告を受けていた。

2014 年 5 月の資料確認の簡素化に先立ち,同氏が岡野(弟)氏に対して確認強化を 要請していた事実(6.1.3 参照)からも,偽装の蔓延を承知していたと認められる。

 ・柳沢氏は,出口ミーティングについて毎回報告を受けていたわけではなかったが,少 なくとも報告資料の一部を受領していた。さらに,融資管理部の直属上司として,日 常の業務管理を通じて収益不動産ローンのリスクについての情報を入手していた。

 ・審査担当者が問題案件について書き残した審査意見は,審査の形骸化を示す重要な証 拠であったが,「このような審査意見の存在について,審査管掌取締役は把握してい たにもかかわらず,何らの対処も行わず,また他の取締役に共有することもなかった」

(取締役等責任報告書 47 頁)とされる。

 ・柳沢氏は,2016 年 1 月の信用リスク委員会で,シェアハウスの入居状況の確認が困 難と報告した。ちなみに,第三者委員会の事情聴取に対して柳沢氏自身が,「2015 年 か 2016 年の時点で,シェアハウスの入居率を精査すべきであることやサブリース会 社が自転車操業に陥ることの危険を認識していた」(第三者委員会報告書 260 頁)と 証言している。

 ・柳沢氏は,2016 年 3 月に FACTA オンラインに記事「「かぼちゃの馬車」スマートラ イフの裏側」が掲載されたことを認識していた。

 ・2016 年 5 月のシェアハウス会議ではシェアハウスローンの問題点が明確に指摘され たが,柳沢氏は,同会議に出席した審査部副部長と審査第二部長から会議内容の報告 を受けていた。

(15)

 柳沢氏の勤務地は静岡県のスルガ平本部であったが,東京所在の審査第二部に営業側か ら圧力がかかっている状況についても把握していた。この点について同氏は,「社内では,

審査に対して営業が圧力をかけることは広く認識されていた。皆知っていたのではないか と思う」(取締役等責任報告書 81 頁)「(営業側の圧力により,)審査担当者のなかには,

業務に耐えられない等の理由で退職したり,異動願いを出したりする者も少なくなかった」

(第三者委員会報告書 261 頁)と証言している。

 上記のとおり,柳沢氏は収益不動産ローン等の問題点や,審査に対する営業部の圧力も 認識していたが,特段の対策を実施していなかった。前述(6.1 参照)のとおり融資限度 額を担保評価額の 120% に引き上げたり,資料確認を簡素化したりすることに同意した事 実と考え合わせると,審査部長の立場でありながら審査の形骸化を放置していたと認めら れる。

 また,2015 年 4 月から 2017 年 3 月まで審査部を管掌していた八木取締役も,柳沢氏と 同様に収益不動産ローン等の問題点を認識していた。同氏は営業側が審査部に圧力をかけ ていることも把握しており,「(審査第二部長が,)今から麻生さんのところに話にいって くるといったようなことは,その場面では記憶してます。どうせボロボロになって帰って きますというような 」(第三者委員会報告書 265 頁)と証言している。

 審査の形骸化を放置した事情について八木氏は,「5 期連続の右肩上がりの業績があっ たことと,あと,その数字を落とせないっていう雰囲気が全社の中であったというのは事 実だと思います。その中で,自分自身がそういう踏み込んだ発言ができなかったというこ とだと思います 」(第三者委員会報告書 265 頁)と説明している。審査部の上級幹部であっ ても「数字第一主義」の影響から逃れられず,目標達成にはパーソナル・バンクに依存せ ざるを得ないとの遠慮が生じていたことになる。また,資料確認の簡素化で柳沢氏が岡野

(弟)氏の意向に従っているとおり,創業家本位の組織文化にも縛られていたと認められる。

 このように上級幹部が営業側に迎合したことが,審査部が独立性を喪失した理由の一つ である。麻生氏の後ろ盾であった岡野(弟)氏が 2016 年 6 月に死去し,さらに 2017 年 2 月にサクトが経営破綻して,社内でも麻生氏に対する批判の声が広がったことにより,よ うやく審査部も営業側に対して抵抗姿勢を示すようになった。

9.2 リスク委員会とコンプライアンス委員会

 経営会議の下部機関として設置された 5 つのリスク委員会のうち,本事件に関連するの は信用リスク委員会と事務リスク委員会である。

 信用リスク委員会では,2016 年 1 月にシェアハウスの入居状況を外観から確認するの は困難と柳沢審査部長が報告したにもかかわらず,その後に特段の調査を行った形跡はな い。2017 年 4 月には同委員会でサクト問題が取り上げられたが,「サクトの破綻は募集能 力がなかったことや販売不振によるもので,サクト固有の事情である」との麻生氏の一方 的な説明によって議論が封じられた。信用リスク委員会が初めて営業側に抵抗したのは 2017 年 9 月 21 日であり,同 7 月の第 4 回「サクト会議」を受けて社内の空気が変化した ことが契機になったと推察される(7.6 参照)。

 もう一つの事務リスク委員会は,「経営に重大な影響を与える不正・不祥事件」(第三者 委員会報告書 41 頁)の審議を担当していた。しかし実際には,口座や手数料の間違いな

(16)

どの事務手続きのミスを集計して半期ごとに報告するだけで,本事件には対応していな かった。

 両委員会の他にも,取締役会の下部機関としてコンプライアンス委員会が設置されてい たが,専らコンプライアンス・プログラムの審議やコンプライアンスに関する各種報告を 行っていた。本事件への対応は,前述(7.5 参照)のとおりコンプライアンス・チェック リストに融資関係資料の偽装に関する項目を追加しただけで,消極的と言わざるを得ない。

 このように各委員会が揃って機能不全に陥っていた事情として,規程上は取締役会や経 営会議の補佐機関と位置付けられていたものの,現実の運用では,岡野(弟)氏や麻生氏 が差配する執行会議の下部機関と化していたことが挙げられる。この点について第三者委 員会報告書は,「(各委員会は,)問題事象の情報把握に問題があり,またそれを積極的に 提案しようという意識が感じられない。(中略)自ら主体的に物事を考え,取締役会,経 営会議の補佐機関として,必要な情報を提供しなければならないという職責の認識が薄 かったのではないか」(同 285 頁)と指摘した。

9.3 監査部

 内部監査を担当する監査部は,被監査部門から独立した組織とするために経営会議の直 轄とされ,30~40 人の体制であった。本事件に関係する監査業務は,本部や営業店のコ ンプライアンス態勢やリスク管理態勢の適切性・有効性を監査する「臨店監査」と,内部 管理態勢を監査する「業務監査」である。

 臨店監査については,チェックリストに基づき事務手続が社内規程を遵守しているかど うか確認することが中心であり,不正行為が発見されることはほとんどなかった。例えば,

収益不動産ローンの営業の中核であった首都圏営業部に対して 2015 年 11 月に臨店検査を 実施した際も,監査報告書には事務手続の問題点ばかりが指摘されていた。

 業務監査では,リスク・アプローチに基づき,社内のリスクを包括的に評価するリスク アセスメントを踏まえて監査計画を策定するとされていた。このリスクアセスメントにつ いては,「少なくとも年に 1 度実施し,当社が内包するすべてのリスクについてその存在 を洗い出し,それぞれ予想発生頻度と影響度の大きさをリスクの面から総合的に評価」(第 三者委員会報告書 50 頁)とされていたが,実際には,リスク項目を列挙したシートを各 部門に送付し,統制状況や残余リスクを自己申告させていた。項目に挙げられていないリ スクについては検討がなされず,自己申告の回答も毎年ほとんど同じ内容であったため,

リスクの洗い出しは有名無実化していた。

 その結果,業務監査では,事前に用意されたチェックリストの項目に沿って,被監査部 門の説明を聴取するだけになっていた。2014 年から 2017 年にかけて実施された業務監査 では,収益不動産ローンの不正行為やその兆候についての指摘はまったくない。審査部に 対する業務監査でも,社内規程の整備状況や組織体制などの形式だけに着目して,「審査 部門は,組織上も営業部門から独立しており,担当役員の兼務もなく,営業推進部門から 影響を受けない体制となっている」(第三者委員会報告書 187 頁)との結論を下している。

 また,特定のリスクについて監査を行う場合にも,そのリスクと関連が深い一部門のみ を監査対象としており,網羅性が欠如していた。例えば,信用リスクであれば審査部だけ が監査対象となり,個別に融資を実行している営業部門は除外されたため,不正の兆候を

(17)

発見する機会が乏しかった。

 上記のとおり内部監査は,チェックリストに基づき受動的・形式的に確認することが中 心であった。この点について第三者委員会報告書は,「(内部監査は,)外形的であって,

本当に重要なリスクや問題を摘出する仕組みとはなっていなかった」(同 310 頁)と批判 した。また,金融庁行政処分も,「監査部は,一連の不正行為に関して,融資方針や施策,

ポートフォリオの構造変化などに対するリスクアセスメントを行っておらず,事務不備点 検に重きを置いた監査にとどまっており,不正の兆候を発見できていない」と認定した。

 内部監査が形骸化した事情の一つとして,情報の不足が挙げられる。監査部長は執行会 議に参加していたが,重要なリスク情報がやり取りされていた非公式の会議(SSP 会議,

出口ミーティング,シェアハウス会議等)には出席していなかった。また,お客さま相談 センターやヘルプラインに持ち込まれた情報を監査部に報告する仕組みも無かった。こう した情報が内部監査に有用であることは周知の事実にもかかわらず,「監査部において能 動的にこれらの情報を収集しようとしていた形跡は見受けられない」(第三者委員会報告 書 189 頁)とのことである。

 人事面でも監査部は弱体であった。数字第一主義に染まった社内では,業績向上に寄与 しない監査部の立場が弱かったためと推察される。第三者委員会報告書は,「(スルガ銀行 は)営業オリエンテッドな組織になってしまっており,内部監査等,管理部門に十分な人 材が配置されていないのが現状」(同 197 頁)「監査部は,社内において強い力を有してい たとは到底思えない。(中略)働き盛りの者は監査部には配属されず,定年退職間際の者 が配属されていた。このような人事は,かつては大規模な金融機関でも見られたと思われ るが,退職間近の者の閑職とみられてしまうと,たんなる腰掛けのポストでしかなくなる」

(同 226 頁)と指摘している。

 その一方で,監査担当者は,長年の勤務により社内の情報を収集する個人的ネットワー クを保持しており,それを通じて収益不動産ローン等の問題点を把握することは難事でな かったはずである。しかし,第三者委員会報告書によれば,2014 年から 2017 年にかけて の監査担当者の誰一人として,シェアハウスローンの不審点を認識するどころか,シェア ハウスローンが 2015 年以降急増している事実にさえ気付いていなかった(同 188 頁)。監 査担当者は営業偏重の方針に迎合し,「見ざる聞かざる」の姿勢に徹していたように思わ れる。

9.4 内部告発等の取扱い

 お客さま相談センターなどの部署は,チャネル関係者からの内部告発や,行政機関や取 引先などからの外部通報,顧客からの苦情・相談などの形で不正に関する情報を入手して いたが,それらを業務の改善に活かすことができなかった。

9.4.1 内部告発・外部通報の取扱い

 スマートライフに関する 3 件の内部告発の処理状況は,以下のとおりである(7.2 参照)。

 第 1 の 2015 年 2 月の内部告発は,スマートライフ経営者の犯罪歴とサブリースの問題 点を指摘する内容であった。これを受理したお客さま相談センターは,経営企画部と審査 部に伝達した。審査部から告発内容に信憑性があるとの報告を受けた岡野(弟)氏は,ス

(18)

マートライフとの取引禁止を指示したが,横浜東口支店はダミー会社を通じて取引を継続 した。この件に関しては,コンプライアンス担当の経営企画部の関与が乏しいこと,横浜 東口支店の対応についての確認が不十分なこと,スマートライフの経営状況や過去の融資 案件について調査が実施されなかったことが問題である。

 第 2 の 2015 年 4 月の内部告発は,外部機関を経由してお客さま相談センターが受理し た。第 1 の内部告発と同一人物が行ったもので,内容も同様であった。前回の内部告発後 もスマートライフとの取引が続いていたことから,あらためて外部機関に告発したと推察 される。経営企画部が横浜東口支店に問い合わせたが,「スマートライフとの取引は既に 中止した」との虚偽の回答を鵜呑みにして調査が終了した。この件に関しては,同支店に おけるシェアハウスローンの取扱状況を精査しなかったことや,審査部が処理に関与しな かったことが問題である。

 第 3 の 2015 年 5 月の内部告発は,ダミー会社を通じてスマートライフとの取引が継続 されていると指摘する内容で,お客さま相談センターが受理した。経営企画部が横浜東口 支店から再度の事情聴取をしたところ,「ダミー会社はスマートライフとは別の会社であ る」と虚偽の回答を受けた。その一方で,スマートライフを請負会社とする物件が 120~

130 件もあるとの説明を受けており,ダミー会社とスマートライフの関係を疑ってしかる べきであった。経営企画部ではそれ以上調査しなかったが,審査部ではこの内部告発を重 視し,ダミー会社も取引禁止とした。このように経営企画部と審査部の間で受け止め方が 大きく異なっていたにもかかわらず,両部署の摺合せが行われなかったことは問題である。

 このように 3 件の内部告発への対応が不徹底であったことが,その後のシェアハウス問 題の拡大につながった。さらに,2016 年 12 月になされた内部告発(7.5 参照。スマート ライフとの関係は不明)は,非常に具体的な内容であったにもかかわらず,関係者の間で 密かに回覧されただけであった。この件については,「エリア長」(一定地域の営業店を担 当する上級管理者)から審査担当者,審査部管掌の八木取締役,そして CCO(チーフ・コ ンプライアンス・オフィサー)の白井取締役という不可解なルートで情報が伝達されてい ることや,「私は聞かなかったことにする」と審査担当者が回答したことを考え合わせると,

内部告発の取扱いとして異常と言わざるを得ない。

 それ以外にも,2013 年以降に書類偽装に係る外部通報が 30 件以上もお客さま相談セン ターに寄せられ,その中には実際に偽装行為が確認されたケースも存在した。これらの情 報は柳沢審査部長に報告されていたが,経営会議に報告されたのはその一部にすぎず,十 分な対策が取られずに放置されていた(22)

 その背景として,内部告発等の処理に関するルールが存在しなかったことが挙げられる。

「お客さま相談センターに入った外部通報について,通報内容に応じた対応担当部署や,

上層部への情報伝達経路等が一切定められていなかった。そのため,外部通報があった場 合には,同センター長の判断により,通報内容に応じて営業店舗,営業本部,審査部,経 営企画部等の各部署に報告がされ,各部署内で適宜対応しており,各部署の管掌取締役へ

(22)一例を挙げると,2014 年に外部通報によりチャネル 4 社について団体信用生命保険の診断書の偽装が発覚し た件は,審査部管掌取締役やコンプライアンス管掌取締役に報告され,2015 年 1 月の経営会議でも審議され たが,団体信用生命保険の手続きの改訂という弥縫的対策にとどまった。

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