本事件を契機として金融庁は金融機関に対する調査を実施し,2019 年 3 月に「投資用 不動産向け融資に関するアンケート調査結果」(金融庁(2019))を発表した。その要旨は 以下のとおりである。
・スルガ銀行以外でも,自己点検や金融庁のモニタリングの中で,資料偽装などの不動 産業者による不正行為が認められた。
・スルガ銀行の問題が広く認知されるまで,紹介業者の適切性を検証していない金融機 関が多数存在した。
(61)この調査結果を受けてスルガ銀行では,15 人を懲戒処分,22 人を厳重注意とした。
・融資審査の際に賃貸事業の収支シミュレーションを実施して返済可能性を見極めるこ とを徹底していない,あるいは物件の売買価格の妥当性の検証を徹底していない金融 機関が一部に存在した。
・顧客の財産・収入関係資料の原本を確認していない,あるいは顧客のリスク理解度の 確認を徹底していない金融機関が相当数存在した。
・融資実行後に物件の空室率や家賃の確認を徹底していない金融機関が相当数存在した。
前述(3.1 参照)のとおり金融庁がスルガ銀行を高く評価したことを受けて,投資用不 動産融資に積極的な銀行が増える一方で,不動産業者絡みの不正を防止する仕組みの整備 が追い付いていなかったことが認められる。ちなみに,スルガ銀行以外にも 10 行程度の 金融機関がスマートライフと取引しており,本事件は決して「対岸の火事」ではなかった(62)。 2019 年 5 月 24 日には,スマートライフに融資していた西武信用金庫(63)が金融庁から業 務改善命令を受けた(64)。その処分理由として,「融資実行を優先するあまり,融資審査に あたり,投資目的の賃貸用不動産向け融資案件を持ち込む業者による融資関係資料の偽装・
改ざんを金庫職員が看過している事例が多数認められる」「反社会的勢力等との取引排除 に向けた管理態勢が不十分である」「強い発言力を有する理事長に対して十分な牽制機能 が発揮されて(いない)」などの指摘を受け,スルガ銀行と同様の状況であったことがう かがえる(65)。
おわりに
2019 年 5 月,家電量販店大手(業界第 5 位)で東証一部上場のノジマがスルガ銀行と 業務提携に関する基本合意を締結し,同 10 月には創業家の保有株式のすべてを 140 億円 で取得した。これと同時にスルガ銀行は,ファミリー企業に対する融資残額 433 億円をす べて弁済させる旨の合意書を締結したと発表した(66)。ノジマへの株式売却に加えて,ファ ミリー企業が保有していた不動産を売却させることで回収し,2019 年度中に融資関係を 解消するとのことである。
スルガ銀行が創業家との関係を断ち切り,再出発を果たしたことは高く評価できるが,
あれほど企業体質が病んでいた以上,今後の道のりは険しいと言わざるを得ない(67)。また,
本稿で指摘したように不正融資は様々な分野で行われており,多額の不良債権処理を迫ら れる事態に発展するおそれもなしとしない。スルガ銀行の再起を心から祈る一方で,これ
(62)「シェアハウスのスマートデイズ,オーナーへの融資「スルガ銀行以外に約 10 行」」(東京商工リサーチ 2018 年 4 月 16 日記事)。
(63)スマートライフの勘定科目内訳明細書によると,西武信用金庫は 2016 年 3 月期末の借入先の一つであり,
借入金額は 280 百万円であった。
(64)関東財務局「西武信用金庫に対する行政処分について」
(65)西武信用金庫も,「超低金利下で地域金融機関の経営が厳しいなか,貸出金を 8 年で 2 倍近くに増やすなど 突出した高収益をあげてきた」とのことである(朝日新聞 2019 年 4 月 9 日朝刊記事「準暴力団側に融資か 西武信金,金融庁処分検討へ」)。
(66)スルガ銀行 2019 年 10 月 25 日発表資料「創業家ファミリー企業との融資・資本関係の解消に向けた弁済合 意書締結について」
からもその動向を注視することとしたい。
〔参考資料〕
大おお
地ち則幸(2016) 『「家賃 0 円・空室有」でも儲かる不動産投資』ダイヤモンド社
監査役責任調査委員会(2018a) 『調査報告書(公表版)(2018 年 11 月 14 日)』(監査役 責任報告書)
監査役責任調査委員会(2018b) 『調査報告書(公表版)(2018 年 12 月 27 日)』(ファミリー 企業報告書②)
金融庁(2018) 「スルガ銀行株式会社に対する行政処分について」(金融庁行政処分)
金融庁(2019) 「投資用不動産向け融資に関するアンケート調査結果」
スルガ銀行(2019) 『報告書(投資用不動産融資に係る全件調査)』(全件調査報告書)
第三者委員会(2018) 『調査報告書(公表版)』(第三者委員会報告書)
武井一浩(2007) 「「内部統制監査役監査基準」の解説(下) ―企業価値を高める「日本 版内部統制」に向けて―」『商事法務』1799 号,66-78 頁
取締役等責任調査委員会(2018a) 『調査報告書(公表版)(2018 年 11 月 14 日)』(取締 役等責任報告書)
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樋口晴彦(2011a) 「ジーエス・ユアサ循環取引事件」『捜査研究』60(2),86-95 頁 樋口晴彦(2011b) 「組織不祥事の原因メカニズムの分析 ―18 事例に関する三分類・因果
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桃書房
樋口晴彦(2013a) 「大王製紙会長による特別背任事件の事例研究」『千葉商大論叢』51(1),
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樋口晴彦(2017) 『東芝不正会計事件の研究 ―不正を正当化する心理と組織―』白桃書房 樋口晴彦(2019) 「LIXIL・CEO 解任事件に見るガバナンス強化の課題」『リスクマネジ
メント TODAY』117 号,11-13 頁
(2021.1.18 受稿,2021.2.24 受理)
(67)「企業風土がここまで劣化し,改善の希望もない状況になると,通常の対策ではその回復は困難である。全 員が不正行為の当事者になったようなもので,そのままではその行動を改善する動機もきっかけも正当性も 生じない。(中略)ここまで劣化した場合,それを劇的に改善するには,他の企業と統合するとか,経営層の 総退陣等,根本的な経営基盤の変更が必要ではないかと思われる。新しい人材が新しい風・価値観を持ち込 んでくれない限り,自力では変われないのである」(第三者委員会報告書 293 頁)。