くんが文字を使うということ
著者 荒木 良子
雑誌名 福井大学教育実践研究
巻 32
ページ 203‑215
発行年 2008‑01‑31
URL http://hdl.handle.net/10098/1662
1.はじめに
一誠くんは全盲(先天盲)の6年生の男の子である。
現在,OT小学校特別支援学級ひまわりに在籍している。
筆者が勤務する盲学校(教育相談)と一誠くんとの付き 合いは生後4ヶ月からで,保育園や小学校へ訪問したり,
盲学校に一誠くんが来校しての係わりが続いている。
6年生(2007年)の5月に 一誠くんは点字絵本テルミに 関心を示し,6月には絵(点 図)ではなく点字に触れて「な んて書いてあるの?」と言い 出した。一誠くんの両手の統 制された動き,点字を文字と 認識し書かれていることを知 りたいと思う気持ち,「点字
を勉強する」と集中する様子を見て,点字の学習を系統 的に始める時期に来ていることを確信した。どんな筋道 があってこの時が満ちたのかと考えるとき,その時々の
「今」を大切にしてきた学びと生活の膨らみとでもいえ るものがあることに思いが至った。それを一誠くんのこ れまでの育ちを振り返って教えて貰おうと考えた。
幼児期からの教育相談記録および小学校の連絡帳(1
〜3年生:廣嶋きよえ,4〜6年生:吉田由美子※)を 検討していくと,点字学習へと繋がる一誠くんの姿と係 わり手の姿勢が浮かび上がってきた。手が目となるよう な探索活動,ことばが育ち文字に対する認識が生まれて きたこと,豊かなコミュニケーション関係があること,
机上の整理された課題学習が積み上がってきたことなど である。そこで連絡帳および盲学校教育相談記録(記述
記録とビデオ,1998年度〜2007年度)を検討し,コミュ ニケーション関係およびことばと文字を視点に,文字学 習につながったものについて一誠くんの育ちから学んだ ことを整理していきたい。
※ 廣嶋きよえと吉田由美子は一誠くん専任の支援 員。本文中では担任とし,廣嶋,吉田と記す。
2.振り返りの材料について
この実践記録は次の資料を基にして構成した。
(1)連絡帳(活動記録)1〜3年 廣嶋
(2)同 上 4〜6年 吉田
(3)保育園時代からの教育相談記録
1998〜2007年度 盲学校教育相談部
(1)(2)の資料は日付に続いて原則として本文を そのまま転載する。
例 4月19日 今日,マキマキを……
3.点字学習に向かう「時」が満ちるまで
3−1 保育園時代〜人への信頼とことばの基礎 一誠くんは生後11ヶ月時にH保育園に入園した。「家 では静かに寝ていたことが多かった彼は,にぎやかな保 育園に来てさぞかしビックリしたことだろう。」「大人は 安全という意識が働くのか,だれにでも安心して身を任 せてくれるようであった」(菅原,2001)という園生活 の始まりであった。
保育園では一誠くんが人を信頼し,安心して手を伸ば
共感的な関係を土台に生まれる文字
〜全盲の一誠くんが文字を使うということ〜
福井大学大学院教育学研究科 荒 木 良 子 教育実践報告
全盲の一誠くん※が小学校に就学した頃,点字の学習をするのはまだ少し時間が必要だった。文字が なくてもたくさんのことを一誠くんは学んできた。小学校での豊かな生活が積み重なって6年生になっ た時に,彼は点字の勉強を始めた。その時々を大切にして,生活が膨らんできたときに文字を学ぶよう になる時が訪れることを一誠くんに教えて貰った。大切にしてきたことはなんだったのか。一誠くんは 全身を使って周りの世界を調べてきた。その時間は彼の生活のすべての土台である。朝読書で友だちに 絵本を読んで貰ってきた。担任とともに友だちや先生に手紙を書いてきた。思い出に残る出来事を作文 に仕立ててきた。位置や方向について教材を工夫して机上での学習を積み上げてきた。盲学校の教育相 談担当者はクッキーを作りを通して点字の環境を取り入れてきた。これらの学習が展開され,「点字に 向かう」時が満ちた。
※ 保護者の了解により実名で記す。これは保護者のご希望でもある。
キーワード:全盲児 共感 手紙 作文 文字
写真1 テルミを見る
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し,踏み出せるように「いつも誰かが傍にいる」ことを 心がけた。6年間の保育期間中,担任が継続しており,
(2〜5歳児は同じ担任)一誠くんのグループには常に 保育士が加配された。独歩が確立し音声のことばが増え ていった4歳時には午前中の遊びおよび食事が終わるま で常時一人の保育士が付き添うなど,保育士,大学生,
盲学校の教育相談らの連携により大人との1対1の関係 を確保し,一誠くん自身のペースが大切にされる環境が 提供された。
そうした大人との安定した関係により動き,もの,出 来事に音声のことばを添え,音声の言葉に具体的な動き やものを対応させる係わりを常に心がけた。
主に言葉に関する保育園の取り組みについて 満1歳(1996年) 自ら動こうとする意欲が育つように やさしい刺激を多く取り入れるよう工夫し,一つひとつの 動作に言葉を添えてゆっくり繰り返し伝えていく。
満2歳(1997年) 大好きな音楽を聴いたり,いろいろ 歌を歌って聞かせる。他の子ども達と一緒にお話を聞いた り,話し掛けを通しゆっくり,はっきり話すように心がけ ていく。
満3歳(1998年) 物の名前,動作,行為などに言葉を 添えて繰り返し伝えていく。
満4歳(1999年) 言葉だけが一人歩きしないよう,い ろいろな動きを丁寧に言葉を添えて伝えていく。ピョンピ ョン,タッカタッカなど,動きに言葉を添えていくと同じ に柔らかい・硬い,重い・軽い等言葉の性質や状態を伝え ていく。
満5歳(2000年) いろいろな言葉遊び,いろいろな音 遊び,リズム遊びなどを楽しみながら伝えていく。毎日の 活動の中で心の状態・気持ちや感じ・感覚,いろいろな言 葉の性質・状態を伝えていく。
満6歳(2001年) 毎日の生活でいろいろな場面に遭遇 し,いろいろな気持ちを言葉で表現できるように配慮して いく。毎日帰りのお集まりに参加し,集団の中で子ども達 と一緒に話を聞いたり歌を歌ったり,リズム遊びを楽しむ。
(H保育園,2001年)
3歳8ヶ月,盲学校教育相談の保育園に訪問時のこと。
一誠くんは「さようなら」を告げた(盲学校)相談担当者 の膝の上に上手に座って,まだ居てほしいことを伝えてきた。
伝えたい気持ちを,伝えたい相手に向かって,自分にできる 表現で伝えることができる。それは普段,保育士さん方が一 誠くんの気持ちを受け取って係わっているからだと思う。
(1998.12.24教育相談記録)
次に4歳時に見られた係わり合いの様子を紹介する。
廊下を歩いている一誠くんと手を繋ぎ,一方の手を壁に ガイドしながら「でんき」と一誠くんが触れたものに言 葉を添える,園庭に出る小さな階段の昇降を飽きもせず 続ける一誠くんにゆったりと付き合い「階段,のぼった ね」「階段,おりたね」と言葉を添える,「お茶,飲む」
「おしっこ,出る」と頻繁に言う一誠くんの言葉はやり
とりを続けたい彼の気持ちだと受け取り,「お茶,飲ん だね」「おいしかったね」などと音声でのやりとりを楽 しむ。卒園時に保育園は次のように述べている。
いろいろな人との係わりにより,言語面・社会面において も成長ぶりをみせてくれ,探索意欲も随分見られるようにな ったが,内面をことばにして表現することの難しさ,気持ち を分かってもらえないもどかしさも感じられ,大人が傍を離 れると不安になることも多く,まだまだ一対一の関係による 細かい対応の必要性を感じる。常に誰かが傍にいて心の支え,
安全基地の大切さを感じる。一方,見守られながらの自主活 動ができる環境作りの必要性を感じる。
(H保育園,2001)
3−2 小学校〜共感的な関係を基礎に広がる世界〜
一誠くんは地域の小学校に就学した。保育園時の成長 を引き継ぐように一誠くん専任の支援員(以下,担任と する)が配置された。1〜3年の担任は廣嶋,4〜6年 は吉田である。保育園が願った「一対一の関係による細 かい対応」「心の支え,安全基地」「見守られながらの自 主活動できる環境」が実現する。廣嶋はいつも一誠くん の傍らにいて一誠くんを見ていた。入学当初に一誠くん を一人にすることができずに男子トイレを使ったとの逸 話がある。吉田も新たに担任となった4年生時には「I 君が登校してから下校するまで,常にI君の傍らにいる ことに徹しました。I君を知るため,そしてI君に私を 知ってもらうため,どんな時もI君の傍らにいて彼の一 挙手一投足を見逃さず,彼の言葉には必ず応えるという 姿勢をずっと保って」(吉田,2006年)きた。
3−2−1 1年生 〜共感的な関係〜
状況を共有し,自分の言葉を理解し,思いを受け止め る廣嶋との関係が一誠くんの学校生活の基盤となってい く。二人のやりとりが連絡帳にたくさん残っている。
一誠くんが安心して新しい場所になじみ,新しい人と 係われるようにと5月の連休までは保護者(母)が学校 での活動に付き添った。その頃の様子である。
4月19日 今日,マキマキ(筒に紐を巻く遊び)をしてい る間,「べっぴんさんは美人?」「紅ショウガ,からい?」な どのやりとりをずーっとしていたかと思うと急に「一誠くん 超特急で巻く!!」とその後,速く巻いたり,ゆっくり巻い たりとマキマキを楽しんでいました。それまでのやりとりは 私との相性を確かめたり,マキマキの心の準備をしていたの かな?これまでで一番長いやりとりだったので,私も楽しみ ました。
4月22日 とても印象的だった事は旗(登下校時に使う横断 中の旗)とお話しする一誠くんでした。いつものように「旗 さんに大キライって言っていいか?」から始まり,私が「大 キライっていう子はイヤ。バイバイ」とその場を離れると,
旗を触ったり,穴を触ったりして「旗さん大好き…」と話し かけたり,一誠くんの優しい発想や様子を微笑ましく思いま
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した。
4月23日 今日は「ブランコ」(なかよし広場)との声が 多かったが,とても混んでいたので「トンネル行ったら,ブ ランコね」とちょっと強引に誘うと「ワワワワ〜」と声が響 くのが面白いみたいで「みずしまいっせいです」「ワワワワ
〜って言って」と声を出して楽しんでいました。……「じゃ あ最後1回さよならしたら玄関だよ」と言うと「さよなら〜
また来るね〜元気でね〜」「元気でねって言ってあげた」と ポツリ。楽しかったんでしょうね。楽しい場所が増えてよか ったなと思うひとときでした。
5月に入って保護者の付き添いがなくなり不安な様子 もあったがそれもしばらくのことだった。連絡帳には子 ども同士の係わり合いの記載が出てくる。ひまわり学級 3年生のみーちゃん(保育園も同じ),3年生の子ども たち(ひまわり学級の教室は3年生教室の隣,オープン スペースで繋がっている),同学年である1年生の子ど もたちを中心にたくさんのやりとりが繰り広げられる。
5月16日 給食での出来事。少し早く食べ終えた女の子は 今日も一誠くんのところへ来てしゃべりながら一誠くんを笑 顔で見ていました。その後も女の子二人が訪れるなど,やっ ぱり女の子に大人気。そして私が感動した出来事が。一誠く んの隣に座っている子が,ごちそうさまの後,一誠くんの机 を何も言わずに下げてくれたこと。一誠くんを受け入れてく れたように思え,1年生と一緒に過ごす時間を大事にしたい と思いました。
5月17日 今日は私がとても興奮した一日でした。いきい きタイムの体操の後,三年生が5,6人「いっせいく〜ん」
と遊びに来ました。一誠くんも笑顔が出るなど楽しそうな様 子だったので,私は間に入らず,三年生と一誠くんのやりと りを見守っていると,なんと会話が成立しているではありま せんか。これまでこのような状況で相手側から発せられる質 問を一誠くんが受けて即座に答えるということはなかったの で,私も三年生も大喜び。
3年生「一誠くん,何年生?」 I「1年生」 3年生「一 誠くん,何歳?」 I「7歳」 3年生「一誠くん,食べ物 で何がすき?」 I「いちご」5分くらい会話した後,私の 名前を呼びました。この間は私を求めることもなく笑顔も見 られました。3年生も楽しそうに話し「一誠くんかわいい」
と人気者でした。
一誠くんは担任の廣嶋だけでなく,大学生の廣場さん
(木曜日,6月〜),盲学校の教育相談担当者の寺脇(水 曜日,4月〜)との活動も楽しみにしている。
5月27日 「今日は何曜日?」と何回も聞いてきました。
「来週,今週の水曜日,盲学校やね〜」とも話していたので,
水曜日の事(月1回,盲学校への訪問日)を楽しみにしてい るのでしょうね。久々なので楽しい一日になるといいですね。
5月29日 朝は「この前(盲学校へ行ったとき4/24), ハッピーバースディで泣いたね」と1ヶ月前の事を振り返っ ていました。久々なので「ジャングルダンス聴く」と言った り,盲学校でも「ブランコする!」や「もう六つ(トランポ
リン)する」など,一誠くんのしたい想いがいっぱい聞かれ ました。
6月20日 給食も廣場さんが良かっただろうと思うくらい 今日はどっぷり廣場さんと一日をたのしんでいました。(少 しさみしかったですが)
6月27日 今日から一日廣場さんと係わりましたが学校で の廣場さんに一誠くんも慣れ,廣場さんもまたOT小学校や 学校での一誠くんに慣れ,和やかな表情がたくさん見られま した。(保健室で廣場さんの声が聞こえるなり,私に「バイ バイ」と言い廣場さんと「お歌聞く♪」と切り替えのはやさ にさびしさも…)
9月18日 学校に来るなり「板(型)はめあるか?」「チ ャンチャカ(体操)あるか?」と寺脇先生との活動を楽しみ にしている様子。日中も楽しかったからか,学習後,笑顔が 絶えず,給食へ行く途中の廊下では「チャンチャンチャ〜
♪」と鼻歌が出るほどでした。
2学期の連絡帳から,読書を巡って繰り広げられるや りとり,四季折々の変化を楽しむ様子,子ども同士の係 わりについての紹介する。
10月22日 (大きなかぶを読む)今日も本を読みながらク イズ。H「おばあさんが引っぱっていたのは誰でしょう?」
I「おじいさん」H「おばあさんを引っ張っていたのは誰で しょう?」I「かぶ?おじいさん?こども?」日本語って難 しいですね。今日は一誠くんがおばあさん役,私がおじいさ ん役で「うんとこしょ,どっこいしょ」と引っ張りました。
10月28日 急に寒くなりました。お昼休み時間にはみぞれ も降りました。「一誠くん,みぞれ降ってきたよ」と興奮し て私が言うと,「触る!」と,うがいそっちのけで3年生が 拾ってくれたみぞれを触っていました。「みぞれってどこ?」
「バリバリ(氷を踏んだときの音)言うか?」とも話してく れました。
10月29日 今日から朝読書は「七匹のねずみ」。 センス
(扇子)という言葉が出てきたので,知ってるかなと思い,
聞いてみると「知ってる!金網?」と一誠くん。「あ〜それ はフェンス」似ている言葉って難しいですね。やはり本物を 触ってこそ,言葉が生きてくるんだなあと実感しました。明 日は センス (扇子)を用意しようと思います。
11月19日 朝,ひまわり教室に入ったときの一こま。
一誠くん「みーちゃん,いる?みーちゃん,おはよう。も う1回言ってもいい?」(隣で3年生の「おはよう」が聞こ えてくると隣の子の腕をつかみながら)一誠くん「これ,
何?」(私が「名前教えてください」と一誠君に伝え,一誠 くんも言い直し)
3年生「山田なおです。」一誠くん「山田なおとみーちゃ ん おはよう 言いましょう」
一誠くんが名前を尋ねる(自ら話しかける)場面に私は初 めて遭遇!私が興奮してしまいました。その後,朝の準備を しながら,入れたはずの学生服が落ちていると拾って入れ直 し「あっ学生服落ちてたで,拾って入れたの」と。今日はと てもしゃべり上手な一誠くんでした。
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12月6日 最近読んでいる本は「あるいていこう」です。
途中に「犬がぐるぐる木のまわりをまわり,おいかけっこし てあそんでいる」という文章があるので「一誠くん,先生の まわりをぐるぐる回ってごらん」と言うと一誠くんは私をぐ るぐる回し始めました。再び「一誠くんが先生のまわりをま わってごらん」と言うと今度は一誠くん自身がその場でぐる ぐるまわりだしました。この状況はなかなか想像できないの だなと思い,二人でお互いの周りをぐるぐるまわって体感し てみました。一誠くんにとって情景を描くことはとても難し いのだなあと感じると共に,本を読む際,知らない単語だけ でなく,情景が描けるように意識し,体感しながらしていき たいと思います。
一誠くんが廣嶋と直接には共有しない体験を話す様子 が3学期になると見られるようになった。
1月10日 ……一誠くんは「土曜日,荒木先生,来る?」
と楽しみにしている様子だったので,「荒木先生といつも何 しているの?」と聞くと,「電気(コンセントを差し込む)
入れるでしょう」「〜でしょう」「〜でしょう」と一人で4〜
5文続けて音楽を聴く(準備)様子を話してくれました。一 人で長く話すのを初めて聞いたのでびっくりすると同時に,
土曜日をとても楽しみにしているのだなというのが伝わって きました。
筆者は月1回,土曜日に家庭訪問をして一誠くんと活動している。
2月17日 一誠君に土曜日のことを尋ねると,荒木先生と 歌を聴いた話をしてくれました。さらに尋ねると「コンビニ 行ったの!」「シリアルバー買ったの」「床を手で触ったらあ かんて言われたの」お茶,サイダー,つまみコーナーとコン ビニにあったものをいろいろ教えてくれました。本当に楽し かったのでしょうね。
次の記述からは楽しみにしていた活動ができない悲し さ,残念な想いを二人で分かち合う様子が伝わってくる。
1月29日 吹雪のため盲学校に行けなくなったことを伝え ると最初は「え 」と言いつつすぐに「今日,廣嶋先生か?」
と立ち直りました。切り替え早いなと思っていましたが2ヶ 月ぶりの盲学校。しばらくすると「音楽,聴きたかった……」
などと言いつつ泣き出してしまいました。弁当も楽しみにし ていて「りんご…」「コロッケ…」,残念だね,悲しいねと言 いつつ「 盲学校へ行きたかった って叫ぶぞ」と一誠くん に言うと,「叫ぶと盲学校へ行ける?」と。(行けません。
すっきりするだけと答えました。)叫ぶとしゃべっているの が面白いのか徐々に笑顔に。玄関で吹雪を体感しながらの叫 びはさすがにきついからか嫌がっていましたが…その後は,
いつものように過ごしていました。
保育園の頃から戸外での活動を楽しみ,たくさんの道
(砂利道,草の道,落ち葉の道,水たまり,雪道,凍っ た道)を知っている一誠くんは,小学校でも廣嶋と共に 四季折々の変化を楽しんできた。
2月4日 ……一誠くんも,朝,「今日,こおってた」と 知らせてくれました。私もウキウキで10時頃,散歩に行きま したが,快晴で溶けていました。「これ,とけてる,水!」
とすぐに反応!その後,雪の上を歩いていると「あつい」と。
太陽の光が顔にあたっての一言。「一誠くんも暑い,あった かいから,氷もあついと溶けたかな」と返答。一誠君くんも
「朝はいっぱい凍ってた。」「階段,凍ってないね」など登校 時との違いを話していました。
2月25日 今日は見事なほどの快晴。一誠くんも「砂利道 あるか?」「小川歩いていいか?」と楽しみな様子。まずグ ランドに行って雪があるかどうか確かめてから行こうと思い,
グランドに到着すると「ない,なんで」と半泣き声に。道路 にはなくても以前そり遊びをしたグランドには雪があって遊 びたいという想いがあったのでしょうか。雪が溶けて,こう やってしめった土が出てくると春が近づいてきたって言うこ となんだよと話し……一誠くんが「なんで?」と尋ねてきた ので逆に「なんで?」と尋ね返すと「春が近づいてきたで!」
と返答。さっきの話を踏まえてしっかり自分なりに答えてい ました。
2月から3月上旬にかけては子ども同士の係わり合い の記述が多く見られるようになった。
3月5日 今日も給食に行く前,一年生が呼びに来てくれ ました。今日は相田すみかちゃん……一誠くんがすみかちゃ んに「今日ピアノ(のレッスン)あるの」と話しかけました。
すみかちゃん「私も習っているの」一誠くん「ピアノ,どこ でするの?学校でか,家でか?」話しかけた一誠くんにもび っくりでしたがさらに問いかけた一誠くんにびっくり!どん どん心が開けてきたのでしょうか?これからどんな話をして いくのか楽しみです。
3−2−2 2年生〜気持ちを文字に託す〜
廣嶋は2年生も継続して担任となった。様々な体験を 共有し会話を重ねてきた。子どもたちとの活動もさらに 広がり,大学院生の廣場さんとの係わりや盲学校の教育 相談も継続された。盲学校の教育相談はOT小学校での クッキ−作りと福井駅前探索という二つの活動を柱とし,
以後,この二つは継続される。
しりとり遊びをするようになったこと,同音異義語を 巡ってのやりとり「帰ると替える」,人と喜びを分かち 合うこと,感情を表現する「拍手(してもらった)のと き(一誠くん,うれしくて)笑ったね」,気持ちを表す 言葉「僕,悲しいと思っているの」「かなしみって何?」,
いない ということの理解を巡ってのやりとりなど紹 介したいことはたくさんあるが,ここでは「文字」とい う視点から手紙を巡っての活動を取り上げる。これまで 様々な思いを語り合って共有し,共感しあってきた一誠 くんと廣嶋が初めて痕跡型の信号にする活動を行ったの は2年生の秋のことである。週1回,OT小学校での付 き合いを続けている大学院生の廣場さんが風邪のための 欠席ということを受けて手紙を書いた。
廣嶋は一誠くんに「廣場さんに想いを伝えるには電話,
葉書,手紙がある。電話は病気の廣場さんには失礼。葉 書でもいいが,手紙は封筒に入れて出すから,そこに一
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緒に自分の想いを入れることができる。」などと話し,
手紙を書くことになった。
10月31日 あまりにも悲しすぎて,この気持ちをどうして いいかわからない!くらいに思っているのでしょう(か な?)
ということでその気持ちを解消すべく,保健室で廣場さん に手紙を書くことにしました。
「まず,いちばん最初 なおりますように 」「で, おな かいたくなりませんように 」その後,「先生はお口痛いと思 うか?かぜひいたで。いたい?」と自分の経験と重ね合わせ,
相手の気持ちを想像する場面もありました。「相手の気持ち になって考える」というのは,一誠くんだけでなく,子ども にとってなかなか難しいこと。自分の経験を踏まえるからこ そ,相手を思いやれると思います。思いやりの第一歩,廣場 さんの様子を想像して,廣場さんが休みということを納得で きたでしょうか?
「金曜日,来て来てよ!(これを)書こう!決定!」
…中(略)…いざ,書き出し。一誠君の気持ちを伝えるべく,
私が代筆させていただきました。
手紙を書こうと思ったことについて廣嶋は1年生の時 にはとにかく「今,すぐ,この時」であったがこの頃に は「少し先」「次」ということを考えられるようになっ てきたと言っている。この後,手紙に関わる学習活動(書 く,投函する,返信をもらう,読むなど)が連絡帳に記 載されている。
廣場さんへの手紙から1ヶ月後,一誠くんは練習して きた学生服のボタンを一人ではめることができた。この 喜びを彼はいろんな人に伝えた。
12月5日 「おはよう」とボランティア先生が一誠くんに 声をかけてきました。一誠くんは「おはよう」と返した後,
しばらくして「これボランティア先生か?今日(の朝家で)
第4ボタン(一人で)できたんやって。えらいか?」と自ら 話しかけていました。ボランティア先生が褒めてくれて,ま たまた嬉しそうな顔が見られました。お家の人や耳鼻科の先 生にも自慢しているそうですね。みんなに伝えたいのでしょ うね。
廣嶋は彼のがんばりに対して表彰式を行い,児童会の 先生がそれを聞いて全校集会で「ボタンできました」と 発表する機会も作ってくれた。一誠くんは自分の達成感 を多くの人に伝え,たくさん拍手をもらい,多くの人と 喜びを分かち合う経験をすることができた。人に伝えよ うとする想いはこうして受け止められてさらに強くなっ ていく。
2月5日 今朝,「駅前行きたいなあ※」との話になり,
その後,駅前トークがしばらく続き,ほんとに残念やったな
〜という想いがひしひしと伝わってきたので,手紙を書くこ とにしました。その際の一誠くんの話ぶりを全て以下に書き ます。(※盲学校での教育相談活動,福井駅前探索歩行のこと)
I「先月行かれんかったで,ポスト入れるんか?」(手紙を 書くんか?という事だと思います)
いざ,書き出し。
I「ずっと前,おねつ出ました。いないいないばぁ入る前に おしっこもらしました。ごめんなさい,もうしません。」 H「誰に謝るの?」 I「お母さん」
「駅前行きたい。廣嶋先生と(盲学校)行かれんかった。
先月,口内炎できたね。ねつ出たね。」 「先生も荒木先生 と(駅前)行かれんかったの?バスターミナルも行かれんか った。ずっと前,ドリンクバーで泣いてもた。それも飲まん かった。」「で,ボタン押して入れるの?でいっぱい入れる?
そのまえはまだ入っていないね(コップの中の変化)」
…中略…
「荒木先生,元気ですか?ドリンクバーであふれないように しよう!で,ザラザラのボタンも(ドリンクバーで)あった ね。水みたいなの出てくる?」「で,カツカレーも食べたね。
やわらっかった。で,ホタテも食べた。で,サヤエンドウも 食べた。エビも食べた。」
…中略… その後,考えた文章を手紙にしました。
駅前行きたいな。エスカレーター乗りたいな。駅前行 ったら,カツカレー食べたいな。ちゃんと飲もうジュー スあふれんように。今日はジャンパーできるようにしよ う!(これも入れると強い決意でした)ゼリーこぼれた ね。で,10も数えたね。しりとりもしたね。レストランに あるもののしりとりもしたね。口内炎できました。
今日,話を聞いていて,食べたいものも食べれず,飲みた いものも飲めず,したいこともできなかった,という想いが とても伝わってくる話の内容でした。と同時に,自分もでき なかった,いつも一緒に行っている先生達もできなかった,
という相手(自分以外の人)の状況を理解し,それを言葉に うまく表していました。また,この場面で使うのか,と確認 するように「かなしいか?」と何度も聞いてきました。微妙 な感情を感情的な言葉で表現しようとしていました。
手紙・作文など文字にする活動は上記のように一誠く んと担任とが会話を重ねて(手紙の)相手との活動や自 分の気持ちなどを確認し,
その後,文章化するとい う形をとっている。もち ろん,一誠くんは文字を 書くことはまだできない ので担任が代筆する。そ の文章を何度も読み返し てもらって一誠くんは納 得する。切手を貼り,投
函するまでがひとまとまりとなる。
次の手紙は織田小学校で一誠くんとクッキー作りの活 動をしている盲学校教育相談担当者池上へのもの。相談 が中止になったことを残念に思う気持ちを書いた。
廣嶋とクッキー作りの活動を思い起こしての会話の後,
書かれた手紙である。
写真2 手紙を投函する
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池上先生へ。
池上先生元気ですか?僕は池上先生は元気やな〜と思い ます。クッキー作りたいなあ〜。僕はクッキー大好きなの!
お茶もゴクゴク飲みたいなぁ〜。ツルツルジャンパー着て ほしいなあ〜。僕は舌が痛くてとても痛いです。キビパー ティ(生活科)で『しりとり』あそびをしているので,し りとりをします。いけがみせんせい→いくら→ラッコ→こ んにゃく→クッキー→きくらげ→げき→きっぷ→ぷりん
(あっ) いっせいより
一誠くんの初めての手紙を受け取った廣場さんも筆者 も池上も工夫をし,心を込めて返事を書いたことは言う までもない。筆者は厚紙で作った図形を使い,池上は飛 び出る仕掛けのメッセージカードタイプを作製した。次 は池上の返事を読んだときのものである。
3月1日 ……返事の手紙くるかな〜,どうやろ〜なんて 朝話していると,その日の午後,OT小学校に池上先生から の返事が!私も大興奮し,手紙を読みました。「一誠くんへ お手紙ありがとう。クッキー作ろうね。お茶もわかしてゴク ゴク飲もうね。織田小学校で待っててね。」この文章を何度 も何度も読むと,自分が手紙を出したときのこと,今,池上 先生の返事の手紙を読んでいること,いろいろ膨らんできて,
私が読む手紙に対して,一誠くんも言葉を返すようになりま した。「お手紙ありがとう」「いえいえ,どういたしまして」,
「口内炎は治ったかな?」「まだ痛いです」,「織田小学校で まっててね」「まってますよ」と。
筆者は厚紙で作った図形に文 節ごとに言葉を書いた。
(長方形)いっせいくん,
(正三角形)19にち
(正方形)楽しみに
(円)まっています。
1年生の時には「行きたかった」と叫んで気持ちを調 整した一誠くんは「文字」を使って,気持ちを表現し,
調整し,空間的・時間的な距離をもってのやりとりがで きるようになった。
一誠くんにはやりたい活動,伝えたい人,伝えたい想 いがあり,それらを共有し,共感して傍らに添う人がい て,その係わり手との共同制作としての手紙である。
3−2−3 3年生〜人に伝える・人を想う〜
3年生も担任は廣嶋。この年は3年生の学級との交流 学習が充実したことで人との係わりが広がり,コミュニ ケーション力が伸び,活動空間も広がる。連絡帳には子 ども同士の係わり合いと,校内の地図作りの様子がたく さん記載されるようになる。ただ楽しいだけではなく苦 しさがあっても自分の力を尽くして得られる喜びの大き
さを一誠くんは味わう。残暑厳しい中で行われる体育大 会,練習練習の日々を意欲を持って過ごした。直前の発 熱で予行練習を欠席したときには「予行出たいって泣い ているわ(母)」との連絡が入った。秋の校外学習は長距 離を歩き通した。3年生に遅れないように一誠くんには かなり速いスピードで歩いたため途中で泣き出すことも。
後年,遠足の地を通るたびに筆者との間で話題になった。
I「泣いたね。泣いたけど,○○着いたら,すっかり(す っきり)したね)」筆者「なんで泣いたの?」I「速かっ たで,つらかった」筆者「つらいのに何で行ったの?」
I「行きたかったで。」
3年生の時にもたくさんの手紙を書いた。
離任された先生6.1/離任される先生9.30/盲学校の 教員9.7/他の小学校の友だち(返事の手紙)10.18/入 院 し た 友 達10.20/盲 学 校 の 教 員12.2/盲 学 校 の 教 員 12.8/入院した養護教諭12.17/廣場さん(お別れの手 紙)1.20/6年生への色紙(3人)3.7/英語の先生3.14
盲学校の教員への手紙は,主に駅前探索に係わるもの である。活動できなかったときの想いだけではなく,次 にやりたいこと,あるいはできて楽しかったという気持 ちを手紙にしている。4月の駅前探索の帰りはそれまで のように「笑いっぱなし」ではなく「話しっぱなし」だ った。活動を自分の言葉で語るようになった一誠くん。
次への期待(企画)と活動の振り返りが手紙を書くとい う作業の中で文字として表されるようになる。
また,入院している人へのお見舞いの手紙,離任され る先生へのお別れの手紙を書いている。これは一誠くん 自身の活動への願いではなく,相手を気遣ったり相手へ の想いを形にするものである。
入院した友達への手紙 10月20日
のなか けん君へ
お元気ですか?つらいですね。こまったなあ。にゅうい んしましたね。なおるといいね。なおりますように,なお りますように/昨日,ものまね見ました。(TV)けん君 は何を見ましたか?/昨日,ぼくは西武の8階のレストラ ンでカツ丼を食べました。卵のカツ丼です。お茶も飲みま した。お吸い物も飲みました。けん君はおかゆを食べたか な?/駅前の地下道を歩いてガタンガタンと落ちそうにな った。/昨日,雨が降っていました。雨降るとぬれますよ
/晴れるといいね。今日も晴れるといいね/そしてなおる といいね。
手術入院した伊部(養護教諭)への手紙では自分がと げが刺さって病院に行ったときの経験を思い起こし「ひ ざ痛いね」「ますいかけるときは痛いね」「もう,糸を抜 きましたか?」などと書いている。
12月17日 本日,手紙を書きながら,一誠くんは伊部先生 に手紙を書くために,トゲがささって,ますいもし,手術を したのではないかと思うくらい,自分の経験と相手を重ねて 写真3 筆者の返事
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いました。
次は廣場さん,マシュー先生(ALT)への手紙であ る。
1月20日 …略… 途中,ものすごい一誠君の想いがはい っているところがあって,私もこんなふうに言われたい…ふ つうにそう思いました。…略…
廣場さんへ
お世話になりました/ずっと前,ビー玉見つかるの楽し かった(今も続けている お知らせのふたと同じふた の 課題で)/見つかったら嬉しい/明日は廣場さんの日で,
かわいそうやけど,がんばります/「誰がかわいそう?廣 場さん?一誠君?」/一誠くんが/「なんで自分がかわい そうやと思うの?」/だって,一誠君が,明日で最後やか ら,一誠君がかなしいで/…中略…/お知らせのふたとお んなじふたの勉強大好きやと思う。だって,どっちがビー 玉かなって思ったら,「こっち」って当たるかもしれんで
/一誠より。
英語の先生のへ手紙 3月14日
マシュー先生へ
ウエルカム トゥ− ザ フルーツ マーケットしたね。
/Whattimeisit?もしたね。/Howoldareyou?もしたね。/
ハロウィンもしたね。/ハロウィンじゃんけんしたね。/
英語の時間に間に合ったね。/うれしかった。/間に合っ て,英語,うれしかった。/間に合ってよかった。英語す ることができるから。アテンション バウ/アテンション は気をつけやね。バウは礼/ハローって言うのも楽しいね。
/礼のあと,いつも言ってる。/給食でごはん食べてると きに,まえ,マシュー先生はずっとランチルームにいまし たね(近くで給食を食べた時のことを言っているのだと思 います)/英語は楽しかったです。/マシュー先生が大好 きです。/マシュー先生はいつも笑っています。/マシュ ー先生は泣きません/マシュー先生はおこりません。/マ シュー先生はいつも笑っています。/豚鼻しないで,遊ば ないで,英語している。/だから,楽しい。歌も楽しい。
/英語言うのも楽しい。/覚えるのも楽しい。/いっせい より
「間に合って」というのは英語は2階への教室移動を 伴うためで,一誠くんが大好きなマシュー先生の時間に 間に合いたいという気持ちが感じられる表現である。
3年生の締めくくりの日には1年間の活動を振り返 り,8人の先生に手紙を書いた。盲学校教育相談担当の 池上(クッキ−作り)や大野(駅前探索)への手紙は,
活動のまとめとしての振り返り作文となっている。
3年生3学期(3月2日)に,もう一つ新たに書く活 動に取り組んだ。盲学校の教育相談として池上とともに 継続してきたクッキー作りに関しての振り返り作文であ
る。クッキー作りを振り返りながら一誠くんが話した言 葉を拾い,助詞や表現について係わり手側からも提案を して,作文を点字タイプライターで聞き書きした。(池 上みどり,2006)池上は作る過程,生地の変化などが詳 細に述べられているその作文の内容に感嘆し「一誠くが 状況がわかり,描けるということは,(そのことについ て)話ができるということなんですね。」と述べている。
3−2−4 4年生〜6年生
〜文を作る・文字を意識する〜
4年生から6年生の現在まで担任は吉田となる。4年 生からはクラブ活動,委員会活動,陸上練習など新しい 活動が増えて,活動の場所と係わる人が広がった。5年 生では5年生教室が2階となりひまわり教室からさらに 離れることになった。また廣場さんの後を引き継いで新 たに大学生(5,6年時には大学院生)内海さんがOT 小学校で一誠くんと活動することになった。一誠くんを 取り巻く環境は人的・空間的に変化し,彼の精一杯のが んばりを越えるものだったかもしれない。ストレスから 体調を崩すことも見られ,落ち着きながなかったり,個 別の学習時に集中できなかったりしたため,活動の見直 しを行った。つまり一誠くんが自分のペースで活動でき る時間の確保である。このため今まで通常学級で一緒に してきた理科や社会などは学習内容と一誠くんの状態に よって選んで参加するようにした。5年生からは1限目 には通常学級との交流学習を入れず,ひまわり学級で落 ち着いて過ごせるような時間割編成を行った。
様々な変化があっても担任が替わっても,一誠くんは 担任との共同作業によって書くという活動を続けること ができた。4年生以降は次のような展開が見られた。
○便せん(カード)を作る,年賀状を作る
○作文を書く−文章を作る
○手紙の相手が広がる−校外の友達や先生に書く。
○文字という意識をもつ−手を持って文字を書く,点 字を意識したカードの使用。
吉田と最初に作ったのは3年生までの担任だった廣嶋 を初めとする離任された先生方への手紙。模様を描く練 習(4/22),模様を描く(4/25),手紙を書く(4/
28),ポストに投函(4/)と4日かけての活動である。
4月28日 模様を描き終え た画用紙に手紙を書くことに しました。まずは廣嶋先生か らです。やはり離任してほし くなかったようで,廣嶋先生 に対する想いが一誠くんの言 葉に溢れていました。感動も のですよ!それぞれの先生に 対して,それぞれ違う想いを しっかり書くことができまし た。(写真4)
写真4 模様を描く
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このようにカードや手紙などを手作りする活動が多く 取り入れられるようになった。例えば4年生の体育大会 はスタンプを使って簡単に,5年生の体育大会では家庭 科でボタン付けにもチャレンジしていることを知って貰 おうとボタン二つを縫いつけてそ れを目に見立てて顔を作った(写 真5)。
また,吉田が一誠くんの手を持 って文字を書くスタイルを取るよ うになる。相手の名前や自分の署 名はそのスタイルをとり,短いメ ッセージカードのような場合も手 を持って書いた。
次は4年生の2学期(2004年11 月)に手紙を書いたときの様子である。他県の学校に転 校したみーちゃんに学級で育てた食用ヒマワリの種を送 るために,手紙を書く一誠くんと吉田のやりとりをVT Rから起こした。内容は手紙の最後の三文である。Iは 一誠くん,Yは吉田,し・んなどの□は一文字ずつ発音 しながら文字を書いることを示す。(写真6)
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I:真剣に頑張ってください/Y:何を?/I:真剣にお 勉強,頑張って下
さい/Y:真剣に
…/I:お勉強頑 張って下さいって 書く/Y:真剣に お勉強頑張って下 さいって書くの?
/I:はい,これ で最後やで(最後
の文の意味)/Y:最後やでか,なら,ではって書きまし ょうか?最後なら,ではって。では/I:真剣に/Y:で
・は/I:真剣に/Y:し・ん/I&Y:け・ん・に/
Y:真剣に(次は?)/I:頑張ってください/Y:頑張 ってください/I:最後にみずしまいっせいよりって書く の/Y:が・ん/I&Y:ばって/I:ください/Y:ば
・つ・て・く・だ /I:さい/Y:で,僕は,どうな の?僕は/I:待ってますよ〜って書く/Y:…/I:待 ってますよ〜って書いて/Y:待ってますよって書くの?
/I:はい。/Y:ま・つ・て・ま・す・よまる …(中 略)…Y:(書く作業続けても)いい?/I:はい。頑張 って下さい。僕は待ってますよ/Y:待ってますよか?僕 はなの?/I:僕は待ってすよの方がいい/Y:僕は,待 ってるんやね。僕はって書くよ。ぼ・く・は・(書き足す)
待ってますよ,で,最後は?/I:……/Y:なんて書く の?/I:お元気でね/Y:僕は待ってますよ。お元気で ねって書くんですか/I:お元気でねの方がいいな/Y:
お・げ・ん・き/I:で/I&Y:ね/I:っていった方 が喜ぶと思うよ/Y:あっそうかぁ。お元気でねって言っ
た方がみ−ちゃんよろこぶかぁ。そうやね。がんばろうっ て思うね。はい,じゃ,お名前書きましょうか。一番最後,
みずしまいっせいよりでいいですか?/I:四年,みずし まいっせい/Y:四年,みずしまいっせいですか。よ・ね
・ん みずしまいっせい,漢字で書きますか?/I:はい
/Y:みず しま いち せい(中略)/I:みずしまい ちせいか?/Y:いま,これ漢字で書いたよ/Y:はい,
できましたあ/I:読んで下さい。/(吉田,読み上げる)
/I:もっかい(もう1回)/Y:もっかい,読みますよ
/I:これで最後/(吉田 読み上げる)/I:はい,終 わり!(にこやかに)
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盲学校の教育相談として継続してきたクッキー作りの 展開として3年生最後に取り組んだ点字作文を4年生に なっても継続した。長い過程の活動をまとまりを持って 振り返ることや,情景を描くことなどだけでなく,点字 や点字タイプライターへの関心をもってもらいたいとい う願いもあった。一誠くん自身がする活動が増えてクッ キ−作りが充実したため,時間がかかるようになったこ とや学校全体の活動との関係からこの活動は長くは続け られなかった。吉田は5年生時も時折,タイプライター に触れる活動を継続し,6年生になって本格的に点字の 学習に取り組むため再び点字タイプライターを使った学 習を行うようになった。一誠くんは池上との学習で学ん だタイプライターの部品の名前「打ち戻しキー」「紙押 さえキー」などを覚えており,基本的な操作についても 概ね理解しており「池上先生が○○って言ったね。」「(わ からないことについて)池上先生に聞いてみる」と池上 との活動が定着していることがわかる。(写真7)
吉田と最初の作文は体育大会の振り返りである。体育 大会では放送係(委員会の仕事)として綱引き種目のア ナウンス役を担った。夏休みから原稿読みの練習をし,
当日は「一誠くんらしい,一誠くんにしかできない放 送」(吉田,2006)をして情報委員会としての自分の役 割を役割を果たした。
9月13日 1時間目の予定確認の際にも体育大会の話題が 何度も出ましたが,時間の流れに沿って一つ一つ思い出しな がら作文を書きました。…中略… 思い返すと「○○やった ね」「○○したね」と次から次へと言葉が出てきましたが,
文章にしようとすると難しい部分もあるので,言葉を付け足 しながら書きました。
綱引きでは放送をしました。一誠くんは「もうすぐ,もう 写真5 ボタンの葉書
写真6 二人で手紙を書く 点字を書く教師の指の上に
自分の手を重ねてタイプラ イターで点字を書いている ところである。
写真7
点字で作文を書く
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すぐ,ピストル,ピストル」と言いました。「よいしょ,
がんばれ!がんばれ!」と言っている間にピストルがパー ンと鳴りました。マシュー先生がピストルを鳴らそうとし たら鳴りませんでした。中橋先生が「退場します」と言っ たら,音楽がなりました。そして,音楽を止めてまた綱引 きが始まりました。放送の時の声が小さかったので,みん なに伝わらないかなあと思いました。少し疲れていたので,
大きな声が出せませんでした。もっと大きい声が出せると
いいです。 (作文の一部)
作文では吉田は助詞の使い方や文の構成などについて,
一誠くんの原文に対して提案や意見を述べて,係わり手 として文作りにさらに踏み込むことにした。推敲作業を 二人で丁寧に行うということである。吉田は「手紙はな るべく本人の表現を大切にしたが,作文では国語として の意識を持って取り組んだ」と述べている。
次は5年生の体育大会作文作りである。
9月20日 まず,体育大会を振り返りながら二人で話をし ました。時間の流れに沿いながら話していると,一誠くんも 当日のことをよく思い出しながら話していました。 …中略
… 開会式の細かい内容などもよく覚えていました。「〜が ありました。〜もしました。」という流れが多く,こちらか ら聞かないとそのとき自分はどうしたのか,どう思ったのか という内面的な部分は表現されないのですが,聞けば答えて くれるので(文として表現するのが難しいようです),その 都度,聞きながら書いていきました。「全員コールがありま した。僕はお友達と一緒にいうことが楽しかったです」や「ゴ ールのところでお友達が応援してくれました」「僕が走って いるとき,お友達が がんばれ と応援してくれました。嬉 しかったです。」に表れているように,周りの友達の存在を ずいぶん感じながら,力を分けて貰いながら頑張っていたこ とがよく分かります。自分がいる状況,周囲の情景をしっか り描ける心のゆとりと,何より5回目という経験が一誠くん の体育大会をより楽しく,中身の濃いものにしたのでしょうね。
続けて5年生のN郡小学校陸上記録会の振り返り作文 作りである。
一誠くんは当日こんなコメント述べている。「僕,全 力でがんばったの。全力って何?全部出して頑張ったの。
100m走ったし,応援もしたの。だから楽しかったの。」 10月5日 昨日の陸上記録会を振り返り作文を書きました。
今日は書き出す前に「 ○○がありました。△△がありました。
□□もしました っていうのは作文じゃなくて日記なんやよ。
その時にどう思ったのか,何を感じたのかを書くのが作文な んやでの」と話をしてから書き始めました。…中略… 途中 途中「思ったこと,感じたことを書くんやよ」と声を掛けま した。印象的だったのは,「お弁当はおいしかったです。み んなで一緒に食べたからおいしかったです。」「がんばってい る人を応援するのが楽しかったです。リレーはお友達がしま した。僕が応援したお友達は嬉しいかなと思いました」です。
…中略… 自分が走ることはもちろん,友達の存在を充分に
感じながら,今まで一緒に練習をがんばってきた仲間として 応援し,そのことも含めて 楽しかった と感じることがで きてとても嬉しく思いました。
5年生になると手紙の相手もさらに広がった。OT小 学 校 が あ る 地 区 の 特 殊 学 級 合 同 の 行 事(6月 に 運 動 会,9月に宿泊学習,2月に送る会)で知り合った友達 や先生方数人に葉書を出した。
Yくんへ。お元気ですか?いっしょにけんこうかんさつ をしましたね。ぼくはけんこうかんさつをするのが楽しか ったです。いっしょにご飯も食べましたね。おいしかった ですね。ご飯の歌を歌うのがおもしろかったです。
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Wせんせいへ。お元気ですか?合宿では一緒にバスに乗 りましたね。僕はバスに乗るのが楽しかったです。トイレ まで一緒に連れてくださってありがとうございました。ハ イキングのとき,綱持ってあるきました。おもしろかった です。僕は織田小学校でがんばるので,W先生もM小学校 でがんばってください。
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Tくんへ。おげんきですか?はみがきこをかしてくださ ってありがとうございました。ぼくはうれしかったです。
ぼくはおたしょうがっこうでがんばるので,TくんもTし ょうがっこうでがんばってください。
上記のように一人一人に合わせた内容で,それぞれの 人との活動を思い出しながら書いている。
6年生になり,また何人もの先生方が離任された。そ れぞれの先生方へ一誠くんは手紙を書いた。
校務員さんには「しまちゃんへ。お元気ですか?島ち ゃん,やさしいね。」という書き出しの手紙を書いた。
次の手紙は養護教諭の先生に向けて書いたもの。
いべみつよせんせいへ。お元気ですか?
僕はいべみつよ先生が好きです。離任されると寂しいで す。伊部先生と会えないのが悲しいです。
…(中略,近況として修学旅行の話題)…
3年生の時,手にとげが刺さった時に伊部先生に手当を してもらいました。ありがとうございました。鼻を打った 時にも手当をしてもらいました。手当てをしてもひどかっ たので,病院に行きました。
伊部先生,運動会見に来てください。今までありがとう ございました。僕は織田小学校でがんばるので,伊部先生 も○○中学校で頑張ってください。
おたしょうがっこう6年 水島一誠より
最後に文字として点字を意識した学習活動について述 べる。盲学校の教育相談活動としてOT小学校で一誠く んとともにクッキー作りに取り組んできた(池上みど り,2006)。その中で起きたことである。
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①一誠くんが手順を材料の順番で言うようになった。
バター→砂糖→卵→バニラエッセンス→粉(小麦粉)
(2003年,2年生)
②そこで材料をケースに並べてもらうようにした。
(2004年,3年生)
③さらに材料カードを作り,それを並べることにした。
バターは箱,砂糖は袋,卵は殻,バニラエッセンス は瓶の蓋,小麦粉は袋というように一誠くんが決め たものを厚紙に貼ったカードである(写真8)。材 料カードには点字の文字数(マス数)分のシールを はった。例えばバターならば□□□□と四つとなる
(濁点/ハ/タ/長音記号)(2005年,4年生)
この活動を吉田は一誠くんの他の学校生活場面に広げ る。5年になると吉田は時間割ボックスを作り(写真9), 一誠くんと相談して各学習活動を象徴するものを決めた。
朝の会は健康観察用のシール,個別学習はビー玉,理科 は豆電球などである。時間割ボックスは一誠くんが1日 を見通すための有効な手だてとなり,急な変更も臨機応 変に対応できるようになっていった。さらに6年生では カード化し,カードに文字数(点字マス数)のシールを 貼った。例えば「総合的な学習」は畑作りの際に石取り したことから小石を貼り付け,シールは5枚□□□□□
(ソ/長音記号/濁点/コ/長音記号)となる。一誠く んはシールを手でたどり,吉田は,「ソ,のばし,テン テン,コでゴ,のばし」と言葉を添える。
4.共感的な関係を土台に生まれる文字
4−1 保育園の果たした役割
一誠くんが文字を使っていろんな人と豊かな交信関係 を築くことができたことをたどっていくと,保育園の存 在に行き着く。
一誠くんは保育園での生活により,人を信頼し,言葉 でのやりとりを楽しみ,外界への興味を持って働きかけ る楽しさを知った。つまり,一誠くんは「自分の想いは
人に伝わり,受け止められる」,「音声の言葉は自分と人 の間をつなぐ」,「音声の言葉はものやことと対応関係を 持つ」ということを学んだ。
保育園はどのように係わっていったのだろうか。
①「保育計画」ありきではなく,一誠くんの立場に立 って,保育をしていこうという姿勢を持った。
「にぎやかな保育園に来てさぞかしビックリしたことで あろう」と一誠くんの気持ちを推し量り,好きなこと(音 楽など)を足がかりに活動を広げようとした。
②集団の中にあって安心できる保育環境を心がけた。
つまり保育士を加配し,さらに必要に応じて非常勤保育 士を配置し,また,積極的に盲学校の教育相談を利用し たり,個別の係わりを保障できる大学生の参観実習を受 け入れたりなどした。
③音声言語だけが一人歩きしないような係わりを常に 心がけた。
4−2 文字を使う土台となった共感関係
小学生になって一誠くんは新しい場所で,たくさんの 新しい人と出会い,新しい経験をする。出会ったばかり の担任の廣嶋とともにあるいは廣嶋の見守りのもとで旗
(廊下)やブランコ・トンネル(なかよし広場)などの 場所を調べ,OT小学校の子どもたち,大学生(大学院 生),盲学校の教育相談担当者たちなどとの関係を作っ ていく。一誠くんと廣嶋は新たな状況(ひと,場所,も の,出来事)に向かうことによりさらに関係が豊かにな っていく。6月から開始された朝読書は具体的な活動を 共有しなくても「お話」によって共有できる世界を作っ た。3学期になると一誠くんは筆者との付き合いについ て廣嶋と話すようになる。目の前にいない人,あるいは その人との活動について,共通の体験がなくても言葉に よって状況を共有することができるということを一誠く んと廣嶋は学ぶ。これらのことから音声の言葉が持つ力 を感じると共に,こうしたことが後の文字を使うことに も繋がっていく。
廣嶋の係わりはどのようなものであったのか。
①廣嶋は常に傍にいて状況を共有し,一誠くんのもの の感じ方,捉え方を知ろうとし,そのことばや行動に感 嘆し,共感的に受け止めた。繰り返し同じ話をすること も「長いやりとりができた」と喜び,旗と飽きることな く遊ぶ一誠くんを微笑ましく見守り,なかなか活動を切 り上げなくても「楽しい場所が増えてよかった」と思う。
②子ども同士のやりとりを見る廣嶋は「興奮しまし た!/びっくりしました!/楽しみです!」と連絡帳の 記述からその喜びようがうかがわれる。子どもだけでな く教育相談担当者や大学生などとの係わりを一誠くんと ともに楽しみにし,一誠くんの気持ちを推し量る。
③読書によって「お話しの世界」を共有することと同 時に,言葉と具体的なものや状況を対応させる係わりを 心がけ,氷が張ったことやみぞれを一誠くん以上に楽し 写真9
時間割ボックス ↑ ↑ ↑ ↑ ↑
理科 生活 単元 音楽 朝の会
写真8 材料カード バタ−のカ−ド
・バタ−の空箱
・シ−ル(4枚)
濁点/ハ/タ/長音記号
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んで,体験を通して理解することを大切にした。
自分にはやりたいことがある。それは共感的に受け止 められ,自分の思いは伝わるという確かな経験を一誠く んは積み上げた。盲学校訪問が中止になり,残念な想い から泣いてしまう一誠くん。泣くほどやりたい活動やそ の活動を一緒にしたい人がいる,悲しいよなあと共感的 に受け止めてくれて,「吹雪に向かって叫べ!」とその 時の想いをその時に出すべく共同作業をしてくれる人が いる。
4−3 手紙を書いたことの意味
一誠くんと廣嶋は2年生時に3通(廣 場,荒 木,池 上)の手紙を書いた。そのことの意味を考えてみたい。
①今,ここにはいない人と想いを共有する。
手紙を書くことは1年生3学期に見られたように,今,
ここにはいない人に会いたい,その人との活動をしたい という想いを今,ここにいる廣嶋と語り合って共感し,
共有することから一歩踏み出している。今,その時の想 いを今,ここにいない人に届けるのである。そのために 手紙という形式,文字という手段が採用される。そして,
返事が返ってくる。手紙は離れている相手と交信関係を 作ることが出来るということを一誠くんは学んだ。これ 以降,廣嶋と共同作業によって手紙を書くことで離れた 相手と想いを共有する。そしてそのことにより一誠くん は会いたいという想いや(活動を)やりたいという想い を次への期待につなげ,今は我慢するといった調整をす るのである。
3年生になって手紙を書く活動はさらに多くなる。そ こでは次のようなことが起きている。
②他者の状況を共感的に受けとめる。
3年生時にはお見舞いの手紙を2通書いた。相手は3 年生のノナカケンくんと養護教諭の伊部である。一誠く んは相手の状況を自分の経験に重ねて共感をもって受け 止め,それを言葉にすることができた。
③活動を振り返り,整理する。
3年生時の手紙のもう一つの特徴は,クッキー作りや 駅前探索に係わって活動そのものを振り返る内容になっ ていくことである。共感的な関係を築いてきた人と共有 する活動が積み重ねられて,一誠くんは一定のまとまり をもって振り返ることが出来る。作文と言うべきものが 生まれている。
手紙を書く活動が生まれた一誠くんの生活の膨らみを 次のように考えた。
①学生や盲学校の教育相談担当者のように一誠くんが 会いたい人,やりたい活動が保障されて継続されてあり,
それぞれの活動内容が膨らんでいること。
②遠距離歩行がつらくても「行きたい」と歩き通した 校外学習や熱があっても「参加したい」と泣いた運動会 の予行練習のように,学校生活の中で一誠くん自身が他 者と共有したい状況の広がりがあること。
③学生服ボタンをはめることができた時のように自分 の想いが共有され,共感的に受け止められる関係が広が ってきたこと。
4−4 文字を使うことの広がり,そして,点字へ 4年生になり担任が廣嶋から吉田に替わっても,一誠 くんは手紙を書き,作文を作ることが出来た。人との共 同作業によって文字を使って書くことが一誠くんにとっ て確立された活動となっていたことがわかる。4年生か ら6年生までの間に書かれた手紙や作文の変化はそれま での活動を膨らませたものだと言える。①相手や周囲の 人への想いをより深く描く②状況をより具体的に生き生 きと描く③全体が長くなり,全体の構成が整えられた文 章を作る④読み書きするものとして文字としての意識を 持つようになるなどである。
こうした変化をもたらした生活の膨らみとは,しっか りとした土台を築きながらその上に学校生活そのものが 積み上がってきたことだと言える。担任交代,委員会活 動など学校の中で果たす役割,同学年の教室の位置,陸 上競技会など学校外での活動など様々な変化が生活の膨 らみとなって,一誠くんの生活を豊かにしたからだ。例 えば1年生から参加してきた体育大会は次第に描ける状 況が増え,楽しめることも増えるだろう。日頃の活動を
図 共感的関係を土台に手紙を書く
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