30 歳代前半世代における生成原単位減少の 実態に関する分析
西堀泰英
1・土井勉
2・石塚裕子
3・白水靖郎
4・中矢昌希
51正会員 公益財団法人豊田都市交通研究所(〒471-0024 愛知県豊田市元城町3-17)
E-mail:[email protected]
2フェロー 大阪大学コミュニケーションデザイン・センター(〒560-0043 豊中市待兼山1-16)
E-mail:[email protected]
3正会員 大阪大学未来戦略機構(〒5565-0871 大阪府吹田市山田丘2-1 US1-403)
E-mail: [email protected]
4正会員 中央復建コンサルタンツ株式会社(〒102-0083 千代田区麹町2-10-13)
E-mail:[email protected]
5非会員 中央復建コンサルタンツ株式会社(〒533-0033 大阪市東淀川区東中島4-11-10)
E-mail:[email protected]
生成原単位は,これまで性別・年齢階層別にすると大きな変化はないと仮定されてきた.しかし,各地 のパーソントリップ調査の結果をみると,若年者〜壮年層を中心に生成原単位が減少している.その減少 要因については十分な知見が得られていない.
本研究では生成原単位減少の背景を探るため,最も生成原単位の減少幅が大きい30~34歳の年代に着目 し,職業や世帯構成等の属性別に,トリップ数だけでなくトリップチェーンにも着目して分析を行った.
その結果,より大きくトリップが減少しているのは,無職の親等と同居している世帯の属性であることや,
外出をした人たちでも複数回のトリップを行う人が減少していることが明らかとなった.
Key Words : Trip Production Rate, Travel Behavior, Trip Chain, Collaboration with Transportation Policy and Other Fields, Person Trip Survey
1. はじめに
近年,交通の意味や,交通に対する認識を再確認する 主張がいくつか出されている.例えば,藤井1)は,これ までの交通計画は物理的な「交通需要」にのみ関心を払 ってきたものであり,今後良質な交通計画を行うために は交通行動の心理的・経済的・社会学的・生理学的な側 面にも配慮することが重要であると指摘している.また,
原田2)は,様々な目的の移動を束ねて需要と供給のバラ ンスを議論する,いわゆる「トリップ主義」の限界を指 摘し,交通の基本的役割を次のように再定義している.
それは,「通勤,通学,買い物,通院により職を確保し,
学び,生活に必要な物を入手し,健康を維持し,病気を 治すという『人間らしい生活』を支える交通サービスを 提供する」ことと説明している.
この10年の間に実施された複数の都市圏におけるパー
ソントリップ調査(以下,PT調査)の結果から,一人 当たりのトリップ数,すなわち生成原単位が減少する傾 向が確認されている3).この現象を,物理的な現象とし てトリップ主義的に解釈すれば,例えば,道路渋滞や鉄 道の混雑が緩和するという正の面と,公共交通利用者が 減少することで公共交通事業環境が厳しくなるという負 の面があるといえるのかもしれない.しかしながら,こ こで改めて言うまでもなく,交通は物理的,あるいは量 的な意味だけではない,様々な側面を持つものであり,
人間らしい生活を支える意味を持つものであることから,
より幅広い視野を持って交通現象を研究する必要がある.
筆者らは,交通行動を様々な側面から分析することは,
見方を変えると社会活動の諸断面を交通を通して把握す る指標としての意義があると考えている.その意味で,
交通の変化を量的な側面から理解するだけでなく,その 背景に隠された要因を探ることは,社会の様々な問題点
の要因を明らかにできる可能性があると考えている.
交通行動を様々な側面から分析した既往研究には,次 のようなものがある.杉田ら4)は,個人を取り巻く環境,
世帯構成,自動車保有の違いによる交通行動の差を分析 している.藤岡ら5)は,若い女性を対象として,世帯構 成だけでなく,職業も区分した分析を行っている.土井 ら6)は生成原単位の変化の状況を分析し,職業や性別,
世帯構成等によって異なっていることを示している.ま た,土井ら7)は,生成原単位の減少に関係すると考えら れる項目を質問したWEBアンケートの結果から,生成 原単位の減少要因を分析した結果,収入や免許保有と関 係していることを示唆する結果を得ている.こうした知 見は蓄積されつつあるが,生成原単位減少の要因につい てはまだ明らかでないことが多い.
本稿では,このような生成原単位の変化が,どのよう な個人属性で生じ,どのような移動が減少しているのか を探ることを目的としている.移動の変化に関する分析 は,外出率や生成原単位などの指標だけでなく,トリッ プチェーンにも着目して分析を行うものである.
2. 個人属性別にみた生成原単位・外出率の変化
(1) 分析対象の絞り込み
人々の移動は,個人それぞれが抱える様々な背景,す なわち個人属性によって,多種多様な様相を持つもので ある.そのため,生成原単位の減少要因を分析する上で は,移動の面から見た個人属性をできるだけ均質にした 上で分析を行うことが有効である.
そこで本稿では,生成原単位の変化を年齢階層別にみ たときに,最も減少幅が大きい年代に着目して分析を行 う.近畿圏PT調査データを用いて平成2年から平成22年 までの20年間の生成原単位の変化を年齢階層別にみた結 果を図-16)に示す.最も大きく生成原単位が減少してい るのは30~34歳の年齢層である.本稿では,この年齢層 に限定して分析を行うこととする.
0.00 0.50 1.00 1.50 2.00 2.50 3.00 3.50
平成2年 平成12年 平成22年 (トリップ/人日)
(歳)
図-1 年齢階層別の生成原単位の推移(平日)6)
なお,コーホート的に考えると,平成22年の30~34歳 は,平成12年における20~24歳であり,平成2年の30~
34歳は,平成22年における50~54歳に該当する.同一年 代の交通行動の推移に着目することは,その世代を構成 する人そのものに着目することになるが,本稿の狙いは,
ライフステージの変化による交通行動変化要因を探るこ とではなく,移り変わる社会環境の中で人々の生活が変 わることによる交通行動の変化の実態を明らかにするこ とである.よって,年齢層を限定した同一世代に着目し た分析を行うこととした.
平成22年に調査が実施された第5回近畿圏PT調査にお ける,30歳~34歳の職業別人口を表-1に示す.学生の人 口は特に小さい.以降では,個人属性をさらに細かく分 類して分析を行う.サンプル数が小さい学生は分析に耐 えられないことから,分析対象から除外した.
表-1 30~34歳の職業別人口(平成22年)
就業者 学生 無職 計 計(学生除く)
男性 504.2 4.3 55.8 564.3 560.0 女性 395.5 3.4 191.5 590.4 587.0 合計 899.7 7.7 247.3 1,154.7 1,147.0
※集計対象は第4回調査圏域 単位:千人
(2) 個人属性別生成原単位・外出率の変化 a) 個人属性の分類項目
分析を行う際に採用する個人属性は,土井ら6)の分析 結果を参考に,生活に深く関係すると考えられるととも に,生成原単位の変化が認められる,職業(就業者,無 職),性別(男性,女性),世帯構成(単身,同居)を 採用した.ここで,世帯構成の「同居」は,単身以外の 世帯のことを指す.また,自動車保有の有無の代わりに 免許保有の有無を採用した.これは,PT調査データで は世帯の自動車保有台数は把握できるが,個人が自由に 利用できる自動車を持つか否かの判断が困難であるため である.地域特性については,予備的分析の結果からは 特徴的な傾向がみられなかったため,ここでは採用しな かった.今後さらに分析を深める中で,考慮していくこ とが考えられる.
職業別,世帯構成別,免許保有有無別の人口,生成原 単位(グロス),外出率の推移を表-2に示す.なお,平 成12年と平成22年の差が大きい属性には,以降の章で分 析対象とすることから,グループ名称を付けている.
b) 人口の変化
30~34歳の人口は,平成12年からの10年間でおよそ20 万人(約14%)減少した.就業人口は,男性が減少する 一方で,女性では増加している.無職人口は,男性が増 加し,女性が減少している.単身世帯の構成比は,男女 ともに小さく,男性では減少し,女性では横ばいである.
こうした人口構造の変化も,全体で見た場合の生成原単 本稿で分析対象とする
年齢層:30~34 歳
位の変化に影響している.
c) 生成原単位,外出率の変化
生成原単位や外出率の変化について考察する.ここで は,より変化の幅が大きく,一定の人口がある属性に着 目して考察を行う.
○グループA1, A2:男性・同居・免許有
この属性では,生成原単位がおよそ0.45トリップ/日減 少している.外出率は,就業者であるA1は大きな変化 はない.一方,無職であるA2は約13%減少している.
無職で同居しているが免許無の属性と,免許有のA1,
A2を比較すると,A1,A2の方が,生成原単位の減少幅 が大きい.免許有の属性よりも免許無の属性の方が,ト リップが減少していると想定されたが,そうした想定と は異なる結果となった.この傾向は,免許有の属性の生 成原単位が,免許無の属性の値に近づいたとも考察でき る.これには,自動車保有が関係していると考えられる ことから,次章において分析を行う.
○グループB1, B2:女性・同居・免許無
生成原単位は,就業者であるB1で0.64トリップ/日,無 職であるB2で1.05トリップ/日減少している.無職の方が 減少幅が大きい.外出率は,B1は5.6%の減少で比較的 小さいが,B2は24.6%減と大きく減少している.
職業の有無が交通行動に影響することは,土井ら7)に よる「年収が少ない方が外出が少ない」という指摘を裏 付ける結果と言える.一方,無職では10年間の間に外出 率が大きく減少している状況が明らかとなった.この要 因を探るため,次章において分析を行う.
○グループC1, C2:女性・同居・免許有
生成原単位は,就業者であるC1で0.71トリップ/日,無 職であるC2で0.89トリップ/日減少している.外出率は,
C1は3.8%の減少で比較的小さいが,C2は17.2%の減少で あり比較的大きい.こうした傾向は,グループBと同様 の傾向である.この変化の要因についても,次章におい て分析を行う.
3. 移動の変化が大きな属性の詳細分析
(1) トリップチェーンの変化
ここでは,生成原単位や外出率が減少している背景を 探るため,1日の移動をトリップ単位ではなく,1日に行 うトリップのつながりであるトリップチェーンで分析を 行う.なお,トリップチェーンは自宅を出てから帰宅す るまでの一連のトリップのつながりを指すことがある.
ここでは,人の1日の生活の全体像を把握するため,一 人ひとりが1日に行うトリップ全体をひとつのチェーン として分析を行うこととした.
a) 1日あたりトリップ数別人口構成の変化
まず,一人ひとりが1日に行うトリップ数別に人口を 集計し,その構成比の変化を分析した.その結果を図-2 に示す.
7%
8%
58%
70%
6%
10%
22%
39%
8%
13%
31%
55%
2%
2%
0%
0%
1%
1%
0%
0%
1%
1%
0%
1%
62%
67%
24%
20%
46%
59%
28%
27%
54%
62%
32%
22%
6%
9%
7%
3%
11%
12%
9%
8%
12%
12%
8%
7%
12%
8%
7%
4%
17%
10%
18%
12%
12%
6%
13%
7%
11%
6%
5%
3%
19%
9%
24%
14%
14%
5%
16%
7%
0% 20% 40% 60% 80% 100%
H12 H22 H12 H22 H12 H22 H12 H22 H12 H22 H12 H22
就業(A1)無職(A2)就業(C1)無職(C2)就業(B1)無職(B2)
男性女性女性
免許有免許無
同居
トリップ数別人口構成比(%)
0トリップ/日 1トリップ/日 2トリップ/日 3トリップ/日 4トリップ/日 5トリップ/日以上
図-2 1日あたりトリップ数別人口構成比の変化
性別に関係なく,就業者(A1,B1,C1)の0トリップ の構成比(非外出率)は,無職と比べて増加の幅が小さ 表-2 個人属性別人口,生成原単位,外出率の変化(着色箇所は変化が大きい箇所)
人口(千人) 生成原単位(トリップ/人) 外出率(%)
性別 職業 世帯 免許 H12 H22 H22/H12 H12 H22 H22-H12 H12 H22 H22-H12 グループ
男性 就業 単身 免許無 5.1 4.7 0.92 2.57 2.64 0.07 87.4% 92.6% 5.2%
免許有 53.1 35.0 0.66 2.89 2.65 -0.24 91.6% 92.2% 0.6%
同居 免許無 27.4 35.0 1.27 2.16 2.10 -0.05 83.4% 87.4% 4.1%
免許有 537.9 429.6 0.80 2.91 2.45 -0.45 93.0% 91.7% -1.3% A1
無職 単身 免許無 1.3 1.2 0.94 1.41 1.34 -0.06 54.6% 42.6% -12.0%
免許有 2.2 1.9 0.85 1.41 1.34 -0.07 48.1% 44.9% -3.3%
同居 免許無 8.0 17.1 2.13 0.60 0.75 0.16 26.4% 31.4% 5.0%
免許有 20.6 35.6 1.73 1.24 0.80 -0.44 42.0% 29.5% -12.5% A2
男性計 655.6 560.0 0.85 2.78 2.28 -0.50 89.8% 85.4% -4.4%
女性 就業 単身 免許無 7.1 9.1 1.28 2.65 2.68 0.02 92.4% 95.1% 2.6%
免許有 19.3 29.5 1.53 2.92 2.67 -0.25 94.8% 96.3% 1.5%
同居 免許無 54.6 64.8 1.19 2.86 2.21 -0.64 92.2% 86.6% -5.6% B1
免許有 221.2 292.0 1.32 3.24 2.53 -0.71 93.8% 90.0% -3.8% C1
無職 単身 免許無 2.1 1.6 0.76 1.39 1.29 -0.09 49.7% 41.7% -7.9%
免許有 1.9 1.4 0.75 1.87 1.53 -0.34 72.6% 50.2% -22.4%
同居 免許無 82.7 35.4 0.43 2.44 1.39 -1.05 69.3% 44.7% -24.6% B2
免許有 295.2 153.1 0.52 3.05 2.16 -0.89 78.4% 61.2% -17.2% C2
女性計 684.0 587.0 0.86 3.00 2.33 -0.67 83.9% 79.5% -4.3%
全体計 1,339.7 1,147.0 0.86 2.90 2.31 -0.59 86.8% 82.4% -4.4%
い.2トリップや3トリップの構成比は増加する傾向にあ る.一方,4トリップ以上の構成比が減少する傾向にあ る.就業者は,1日に複数トリップを行う人が減少する ことによって,トリップ数が減少していることがわかる.
無職の属性(A2,B2,C2)は,平成12年の時点から 非外出率が比較的大きいだけでなく,就業者と比べて大 幅に増加している.そのため,2トリップや3トリップの 構成比も減少する傾向にある.無職の属性では,外出者 が減少するとともに,1日に複数トリップを行う人が減 少していることによって,トリップ数が減少しているこ とがわかる.
女性では,職業に関わらず,全体的に4トリップ以上 の構成比が男性と比較して大きい.この理由として,女 性は家事や,特にこの年代は子供の送迎などを行う場合 が多いことが考えられる.しかし,この10年でその構成 比が半分近くに減少している.以降では,トリップチェ ーンを構成する目的に着目し,1日に複数トリップを行 う人の減少要因を分析する.
b) トリップチェーンに含まれる目的構成の変化 ここでは,トリップチェーンを構成する一つひとつの トリップ目的の組合せパターン別に,人口構成比の変化 を分析する.トリップ目的の組合せは非常に多くのパタ ーンが出現する.そのため,一つひとつのパターンの構 成比の変化は小さくなる.そうした小さな構成比の変化 で考察を行うことは,統計的な有意性にも配慮する必要 があるが,これについては引き続き検討を進める中での 課題としたい.
表-3に,トリップチェーンのパターン別構成比の変化 を示す.構成比が増加するトリップチェーンは,就業者
(A1,B1,C1)では,出勤→帰宅や,食事→帰宅など の2トリップで完結するトリップチェーンである.
出勤したあと帰宅するまでの間に,業務や食事等の何 らかの用事を済ませるトリップチェーン(表中の「出 [業]帰」や「出[業や自]帰」)の構成比も減少している.
例えば,1日の間に業務で取引先をいくつもまわる人や,
業務での移動途中における食事のための立ち寄り,ある いは,仕事帰りの飲食や買い物,といったトリップチェ ーンの構成比が減少している.
無職(A2,B2,C2)では,食事→帰宅の2トリップで 完結する構成比が増加する傾向にある.興味深い変化で
あるが,この要因は確認できていない.一方で,買物→
帰宅やその他私用→帰宅という2トリップで完結するチ ェーンも減少している.こうした変化は,非外出率の増 加につながっていると考えらる.
1日に複数回外出をする構成比はほとんどの属性で減 少する傾向にあり,特に無職の女性(B2,C2)ではお よそ9%減少している.これは,買い物や送迎,通院,
習い事等を行うたびに何度も外出する構成比の減少によ るものである.しかしながら,1度の外出でそれらの用 事を済ませる人の構成比も減少している.これらの状況 から考えられることは,買い物について言えば,小売り の業態の変化,つまり,ネット通販の普及や,コンビニ エンスストアや大規模ショッピングモールの増加が影響 している可能性がある.もうひとつには,世帯の中での 役割が変化していることが考えられる.すなわち,本人 の代わりに他の世帯構成員が外出して,買い物や送迎等 の用事を肩代わりしている可能性がある.
次節において,世帯の中での役割の変化を確認するた めの分析を行う.
表-3 トリップチェーンパターン別構成比の変化
個人属性 変化 パターン(人口構成比の変化)
同居 男性 就業 増加 出帰(+3.5%)
免許有 A1 減少 出[業]帰(-2.1%)、出[業や自]帰(-2.1%) 無職 増加 食帰(+1.8%)、
A2 減少 複数外出(-1.5%)、私帰(-6.0%) 女性 就業 増加 出帰(+8.4%)
C1 減少 複数外出(-2.8%)、出[業や自]帰(-3.1%) 無職 増加 食帰(+2.9%)
C2 減少 複数外出(-9.3%)、買帰(-4.6%)、私帰×2(-4.1%) 同居 女性 就業 増加 出帰(+2.6%)、業帰(+2.0%)
免許無 B1 減少 出買帰(-2.4%) 無職 増加 食帰(+2.2%)
B2 減少 複数外出(-9.0%)、買帰(-10.3%)、私帰(-3.1%)
※表には,構成比の変化が1%以上であるトリップチェーンのパターンを示した.
ここで,出:出勤,帰:帰宅,業:業務目的全般,自:自由目的全般,食:食 事,買:買物,私:その他私用(送迎,通院,習い事等),複数外出:1日に2回 以上帰宅(外出)することを意味する.例えば「出帰」は,「出勤→帰宅」の トリップチェーンを表す.[ ]内は,出勤と帰宅の間に[ ]内に記載した目的の トリップが少なくとも1トリップ含まれることを表す.
(2) 同居世帯の女性の世帯構成の違いによる変化 外出が必要な用事を肩代わりするのは,本人よりも年 上の世代である両親等と考え,35歳以上(年上)と同居 している属性と,同年代以下と同居している属性の2つ のグループに分けて,生成原単位や外出率の変化を分析 する.分析対象は,家族と同居している女性(B1,B2,
C1,C2)である.分析の結果を表-4に示す.
表-4 同居世帯の女性の世帯構成の違いによる生成原単位と外出率の変化
人口(千人) 生成原単位(トリップ/日) 外出率(%)
属性 グループ 世帯構成 H12 H22 H22/H12 H12 H22 H22-H12 H12 H22 H22-H12
就業 B1 年上と同居 39.0 54.1 1.39 2.66 2.12 -0.54 91.4% 86.2% -5.2%
免許無 同年以下と同居 15.6 10.8 0.69 3.35 2.67 -0.67 94.3% 88.7% -5.7%
無職 B2 年上と同居 44.8 25.1 0.56 2.35 1.22 -1.13 67.2% 40.7% -26.5%
免許無 同年以下と同居 37.8 10.3 0.27 2.54 1.79 -0.75 71.8% 54.4% -17.4%
就業 C1 年上と同居 144.3 223.6 1.55 3.05 2.43 -0.61 92.9% 90.6% -2.3%
免許有 同年以下と同居 76.9 68.4 0.89 3.60 2.84 -0.76 94.6% 87.5% -7.1%
無職 C2 年上と同居 143.9 83.9 0.58 3.16 2.14 -1.02 79.9% 59.3% -20.5%
免許有 同年以下と同居 151.3 69.3 0.46 2.94 2.19 -0.76 77.0% 63.4% -13.6%
無職(B2,C2)の場合,年上と同居している属性の 方が,生成原単位,外出率ともに減少幅が大きいという 結果が得られた.一方,就業者(B1,C1)の場合は,
同居している人の年齢による傾向の違いは確認できなか った.なお,免許の有無別にも分析を行ったが,両者の 間に明確な差は認められなかった.
以上の結果より,無職の中でも,年上の世代と同居し ている人の方が,外出が少ないことが確認できた.外出 機会がない,あるいは外出が少ない人たちの代わりに,
親世代等の年上の世代が生活をサポートしている状況が 読み取れる.この状況がこのまま推移していくと,親世 代等のサポートがなくなった場合に,自立的な生活を送 ることが困難になる人たちの問題が想定できる.
このような問題は,就業者においては小さいかもしれ ないが,無職の属性では収入のことも考えると,より深 刻な問題となる可能性がある.問題が深刻化する前に,
就労環境や交通環境を整えることも含めて幅広く視野を 広げて,これからの公共政策のあり方を考えていくこと が望まれる.
(3) 免許有の男性の自動車保有の変化
同居している男性の免許有の属性(A1,A2)では,
同じ属性の免許を持たない属性と比べて生成原単位が大 きく減少していた.これには自動車保有の変化が影響し ていると想定し,自動車保有台数の分析を行った.A1,
A2の属性を,外出「あり」と「なし」に分類し,それ ぞれの平均自動車保有台数を比較する.なお,PT調査 では,自動車保有状況を世帯単位で把握していることか ら,世帯における自動車保有台数の分析を行った.その 結果を表-5に示す.
表-5 免許有の男性の世帯での自動車保有台数の変化
世帯当たり自動車保有台数(台/世帯)
H12 H22 H22/H12
外出なし 1.22 1.79 1.47
外出あり 1.24 1.91 1.55
全体 1.23 1.83 1.49
外出「あり」「なし」ともに,平成12年から平成22年 にかけて自動車保有台数が増加している.外出「なし」
の世帯の平均自動車保有台数は,外出「あり」の世帯と 比較して小さいものの,増加率は外出「なし」で1.47倍,
「あり」は1.55倍である.このような自動車保有台数が 増加する傾向は,この10年間でこの世代に限らず全体的 に増加していることが根底にあると考えられる.近畿2 府4県における全体の乗用車の保有台数8)の推移をみると,
平成12年から平成22年まで間に1.09倍に増加している.
PT調査データを用いた自動車保有台数の分析からは,
免許有の男性のトリップの変化要因を説明することはで
きなかった.ただし,今回の集計結果は世帯の保有台数 であり,着目した属性の個人が自由に利用できる自動車 台数の変化ではない.生成原単位が減少する要因をより 明確に説明するためには,自由に利用できる自動車保有 の有無を分析する必要があることが示唆された.
4. おわりに
本稿では,生成原単位の減少がどのような移動実態の 変化によりもたらされているのかを明らかにするため,
PT調査データを用いて個人属性を細かく分類した分析 を行うとともに,トリップチェーンに着目した分析を行 った.
その結果,生成原単位や外出率の減少が大きいのは,
免許を持っている属性や,同居している属性であること が明らかとなった.
トリップチェーンの分析からは,トリップの減少要因 として,外出者の減少実態とともに,1日に複数回のト リップを行う人の割合が減少している実態を明らかにし た.特に,1日に複数回外出する人や,出勤と帰宅の間 に業務トリップや買い物等の私用トリップを行う人が減 少していることが確認できた.
また,特に無職の女性では,世帯構成によってトリッ プの減少が異なり,両親を含む年上世代と同居している 人の方が,よりトリップが減少する傾向が確認できた.
以上のように,これまではトリップが減少する要因を 考える上で,イメージだけで語られることが多かったこ とが,今回PT調査データを用いて実態の変化を明らか にすることができた.
こうした変化は,社会背景の変化に伴って生じている と考えられる.今後は,移動実態の変化と社会背景の変 化の関係について調査分析を行っていくことが課題であ る.特に,情報化の進展や商業を取り巻く環境の変化,
そして家族間の支え合い等と移動実態の関係については,
PT調査のみからは分析することができないため,追加 調査を実施して関係を明らかにする必要がある.また,
東京都市圏や,中京都市圏等の他の都市圏における状況 も合わせて分析を行い,各都市圏の変化傾向の比較を通 して知見を蓄積し,実態を解明することを試みる.
なお,本研究は科研費・基盤研究(C)課題番号 26512008を受けて実施したものである.
参考文献
1) 藤井聡:改めて「交通行動調査」を考え直す~良質な交 通計画のために,豊かな交通行動調査を~,交通工学,
Vol.46,No.2,pp.4-7,2011.
2) 原田昇:交通まちづくり 地方都市からの挑戦,鹿島出 版会,2015.7.
3) 例えば,中京都市圏総合都市交通計画協議会:人の動き からみる中京都市圏のいま,2014.
4) 杉田浩,鈴木紀一,秋元伸裕:世帯属性の変化が交通発 生に及ぼす影響分析,運輸政策研究,Vol.2,No.3,pp.9- 18,1999.
5) 藤岡啓太郎,石神孝裕,高橋勝美:東京都市圏における 若者の交通実態に関するマクロ分析−特に女性のライフス テージに着目して−,IATSS Review,Vol.37,No.2,
pp.115-122,2012.9.
6) 土井勉・安東直紀・白水靖郎・中矢昌希・西堀泰英:人 生前半のアクティビティとモビリティの課題〜若者世代
(20〜30歳代)の活動減少から見た社会問題に対する一 考察から~,土木計画学研究・講演集 No.50,CD-ROM,
2014.
7) 土井勉・安東直紀・西堀泰英・猪井博登・白水靖郎・中 矢昌希:若年者における生成原単位減少の背景に関する 考察,土木計画学研究・講演集 No.51,CD-ROM,2015.
8) 一般財団法人自動車検査登録情 報協会:都道府県 別・車種別自動車保有台数(軽自動車含む),各年 度.
(2015.7.31)