博士学位申請者 氏名 瀧口 匡
博士学位申請論文
題名『ベンチャー企業の急成長を支えるインタンジブルズの研究』
(訳)A Study of Intangibles Promoting the Rapid Growth of Venture Business
I. 論文の構成
本論文は、企業が成長する過程における企業のインタンジブルズと企業価値創造の関係を研究 し、企業の成長のメカニズムを明らかにするものである。特に本論文は、ベンチャー企業に研究 の焦点をあて、ベンチャー企業の急成長を支えるインタンジブルズについて研究するものである。
本論文は序章と6章で構成されている。本論文の枠組み枠組は研究の問題意識を出発点に仮説 を導出し、その仮説を検証することを通して新たな仮説を提唱するものである。本論文の第1章 では研究の出発点となる問題意識から研究の方向性を示し、第2章と第3章では先行研究の分析 を通して仮説の手がかりを見出し、第4章では実証研究を通して仮説を導出し、第5章ではその 仮説を事例研究を通して検証し、最終第6章において、その検証から新たな仮説を提唱している。
本論文の構成と章立ては、以下の通りである。
序論
第1章 ベンチャーキャピタルの投資意思決定から見えてくる インタンジブルズの重要性
(研究の出発点となる問題意識)
第2章 インタンジブルズに関する研究の軌跡と 体系的整理
(先行研究の体系的整理)
第3章 インタンジブルズに関する先行研究と その論理
(先行研究の論理の分析)
第5章 ベンチャー企業の急成長に見られるインタンジブルズと 企業価値創造の関係
(事例研究による仮説の検証)
第6章 結び:ベンチャー企業の急成長を支える インタンジブルズの研究
(新たな仮説の提唱)
第4章 企業改革を通して見えくるインタンジブルズと 企業価値創造の関係
(仮説の導出)
II. 本論文の概要
瀧口氏の博士学位申請論文として提出された「ベンチャー企業の急成長を支えるインタンジブ ルズの研究」は、企業が成長する過程における企業のインタンジブルズと企業価値創造の関係を 研究し、企業の成長のメカニズムに迫るものである。特に本論文は、ベンチャー企業という企業
形態に研究の焦点をあて、企業の急成長を支えるインタンジブルズについて明らかにするもので ある。その章立てを以下に概説することにする。
序章の概説
本論文の序論では、論文の枠組みを明確にしており、以下の4節で構成されている。
第1節 問題意識
第2節 本論文の研究の目的・研究アプローチの特徴・研究の独自性 第3節 本論文の研究の範囲・留意点・定義
第4節 本論文の構成と各章の要旨
序章では、基本的な問題意識として「日本の生活様式に見るインタンジブルズ」「日本企業の成 長に見るインタンジブルズ」「日本ベンチャー企業の現状とインタンジブルズ」およびの「インタ ンジブルズと実務家の距離」の4つの問題意識を指摘している。特に、このなかで筆者が留意し ている問題意識は「インタンジブルズと実務家の距離」である。そこでは、実務家が重要だと知 りながら実務にインタンジブルズの概念を取り入れないことに、筆者の問題意識の中心が置かれ ている。
また、序章では、以下の4つの研究の独自性が指摘されている。
第1の独自性は、実務家の目線を通してインタンジブルズと企業成長の関係を明らかにしてい るところである。第2の独自性は、インタンジブルズについて実際の企業の事例を具体的に取り 上げて研究を進めていることにある。第3の独自性は、これまでのインタンジブルズに関する多 くの研究は大手企業を対象とするものが中心であったが、これに対し本論文はベンチャー企業と いう小企業を研究対象とし、その成長をインタンジブルズの概念を用いて究明しようとすること にある。第4の独自性は、企業の成長段階だけのインタンジブルズに研究の焦点をあてているこ とである。
また、企業成長の概念もPenroseを参考にしたものと思われるが、「企業の成長」とは、「量」の 正の向上であり、「質」の正の向上であるとされており、本論文を論じてく枠組みは整理されてい る。
第1章「ベンチャー・キャピタルの投資意思決定から見えてくるインタンジブルズの重要性
(研究の出発点としての問題意識)」の概説
第1章は、以下の5節で構成されている。
第1節 本章の研究の概要
第2節 ベンチャー企業の評価データの概要と背景 第3節 投資判断における企業評価データの定量分析
第4節 「人の評価」というインタンジブルズに基づいた投資とその後の企業の経営状況 第5節 本研究を通して得られたインタンジブルズの性質
本章は、インタジブルズが企業活動において重要であるという点を実証研究を通して指摘して いる。また、本章は「人の評価」というインタンジブルズが企業活動において重要であるという 点を定量的に分析することにより、更なるインタンジブルズに関する研究の重要性を提示した「研 究の出発点となる問題意識」としての研究である。
本章では、ウエルインベストメントというベンチャー・キャピタルにおける投資意思決定とイ ンタンジブルズの関係を定量的1と定性的の2つのアプローチで研究を進めている。本章における インタンジブルズとは、投資を行なう際に企業を評価する項目の1つである「人の評価」に関す るものである。「人」とは、バランス・シートには記載されていない有形な経営資源であるが、そ の本質は資質や器量あるいは能力といったインタンジブルズであり、この章では、「人」に帰属す る「評価」をインタンジブルズであるとし研究が進められている。
ベンチャー・キャピタルは投資対象先であるベンチャー企業の経営者の「人」を見て投資の意 思決定を行なうと言われている。しかし、実際このことを定量的に検証したケースは希少であり、
ここでの研究は「人の評価」というインタンジブルズが、VCの投資意思決定に最も影響している ことを定量的に実証しているものであり、希少な研究である。また、その「人の評価」というイ ンタンジブルズに基づく投資判断が、比較的正しい投資判断であることを定性的に本章では検証 している。
第2章「インタンジブルズに関する研究の軌跡と体系的整理(先行研究の体系的整理)」の 概説
第2章は以下の5節で構成されている。
第1節 インタンジブルズの概念の開放と本研究の留意点 第2節 インタンジブルズに関する研究の始まり
第3節 1980年代のインタンジブルズの研究 第4節 1990年代のインタンジブルズの研究
第5節 2000年代のインタンジブルズの研究と最近の研究動向
本章の研究は、インタンジブルズに関する先行研究の軌跡を紐解き体系的整理を行なっている。
その研究範囲は、知的資産や知的資本等の言葉の制限や概念に囚われることなく、インタンジブ ルズを広義の視点で研究している点が特徴である。また、本章の研究は、次章において先行研究 の論理について研究を重ねていくため、先行研究の全体像を理解するための基本となる研究であ り、先行研究を俯瞰的に考察することを主眼としている。
第3章「インタンジブルズに関する先行研究とその論理の考察(先行研究の論理の分析)」の概説 第3章は、以下の3節で構成されている。
第1節 インタンジブルズの評価・測定の論理とその概要
第2節 先行する研究のなかのインタンジブルズに関する論理とその限界
1 多変量解析
第3節 企業価値を創造するインタンジブルズの特性
本章の研究は、インタンジブルズを広義の意味で捉え先行研究の論理を分析し、インタンジブ ルズと企業価値創造に関する研究を通して、本論文における仮説を導出する手がかりを見出すこ とに主眼が置かれている。
本章の研究は、以下の3つのアプローチで行われている。
第1のアプローチは、インタンジブルズを評価・測定しようとする研究に焦点をあて検証を進 める。ここでは、インタンジブルズに関する概念や構成要素を分析しながら、インタンジブルズ を評価・測定しようとする研究がインタンジブルズをどのように捉え整理しているかを検証して いる。特に、ここでは、インタンジブルズを評価・測定しようとする研究者の関心の対象が、「人」
に関するインタンジブルズと「組織」に関するインタンジブルズに注がれている点を指摘してい る。
第2のアプローチは、インタンジブルズに関するこれまでの研究の論理に、一定の限界が存在 していることを指摘している。すなわち、一部のインタンジブルズを評価・測定しようとする研 究も含まれるが、インタンジブルズを知的資本や知的資産と捉え研究しようとしている研究の論 理に、一定の限界が存在していることを整理している。
第3のアプローチは、本研究の論理の基礎となるインタンジブルズの資源性を指摘していくも のである。ここでは、インタンジブルズが経営資源(management resource)であるとする立場を 論じている。また同時に、先行する研究を通して、インタンジブルズとしての経営資源のなかに、
動的なダイナミック・インタンジブルズの存在を指摘している点が特徴である。
第4章「企業改革を通して見えてくるインタンジブルズと企業価値創造の関係(仮説の導 出)」の概説
第4章は、以下の5節で構成されている 第1節 本章の研究の目的と研究の留意点 第2節 研究対象の概要と企業改革後の企業価値 第3節 研究対象の企業改革とその問題点
第4節 企業改革に関する調査を通して見えてきた新たなインタンジブルズの存在 第5節 インタンジブルズに基づく企業価値創造の研究における仮説の導出とその整理
本章は、コスモ証券の実証研究を通して、新たなインタンジブルズの概念である「しつこさ(執 拗)」の概念を指摘し、本論文における仮説を導出することに主眼が置かれている。
本章で取り上げる実証研究は、コスモ証券株式会社のケースである。このケースは、老舗企業 が業績低迷期に行った企業改革のなかで、業容を回復し成長していく過程で見られたインタンジ ブルズに関して研究を進めている。
コスモ証券株式会社は、今から約100年余前の1904年(明治37年)に創業された、東京証券
取引所第1部に上場されていた証券会社である2。その長い社歴から、老舗証券会社であることは 疑いのない事実である。本研究は、この老舗証券会社の企業改革に焦点をあて、インタンジブル ズと企業の価値創造の関係を客観的に論じている。本章では、これまでの先行する研究では指摘 されていない「しつこさ(執拗)」というインタンジブルズの概念を取り上げ、第3章の先行研究 の分析を手がかりに仮説を導出している。
本章のコスモ証券の実証研究で重要な点は、「しつこさ(執拗)」という、実際の企業改革の現 場で発見されたインタンジブルズの発見である。本章では「しつこさ(執拗)」を新たなインタン ジブルズであると指摘しているが、この種の概念は以前の研究でも発見されていたと考えられる。
しかし、「しつこさ(執拗)」が、「ブランド」「プロセス」のように多くの研究者が企業の成功要 因として着目してきた通常の概念と異質な存在であったため、これまでの研究では取り上げられ てこなかった可能性がある。仮に「しつこさ(執拗)」の概念を、文献研究等を通して発見し指摘 したとしても、これまでの大企業中心の企業経営の成功要因分析が主流の学界においては反論の 的になる可能性があり、これまでの研究者は取り上げてこなかったのであろう。しかし、第4章 はコスモ証券の企業改革という実証研究であり、そこで発見された「しつこさ(執拗)」の概念を 手がかりに仮説を導出したとしても、文献上の研究からの指摘より反論が緩やかであろうと考え ている。
また、本章で指摘している仮説は下記の2つの概念である。
① 本論文における経営資源を構成するフレームワークにおいては、企業価値創造するもはダ イナミック・インタンジブルズのなかの「?」で表される「しつこさ(執拗)」や「スピ ード」で構成される。また、「しつこさ(執拗)」や「スピード」以外にも、企業を成長に 導くダイナミック・インタンジブルズが存在するのではないか。(下図参照)。
ケイパビリティ ?
財 務 手元現金等 資本市場プレミアム、信用格 付等
財務戦略の運用力や展開 力、M&A等の資本戦略の実
行力等
-
物 不動産(工場、店舗、配送セ ンター等)、設備、車両等
特許、ライセンス、自前のITシ ステムや生産システム、技術 情報、商品(技術)ブランド等
オペレーション能力
(技術、サービス、製品の優位 性)等
-
組 織 各種マニュアル、規定等
プロセス(業務・人材育成)、
企業ブランド、パートナー、競 合の情報、企業文化、風土等
組織が持つ能力(研究開発・
製品開発・生産管理)等
人 経営者、技術者、研究員、販 売員、パートタイマー等
マネジメントスキル、オペレー ションスキル、資質、経験、
ネットワーク等 個人が持つ能力等 出所:花堂(2008)を参考に筆者作成
しつこさ(執拗)・スピード タンジブルズ
インタンジブルズ スタティック・インタンジブルズ
(Static Intangibles)
ダイナミック・インタンジブルズ(Dynamic Intangibles)
② 本論文における「しつこさ(執拗)」や「スピード」の概念を取り入れた、企業価値創造 のフレームワークが存在すのではないか(下図参照)。
出所:筆者作成
経済資源(Economic Resources)
インタンジブルズ
(Intangibles) 経営資源 経営資源
タンジブルズ
(Tangibles)
帰 属
ケイパビリティ 帰 属 インタンジブルズ
(Intangibles)
タンジブルズ
(Tangibles)
企 業
? 急成長
$(企業価値)
2 2008年7月25日を最終売買日とし、現在は上場廃止となっている。
第5章「ベンチャー企業の急成長に見られるイタンジブルズと企業価値創造の関係(事例研究に よる仮説の検証)」の要旨
第5章は、以下の3節で構成されている。
第1節 成長したベンチャー企業に関する研究目的とその概要 第2節 株式会社フェイスの急成長を支えたインタンジブルズ 第3節 株式会社ソーテックの急成長を支えたインタンジブルズ
本章では、第4章で導出した仮説を、本章で取り上げる事例研究に基づき検証していくことが 主眼とされている。本章では、第4章で考察した仮説を、実際の調査に基づき検証していく。ま た、本章は、次章で提唱することになる新たな仮説へと進化していくことを目的としている。
仮説の検証の方法は、実際に急成長を遂げたベンチャー企業を取り上げ、その創業経営者に、
インタンビュー調査するかたちで行なわれた事例研究である。しかし、一言で成長といっても、
その成長の度合いには対象としたベンチャー企業間に差異が存在する。そこで、本章の研究では、
成長を成し遂げたベンチャー企業のなかで、短期間において何倍という数値で急成長していた経 営状況だけを取り上げ、本章では研究対象としている。したがって、ここでの調査は、調査を行 った企業の全体的な企業経営を言及していない。
インタビューの対象として取り上げたベンチャー企業は、特徴ある2社を取り上げている。1 社は、現在、東京証券取引所第一部に上場している、音楽配信の先駆者である株式会社フェイス 社である。また、もう1社は、現在は株式会社オンキョウに吸収されたが、独立系パソコン・メ ーカーである株式会社ソーテックである。
2社とも、2000年前後のIT産業の発展期に急成長した著名な企業である。ここでは、この2社 の研究を通して、急成長している過程において経営者が実際に何を見つめ何を感じたか、インタ ンジブルズの研究の視点で事例研究を進めている。
特に本章では、第4章で考察した、「しつこさ(執拗)」や先行研究で見られた「スピード」と いった概念が存在したのか。また、それ以外の概念がそこにあったのか、インタンジブルズと企 業価値創造の関係を明らかにしている。
また、本章の研究は、次章で提唱する新たな仮説に関する、インタンジブルズと企業価値創造 の関係の基礎となる研究となっている。本章は、その論理を構成する上での、重要な実際のケー スを用いた研究である。
第6章「結び:ベンチャー企業の急成長を支えるインタンジブルズの研究(新たな仮説の導出)」
の概説
第6章は、以下の5節で構成されている。
第1節 本論文における仮説の検証とその整理
第2節 ベンチャー企業の急成長を支えるインタンジブルズ 第3節 新たな仮説に関する追加的考察
第4節 実務家にとってのインタンジブルズの概念の活用 第5節 今後の研究課題
本章では、本論文の結びとして、本論文の研究を通して論じてきたインタンジブルズと企業の 価値創造の関係を通して、ベンチャー企業の急成長を支えるインタンジブルズに関する新たな仮 説を提唱することに主眼が置かれている。
本論文は、第1章においてウエルインベストメントの投資意思決定の実証研究(定量分析)か らインタンジブルズに関する本研究における問題意識を提示している。第2章では、広義の意味 でインタンジブルズを捉え、インタンジブルズに関する研究の歴史を紐解き体系的整理を行なっ ている。第3章においては、先行するインタンジブルズに関する研究の論理や概要を分析し、本 論文の仮説を導出する手がかり見出している。第4章では、コスモ証券の企業改革のケースから、
「しつこさ(執拗)」という新たなインタンジブルズの存在を指摘し、ここから本研究における仮 説を導出している。続く第5章では、第4章で導出した仮説を、成長した2社のベンチャー企業 の事例研究を基に検証している。
以上を踏まえて、本章では、本論文の結びとして、第5章で検証した事例研究を軸に新たな仮 説を提唱し、その新たな仮説の指摘をもって本論文の終わりとしている。本章で提唱している新 たな仮説は、ベンチャー企業の成長における経営資源を構成するフレームワークのなかの価値創 造エンジン(VCE:下図参照)の存在と価値創造のフレームワーク(CVCE モデル:下図参照)
の存在である。また、本章では、それらの新たな仮説に基づき、実務においてどのように活用す べきかの指針を示していることが特徴である。また本章の最後には、インタンジブルズと企業価 値創造に関する研究の、今後の研究課題を指摘されている。
経営資源を構成するフレームワークのなかの価値創造エンジン(VCE)の位置付け(仮説)
財 務
物
組 織
人
出所:花堂(2008)を参考に筆者作成
ダイナミック・インタンジブルズ
(Dynamic Intangibles) ケイパビリティ タンジブルズ
インタンジブルズ スタティック・インタンジブルズ
(Static Intangibles)
<価値創造エンジン>
Value Creation Engine
企 業 価 値 創 造 フ レ ー ム ワ ー ク と し て の CVCE モ デ ル
(仮説としてのCorporate Value Creation Engineモデル)
出所:筆者作成
経済資源(Economic Resources)
インタンジブルズ
(Intangibles)
経営資源 経営資源
タンジブルズ
(Tangibles)
帰 属
ケイパビリティ 帰 属 インタンジブルズ
(Intangibles) タンジブルズ
(Tangibles)
企 業
急成長
$(企業価値)
価値創造エンジン
(Value Creation Engine)
III. 本論文の評価(特徴と課題)
本論文は、企業が成長する過程における企業のインタンジブルズと企業価値創造の関係を研究 し、企業の成長のメカニズムを明らかにするものである。特に本論文は、ベンチャー企業に研究 の焦点をあて、ベンチャー企業の急成長を支えるインタンジブルズについて研究するものである 本論文の特徴は下記の5点である。
<本論文の特徴>
①実際のケースに基づく研究
本論文の特徴は、研究アプローチが可能な限り実際のケースを用いて行っていることである。
本論文で取り上げているインタンジブルズに関する研究は、定量化による客観化が極めて困難な ものであるため留意を怠れば客観性を欠く可能性があり、そのため主観的論理展開に陥る危険性 を出来るだけ排除する必要がある。そこで本論文は研究を客観的に進めるため、出来る限り実際 のケースを活用し研究を進め、インタンジブルズの研究に伴う客観性の欠如という難題を回避し ようとしている点が特徴である。
具体手に本論文では、第1章、第4章、また、第5章において、実際の事例を取り上げている。
第1章では、この研究の出発点として本論文の問題意識を提起した。そこでは、「ベンチャー・キ ャピタルの投資意思決定」の事例を具体的に取り上げた。また、第4章では仮説の導出にあたり
「コスモ証券の企業改革」を分析し、第5章では実際のベンチャー起業家(企業家)を対象にし て、それぞれのインタンジブルズの概念を明確にしたうえで、ベンチャー企業の急成長を支える インタンジブルズとその価値創造の関係を明らかにしている。
②成長段階の企業を研究対象としている
本論文は、あくまでも企業の成長段階におけるインタンジブルズと企業の成長の関係を研究す るものであり、特に急成長するベンチャー企業のインタンジブルズを研究する点が特徴である。
通常、企業経営の研究では、リストラクチャリングを迫られる企業や多角化を行なう大企業の企 業経営の研究など様々である。しかし、本論文は、研究対象を成長段階であるベンチャー企業に 焦点を絞りインタンジブルズと急成長の関係を明らかにしている点が特徴ある。
③ベンチャー企業を対象研究としてインタンジブルズの概念を研究
これまでのインタンジブルズに関する多くの研究は、大手企業を対象とするものが中心であっ た。しかし、本論文では従来と異なりベンチャー企業を研究対象とし、その成長をインタンジブ ルズの概念を用いて究明しているところが特徴である。このアプローチは、企業の見えないもの に関する研究のなかでは希少なものである。
④先行研究の分析
本論文は、企業の見えないものに関する研究を少し広義の意味で捉え幅広く先行研究を分析し ている。その分析は2つの方法で行なわれている。その1つは、先行研究を体系的に整理して俯 瞰的に捉えることであり、いま1つは、先行研究の論理に主眼を置き整理している。これらの分
析は本論文では仮説の導出の手がかりとなっているが、企業の見えないものに関する研究をこれ らの2つの方法で分析をとおして整理されており、その点が本論文の特徴である。
⑤実践性を意識した仮説の提唱
本論文は、研究の成果が実務に活用されることを念頭に置いて研究を進めている。本論文の中 では、新たな仮設として価値創造エンジン(VCE)や企業価値創造のフレームワーク(CVCE モ デル)の仮説を提唱しているが、これらの仮説が理論上の議論に終始すること避け、実務に如何 に取り入れられるかの目線で研究が進められており、この実践性が本論文の特徴である。
<本論文の課題>
本論文においては瀧口氏も指摘しているが、以下の4つの課題が存在する。それらは、「インタ ンジブルズの論理に関する課題」「実践性を高めるための研究課題」「価値創造を支えるインタン ジブルズが醸成されるプロセスの解明の必要性」「急成長ステージ以外のインタンジブルズと企業 価値創造に関する研究の必要性」の4点である
①インタンジブルズの論理に関する課題
本論文では、企業価値を創造する動的なインタンジブルズの存在の重要性を論じ、企業の経営 資源を構成するフレームワークのなかに、ダイナミック・ケイパビリティの存在を指摘している。
また、本論文は、花堂や Bounfour の研究が動態的アプローチであると位置付け、彼等の指定す るケイパビリティは、おおよそダイナミック・インタンジブルズであるとして研究を進めている。
そして本論文は、ダイナミック・インタンジブルズのなかに企業の急成長を支える「価値創造エ ンジン(VCE)」の存在を指摘するに至った。本論文を通して、この「価値創造エンジン(VCE)」
には、「スピード」「社会性」「一貫性」「責任ある意思決定」のような概念の存在を指摘している。
しかし、ダイナミック・インタンジブルズやケイパビリティの概念を考察する場合、その論理 の整理が不十分であることは明らかである。本論文の今後の課題として、インタンジブルズの論 理の一層の整理が課題として残されている。
②実践性を高めるための研究課題
本論文は、インタンジブルズの概念と実務との距離を近づけることが1つの目的であった。し かし、本論文では「価値創造エンジン(VCE)」を意味する概念として、「スピード」「社会性」「一 貫性」「責任ある意思決定」の概念しか指摘することができていない。この「価値創造エンジン
(VCE)」の研究には相当の時間と深い追求が必要であることは理解できるが、現行の研究段階で は十分な指摘が行えているとはいい難く、一層の研究が求められる。
より多くの「価値創造エンジン(VCE)」の概念の発見は、より高い実践性へと繋がることにな る。より具体的な「価値創造エンジン(VCE)」の概念の発見を行なえば、より具体的な実践性を 具備することができる。そのために、今後の研究課題としてより実践性を高めるために、より具 体的な更なる「価値創造エンジン(VCE)」に関する概念の追究が求められるのである。
③価値創造を支えるインタンジブルズが醸成されるプロセスの解明の必要性
本論文では、これら企業価値を創造するインタンジブルズが、どのように企業に醸成されるか については十分に論じられていない。今後、「価値創造エンジン(VCE)」等が如何に企業に醸成 されていくかを研究することは、重要な研究課題である。何故なら、もし、有効な醸成するプロ セスを定義づけられるならば、成長に苦心している企業には有益な手助けとなり、実践性を高め る課題を克服する1つの糸口なるからである。
④成長ステージ以外のインタンジブルズと企業価値創造に関する研究の必要性
本論文では、研究対象が大企業であるインタンジブルズの概念を研究の入口として、研究対象 をベンチャー企業に絞り研究を重ねてきた。特に、本論文では、ベンチャー企業の多岐に渡る経 営状態のなかから、急成長する企業経営におけるインタンジブルズと企業価値創造の関係を論じ てきた。そこでは、一定の仮説を提起することできた。
しかしながら、企業は一時的に成長すれば良い訳ではない。企業活動の目的の1つは、ゴーイ ング・コンサーンであり、持続的に成長することも企業活動の目的の1つである。この視点から すれば、本論文は、全く持続的成長等に言及していないことになる。
したがって、今後のインタンジブルズと企業価値創造の関係の研究では、ベンチャー企業の持 続的成長の研究の必要性も研究課題として浮き彫りなってきている。また、このベンチャー企業 の持続的成長の研究は、最終的には大企業の成長を研究するフィールドへと回帰する必要性を否 定できない。
IV. 博士学位申請論文に関する審査結果
瀧口氏は、1986 年に証券最大手の野村證券に入社以来、金融の実務家として約 23 年に及ぶ経 験を有している。この論文は、瀧口氏のその資本市場の経験から浮き彫りになった企業の成長に 関する問題意識がその出発点にある。その問題意識を、実証研究、事例研究、また、文献におけ る研究を通して積み重ねるように進められたのが、本論文である。
「本論文の課題」で指摘したような課題は今後解決しなければならないが、これは瀧口氏個人 の研究領域を超えた資本市場やベンチャー界の課題でもある。現在、これまでの多くの金融界に おけるスキャンダルや昨年からの金融恐慌を背景に、資本市場やベンチャー界は大きなパラダイ ム・シフトを迫られているのは事実である。その環境下、瀧口氏の博士学位申請論文『ベンチャ ー企業の急成長を支えるインタンジブルズの研究』は、現在の資本市場やベンチャー界に大きく 貢献するものと、審査員一同判断した。本論文が、「論理性、独創性、実践性」の視点から。博士 学位申請論文に値すると認める。
年 月 日 博士学位申請論文審査委員会
主査 早稲田大学大学院 院商学研究科 教授 花堂靖仁 印
副査 早稲田大学大学院 商学研究科 教授 松田修一 印
委員 國學院大學 経済学部 教授 秦 孝一 印
委員 早稲田大学大学院 商学研究科 教授 西山 茂 印