Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,
Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
Dr.Kのペリオゼミナール 歯周病原細菌はどこから来て
どこへ行くのか 歯周炎は生活習慣病?
Author(s)
石原, 和幸
Journal
デンタルハイジーン, 28(7): 642-646
URL
http://hdl.handle.net/10130/2528
Right
歯周炎は
生活習慣病?
石原和幸
東京歯科大学微生物学講座 連結先-〒2
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干葉市美浜区真砂ト2
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「
パ ンデ ミック」の危険が
高 まっている現代
「パ ンデ ミック」 とい う言葉 をここ数年 よく耳にします. これは, 感染症が世界的に流行することをさし,最近では, トリ型 インフル エ ンザの話 とともによく出て きます. 何年か前 にS
ARS
が流行 したときは,これに近い状態にな り,世 界が騒然 とな りました.飛行機などの交通手段 の進歩 による人の移 動範囲の広が りは,いままで ヒ トに認め られなかった新 しい病原体 によるパ ンデ ミックの危険性 を高め,過去 にヨーロッパで黒死病 (ペ ス ト)がはやったときのような,人類の脅威 となる疫病 を作 り出す 可能性 を別の形で高めています. 同 じ感染症で も,歯周病 については感染症 と思っている人は非常 に少 ない と思います. どち らか とい うと,体質や老化のた ぐいの も のだ と思 っている人が多いように見受け られます.た しかに,パ ン デ ミックの危機には陥 らないか もしれませんが,成人の3
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以上が 雁息 している感染症 はなかなかあ りませ ん. とはいえ,"歯周病で 死ぬ ことはないから--・
"
と思 って しまうと積極的に何かをする気 にはなれないのが,一般の人の感覚だ と思います.未来の危険を認 識す るのは難 しい ものなのか もしれませ ん.AI
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が世の中に現れ たときは, まず最初に 「命 を失 う疾患」 という情報が さかんに流れ たため,急 に敬慶な行動 をとる人が増 えました. ところが,いまは 逆 にその認識が薄れ,2
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年の デー タでは,日本国内のAI
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患者 数は4
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名 (男性 :3
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名,女性 :3
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名)で過去最高であ り,特 に HIV感染者の増加率が大 きく,現在 もこの流行に歯止めがかかって いません. この一つの原因には,AI
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の感染か ら症状が 自覚 されるまでの 期間 (潜伏期間)が長いため,感染 した後のことをイメージしづ ら 642 デンタル ハイジーン 第2
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巻第7
号.
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年7
月歯
周 炎 は 生 活 習 慣 病 ? 図1 歯周病原細菌の親子での検出率 いこともかかわっていると思い ます.一般 の感染症 で も潜伏期 間が 長 いだけで ピンとこない ものですか ら,歯周炎の ような感染症 だ と それをイメー ジす るのはさらに難 しくな ります. 歯周炎では,歯周病原細菌 といわれている菌がいたか らといって 100%症状 が出るわけではあ りませ ん.発症 に至 る過程 で, さらに 喫煙 の ような環境 (生活習慣)の因子や体質が関与 して くるため, 感染が原因か どうかがわか りづ らくなってい ます.では,本当に感 染 によって歯周病が起 こるので しょうか ?いつ居つ くのか
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忍 び よる歯周病原細菌
子 どもと母親で歯周病原細菌の検 出を行 ってみる と,母親で検 出 率 が高 い薗種 は,子 どもにお いて も検 出率 が高 くなってい ま した (図 1). また,子 どもでの慢性歯周炎の病原体 の検 出率 は混合歯列 期 ごろか ら上昇が認め られ ました (図2).さらに慢性歯周炎の患者 さんの夫婦 を対象 として,その病原体PorPhyromonasgingivalisの感 染 を解析 してみ る と,32組 の夫婦 の うち,14組 か らともにPgi n-givaLisが検 出 され, その うち6組 の夫婦 で 同 じ遺伝子型 のPgi n-givaLisが検 出 され ました.つ ま り, この6組では夫婦内で感染 を起 こしていることがわか ります. この ような結果か ら,Pgingival‡Sの感染源 は,家族の ような,つ ねに接触 している人の場合が多 く,歯周病原細菌 を家族 内で共有す る可能性が高い と考 え られ ます.その点では子 どもの歯磨 き指導以 上 に,家族への口腔清掃 の指導が重要だ といえるのか もしれ ませ ん. 図2 歯周病原細菌の定着年齢 デンタル ハイジ-ン .第28巻第7号 .2008年7月 643∴ ∴ 、 . ・・ 上皮細胞 図3 PglngWal/SやA.actlnOmyCetemCOm/tansは,線毛により口腔内に定着する せ ん もう
既得権 を得 るための武器 「
線毛」
PgingwalisやTdentwolaの ような酸素が苦手 な歯周病原細 菌 は,粘膜表面のような酸素の豊富な部位 には居つ くことがで きませ ん.組織 によって外界 と遮断された歯肉溝のようなところに潜 り込 んで生 きのびてい くことにな ります (高校 などで,危 なげな人は人 目につかない体育館裏のようなところに集 まるの と似 ています). 歯肉溝内は,歯 と歯肉によって囲まれ,酸素濃度が低 くなってい ます. さらにその栄養源 としては,歯肉か ら剥がれて くる上皮細胞 や歯肉か らしみ出 して くる血清の成分 (歯肉溝溶出液)が出て きま す. これ らを分解 して生 きてい くのに都合 が いい ように,Pgi n-givalisやTdenticolaは,タンパ ク分解酵素 をもち,生体 由来の タン パ クを分解 して栄養源にで きるようになっています. しか しどこの 世界 にも変わ り者 はいるもので,歯周病原細菌のなかで も侵襲性歯 周炎 にかかわるとされているAgregaiibacteractmomycetemcomitans は,ほかの菌 とは異 な り,酸素 をそれほど苦手 としません. これ らの菌が効率的に歯肉溝 に居つ くには, まず口腔内に くっつ かなければな らず,その手段 として, しがみつ くための手のような ものが必要です.そのための菌の構造の 1つが 「線毛」です.線毛 は菌の表面か ら毛の ように伸 びています (図3).pgingivaLisとA. actinomycetemcomitansは,表層 に線毛 をもちます. これによって歯 や歯肉に くっつ き,歯肉溝に居つ くと考 えられています. さ らに厄介 なことにPgingivalisの線毛は, くっつ くことによっ644
デンタル ハイジーン ▲第28巻第7号.2008年7月歯周炎は生活習慣
病 ? 核酸 リボ ゾーム 線毛 図4 グラム陰性菌の細胞壁にある外膜の成分は内毒素である て防御 システムを刺激 し,炎症性サ イ トカイ ンを誘導 します.本連 載第 1回でお伝 え した ように,炎症 は防御反応 ですが,それが コン トロールを失 って暴走す る と,組織が受 けるダメー ジが強 くなって しまい ます.さらに侵入 して暴 れる厄介 な輩
歯周病原細菌 に共通す る毒素 としては, これ らの細胞壁 の外膜成 分 であ る 「内毒素」があ ります (図4).内毒素 はIL-1 (6月号参 照) な どの炎症性 サイ トカイ ンを産生 させ,発熱や骨吸収 にもかか わ ります.PgingivalisやA.actmomycetemcomitansは,細胞の中に飲 み込 まれ る よ うに して侵入 す る能力 があ る こ とが報告 されてい ま す.ほかの菌 に比べ て外か ら上皮 のバ リアを攻撃す るだけでな く, 上皮細胞 内部 に入 って攻撃す ることも可能 なのです.この2つの菌 にはそれ以外 にも,宿主 を傷害す る毒素 な どの成分 も存在 します. た とえば,A.actmomycetemcomitansは,マ クロフ ァー ジや好中球 を殺す ロイコ トキ シンを出す ことによって防御か ら逃れ ます.また, 細胞 の分裂サイクルを途中で止め,殺 して しまう細胞致死膨化毒素 も産生 します.これ らのA.actinomycetemcomitansの病原性 は,侵襲 性歯周炎 の病態 に関係 しているのではないか と考 え られてい ます. また,Pgingivalisは,ジンジパ イ ンとい う名前 の タンパ ク分解酵 素 をもってい ます. この タンパ ク分解酵素 は,補体 の活性化 を引 き デンタル ハイジーン ▲第28巻第7号:2008年7月645
起 こす と同時に,補体成分の分解 によって宿主の防御 を回避 します. さらに,炎症性 サ イ トカイ ンを分解 して免疫 による防御 のネ ッ ト ワークを乱 します. また,血液を固めるのに働 くフィブリノーゲ ン を分解 し止血機構 をス トップさせ る一方で,逆 に血小板の凝集や凝 固因子 に作用 して,血栓 を作 らせ るような作用 もあ ります. この血 栓形成作用 は,全身疾患への関与 も考え られています. 補体 の活性化作用や炎症性 サイ トカイ ンの分解 はTdenitcolaの タンパ ク分解酵素 dentillSlnにも認め られます.これ らの タンパ ク分 解酵素 は,栄養源を得 るための ものであると同時に宿主に傷害 を与 える毒素のような役割 もしています. とにか く,い くら病原性が弱い といって も, こんなに細々 と暴れ られた ら,歯肉もたまったものではあ りません.