早稲田大学大学院 基幹理工学研究科
博士論文審査報告書
論 文 題 目
Maximal 𝐿 𝑝 − 𝐿 𝑞 regularity theorem for some initial-boundary value problems appearing in
mathematical physics
数理物理学に現れる初期値-境界値問題の 最大 𝐿 𝑝 − 𝐿 𝑞 正則性
申 請 者
Suma Inna スマ イナ
数学応用数理専攻 偏微分方程式研究
2019 年 2 月
放物型方程式系の初期値・境界値問題の最大正則性原理に関する研究は1960年 代のLadyzhenskaya-Solonnikov-Ural’cevaの研究に端を発し,線形方程式の理論 構築のみならず, 準線形偏微分方程式系の時間局所解の存在理論への応用におい て時代を代表する研究者により多くの研究がなされてきた. 流体数学へ限ってみ れば, 70年代初頭のSolonnikovをリーダーとするロシア学派の液滴落下の解析,
Beale, Nishida, Tani等をリーダーとする日米学派の海面の運動の解析において,
線形化方程式系の非斉次初期値・境界値問題に対するL2枠における最大正則性 原理が本質的役割をなしていた. しばらくの研究期間の空白の後, Jan Pruessを リーダとするドイツ学派のH∞カリキュラスを用いる関数解析的手法,および作
用素値Fourier掛け算作用素理論等のベクトル値調和解析の飛躍的進展を背景と
する,柴田による最大正則性原理の新しい理論展開が21世紀初頭よりなされ,最 近理論が確立された. 両者はともに時間 Lp,空間 Lq の混合ノルム空間での理論 であり,以前のL2理論を含む一般論となっているばかりでなく, 準線形方程式系 への応用においては最良の解空間での解析を可能としている. Pruessは発展方程 式を直接扱う. 一方柴田は対応するレゾルベント問題のR有界な解作用素の構築 を基盤とし, 両者のアプローチは本質的に異なる. Pruess理論は境界が有界であ ることを仮定しているが, 柴田理論は一様な滑らかさを境界に仮定した一般の非 有界領域での理論となっている. さらに柴田理論では初期値・境界値問題に限ら ず,非斉次境界条件における周期解の最大正則性原理,さらに空間の周期境界条件 も扱える総合的な理論となっており, 非斉次境界条件つき放物型方程式系の理論 として完璧なものとなっている. 現在この理論を用いて圧縮性,非圧縮性粘性流体 に対する自由境界問題の理論は構築されつつあるが,さらに数理物理に現れる放 物型方程式系の問題に対してR有界な解作用素を構築しそれを用いて最大Lp-Lq 正則性定理を導出し,さらに非線形問題へ応用することは,これまでの放物型方程 式系に対する理論を刷新する重要な研究テーマである.
この研究指針の下Suma Inna氏は弾性体の運動とそれに応じて発生する熱伝達 を記述するthermo-elastic plate equations のレゾルベント問題のR有界な解作 用素の存在と初期値・境界値問題の最大Lp-Lq正則性定理を示した. さらに最大 正則性原理を応用して非線形問題の時間局所解の一意存在を一般の非有界領域で 示したのみならず, 有界領域においてはスペクトル解析により線形化問題の解の 時間減衰を示し, 最大正則性原理と合わせて非線形問題の時間大域解の一意存在 と解の漸近挙動を示した. またLp理論はまだ完成形ではないNavier-Stokes方程 式に対する表面張力を考慮した自由境界値問題の線形化問題に対して, R有界な 解作用素の存在と初期値・境界値問題の最大Lp-Lq正則性定理を示した.
Suma Inna氏の博士論文は扱う方程式系の背景の説明や記号の導入のあと,次の
ように構成されている. 第2章: 線形thermo-elasitic plate equations のDirichlet 問題, 第3章: 非線形thermo-elastic plate equations のDirichlet問題, 第4章:
Stokes方程式の表面張力付き自由境界問題. 以下得られた定理を述べる.
1
第2章ではu=u(x, t)を弾性体の垂直方向の変位,θ=θ(x, t)を温度として
utt+ ∆2u+ ∆θ=f1, in Ω×(0, T), θt−∆θ−∆ut=f2, in Ω×(0, T), u=∂νu=θ= 0 in Γ×(0, T) (u, ∂tu, θ) = (u0, u1, θ0) on Ω.
(1)
なる線形thermo-elastic plate equations のDirichlet 問題を考えた. ここでΩは RN の一様C4領域である.
Theorem 1. 1 < p, q < ∞. u0 ∈ Bq,p2+2(1−1/p)(Ω), (u1, θ0) ∈ Bq,p2(1−1/p)(Ω)2, (f1, f2)∈Lp((0, T), Lq(Ω)2), 整合条件が満たされるならば, 方程式 (1)は
u∈Hp2((0, T), Lq(Ω))∩Hp1((0, T), Hq2(Ω))∩Lp((0, T), Hq4(Ω)), θ∈Hp1((0, T), Hq2(Ω))∩Lp((0, T), Hq2(Ω))
なる正則性をもつ解(u, θ)を一意的にもつ.
第3章では次の非線形問題を考えた.
utt+ ∆2u+ ∆θ+b∆((∆u)3) =f1, in Ω×(0, T), θt−∆θ−∆ut=f2, in Ω×(0, T), u=∂νu=θ= 0 in Γ×(0, T) (u, ∂tu, θ) = (u0, u1, θ0) on Ω.
(2)
第2章で示された線形化問題の最大Lp-Lq正則性定理と有界領域の時には線形化 問題の生成する半群が指数減衰することを用いて次の定理が示されている.
Theorem 2. N < q < ∞, 2 < p < ∞. u0 ∈ B2+2(1q,p −1/p)(Ω), (u1, θ0) ∈ B2(1q,p−1/p)(Ω)2, (f1, f2) ∈Lp((0, T), Lq(Ω)2), 整合条件が満たされるならば, ある 時刻 Tがあって方程式 (2)は
u∈Hp2((0, T), Lq(Ω))∩Hp1((0, T), Hq2(Ω))∩Lp((0, T), Hq4(Ω)), θ∈Hp1((0, T), Hq2(Ω))∩Lp((0, T), Hq2(Ω))
なる正則性をもつ解(u, θ)を一意的にもつ.
さらにΩは有界領域であると仮定すれば,ある定数 ϵ >0 が存在し
∥u0∥B2+2(1−1/p)
q,p (Ω)+∥(u1, θ0)∥B2(1−1/p)
q,p (Ω)+∥(f1, f2)∥Lp((0,∞),Lq(Ω))≤ϵ が満たされるならば, 解(u, θ)は T =∞まで延長される. さらに
∥eηt(∂t2u, ∂tu, u)∥Lp((0,∞),(Lq×Hq2×Hq4)(Ω))+∥eηt(∂tθ, θ)∥Lp((0,∞),(Lq×Hq2)(Ω)) ≤Cϵ
なる指数減衰評価が成立する. ここでηはある正定数である.
2
第4章ではNavier-Stokes方程式の表面張力付き自由境界問題の線形化問題が 考えられた. uは流速ベクトル,ρは自由境界の定義関数として方程式系は次の様 に与えられる.
∂tu−Div (µD(u)−qI) =f, divu=g= divg in Ω×(0, T),
∂tρ+<aκ| ∇′Γρ >−u·n=d on Γ×(0, T), (µD(u)−qI)n−σ(∆Γρ)n=h on Γ×(0, T),
(u, ρ)|t=0= (u0, ρ0) on Ω×Γ.
(3)
ここで,µ,σは正定数,aκは∥aκ∥
B2(1−1/p)q,p (Ω)≤C,∥aκ∥H2
r(Ω)≤Cκ−b(κ∈(0,1), N < r <∞)なる条件を満たすベクトル値関数, ΩはRN (N ≥ 2)の一様 C3領 域で, weak Dirichlet problemが一意可解であることを仮定する. この時次の最大 Lp-Lq正則性定理が示されている.
Theorem 3. 1< p, q <∞, (u0, ρ0)∈Bq,p2(1−1/p)(Ω)N ×Bq,p3−1/p−1/q(Γ), (f, d)∈Lp((0, T), Lq(Ω)N×Wq2−1/q(Γ)), g∈Hp1(R, Lq(Ω)N),
(g,h)∈Lp(R, Hq1(Ω)N+1)∩Hp1/2(R, Lq(Ω)N+1), 整合条件が満たされれば, 方程 式 (3)は一意解 (u, ρ)を持つ. さらにC, cを正定数として次の評価が成立する.
∥(u, ρ)∥L
p((0,T),Hq2(Ω)×Wq3−1/q(Γ))+∥∂t(u, ρ)∥L
p((0,T),Lq(Ω)×Wq2−1/q(Γ))≤Cecκ−bT (∥u0∥
Bq,p2(1−1/p(Ω)+κ−b∥ρ∥
Bq,p3−1/p−1/q(Γ)+∥(f, d)∥
Lp((0,T),Lq(Ω)×Wq2−1/q(Γ))
+∥(g,h)∥Lp(R,H1
q(Ω)N+1)+∥(g,h)∥
Hp1/2(R,Lq(Ω)N+1)+∥g∥H1
p(R,Lq(Ω))).
以上述べたように,申請者はmixed order system の代表的な方程式系である thermo-elastic equationsに対して,レゾルベント問題のR有界な解作用素の存在 と初期値・境界値問題の最大Lp-Lq正則性原理を示し, さらにこれを応用して非 線形問題の解の一意存在を示した. またNavier-Stokes方程式の表面張力つき自由 境界問題の線形化問題に対しR有界な解作用素の存在と最大Lp-Lq正則性原理を 示した. これによりNavier-Stokes方程式の自由境界問題に新しい道を開いた. こ れらは非常に独創的な研究であり,多くの価値ある結果を含んでいる.また,本 論文の中で確立された研究手法は関連分野の今後の発展に大きく貢献するものと 期待される.よって,本論文は博士(理学)の学位論文として十分に価値のある ものと認める.
2019年1月 審査員
(主査) 早稲田大学教授 理学博士(筑波大学) 柴田良弘 早稲田大学教授 理学博士(京都大学) 小澤徹 早稲田大学教授 理学博士(北海道大学) 小薗英雄 早稲田大学教授 理学博士(東京大学) 山崎昌男
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