早稲田大学大学院 環境・エネルギー研究科
博士論文審査報告書
論 文 題 目
食品系廃棄物を対象としたビジネスエコシステムの 開発・実証に関する研究
A Study on the Development and Demonstration of the Business Ecosystem for Food Waste
申 請 者
清水 康
Kou SHIMIZU
2013年 2月
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わが国の食品系廃棄物について、その有効利用を図ることを目的に平成 13 年 5 月に「食品循環資源の再 生利用等の促進に関する法律」(以下、食品リサイクル法)が施行された。この法律では、食品系廃棄物 に含まれる再生利用可能な資源は食品関連事業所の責任において循環利用を進めなければならないこ とを定めている。こうした取り組みによって、食品系廃棄物の発生量は増加傾向にあるものの食品産業全 体での再生利用等実施率は着実に向上し、一定の成果が得られている。
また、食品リサイクル法施行当初では、肥料、飼料、油脂・油脂製品およびメタン発酵の4手法が再生利 用方法として規定されていたが、再生利用を促進する上での優先順位は決められていなかった。しかし、
平成 19 年 12 月の改正では、含有している成分等の有効利用ならびに飼料自給率への寄与の観点から、
飼料化を最優先に位置付けている。しかしながら、その主流である乾燥飼料化は多大なエネルギーを消 費しており、今後は CO2 排出量の削減が求められる情勢のなかで効率的・効果的な再生利用方策の適 用の重要性が増している。
食品系廃棄物のリサイクルをビジネスとして継続するには、多くの困難が存在する。これまでの代表的な 事例として、食品小売業の最大手であるセブンイレブンの食品系廃棄物の飼料化事業でも対象廃棄物が 想定したようには集荷できず、また生成された飼料の質や需要先の確保に問題が生じ、倒産に追い込ま れている。
本研究では、こうした国内の食品系廃棄物のリサイクルに対して、まずその実態を明らかにし、さらに事業 性・環境性・経済性という3つの視点からの評価とビジネスエコシステムとしての実証によって、今後のリ サイクルシステムの展開に有用な示唆を与えることを目指している。
第1章は序論であり、研究の背景や目的を述べている。食品系廃棄物の現状ならびにそのリサイクルに 関する既往の研究や取り組みを調査・分析し、今後の方向性や解決すべき課題を整理している。
第2章では、食品系廃棄物に関するリサイクル事例データベース(以下、DB)の構築とその分析を行って いる。
上記の DB では、食品系廃棄物の排出側の情報(企業情報、廃棄物の性状など)とリサイクル側の情報
(企業情報、リサイクル処理情報、生成物の情報など)、その他の関連情報の3つに大きく区分し、傾向分 析や現状把握がし易いフォーマットを採用している。この DB の分析結果からは、都道府県別の採用され ているリサイクル技術の傾向や処理量と対象廃棄物の性状の関係性を把握している。また、各リサイクル 事業での排出側およびリサイクル側の形態から、自社完結型や分散処理型など6方式に分類できること、
そのなかでは分散排出型が多数を占めることなどを示している。
さらに、構築した DB のなかで経営環境の厳しい事例を多数確認しており、その原因解明のため静脈産業 におけるサプライチェーンマネージメント(SCM)のあり方を考察している。その際、動脈産業の様々な業界 における SCM やリスクマネジメントに関する知見を整理し、その結果を動脈・静脈両者における空間、時 間、質という要素の差異を考慮しつつ静脈産業にも適用させ、同産業における事業継続の三原則を導出 している。このうちの第一原則である「原料の安定確保」は食品系廃棄物を安定調達できるように、非常
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事態の対策や日々の管理体制に関する検討が十分になされているかを判断するものであり、第二原則 の「需要側に対応した品質管理」では、需要側に対応した生成物を供給できているか、原料の性状や採用 しているリサイクル技術もそれに合致したものが選定されているかを表す指標となっている。また、第三原 則としての「地産地消を前提としたマーケティングの実施」は、生成物が地域のニーズに応えているか、適 切な販売戦略が行われているかを評価するものである。
この三原則を事業が失敗に終わっている事例に適用すると、いずれも満足されておらず、その有効性が 確認されている。
第3章では、食品系廃棄物の各種リサイクル技術について環境性・経済性の2つの評価が同時に実施で きる評価ソフトを開発するとともに、それを活用した評価を実施し、有用性を確認している。ここでは乾燥 飼料化、堆肥化、メタン発酵、エタノール化の4技術を対象としている。これら技術によって現在、食品系 廃棄物のリサイクルが推進されているが、環境負荷や経済性を統一的に評価できるソフトの開発例は見 られず、有用なものといえる。
各リサイクル技術の基礎情報はアンケート調査により入手し、食品系廃棄物の性状等をパラメーターとし て評価している。堆肥化はエネルギーをほとんど使用しないために環境性・経済性に優れており、飼料化 はエネルギーを多く消費するものの、飼料の販売収益によって経済性では優れていることを示している。
また、メタン発酵とエタノール化は排水処理の負荷が影響し、環境性・経済性ともに劣っていることを明ら かにしている。上記では生成物が全量販売できることを前提としているが、飼料化と堆肥化では、それが 不可能な場合には両者とも経済面で劣るグループに属してしまうこと、すなわち、第2章で提示した三原 則のなかでの第三原則の重要性を確認している。
第4章では、地域産業連携を基軸としたビジネスエコシステムの有効性の検証のため、食品系廃棄物の 一例として焼酎粕を養豚用の飼料とするシステムを構築・実証し、事業継続の三原則とともに事業性・環 境性・経済性での優位性を確認している。この際の基幹となる新技術はリキッドフィーディングシステム
(以下、LFS)であり、この方式は焼酎粕と配合飼料を混合調整して養豚に直接給餌するものである。
本研究では対象エリアを鹿児島県に選定しており、主要産業の一つである焼酎の製造工程からは年間約 40 万 t にも及ぶ焼酒粕が発生している。これまで乾燥飼料化が行われているが、含水率が約 95%もある ため乾燥工程において膨大なエネルギーを消費しており、焼酎メーカーには処理費の負担が大きい。一 方、養豚業も盛んであり、飼料価格の高騰等への対応が必要な状況にある。LFS はこうした両者の課題 を産業間連携により win―win の関係で解決できる技術である。
LFS を導入するにあたっては、焼酎メーカーと養豚場の間での情報共有や操業変更、対応した設備投資 などリスクや安全面をも考慮したシステム作りが行われ、これを第2章で展開した静脈産業における事業 継続の三原則に照らしてみると、いずれの原則に対しても十分な対応が執られていることを確認している。
とくに「原料の安定確保」と「地産地消を前提としたマーケティングの実施」では、模範的な対応となってい ることを指摘している。こうした事業性に加え、環境性・経済性に関しても第3章で用いた手法を応用して
3 評価し、その優位性を確認している。
第5章では、第2章から第4章までの結果を統合し、ビジネスエコシステムの要素を取り入れた食品系廃 棄物の事業設計支援ツールの開発を行うとともに、それを活用したケーススタディを実施している。食品 系廃棄物は地域賦存の未利用資源として認識されているが、その有効利用システムの構築・事業化では 考慮すべき要因の把握やそれをコーディネートできる能力を持つ人材が非常に少ないのが現状である。
本研究で開発した事業設計支援ツールでは、上記の状況に十分な配慮がなされている。すなわち、まず リサイクル事業継続の三原則を基にしたチェックリストを作成し、事業化の検討内容の不足に対する早期 発見等に対処している。さらに第3章で得られた結果をベースとして環境性や経済性の評価が簡易に行 えるものとしている。
食品系廃棄物のリサイクル事業を検討する上で、ポイントとなるのは原料の安定確保であり、業種別での 食品系廃棄物の排出原単位の作成や計画対象エリアにおける排出量の推定は不可欠の事項である。事 業設計支援ツールでは、業種別排出原単位の活用による推計や自治体別の排出量の把握を可能にてい る。
対象エリアをさいたま市として上記の事業設計支援ツールの活用事例を示している。その結果では、下水 処理施設と併設した場合のメタン発酵が事業として現実的であり、環境負荷の面においても優れているこ とを明らかにしている。
第6章では、本論文のまとめとして本研究で得られた成果を要約するとともに、今後の研究の展望につい て述べている。
本論文では、失敗事例も多い食品系廃棄物のリサイクル事業を取り上げ、そのデータベースの構築から 始まり、事業としての継続条件を動脈企業の SCM の類推から三原則として導出し、その有効性を確認し ている。次いで各種のリサイクル技術の環境性・経済性を評価し、これらを含めた事業設計支援ツールを 完成させている。また地域産業連携を基本としたビジネスエコモデルの具体例として、リキッドフィーディン グシステムを活用して焼酎粕の養豚飼料としての利用として実証している。
以上、要するに本論文は困難性の高い食品系廃棄物のリサイクル事業をビジネスエコシステムの視点か ら再考し、その事業の成立や継続にあたって必要となる各種情報や支援ツールを開発することによって高 度化を図ったものであり、今後のわが国の循環型社会の構築に貢献するものである。よって、博士(学術)
の学位論文として価値あるものと認める。
2013年2月
(主査)早稲田大学教授 永田 勝也 早稲田大学教授 友成 真一 早稲田大学准教授 博士(工学) 早稲田大学 小野田 弘士