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博士論文審査報告書

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Academic year: 2021

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早稲田大学大学院 基幹理工学研究科

博士論文審査報告書

論 文 題 目

Construction of genus two curves with real multiplication by Poncelet's theorem

実乗法をもつ種数 2 の代数曲線の

Poncelet の定理による構成

申 請 者

酒井 祐貴子 Yukiko Sakai

数学応用数理専攻 整数論・特殊関数研究

2010 年 2 月

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本論文において申請者は, 実乗法をもつ種数 2 の代数曲線を研究している. 最初に, 本研究の動機を構成する歴史的背景を, 本論文の序文にそって簡単に述べる.

19世紀の初頭, Gaussはレムニスケート曲線の弧長を表す積分の逆関数sn(z)が複素変 数の解析関数として2 重周期をもつことを見出した —楕円関数の発見である. Gauss はさらに, この関数が加法公式を有するのみならず, 関数等式 sn(

1z) =

1sn(z) をみたすことも発見している. この等式は, sn(z)の「虚数乗法」に他ならない. 楕円関

数は後に Abelと Jacobiにより再発見され一般的に体系化されるが,特に Abelは「虚

数乗法」をもつ楕円関数の等分値がみたす方程式が, 円周等分の場合と同様に数論的に 著しい性質, すなわちそのガロア群が可換となることを示している. その後, Riemann,

Weierstrass により代数関数論の基礎が構築され, これに基づいて楕円関数の一般化で

あるアーベル関数の理論が創られた. その中でG.Humbertはテータ関数を用いて種数 2のアーベル関数で実乗法をもつものを組織的に研究した. これらの研究は 20世紀半

ばに A.Weil 等によって代数化され「アーベル多様体」の理論として再構成され, 算術

化されるに至った. アーベル多様体は,現代の数論研究において中心的な役割を果たし ている. そのことは, Q 上のある種の楕円曲線に関する「谷山・志村予想」の証明が フェルマー予想の解決をもたらした事実に,端的に表現されていると言えるであろう.

さて, アーベル多様体は具体的な記述が困難な対象であるが,そのうち比較的取り扱い 易いクラスに, 代数曲線の「ヤコビ多様体」がある. 一方, 上記の「虚数乗法」や「実 乗法」はアーベル多様体の自己準同型として理解される. これらの自己準同型をもつ アーベル多様体は, 楕円曲線の場合のように特殊な数論的性質をもつことが知られてい る. そこで, ヤコビ多様体が「虚数乗法」や「実乗法」をもつような代数曲線を特徴付 け, 具体的に構成することが重要である.

申請者は本論文において, この課題に対する一つの新しいアプローチ — すなわち, ある種の代数曲線とその特殊な「代数対応」を構成して,後者が曲線のヤコビ多様体上 に誘導する自己準同型が, 求める「実乗法」となるようにすること — に基づいて, こ れまでの結果に, きわめて簡明な代数的証明を与えることに成功すると同時に, 実乗法 をもつ代数曲線を, その代数対応とともに最も一般的に構成する手段を与えている.

本論文は,上述の主結果の他に, さらなる一般化に向けての研究の基礎となる, 2等 分点のなす加群のWeil pairingに関する構造の研究, および 一般曲線の 3等分点の加 群の幾何的表示とその上のガロア表現の研究結果を含んでおり, 全体で 5 章からなる 完成度の高い作品となっている. 各章の内容は以下の通りである.

 まず第 1, 2 章では, 本研究の動機を構成する歴史的背景, 特に Ponceletの「閉形定 理」に関連する話題が概説されている. また本研究の基礎となる知識がまとめられて いる. 20世紀後半にGriffiths-Harrisは Ponceletの n 角形を与えることと, 1つの楕円 曲線とその n 等分点を与えることが同値であることを示し, Mestre は楕円曲線の理論 を用いて実乗法をもつ超楕円曲線の例を構成した. これらの方法は申請者の研究の先 駆的な仕事と言い得るものである.

第 3 章では,判別式 ∆ = 5 の実乗法をもつ曲線に関する研究が扱われており, 第 4 章

とともに本論文の核となる部分を形成している. 一般に, 射影平面P2 上の 2 次曲線の

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(3)

C, D が与えられると, C 上の一般点P からDに 2本の接線が引け,各々がC と交 わる(P と異なる)点 Q, Q が得られる. これより P 7→ {Q, Q} なる2 次の代数対応

T ={(P, Q)∈C×C | :=P Q∈D}

が得られる. T の自身との合成は T◦T = 2id +T と分解する. ここに, T は別の 2 次曲線に関する C の 2 次代数対応である. 同型 C∼=P1 を一つ選んで P, Q の座 標を x, z で表わすとき, T(resp. T) は A(x, z) = 0 (resp. A(x, z) = 0) の形の方程式 で与えられる. ここに A(x, z) (resp. A(x, z)) は x, z について各々 2 次の対称式であ

る. さて, C, D が Ponceletの 5角形を構成すると仮定する. C, D の交点のうちの 1

P6(x6) C ∩D を取るとA(x, x6) = c(x−α)2, A(x, x6) = c(x−β)2 をみたす α, β C がそれぞれ唯一つ決まる. Ponceletの 5角形の頂点を Pi(xi) (1 i≤ 5) と し, 種数2の曲線 Xy2 = (x−x1)· · ·(x−x6) で定める.

Theorem 1 (∆ = 5). X 上の有理関数j(x) := (x−x6)(x−α)(x−β) を用いて X の代数対応Tˆ ⊂X×X を次で定義する :

((x, y),(u, w))

∈Tˆ ⇐⇒def j(u)y=j(x)w.

このとき, Tˆ は 3 個の既約成分 Tˆ1, Tˆ2, id からなる. Tˆ1,Tˆ2T, T の持ち上げであ り, これらが引き起こす Pic0(X) の自己準同型 ϕ は次式をみたす:

ϕ2+ϕ−1 = 0.

また, X が判別式 ∆ = 5の実乗法をもつためにx1, . . . , x6 がみたすべき条件(モジュ ラー方程式)を与えている. これは, Humbert が y2 = (x−x1)· · ·(x−x5), x6 = の 形の曲線の場合に与えた結果の一般化であるが,同時にモジュラー方程式がもつ最大限 の対称性を決定している.

Theorem 2. 種数2の曲線X : y2 = (x−x1)· · ·(x−x6)のヤコビ多様体が ∆ = 5の 実乗法をもつ必要十分条件は, x1, . . . , x6 の適当な順序に対して等式H5(x1, . . . , x6) = 0 が成立することである. ただし, H5 は以下のように表示される多項式である. H5 は変 数の置換 τ = (12)(34)(56), σ = (12345) で生成される, S5 と同型な 6次可移置換群で 不変な多項式である.

H5(x1, . . . , x6) =

4

i=0

σiP(x1, . . . , x6),

P := (x1 −x2)(x1−x3)(x1−x4)(x1−x5)(x2−x6)

×(x3−x6)(x4−x6)(x5−x6)(x3−x4)2(x2−x5)2.

第 4 章では, ∆ = 8 の場合が扱われている. Ponceletの 4 角形をなすP2 上の 2 次 曲線の対 C, D に対して, 第 3 章と類似の問題が研究されている. まず, この場合に は, 4 角形の対角線をなす C の 2 点の関係B(x, z) = 0 から C の位数 2 の自己同 型 ι が定まることに注意する. Ponceletの 4 角形の頂点 P1, . . . , P4 と, ι で移りあわ ない2 点 P5, P6 C ∩D を選び, 種数2の曲線X を第 3 章のように定める. さらに

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A(x, x5) = c(x−α)2, A(x, x6) = c(x−β)2 をみたす α, β C がそれぞれ唯一つ決ま る. Px = に対応する C の点とし, P から引いたD への 2 本の接線が再び C と交わる点をQ(u), Q(u)∈C として, 以下のように X 上の有理関数j(x)を 定める.

j(x) := (x−x1)(x−x2)(x−x3)(x−x4)(x−α)(x−β) (x−u)3(x−u)3 .

Theorem 3 (∆ = 8). 曲線 X を上のように定めるとき, C 上のPoncelet型代数対応 TX 上の 2 次 の代数対応Tˆ に持ち上げることができる. Tˆ X×X は次のよう に定まる: A(x, ui) = 0 (i= 1,2), B(u1, u2) = 0 とするとき

((x, y),(ui, wi))

∈Tˆ (i= 1,2) ⇐⇒def w1w2 = j(x).

このとき, Tˆ が引き起こすPic0(X) の自己準同型 ϕ は次式をみたす: ϕ22 = 0.

∆ = 8 の場合にも, 定理 2と類似の結果が得られている. また, このような曲線につ

いて, そのヤコビ多様体の

2 等分点からなる群を調べ, 次の結果を得ている.

Theorem 4. 定理 3 の ϕ : Pic0(X)Pic0(X), ϕ2 = 2id について, Kerϕ は Weil pairing に関してPic0(X)[2] のmaximal isotropic subgroup をなす.

第 5 章では, 一般の種数2の曲線 X 上の trigonal な関数の一般形を与えることに よって,X のヤコビ多様体の3等分点を その因子を用いて記述することに成功してい る. この表示を利用して3等分点から生じるガロア表現の像に関して,具体的で興味深 い結果が得られている. 

以上に述べたように, 本論文において申請者は, 実乗法をもつ種数 2 の代数曲線につ いて考察し, Ponceletの定理を応用した代数対応による方法を導入して,これまでの結 果を著しく簡明に再構成するとともに, 判別式が 5 と 8 の場合にそのような曲線のモ ジュラー方程式の一般形を与え, その構造を明らかにした. また, 実乗法をもつ曲線と その代数対応の方程式を具体的に与え,興味ある応用を行っている. これらの研究成果 は, 整数論の今後の発展に大きく寄与するものである. よって本論文は博士(理学)の学 位論文として相応しいものであると認められる.

2010 年 1 月 審査員

(主査) 早稲田大学教授 理学博士(東京大学) 橋本喜一朗 早稲田大学教授 理学博士(東京工業大学) 小松 啓一 早稲田大学教授 理学博士(早稲田大学) 楫 元 早稲田大学准教授 博士(理学)(早稲田大学) 梅垣 敦紀 中央大学教授 Ph.D.(Brown Univ.) 鍬田 政人

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