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2007 年 11 月

Health Impact Assessment (HIA) トレーニングコースに参加して 久留米大学・原邦夫,石竹達也

1.はじめに

2007 年 11 月 12 日から 16 日までの5日間,英国リバプール市で,リバプール大学(写真 1)による健康影響評価トレーニングコース(Health Impact Assessment training course) が開かれた1)。日本では馴染みがないが,ヨーロッパを中心に広まりつつある健康影響評価

(Health Impact Assessment: HIA)について,具体的な手法を実際に経験するために, 原と石竹教授の2名で参加した。日本からは2名のみであったが,エジプト,ポルトガル, ナイジェリア,オランダなど様々な国から19 人が参加していて,このことからでも国際的 な方法論になっていることが伺えた。ただし,多くは英国各地からの参加者で,日本の制 度上では該当する組織がないが,PCT(Primary Care Trusts:プライマリーケア組織), および政府・大学・研究所の公衆衛生の研究者,および民間の健康影響評価コンサルタン トが中心であった。 原はリバプール市に1999 年に訪れているが2),その折りにはリバプール市は歴史的な都 市で少し活気がないと感じたが,今回はビルの建設現場が目につき,人々が出歩ける商店 街どおりも整備されていて,明るい地方中心都市の様相であった。1981 年に Toxteth 地域 での貧困層による暴動を経て,UK 政府による再開発3)が実施され,それらが着実に効果を

上げたものと感じた。2008 年の「欧州文化首都 European Capital of Culture」にも選ば れたのもさもありなんであった。このHIA の中心人物の Samuel(サムエル)博士が 1984 年に現在のHIA に繋がる公衆衛生的研究を始めたのも,様々な問題を抱えるリバプール市 の歴史的条件が背景にあったものと思われる。 以下で,5日間の経験を紹介したい。この健康影響評価・HIA は馴染みがない概念でも あるが,日本の研究者の総説 4) ,先駆的取り組み 5)の報告はなされている。ここでは,少 しHIA についての解説を加えた後,5日間コースの全体像を紹介したい。 2.健康影響評価・HIA とは HIA は健康影響評価であり,さらには特定の集団に対する特定の行動による健康面への 影響の推定である。しかし,これだけではEU 諸国で実際に HIA と銘打って行われている ことは理解できない。WHO のホームページの中の HIA の欄6)では,「HIA は,政策,施策 および事業が集団の健康面にどの様に影響を及ぼすかについての情報を政策決定者に提供 する。HIA は,政策決定者が計画案を改善するように影響を及ぼすことを追求する」とい う公衆衛生的取り組みとして位置づけ,また,Alex Scott-Samuel(サムエル)博士らのリ バプール大を中心とするInternational Health IMPACT Assessment Consortium の「The Merseyside Guidelines for Health Impact Assessment」7)では,「HIA の目的は,政策, 施策,プログラムのポジティブおよびネガティブな潜在的健康影響を評価することであり, 予測されるポジティブな健康影響を高め,ネガティブな健康影響を最小限に抑えるための 勧告を行って,公共政策決定の質を向上させることである」としている。単なる評価では なくて,政策変更も視野に入れた証拠に基づく勧告に特徴がある。そして,単なるネガテ ィブな影響だけでなく,リスクベネフィット分析手法を取り入れてポジティブな影響も評 価する点も特徴的である。また,手順と方法でシステマティックにHIA がツールとして実

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施できるようにしているところも世界的に受け入れられる要素といえる。以下,主に European Policy Health Impact Assessment (EPHIA)8)と そ れ に 加 え て Meseyside

Guideline7) を中心として,HIA の概要を紹介したい。 図1 に HIA が捉える主な健康決定因子を,表 1 に各健康決定因子の詳細項目を示した。 一般に,環境有害因子として物理的・化学的・生物学的・社会的な 4 つの有害因子がある と捉えられているが,より広い重層的な社会的因子が健康に影響を及ぼすことが意識され た健康概念を用いている。 HIA の手順と方法の概要を図 2 に,手順の詳しい内容を図 3,方法の一部の詳しい内容 を図 4 に示す。手順どおりに進め,とくに健康影響評価の詳しい方法の流れに従えば,容 易にHIA が実施できるとしている。表 2 に 3 種類の HIA の実施方法を示す。時間や資源 の制限下で実施する必要がある場合には,デスク上での作業で行う必要もある。また,長 期間の調査を実施すべき場合もある。表3に迅速HIA のポイントを示す。表4に HIA の手 順の第1 ステップのスクリーニングの例7)をまとめて示している。経済問題,出現する結果 の問題,疫学的問題,そして戦略的問題の視点でまとめるとスクリーニングが容易になる。 表5には健康影響の記入表の例7)を示すが,健康影響の面ではポジティブ面とネガティブ面 の両者を見ることが特徴である。また,スコーピングで重要なTerms of References(約束 事の一覧表)の具体的内容を表6,証拠の利用のされ方を図59)および表7 に示した。 以上のような手順,方法およびツールからなる実践的な提案型の取り組みがHIA である。 !"#$%&'() $%&'()*+, $%&'() -./01234/5 67/589() :;</5=/>?@ABCDE*FGHIJKLMN5345$ %5OP5QR5ST5UV5WX5Y=Z[W\5]^HI_ :;</5=/>?@ABCDE*FG`a'*Zbc*HIJK LMN5defghi5jk5$%>?@12lm5[n5QR5 ]^5)o*lm5Cpqg_ :!rsrt`uvwxrt12/`67/0yz5{|JKLMN5 }~5}~*•€u5•0tZ‚c*ƒ„5…†>?@F…0w ‡ˆ_ :‰HLŠnL*‹Œ •Ž••5‘’•• W“JKLMN5“W••5”•–_5‘’••J—˜()c*™ š_5›œ:•:žŸ* 5¡¢£¤¥5¦§E¨g”PL©ª* «¬–5žA”P5•£-®–5¯°:žA:£c*±²³i 1 2 / ´ µ 5 ¶ · ¸ ¹ º»g/´µ 12/f¼g°512/½˜5¶·¸¹º»g*FG¾5FGHI c*¶·¸¹º»g*‹¿5HI&'5OPJKLMN5”•–5… †–_5QRÀÁÂJKLMN5”•–5 5ÃÄÅÆÇs_ ÈZ*•ŽiÉ ÊE( ) ÈZ*‰Ëa–JKLMN5ÌÍ5ŽË_5ÎÏ5ÌÐÑ5Ò*Ó P_5ÈZ*ÔÕ5OPÖƒ5QRCDE5פ,ØÙÚÛÜÝ Ã5Þß¾LÞà5ƒ„5àágâãäåæç •£/() èé5–5êë/() 年齢,性, 遺伝的因子 個人の生活スタイル因子 社会的影響, コミュニティー的影響 生活条件,労働条件 一般的な社会経済的,文化的,環境因子 図1 主な健康の決定因子

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3.5日間コース研修会 参加した研修会は既に10 年間で 400 名以上の参加者を招いているとのことであった。ス タッフの入れ替わりがあった模様であるが,サムエル博士は一貫して関与しているようで, 洗練された進行状況であった。 !"#$%&'()*+,-./0,12345678 ()'9: ;<=>()'? @=() ABCD>EF'GHIJK() ALMNO() A0PQ,,RSTUTVWX=Y=F>Z [2\],U^>() A_+V`'abAcdef

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表8に示したように,5日間の研修が行われた。最近の研修方法に乗っ取ったものであ り,重要なポイントについての説明を手短に受けた後,参加型で,現場の見学を挟み,グ ループ討論に基づき,最終的にはグループごとに発表をするものであった(写真2)。 (1)1日目 午前中,5日間のスケジュールの説明を受け,簡単に隣の人を紹介する「他己紹介」を したのち,健康影響評価・HIA の導入説明を受けた。次に,子供が草むらで遊んだ際に怪 我をした問題についてグループで討論し,健康影響決定因子は何であるかを考えさせられ た。 午後には,サムエル博士によるHIA の基本概念の説明,デビー女史による HIA を実施す る際の手順(Procedures)と方法(Methods)についての説明を受けた。EU レベルでは, European Policy Health Impact Assessment (EPHIA)7)として冊子にまとめられており, その内容の紹介であった。説明を受けた後,セクション1・迅速HIA の事例研究として, 1960 年代にリバプールの Mesey(マージー)川沿いの開発問題が起こった訪問現場・Rock Ferry の説明をアンディー氏から受けた後,その場のヨットハーバー化と海岸の散歩道の整 理という再開発に関して,翌日に何を見るかについてグループ討論を行った。 (2)2日目 午前中,訪問現場のRock Ferry に直行し,海岸沿いの様子,家屋の様子,道路,雰囲気 を観察した(写真3)。訪問後,「迅速HIA」に示された手順通りに議論を開始した。 午後も,ひきつづき手順通りにグループで議論した。事例を題材にHIA の手順を具体例 に基づいて理解するグループ討論となった。この日は,前日の続きとして,考えるべき課 題,リストの作成,現場の訪問準備,現場訪問,潜在的な健康影響結果,健康影響決定因 子,根拠,スコーピング,表の作成,結論,主な勧告事項,発表の準備,全体での発表, であった。その中でも,手順としては,いつ評価を実施するか,誰が行うべきか,どのプ ロジェクトが評価対象か,完成後の評価はどうするか,方法としては,誰が影響を受ける か,どの健康項目と福祉面が大切か,どの程度の未来を評価対象とするか,どの範囲に計 画が影響を及ぼすか,健康影響因子は何か,健康を守るために何をすべきか,が重要とさ れた。 (3)3日目 午前は,フィオナ女史によるHIA の実践例として子供たちの反社会的行動を減らす取り 組みの紹介から始まった。さっそく,セクション2の資料に基づき,「手順」をグループ討 論で演習した。 午後は,セクション3として,資料に基づき,リスクの優先順位づけの演習を行った。 最後に,ケイト女史から,住居政策でのHIA の適用事例の報告があった。 (4)4日目 午前中,まずアンディー博士から他の同様な影響評価システムとの違いとして,持続可 能な発展という目的では違いがないが,健康への影響から評価を行う点で異なることを示 した。たとえば環境影響評価ではターゲットが一つの物からの影響を見るが,HIA はより 広くコミュニティーや地域,あるいは国レベルの人への影響を評価するところが他の手法 と異なる点であるとした。続いて,ソフィー女史による北部リバプール開発に対する健康 影響評価手法の実践報告があった。アンディー博士から,健康影響評価でのプロファイリ ングとして,とくにGIP:Geographic Information System の有効性について紹介があっ た。午前中最後に,メアリー女史から健康影響評価でのコミュニティーの役割について説

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明があった。

午後は,ひきつづきメアリー女史からグループワークテーマとして,仮想的な組織を取 り上げ,その組織を健康影響評価手法で評価してみることとなり,目的,方針,そして実 施する能力の面,実施を阻害する要因,などをあげた上で,3グループがあげた要因を, 再 度 ,WHY HIA , HOW HIA , Drivers/agenda(external factors) , Contextual features(internal issues)の4因子で分類して HIA の実施の理解を深めるものであった。最 後にセクション4として,自分の組織への適用を考えた。 (5)5日目 最終日は午前中だけで修了した。包括的なHIA のクリティカルな評価について,セクシ ョン5としてグループ討論を行った。題材は,New Wallasey に計画された国際天文学・宇 宙探索センターのHIA の論文10)である。実際のセンターは別の場所に建設されたとのこと であったが,包括的で事前(prospective)健康影響評価の適用例の方法および評価結果を グループで確認し検討するものであった。 以上のように,最近のグループワーク形式どおりに有意義に行われ,寝ている暇もない 研修となった。 4.おわりに 当然のことではあるが,英国と日本の公衆衛生制度は異なっている。今回のHIA の実施 についても,その考え方・価値観については普遍性があるとしても,その実施方法につい てはそれぞれの組織,社会制度が異なるため大きく異なっているといえよう。 偏った見方を押しつけることになるかもしれないがあえて触れておくと,このHIA は, 民間コンサルタントの参加の余地はあるが,行政に近い組織たとえば日本では保健所等の 行政機関の役割として,地域住民の健康維持・増進のために,様々な施策あるいは民間の 様々な開発に対して,健康面への影響について事前に評価して必要に応じて証拠に基づく 勧告を出して対策等を促すシステム,と感じた。また,単に健康影響のレベルがある基準 を超えるかどうかを評価する考えではなかったことが理解できた。欧米のものを有り難が ることは如何なものかとは感じつつ,また,グローバル化は,確かに英国,EU,あるいは 米国にとって自分たちの方法あるいは考え方を「押しつける」ことであろうが,今回の健 康影響評価手法の中に普遍性もあることも事実であり,学ぶべきことは多いものと感じた。 ところで今回,英国の参加者から「PCT」という組織名が繰り返し聞かれた。途中では 何となく日本の保健所のようなものと考えていたが,最終日にリバプール市のPCT を訪ね た(写真4)。残念ながら担当者から話を聞くことが出来なかったが,冊子から活動の様子 がうかがえ,日本の保健所に相当する機関であることが推測された。ただし,このPCT も 2006 年度から導入されたもので,従来の同様の組織をよりコミュニティーの活性化のため に再編したものと考えられるが,今後とも様々な変化が生じることが予測される。 今回参加したトレーニングコースでHIA の中心となる概念および手順・方法は理解する ことはできた。しかし,HIA を実施する際の様々な課題は実際の課題に適用してみないこ とには分からない。HIA は,現在の英国あるいは EU 諸国がそれぞれに健康の維持・増進 を実施するための手順・方法・ツールとして,今後とも改善されて様々に実施するものと 思われる。日本においても,計画を実施するかどうかのデータ等を示す単なる環境影響評 価でなく,健康影響評価にまで視野を広げた手法であるHIA の様々な分野への適用が待た れている。

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参考文献

1) IMPACT: http://www.ihia.org.uk/. (accessed on 25-7-2007).

2) 原邦夫・毛利哲夫:作業上ばく露データベースと来世紀でのその応用に関する国際シ ンポジュウムに参加して,作業環境(2000),21(4): 53-61.

3) MSN トラベル:http://www.clair.or.jp/j/forum/c_report/cr091m.html (accessed on 20-11-2007).

4) 藤野善久,松田晋哉:Health Impact Assessment の基本概念および日本での今後の 取り組みに関する考察,日本公衛雑誌(2007), 54(2): 73-79.

5) 藤野善久,松田晋哉:「新しい自律的な労働時間制度」に関する Health Impact Assessment,産衛誌(2007): 49:45-53.

6) WHO: http://www.who.int/hia/en/. (accessed on 8-11-2007).

7) International Health IMPACT Assessment Consortium: European Policy Health Impact Assessment-A GUIDE (EPHIA), 2004 (http://www.ihia.org.uk/ephia/guide/guide.html: accessed on 25-10-2007).

8) Scott-Samuel A, Birley M, Ardern K. (2001). The Merseyside Guidelines for Health Impact Assessment. Liverpool. Merseyside Health Impact Assessment Steering Group (www.ihia.org.uk: accessed on 25-10-2007).

9) London Health Observatory: A guide to reviewing published evidence for use in Health Impact Assessment,2006.

10) Winters L. (2001) A prospective health impact assessment of the International Astronomy and Space Exploration Centre. In: Journal of Community Health Vol. 55:433-441

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写真

1 リバプール大Foresight Centre前で

写真4 リバプール市

PCT

写真3 訪問した事例研究場所

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