趣旨規範ガイドブック
コア・カリキュラム
民法 総則
■本書の使い方■
【趣旨規範ガイドブックとは?】
【重要!】 本書は、辰已法律研究所の「趣旨規範ハンドブック」とは異なるものです。 趣旨規範ガイドブックとは、「コア・カリキュラム 7 法」に記載された定義、趣旨、要件・効 果、その他論点や、判例の規範等をコンパクトにまとめたものです。 重要部分を中心にしているので、試験対策のまとめ、事前の予習などに威力を発揮します。 ∵ 理由 ∴ 結論【使い方】
基本的には、コア・カリキュラム 7 法と同じです。 網羅的に、かつ、短時間で復習したい場合は、冒頭からザーッと読み進めれば、それまでコ ア・ カリキュラム 7 法で学んだ記憶が想起され、重要事項が定着していきます。 ま た 、 論 文 対策 で は 、「 具体 例 に 即 し て」 と い う項 目( ● ) を 重 点的 に 読 み、 その 際 に は 、 定 義、趣旨、要件・効果、判例のあてはめを中心に復習することをお 勧めします。あてはめで重要 なことは条文の文言の意味(定義)にそって、正確に事実をあてはめることです。このことを意 識すれば、定義の重要性がわかると思います。 また、コア・カリキュラム 7 法を学ぶ前段階の予習用としてもお使いいただけます。コア・カ リキュラム 7 法は網羅的、かつ、事案の分析等でボリュームが大きいため、要点をまず趣旨規範 ガイドブックで予習すれば、法律学においてままある「木を見て森を見ず」といった状況に陥ら ないで、法律の肝の部分が把握できるでしょう。その上で、さらに詳しく理由や事案の分析をし たい場合、コアカリキュラム民法の目次ページを参照して、該当ページに当たることでさらに理 解を深めることができます。 本書は以上のような配慮のもと作りましたが、今後、まとめ用、予習用としてさらなる改善点 があると思われます。そこで、是非、要望などがありましたら、以下のメールアドレスに要望を 頂きたいと思います。 [email protected] よろしくお願いいたします。 受験王■目次■
■本書の使い方■
■目次■
第1編
民法総則
序章
民法総論
● 私法の中での民法の位置づけについて、説明することができる。 .... 1 ● 日本の民法典がどのような編別になっているかを理解している。 .... 1 ● 私的自治の原則など私法の一般原則を挙げ、基本的な考え方を説明 することができる。 ... 2第1章
通則
● 信義誠実の原則(信義則)の考え方について、説明することができ る。 ... 2 ● 権利 濫用 の法 理に つ いて 、 具 体 例 に 即 し て 説明す るこ とが でき る。 ... 3第2章
人
第1節
権利能力、同時死亡の推定
● 権利能力の意義について、説明することができる。 ... 4 ● 権利能力の始期(胎児の法的地位を含む)について、説明すること ができる。 ... 4 ● 権利能力の終期(同時死亡の推定を含む)について、説明すること ができる。 ... 4第2節
意思能力と行為能力
● 意思能力の意義及び意思能力のない者がした意思表示・法律行為の 効力について、説明することができる。 ... 6 ● 行為能力制度の趣旨(目的・必要性)について説明し、どのような 類型があるかを示し、各類型の要件及び効果について、条文を参照 して説明することができる。 ... 6 ● 行為能力制度における、相手方の保護を図るための制度について、 条文を参照して説明することができる。 ... 10第3節
住所、不在者の財産管理、失踪宣告
● 住所の概念(内容・意義)について、説明することができる。 ... 11 ● 不在者の財産管理の制度の意義及びその概要を説明することができる。 ... 11 ● 失踪宣告の制度の意義及び必要性について、説明することができる。 ... 11
第3章
法人
● 法人とはどのような制度であり、法人に権利能力を認めるのはなぜ 必要であるか具体例を挙げて説明することができる。 ... 13 ● 法人にはどのような種類があり(社団法人・財団法人、営利法人・ 非営利法人)、それぞれどのような法律に従って法人の設立が認めら れるかについて、基本的な考え方を説明することができる。 ... 14 ● 法人の構成員が、法人の債務についてどのような責任を負うかを具 体例を挙げて説明することができる。 ... 15 ● 法人設立の目的が、法人の権利義務についてどのような意義を有す るかについての考え方と問題点を説明することができる。 ... 15 ● 法人の代表機関が行った取引行為や不法行為が法人にどのような効 果を及ぼすかを具体例に即して説明することができる。 ... 17第4章
物
● 民法は物をどのように定義し、どのように分類しているか(とくに 不 動 産 ・動 産 )、 その 分類 に ど のよ う な意 味が ある か を 具 体 例 を 挙 げて説明することができる。 ... 20 ● 主物と従物とはどのような概念か、従物とされることの具体的効果 は何かを、具体例を挙げて説明することができる。 ... 21 ● 元物とは何か、果実とは何かを説明し、果実の具体例を挙げること ができる。 ... 23第5章
法律行為
第1節
総則
法律行為・意思表示総論 第1款 ● 法律行為・意思表示の意味について、法律行為の種類とともに説明 することができる。 ... 24 ● 約款とはどのような概念であるかを説明し、約款による契約の具体 例を挙げることができる。 ... 26 ● 意思表示及び法律行為の解釈に関する考え方(意思主義・表示主義 など)について、具体例に即して説明することができる。 ... 26 ● 強行法規・任意法規の意味について説明し、それぞれの具体例を挙 げることができる。 ... 28 ● 慣習とは何か、慣習がどのような場合に効力を有するかについて、 説明することができる。 ... 28 公序良俗違反 第2款 ● 公序良俗とはどのような概念であるか、公序良俗に反する法律行為 にはどのような類型があるかについて、具体例に即して説明するこ とができる。 ... 29 ● 公序良俗違反の法律行為の無効の意味について、具体例に即して説 明することができる。 ... 30第2節
意思表示
心裡留保 第1款 ● 心裡留保の意義及び当事者間における効力について、説明すること ができる。 ... 31 通謀虚偽表示 第2款 ● 通謀虚偽表示の意義及び当事者間における効力について、説明する ことができる。 ... 31 ● 通謀虚偽表示の第三者に対する効力について、説明することができ る。 ... 32 錯誤 第3款 ● 錯誤にはどのような種類があるかについて、具体例を挙げて説明す ることができる。 ... 41 ● 錯誤の要件及び効果について、説明することができる。 ... 42 ● 動機の錯誤の法的処理について、判例・学説の考え方とその問題点 を説明することができる。 ... 45 詐欺・強迫 第4款 ● 詐欺・強迫の要件及び当事者間における効力について、説明するこ とができる。 ... 46 ● 詐欺・強迫による意思表示の第三者に対する効力について、説明す ることができる。 ... 48 消費者契約法における誤認・困惑 第5款 ● 消費者契約法における意思表示に関する規定の趣旨について、説明 することができる。 ... 51 ● 消費者契約法上の取消原因の概要について、条文を参照しつつ説明 することができる。 ... 51 意思表示の効力発生時期 第6款 ● 意思表示の効力が発生する時点に関する到達主義と発信主義の違い について、具体例に即して説明することができる。 ... 54第3節
代理
代理制度総論 第1款 ● 代理とはどのような制度であるか、またなぜ必要であるかを、具体 例を挙げて説明することができる。 ... 57 ● 代理人の行った法律行為の効果が本人に帰属するためにどのような 要件が必要であるかを、 具体例に即して説明することができる。 ... 58 代理権 第2款 ● 代理権がどのような根拠に基づいて発生し、その範囲がどのように して決まるか、どのような原因に基づいて消滅するかを説明するこ とができる。 ... 60 ● 自己契約・双方代理とはどのような場合であるか、また、その代理 行為 の効 果 がど う なる か を 具 体 例 に 即 し て 説明 す るこ とが で きる。 ... 71代理行為 第3款 ● 代理人が行った法律行為の効力が誰を基準として判断されるか、ま たその理由は何かを説明することができる。 ... 74 ● 代理権濫用とはどのような場合を指すか、また、代理権の濫用がど のような効果を生ずるかについて、判例・学説の考え方を踏まえて、 具体例に即して説明することができる。 ... 78 無権代理 第4款 ● 代理人が、代理権なくして代理行為を行った場合に、代理行為の効 果がどうなるかを説明することができる。 ... 81 ● 無権代理行為の相手方が、無権代理人に対してどのような要件の下 でどのような責任を追及することができるかを説明することができ る。 ... 88 表見代理 第5款 ● 表見代理とはどのような制度であり、また無権代理とどのような関 係にあるかを、具体例に即して説明することができる。 ... 99 ● 表見代理にはどのような類型があり、本人は、それぞれ、どのよう な要件の下で、どのような根拠に基づいて責任を負うかを、具体例 を挙げて説明することができる。 ... 100
第4節
無効及び取消し
総論 第1款 ● 無効と取消しの基本的な考え方の違いについて、説明することがで きる。 ... 123 ● 無効・取消しにより法律行為の効果が認められない場合の基本的な 法律関係について、説明することができる。 ... 126 各論 第2款 ● 無効行為の追認の意味について、具体例を挙げて説明することがで きる。 ... 126 ● 誰が取り消すことができるか、いつまで取り消すことができるかに ついて、説明することができる。 ... 127 ● 取消しの基本的効果(制限行為能力者の返還義務に関する特則を含 む)について、説明することができる。 ... 129 ● 追認及び法定追認の意義、要件及び効果について、説明することが できる。 ... 130第5節
条件及び期限
● 期限の利益にはどのような意味があるかについて、説明することが できる。 ... 139第6章
期間の計算
● 期間の計算の基本的考え方(初日不算入の原則を含む)について、 条文を参照しつつ説明することができる。 ... 141第7章
時効
第6節
総則
● 時効とはどのような制度であり、何のために認められているのかを、 具体例を挙げて説明することができる。 ... 143 ● 時効完成の効果(援用権の発生、援用権の趣旨、援用の効果、時効 の効力)について、説明することができる。 ... 145 ● 時効の援用について、誰が援用権者となるか、援用権やその行使が 認められないのはどのような場合かについて、説明することができ る。 ... 147 ● 時効の中断及び停止がどのような制度であるかを説明し、どのよう な場合に中断、停止が認められるかを、条文を参照しつつ説明する ことができる。 ... 151第7節
取得時効
● 取得時効とはどのような制度であり、また、どのような権利がその 対象となるかについて説明することができる。 ... 158 ● 取得時効の要件について、概要を説明し、条文を参照してその具体 的内容を説明することができる。 ... 159第8節
消滅時効
● 消滅時効とはどのような制度であり、また、どのような権利がその 対象となるかについて説明することができる。 ... 166 ● 消滅時効の一般的な要件について、説明することができる。 ... 166 ● 短期と長期の期間制限が設けられている場合について、その趣旨、 期間の性質(いわゆる除斥期間の概念を含む)、起算点について、説 明することができる。 ... 167第1編
民法総則
序章
民法総論
● 私法の中での民法の位置づけについて、説明することができる。 私法:国民ないし市民相互の関係を規律する法 民法:私人相互の生活関係(生活空間)を対象とした法(私法)の1 つ 「民法は、私法の一般法」 ① 私法における一般法と特別法 ② 特別法の一般法に対する優先 ● 日本の民法典がどのような編別になっているかを理解している。 ■民法典の構成 民法典 民法総則 (第1 編) 物権編 (第2 編) 物権総則 (第1 章) 債権編 (第3 編) 親族編 (第4 編) 相続編 (第5 編) 占有権 (第2 章) 所有権 (第3 章) 用益物権 (第4~6 章) 担保物権 (第7~10 章) 債権総則 (第1 章) 契約 (第2 章) 事務管理 (第3 章) 不当利得 (第4 章) 不法行為 (第5 章) 契約総則 事務管理 親族総則 (第1 章) 相続総則 (第1 章) 婚姻等(第2~7 章) 相続人等(第2~7 章)● 私 的 自 治 の 原 則 な ど 私 法 の 一 般 原 則 を 挙 げ 、基 本 的 な 考 え 方 を 説 明 する こ と が で き る。 私的自治の原則:個人が自由意思に基づいて自律的に法律関係を形成することができ るという原則 私的自治の原則の3 つの内容 ① 個人が他者から強要されず、自らの意思で生活関係を形成 できるということの 保障 ② 私的生活関係形成にあたって、個人は国家から自由であること(国家の不干渉) ③ 国家が自由意思に基づき形成された私的生活関係を承認し、保護しなければな らないとの国家の責務(私人から見れば、国家に対する保護請求権 ) 権利能力平等の原則:すべての自然人は国籍・階級・職業・年齢・性等によって差別 されず、等しく権利義務の主体になる資格(権利能力)を有するとの原則 (3 条、憲法 14 条参照) 所有権絶対の原則:所有権は何らの人為的拘束を受けない(他者からの干渉を受けな い)との原則 ① 所有権者は、自由にその所有物を使用・収益・処分することができる(自 由な 所有権) ② 所有権者は、自らの所有物を侵害する者に対して、その侵害を排除できる(所 有権の不可侵)
第1章
通則
● 信義誠実の原則(信義則)の考え方について、説明することができる。 1 信義誠実の原則(信義則):社会共同生活の一員として、互いに相手の信頼を裏 切らないように誠意をもって行動すべきであるとする原則(1 条 2 項) 信義則は、いわゆる一般条項であり、制定法の限界を補完するために用意されたもの 2 機能 ① 法を具体化する機能(法 具体化機能) ② 正義や衡平を実現する機能(正義衡平的機能) ③ 法を修正したり、創造したりする機能(法修正的機能) ④ 法規に反して新たな法創造を行う機能(法創造的機能)第2章
人
第1節
権利能力、同時死亡の推定
● 権利能力の意義について、説明することができる。 権利能力:権利・義務の主体となりうる資格 ● 権利能力の始期(胎児の法的地位を含む)について、説明することができる。 1 権利能力の始期=「出生」時(「私権の享有は、出生に始まる」3 条 1 項) 権利能力の始期である「出生」とは、具体的にはいつの時点か ① 胎児が母体から全部露出した時とする説(全部露出説) ∵ 民法上は、胎児が母体から独立して生存の徴表を示す場合には、独立の呼吸が なくとも権利主体と認めるのが相当 2 胎児 (1) 胎児の権利能力が肯定される場合 原則:胎児に権利能力はない(3 条 1 項) 例外 ① 不法行為(721 条) ② 相続(886 条 1 項) ③ 遺贈(965 条) の場合、胎児を「既に生まれたものとみなす」 (2) 胎児の法的地位 胎児の間に胎児のためにされた行為の効力をどう考えるか ① 胎児には胎児の間に権利能力はなく、胎児が生きて生まれてきた場合に停止条 件的に遡って権利能力が生ずる(停止条件説。大判昭和 7 年 10 月 6 日民集 11 巻 2023 頁) ● 権利能力の終期(同時死亡の推定を含む)について、説明することができる。 1 死亡による終了 2 死の概念とその判断基準 心臓死(伝統的通説): 脈拍停止、呼吸停止、瞳孔散大の3 徴候で死を判断 3 死亡の証明とその証明の困難を救う制度 (1) 認定死亡(戸籍法 89 条) (2) 失踪宣告:不在者(25 条 1 項)が、一定の期間生死不明であり、死亡の証明 は困難であるが死亡の蓋然性が高いときは、配偶者や相続人などの残存者のため に、その者を死亡したものとみなす制度(30 条) ① 普通失踪:不在者の生死不明が 7 年間続いたときは、利害関係人の請求により、 家庭裁判所は失踪宣告をしなければならない(30 条 1 項)② 特別失踪:戦地に臨んだ者・沈没した船舶にいた者などの死亡の原因となる危 難にあった者の生死が、危難の去った後 1 年間不明のときも、失踪宣告がなさ れる(30 条 2 項) (3) 同時死亡の推定(32 条の 2) 船が氷山に衝突して、乗っていたAB 夫婦の家族のうち、夫 A とその息子 C が死亡し、 妻 B がボートによって救出された場合に、A の母 D が健在であるとき、A の遺産を妻 B と母 D とがどのように相続するか ① A が先に死亡した場合は、妻 B と息 子C が各 2 分の 1 相続し(900 条 1 号)、続いて死亡した息子C の相続 分が全部B に行く。その結果、A の 財産について、妻 B は1 2+ 1 2を取得す る。 ② 逆に、C が先に死亡した場合には、A が死亡した時点では相続人はB と D のみであるから、妻 B は2 3、母 D は 1 3相 続する(900 条 2 号)。 ③ A か C のいずれが先に死亡したかが 証明できない場合、 同 時死 亡を推 定 する規定が適用され(32 条の 2)、 その結果、先の例では、父A と息子 C との間では、どちらの方向にも相 続が生じない。したがって、A の財 産は、妻 B が2 3 、母 D が 1 3相続する (900 条 2 号)。 ■死亡時期不明の場合の相続関係 A の財産の帰属先 ① A が先死、C が後死した場合 妻B :1 2+ 1 2(すべて母B に行く) 息子C:0(いったん1 2を相続するが、そ の後の死亡でこれも母B に行 く) 母D :0(相続人にならない) ② C が先死、A が後死した場合 妻B :2 3 母D :1 3 ③ AC が同時死亡の場合 妻B :2 3 母D :1 3 32 条の 2 は、同時死亡を推定するだけであるから、何らかの方法で死亡時期の先後を 証明できれば、それによる。 32 条の 2 の推定は、数人が同一に危難によって死亡した場合だけでなく、一方が内地 で明確な時期に死亡し、他方が外地で不明な日時に死亡した場合にも適用される。 母D 夫A 妻 B 息子 C
第2節
意思能力と行為能力
● 意思能力の意義及び意思能力のない者がした意思表示・法律行為の効力について、説 明することができる。 1 意思能力:自己の行為の法的な結果を認識・判断することができる能力 2 意思能力の基準 意思能力として要求される能力は、個々の行為者ごとに個別的に判断 一応の目安:7~10 歳 3 意思能力のない者がした意思表示・法律行為の効力=無効 意思無能力による無効は、意思無能力者を保護するためのものであるから、意思無能 力者の側からのみ主張でき、契約の相手方は主張できない (相対的無効) ● 行為能力制度の趣旨(目的・必要性)について説明し、どのような類型があるかを示 し、各類型の要件及び効果について、条文を参照して説明することができる。 1 行為能力:自己が単独で確定的に有効な法律行為をなしうる能力 (1) 行為能力制度の趣旨 ① 意 思 無 能 力 で あ っ た こ と の 立 証 の 困 難 性 を 救 済 し て 意 思 無 能 力 者 を 保 護 す る とともに ② 意思能力のない者を定型化することにより相手方の注意を喚起して取引の 相手 方に不測の損害を与えない ようにする (2) 行為能力制度の概要 行為能力制度(制限行為能力者制度):意思無能力者の保護を確実にし、同時に取引 の相手方に不測の損害を与えないようにする制度 制限行為能力者制度 制限行為能力者 保護機関 ① 未成年 ② 後見 ③ 保佐 ④ 補助 ① 未成年者 ② 成年被後見人 ③ 被保佐人 ④ 被補助人 ① 未成年者 ② 成年被後見人 ③ 被保佐人 ④ 被補助人 2 各類型の要件・効果 (1) 未成年者 ア 要件 原則:成年に達しない者 (4 条反対解釈) 例外:成年擬制(婚姻擬制)(753 条) イ 未成年者であることを理由とする取消し(5 条 2 項)の抗弁(消滅) (ア) 要件事実 法律行為時に未成年者であったこと 【要件①】 ⅰ 未成年者またはその法定代理人が相手方に取消しの意思表示をし 【要件②】 たこと または ⅱ 取消擬制(20条3項)(2) 効果 以上の要件を充足すると 、制限行為能力者側は、その行為を取り消すことができない (21 条)。
第3節
住所、不在者の財産管理、失踪宣告
● 住所の概念(内容・意義)について、説明することができる。 「各人の生活の本拠をその者の住所とする」(21 条) 「生活の本拠」:人の生活関係の中心である場所 ● 不在者の財産管理の制度の意義及びその概要を説明することができる。 1 不在者:従来の住所または居所を去って容易に帰来する見込みのない者 2 不在者の財産管理の制度 不在者の財産が、法定代理人や管理者によって管理されていない場合、盗難や腐敗の 例を挙げるまでもなく、これをどのように管理するかが問題となる。そこで、民法は、 以下のような規定を置いている(25 条~29 条)。 ● 失踪宣告の制度の意義及び必要性について、説明することができる。 1 失踪宣告制度:不在者(25 条 1 項)が、一定の期間生死不明であり、死亡の証明 は困難であるが死亡の蓋然性が高いときは、配偶者や相続人などの残存者のため に、その者を死亡したものとみなす制度(30 条、31 条) 2 必要性 ① 不在者の生死不明の状態が長期間続くと、その者をめぐる法律関係を確定する ことができず、関係者が困ることが生じる。とりわけ、身分関係・相続関係に 関する問題では失踪宣告の必要性が高い。 ② 不在者の配偶者・子など不在者が死亡すれば相続できる地位にある者は、不在 者の死亡が確定しないと、いつまで経っても相続することができない。ここで も失踪宣告が必要となる。 3 要件 (1) 実体要件 ① 「不在者の生死が明らかでない」こと、すなわち、不在者について、なんらの 消息もないために、生存の証明も死亡の証明もたたないこと ② 生死不明が一定期間継続すること ア 普通失踪=失踪者の生存が証明された最後の時 から「7 年間」(30 条 1 項) イ 特別失踪(危難失踪)=「危難が去った後 1 年間」(30 条 2 項) (2) 手続要件 失踪宣告の審判は、「利害関係人の請求」によって開始される(30 条 1 項)。 4 効果=「死亡したものとみなす」(31 条) 普通失踪:「期間が満了した時」に死亡擬制 危難失踪:「危難が去った時」に死亡擬制5 失踪宣告の取消し (1) 要件 ア 実体要件 ① 「失踪者が生存すること」 または ② 宣告によって死亡したものとみなされる時と「異なる時に死亡したこと」 イ 手続要件=「本人又は利害関係人の請求」 (2) 失綜宣告取消しの効果 ア 遡及効の原則 ① はじめから失踪宣告がなかったと同一の効力を生じる ② 「死亡」によって解消した配偶者との婚姻関係復活 イ 遡及効の制限の例外 (ア) 善意の行為の有効(32 条 1 項後段)。 ■失踪宣告およびその取消しによる権利変動 a 財産取得行為 ① 失踪宣告の効果によって、失踪者から直接権利を取得した者(直接取得者)は 常に返還義務がある。 ② 失 踪 宣 告 の 取 消 し で 影 響 を 受 け る の は 所 有 権 移 転 の 効 果 を 生 じ る 処 分 行 為 (例:BC 間の売買による所有権移転行為)であって、債権債務を発生させるだ けの債権行為(例:BC 間の売買の約束)は原則として影響を受けない。 処分行為が契約に基づく場合には、両当事者とも善意でなければならない。 ③ 善意者を保護するとして、その次の転得者(善意者C からの譲受人 D)が悪意 である場合に、転得者は権利を保持できる(絶対的構成)。 ∵ 善意のC が、譲渡先を制限されるいわれはなく、いつまでも権利関係を不安定 な状態におくことも好ましくない。 cf. 例外的に、悪意の D が、A の取消の主張を阻むために形ばかりに善意のわら人形 C を間に立てたような場面では、D による 32 条 1 項後段の援用を「信義則」で封ずる ⑤失踪宣告の取消し (相続無効⇒所有権復帰)
○
A
①失踪宣告 (A の死亡擬制) ②相続 ⑥相続無効 ⑦返還義務 ただし、善意者は保護 相続人○
B
○
C
④所有権取得 ③売買による処分b 遡及効の制限に関する 32 条 1 項後段は「身分行為」にも適用される( 多 数説) 失踪宣告によって失踪者A とその配偶者 B との婚姻関係が解消したために、B が C と再婚したところ、A が生存していることがわかり、失踪宣告が取り消された場合にど うなるか。 ① 32 条 1 項後段を適用して、両当事者(BC)とも善意なら、後婚の効果を維持 し、その反面で前婚は復活しない。 ∵ 宣告を信頼して行為をなした者の利益を保護すべしとする法文の趣旨から考え ても、後婚を有効とする以上は、これに矛盾する前婚の復活は認められるべき ではなく、また身分関係の安定からも後婚のみを有効とすることが適当である。 (イ) 直接取得者の返還義務の範囲=現存利益を失踪者に返還(703 条) 不当利得の返還義務の範囲については、703 条・704 条に原則的な規定があるので、 これと 32 条 2 項との関係が問題となる。 受益者の善意・悪意を区別することなく、一律に「現に利益を受けている限度」で返 還すればよい(通説)。 ∵ 32 条 2 項は善意の場合の返還義務の範囲について規定しただけとすると、32 条2 項は 703 条と同じことを規定したことになり、32 条 2 項の存在意義がな くなる。
第3章
法人
● 法人とはどのような制度であり、法人に権利能力を認めるのはなぜ必要であるか具体 例を挙げて説明することができる。 1 法人:自然人以外に法によって独立の法人格(法律上の「人」としての資格)を 承認された、個人の集団(社団法人)もしくは一定目的のために拠出された財産 の集合体(財団法人) 2 法人格付与の法的意義 ① 第 1 は、自然人や財産の集合をひとつの独立した権利主体・行為主体・責任主 体として扱うことで、人間集団や特定財産の外部関係・内部関係を簡易に処理 ② 第 2 は、集団構成員の個人財産(その者の債務の最終的ひきあてとなる責任財 産)から分離された法人固有の財産を構成し、その管理・運営を可能にする趣旨:代表者の包括的代理権の制限が内部的制限であるため、他人には容易にわから ないので、この点につき 善意の第三者を保護する ことをもって取引の安全を図る。 理事の代表権の範囲 ① 定款の規定(「目的の範囲」および内部的制限)の趣旨に反する行為について は、代表することができない。 ② 一般社団法人の場合には、社員総会の決議(内部的制限)に従い、代表権を行 使しなければならない。 ③ 理事の代表権は、法令によって制限され得る。 ④ 理事の代表権は、「法人の目的」の範囲内の行為に限られる。 イ 「善意」の意味 第三者の善意・悪意の基準:代表権に加えられた制限を知っているか否か 過失の要否:文字通り「善意」のみで足りる= 過失の有無を問わない。 ∵ 法自体が理事の代表権は制限がないこと(包括的代表権)が本則ゆえ、第三者 を広く保護するのが適切(最判昭和60 年 11 月 29 日民集 39 巻 7 号 1760 頁)。 ウ 主張立証責任 ① 「理事の代表権が当該行為に及ばないものであること」(理事の代表権が制限 されていること)についての主張立証責任は、法人の側にある。 ② 抗弁:「理事の代表権に制限が加えられていることを知らなかった」ことにつ いての主張立証責任が、第三者の側に課される。 (3) 代表権制限について悪意の第三者を保護する必要性――110 条の類推適用 第三者が代表権の制限について善意といえない場合であっても、 ① 第三者において、理事が当該具体的行為につき理事会の決議等を得て適法に法 人を代表する権限を有するものと信じて ② このように信じるにつき 正当の理由があるときは 110 条を類推適用し、法人はその行為につき責任を負う。 (4) 法令による制限に反した行為の効力 【ケース①】 X 市には、収入役が置かれている。X 市長 A は、市の観光事業への協力を依頼するため に Y のもとを訪れ、Y から市の観光事業振興への出資金として 500 万円を無償で借り入れ た。 2 年後に Y は、X 市に対して、500 万円の返還請求をしたが、認められるか。 性質上・法令上許される範 「目的の範 内部的制 無効 権利能力 一般法人法 77 条 5 項等 理事の代表
行為の外形からみて、法 人の目的の範囲内と認められる場合および職務行為と相当な 牽連関係にあると認められる場合がこれに含まれ、当該行為が法人の有効または適法な 行為であることを要しない。 ただし、当該行為は代表機関の職務に属さないことにつき悪意・重過失の相手方には、 法人は賠償責任を負わない。 (2) 理事等の第三者に対する個人責任 法人の責任と代表機関の個人責任(709 条)は併存し、被害者はいずれに対しても損 害の全額について、順次もしくは同時に賠償請求可能(2 つの責任は不真正連帯の関係) 3 理事等の法人に対する責任 理事等は、法人に対する 善管注意義務・忠実義務 違反によって法人に生じた損害を賠 償する責任を負う(111 条 1 項、198 条)。 ∵ ①一般社団法人・一般財団法人と、理事・監事・会計監査人・評議員との関係 は、委任関係で(一般法人法64 条、172 条 1 項) ②理事は忠実義務を負う (一般法人法 83 条、197 条)
第4章
物
● 民法は物をどのように定義し、どのように分類しているか(とくに不動産・動産)、 その分類にどのような意味があるかを具体例を挙げて説明することができる。 1 物 (1) 民法上の「物」=「有体物」と(85 条) 「有体物」:空間の一部を占めて五感により覚知できる物質(液体・気体・固体) ① 電気・熱・光等 ② 「無体物」(例:債権、著作権) は、「物」ではない (2) 所有権の客体としての適格性 ア 有体物であること イ 排他的支配可能性 誰にも支配できないもの 、逆に、誰にでも自由に利用できることが予定されているも のは、「物」とはいえない(大判大正 4 年 12 月 28 日民録 21 輯 2274 頁)。 ∵ 「物」は、人が排他的に支配管理(使用・収益・処分)できなければ法的には 意味がない ただし、海洋や海面下の土地といえども、一定範囲を区画して排他的支配管理をなす ことが可能な場合があり、漁業権や公有水面埋立権などの客体となることがある。 ウ 非人格性 エ 独立性・単一性・特定性第5章
法律行為
第1節
総則
法律行為・意思表示総論
第1款
● 法律行為・意思表示の意味について、法律行為の種類とともに説明することができる。 1 法律行為:一定の法律効果の発生に向けられた意 思表示を不可欠の要素 とする法 律要件であり、その意思表示の内容に従った法律効果を発生させるもの (1) 分類 意思表示の結合態様から の分類 ① 契約 ② 単独行為 ③ 合同行為 契約 単独行為 合同行為 A 申込み→←承諾 B A → B 例:遺言、取消し、解除 会社 ↑ ↑ ↑(設立) A B C 契約:互いに対立する複数の意思表示の合致 によって成立する法律行為 売買契約(555 条)、賃貸借契約(601 条)、消費貸借契約(687 条) Ex.1 単独行為:一方的な意思表示(矢印が1 個だけ)のみで成立する法律行為 相手方のあるもの(例 : 取消し、解除、追認、 相 殺) Ex.1 相手方のないもの(例 : 遺言、寄附行為) Ex.2 合同行為:数人が共通の権利義務の変動を目的として共同してする法律行為 社団法人の設立行為、 総 会決議 Ex.1 (2) 準法律行為:法律効果を発生させる行為のうちで何らかの意思的要素を伴う が、法律行為とは異なって効果意思は伴わない各種の行為 ① 意思の通知:自らの意思を通知することにより、法律に定められた一定の効果 を生じさせる行為 催告(20 条、114 条、153 条、412 条 3 項、452 条、493 条、541 条等) Ex.1 弁済受領の拒絶(493 条、494 条) Ex.2 ② 観念の通知:ある事実についての自己の認識を相手方に伝える行為 債権者が債権を他に譲 渡 したと通知すること( 債 権譲渡の通知) Ex.1 自己が債務を負ってい る ことを承認すること( 債 務の承認) Ex.2 準法律行為は、その意思に従って法律効果が認められるのではない点で法律行為と異 なる。■法律行為と準法律行為の違い 法律行為 準法律行為 ①内心 = ②法律効果 例:①売買の解除→②解除 ①内心 ≠ ②法律効果 例:①売買代金支払の請求→②時効中 断(147 条 1 号) ■法律要件の分類・法律行為の構成要素 法律要件 2 意思表示:一定の法律効果の発生を欲する意思を外部に対して表示する行為 法律行為は意思表示を構成要素とする 一致 不一致 動機 内心の意思 = 内心的効果意思 表示意思 表示行為から推断される効果意思 (表示) = 表示行為 契約 (例:売買、賃貸借、消費貸借) 合同行為 (例:社団法人設立行為) 単独行為 (例:解除、遺言) 法律行為 準法律行為 その他 意思の通知 (例:債権譲渡の通知〔467 条〕) 観念の通知 (例:催告〔412 条〕) 事務管理、不当利得、不法行為
第2節
意思表示
心裡留保
第1款
● 心裡留保の意義及び当事者間における効力について、説明することができる。 1 心裡留保(単独虚偽表示):内心の意思と合致しない効果意思を、意識的に、か つ、相手方と通謀することなく表示すること 2 効力 (1) 当事者間における効力 ① 相手方の表示の信頼保護の要請と表意者の帰責性の観点から、心裡留保の効果 は 93 条において、原則として有効(93 条本文)。 ② しかし、相手方が表意者の真意を知り、または知ることができたときは、相手 方を保護する必要はないので無効(同条ただし書 )。 (2) 要件 心裡留保無効の抗弁 表示内容に対応する効果意思が表意者になかったこと 【要件①】 要件①を表意者が知っていたこと 【要件②】 相手方が表意者の真意を知り、または知ることができたとの評価根拠事 【要件③】 実 (3) 第三者との関係 94 条 2 項の類推適用によって善意の第三者(例:相手方からの転得者)には主張でき ない。通謀虚偽表示
第2款
● 通謀虚偽表示の意義及び当事者間における効力について、説明することができる。 1 94 条の「虚偽表示」:表意者が相手方と通じて行なう真実でない意思表示 2 当事者間における効力 虚偽表示は、当事者間では無効である(94 条 1 項)。 3 要件 当事者間における通謀虚偽表示を理由とする意思表示の無効の抗弁 表示内容に対応する効果意思が表意者になかったこと 【要件①】 両当事者が、要件①の意思があるように装う合意をしたこと 【要件②】 4 適用範囲 (1) 単独行為・合同行為 相手方のある単独行為(最判昭和31 年 12 月 28 日民集 10 巻 12 号 1613 頁〔契約の 解除〕)にも適用がある。 ∵ 虚偽表示といえるためには相手方と通謀していればよい 相手方のない単独行為や複数の表意者が同じ内容の意思表示をする合同行為(法人の 設立行為)でも、94 条を類推適用され得る(最判昭和 42 年 6 月 22 日民集 21 巻 6 号■第三者の具体例 第三者にあたる者 第三者とならない者 ① 虚 偽 表 示 に よ る 譲 受 人 か ら そ の 目 的 物を譲り受けた者(最判昭和 28 年 10 月1日民集7 巻 10 号 1019 頁) ② 虚 偽 表 示 に よ る 譲 受 人 か ら そ の 目 的 物 に つ い て 抵 当 権 の 設 定 を 受 け た 者 (大判大正 4 年 12 月 17 日民録 21 輯 2124 頁、大判昭和 6 年 10 月 24 日新聞 3334 号 4 頁) ③ 仮 装 の 抵 当 権 設 定 契 約 に 基 づ い て 抵 当 権 設 定 登 記 を 経 由 し た 者 か ら 転 抵 当の設定を受けた者(最判昭和55 年 9 月 11 日民集 34 巻 5 号 683 頁) ④ 差 押 え 債 権 者 。 す な わ ち 、 虚 偽 表 示 に よ る 譲 受 人 の 目 的 物 に つ い て 強 制 競 売 を 申 し 立 て 差 押 え を し た 債 権 者 (大判明治32 年 10 月 6 日民録 5 輯 9 巻 48 頁、最判昭和 48 年 6 月 28 日 民集27 巻 6 号 724 頁) ⑤ 虚 偽 表 示 に よ る 譲 受 人 ( 例 : 仮 装 振 出 の 約 束 手 形 の 受 取 人 ) が 破 産 し た ときの破産管財人(大判昭和8 年 12 月19 日民集 12 巻 2882 頁、最判昭和 37 年 12 月 13 日判タ 140 号 124 頁) ⑥ 仮装債権の譲受人。 例 : 仮 装 売 買 の 売 主 か ら 売 買 代 金 債 権を譲り受けた者(大判昭和3 年 10 月4 日新聞 2912 号 13 頁) 仮 装 の 消 費 貸 借 上 の 貸 金 債 権 を 貸 主 から譲り受けた者(大決昭和 8 年 9 月18 日民集 12 巻 2437 頁) 名 義 を 仮 装 し た 預 金 債 権 の 名 義 人 か ら そ の 預 金 債 権 を 譲 り 受 け た 者 ( 大 判昭和 13 年 12 月 17 日民集 17 巻 2651 頁) ① 一般債権者 ② 仮 装 名 義 人 に 金 銭 を 貸 し 付 け た 者 (大判大正9 年 7 月 23 日民録 26 輯 1171 頁) ③ 賃 借 地 上 の 建 物 が 仮 装 譲 渡 さ れ た 場 合の土地賃貸人(最判昭和 38 年 11 月28 日民集 17 巻 11 号 1446 頁) ④ 仮装譲渡された債権の債務者 ⑤ 債 権 の 仮 装 譲 受 人 か ら 債 権 取 立 て の ために譲り受けた者 ⑥ 債 権 の 仮 装 譲 渡 に お け る 仮 装 譲 受 人 の債権者 ⑦ 抵 当 権 が 仮 装 放 棄 さ れ た と き の 既 存 の劣後制限物権者 ⑧ 土 地 の 仮 装 譲 受 人 が そ の 上 に 建 設 し た建物の賃借人(最小判昭和57 年 6 月8 日判時 1049 号 36 頁) イ 「善意」:「意思表示が虚偽表示であったことを知らない」ということ 「善意」の判断基準時 : 当該法律関係につき第三者が利害関係を有するに至った時 期(最判昭和 55 年 9 月 11 日民集 34 巻 5 号 683 頁)
錯誤
第3款
● 錯誤にはどのような種類があるかについて、 具体例を挙げて説明することができる。 1 95 条の「錯誤」の意義 二元論(大判大正3 年 12 月 15 日民録 20 輯 1101 頁) 「錯誤」:効果意思と表示の不一致を表意者が知らない場合である。 一元論 「錯誤」:真意と表示の不一致を表意者が知らない場合である。 2 錯誤の種類 (1) 表示行為の錯誤――意思表示の錯誤 表示行為の錯誤:意思表示の表示について錯誤がある場合 表示行為の錯誤は、以下の2 つの場合がある ① 表示上の錯誤 ② 内容の錯誤 ア 表示上の錯誤:表示行為自体に錯誤がある場合 言い間違い Ex.1 書き間違い Ex.2 キーの押し間違い Ex.3 150 万円と書くつもりで(表示意思)、1500 万円と本人が誤記した(表示 Ex.4 行為)場合 イ 内容の錯誤 :表示行為の意味について錯誤がある場合(「表示内容の錯誤」、 「表示行為の意味の錯誤」とも呼ばれる) ポンドとドルとが同価 値 であると間違えた場合 Ex.1 乙地を甲地のことだと 誤 認している場合 Ex.2 1 坪(約 3.306 ㎡)を 4 ㎡と誤解しているような場合 Ex.3 A は 1 グロス(12 ダース)が 10 ダース(10×12=120 本)の意味である Ex.4 と誤解して、B に対して万年筆を1グロス(12×12=144 本)注文した場 合 表示上の錯誤 表示行為の錯誤 内容の錯誤 錯誤 理由の錯誤 動機の錯誤 性状の錯誤(2) 動機の錯誤 動機の錯誤:内心の効果意思と表示は一致している が、意思表示の形成過程において 事実と異なる判断・認識をし、これに動機づけられて意思表示をした場合 これには、以下の2 つの場合がある ① 理由の錯誤 ② 性状の錯誤 ア 理由の錯誤:意思表示を行う間接的な理由に関する錯誤(「縁由の錯誤」、「狭 義の動機の錯誤」とも呼ばれる) 道路が通って地価が上 が るという噂を信じて辺 鄙 な土地を高額で買い受 け Ex.1 たが、噂は事実無根であった場合(最判昭和37 年 11 月 27 日判時 321 号 17 頁を参照) 万年筆をなくしたと思 っ て新しいのを買ったら 、 ポケットの中から出て き Ex.2 た場合 他に連帯保証人がいる と 思って保証契約を締結 し たのに、実際には連帯 保 Ex.3 証人はいなかったという場合(最判昭和32 年 12 月 19 日民集 11 巻 13 号 2299 頁) 借家人が立ち退くと信 じ て家屋を購入したが実 際 には立ち退かなかった 場 Ex.4 合(最判昭和29 年 11 月 26 日民集 8 巻 11 号 2087 頁) イ 性状の錯誤:意思表示の対象である人や物の性状(性質)に関する錯誤(「性 質の錯誤」、「属性の錯誤」とも呼ばれる) 本物と思って購入した 絵 画が偽物だった場合(最 判昭和45 年 3 月 26 日民 Ex.1 集24 巻 3 号 151 頁) 受胎した良馬だと信じ て 馬を購入したが実際に は 受胎していない駄馬だ っ Ex.2 た場合(大判大正 6 年 2 月 24 日民録 23 輯 284 頁) ● 錯誤の要件及び効果について、説明することができる。 1 要件 (1) 錯誤無効の要件事実 当該意思表示に錯誤があること 【要件①】 要件①が法律行為の要素に関するものであること 【要件②】 (2) 要素の錯誤 ア 内容 「法律行為の要素」に関する錯誤(大判大正7 年 10 月 3 日民録 24 輯 27 号 1852 頁): ① もしその点について錯誤がなかったならば、表意者はその意思表示をしなかっ たと考えられ(主観的因果関係)、かつ、 ② 意思表示をしなかったことが一般取引上の通念に照らし妥当と認められるよう な、意思表示の内容の主要部分を指す(客観的重要性)
誤無効の主張を認めないとするのは、表意者保護の趣旨に反する。そこで、表意者保護 の観点から、この動機の錯誤に関しても一定の場合 95 条による錯誤無効の余地を認め るべきではないかが問題となる。 2 判例の立場 (1) 動機の錯誤の法的処理 動機の錯誤の場合における95 条の錯誤無効 動機が相手方に表示されて意思表示の内容となったこと 【要件①】 要件①の動機に錯誤があること 【要件②】 要件②が法律行為の要素に関するものであること 【要件③】 動機の錯誤が95 条の「錯誤」となる要件 ① (明示または黙示の)動機の表示 ② その動機が意思表示の内容になったこと
詐欺・強迫
第4款
● 詐欺・強迫の要件及び当事者間における効力について、説明することができる。 1 瑕疵ある意思表示(120 条 2 項参照):表示と効果意思の間に不一致はない が、 そのような効果意思の形成過程に相手方からの不当な影響力が介在したために、 効果意思に欠陥を生じているような場合 2 詐欺 (1) 「詐欺」:表意者を 欺ぎ 罔も うして、錯誤に陥らせ、それによって意思表示をさせ る行為 【相手方による詐欺と第三者による詐欺】 相手方による詐欺 第三者による詐欺 (2) 要件 相手方による詐欺を理由とする意思表示の取消しの抗弁 詐欺の故意 【要件①】 欺罔がなされたこと(欺罔行為) 【要件②】 要件②によって表意者が錯誤に陥ったこと(因果関係) 【要件③】 当該意思表示が要件③によってなされたこと(因果関係) 【要件④】 取消しの意思表示 【要件⑤】 (ア) 詐欺の故意 要件①の詐欺の故意が認められるには、 ① 相手方を錯誤に陥れようとする故意と ② これにより意思表示をさせようとする故意 の 2 段階の故意(2 段の故意)が必要(大判大正 11 年 2 月 6 日民集 1 巻 13 頁)。 週刊誌の虚偽の記事を 信 じた読者がそれに基づ い て意思表示をしても、 出 Ex.1 版社には(相手方を錯誤に陥れようとする故意があったとしても、)通常 表意者X ①詐欺 Y 詐 欺 表意者X Y相手方 詐欺者Z ②意思表示 ①詐欺 ②意思表示96 条 3 項の「第三者」は、取消しの遡及効によって影響を受ける者=取消しの意思 表示前に利害関係を有するに至った者に限られる(大判昭和 17 年 9 月 30 日民集 21 巻 911 頁)。 ∵ 96 条 3 項は取消しの遡及効から善意の第三者を保護するための規定 (4) 取消後の第三者 ア 問題の所在 96 条 3 項の主張は取消前の第三者であることが必要である。したがって、取消後の第 三者の場合、96 条 3 項は適用されない(判例・通説)。 イ 判例の立場――対抗問題説 対抗問題:物権変動が有効に生じていることを前提として、その効力を第三者に対抗 することができるかという問題 取消しによって、いったん欺罔者Y に移転していた物権(土地甲の所有権)が被欺罔 者 X に復帰する(復帰的物権変動)。 ∵ 取消しの遡及効は取消前の法律関係の処理に影響するにとどまり、取消後にお いては、取消しという意思表示によって生ずる不動産上の法律効果を意思表示 による物権変動一般の効果から区別すべき理由はない ■詐欺・強迫による取消しと第三者保護 取消前の第三者 取消後の第三者 詐欺 96 条 3 項 ・177 条(判例・多数説) ・94 条 2 項の類推適用(有 力説) 強迫 ・なし(判例・多数説) ・96 条 3 項の類推適用(有力説) 取消前の第三者 取消後の第三者 登記 ①売買 X ③取消しによる復帰 ② 転 売 対抗問題? Z 登記 ①売買 X ②取消しによる復帰 ③ 転 売 対抗問題 (判例) Z
(4) 重要事項(消費契約 4 条 4 項) 消費者契約法4 条 1 項 1 号および 2 項は、それぞれ不実告知、不利益事実の不告知が、 「重要事項」について行われたことを要件としている。 消費者契約法 4 条 4 項の定める重要事項 ① 契約の目的となるもの(物品、権利、役務等)の「質、用途、その他の内容」 または契約の目的となるもの(物品、権利、役務等)の「対価その他の取引条 件」であって、 ② 「消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼ すべきもの」 3 困惑による取消し(困惑類型)の 2 類型と各要件(消費契約 4 条 3 項) ① 当該契約が消費者契約であること ② 事業者がその契約の締結について勧誘をするに際し、消費者に対してその困惑 を招く所定の行為を行ったこと ③ 消費者が困惑したこと ④ 消費者が当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたこと ⑤ ②と③、③と④の聞に因果関係が存すること (1) 不退去型(消費契約 4 条 3 項 1 号) (2) 退去妨害型(消費契約 4 条 3 項 2 号) 4 取消し (1) 取消しの効果(民法 121 条) 民法 121 条の規定が適用され(消費者契約法 11 条 1 項参照)、取り消された行為は 初めから無効であったものとみなされる(民法 121 条本文)。 (2) 取消しと第三者(4 条 5 項) 消費者契約法 4 条 1 項から 3 項の規定による意思表示の取消しは、善意の第三者に対 抗することができない(4 条 5 項)。
意思表示の効力発生時期
第6款
● 意思表示の効力が発生する時点に関する到達主義と発信主義の違いについて、具体例 に即して説明することができる。 1 意思表示の成立 (1) 成立要件 ① 表示行為の存在は意思表示の成立要件 ② 効果意思が存在しなくても、意思表示の成立は認められる 意思表示の成立に表示意思が必要かどうかについては争いがある。 表示意思がなくとも意思表示の成立する(通説 )。 ∵ 表示意思がない場合にはそもそも内心的効果意思を欠くと考えられるため、錯 誤の問題として処理すれば足りる (2) 黙示の意思表示:明示の意思表示に比べて、表示価値の低い意思表示 ア 明示・黙示の相対性 ① 表示価値の大きい表示行為が明示の意思表示 ② 表示価値の小さい表示行為が黙示の意思表示 表示価値の大小は相対的なの イ 要件事実 黙示の意思表示をしたことを基礎付ける具体的事実が主要事実(主要事実説) 主要事実としては、黙示の意思表示の成立を基礎付ける具体的事実のみが問題となり、 評価障害事実に相当する事実は問題とならない 。 2 意思表示の効力 (1) 意思表示の効力発生時期 ア 意思表示のプロセス ①表白⇒②発信⇒③到達⇒④了知 イ 到達主義の原則 相手方のない意思表示(例:遺言)は、原則:意思を外部に表明した時点で効力が生 じる。 相手方のある意思表示 でも、現に対話している者の間(対話者間)でなされた意思表 示については、上記の①~④はほぼ瞬間的に行われるので、実際上、意思表示の成立即 効力発生であり、それ以上時期は問題にならない。 対話者:時間的な間隔がないという意味であり、電話での会話は対話者間になる。 隔地者:単に遠隔地にいるということではなく、物理的にみて直ちに意思表示が到達 したり返答することができない状態にある者を意味する。 隔地者間では、③到達が原則(97 条 1 項〔到達主義〕)。 ∵ 相手方が意思表示の内容を知ることが不可能な時点で効力を生じさせるのでは 不測の損害を被る 契約を解除するという 意 思表示は、相手方へそ の 旨を記した書面が到達 し Ex.1 た時点ではじめて効力を生じるが、到達前に思い直して撤回すれば効力は 生じない。(4) 公示による意思表示 ■公示による意思表示 方 法 原則 公示送達に関する民事訴訟法の規定に従い、裁判所の掲示場に掲 示し、その掲示があったことを官報に少なくとも1 回掲載する 98 条 2 項本文 例外 裁判所が相当と認めるときは、官報への掲載に代えて、市役所、 区役所、町村役場またはこれらに準ずる施設の掲示場に掲示すべ きことを命ずることができる 98 条 2 項ただし 書 管 轄 相手方が不明 表意者の住所地の簡易裁判所 98 条 4 項 相手方の所在が不明 相手方の最後の住所地の簡易裁判所 効 力 原則 最後に官報に掲載した日またはその掲載に代わる掲示をはじめた 日から2 週間を経過した時に、相手方に到達したものとみなされ る 98 条 3 項本文 例外 表意者が相手方を知らないことまたはその所在を知らないことに ついて過失があったときは、到達の効力を生じない 98 条 3 項ただし 書
第3節
代理
代理制度総論
第1款
● 代理とはどのような制度であるか、またなぜ必要であるかを、具体例を挙げて説明す ることができる。 1 代理制度 (1) 意義 代理:ある者(代理人 B)が別の者(本人 A)のために相手方(C)に意思表示をし、 または相手方から意思表示を受けることによって、その意思表示から成立する法律行為 の効果を直接本人(A)に帰属させる制度(99 条) ① 能働代理:代理人が本人のために意思表示をする場合(99 条 1 項) ② 受働代理:代理人が本人のために意思表示を受領する場合(99 条 2 項) 本人A のために、その代理人 B が、相手方 C と甲を目的とする売買契約を Ex.1 締結する意思表示をすると、本人A と相手方 C との間の売買契約が成立 (2) 代理の種類 任意代理:本人が代理人に代理権を付与する代理 法定代理:法律の規定によって代理権が付与される代理 (3) 代理の基本構造 ■代理の基本構造 ア 本人と代理人の関係――内部関係 (ア) 事務処理義務 任意代理の場合、本人と代理人の間では、本人が代理人に一定の事務の処理を任せる 旨の契約が行われる。 (イ) 忠実義務:本人と代理人の関係は、互いの信任関係を基礎とする。この信任 関係に基づき、代理人はもっぱら本人の利益のために行動しなければならない という義務 ① 代理人は、本人の利益と自己の利益とが衝突するような地位に身を置いてはい けない(利益相反行為の禁止。108 条参照) ② 代理人は、事務処理にあたって、自己または第三者の利益を図ることなく、も っぱら本人の利益を図らなければならない(代理権濫用の禁止) ③ 代理人は、原則として自らが事務処理を行うべきであって、第三者に行わせて はならない(自己執行義務・復代理の原則禁止。104~107 条参照)。 ①代理権授与 代理人 B 本人 A 相手方C ③効果帰属 ②代理行為イ 代理人と相手方の関係――外部関係 代理行為:代理人と相手方の間では、実際に法律行為がなされる。B と C がした甲の 売買契約がそれにあたる。このように、代理人が代理人としてする行為 顕名:本人を代理して行為していることを相手方に示すこと 趣旨:相手方が誰と法 律行為をしているのかわからず、思わぬ不利益を被らないよう にする ウ 本人と相手方の関係――本人への効果帰属要件としての代理 2 代理制度の必要性 (1) 個人の活動の支援――私的自治の拡張と補充 ア 私的自治の拡張 イ 私的自治の補充 (2) 法人の活動の支援 3 代理と類似の制度 ■代理と使者の比較 代理の場合 使者の場合 意思決定 代理人が決定 本人が決定 行為者の能力 意思能力 必要 意思能力 不要 行為能力 不要(102 条) 行為能力 不要 本人の能力 意思能力 不要 意思能力 必要 行為能力 不要 行為能力 必要 意思の欠缺 代理人の意思と表示を比較 本人の意思と使者の表示を比較 詐欺・強迫等の知情 代理人基準(101 条 1 項) 本人基準 婚姻の意思表示 × ○ 復任 制限あり(104~106 条) 原則 可 責任 無権代理人の責任(117 条) なし ● 代 理 人 の 行 っ た 法 律行 為 の 効 果 が 本 人 に 帰属す る た め に ど の よ う な要件 が 必 要 で あ るかを、具体例に即して説明することができる。 1 効果帰属要件としての代理 代理の効果:本人に直接効果帰属 効果帰属要件:本人に代理行為の効果を帰属させるための要件
するための代理権又は処分権限を授与したと認めるのが経験則に合致する」(最判平成5 年 9 月 7 日判時 1508 号 20 頁)。 (エ) 黙示の代理権授与行為 代理権授与行為は黙示でもよい。 黙示の授権があったか否かは、黙示の代理権授与行為があったことを基礎づける事実 (主要事実)の有無によって判断される。 (2) 任意代理権の範囲 ア 代理権授与行為の解釈による範囲確定 代理権の範囲は、代理権の発生原因の解釈によって決まる。任意代理の場合は、代理 権授与を含む事務処理契約の解釈を通じて代理権の範囲が確定される。 イ 範囲不明の場合、代理人は管理行為のみをすることができる(103 条) 管理行為:103 条各号が定める、保存行為、利用行為、改良行為の総称 103 条は、法定代理にも適用される(通説)。 (ア) 保存行為(103 条 1 号) 保存行為:財産の現状を維持する行為 家の修繕 Ex.1 消滅時効の中断 Ex.2 未登記不動産の保存登 記 Ex.3 (イ) 利用行為・改良行為(103 条 2 号) 利用行為と改良行為は、 いずれも「代理の目的である物又は権利の性質を変えない 範囲内において」のみすることができる(103 条 2 号)。 a 利用行為 利用行為:収益を図る行為 家の賃貸(⇔家を使用 貸 借することは収益を図 る 行為ではない) Ex.1 金銭を預貯金にするこ と Ex.2 b 改良行為 改良行為:財産の価値を増加させる行為 家に造作を施すこと Ex.1 家に電気・ガス・水道 な どの設備を施す Ex.2 無利息の貸し金を利息 つ きに改めること Ex.3 (ウ) 判断基準 保存行為、利用行為、改良行為は、いずれも代理行為の性質によって客観的に決まる。
■代理権の範囲が不明の場合における代理人の権限 管理行為 保存行為(103 条 1 号) 財産の現状を維持する行為 代理権の範囲内 利用行為(103 条 2 号) 目的物・権利の性 質 を 変 え な い 範 囲の行為 財 産 の 収 益 を 図る行為 改良行為(103 条 2 号) 財 産 の 価 値 を 増 加 さ せ る 行 為 非管理行為(処分行為) 目的物・権利の性質を変える行為 代理権の範囲外 3 復代理 (1) 復代理:代理人が、自己の名においてさらに代理人を選任し、その代理権の 全部または一部を行わせること 復代理人:復代理によって選任された者 (2) 「復代理人」として関与しないケースとの区別 ア 代理人が自らの代理人を選任する場合 第 1 に、代理人が自らの代理人を選任する場合がある。 【ケース⑥】 A は家屋を買おうと思い、信頼できる友人の B に家屋の購入を委託した。B は、代理事 務を処理するうえで必要となる物を購入するために P を自分の代理人とした。 このような代理人の選任は原則として B の自由 ∵ P はあくまで B 自身の代理人であって、A の代理人というわけではない イ 代理人が本人のための代理人を選任する場合 (ア) 本人から与えられた代理権に基づいて選任する場合 【ケース⑦】 本人から与えられた代理権に基づいて選任する場合 A は家屋を買おうと思い、信頼できる友人の B に、家屋購入の経験のある人を探して、 その人に家屋の購入をお願いして欲しいと委託した。B は、不動産会社で働いた経験のあ る Q を A の代理人とした。 これは、A が B に与えた代理権に基づく行為であって問題はない。 (イ) 代理人が固有の権限と し て本人の代理人を選任 す る場合(復代理 の ケ ー ス ) 【ケース⑧】 代理人が固有の権限として本人の代理人を選任する場合 A は家屋を買おうと思い、信頼できる友人の B に家屋の購入を委託した。B は A の代理 人としてC のところへ行って建物を点検し、代金額や支払方法を交渉して契約を結ぶこと となった。ところが、B は、契約締結の前日に盲腸で入院することになり、A と連絡をと っている余裕がないこともあり、信頼できる F に頼んで、F が A の代理人として C と契 約を締結してもらうことにした。 この場合のF は、B に選ばれたとはいえ、「A の代理人 F」と名乗り、A のための売買 契約を締結する(=F は A の名において行為する)。 本来ならば、本人の意思によって認められたものではない以上、代理権の範囲を逸脱 する行為であるが、【ケース⑧】のようなやむを得ない事由があるとき、民法が復代理人 として本人の代理人を選任することを例外的に許容している。
■復代理制度 任意代理 法定代理 復 任 権 の 存否 (104 条、 106 条) 原則 なし(104 条) 例外 ① 本人の許諾があるとき ② やむを得ない事由があるとき 常に復任権あり(106 条) 代 理 人 の 責任 (105 条、 106 条) 上記①②による選任 →選任監督懈怠責任(105 条 1 項) 本人による指名による選任 →不適任・不誠実であることを知りなが ら、本人に通知・解任を怠ったときのみ 責任を負う(105 条 2 項) 原則 →復 代理人に 過失が あ る限り 責任を負う(106 条前段) 例外 やむを得ない事由あり →選 任監督懈 怠責任 の み負う (106 条後段) 復 代 理 人 の 地 位 内 部 関 係 復代理権は代理人の代理権を基礎とする →代理人の代理権の範囲を超えることはできない 代理権の譲渡ではない →復代理人の選任により代理人の代理権が消滅するわけではない →代理人・復代理人は本人の代理人という地位は同じ 本人の代理人と同一の権利義務を有する(107 条 2 項) 例:本人に対して受領物引渡義務を負うが(646 条)、代理人に引き渡せば 復代理人の義務は消滅(最判昭和51 年 4 月 9 日民集 30 巻 3 号 208 頁) 対 外 関 係 復代理人は本人の代理人(107 条 1 項) →本人の名で代理行為を行い、その効果はすべて本人に帰属 4 共同代理:数人が同一の事項について代理権を有する場合で、全ての代理人が共 同してのみ代理行為をなし得る場合 (1) 代理人が複数いる場合の代理権の範囲 代理人が数人ある場合における各代理人の権限は、本人がどのような代理権を与えた かによって決まる。 (2) 共同代理人の 1 人が単独で行った代理行為の効力 共同代理人は互いに代理権を制限されていることになる。 ∴ 共同代理の定めに反して代理人の一部が本人の名において行った法律行為 は、 代理権を欠く部分について無権代理行為となる(なお、共同親権の場合につい ては 825 条参照)。 この場合、権限踰越の表見代理(110 条)によって相手方の保護が図られる。 (3) 共同代理の主張立証責任 任意代理の場合、代理人が複数あるとは限らず、また代理人が数人ある場合でも、原 則として各代理人が単独で代理することができる。そのため、共同代理の指定の主張立 証責任は、代理の効果を争う者にある。
■93 条ただし書類推適用説と信義則説の要件・効果の違い 93 条ただし書類推適用説 信義則説 悪意 × 重過失 × 軽過失 × ○ ×=本人 に代 理行 為の 有効 性を 主張 でき ない ○ =本 人に 代理 行為 の有 効性を 主張 でき る 3 法定代理の代理権濫用 (1) 判例の立場 判例は、任意代理の場合と本質的な区別をせず、かつ、親権者の代理権行使について は親権者に広範な裁量権があるとの前提で、任意代理権の濫用事例と同様に、93 条ただ し書類推適用という法律構成でこの問題を処理している。 【ケース②】 未成年 A の母 B が、C との間で、A の法定代理人として A の所有する土地甲に根抵当 権設定契約を締結した。この根抵当権の設定は、A の叔父が経営する会社に対する C の債 権を担保する目的でなされたものであった。C はこの事実を知っていた。 この場合、A は、B のした根抵当権設定行為の無効を主張して、C に根抵当権設定登記 の抹消登記手続を請求することができるか。 ア 826 条の利益相反行為との関係 ある行為が826 条 1 項の利益相反行為になるかどうかは、利益相反行為か否かを行為 自体または行為の外形 によってのみ判断する(形 式的判断説)。 【ケース③】の物上保証は、C(根抵当権を取得する)および A の叔父の会社(自己 の頂務のための物上保証を得る)の利益とA の不利益(A の叔父の会社の債務につき責 任を負担する)とが外形上結合しているものの、親権者 B の利益と A の不利益とが外形 上結合する関係ではない。 ∴ 利益相反行為には当たらない イ 法定代理権の濫用 もっとも、「親権動を及ぼす一切の法律行為につき子を代理する権限を有する(民法者 は、原則として、子の財産上の地位に変 824 条)ところ、親権者が右権限を濫用して法 律行為をした場合において、その行為の相手方が右濫用の事実を知り又は知り得べかり しときは、民法 93 条ただし書の規定を類推適用して、その行為の効果は子には及ばな い。」(最判平成 4 年 12 月 10 日民集 46 巻 9 号 2727 頁) では、親権者が子所有の不動産を親権者以外の者の債務の担保に供した場合に、「子の C(A の伯父) (A の母)B 根 抵当 権設 定契 約(A 所有の土地甲) (未成年者)A A の叔父が経営する会社 に 対す るC の債権を担保 す る目 的 悪 意