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第7章 時効

第2節 取得時効

● 取得時効とはどのような制度であり、また、どのような権利がその対象となるかにつ いて説明することができる。

1 取得時効:権利者らしい事実状態が一定の期間継続することによって、権利の取 得という効果を認める制度

A が、ある土地を自己の所有地として占有し、その占有状態が一定期間継 Ex.1

続したときには、その土地の真の所有者が Bであった場合でも、Aは時効 によってその土地の所有権を取得するのである(162条)。

2 取得時効の対象となる権利

(1) 所有権その他の財産権 ア 原則

取得時効は、以下の 2種類について のみ 認められる

① 「所有権」(162条)

② 「所有権以外の財産権」(163条)

イ 不動産賃借権の取得時効 債権である賃借権については、

① 「土地の継続的利用という外形的事実が存在」し、

② ①が「賃借の意思に基づくことが客観的に表現されているとき」(「所有の意 思」に対応する)

には、時効取得が可能(最判昭和 43年10月8日民集22巻10号 2145頁)。

(2) 取得時効の認められない財産権 ア 財産権以外の権利

扶養を受ける権利(877条)

Ex.1

イ 継続的な権利行使の可能性のない権利

1回的給付の請求を内容とする金銭債権 Ex.1

取消権、解除権等の形成権 Ex.2

不表現または不継続の地役権(283条は「地役権は、継続的に行使され、

Ex.3

かつ、外形上認識することができるものに限り、時効によって取得するこ とができる」と規定する)

ウ 法定の権利

留置権や先取特権など、直接法律の規定に基づいて成立する権利は、法律の定める要 件が備わって始めて成立するのである。したがって、取得時効の対象とはならない。

3 取得時効の効果

(1) 所有権またはそれ以外の財産権の取得

ア 原始取得:すでに存在する他人の所有権に基づかずに新しく所有権を取得する

∴ 所有権の時効取得によって、前所有者の所有権は消滅し、目的物に付けられて いた抵当権などの負担も、原則として消滅する。

ただし、単に抵当権等の負担の存在を知っていたというだけにとどまらず、当該負担

ウ 「他人の物」という要件

判例は、自己の物による時効取得も認めている(最判昭和44年 12月18日民集 23 巻 12号 2467頁)。

∴ その物の占有が他人によるかどうかは取得時効の要件事実において無意味であ って、物の他人性は問題とならない(主張立証不要)。

2 取得時効の要件事実(請求原因)

① 長期取得時効

ある時点における物の占有

【要件①】

要件①から20年経過時における占有

【要件②】

時効の援用の意思表示

【要件③】

② 短期取得時効

ある時点における物の占有

【要件①】

要件①から10年経過時における占有

【要件②】

時効の援用の意思表示

【要件③】

要件①の時点で自己の所有と信じたことにつき無過失の評価根拠事実

【要件④】

(1) 取得時効の対象となる「物」(要件①)

ア 自己の物

判例は、次のように判示して、「自己の物」の時効取得を肯定している(旧H10-27肢 イ)。

「取得時効は、当該物件を永続して占有するという事実状態を、一定の場合に、権利 関係にまで高めようとする制度であるから、所有権に基づいて不動産を永く占有する者 であっても、その登記を経由していない等のために所有権取得の立証が困難であったり、

または所有権の取得を第三者に対抗することができない等の場合において、取得時効に よる権利取得を主張できると解することが制度本来の趣旨に合致するものというべきで あり、民法 162条が時効取得の対象物を他人の物としたのは、通常の場合において、自 己の物について取得時効を援用することは無意味であるからにほかならないのであって、

同条は、自 己 の物 について 取得 時効 の援用 を許 さな い趣 旨で はないからである」(最判 昭和 42年7月21日民集21巻6号 1643頁)

イ 物の一部についても、そ の範囲が明確であり独立 性がある限りで、物権の 対象 となり得る

一筆の土地の一部についても取得時効は成立し得る Ex.1

(2) 時効の完成(要件①・要件②)

ア 自主占有 (ア) 占有の事実

占有:物を所持すること(180条参照)

物の所持:人が物について事実上の支配をしていることが社会通念上認められるよう な人と物との事実的関係をいう(大判昭和 15年10月24日新聞 4637号10頁)

所持の有無は、場所的関係、時間的関係、法律関係、支配意思の存在等を考慮し、社 会通念によって決定される(大阪高決昭和 34年8月27日下民集10巻8号 1789頁)

(イ) 所有の意思

a 意義:他人の所有権を排斥して自ら所有者としての支配を事実上行う意思 所有の意思の有無は、権 原の性質によって外形的客観的に決まる。

∵ 取得時効により所有権を失う所有者の時効阻止の機会を保障する趣旨 b 自主占有の推定(186条 1項⇒159頁)

c 自主占有に関する推定不適用

(a) 他主占有の承継

所有の意思の有無は、権原の性質によって外形的客観的に決まる。したがって、占有 が他 主 占 有の 承継による場合、その 占有もや はり 他主占有で あり、「 所有 の意思をもっ て」する占有とはいえない。これは、取得時効の主張に対する抗弁として機能する。

その要件事実は以下のとおりである。

Aの他主占有権原

【要件①】

AからXへの賃借権譲渡契約の成立(権原の承継原因事実)

【要件②】

要件②に基づくAからXへの引渡し

【要件③】

(b) 他主占有から自主占有への転換

他主占有(=「権原の性質上占有者に所有の意思がないものとされる場合」)でも、占 有者が、

① 自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示した場合

② 新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めた場合 のいずれかの場合には、他主占有が自主占有に変わる(185条)。

(c) 自主占有事情:占有者の事実的支配が外形的客観的に見て独自の所有の意思 に基づくことを基礎づける事情

(d) 自主占有権原:自主占有の取得原因である権原の発生原因事実

「権原」:物の占有を正当化する法律上の原因 イ 事実状態の継続

(ア) 占有継続の事実

186条 2 項による占有継続は、推定されるにとどまる(⇒エラー! ブックマークが定 義 さ れて いま せ ん。 頁)。そのため 、推定さ れた 占有継続期 間におい て、 例えば、侵奪 行為によって目的物の占有が失われたことが判明すれば、占有継続の推定は破られ、取 得時効は中断する(164条)。

もっとも、その後、占有回収の訴え(200 条)を提起して勝訴すれば、その占有を失 わず占有が継続していたものと擬制される(203条ただし書。最判昭和 44年 12月2日 民集 23巻12号2333頁)。この場合、取得時効は中断しない(新 H19-5肢 2)。

(イ) 占有の承継

a 占有期間の合算(187条 1項)

取得時効を援用する際に、占有の一定期間の継続を主張する場合、

① 自己の占有の継続のみ主張するか、

② 前の自主占有者による占有と自己の占有を併せて 1個の占有が継続したことを 主張するか

①か②を選択することが許されている(187条 1項)。

(ウ) 取得時効と登記

■時効と登記の判例理論

① 時効完成時の登記名義人との関係

占有者は、時効完成時の原所有者(=登記名義人)に対して、登記なくして時効 による所有権取得を主張できる(大判大正7年 3月2日民録 24輯423頁)。

∵ 物権変動における当事者類似の関係に立つ

② 時効完成前の登記名義取得者との関係

占有者は、時効完成前に原所有者から譲り受けた譲受人(=登記名義取得者)に 対して、時効取得を登記なくして対抗することができる(最判昭和 41 年 11 月 22日民集20 巻9 号1901頁)。譲受人の登記が占有者の時効完成後にされた場 合であっても同様である(最判昭和 42年 7月 21日民集 21巻6号 1653頁)。

∵ 物権変動における当事者類似の関係に立つ

③ 時効完成後の登記名義取得者との関係

ただし、時効完成後に原所有者から譲り受けた譲受人に対しては、その善意か否 かを問わず、登記がなければ時効による所有権の取得を対抗することはできない

(最判昭和33年8月 28日民集12巻 12号1936頁)。

∵ 原所有者を起点とする物権変動における対抗関係類似の関係に立つ

④ 起算点の任意選択の否定

このとき、時効の起算点は占有を開始した時点として客観的に決まるのであり、

当事者が起算点を任意に選択したり逆算することはできない(最判昭和 35 年 7 月27日民集 14巻10号1871頁。⇒163頁)。

∵ ①②と③の峻別を維持するため

⑤ 再度の時効取得による主張

ただし、時効完成後における第三者の登記後に、占有者がなお引き続き時効取得 に要する期間占有が経過すれば、再度の時効取得を理由に、登記を経由しなくて も時効取得を主張できる(最判昭和 36年 7月20日民集 15巻7号1903頁)。

∵ ①と同様に物権変動における当事者類似の関係に立つ

(3) 援用の意思表示(要件③)

(4) 無過失(短期取得時効の 要件④):自己に所有権があると信じるにつき過失 がないこと

無過失までは186条1項により推定されないので、短期取得時効の成立を主張する者 が無過失の立証しなければならない。

3 抗弁

(1) 所有の意思の不存在

① 占 有 者 が そ の 性 質 上 所 有 の 意 思 の な い も の と さ れ る 権 原 に 基 づ き 占 有 を 取 得 した事実が証明されるか

または

② 外 形 的 客 観 的 に み て 占 有 者 が 他 人 の 所 有 権 を 排 斥 し て 占 有 す る 意 思 を 有 し て いなかったものと解される事情 が証明されるときは、

占有者の内心の意思のいかんを問わず、その所有の意思を否定し、時効による所有権取

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