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総論 第1款

● 無効と取消しの基本的な考え方の違いについて、説明することができる。

1 法律行為の無効・取消し

無効と取消しは、法律行為の効力を否定する制度として共通する側面を持つが、その 効力否定の理由は、それぞれの場面に応じて異なる。

2 無効

(1) 無効な法律行為:法律行為によって発生するはずの効力が初めから生じない 場合

無効原因が何かにかかわらず、無効な法律行為からは何らの権利変動も生じない

(2) 無効の種類

ア 絶対的無効と相対的無効

(ア) 絶対的無効:無効主張の主観的範囲(主体および相手方の範囲)に制限のな い無効

① 最初から

② 当然に

③ 全部にわたり

④ 誰からでも

⑤ 誰に対しても

⑥ いつまでも

⑦ 確定的に 無効である

(イ) 相対的無効:無効主張の主観的範囲に一定の制限のある無効

虚偽表示は当事者間では無効であるが、善意の第三者に対してはその無効 Ex.1

を対抗できない(94条 2項)。

相対的無効うち、無効主張権者が表意者に制限されている場合の無効は、取消的無効 と呼ばれることがある。

心理留保の意思表示をした者(93条ただし書)

Ex.1

虚偽表示をした者(94条1項)

Ex.2

錯誤の意思表示をした者(95条)

Ex.3

意思無能力を理由とする無効 Ex.4

表意者(およびその代理人、承継人)以外の者(相手方や第三者)による Ex.5

要素の錯誤の無効主張 イ 法律行為の一部無効と全部無効

明文の定めがない場合、 法律行為の一部に無効原因があるとき、その一部のみが無効 となるにとどまるのか(一部無効)、それによって当該法律行為全体が無効となるのか(全

3 取消し

(1) 意義

120条以下に規定されている「取消し」は、意思表示に何らかの欠陥があるために(取 消事由の存在)、一応有効な法律行為ではあるが、特定の者(取消権者)の意思表示(取 消し)によって、その効力を遡及的に無効とするものである。

法律行為を取り消す原因となる一般的な場面

① 意思表示の瑕疵(詐欺・強迫による意思表示) がある場合

② 制限行為能力が問題となる場合

(2) 相対的取消し

相対的取消し:取消しによる法律行為の無効を主張できる範囲が制約されている取消 し

詐欺による取消し(96条3項)

Ex.1

詐害行為の取消し(424条)

Ex.2

4 無効と取消しの違い

無効と取消しの基本的な相違点をまとめると、以下の4点ある。

無効 取消し

① 法 律 行 為 が 有 効 に成立するか

有効に成立しない(法律効果不 発生)

∵主張の有無を問わず、当然か つ確定的に無効

一応、有効に成立

∴ 法 律 効 果 を 否 定 す る に は 、 取 消 し の 意 思 表 示 が 必要

② 追 認 の 余 地 が あ るか

追 認 に よ る 効 力 は 生 じ な い

(119条本文。ただし、無効行 為の転換につき同条ただし書)

追 認 に よ り 確 定 的 に 有 効

(122条本文)

③ 主 張 権 者 が 限 定 されるか

誰でも主張できるのが原則 主張権者は限定

④ 時 の 経 過 で 有 効 に 確 定 す る 余 地 があるか

有効になる余地なし

∵無から有は生じない

取 消 し う る 行 為 は 一 定 期 間 の 経 過 に よ り 有 効 に 確 定(126条)

5 無効と取消しの二重効の問題

ある法律行為が無効事由と取消事由の両方に該当する場合には、無効の主張と取消権 行使の関係がどうなるか について見解が分かれている(二重効の問題)。

XがYの詐欺によって錯誤に陥った場合 Ex.1

契約した相手方 Xに意思能力が備わっていないことが判明したが、同時に Ex.2

その相手は未成年でもあった場合

表意者保護の観点から、表意者はどちらを選択して主張してもよい

∵ 表意者保護

● 無 効 ・ 取 消 し に よ り法 律 行 為 の 効 果 が 認 められ な い 場 合 の 基 本 的 な法律 関 係 に つ い て、説明することができる。

1 無効による法律関係の帰趨

法律行為が無効の場合、 法律行為によって発生するはずの効力は生じないので、無効 な法律行為からは何らの権利変動も生じない。

その結果、以下のような法律関係として処理される。

① 未履行給付のケース

無効な法律行為からは何らの権利変動も生じない

② 既履行給付のケース

買主が売主に代金を支払ってしまった場合、その財貨移転には(法律行為が無効ゆえ)

「法律上の原因」が存在しないことになるので、不当利得として売主に支払った代金の 返還を請求できる(原状回復。703条・704条)。

2 取消しによる法律関係の帰趨

① 取り消し得る法律行為がなされたとしても、取消しがなされるまで 法律行為は 一応有効

② 取消しの意思表示があれば、法律行為は遡及的無効

各論 第2款

● 無効行為の追認の意味について、具体例を挙げて説明することができる。

1 無効行為の追認

(1) 非遡及的追認の原則

「無効な行為」は、原則として、無効行為の追認はできない(119条本文)

∵ そもそも無である以上、それを追認したところで何も生まれない

例外的に、無権代理行為に関しては、本人の追認によって遡及的に無権代理行為によ る法律行為を有効とすることができる(116条本文)

∵ 無権代理行為の場合、通常、法律行為の有効要件は備わっており、ただ本人に 効果を帰属させる要件が欠けているにすぎず、本人が追認するなら遡及的に効 力を認めても支障はない

(2) 無効な行為の追認の効果

① 当事者が法律行為の無効を知って

② これを追認したとき

には、当事者が当該行為と同一の目的を新たに達しようとしたものとみて、追認の時点 で新たな法律行為が成立したと擬制(119ただし書)

2 無効行為の転換:無効な法律行為を要件の備わった他の法律行為として有効に成 立したものとすること

方式不備のために無効とされる手形振出しをもって、金銭消費貸借契約が Ex.1

有効に締結されたものと認める場合

3 取消権の行使期間

(1) 意義

① 124条による追認可能時から5年が経過(前段)

② 取消権成立時から 20年が経過(後段)

①または②のいずれか早いほうの時の経過によって取消権は消滅(126条)

(2) 126条の法的性質

126条の前段・後段ともに取消権の消滅時効について定めたものと解している

(3) 請求権の存続期間

取消権の行使によって発生した請求権の消滅時効は、126 条によらずに、別個独立に 進行する(大判大正 7年4月13日民録 24輯669頁、大判昭和 12年5月28日民集 16 巻 903頁、大判昭和 17年8月 6日民集 21巻837頁)。

∴ 取消権の行使によって発生した請求権は、直ちに行使することが可能となるか ら、その消滅時効の起算点は取消権を行使した時点となる。

XがYの詐欺によって自己の動産をYに売却した場合、XはYに対して5 Ex.1

年または20年以内に取消権を行使すればよく、それによって生じる不当利 得に基づく返還請求権は、取消しを行使した時から10年以内に行使すれば よい(167条1項)。

(4) 起算点と取消権の存続期間 取消権は、

① 追認をすることができる時から5 年間行使しないとき

② 行為の時から20年を経過したとき

の 2つの期間のいずれか早い方の期間経過によって消滅 ア 短期(5年)の存続期間

取消権は、「追認をすることができる時から 5 年間行使しないときは、時効によって 消滅する」(126条前段)。要件事実は以下のとおりである。

追認をすることができるときから5年経過

【要件①】

時効の援用

【要件②】

取消権の行使期間は 5年で、「追認することができる」時点がその起算 点

「追認することができる」時点とは、124条 1項の定める取消原因状況消滅時のこと であり、以下の時を指す

① 制限行為能力者は、行為能力者となった時

② 詐欺・強迫を受けた表意者は、詐欺・強迫を脱した時

● ●

詐 欺 に よ り 動 産 甲 を売却

取消しの意思表示

不 当 利 得 に 基 づ く 返還請求

追認可能時から5or法律行為時か ら20 取消しの意思表示から10年(1671項)

(3) 制限行為能力者の返還義務(121条ただし書):現存利益

∵ 制限行為能力者の保護を図る趣旨である。

未成年者Aが、法定代理人 Bの同意を得ずに、自己所有のオートバイを代 Ex.1

金250万円で Cに売却して、受け取った 250万円のうち200万円を遊行費 として消費し、残りが 50万円であれば、Aがこの売買契約を取り消したと きでも、残り50万円を返せばよい。

121条ただし書に基づく現存利益の主張の要件事実 利得が取消し前に減少・消滅したこと

【要件①】

利得縮減による不当利得返還債務の範囲の縮小は、受益当時の利得の返還請求に対し、

受益後の利得縮減が抗弁事由となり、利得縮減時における受益者の悪意が、一般の場合 には再抗弁事由となる。

● 追認及び法定追認の意義、要件及び効果について、説明することができる。

1 追認

(1) 意義:取り消すことができる行為の追認は、取消権の放棄であって、取り消 すことができる行為を取り消さないものと確定する一方的意思表示(単独行為)

→形成権

(2) 要件 ア 要件事実

当該取消しの意思表示の前に、当該法律行為を追認するとの意思表示が

【要件①】

なされたこと

(ア) 追認権者=取消権者の範囲(122条本文)

■追認権者

行為能力制限の取消し 詐欺または強迫による取消し

① 制限行為能力者

② ①の代理人

③ ①の承継人

④ ① の 行 為 に つ い て 同 意 を す る こ と ができる者

① 瑕疵ある意思表示をした者

② ①の代理人

③ ①の承継人

(イ) 方法

取消権は形成権であり、その行使は、一方的な意思表示によって行われる相手方のあ る単独行為である。

追認は、相手方が確定しているときは、相手方に対する意思表示によって行う必要が ある(123条)。

イ 再抗弁

(ア) 取消原因となっいた状況消滅前の追認

取り消すか追認するか、自由で正常な判断をすることができる状態になった後でな いと、追認は認められない(124条1項)。

∵ 取り消すことができる追認という不安定な状況が生じるのを避ける

① 制限行為能力がないまま

② 詐欺の事実に気づかないまま

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