糖尿病による血管病変と認知機能障害
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(2) 脳循環代謝 第 26 巻 第 2 号. 穿通枝などの小血管で EC・SMCの変性による 血管収縮力の低下 Perfusion pressureの 調節障害. 毛細血管hydrostatic pressure overload. 内皮傷害 BBB・NVUの破綻。. ニューロンの機能障害 白質病変. 図 1.穿通枝の障害による血液脳関門の障害と白質病変の形成 脳実質の機能亢進(a) (b)は,毛細血管から中枢側の細動脈に伝達され(a)+(b),血管が 拡張する.脳小血管病ではこの細動脈の抵抗血管機能が障害され,末梢に過剰な静水圧 が加わり,血液脳関門が障害される.. しており,末梢に以上に亢進した静水圧がかかり,そ. どの関与が提唱されているが,臨床的な意義はまだ解. の結果血液脳関門(BBB)を破壊し白質病変を形成する. 明されていない.. ことが知られている.こうした白質病変は,軽度であ. 2.アミロイド PET を用いた 糖尿病合併アルツハイマー病の評価. ればまったく症状を呈さないが,数が増加し融合する ほどになると,次第に注意力の低下,意欲の低下,精 神的な反応の遅延などを生じる.さらに高度な白質病 変となると,記憶力,判断力といった認知機能の中核. アルツハイマー病の原因・リスクとしてアミロイド. が障害されていく.糖尿病は,こうした穿通枝領域の. β やタウ蛋白の蓄積が知られている.こうした沈着は. 白質病変を形成し,認知機能障害をきたすことが知ら. ニューロンが傷害されるよりも以前に起きてきている. れている .. こと,そして認知症状をきたすのはさらにニューロン. 一方,3)の機序として,血液脳関門の破綻が脳内の. が傷害されてから後に起きることから,アミロイド β. アミロイドクリアランスを低下させ,実質内へとアミ. やタウ蛋白の蓄積は,診断の早期マーカーになると考. ロイドを沈着させる可能性が指摘されている4).即ち. えられている5).. APP から γ セクレターゼにより切断されて細胞外に遊. 大阪市立大学での PET プロトコールを示す.アミ. 3). 離した β アミロイドは重合するとオリゴマーを形成,. ロイドの評価には PiB 250–350 MBq を用い 60 分間の. ニューロンを傷害する.白質障害により脳実質からの. 動的スキャンを施行した.PET カメラには島津社製. β アミロイドのクリアランスが傷害された症例では,. Eminence B を用い,J-ADNI 診断基準に準じてアミロ. 脳内にアミロイドが沈着しやすくなる.アミロイドの. イド陰性,陽性に分類した.. クリアランスとしては毛細血管レベルでの血液へのく. また同時に FDG-PET を施行し脳代謝の評価を併用. み出しに加えて,アミロイドは小動脈周囲の Virchow-. した.元画像と 3DSSP による統計画像を視覚的に評. Robin 腔を伝わって脳表に送り出される機序も知られ. 価し Silverman 分類6)に基づいて認知症の PET 診断を. ている.糖尿病をはじめとする脳小動脈病ではこうし. 行った.. た血管に沿ったアミロイドのクリアランスが傷害する. まず自覚的に認知機能障害がなく,神経心理学的検. 可能性も指摘されており,いずれかまたは双方の機序. 査にても異常値を示さなかった健常者についてのデー. によってアミロイドが脳実質に貯留しやすくなると考. タを示す.図 2 は 70 歳代の健常者におけるアミロイ. えられる.. ド蓄積画像を示しており,33.3%アミロイドの蓄積を. また糖尿病に特異的な高次機能障害の機序として,. 認めた.図 3A は年齢とアミロイド陽性率を示す.60. 4)AGE による酸化ストレス,5)高インスリン血症な. 歳未満ではアミロイド陽性率は 0%であるが,60 歳代. ─ 130 ─.
(3) 糖尿病による血管病変と認知機能障害. 70M(+). 70F(-). 71F(+). 71M(+). 71M(+). 72F(+). 72F(-). 72M(-). 71F(-). SUV 2.0. 74F(-) 0. 77F(-). 77M(-). 79F(-). 79F(-). 79M(-). 図 2.70 歳代の健常者 15 例のうち 5 例(四角)に PIB- アミロイド集積が陽性であった(33.3%).. A. % 40 30 20 10 0. 0 60 歳未満. 60 歳代. 70歳代. 80 歳代. B. 図 3.A:健常者の PiB 陽性率.高齢なほどアミロイド蓄 積陽性率は増加する.B:臨床的にアルツハイマー病と診 断された症例 175 例における PIB 陽性率.85 歳以上では アミロイド蓄積陽性率が軽度に低下する.. で 14.3%,70 歳 代 で 33.3%,80 歳 代 で 37.5% と 年 齢. 加し,これはこの年齢における嗜銀顆粒性認知症や神. とともに増加した.これは,この年代から指数関数的. 経原線維変化型認知症が増加することを反映すると考. に増加するアルツハイマー病の疫学に一致すると考え. えられる.. られる.. 図 4 は糖尿病を合併したアルツハイマー病の症例. 逆 に 臨 床 的 に ア ル ツ ハ イ マ ー 病 と 診 断(NINDS-. で,69 歳 女 性,MMSE 22 点 で あ っ た. ア ミ ロ イ ド. ADRDA にて possible AD or probable AD)と診断された. PET (上段)では楔前部,後部帯状回,前頭葉,頭頂. 175 例について,アミロイドの沈着の有無を調べたも. 葉,外側側頭葉に集積を認めた.FDG-PET(下段)で. のが図 3B である.わずかずつではあるが,後期高齢. は,両側頭頂葉で相対的に糖代謝が低下,左外側側頭. になるに従ってアミロイド沈着は陰性となる割合が増. 葉でも代謝の低下を認めた.3DSSP では楔前部の糖代. ─ 131 ─.
(4) 脳循環代謝 第 26 巻 第 2 号. R. SUV㻌. PIB㻌. 㻲㻰㻳㻌 㻌 3㻰㻿㻿㻼㻌. 図 4.69 歳女性,糖尿病合併アルツハイマー病の 1 例 上段が PIB アミロイド PET.中段が FDG-PET 断層像と下段が 3DSSP マップ.. A. B. 図 5.A:脳室周囲高信号領域(PVH)および深部白質高信 号領域(DWMH)の進行.B:高次脳機能障害の経過観察中 の進行.. 謝低下を認め典型的な糖代謝低下分布を示した.. 例,なしは 2 例で陽性率 71.4%であった.PIB 集積部. 糖尿病を合併したアルツハイマー病 7 例(男 5 例,. 位は,楔前部,後部帯状回,前頭葉,頭頂葉,外側側. 女 2 例)のまとめを示す.年齢は 46∼82 歳で,MMSE. 頭葉であった.一方,FDG 低下部位は,楔前部,後部. 9–29 であった.PIB アミロイド PET にて集積ありは 5. 帯状回,前頭葉,頭頂葉,外側側頭葉であった.MRI. ─ 132 ─.
(5) 糖尿病による血管病変と認知機能障害. では深部白質病変 1 例,脳室周囲白質病変 3 例(脳血. におけるアルツハイマー病の予防,治療として注目さ. 管障害合併例は除外)を認めた.今回調べた症例にお. れる.. いては,アミロイド集積部位,糖代謝低下部位は一般 的なアルツハイマー病と顕著な差は認めなかった.今. 謝辞:研究にご協力いただいた大阪市立大学老年科. 後は,白質病変や脳血管障害をともなう糖尿病を含め. 神経内科の三木隆己先生,嶋田裕之先生,安宅鈴香先. た症例で再検討を要する.. 生,核医学科の河邊讓治先生,塩見進先生,理研ライ フサイエンス技術基盤研究センターの高橋和弘先生, 和田康弘先生,渡邊恭良先生に感謝いたします.. 3.アミロイドクリアランスの異常と 糖尿病合併アルツハイマー病. 文 献 われわれは以前,アルツハイマー病 28 症例を経過. 1) Kloppenborg RP, van den Berg E, Kappelle LJ, Biessels. 観察し,脳室周囲高信号域(PVH)が 32%の症例で,深. GJ: Diabetes and other vascular risk factors for dementia:. 部白質高信号域(DWMH)が 14%の症例で 2 年間のう. which factor matters most? A systematic review. Eur J. ちに進行したことを報告している(図 5A).またこの 期 間 に, 症 例 の 認 知 機 能 は ADAS の 有 意 な 増 加, HDS-R の有意な低下を認めた(図 5B). このように,アルツハイマー病ではしばしば白質病 変をともなっており,症状の進行とともに白質病変が 増悪する.これは,白質病変によりアミロイドのクリ アランス低下が促進される可能性を示唆している可能 性がある.. Pharmacol 585: 97–108, 2008 2) Peila R, Rodriguez BL, Launer LJ: Honolulu-Asia Aging Study: Type 2 diabetes, APOE gene, and the risk for dementia and related pathologies: The Honolulu-Asia Aging Study. Diabetes 51: 1256–1262, 2002 3) Pantoni L: Cerebral small vessel disease: from pathogenesis and clinical characteristics to therapeutic challenges. Lancet Neurol 9: 689–701, 2010 4) Zlokovic BV: Neurovascular pathways to neurodegenera-. また当科の山本らは,アルツハイマー病症例では, 血液中のアルブミン結合アミロイド β/アルブミン比が. tion in Alzheimer's disease and other disorders. Nat Rev Neurosci 12: 723–738, 2011. 低下していることを報告しており,血中アミロイドの. 5) Perani D: FDG-PET and amyloid-PET imaging: the. 変化がアミロイドクリアランスの低下をきたし,脳内. diverging paths. Curr Opin Neurol 27: 405–413, 2014. にアミロイドを沈着させる可能性を報告している7). 血液中のアルブミン結合アミロイド β は,髄液中のリ ン酸化タウの値と負の相関を示しており(p=0.0090), アミロイドのクリアランス低下によりニューロンの障 害をきたすことが示唆されている. また,白質病変が 1/12 段階ずつ進行するのにとも ない髄液中のアミロイド β42 が 3%ずつ低下していく. 6) Silverman DH, Small GW, Chang CY, Lu CS, Kung De Aburto MA, Chen W, Czernin J, Rapoport SI, Pietrini P, Alexander GE, Schapiro MB, Jagust WJ, Hoffman JM, Welsh-Bohmer KA, Alavi A, Clark CM, Salmon E, de Leon MJ, Mielke R, Cummings JL, Kowell AP, Gambhir SS, Hoh CK, Phelps ME: Positron emission tomography in evaluation of dementia: Regional brain metabolism and long-term outcome. JAMA 286: 2120–2127, 2001. ことが報告されている8).実際にアルツハイマー病の. 7) Yamamoto K, Shimada H, Koh H, Ataka S, Miki T:. 症例において,アミロイド β42 のクリアランスの障害. Serum levels of albumin-amyloid beta complexes are. が報告されている9).こうしたことから,Zlokovic ら. decreased in Alzheimer's disease. Geriatr Gerontol Int 14:. は脳からの血液脳関門を介したアミロイドのクリアラ ンスは,脳内アミロイド β42 を低く保つために重要で あるとしている4). 糖尿病などの生活習慣病は,血管性リスク因子とし て,血管性認知障害だけでなく,アルツハイマー病の リスクにもなるため,適切な治療が認知症の予防につ. 716–723, 2014 8) Stenset V, Johnsen L, Kocot D, Negaard A, Skinningsrud A, Gulbrandsen P, Wallin A, Fladby T: Associations between white matter lesions, cerebrovascular risk factors, and low CSF Abeta42. Neurology 67: 830–833, 2006 9) Mawuenyega KG, Sigurdson W, Ovod V, Munsell L, Kasten T, Morris JC, Yarasheski KE, Bateman RJ: Decreased. ながる.今後は,アミロイドクリアランスを促進する. clearance of CNS beta-amyloid in Alzheimer's disease.. 治療がこうした脳血管リスクファクターを有する症例. Science 330: 1774, 2010. ─ 133 ─.
(6) 脳循環代謝 第 26 巻 第 2 号. Abstract Diabetes-induced vascular lesion and cognitive dysfunction Yoshiaki Itoh Department of Neurology, Osaka City University Graduate School of Medicine, Osaka, Japan Diabetes, a risk factor for cerebral infarction, increases the risk of vascular dementia by 2.0–4.2 times and that of Alzheimer disease by 1.1–2.4 times. Mechanisms include cerebral ischemia induced by atherosclerosis, white matter lesion caused by small vessel disease, impaired amyloid clearance, glucose toxicity generated with advanced glycation endproducts, and hyperinsulinemia. Amyloid PET, developed recently, was used to assess amyloid loading even before the damage of the neurons. In healthy volunteers without subjective and objective higher cortical dysfunction, age-dependent accumulation of amyloid was observed, showing high amyloid loading in the elderly. The diabetic patients with Alzheimer-type dementia showed no specific accumulation pattern in amyloid. Diabetes may just facilitate amyloid toxicity without diabetes-specific process. Recently amyloid clearance was reported to decrease in Alzheimer disease, especially in cases with white matter lesions. Impaired blood-brain barrier in these cases may reduce amyloid clearance from brain parenchyma. Specific treatments targeting these mechanisms may help decrease the risk for Alzheimer disease in the near future. Key words: amyloid β, blood-brain barrier, positron emission tomography, cerebral small vessel disease, amyloid clearance. ─ 134 ─.
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