J.Jpn.Acad.Mid.,Vol.2,No.1,pp.42∼53,1988
原
著
妊娠 期 にお け る睡 眠 の主観 的評 価 に関 す る研 究
Subjective
Estimation
of Sleep Pattern
during Pregnancy
堀 内 成 子(Shigeko HORIUCHI)*近 藤 潤 子(Junko KONDO)*
大 川 章 子(Akiko OKAWA)*石 井 ひ と み(Hitomi ISHII)*
大 久 保 功 子(Noriko OKUBO)* 要 約 本 研 究 は,妊 娠 の進 行 に 伴 う睡 眠 の 変化 を 明 らか に す る ため に,妊 婦 の 睡 眠 の 主 観 的 評 価 を分析 す る こ と を 目的 に行 っ た。 調 査 票 は 「入眠 お よび睡 眠 中 の 関 連 因 子 群 」,「起 床 時 の 関 連 因 子 群 」,「睡眠 全体 の満 足 度」,「睡 眠 に関 す る影 響 因 子 」 を含 め て構 成 し、289例 の 妊 婦 か ら有 効 回答 を 得 た。 そ の 結 果,妊 娠 の 進 行 に伴 う変 化 で は,初 期 に は非 妊期 に 比 べ て途 中覚 醒 が 多 く,「眠 い 」とい う睡 眠 に 対 す る欲求 が 強 く現 れ て い た。 中期 に な る と,初 期 に比 べ て 睡 眠 に対 す る欲 求 は 落 ち着 き を示 して い た。 末 期 に な る と,寝 つ きが 悪 くな る ・眠 りが 浅 くな る ・時 間 が 不 足 す る ・途 中覚 醒 が 多 くな る とい う 状 態 か ら,睡 眠 全 体 に不 満 感 が 高 ま る とい う関 係 が 示 され た。 初産 婦 で は,妊 娠 初 期 に夜 中 の途 中覚 醒 に対 して「 いや だ」 とい う否 定 的 な 回答 が 多 く,妊 娠 が 進 行 す る につ れ て,そ の 比 率 は減 少 して い た。 影 響 因 子 と して,妊 娠 に伴 う身 体 変 化 の ほ か に,家 庭 の サ ポ ー トが 認 め られ た。 Abstract
In order to identify the changes on sleep pattern during pregnancy , 289 pregnant women were studied.
Subjective estimation form was developed including 3 major categories, namely, "Factors Relating to Sleep", "Factors Relating on Awaking Feeling" , "Satisfaction resulting from Sleep". Influencing factors were also collected.
It was found that at the first trimester the desire for sleep increased . Towards the third trimester, feeling of difficult to fall in asleep, insufficient length of sleep , awaking during sleep were increased, and as a result, dissatisfaction towards sleep increased .
Among the primigravidae, rejective feeling to the awaking during sleep is strong in the first trimester, but gradually decreased toward second and third trimester. While rejective feeling of the multigravidae was just the same ratio with the third trimester of the primigravidae . This evidence suggests the primigravidae needs more time for adjustment to the pregnancy .
It was found physical discomfort due to the pregnancy influencing on satisfaction . Support provided by the family is another important influencing factor, to fall in sleep, depth of sleep, and feeling of satisfaction.
*聖 路 加 看 護 大 学(St
Iは じ め に 睡 眠 は健 康 生活 に 欠 くこ との で きな い 欲 求 で あ り,そ の 睡 眠 パ ター ンや 様 相 は量 的 に も質 的 に も, 個 人の 心 身 の健 康 状 態 や 環 境 に応 じて 変 化 す る。 睡 眠 サ イ クル の 乱 れ や 睡 眠 の 中断 が心 身 の 健 康 生 活 を阻 害 す る こ と は鳥 居1),新 福2),Meddis3)ほ か に よ っ て,数 多 く報 告 され て い る。 睡 眠 が女 性 の 月経 周 期 に 伴 っ て,あ るい は 妊 娠 中 に変 化 す る こ と は経 験 的 に知 られ て い る現 象 で あ る。 しか し,そ れ を理 由 に,こ の 変 動 要 因 の 大 きい女 性 は 睡 眠 研 究 対 象 か ら除 外 され る こ とが 多 か っ た。 妊 娠 中の 睡 眠 に関 す る基 礎 的 研 究 を行 う こ とは,助 産 婦 が 妊 婦 を理 解 す るの に 役 立 つ と考 え た。 II本 研 究 の 概 念 枠 組 人 間 の 睡 眠 は,複 雑 多岐 に わ た る要 因 の 影響 を 受 け,そ れ は身 体 的 の み な らず心 理,社 会 的影 響 を受 け て 存 在 す る 生活 現 象 で あ る。 人が 快 い,満 足 した眠 りを 得 た か ど うか は,睡 眠 脳 波 を用 いて 生 理 学 的 な 客観 的側 面 か ら分析 す る こ とが で き る。 そ れ と同時 に,熟 睡 感 の 有 無や 起 床 時 の 体 調 の 良 否 等 の 主観 的評 価 で現 す こ と も で き る。 睡 眠 は この 生 理 学 的 指 標 と主観 的 評 価 の 2側 面 が か らみ あ っ た総 合 的 な もの で あ る と考 え る。 本 研 究 に お い て は,次 の よ うに概 念枠 組 を 設 定 した(図1参 照)。 睡 眠 の 主観 的 評 価 とは,そ の 人が 睡 眠 に対 して もっ て い る心 理 的 体 験 の 叙 述 で あ る。 睡 眠 は そ の 経 過 か ら考 え て 「入眠 お よび睡 眠 中 の 関連 因 子群 」 (A)お よび 「起 床 時 の 関 連 因 子群 」(B)が関 与 して,そ の 結 果 と して 「睡 眠 全体 の 満 足 度 」(C)があ る と仮 定 した。 「入 眠 お よ び 睡 眠 中 の 関 連 因 子 群 」 は 次 の1) ∼4)で 構 成 され,1)入 眠 の 難 易 度,2)時 間 の 長 さ,3)眠 りの 深 さ,4)途 中覚 醒 状 態 で あ り,特 に4)は マ イナ ス の側 面 と して 考 えた 。 ま た,「 起 床 時 の 関連 因 子 群 」は,1)起 床 の難 易 度 と2)起 床 時 の 気 分 で 構 成 し,(A)と(B)の総 和 が, 結 果 と してr快 い,よ い 睡 眠,満 足 した眠 り」(C)の 状 態 を もた らす と考 え た。 そ の 考 え を も と に,今 回 は これ らの 睡 眠 を構 成 A.入 眠 お よ び 睡 眠 中 の 関 連 因 子 群 B.起 床 時 の 関 連 因 子 群 C. 図1睡 眠の満 足 に関 す る関連 因子群 す る要 素 が,妊 娠 の 進 行 に伴 っ て どの よ うに推 移 す るか に 焦 点 をあ て,分 析 した。 III目 的 1.妊 婦 の睡 眠 の 満 足 に は どの よ うな睡 眠 関連 因 子群 が 関 与 して い るの か を明 らか にす る。 2.妊 娠 の進 行 に 伴 って,そ れ ぞ れ の 睡 眠 関 連 因 子 が どの よ うな 変 化 を して い るの か を 明 らか に す る。 IV対 象 都 内 の 公立 の 一 産 院 で 妊 娠 中 の 管 理 を受 け て い る妊 婦 を対 象 と した。 研 究 へ の 協 力 を承 諾 した妊 婦 に 「妊 娠 中の 睡 眠 に 関 す る調 査 」 の 用 紙 を配 布 し,自 己記 入式 調 査 を 行 っ た 。 調 査 票 は294例 に配 布 し,有 効 回 答 と して289例 (98.3%)を 得 た 。 対 象 の 年 齢 ・産歴 ・妊娠 週 数 別 の特 性 は表1に 示 す とお りで あ る。 対 象 の 第1子 お よび 第2子 出 産 年 齢 は,昭 和61年 度 全 国 平 均 値4)とほ ぼ 一 致 し て い た 。 V方 法 1.調 査 票 の 作 成(付 録 参照) 日本 助 産 学 会 誌 第2巻 第1号(1988) 43
表1 年齢 ・産歴 ・妊 娠週 数別対 象妊婦 数 調 査 票 の 作 成 に あ た っ て は、 小 栗 ら5)の青 年 男 子445名 を対 象 と した睡 眠 感 調 査 を参 考 と した。特 に睡 眠 の 構 成 因 子 の う ち,項 目分 析 で そ の弁 別 力 に お い て 保 証 され て い た 項 目 の 要 素 を 取 り 入 れ た。さ らに,睡 眠 研 究 の専 門 家 か らの 助 言 を得 て, 以 下 の よ うに調 査 票 を作 成 した。 「入眠 お よび睡 眠 中 の 関 連 因 子 群 」 は,最 近 の 睡 眠 に関 して 回答 を求 め,入 眠 の 難 易度(寝 つ き)・ 時 間 の 長 さ ・眠 りの深 さの 評 価 尺 度 と して は,S D法 に よ る7点 尺 度 を作 成 した。 睡 眠 中 の途 中覚 醒 に つ い て は,一 晩 の就 床 か ら 起 床 まで の時 刻 ・途 中 覚 醒 の 時 刻 お よび理 由 と 目 覚 め た時 の 主観 的 な状 態 につ い て記 入 す る調 査票 を考 案 した。 さ らに 途 中覚 醒 後 の 再 入眠 の難 易 度 はSD法 に よ る7点 尺 度 と した。 また途 中覚 醒 に 対 す る肯 定 ・否 定 的 な 感情 を 八つ に 分類 した項 目 を 設 け た。 「起 床 時 の 関 連 因 子群 」 は,起 床 の 難 易 度(寝 起 き)を 三 つ の 困難 さの程 度 と して分 類 した。 起 床 時 の 気 分 につ い て は 爽快 さ ・熟 睡 感 ・疲 労 回復 感 に関 して それ ぞ れ2項 目ず つ 設 け,Likert法 に よ る4点 尺 度 を作 成 した。 「睡 眠 全 体 の 満 足 度 」 は,満 足 の 程 度 をSD法 に よ る7点 尺 度 と した。 「最 近 の睡 眠 」 と して,最 もふ つ うの 生 活 状 態 に お け る睡 眠 を選 び,調 査 票 に 回 答 を求 め た。 さ ら に本 人 の睡 眠 変 化 を知 るた め に,調 査 時 の睡 眠 と 3∼4か 月 前 の 睡 眠 とを比 較 して,寝 つ き ・時 間 の 長 さ ・眠 りの 深 さ ・途 中覚 醒 の 回 数 ・起 床 時 の 気 分 に つ い て,そ の 変 化 につ い て の 回 答 を求 め た。 「睡 眠 に 関 す る影 響 因子 」は,睡 眠 に 関 す る工 夫 ・ 家 族 の サ ポ ー ト・睡 眠 変 化 の 予 測 度 ・身 体 的 不 調 ・ 心 理 的 悩 み に つ い ての 有 無 とそ の 内 容 に関 して 回 答 を求 め た 。 そ の 他 に個 人特 性 を加 え,無 記 名 回 答 と した。 2.調 査 方 法 該 当 す る妊 婦 にプ リテ ス トを実 施 し,調 査 票 の 設 問 事 項 の 削 除 や,設 問表 現 お よび 構 成 の修 正 を 行 っ た。 調 査 票 は,昭 和62年6月15日 か ら30日 ま 寝 つ き 睡 眠 時 間 の 長 さ 睡 眠 の 深 さ 図2妊 娠 時 期 別,睡 眠 の 寝 つ き・時 間 ・深 さの 評 価
で の 間 に 妊 婦 外 来 で対 象 者 に 手 交 配 布 し,そ の場 で 記 入 後,回 収 した。 3.分 析 方 法 デ ー タ は、 妊 娠 週 数 別 の 睡 眠 に関 す る関連 因 子 につ い て頻 度 を求 め,調 査 項 目 に含 め たSD,Li-kert尺 度 は 、1段 階 を1点 と して点 数 化 した。1 晩 の 睡 眠経 過 に つ い て は、 経 時 的 に途 中覚 醒 の 理 由 と状 態 を集 計 した。(A)(B)(C)の関 連 因子 群 間 の関 係 に つ いて は,数 量 化3類 を適 用 して分 析 した。 VI結 果 1.「 入 眠 お よび 睡 眠 中 の 関 連 因 子 群 」(A) 1)寝 つ き ・時 間 の 長 さ ・深 さ 妊 娠 時 期 別 に 入 眠 の難 易 度 の指 標 と して 寝 つ き をみ る と,図2の よ うに 「よい 」 と回 答 す る比 率 は初 期 群 が 中期,末 期 に比 べ て や や 多 い が,有 意 な差 は な か った 。 眠 るた め の 工 夫 を特 別 に行 って い る者 は64例(全 体 の22.1%)で あ り,工 夫 の 内 容 は,環 境 の 調 整 ・就 床 前 の 入浴 ・眠 りに影 響 を 与 え る刺 激 物 の 飲 食 を避 け るこ とが 多 く行 わ れ て い た。 睡 眠 時 間 の 長 さは,「 不 足 」と回 答 す る比 率 が 初 期 群 の6.3%に 比 べ て,中 期 群 ・末期 群 で は そ れ ぞ れ26.4%,28.7%で あ り,有 意 に 高 い 結 果 で あ っ た(図2参 照)。 昼 寝 を 除 く睡 眠 実 時 間 数 は,初 期 群 の 平均7時 間37分 に 対 し,中 期群 は7時 間21分,末 期 群 は7 時 間4分 で あ り,妊 娠 の進 行 に 伴 って漸 次,減 少 して い た。各群 間 の差 をみ る と,初 期 群 と中期 群, 中期 群 と末 期 群 の 間 には 差 は 認 め られ ず,初 期 群 と末 期 群 の 間 に は,有 意 な差 が(t=2.88P< 0.01)認 め られ た 。 また昼 寝状 態 は,頻 度 ・平均 時 間数 と もに末 期 群 が 中期 群 に 比 べ て 有 意 に増 加 して い る結 果 で あ っ た。 昼 寝 を す る理 由 は,初 期 群 と末期 群 で 差 が あ り (P<0.005),初 期 群 で は 「夜 も昼 も眠 いか ら」と 回 答 す る比 率 が85%と 多 く,「夜 眠 れ な いか ら,睡 眠 不 足 を補 う」 の理 由 は少 な く15%に す ぎな い の に 比 べ,末 期 群 で は逆 に 「夜 眠 れ な い か ら,睡 眠 不 足 を補 う」 は54.9%と 増 加 して い た。 眠 りの 深 さが 「浅 い」 と回答 す る者 の比 率 は, 初期 群20.8%,中 期 群24.2%で あ り,末期 群 は35.4 %と 多 く,有意 な差 が認 め られ た(図2参 照)。 図3 途 中覚醒 の時刻 と理 由 2)途 中 覚 醒 睡 眠 全体 の 主 観 的 経 過 か らみ る と,就 床 時 刻 は 午 後8時 か ら午 前1時 の 間 に 分 布 し,最 頻 値 は 午 後11時 で あ っ た。 起 床 時 刻 は午 前5時 か ら10時 の 間 に分 布 し,最 頻 値 は午 前7時 で あ った 。 睡 眠 申 に途 中 覚 醒 の ま っ た くな い 者 は43例(全 体 の14.9%)で あ り,残 りの246例 は何 回 か 夜 中 に 目覚 め て い た 。 この 途 中覚 醒 の 回 数 をみ る と,1 回 か ら5回 の 範 囲 で あ り,平 均1。8回 で,1回 か ら 3回 まで の 累積 比 率 は98%に 達 して い た 。 途 中覚 醒 の あ っ た246例 に つ い て経 時 的 に覚 醒 時 刻 と理 由 をみ る と(図3参 照),妊 婦 自身 の 内因 性 理 由 が 外 因性 の 理 由 よ り も多 く認 め られ た 。 内 因性 の 理 由 で は,身 体 的 理 由(392件)「 排 尿 の た め 」,「体位 変 換 」,「足 の こ む らが え り」 が 多 く,覚醒 時 刻 は午 前2時 と5時 に ピー ク が あ った 。 妊娠 時 期 別 にみ る と,初 期 群 で は87.5%が 「排 尿 」 を挙 げ て い るが,末 期 群 で は 「排 尿 」61.8%,「 体 位 変 換 」16.9%,「 こむ らが え り」8.4%と 排 尿 以 外 の妊 娠 性 変 化 の 理 由 も挙 げ られ て い た 。 日本助 産学 会 誌 第2巻 第1号(1988) 45
1回 目 の覚 醒 まで 2回 目の 覚 醒 まで 図4入 眠か ら覚醒 までの経 過時 間別妊 婦数 初 産 婦(118例) 経 産 婦(156例) 図5産 歴 別,途 中覚醒 に対 す る感 情の比 率 一 方 外 因性 の 理 由 で は,家 族 に起 因 す る理 由(95 件),環 境 的 理 由(39件)が 挙 げ られ て い た。 睡 眠 中 に2回 の 途 中覚 醒 の あ っ た108例 につ い て,入 眠 か ら覚 醒 まで の 経 過 時 間 を 図4に 示 した。 1回 目の 覚 醒 は,入 眠 か ら2∼3時 間 目 に ピー クが あ り,2回 目の覚 醒 は5.5∼6時 間 目 に集 中 し て い た 。 一 晩 の 睡 眠 経 過 を 前 半 と後 半 に大 別 し, 前 半期 に 当た る部 分 で 目覚 め て い る第1回 目 の覚 醒 と,睡 眠 後 半 期 に 当 た る2回 目の覚 醒 との 相 違 を,そ の 目覚 め た 時 の 主 観 的 な状 態 像 で み る と有 意 な差(P<0.05)が 認 め られ た 。 第1回 目の覚 醒 で は 「頭 が ぼ ん や り して い る」 比 率(70.7%)が 「は っ き り」(29.3%)の2倍 以 上 あ るが,第2回 目の覚 醒 で は 「ぼ ん や り」 の 比 率(49.2%)に 対 して,「 は っ き り」の 比 率 は50.8 %と 増 加 して い た。 妊 娠 週 数 別 の 途 中 覚 醒 の 回 数 を,そ の3∼4か 月 前 の 睡 眠 と比 較 して 変 化 の 推 移 を分 析 した 。 途 中覚 醒 の 回 数 が 「い まの ほ うが 多 い」 と評 価 す る 人 は,妊 娠 初 期 群61.3%,末 期 群61.3%と 中 期 (42。7%)に 比 べ 有 意(p<0.004)に 高 か った 。 こ れ らの 夜 中 の 途 中覚 醒 に 対 す る感 情 で は,「し
図6 睡眠全体 に関 す る因子 の関係(数 量化3類) か た が な い」が 半数 に み られ た。 「いや だ 」とい う 否 定 的 回 答 は 、 初 産 婦 にお いて は初期 群 が,中 期 群 ・末 期 群 に比 べ て 有意 に 多 く認 め られ た。 一 方, 経 産 婦 で は時 期 別 に差 は な く,い ず れ の時 期 も初 産 婦 の 末 期 群 と近 似 した 比 率 で あ っ た(図5参 照)。 2.「 起 床 時 の睡 眠 関連 因子 群 」(B) 1)起 床 時 の状 況 起 床 の難 易 度 の指 標 と して の 寝起 きで は,「な か な か起 き る こ とが で きな い」 と回 答 す る比 率 が 初 期 群26.2%,中 期 群7.2%,末 期 群5.7%で 初期 群 に 有 意(p<0.001)に 高 か っ た。 さ らに起 床 時 の 気 分 の う ち 「眠 気 が 残 る」 は, 初 期 ・末期 が 中期 に比 べ て 有 意 に 高 い傾 向 が あ っ た。各群 の睡 眠 と3∼4か 月前 の睡 眠 の 比 較 で は, 起 床 時 の 気 分 は 「い まの ほ うが 悪 い」 と回 答 す る 比 率 が 初期 群 に 有 意(p<0.001)に 高 か っ た。 3.「 睡 眠 全 体 の 満 足 度 」(C) 「入 眠 お よび睡 眠 中の 関 連 因子 群 」 お よび 「起 床 時 の 関連 因 子 群 」 と 「睡 眠 全 体 の 満 足 度 」 との関 係 を 数量 化3類 を用 いて 分析 した。 第1軸 に抽 出 さ れ た 成 分 は 図6に 示 した 。 各 カ テ ゴ リーの 重 み 係 数 は,負 の 領域 に は 睡 眠 が 良 好 ・満 足 な状 態 が 位 置 し,正 の領 域 に は睡 眠 が 不 良 ・不満 足 な 状 態 が 位 置 し て い た 。 つ ま り、 睡 眠 が 満 足 で あ る こ と と は,寝 つ きが よ く,時 間 が 十 分 で あ り,眠 り の 深 さ が 深 く,途 中 覚 醒 が な く,起 床 時 の 気 分 と して 眠 気 が ま っ た く残 ら な い と い う 因 子 と の 間 に 関 係 が あ る こ と を 示 して い た 。 妊 娠 週 数 を 初 期 ・中 期 ・末 期 の3カ テ ゴ リ ー に 分 け て 同 様 の 分 析 を す る と,妊 娠 初 期 に 関 連 し た 因 子 は 負 の 領 域 に 位 置 し,妊 娠 末 期 に 関 連 し た 因 子 は 正 の 領 域 に 位 置 し て い た 。 4.睡 眠 に 関 す る 影 響 因 子 1)家 族 の サ ポ ー ト 「夜 中 の 途 中 覚 醒 や 眠 り に つ い て 気 づ か っ て くれ る 人 が い る か 」の 問 い に 対 し て,「 い る 」 と 回 答 し た の は205例(全 体 の70.9%),「 い な い 」は78例(27 %)で あ っ た 。 気 づ か っ て く れ る 人 で は,夫 が 最 も 多 く,次 い で 実 母 で あ っ た 。 こ の よ う な 家 族 の 気 づ か い(サ ポ ー ト)に 対 し て の 満 足 度 を 聞 く と,『サ ポ ー トあ り』の 群 で は 「満 足 」 が80.4%に 対 し て,『 サ ポ ー トな し』 の 群 で は 20%に す ぎ ず,有 意 な 差 が 認 め ら れ た(p< 0.00001)。 次 に,こ の 家 族 の サ ポ ー トに 対 す る 満 足 度 別 に 睡 眠 の 関 連 因 子 を み る と,「 寝 つ き が 悪 い 」 と 「眠 日本 助 産学 会 誌 第2巻 第1号(1988) 47
睡眠 の深 さ 睡 眠 全体の満 足度 図7 身 体 的 不 調 ・心 配 ご と の 有 無 別,睡 眠 の 深 さ ・満 足 度 の 評 価 りの 深 さが 浅 い」 に対 す る比 率 が 不 満 足 群 に 有 意 に高 率 で あ っ た。 さ ら に,同 居 中の 家 族 の ため に,妊 婦 が 夜 中 に 起 きて 世 話 をす る必 要 性 が あ る 人 は,72例(全 体 の24.9%)に 認 め られ た。 この 夜 中の 世 話 の 必 要 性 の有 無 は 、 産歴 と関 係 が 認 め られ,経 産 婦 に そ の必 要 性 あ りと回 答 す る比 率 は圧 倒 的 に高 率 で あ っ た。 また,『 夜 中 の 世 話 の 必 要 性 が あ る群 』 は, 「夜 中 の 途 中 覚 醒 後 の 寝 つ き」が 悪 い と回 答 す る も の が25.0%と,『 必 要性 の な い群 』の15 .5%に 比べ て 有 意(p<0.05)に 高 か っ た。 同様 に 睡 眠 全 体 の 満 足 度 も 『世 話 の 必 要 性 の あ る群 』は31.9%で,『 必 要 性 の な い群 』の53.3%に 比 べ て有 意(p<0.01)に 低 か っ た。 2)睡 眠 変化 の予 測 妊 娠 す る と睡 眠 は 変化 す る と予 測 して いた か ど うか は,「 予 測 して い た」206例(71.3%),「 予 測 して いな か っ た」83例(28.7%)で あ り,初 経 産 歴 別 で は 初 産 婦 の ほ うに 「予 測 して い な か った 」 の 比 率 は有 意 に 高 か っ た(p<0.0000)。 3)身 体 的 不 調,心 配 ご と 身体 の 不調 で 眠 れ な くな るこ との あ る人 は82例 あ り,内 容 に は 腹 部 の 緊 張 ・重圧 感 ・腰 痛 ・こむ らが え り ・胎 動 を多 く挙 げ て い た。 眠 れ な くな る よ うな悩 み や 心 配 ご との あ る 人 は 32例 あ り,内 容 は,流 早 産 の 心 配 や 家 族 の こ と,分 娩 に 対 す る不 安 や 産 後 の 生 活 へ の 不 安 で あ っ た。 身 体 的 不 調 の 有 無 お よび 心 配 ご との 有 無 と睡 眠 関 連 因 子 を み る と、 い ず れ も身 体 不 調 や 心 配 ご と の あ る群 は,「 眠 りの 深 さ」 が 浅 い,「 睡 眠 全 体 の 満 足 度 」 も不満 と回 答 す る比 率 が,身 体 不調 や 心 配 ご との な い群 よ り有 意 に高 率 で あ っ た(図7参 照)。 VII考 察 本 研 究 で は,睡 眠 の 主 観 的 評 価 を構 成 す る要 因 と して 「入 眠 お よび 睡 眠 中 の 関連 因 子 群 」 と 「起 床 時 の 関 連 因 子 群 」 を挙 げ,そ れ らの 総 合 的 な結 果 と して 「睡 眠 全体 の 満 足 度 」 が 影 響 を受 け る こ とが わ か っ た。 心地 よ い眠 りを構 成 す るの は,寝 つ きが よ く,眠 りの 深 さ が深 く,時 間が十分 であ り,途 中覚 醒 が な く,起 床 時 に は 眠 気 が 残 らな い こ とが 寄 与 して い た 。 睡 眠 が 妊 娠 の 進 行 に 伴 って どの よ うに 変 化 す る か を み る と、 従 来 は,妊 娠 初 期 に は,estrogen , progesteronの 増 加 を は じめ と して,急 激 な 内 分 泌 環 境 の 変 化 が 起 こ る た め,基 礎 代 謝 の 亢 進 や 血 糖 値 の 低 下 な どか ら疲 労 感 が 生 ず る と指 摘 され て
い る6)7)。本 研 究 の 結 果 で は 「睡 眠 時 間 の 長 さ」や 「昼 寝 の 理 由 」,「起 床 の 難 易」,「起 床 時 の 気 分 」の 点 か ら,妊 娠 初期 群 に 眠 りに対 す る欲 求 が 強 い こ とが 推 察 され た。 中期 にな る と初 期 に比 べ て,睡 眠 に 対す る欲 求 は 落 ち 着 き をみ せ て い た。 妊 娠 末 期 に な る と,本 研 究 の 結 果 で は,寝 つ きが 悪 くな り,眠 りが浅 くな り,睡 眠 時 間 も不 足 す る とい う 関係 が示 唆 され た 。 Karacanら8)は,妊 娠 末 期 か ら産 褥 に か け ての 追跡 調 査 で,妊 娠 に伴 う睡 眠 の 変 化 は、 寝 つ きが 悪 くな り,頻 回 に覚 醒 し、 全体 の時 間 が短 縮 す る と述 べ,estrogen.progesteronと の 関 係 を示 唆 し て い る。 同様 の 結 果 をPetre-Quadensら9)も 報 告 して い る。 睡 眠 を中 断 す る身 体 的 理 由 と して,増 大 した子 宮 に よ る圧 迫 の ため の 頻 尿 や 体 位 変換 の 困難 さな ど に よ る睡 眠 の 問 題 はVarneyに よ っ て 報 告 さ れ10),ま た保 健 面 接 の 場 面 で訴 え られ るの で 経 験 的 に知 られ て い る。 本研 究 の結 果 で も,途 中覚 醒 の理 由 と して 多か っ たの は外 因性 の理 由 よ りむ し ろ 妊 婦 自身 の 内因 性 の 身体 的理 由 で あ り,特 に初 期 に 「排 尿 」,末 期 に は 「排 尿 」,「体 位 変換 」,「足 の こ む らが え り」 で あ っ た。 これ らの 症 状 は妊 婦 の 不快 症 状 と して従 来 か ら指 摘 され て い た こ とで あ り,睡 眠 へ の 影 響 を改 め て確 認 した。 さ ら に途 中 覚 醒 の 感 情 と して,初 産 婦 群 で は初 期 群 に 「い や だ 」とい う否 定的 回答 が 多 く,中 期 ・ 末 期 と妊娠 が 進 行 す る につ れ て,そ の 比 率 が減 少 して い る こ と は,睡 眠 変 化 を含 む 妊 娠 の 適 応 に は 時 間 が必 要 で あ る こ と を示 唆 して い る。 妊 娠 に よ る身 体 的 変 化 は,同 時 に心 理 に影 響 す る。 妊 婦 の眠 りに 対 す る家 族 の 気づ か い ・サ ポー トの 有 無 が 睡 眠 の 主 観 的 評 価 に 影 響 を与 え て い た。 妊 娠 中 は,心 理 的 にvulnerable stage(傷 つ きや す い時 期)と 呼 ば れ て い るだ け に,睡 眠 に 影 響 す る心 理 的 因子 も重要 で あ る と思 わ れ る。 VIIIケ ア へ の 示 唆 妊娠 期 の 睡 眠 変 化 の 調 査 結 果 を も とに,妊 婦 の 基 本的 生 活 の 一 側 面 で あ る睡 眠 を アセ ス メ ン トす る 際 の情 報 カ テ ゴ リー と して,「寝 つ き」,「深 さ」, 「時 間 の 十 分 さ」,「途 中 覚 醒 状 態 」,「寝起 き」,「起 床 時 の 気分 」,「全体 の 満 足 度 」 の 側 面 が 手 が か り に な る と思 わ れ る。 同 時 に影 響 因 子 と して の 身 体 的 不 快 症 状 ・家 族 の サ ポ ー トが 挙 げ られ る。 妊 娠 に伴 っ て睡 眠 の 変 化 は 生 理 的 ・必 然 的 に起 こ る こ とか ら,そ の 変 化 に つ い て予 期 的 に教 育 ・ 指 導 す る こ とは意 味 あ るこ と と思 わ れ る。 これ ら の 変化 に,初 産 婦 は特 に 妊娠 初 期 に強 く反 応 す る こ とか ら,初 産 婦 に は こ の 変 化 に 先 行 して,妊 娠 初 期 に生 活 指 導 す る こ とが必 要 で あ ろ う。 ま た妊 娠 末期 に は,夜 間 の 不満 足 な 睡 眠 を補 う う え で も,昼 間 の 休 息 を適 時 勧 め る と同 時 に,足 の こむ らが え り等 不 快 症 状 に 対 して 対 処 法 を指 導 し,そ れ と同 時 に眠 りの 変化 が 生理 的 な 変 化 で あ る こ とを説 明 す る必 要 が あ る。 さ ら に妊 婦 を取 り巻 く家 族 に対 して は,妊 娠 に 伴 い睡 眠 が 変 化 して くる こ と,特 に 初期 と末期 に 起 こ る変 化 を家 族 が 理 解 で きる よ うに教 育 し,心 理 的 な サ ポ ー トを促 す 必 要 性 が あ る。 今 後,産 褥期 に は どの よ う な変 化 が あ るの か, 授 乳 との 関 係 を含 め て解 明 して い くこ とで,妊 娠 中 か らの 予 期 的 指 導 の 手 が か りを得 る こ とが で き る と考 え る。 IX結 論 妊 娠 期 にお け る睡 眠 の 主 観 的 評 価 は,「入眠 お よ び 睡 眠 中 の 関連 因 子 群 」と 「起 床 時 の 関連 因 子 群 」 とが互 い に関 連 し,「睡 眠 全 体 の 満 足 度 」を構 成 し て いた 。 妊娠 の 進 行 に 伴 う変 化 で は,初 期 に は非 妊 期 に 比 べ て 途 中 覚 醒 が 多 く,「眠 い」とい う睡 眠 に対 す る欲 求 が 強 く現 れ て いた 。 中 期 に な る と,初 期 に 比 べ て 睡 眠 に 対 す る欲 求 は 落 ち 着 き を 示 して い た。 末期 に な る と,寝 つ きが 悪 くな る ・眠 りが 浅 くな る ・時 間 が 不 足 す る。・途 中覚 醒 が 多 くな る と い う状 態 か ら,睡 眠 全体 に不 満 感 が 高 ま る とい う 関係 が 示 され た。 謝 辞 稿 を終 わ るに 臨 み,デ ー タ収 集 の場 を提 供 して くだ さっ た,東 京 都 立 築 地 産 院 院 長柳 田 昌 彦 先 生, 看 護 科 長 山崎 サ ク氏 に心 か ら感 謝 します 。さ らに, 終 始 懇 切 に ご指 導 い た だ い た 東 京 都精 神 医 学 総 合 研 究 所 山本 卓 二 先 生 に感 謝 します 。 ま た,調 査 の 実 施 に聖 路 加看 護 大 学 小 山 真 理 子 講 師,福 地 彰 子 日本助 産 学 会誌 第2巻 第1号(1988) 49
講 師,岩 澤 和 子 講 師,前 聖 路 加 看 護 大 学 山 本 あ い 子 講 師 の 多大 な ご協 力の あ っ た こ とを こ こに 感 謝 い た し ます 。 本 研 究 は昭 和60年 度 文部 省科 学 研 究 費No.60440099 (研 究 代 表 者 ・近 藤 潤 子)に よ る研 究 の 一 部 と し て 行 わ れ た もの で あ る。 本 研究 の一部 は,第29回 日本母性 衛 生学会 にお いて 発表 した。 引 用 文 献 1.鳥 居 鎮 夫: 行 動 と して の 睡 眠, 188-206, 青 土 社, 1985. 2. 新 福 尚 武: 睡 眠 と 人 間, 105-167, 日本 放 送 出 版 協 会, 1982.
3. Meddis, Ray: The Sleep Instinct, 1977, 井 上 昌 次 郎 訳, 睡 眠 革 命, 157-188, 1985.
4. 厚 生 の 指 標, 国 民 衛 生 の 動 向 一 昭 和63年, 35(9), 49, 厚 生 統 計 協 会, 1988.
5. 小 栗 貢, 白 川 修 一 郎, 阿 住 一 雄: 睡 眠 感 調 査 の 統 計 的 解 析, 臨 床 精 神 医 学, 11, 63-73, 1982.
6. Jensen, M. D., Bobak, I. M.: Maternity and
Gynecologic Care, 343, C. V. Mosby Company, 1985.
7. Clausen, J. P., et. al : Maternal Nursing Today, 305, McGraw-Hill Company,1977.
8. Karacan, I., Williams, R. L. et al.: Some Implica-tions of the Sleep Patterns of Pregnancy for Postpar-tum Emotional Disturbances, British Journal of Psychiatry, 115, 929-935, 1969.
9. Petre-Quadens, O., De Barsy, A. M. et. al.: Sleep in Pregnancy, Evidence of Foetal-sleep Characteristics. J. neurol. Sci. 4., 600-605, 1967.
10, Varney H. : Nurse-Midwifery, 132, Blackwell Sci-entific Publications, 1987.
参 考 文 献
・井 上 昌 次 郎: 眠 りの 精 を 求 め て-今 日の 睡 眠 研 究, 82-83, ど うぶ つ 社, 1986.
•E Karacan, I., Heine, W., Agnew, H. W., Williams, R. L., Webb, W. B., and Ross, J. J.: Characteristics of Sleep Patterns during Late Pregnancy and the Postpartum Periods, Amer. J. Obstet. Gyn., 101, 579-586, 1968. ・川 上 正 澄: 睡 眠 と ホ ル モ ン, 医 学 の あ ゆ み, 59(14), 898-905, 1966. ・大 熊 輝 雄: 睡 眠 の 生 理 一 最 近 の 睡 眠 研 究 を め ぐ っ て―, (第16回 日本 小 児 神 経 学 研 究 会 特 集), 脳 と発 達, 6(6), 422-433, 1974. ・鳥 居 鎮 夫: 睡 眠 の 科 学 , 浅 倉 書 店, 1985.