脳卒中患者に対する発症後48 時間以内の起立と定義した早期離床導入の効果
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(2) 616. 理学療法学 第 47 巻第 6 号. 位・重力負荷である起立は不可避の課題である。そのた. 2.対象. め,起立は発症後早期の脳卒中患者のリハビリテーショ. 対象は 2014 年 1 月∼ 2016 年 12 月の間に当院へ入院し,. ンにおいて,臨床的に最も重要な課題であるといえる。. リハビリテーション処方があった急性期脳卒中患者 320. 起立は脳卒中患者に限らずすべてのヒトにおいて,動脈. 名とし,以下の除外基準に該当する者は本研究の対象か. 圧受容器反射や心臓肺圧受容器反射を作動させる刺激で. ら除外した。除外基準は,一過性脳虚血発作,くも膜下. あり. 10). ,臥床は起立耐性の低下を惹起することが知ら 11). 出血,テント下病変の脳卒中患者,外科的手術が施行さ. 。脳卒中後の運動麻痺により,自ら抗重力. れた者,人工呼吸器管理下にある者,緩和医療を受けて. 位である起立をとることが困難な症例では,リハビリ. いる者,人工透析を受けている者とした。また,発症前. テーション専門職の関与がなければ,必然的に起立耐性. の ADL が日本版 modified Rankin Scale 判定基準書(以. の低下を招く。また,臥床は起立耐性低下だけでなく,. 下,mRS)で 4 ならびに 5 に該当する者は,機能的予. れている. 心肺機能低下. 12). ,循環血液量減少. 14). ,心機能低下. 13). 後に強く影響するため本研究の対象から除外した。早期. ,. など,生体に様々な障害を残す. 離床を導入した 2015 年 8 月を基準とし,早期離床導入. だけでなく,肺炎,尿路感染症,深部静脈血栓症,肺塞. 前(2014 年 1 月∼ 2015 年 7 月)の脳卒中患者を早期離. 栓症,褥瘡,うつ病など不動関連の合併症をもたらし,. 床導入前群,早期離床導入後(2015 年 8 月∼ 2016 年 12. 歩行や ADL のみならず生命予後にまで大きな影響を与. 月)の脳卒中患者を早期離床導入後群とし 2 群に群分け. 筋萎縮. ,骨萎縮. 11). 11). 15). 。以上より,急性期脳卒中患者に発症後早期か. した。なお,本研究は関西電力病院倫理委員会の承認. ら起立を行う意義は,あらゆる手段を介した重力負荷に. (承認番号第 29-21)を受けるとともに,個人情報の取り. える. よって起立耐性を維持し,廃用症候群ならびに不動関連. 扱いには十分に留意し検討を行った。. の合併症を予防し,その後の ADL や機能的予後そのも のを改善させることである。. 3.調査項目と調査方法. 当院においては,医師の指示の下,急性期脳卒中患者. 1)調査項目. に対して脳卒中治療ガイドラインに従って可及的早期か. 調査項目は基礎的情報,早期離床に関する評価,機能. ら離床を行っていた。しかし,離床時期や内容について. 的予後,不動関連の合併症,神経学的有害事象とした。. は主担当医,療法士,看護師で協議の上,個別に決定さ. 基礎的情報に関する項目は年齢,性別,病型,脳卒中. れており,統一した早期離床が規定されていなかった。. 既往歴(初発・再発),病巣部位(脳梗塞;前大脳動脈. そこで我々は,2015 年 8 月より急性期脳卒中患者に対. 領域・中大脳動脈領域・後大脳動脈領域・多発性脳梗. して機能回復の予後良好・不良にかかわらず,脳卒中発. 塞,脳出血;被殻・視床・皮質下) ,病巣側,脳卒中危. 症後 48 時間以内の起立と定義した早期離床を運用し,. 険因子(高血圧・脂質異常症・糖尿病・不整脈),発症. 不動関連の合併症減少に寄与することを報告した. 16). 。し. 時 の National Institute of Health Stroke Scale( 以 下,. かし,当院で定義した早期離床が機能的予後ならびに神. NIHSS) ,発症前の mRS,アルテプラーゼ静注療法(以. 経学的有害事象の発生に及ぼす影響については明らかで. 下,rt-PA)施行の有無,在院日数を調査した。. はない。. 早期離床に関する評価は,過去の研究から機能的予後. 今回,脳卒中発症後 48 時間以内の起立と定義した早. に影響を及ぼすとされる発症から早期離床開始までの時. 期離床と機能的予後の関係について検証した。また,早. 間として,発症から起立開始までの時間を調査した。発. 期離床と神経学的有害事象発生との関係についても同時. 症から起立開始までの時間は,当院に入院し主担当医に. に検証した。. よる脳卒中の確定診断後,理学療法士,作業療法士,看. 対象および方法. 護師いずれかの職種により初回に起立を開始するまでの 時間を調査した。理学療法士,作業療法士はリハビリ. 1.研究デザインと研究セッティング. テーションでの起立課題を,看護師は病棟 ADL で起立. 研究デザインは単一施設での後ろ向き非無作為化比較. を開始するまでの時間とした。リハビリテーション量は. 試験である。研究セッティングについて,本研究は大阪. 機能的予後に関連し,過去の研究でリハビリテーション. 府大阪市福島区の関西電力病院で実施した。関西電力病. 量の評価に発症から 14 日間のリハビリテーション実施. 院は病床数 400 床診療科 31 科の第 2 次救急指定病院で. 時間が用いられている. ある。介入と評価は主任研究者ならびに共同研究者を含. ション量として,発症後 14 日目までに理学療法士なら. むリハビリテーション部職員で実施した。データの抽出. びに作業療法士が実施したリハビリテーション単位数を. 作業・集計は主任研究者および共同研究者が実施した。. 調査し,リハビリテーション総実施時間を算出した。. 統計学的解析は本研究の趣旨を知らされていない共同研. 機能的予後に関する項目は急性期病棟退院時に評価. 究者が実施した。. し,歩行能力,ADL,機能的自立度,在宅復帰の可否. 4)6). 。そのため,リハビリテー.
(3) 脳卒中患者に対する早期起立練習の有効性と安全性. 617. 表 1 早期離床中止基準 神経学的所見の進行 主幹動脈の高度狭窄ならびに閉塞 心内血栓ならびに浮遊性のある頸動脈プラーク 急性心筋梗塞の併発 深部静脈血栓症やその疑い 未治療ならびに運動によって増加する不整脈 安静時心拍数が 40 bpm 未満または 120 bpm 以上 収縮期血圧が脳梗塞患者で 220 mmHg 以上,脳出血患者で 160 mmHg 以上 38.5 度以上の発熱 経皮的動脈血酸素飽和度が 90% 未満 血小板減少(50,000/μ l 以下) 播種性血管内凝固症候群 重度の大動脈弁狭窄症 消化管出血の併発 起立性低血圧 脳出血患者における発症後 24 時間以内の血腫増加や水頭症の発生. を調査した。歩行能力は Functional Ambulation Cate-. 脳神経内科医,リハビリテーション科医の監修で作成. gories(以下,FAC) ,ADL は Barthel Index,機能的. し,2015 年 8 月より運用を開始した。早期離床導入後. 自立度は mRS を調査した。また,過去の報告を参考に. 群は脳卒中の診断後,直ちに主担当医によるリハビリ. 17). 18). FAC(4-5) ,mRS(0-1). を機能的予後良好と定義. テーション処方を行った。初回のリハビリテーション介. した。. 入で表 1 に記す早期離床中止基準に該当する者は本研究. 不動関連の合併症に関する項目は,過去の報告を参考. から除外した。一方,早期離床導入前群の離床の可否は. に長期臥床により心身の活動性が低下したことによって. 主治医,療法士で協議の上,個別に決定されており,早. 生じる精神を含めた全身の部位に起きるものとし,肺. 期離床中止基準は定められていなかった。. 炎,尿路感染症,深部静脈血栓症,肺塞栓症,褥瘡,う. 2)リハビリテーション. つ病を調査した. 6). 。. 早期離床は早期離床導入後群で早期離床中止基準を満. 神経学的有害事象に関する項目は,病変拡大ならびに. たさない場合,理学療法士または作業療法士によって発. 神経学的所見の増悪,新規脳卒中の再発,死亡を調査し. 症後 48 時間以内の起立を目標に開始した。一方,早期. た。病変拡大は,梗塞巣面積の拡大または血腫量の増大,. 離床導入前群では,離床時期や内容については担当の主. スライス数の増加と定義した。神経学的所見の増悪は,. 治医,療法士,看護師で協議の上,個別に決定されてお. Scandinavian Stroke Scale. 19). を用いて評価し,発症 7. り,統一した早期離床が規定されていなかった。なお,. 日以内の意識(conscious level) ,眼球運動(eye move-. 当院では早期離床導入前から意識障害や重度片麻痺によ. ments),上肢筋力(arm movements) ,下肢筋力(leg. り介助下で起立が困難な脳卒中患者に対しては,Tilt. movements)のいずれかの項目で 2 点以上の増悪,ま. table を用い複数の療法士で他動的な起立課題を行って. たは言語(speech)の項目で 3 点以上の増悪と定義し. いる(図 1)。. た. 4)20). 。. 離床後のリハビリテーションは,脳卒中治療ガイドラ. 2)調査方法. インに基づき早期離床導入前群,早期離床導入後群とも. データの抽出作業・集計は病院内の電子カルテより後. に理学療法士は早期から歩行練習を介して身体に運動負. 方視的に行った。. 荷を与え,急性期から積極的に機能の向上を図った。一 方,作業療法士は ADL の早期獲得や社会復帰を目的に. 4.早期離床中止基準およびその後のリハビリテーション. 更衣,整容,排泄動作などの ADL 練習のみならず理学. 1)早期離床中止基準. 療法士と協力して積極的に起立・歩行練習を行った。. 早期離床導入後における早期離床中止基準を表 1 に示 す。早期離床導入後群における早期離床中止基準は,過 去の早期離床に関する研究. 4)6). を参考に脳神経外科医,. 5.統計学的解析 統計学的解析は各検定に先立ち,各変数が正規分布に.
(4) 618. 理学療法学 第 47 巻第 6 号. 従うかについて Shapiro-Wilk 検定を行った。検定結果 に基づき,早期離床導入前群と早期離床導入後群の 2 群 間において年齢,発症から起立開始までの時間,リハビ リテーション量,Barthel Index は Mann-Whitney の U 検定を用いて比較した。性別,病型,脳卒中既往歴,病 巣部位,病巣側,脳卒中危険因子,発症時の NIHSS, 発症前の mRS,rt-PA 療法施行の有無,退院時の FAC, 退院時の mRS,不動関連の合併症,神経学的有害事象 は Fisher の直接確率検定(両側)または χ 二乗検定を 用いて,それぞれ比較した。統計ソフトは IBM SPSS statistics ver. 22.0 を使用し,有意水準は 5% とした。 結 果 本研究における対象は,急性期脳卒中患者 320 名のう ち,除外基準に該当した者を除く早期離床導入前群 110 名,早期離床導入後群 105 名であった。早期離床導入後 群 105 名のうち,早期離床中止基準に該当した者は 12 名であり,解析対象者は早期離床導入前群 110 名,早期 離床導入後群 93 名となった(図 2)。早期離床中止基準 に該当した 12 名の内訳は,血圧高値 4 名,心内血栓 1 名, 神経学的所見の進行 6 名,脈拍高値 1 名であった。 基礎的情報の結果を表 2 に示す。年齢,性別,脳卒中既 往歴,病型,病巣側,脳卒中危険因子,入院時の NIHSS, 発症前の mRS,rt-PA の有無,在院日数は両群間で有 意差を認めなかった。病巣部位は早期離床導入後群と比 較して早期離床導入前群で皮質下出血が有意に多かった (p=0.023) 。 図 1 Tilt table を用いた他動的な起立課題. 早期離床に関する評価の結果を表 3 に示す。発症から 起立開始までの時間は,中央値で早期離床導入前群 26.5. 図 2 対象者の内訳.
(5) 脳卒中患者に対する早期起立練習の有効性と安全性. 619. 表 2 基礎的情報 早期離床導入前群. 早期離床導入後群. 110 名. 93 名. 72(64‒82). 72(64‒81). 0.643. 75/35. 59/34. 0.477. 76/34. 75/18. 0.060. 91/19. 72/21. 0.343. 年齢(歳). P-value. 性別(名) 男性 / 女性 病型(名) 梗塞 / 出血 脳卒中既往歴(名) 初発 / 再発 病巣部位(名) 脳梗塞 前大脳動脈領域. 3. 5. 0.474. 中大脳動脈領域. 59. 53. 0.632. 後大脳動脈領域. 7. 9. 0.383. 多発性脳梗塞. 7. 9. 0.544. 被殻. 17. 9. 0.139. 視床. 8. 9. 0.538. 皮質下. 9. 1. 0.023. 左. 56. 37. 0.113. 右. 53. 54. 0.160. 両側. 1. 2. 0.594. 高血圧. 80. 63. 0.438. 脂質異常症. 43. 29. 0.241. 糖尿病. 34. 32. 0.596. 不整脈. 14. 11. 0.846. mild(1‒7). 83. 77. 0.202. moderate(8‒16). 22. 11. 0.116. severe(>16). 5. 5. 1.000. 0. 72. 55. 0.354. 1. 25. 21. 0.980. 2. 10. 9. 0.886. 3. 3. 8. 0.065. 脳出血. 病巣側(名). 脳卒中危険因子(名). 発症時 NIHSS(名). 発症前 mRS(名). rt-PA(名) 在院日数(日). 7. 3. 0.349. 20(14‒33). 17(13‒24). 0.111. 中央値(第 1 四分位−第 3 四分位) NIHSS: National Institute of Health Stroke Scale mRS: modified Rankin Scale rt-PA: アルテプラーゼ静注療法. 表 3 早期離床に関する評価 早期離床導入前群. 発症から起立開始までの時間(時間) リハビリテーション量(分) 中央値(第 1 四分位−第 3 四分位). 早期離床導入後群. P-value. 110 名. 93 名. 26.5(10.5‒64.5). 11.0(3.0‒27.0). <0.001. 520.0(325.0‒640.0). 640.0(520.0‒780.0). <0.001.
(6) 620. 理学療法学 第 47 巻第 6 号. 表 4 機能的予後 早期離床導入前群. 早期離床導入後群. 110 名. 93 名. 90(55‒100). 100(75‒100). 0.014. mRS(名). 31. 42. 0.012. FAC(名). 62. 60. 0.237. 在宅復帰(名). 54. 61. 0.018. Barthel Index(点). P-value. 中央値(第 1 四分位−第 3 四分位) mRS: modified Rankin Scale FAC: Functional Ambulation Categories. 表 5 不動関連の合併症および神経学的有害事象 早期離床導入前群. 早期離床導入後群. 110 名. 93 名. 不動関連の合併症(名). 15. 5. 肺炎. 8. 4. 尿路感染症. 3. 0. 深部静脈血栓症. 0. 1. 肺塞栓症. 0. 0. 褥瘡. 2. 0. うつ病. 2. 0. 神経学的有害事象(名). 5. 2. 病変拡大ならびに神経学的所見の増悪. 1. 2. 新規脳卒中の再発. 2. 0. 死亡. 2. 0. P-value. 0.049. 0.457. (10.5‒64.5)時間,早期離床導入後群 11.0(3.0‒27.0)時. 早期離床導入後群 5 名であり,早期離床導入後群は早期. 間であり,早期離床導入後群は早期離床導入前群と比較. 離床導入前群と比較して有意に少なかった(p=0.049)。. して有意に早く起立を開始していた(p<0.001)。リハビ. 不動関連の合併症の内訳は,早期離床導入前群で肺炎 8. リテーション量は,中央値で早期離床導入前群 520.0. 名,尿路感染症 3 名,褥瘡 2 名,うつ病 2 名,早期離床. (325.0‒640.0)時間,早期離床導入後群 640.0(520.0‒780.0). 導入後群で肺炎 4 名,深部静脈血栓症 1 名であった。神. 時間であり,早期離床導入後群は早期離床導入前群と比. 経学的有害事象は早期離床導入前群 5 名,早期離床導入. 較して有意にリハビリテーション量が多かった(p<0.001) 。. 後群 2 名であり,両群間に有意差を認めなかった(p=. 機能的予後の結果を表 4 に示す。Barthel Index は,. 0.457) 。神経学的有害事象の内訳は,早期離床導入前群. 中央値で早期離床導入前群 90(55‒100)点,早期離床. で病変拡大ならびに神経学的所見の増悪 1 名,新規脳卒. 導入後群 100(75‒100)点であり,早期離床導入後群は. 中の再発 2 名,死亡 2 名,早期離床導入後群で病変拡大. 早期離床導入前群と比較して有意に高かった(p=0.014) 。. ならびに神経学的所見の増悪 2 名であった。. mRS(0‒1)に該当する者は,早期離床導入前群 31 名, 早期離床導入後群 42 名であり,早期離床導入後群は早. 考 察. 期離床導入前群と比較して有意に良好であった(p=0.012) 。. 今回,発症後 48 時間以内の起立と定義した早期離床. FAC(4‒5)に該当する者は,早期離床導入前群 62 名,. が,急性期脳卒中患者の機能的予後ならびに神経学的有. 早期離床導入後群 60 名であり,両群間に有意差は認め. 害事象に及ぼした影響は以下の通りである。早期離床導. なかった(p=0.237)。在宅復帰した者は,早期離床導入. 入後群は早期離床導入前群と比較して,不動関連の合併. 前群 54 名,早期離床導入後群 61 名であり,早期離床導. 症が有意に少なかった。また,退院時の Barthel Index. 入後群は早期離床導入前群と比較して有意に在宅復帰し. ならびに mRS は有意に良好で,在宅復帰も有意に多. た者が多かった(p=0.018)。. かった。しかし,FAC ならびに神経学的有害事象は両. 不動関連の合併症および神経学的有害事象の結果を表. 群間で有意差を認めなかった。. 5 に示す。不動関連の合併症は早期離床導入前群 15 名,. 不動関連の合併症が早期離床導入前群と比較して,早.
(7) 脳卒中患者に対する早期起立練習の有効性と安全性. 621. 期離床導入後群で有意に少なかった理由として,早期離. 中発症後早期から起立や歩行練習を介して,不動関連の. 床導入後群は早期から起立を開始し,多くのリハビリ. 合併症を予防し,良好な機能的予後や在宅復帰につな. テーションを提供したことが一因と考える。今回,早期. がった可能性がある。しかし,発症から起立開始までの. 離床導入後群は発症から起立を開始するまでの時間が,. 時間,リハビリテーション量はいずれも,機能的予後に. 早期離床導入前群と比較して中央値で 15.5 時間早く,. 関連する交絡因子である。今回,発症後 48 時間以内の. リハビリテーション量は中央値で 120 分多かった。過去. 起立と定義した早期離床が良好な機能的予後に関連する. の研究では不動関連の合併症に影響する因子として年. ことが明らかになったが,発症から起立開始までの時. 齢,脳卒中神経学的重症度,発症前 mRS が報告されて. 間,リハビリテーション量のいずれの因子が,より機能. 21)22). 。また,不動関連の合併症の減少には,発症. 的予後に影響するかについては検証できなかった。その. から離床までの時間ならびにリハビリテーション量が影. ため今後,発症から起立開始までの時間,リハビリテー. 23). 。本研究においては,両群. ション量のいずれの因子がより機能的予後に影響を及ぼ. 間で年齢,脳卒中神経学的重症度,入院前 mRS に有意. すのか検証が必要である。一方,早期離床導入前群は早. 差は認めなかった。そのため,早期離床導入による発症. 期離床導入後群と比較して皮質下出血が有意に多かっ. から起立開始までの時間の短縮ならびにリハビリテー. た。皮質下出血は出血部位と血腫量によって多彩な臨床. ション量の増加が,早期離床導入後群で不動関連の合併. 症状を呈する特徴をもつ. 症が少なかった要因であると考える。また,抗重力肢位. や視床出血と比較して機能的予後は良好である. である起立負荷そのものも,早期離床導入後群における. 報告がある一方で,予後不良. 不動関連の合併症の減少に寄与したと考える。起立は臥. のため,早期離床導入後群は早期離床導入前群と比較し. 位と比較して,循環系に大きな影響を及ぼすことが知ら. て Barthel Index ならびに mRS は良好であったが,そ. いる. 響すると報告されている. れている. 10). 。ヒトが起立位をとると腹腔や下肢への血. 27). 。皮質下出血は,被殻出血 29). 28). との. とする報告もある。そ. の要因として皮質下出血患者が少なかったことが影響し. 液移動が生じ,その結果,静脈還流量・一回拍出量の減. た可能性がある。. 少,さらに中心静脈圧・動脈圧の低下をきたす。この血. FAC は両群間において有意差を認めなかった。過去. 圧低下は,動脈圧受容器・心臓肺圧受容器に感知され,. の報告で,発症後 24 時間以内の座位,立位,歩行なら. 延髄の血管運動中枢に伝達される。そこから,反射性に. びにリハビリテーション量を 2 倍にした早期離床群は対. 迷走神経・心臓交感神経を介した容量血管・抵抗血管収. 照群(発症後 24 ∼ 48 時間以内での離床)と比較して,. 縮による総末梢血管抵抗上昇を生じ血圧が維持される. 10). 。. 歩行自立に要する期間が有意に早まったと報告されてい 30). 。本研究においても,発症から起立開始までの時. 過去の研究で,起立負荷は心筋や動脈の収縮性を保つだ. る. けでなく起立耐性の低下,すなわち起立性低血圧を防ぐ. 間は中央値で早期離床導入前群 26.5 時間,早期離床導. 24). 。以上より,急性期脳卒中患. 入後群 11.0 時間であった。しかし,リハビリテーショ. 者における不動関連の合併症を予防するためには,発症. ン量は中央値で早期離床導入前群 520.0 時間,早期離床. 後早期から身体に起立負荷を与え,起立耐性を維持し,. 導入後群 640.0 時間であり,早期離床導入後群は早期離. 廃用症候群を予防することが有効である。. 床導入前群と比較して有意にリハビリテーション量が多. 早期離床導入後群は早期離床導入前群と比較して,退. かったが,過去の報告のリハビリテーション量と比較す. 院時の Barthel Index ならびに mRS が有意に良好であ. ると少なかった。そのため,本研究において FAC が両. り,在宅復帰した者も有意に多かった。その理由として,. 群間で有意差を認めなかった理由として,リハビリテー. 早期離床導入後群は早期離床導入前群と比較して,早期. ション量が影響を及ぼしたと考える。また,脳卒中患者. から起立を開始し,多くのリハビリテーションを提供し. の歩行能力には運動麻痺ならびに感覚障害,バランス機. たことが良好な機能的予後に影響した可能性がある。本. 能が影響を及ぼすことが報告されている. 研究では,早期離床導入後群は早期離床導入前群と比較. 急性期脳卒中患者の歩行能力を改善させるためには早期. して発症から起立を開始するまでの時間が中央値で 15.5. 離床に留まらず,運動麻痺ならびに感覚障害,バランス. 時間早く,リハビリテーション量は中央値で 120 分多. 機能などの評価を実施し,機能改善に向けたリハビリ. かった。過去の研究で,脳卒中発症後早期からの座位,. テーションプログラムとリハビリテーション量の検討が. ことが報告されている. 4). 31)32). 。今後,. ,より多く. 必要である。また,早期離床導入後群は早期離床導入前. のリハビリテーションを実施することが,ADL の改善. 群と比較して,不動関連の合併症が有意に少なく,退院. 立位,歩行は脳卒中後の mRS を良好にし 25). 。また,発症後早. 時の ADL は有意に良好であったが在院日数は両群間で. 期の脳卒中患者に多くのリハビリテーション量を実施す. 有意差を認めなかった。その理由として,過去の研究で. に効果的であると報告されている 26). に寄与すると報告されてい. 在院日数には病前の mRS や NIHSS だけでなく生活保. る。そのため,本研究において早期離床導入後群は脳卒. 護受給の有無など社会的要因がかかわることが報告され. ると基本動作能力の改善.
(8) 622. 理学療法学 第 47 巻第 6 号. ている 33)。また,独居,高齢世帯,要介護家族の有無. 経核を介した中枢性調節機序により交感神経活動の亢進. は在院日数に影響する可能性がある。そのため,早期離. と副交感神経活動の抑制が起こり,起立時の血圧が維持. 床と在院日数との関連については,今後詳細に検討する. される. 必要がある。. 期脳卒中患者における起立負荷時の平均血圧,総頸動脈. 神経学的有害事象は両群間において有意差を認めな. 血流量は健常高齢者と比較して同等であったと報告され. かった。その理由として,早期離床導入後群で早期離床. ている. 中止基準を定めたことが一要因と考える。神経学的有害. における 70°座位での脳血流量変化は,健常高齢者と比. 事象である病変拡大ならびに新規脳卒中の再発は,脳血. 較して同等であったと報告されている. 流量の変化で生じる。脳血流量は脳灌流圧によって制御. 床下部より上位に病変をもつ脳卒中患者では,起立負荷. されており,脳灌流圧は「脳灌流圧≒平均血圧−頭蓋内. 時の循環調節メカニズムは正常に作動するものと考え. 圧」で表される。脳灌流圧が 60 ∼ 150 mmHg である場. る。そのため今回,脳卒中発症後 48 時間以内の起立と. 合,脳血流量は一定に保たれ,この機能は自動調節能と. 定義した早期離床は神経学的有害事象である病変拡大な. 呼ばれる. 34). 。脳灌流圧が低下すると脳血管が拡張して. 10). 。過去の研究で,テント上に病変をもつ急性. 36). 。また,中大脳動脈領域の急性期脳梗塞患者 37). 。つまり,視. らびに新規脳卒中の再発を引き起こさず安全に実施可能. 脳血管抵抗を減らし,逆に脳灌流圧が上昇すると脳血管. であったと考える。. は収縮し,脳血流量を一定に保つ。急性期脳卒中患者で. 死亡例は早期離床導入前群で 2 名認め,死亡率は 1.8%. は,この自動調節能が破綻するため,血圧依存性に脳血. であったが,早期離床導入後群では認めなかった。過去. 流量が変動することが知られている. 35). 。そのため,発. の報告で,脳卒中後の死因の多くは原疾患による急性期 38). 。. 症後早期の座位や起立による血圧変化が,脳血流量を増. 死亡ならびに肺炎の併発であると報告されている. 加もしくは減少させ,病変拡大ならびに神経学的所見の. 本研究において,早期離床導入後群は早期離床導入前群. 増悪,新規脳卒中の再発をもたらす可能性が危惧され. と比較して,不動関連の合併症が有意に少なかった。そ. る。本研究で定めた早期離床中止基準は,起立負荷時の. のため,早期離床導入後群で死亡例を認めなかったこと. 循環動態ならびに脳血流量に影響を及ぼす因子である主. は,早期離床導入による不動関連の合併症の減少が影響. 幹動脈の高度狭窄ならびに閉塞,心内血栓ならびに浮遊. した可能性がある。. 性のある頸動脈プラーク,未治療ならびに運動によって. 本研究の限界として,第一にテント下病変ならびに外. 増加する不整脈,重度の大動脈弁狭窄症,起立性低血圧. 科的治療例など呼吸・循環中枢に障害を有する可能性が. を含んでいる。そのため,今回神経学的有害事象を惹起. ある者や,人工呼吸器や脳室ドレナージなど医学的管理. する因子を早期離床中止基準で定めたことが,早期離床. の観点から離床が制限される者に対する早期離床導入の. 導入後群において安全な早期離床につながった可能性が. 効果については検討できていない。第二に本研究は非無. ある。一方,早期離床導入前群でも発症後 48 時間以内. 作為化比較試験であり介入が同一時期ではないため,急. に離床した症例が含まれており,早期離床中止基準を定. 性期治療の変遷ならびに在宅復帰を推奨する昨今の医療. めていなかったにもかかわらず,早期離床導入後群と比. 提供体制の変化が,本研究結果に影響した可能性は否定. 較して神経学的有害事象に有意差を認めなかった。その. できない。第三に早期離床導入により不動関連の合併症. 理由として,本研究の対象から両群ともに除外基準にテ. の減少や良好な機能的予後が得られたが,実際に起立姿. ント下病変を定めたことが影響したと考える。本研究の. 勢をとった時間・頻度についての検証は行えなかった。. 神経学的有害事象の発生率は早期離床導入前群 5%,早. 今後,テント下病変ならびに外科的治療例など対象を広. 期離床導入後群 2% であった。一方,テント下病変を対. げた無作為化比較試験で,発症後 48 時間以内の起立と. 象に含めた過去の早期離床に関する研究では,神経学的. 定義した早期離床導入の有効性と安全性について検証す. 6). る必要がある。また,安全で効果的な早期離床を確立す. 以上より,本研究の神経学的有害事象の発生率は過去の. るために,起立開始までの時間だけでなく,起立課題の. 研究と比較して低かったといえる。その要因として,本. 時間・頻度についても詳細に定義する必要がある。. 有害事象の発生率は 11% であったと報告されている. 。. 研究では両群ともに循環調節メカニズムに影響を与える テント下病変を除外基準に定めたことが影響したと考え. 結 論. る。ヒトにおける血圧変化は,頸動脈洞と大動脈弓の圧. 早期離床導入は,脳卒中患者において不動関連の合併. 受容器によりモニタリングされている。臥位から起立し. 症を予防し,機能的予後である mRS ならびに Barthel. た際,重力の影響により下肢への血液移動による静脈環. Index に寄与する。脳卒中発症後早期の起立は臨床的に. 流量の減少が生じ,心拍出量の減少が惹起される。その. 重要な課題であり,本研究の結果から,発症後 48 時間. 結果,血圧低下が生じ,頸動脈洞と大動脈弓から抑制性. 以内の起立と定義した早期離床は,テント上病変ならび. の入力が延髄の孤束核に伝えられる。その後,延髄の神. に保存的治療例で安全かつ有効であることが示された。.
(9) 脳卒中患者に対する早期起立練習の有効性と安全性. 利益相反 本研究において開示すべき利益相反はない。 謝辞:本研究にご協力いただいた当院リハビリテーショ ン部の職員に御礼申し上げます。 文 献 1)Winstein CJ, Stein J, et al.: Guidelines for Adult Stroke Rehabilitation and Recovery. Stroke. 2016; 47: e98‒e169. 2)Gittler M, Davis AM: Guidelines for Adult Stroke Rehabilitation and Recovery. JAMA. 2018; 319(8): 820‒821. 3)日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会:脳卒中治療 ガイドライン 2015.協和企画,2015,pp. 277‒280. 4)Bernhardt J, Dewey H, et al.: A very early rehabilitation trial for stroke (AVERT): phase II safety and feasibility. Stroke. 2008; 39: 390‒396. 5)Sundseth A, Thommessen B, et al.: Outcome after mobilization within 24 hours of acute stroke: a randomized controlled trial. Stroke. 2012; 43(9): 2389‒2394. 6)AVERT Trial Collaboration group: Efficacy and safety of very early mobilisation within 24 h of stroke onset (AVERT): a randomized controlled trial. Lancet. 2015; 386(9988): 46‒55. 7)Bernhardt L, English C, et al.: Early mobilization after stroke: early adoption but limited evidence. 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