日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-33 186
-スクーリングの長期欠席状態から安定した登校に至った通信制高校生の支援事例
―家族と学校への機能分析に基づくコンサルテーションを中心に―
○深谷 篤史1,2)、佐々木 恵1)、本多 南1) 1 )NPO法人メンタルコミュニケーションリサーチ、 2 )医療法人社団コスモス会 紫藤クリニック 1 . 背景・目的 土岐(2014)は、通信制高校生のスクーリングの内 容理解や自習の困難、学習に時間を割きにくい生活環 境、心身の不調や学校への意識の向きにくさを指摘し ている。金子の調査(2015)では、調査対象314名の 通信制高校卒業生のうち、236名が小中学校で不登校 を経験しており、不登校経験のある者の出席状況は不 登校経験のない者よりも低かったことを報告してい る。 ま た、 卒 業 後 の 就 学・ 就 職 状 況 に つ い て は、 29.4%が就学中、44.5%が就業中(うち27.4%がアルバ イト・パート)、9.7%が無職であったことを報告して おり、無職の割合が高いことが窺われる。 以上のように、通信制高校生は不登校経験者が多 く、在学中も学習面や生活環境、メンタルヘルスの困 難さを抱えていることが往々にして考えられ、卒業後 も一定層に社会適応の懸念がみられることが考えられ る。そのため、通信制高校在学中に十分な支援を行う 必要があるといえる。本研究では、長期に渡るスクー リングの欠席とレポートの未提出が続いている本人に 対して訪問支援を行いながら、機能分析に基づく家族 面接および学校へのコンサルテーションを通して安定 したスクーリングとレポート提出に至った事例を報告 する。 2 . 事例の概要 <家族構成> 父親(50代、有職)、母親(50代、有職)、長女(20 代)、次女(18歳、本人)、長男(10代) <問題の経過> 友人がいじめ被害に遭ったことをきっかけにして中 学 2 年生の頃から不登校となった。中学生の頃は、母 親と本人で相談機関に来談していたが、不登校状態は 持続した。中学校卒業後、通信制高校 C に入学した。 入学後、すぐにスクーリングに通えなくなり、レポー ト提出もしない状態となった。通信制高校 C は最大 6 年間所属することが可能であるが、そのまま 3 年間が 過ぎ、母親と本人が家族面接と訪問支援を行っている 支援機関に来談した。来談時、本人は外出や家族以外 との対人交流はなく、昼夜逆転した生活を送り、起き ている時は始終パソコンをしている状況であった。母 親と本人は様々な会話をすることができる状態にあ り、訪問支援について母親から「勉強をみてくれる人」 という説明をして、学校内での訪問支援を行う了承を 本人から得ていた。 <支援の構造> 支援期間は X 年11月〜 X + 2 年 3 月の 1 年 4 ヶ月で あった。相談員 1 〜 2 名が約月 1 回の頻度で、母親と 本人への合同家族カウンセリングを計10回行い、母親 へのカウンセリングを計 4 回行った。訪問支援者 A 、 B が計 6 回の訪問支援を学内で本人に対して行った。 また、保護者および本人の了承のもと、相談員が適宜 本人の所属校に連絡をして情報共有およびコンサル テーションを行った。 <倫理的配慮> 本研究にあたり、保護者と本人に対して口頭および 文書にて研究内容と個人情報の厳重管理、自由意思で あることを説明し、文書にて研究協力と研究発表の承 諾を得た。また、研究発表にあたり、所属支援機関の 承諾を文書にて得ている。なお、本研究から個人が特 定できないように事例の本質を損ねない程度に情報を 削除、改変している。 3 . 支援経過 <家族内での変化を意図した介入時期 X 年11月〜 X + 1 年 4 月(家族面接# 1 〜 5 、訪問支援# 1 〜 3 )> 訪問支援者 A が本人と学校内で学習支援と雑談を行 う訪問支援を行った。雑談時は、本人が好きなゲーム の話題をしたところ、本人も楽しそうにする様子がみ られた。家庭内でも、訪問支援者 A と会うことを楽し みにしている様子がみられた。 家庭内においては、本人がパソコン以外の活動をし ない様子が続いていた。母親が頼み事をした時に手伝 う行動や、長女が食事の準備をしない時には自炊する 行動が本人に稀にみられていた。しかし、母親は自分 で取り組んだ方が早いと思って本人に頼み事をせず、 長女も同じような動機ですぐに食事を作っていた。家 族面接で相談員から機能分析に基づくイネイブリング の心理教育をし、母親は本人に頼み事をすること、長 女は料理をしない日を作るように母親へ依頼した (# 4 )。その結果、家事を手伝う本人の行動が増加し た。そして、母親から本人への声かけが増加するに伴 い、本人が家族と外出することができるようになって いった。 <学校内・外での変化を意図した介入時期 X + 1 年 4 月〜 X + 1 年 9 月(家族面接# 6 〜#10、訪問支援 # 4 〜 5 )>日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-33 187 -本人の外出行動や家事を手伝う行動は持続してい た。本人は年度始めにいつも教材を取りに学校へ行く ことができていたため、今年度も教材を取りに行くこ とが予想された。本人が訪問支援者 A とゲームの話題 を楽しそうにし、訪問支援者 A と会うことに動機づけ られていた様子から、ゲームの話題が正の強化子にな ることが想定されたため、学校に情報提供とコンサル テーションを行った。本人が登校した際、学校関係者 がゲームの話題に詳しい生徒のグループと本人を繋げ る機会を作ったことにより、本人にゲームの話題がで きる学内の友人が複数人できた。その後は安定してス クーリングに通い、友人達と一緒に学内でレポート作 成と提出をするようになった。なお、この時期に訪問 支援者 A から訪問支援者 B に交替することになった が、本人が友人達と会うことを優先し始めたため、訪 問支援は 2 回の実施となった。同時期に、本人がアル バイトをする意向を示したため、学外にあるアルバイ トや学習をサポートしてくれる支援機関を紹介し、実 際にアルバイトを始めることができた。 <安定期 X + 1 年10月〜 X + 2 年 3 月(家族面接 X11〜14、訪問支援# 6 )> 本人は、外出行動、家事を手伝う行動、安定したス クーリングとレポート作成および提出、アルバイトを 継続することができていた。本人も生活に充実感を感 じていることが語られ、母親からも肯定的な見通しが 語られるようになり、 X + 2 年 3 月に終結となった。 4 . 考察 本事例において、本人のスクーリングとレポート提 出の安定に繋がった介入点について考察する。支援当 初、家庭内外での社会的な活動がほぼみられない状態 であった。学校関連の事柄を扱う前に、まずは家庭内 において本人のできることを増やしていく段階的な支 援を視野に入れた。そのため、「家族内での変化を意 図した介入時期」において、母親に対してイネイブリ ングの心理教育を行い、本人が家事の手伝いをする行 動の先行刺激の操作(母親から本人へ頼み事をする、 長女が料理をしない状況)を行った。その結果、本人 の家事を手伝う行動が増加した。加えて、母親の声か けが増加するに伴い、外出行動も増加していった。 また、「学校内・外での変化を意図した介入時期」 においては、本人の何が正の強化子になるかアセスメ ントし、学校に対してコンサルテーションをしたこと は奏功した点のひとつである。学校関係者が本人と関 わる機会が乏しいケースにおいて、本人の強化子と成 り得るものが見えにくい。機能分析に基づいて強化子 に成り得るものをアセスメントし、学校関係者に伝え るコンサルテーションは、学校関係者に支援の道筋を 示すことができたといえる。これらの介入をきっかけ にして、学内での対人関係の増加、スクーリングとレ ポート提出の安定、アルバイトといった本人の変化が 次々にみられるようになり、「安定期」ではこれらの 状態を持続することができた。以上のように、本事例 から、家族と学校関係者に対する機能分析に基づくコ ンサルテーションが通信制高校生の支援にも有益であ ることが示された。