日本認知・行動療法学会 第44回大会 83
-心理教育と同盟関係:援助対象者との共通言語を創る
○(企画・司会者)三田村 仰1)、(話題提供者)稲垣 貴彦2,5)、(話題提供者)大月 友3)、(話題提供者) 嶋田 洋徳3)、(指定討論者)東 斉彰4) 1 )立命館大学総合心理学部、 2 )医療法人明和会 琵琶湖病院、 3 )早稲田大学人間科学学術院、 4 )甲子園大学心理学部、 5 )滋賀医科大学精神医学講座 【企画趣旨】 昨年度の新潟大会では「援助職の共通言語として」 をテーマとして,認知・行動療法が援助職間の一つの 共通言語となりうることが示唆された。また一方で, すでによく知られているように,認知・行動療法の技 法の効果を最大限引き出すためには,援助対象者と援 助者との同盟関係の構築が不可欠である。実際に,同 盟関係は学派を超えた共通要因として,そのエビデン スが示されている(Norcross & Wampold, 2011)。そ こで,本大会シンポジウムでは,目の前の一人一人の 援助対象者との間に共通した方向性を描き,強力な同 盟関係を築くうえでのプロセスとして「心理教育」に 焦点を当てる。心理教育は100年を超える歴史をもち (Donley, 1911),現在,認知・行動療法を特徴付ける 重要な技法へと発展し,医療,司法・犯罪,教育と いった幅広い領域で活用されている。心理教育は支援 の現場において共通言語(概念,モデル,目標)を作 り出す作業だといえるだろう。当日は, 3 名の話題提 供者より,医療(稲垣貴彦先生),司法・犯罪(嶋田 洋徳先生),教育(大月友先生)の各領域での心理教 育について,“何を,どのように”伝えるべきかを共 通項としてお話しいただく。指定討論は,認知療法に おける統合的観点から東斉彰先生(甲子園大学)にお 願いする。 引用文献Donley, J. E. 1911 Psychotherapy and re-education. Journal of Abnormal Psychology , 6, 1-10. N o r c r o s s , J . C . , & W a m p o l d , B . E . 2 0 1 1 E v i d e n c e - b a s e d t h e r a p y r e l a t i o n s h i p s . Psychotherapy , 48( 1 ), 98-102. 【話題提供 1 稲垣貴彦:医療領域における患者家族 への実践】 心理教育とは,受容しにくい問題を持つ人達(対象) に,ニーズに会った知識や情報を心理面への十分な配 慮をしながら伝え(方法 1 ),対話の中で病気や障害 の結果もたらされる問題や困難に対する対処の選択肢 を増やし(方法 2 ),認知行動療法であれば対象者が 主体的に治療に取り組むことができるよう援助する (目的)方法である。教育は手段に過ぎず,目的を達 成する為には対象者の自己効力感を向上させ,エンパ ワメントを図ることが必要になる。 疾病教育や患者教育という概念はこの点において明 確に異なる。教育は対象者を「自分は批判の対象に なっているのではないか」「自分にはまずいところが あるのだ」と考えさせてしまうことがある。対象者の 自己効力感を奪い,パワーレスにさせることによっ て,効果がないばかりか有害であることもある。 心理教育の定義をもう一度おさらいし,心理教育単 独で効果が実証されている手法を学ぶことにより,認 知行動療法の実践にあたっての適切な心理教育のあり 方が検討できよう。心理教育は患者が主体的に治療に 取り組むことができるようにする手法であるので,認 知行動療法を実践する上で,心理教育のあり方を検討 し,正しく理解することは必須である。 家族心理教育は統合失調症の再発予防プログラムと して開発された。50年を超える歴史があり,その間に 発展を続け,統合失調症の再発予防効果は薬物療法に 匹敵する。他の精神疾患に対する再発予防効果の検討 が進められており,うつ病の再発予防についても大き な効果を示すことがわかっている。また,再発予防だ けではなく治療効果そのものに対する検討も現在進ん でいる。 患者や家族と治療同盟を結び共通言語を創るにあた り,医療領域で確立している心理教育の手法につい て,まずご紹介する。 【話題提供 2 嶋田洋徳:司法・犯罪領域における犯 罪加害者への実践】 司法・犯罪領域における認知行動療法の実践におい ては,他の実践領域の対象者に比して,治療的支援に 対する「動機づけ」が低いこと,支援の目標が社会か ら外的に定められていること(再犯や再非行の防止) が大きな特徴であると考えられる。当該の領域におい ては,治療的支援を「施設内処遇(刑務所や少年院な ど)」と「社会内処遇」に大きく分けて理解すること が多いが,特に前者の場合には,法的根拠に基づいて (刑事収容施設法の特別改善指導,少年院法の特定生 活指導など),治療的支援の強制性が強く,先に述べ た特徴を際立たせている。なお,これらの国による治 大会企画シンポジウム 5
日本認知・行動療法学会 第44回大会 84 -療的支援は,プログラム化された(集団)認知行動療 法に基づくことが定められている。 このような当該領域の治療的支援に際しては,かな り以前から「動機づけ面接法」のテクニックが採り入 れられ,相応の有用性を示しているが,手続き的側面 が強調されているがゆえに,プログラム等の中に十分 に活用されるには至っていないように思われる。そこ で,「動機づけ面接法」の考え方を根底に置きながら も,認知行動療法の枠組みからの心理教育の果たす役 割は大きいと考えられる。その主要な内容は,犯罪行 動は自ら制御できる行動であると理解すること,自分 にとっての犯罪行動の(手口ではなく)「機能」を理 解すること,プログラム等は必ずしも反省を促す刑罰 として課されるわけではなく,自らが犯罪行動から遠 ざかることができる方法(再犯や再非行の防止)の教 育として課されることなどである。すなわち,認知行 動療法に基づく治療的支援を受けることが自らにとっ てメリットがあるということ,支援者は(刑罰の執行 者ではなく)同盟関係にあるということをいかに対象 者に感じさせるかという点が肝要であると考えられ る。 【話題提供 3 大月 友:教育領域における児童・生徒 への実践】 現在,学校教育現場では,心理教育的援助サービス や特別支援教育に関連して,さまざまな目的や方法で 認知・行動療法が展開している。たとえば,開発的・ 予防的な目的で行われる一次的・二次的援助サービス として,社会的スキル教育やストレスマネジメント教 育などの学級(あるいは学校)集団を対象とした心理 教育的アプローチが実践されている。また,不登校や いじめ,学級崩壊,教室内での逸脱行動など,さまざ まな教育臨床上の問題に対しても,その問題解決を目 的とした三次的援助サービスとして活用されている。 このように,教育領域において児童・生徒を対象とし て認知・行動療法を実践する際は,多様な目的でさま ざまな発達段階の対象者を相手にするため,それぞれ の取り組みごとに心理教育を工夫し,同盟関係を構築 する必要がある。 今回の話題提供では,教育領域での実践として,筆 者がこれまで中学校の学級単位で行ってきた,アクセ プタンス&コミットメント・セラピー(ACT)をベー スとした心理教育的アプローチを紹介する。ACTには, 「不安や落ち込みなどの不快な私的事象そのものが問 題ではなく,それをコントロールしようとすることが 問題である」という,対象者のこれまでの経験や常識 とは異なる考え方でアプローチする。対象者が抱いて いる「不快な私的事象のコントロールが大切」という 考え自体は,これまでの公的事象のコントロール体験 や言語共同体内の随伴性により維持しているため,言 葉のみを使った説明ではACTの目標やアプローチを共 有するための共同言語を構築するのは難しい。そのた め,ACTではエクササイズやメタファーを多用しなが ら,対象者の体験的な理解を促す必要がある。当日 は,実際にどのようなエクササイズやメタファーを, どのような目的で中学生に実践したかについて,その 具体的な工夫点などを話題提供する。 大会企画シンポジウム 5