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バブル崩壊後の恐慌・長期停滞リスク管理 (大谷欣也教授退職記念論文集)

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バブル崩壊後の恐慌・長期停滞リスク管理 79

バブル崩壊後の恐慌・長期停滞リスク管理

Ⅰ 序 年夏に顕在化した米国における信用力の低い個人向け住宅ローン(サブ プライム・ローン)の債務不履行問題,所謂「サブプライム問題」は,リーマ ン・ブラザーズ等の欧米の金融機関の破綻や全世界の株式市場の暴落等の金融 危機を惹起し,世界恐慌の懸念さえ指摘されるに至っている。こうした状況下, 年代以降の金融自由化,金融技術革新,金融システムの市場型化等の金融 市場・システムの変貌(以下,「金融革命」と呼ぶ)を今般の金融危機の主因 と捉えて,金融危機再発防止を目的とした大幅な金融規制を求める動きが新興 諸国や欧州大陸諸国を中心に強まっている。このような大幅な金融規制は金融 革命が開花させようとしていた潜在的な諸機能(リスク分担機能,資本供給機 能等)高度化の芽を摘み取ってしまう危険性があるが,金融革命下の現代資本 主義経済が今般の金融危機を招来したようなバブルの発生と崩壊に対して十分 な防止策を持ち得ないのであれば大幅な金融規制の導入を甘受せざるを得な い。然し乍ら,バブル膨張を未然に食い止める事前的防止策とバブル崩壊後の 実体経済への波及を最小限に食い止める事後的防止策に対する人類の英知は大 恐慌や我が国の「失われた十年」等の大いなる失敗経験と経済学的分析の蓄積 を背景に着実に向上しているとみられる。これらの防止策のうち事前的防止策 については稿を改めて検討することとして,本稿では,金融革命下の現代資本 主義経済がバブル崩壊後の実体経済への波及を恐慌や長期停滞に至る手前で食 い止める事後的防止策を装備しているのかどうかを検討する。今般の金融危機 本論文の作成に当たっては本学リスク研究センターの平成20年度助成研究による助成を受 けた。この場を借りて深く謝意を表したい。本論文に対する問い合わせは kusuda@biwako. shiga-u.ac.jpまで。

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80 大谷欣也教授退職記念論文集(第 号) 平成 ( )年 月 後の金融規制の在り方に関する議論に資する材料を提供することが本稿の目的 である。 本研究において参考となる事例は,バブル崩壊の衝撃度が今般の金融危機に 匹敵する事例である。 世紀以降の先進国において株価下落率や銀行の不良債 権比率にみられるバブル崩壊の衝撃度が今般の金融危機に匹敵する事例は,大 恐慌時の先進諸国, 年代初頭の北欧と我が国の「失われた十年」の事例で ある。これらの事例のうち,バブル崩壊が実質 GDP をピーク比 %以上減少 させるまでの景気の谷の深い不況(以下,同現象を一般名詞として「大恐慌」 と呼ぶ)を齎した事例は大恐慌時の米国と欧州の金ブロック圏諸国の事例程度 である。大恐慌時の英国や我が国, 年代初頭の北欧の事例は景気の谷は相 対的に浅く,我が国の「失われた十年」に至っては景気の谷の深さは殆ど問題 にならない水準である。つまり, 年代初頭の北欧と「失われた十年」では 少なくとも大恐慌防止には成功したとみられる。一方,バブル崩壊が景気の谷 の長い不況を齎した事例は「失われた十年」のみである。以下では,大恐慌の 要因,恐慌再発防止策,「失われた十年」の要因と再発防止策を順に検討する。 Ⅱ 大恐慌の要因 本章では,大恐慌防止に失敗した米国と欧州の金ブロック圏諸国の事例と大 恐慌防止に成功した 年代初頭の北欧と「失われた十年」の事例の比較に基 づき大恐慌の要因を検討する。 .大恐慌期と近年の事例比較 米国における株式バブル崩壊後の不況が大恐慌にまで至った要因について は,フリードマンらのマネタリストは連邦準備銀行が貨幣供給量を減少させた という金融要因を,シュンペーターや実物的景気循環論者は技術革新の停滞と いう実物要因をそれぞれ強調する。ただ,これらの見解は如何にも牽強付会の 感が否めず,何れの要因も単独で大恐慌を引き起こしたと見做すには無理があ ると言わざるを得ない。現在でも統一的な見解は無いが,次のような説明が有

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バブル崩壊後の恐慌・長期停滞リスク管理 81 力となっているように見受けられる。すなわち,株式バブル崩壊後,実体経済 が悪化し,信用不安が拡がってゆく中,銀行取り付けが規模を大きくしながら 波状攻撃的に間接金融システムを襲った結果,金融システムが徐々に崩壊し, 信用収縮が発生。こうした状況下,金融システムの崩壊や失業増大等の実体経 済の悪化を眺めての不確実性の増大も相俟って設備・住宅投資や耐久消費財消 費を中心に総需要が減少し,デフレ(継続的な物価下落)を惹起。デフレ下で 連銀が十分な金融緩和を行わなかったことから総需要が一層減少し,デフレが 加速,総需要がさらに一層減少する「デフレ・スパイラル」に陥った。その結 果,デフレが %超にも達したため実質金利が %超という超高水準に高止ま りし設備投資や耐久消費財消費を冷え込ませ,実質 GDP がピーク比 %以上 減少する大恐慌にまで至った,という説明である。 また,欧州の金ブロック圏諸国(仏,伊,蘭等)が大恐慌を招いた要因とし ては,米英等多くの先進国が金本位制離脱・自国通貨切り下げ,関税引き上げ 等のブロック経済化に走る中,③金本位制維持への固執が自国通貨高(実質実 効為替レートの増価)と金利の高止まりを招いたため,純輸出と設備投資を中 心とする総需要の減少と輸入価格下落が相俟ってデフレを進行させ,デフレ・ スパイラルに陥ったとみられる。 一方,近年の北欧と我が国では,大恐慌期の米国に準じる程度のバブル崩壊 の衝撃を受けたにも拘らず大恐慌水準の景気悪化は食い止めることができた。 近年の事例が大恐慌期と異なる点として,次の七点が挙げられる。すなわち, 金融システムの安定性を保持する制度として①預金取り付けを防止するための 預金保険制度が確立していること,金融システム安定化策として②中央銀行に よる積極的な流動性の供給(「最後の貸し手機能」の発揮),③政府による銀行 への公的資金注入が実施されたこと,金融システムの安定性保持とデフレ・ス パイラルの防止を目的に④金融の大幅な緩和が実施されたこと,⑤景気回復過 程において実質実効為替レートが減価したことから純輸出の増大を齎したこ と,⑥相当程度の拡張的財政政策が採られたこと,である。また,北欧や我が 国の事例では世界的な金融危機に発展することがなかったため,国際協調が採

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82 大谷欣也教授退職記念論文集(第 号) 平成 ( )年 月 られる必要は無かったが,今般の金融危機では,大恐慌期とは異なり,金融シ ステム安定,財政・金融政策の発動,自由貿易堅持において⑦多面的な国際協 調が採られている。 .大恐慌の要因と大恐慌リスク 大恐慌期と近年,今般の金融危機の事例比較から,大恐慌の要因として,少 なくとも次の六要因を特定できよう。すなわち,金融システムを崩壊に導いた ①金融制度の不備,金融危機時の②市場流動性危機と③銀行システム問題への 対策の不在,大幅な金融緩和に踏み切れず総需要減少や実質実効為替レート増 価に起因するデフレ・スパイラルの進行を阻止できなかった④金融政策の失 敗,同様にデフレ・スパイラルの進行を阻止するための拡張的財政政策に踏み 切れなかった⑤財政政策の失敗,そして⑥国際協調の失敗,である。何れも経 済制度・政策の問題であり,従って国家の経済危機管理能力の問題である。こ れらの全要因に対し,近年の北欧と我が国,今般金融危機の事例では包括的な 対策が施されていることから,現代資本主義経済がバブル崩壊型不況を大恐慌 にまで深刻化させるリスクは非常に低いと考えられる。 然らば,現代資本主義経済において,バブル崩壊型不況が大恐慌にまで深刻 化するリスクは非常に低いとしても,大恐慌に比べれば景気の谷は浅いがそれ でもなお深刻な不況,例えば,実質 GDP がピーク比 %以上減少するような 大不況(以下,「恐慌」と呼ぶ)を招くリスクはどの程度であろうか。また, 現代資本主義経済はこうした恐慌リスクに対し如何に備えるべきであろうか。 次章では,これらの問題を検討する。 Ⅲ バブル崩壊後の恐慌発生リスクと防止策 現代資本主義経済がバブル崩壊型不況を恐慌(実質 GDP がピーク比 %以 上減少する大不況)に深刻化させない防止策を装備し得ているのかどうかを検 討するに際しては,大恐慌の要因として特定した上記六要因の実体経済への影 響を詳細に検証する必要がある。前述の通り,現代資本主義経済は今般の金融

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バブル崩壊後の恐慌・長期停滞リスク管理 83 危機時の対応にみられるように,上記六要因への対応が打たれはするが,何れ も万能ではなく,これら六要因の実体経済への悪影響を完全に防止することは できないため,これらの要因が相当程度の規模で顕在化し,相乗作用を発揮す る形で恐慌を惹起する可能性は否定できない。従って,現代資本主義経済にお いて期待し得る政策が発動された際にこれらの要因がどの程度の規模で顕在化 し得るかを見極める必要がある。 .国際協調・財政政策の失敗 ( )国際協調の失敗 今般の金融危機では,IMF,世銀等の国際機関や G ,G 等の国際会合で, 協調的な金融システム安定化措置,財政・金融政策の協調的発動,自由貿易堅 持の再確認などが為されるなど,国際協調は相当程度巧く機能しているようで あり,国際協調の失敗が恐慌の一因となる可能性は非常に低いように思われる。 ただ,今後の金融危機再発防止策については,新興諸国,EU 諸国,日米の間 では思惑に相当な隔たりがあり,予断を許さない状況にある。 ( )財政政策の失敗 民主主義国家であるか否かに拘わらず,国民の景気対策への強い要望が現代 国家の政策決定に多大な圧力を加える仕組みとなっている以上,財政出動の規 模が過小に止まり,恐慌の一因となる危険性は非常に小さいと思われる。寧ろ 将来的に警戒すべきは,政府債務が増大し国家財政の健全性が著しく低下して しまうリスクである。こうした状況に陥れば,経済危機時に拡張的財政政策が 発動されても民間は将来の増税を予測し消費・投資増を躊躇するため,景気浮 揚効果は殆ど期待できなくなるからである。我が国の財政状況は,既に予断を 許さない状況にある。将来の恐慌危機時に備えて拡張的財政政策の有効性を確 保しておくためにも早急に国家財政の健全化に努める必要がある。 .金融システムの機能不全 金融システムが機能不全に陥る要因としては,預金取り付けによる銀行の大

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84 大谷欣也教授退職記念論文集(第 号) 平成 ( )年 月 規模破綻或いは決済システムを通じての連鎖破綻,信用不安を背景とする金融 市場における流動性危機,すなわち,銀行の短期資金調達・運用市場,企業の 資金調達市場,個人が資金を調達するためのクレジットカード・自動車ローン 会社の資金調達市場における流動性危機,不良資産の増大を背景とする銀行の 貸し渋り・追い貸しによる金融仲介機能の低下,が挙げられる。 ( )銀行の大規模・連鎖破綻 預金取り付けによる銀行の連鎖破綻に対しては,預金保険制度が整備されて いるほか,金融危機時には政府による預金保証額の引き上げや全額保証が採ら れる。また,金融機関の破綻が決済システムを通じて連鎖的に波及する決済リ スクを防止するため,即時グロス決済システムが多くの国々で導入されている。 従って,預金取り付けや決済システムを通じての銀行の大規模破綻や連鎖破綻 のリスクは非常に小さいと考えられる。 ( )金融市場における流動性危機 信用不安を背景とする銀行の短期資金調達・運用市場,企業の資金調達市場 (CP・社債市場),個人が資金調達(クレジットカード・自動車ローン)を行 うためのクレジットカード・自動車ローン会社の資金調達市場(資産担保証券 市場)での流動性危機は,放置しておくと,流動性不足に起因する金融機関の 破綻,市場金利の高止まり,資本市場の縮小,これらを眺めての銀行の貸し渋 り等の様々な弊害を齎す。このような流動性危機に対して,今般の金融危機に おいて,中央銀行・金融当局による次のような対応が採られた。銀行の短期資 金調達・運用市場(銀行間市場)においては,各中央銀行が銀行間市場に対す るドル資金の大量供給や信用保証により対応。また,企業の資金調達市場(CP・ 社債市場)においては,FRB,米連邦預金保険公社(FDIC)がそれぞれ優良 CPの購入,優良社債の信用保証に踏み切った。さらに,資産担保証券(ABS, Asset Backed Securities)市場に対しても,今般の金融危機において,FRB が ABS 保有投資家に当該証券を担保に貸出を行う制度を導入した。これらの一連の流 動性供給措置にみられるように,現代の中央銀行・金融当局は流動性危機に対 する認識が高いので,流動性危機が相当程度の規模となって拡がり,恐慌の一

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バブル崩壊後の恐慌・長期停滞リスク管理 85 因となる虞も小さいと考えられる。 ( )追い貸し・貸し渋りによる金融仲介機能の低下 ここで,追い貸しとは,不良債権を隠蔽したい銀行経営者の責任回避的動機 などから銀行が不良債権先を破綻させないように貸し出しを続ける,という問 題である。こうした銀行の追い貸し・貸し渋りに対しては,我が国の「失われ た十年」の経験が有効な金融システム安定化策を示唆している。とりわけ, 年 月に金融庁が公表した「金融再生プログラム」は,同プログラム公表前の 主要行不良債権比率を 年 月期の .%から 年 月期の .%へと大幅 に低下させ,バブル崩壊以降の長年の懸案であった不良債権問題の解決に貢献 した政策であり,有効性が高いと思われる。「金融再生プログラム」では,過 去 回の金融システム安定化策( 年制定の「金融機能安定化法」, 年 制定の「早期健全化法」「金融再生法」等)が不十分にしか機能しなかったこ とを踏まえて),①資産査定の厳格化,②自己資本の充実,③ガバナンスの強 化,の三つの柱が打ち出されている。これは次のような理由に基づくものであ る。すなわち,資産査定の厳格化が行われなければ,適切な公的資本注入を実 施できないし,たとえ資産査定を厳格に実施したとしても,追い貸しを惹起す るほど銀行内の経営規律機能が弛緩しているとみられる状況で安易に公的資本 注入を実施することはできない。特に,公的資本注入が実施され,自己資本比 )「金融機能安定化法」では,①③が行われず,また,BIS 基準で中核的資本とはみなされ ない劣後債・劣後ローンを中心とする公的資金注入であったほか,過小資本に陥っている 銀行が自己の過小資本の状況が露呈することを懼れて過少申告を行ったため,②の自己資 本の充実にも繋がらなかった。 年の「早期健全化法」「金融再生法」等では,転換権 付き優先株式を中心とする公的資金注入に変更することによって,「金融機能安定化法」 の上記二問題に対処するとともに,公的資金注入後のガバナンスとして,経営健全化計画 の履行状況の報告徴求,優先株式の普通株式への転換権行使による議決権獲得のほか,公 的資金注入行において「計画(収益目標)と実績との相当程度の乖離」した場合,業務改 善命令の発動を含めた監督上の措置の発動が検討される,という通称,「三割ルール」が 打ち出されたが,①の資産査定は基本的に銀行の自己査定によるものであったほか,「三 割ルール」は,不良債権処理を優先したい金融庁の思惑から厳格には適用されなかった。 年に,取引先銀行が不良債権には分類していなっかった大手スーパーのマイカルが経 営破たんしたほか,木村剛氏により主要行の大口融資先に対する引当ての甘さが「大手三 十社問題」として指摘され,銀行の自己査定の甘さと引当て不足による自己資本不足が懸 念されることになった。

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86 大谷欣也教授退職記念論文集(第 号) 平成 ( )年 月 率が向上すると,元々弛緩していた銀行内の経営規律機能が一層弛緩する危険 性があるほか,株式市場の経営規律機能も弛緩する危険性がある。そこで②で は,自己増資努力が求められたほか,③のガバナンスの強化として,外部監査 法人による厳正な審査,早期是正措置の厳格化及び早期警戒制度の活用,公的 資本注入行に対するガバナンスの強化,が打ち出されたのである。特に,不良 債権処理を優先したい金融庁の思惑から厳格には適用されなかった「早期健全 化法」における「三割ルール」(注 参照)を厳格化し,公的資金注入行に対 して不良債権処理と収益力の強化を同時に追及させる方針が打ち出された。こ のような三つの柱からなる公的資金注入以外の金融システム安定化策として, 不良資産の買い取り・流動化)や銀行の一時国有化も行われ,相当程度の成果 を挙げたようである。また,銀行の不良債権処理が経営不振企業の行過ぎた破 綻を招かないよう,産業再生機構の活用により,再生可能な企業の再生も図ら れた。以上の金融システム安定化策を考慮すると,追い貸し・貸し渋りによる 金融仲介機能の低下が恐慌の一因となる危険性は低いように思われる。 .デフレ・スパイラル・リスク デフレが恐慌を導く可能性を見極めるためには,デフレ・スパイラルの発生 機構を認識する必要がある。デフレ・スパイラル発生の原因としては,名目賃 金の下方硬直性とゼロ金利制約が指摘されている。 ( )名目賃金の下方硬直性 名目賃金に下方硬直性がある場合,デフレによって実質賃金が上昇するため, 労働需要が減少し,雇用が減少する。その結果,雇用所得が減少するため,総 消費を中心に総需要が減少し,デフレが加速するという悪循環が生じる,とい う経路である。然し,「失われた十年」の間では,名目賃金の下方硬直性は, 年頃迄は観察されるものの,デフレが深刻化した 年以降は観察されなく なった,との実証結果が示されている(黒田・山本( ))。第二次大戦後か )資産流動化においては,対象資産を小口・流動化する証券化の手法と同市場の整備が貢 献することが期待できる。

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バブル崩壊後の恐慌・長期停滞リスク管理 87 ら 年前半頃迄,先進諸国では,高成長,高インフレ,強い労働組合の賃金 交渉力等を背景に名目賃金は或る程度下方硬直的であったように思われるが, その後の日独伊を中心とした成長率の低下,第一次石油危機後の中央銀行の物 価管理政策の強化を背景とするインフレ率の低下,労働組合の賃金交渉力の弱 まりなどを背景に名目賃金の下方硬直性は薄れつつあるように見受けられる。 今後,先進諸国において,こうした状況が大きく変化しない限り,名目賃金の 下方硬直性がデフレ・スパイラル・リスクを惹起する危険性は低いと考えられ る。一方,BRICS 等の新興諸国では,高成長を背景にインフレ率は高めで推 移しているため,デフレ自体に陥る危険性が小さいと考えられる。 ( )ゼロ金利制約 ゼロ金利制約に起因するデフレ・スパイラルとは,名目金利はゼロ以下に下 げられないことから名目金利がゼロに到達した後はデフレの加速が実質金利の 上昇を引き起こし,これが総需要を減少させ,デフレを一層加速させ,デフレ・ スパイラルを引き起こす,という論理である。同制約に起因するデフレ・スパ イラルを防止する策としては,日銀がデフレ下の 年 月に採用に踏み切っ た「量的緩和政策」が歴史上,唯一の政策事例である。以下では,量的緩和政 策がデフレ・スパイラルを防止し得るのかどうかを量的緩和政策の理論的効果 と我が国の経験を踏まえて検証する。 日銀が採用した量的緩和政策は次の二種類の政策から構成されている。第一 は,金融政策の目標を銀行間市場の短期金利であるコールレートから民間銀行 の日銀当座預金残高という量に変更し,当座預金残高目標を引き上げ,潤沢な 資金供給を行うことであり,第二は,消費者物価指数の前年比上昇率が安定的 にゼロ%以上となるまで量的緩和を継続するという約束であった。第一の政策 は「中央銀行の購入する資産構成の変化による効果」)と「量拡大の効果」)を, )先般の量的緩和政策で同効果を齎した政策としては,従来に比べ相対的に信用度の低い 手形の買いオペが挙げられる。同オペにより,相対的にリスクの高い資産の信用スプレッ ドを縮小させる効果があり,金融システムの安定性保持には貢献したとされているが,デ フレを緩和させたり,需要を喚起したりする効果は無かったようである。 )量拡大の効果とは,マネタリー・ベースの拡大が貨幣供給量を増加させ,景気拡大・物!

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88 大谷欣也教授退職記念論文集(第 号) 平成 ( )年 月 第二の政策は「時間軸効果」をそれぞれ企図した政策と捉えられる。これらの 効果のうち有効と確認されるのは,白川( )が主張するように,ゼロ金利 継続を約束することによって民間の期待短期金利を低下させ,やや長目の金利 を低下させる時間軸効果を企図した政策だけである。それにも拘わらず,デフ レはデフレ・スパイラルに発展することはなく緩やかなデフレに止まった。 デフレ・スパイラルに陥らなかった理由として,少なくとも,量的緩和政策 の時間軸効果が機能し金利低下を通じて設備投資,住宅投資,耐久消費財消費 を増大させたことに加え,デフレに伴う実質実効為替レートの減価により純輸 出が増大したこと,の二点が挙げられよう。ただ,後者は今般の金融危機のよ うな地球規模のバブル崩壊時には期待できない。 それでは仮に,後者の効果が期待できないような状況でバブル崩壊後にデフ レに突入した場合,中央銀行が量的緩和政策にまで踏み切ったとしてもデフ レ・スパイラルに陥る危険性があるのであろうか。このような難問に応えるた めの最良の判断材料はしばしば歴史から与えられる。Bordo and Filardo ( ) は,本稿では射程が及んでいない 世紀にまで遡り, 世紀以降の世界の様々 なデフレの事例を研究した結果,「総生産量の大幅な減少を伴うデフレは希少 であり,しかもこうした希少な事例の大半は大恐慌期に集中している」)こと を「定型化された事実」として報告している。そして,「歴史上,デフレはし ばしば底堅い経済成長を齎してきた。これは 年代の日本におけるデフレや 大恐慌におけるデフレから一般的に引き出される旧来の英知とは対照をなして いる」と主張し,巷間デフレ・スパイラル・リスクが強調され過ぎていること を示唆している。 以上の議論を取り纏めると,次の暫定的結論が得られよう。ゼロ金利制約に 起因するデフレに対しては,前述の金融システム安定化策の発動により金融シ ステムの機能不全を防止した上で,デフレ脱却まで量的緩和を継続すると約束 する量的緩和政策を採れば,デフレ・スパイラル・リスクに陥るリスクは小さ 価上昇を齎す,というマネタリスト的な経路を通じた効果である。然し乍ら,先般の量的 緩和政策では,こうした効果は観察されなかった。 )白川( )の 頁図 ― ― を参照せよ。 !

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バブル崩壊後の恐慌・長期停滞リスク管理 89 い。特に,実質実効為替レートの減価による総需要の下支え効果が期待できる 場合はデフレ・スパイラル・リスクを最小限に止め得る。従って,現代資本主 義経済ではデフレを原因とする恐慌リスクも小さいと考えられる。 Ⅳ 「失われた十年」の要因,長期停滞リスクと再発防止策 本章では,我が国が経験した長期停滞である「失われた十年」の要因と同停 滞から脱却し安定的な成長軌道に乗せる政策について,同停滞中に繰り広げら れた論争を整理した後,小泉政権下の長期停滞脱出・長期景気拡大過程を参考 にして長期停滞の要因と再発防止策を検討する。 .「失われた十年」を巡る論争 「失われた十年」に関しては, 年代末から 年頃迄,多くの論者によ り様々な見方が示されてきたが,議論を図式的に整理するために,これらの見 方を敢えて三つに大別すると,以下の通りである。すなわち,消極的財政・金 融政策(特に消極的金融政策)と銀行の貸し渋りが惹起した総需要不足に起因 するデフレ・スパイラルを主因とみてインフレを目標とした積極的な量的緩和 政策と金融システムの機能回復を企図した銀行への公的資金注入を提言する 「リフレ派」)と,産業構造調整の遅延を第一次的要因,金融システムの資本 供給機能低下を第二次的要因とみて産業構造調整を促進するための構造改革 (大幅な公共支出削減・行財政改革・規制緩和政策)と金融システムの機能回 復を図るための不良債権処理を提言する「構造改革派」),デフレに加え金融 システムの資本供給機能低下と産業構造調整の遅延を主因とみるが,不良債権 処理と構造改革は短期的には実体経済を悪化させるとの観点から,デフレ脱却 のためのインフレ・ターゲット付き量的緩和政策を不良債権処理・構造改革に 先行させるか,或いはインフレ・ターゲット付き量的緩和政策と不良債権処 理・構造改革を同時に推進すべし,とする派(本稿では,「リフレ構造改革派」) )竹森,野口旭,若田部らが「リフレ派」に分類されると思われる。 )池尾,岩本,野口悠紀雄,宮川らが「構造改革派」に分類されると思われる。 )伊藤隆敏,伊藤元重,岩田,櫻川,竹中,林,原田,深尾,星らが「リフレ構造改革派」!

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90 大谷欣也教授退職記念論文集(第 号) 平成 ( )年 月 と呼ぶ)である。これら三派の「失われた十年」に関する診断と長期停滞脱却 のための処方箋は以下のとおりである。 ( )リフレ派の診断と処方箋 リフレ派は「失われた十年」の要因を次のように診断する。バブル崩壊後, 逆資産効果や不確実性の増大から総需要が減少していた中,金融緩和の遅延か ら GDP ギャップを惹起し 年第 四半期には軽微ながらデフレ(GDP デフ レータ・ベース)が発生。その後,日銀が 年の夏から秋にかけての大幅な金 融緩和に踏み切ったことによって一時的に景気は回復した。然し, 年の橋本 政権下の緊縮的財政への転換,大手金融機関の相次ぐ破綻による金融不安から GDPギャップが拡大しデフレが本格化した。デフレ下で,名目賃金の下方硬 直性とゼロ金利制約に起因する二つの経路による民間需要の下押し効果に加 え,不良債権の増大と株価の大幅下落に伴う自己資本比率の低下に直面した銀 行の貸し渋りもあって,デフレ・スパイラルに陥った。以上を要約すると,バ ブル崩壊に伴う総需要不足という本来は短期的な問題に対し,財政・金融政策 が十分な需要創出政策を採れなかったため,GDP ギャップが拡大,デフレを 引き起こしたことに加え,銀行の自己資本不足に起因する貸し渋りもあって, デフレ・スパイラルという深刻な総需要不足を招き長期停滞に陥った,との診 断である。 以上の診断に基づき,深刻な総需要不足であるデフレ・スパイラルから脱却 するため,大幅な需要創出を企図した,乗数効果の高い効率的な拡張的財政政 策とインフレ・ターゲット付き量的緩和政策に踏み切るべし,との処方箋が示 される。ここで,インフレ・ターゲット付き量的緩和政策とは,日銀がデフレ 脱却に止まらない年率 ∼ %のインフレ・ターゲットを掲げて,同目標達成 のため,①長期国債の買い切りオペの大幅増額のほか,②外貨建て証券の買い 切りオペの大幅増額,③上場投資信託・不動産投資信託等の大量購入等に踏み 切ることを表明し実行に移すべし,というものである。 に分類されようが,岩田,原田,深尾,星はリフレ派に近い立場であり,伊藤隆敏,伊藤 元重,櫻川,竹中,林は構造改革派に近い立場であるように思われる。 !

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バブル崩壊後の恐慌・長期停滞リスク管理 91 ( )構造改革派の診断と処方箋 構造改革派は「失われた十年」の要因を次のように診断する。我が国は第二 次大戦後,先進国で確立されている既存の製品・製造過程を模倣・改善するこ とにより経済成長を実現できる立場にある新興国として「開発型」の産業構造 を確立した。然るに, 年代後半には日本経済は開発段階を概ね完了したた め「先進型」の産業構造への転換が必要となった(池尾( ))ことに加え, 年代後半からグローバリゼーションや IT 革命により地球規模の産業構造 の転換も進み始めたことから,産業構造調整の一層の遅延が顕在化するように なった。この間,民業と官業の関係においても,「開発型」経済においては或 る程度の役割を果たしていたとみられる郵貯・財投・政府系金融機関・特殊法 人等が民間から吸い上げた巨額資金を非効率的な政府系部門等に投入する仕組 みと化しつつあり,官業の民業圧迫の弊害が指摘されるようになった。さらに, 民間の金融システムにおいても,「開発型」経済では或る程度機能していた間 接金融優位の「相対型金融システム」についても,「先進型」経済との適合度 が高いとされる市場型間接金融を取り込んだ「市場型金融システム」へ重心を 移すことが求められ始めた(池尾( ))。 こうした状況下, 年代後半に発生したバブルが円高不況期に調整を進めよ うとしていた企業に調整を遅らせる誘因を与えたほか,バブル崩壊後の公共事 業中心の拡張的財政政策が TFP(Total Factor Productivity,全要素生産性)上 昇率の低い公共支出関連産業の資源を維持する方向に作用したことなどから産 業構造調整を一層遅らせた(池尾( ))。 また,政府系金融を含め間接金融優位の我が国の金融システムにおいて,銀 行が不良債権を大量に抱えることになったため,株価の大幅下落とも相俟って 自己資本比率が低下し,リスク許容度の低下等から資本供給機能が低下したた め間接金融優位の金融システム全体の資本供給機能が低下した。こうした状況 下,自己資本不足に陥った銀行がメイン・バンク制の下,経営者の不良債権隠 蔽動機とも相俟って TFP 上昇率の低い取引先に対し追い貸しを続け,国債購 入等の安全運用に走り,TFP 上昇率の高い新興成長企業等のハイリスク・ハイ

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92 大谷欣也教授退職記念論文集(第 号) 平成 ( )年 月 リターンの融資案件に対して貸し渋ったため,一層の産業構造調整の遅延を齎 したのである(林( ))。 こうした産業構造調整の遅れは TFP 上昇率が低い産業から高い産業への資 源再配分速度の低下を意味しており),その結果,バブル崩壊後の日本経済の TFP上昇率は低下し )長期停滞に陥ったのである。さらに,このような構造調 整の遅延にも拘らず,構造改革推進に踏み切れない政治に対する不信感を背景 とする日本売りが株価等の資産価格の一層の下落を招いたことから,逆資産効 果により需要面からも景気の足を引っ張ったのである。 以上を要約すると, 年頃から既に「先進型」への転換が必要となってい た我が国の産業構造は, 年代後半から進み始めたグローバリゼーションや IT革命への適応,官から民への転換,間接金融から「先進型」経済への適合 度が高い市場型間接金融への転換等の一層の転換が要求されるようになった。 こうした中, 年代後半に発生したバブルとバブル崩壊後の拡張的財政政策が 産業構造を維持する方向に作用したことなどから産業構造調整を一層遅らせた ほか,間接金融優位の我が国の金融システムが不良債権問題から資本供給機能 を低下させたため一層の産業構造調整の遅延を齎した。また,構造改革に踏み 切れない政治に対する不信感が一層の資産価格の下落を招き,需要面からも景 気の足を引っ張った,との診断である。 以上の診断に基づき,金融システムの資本供給機能回復を図るための不良債 権処理に加え,産業構造調整を促進するための大幅な行財政改革(公共支出削 減,郵貯民営化,政府系金融機関等の特殊法人民営化・統廃合)と規制緩和政 策からなる構造改革を実施すべし,という処方箋が示される。後者の構造改革 については,公共支出削減等は短期的に需要を減少させる反面,多くのその他 の改革 )は短期的に潜在的需要を掘り起こすことによる短期的な景気拡大効 )黒田・野村( )や西村・中島・清田( )の実証分析で確認されている。 )Hayashi and Prescott( )では,Hansen( )の労働の分割不可能性を織り込んだ 一般均衡動学モデルを用いた実証分析により 年代の日本経済の TFP 上昇率が低下した ことが示されている。

)例えば,小泉政権下の構造改革で実施された,起業促進を企図した最低資本金制度の特 例措置の導入,「対日投資促進プログラム」の策定,人材派遣市場の規制緩和,国内航空!

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バブル崩壊後の恐慌・長期停滞リスク管理 93 果を期待できるほか,中長期的に遅延していた産業構造調整を促進し,日本経 済の TFP 上昇率を高める,という中長期的な経済成長効果を期待できる。後 者の効果に対しては,同効果を先読みする市場参加者は期待を上方修正するこ とから,これを映じた資産価値の上昇による資産効果も期待し得る。従って, これらの短期的効果により日本経済が比較的早期に長期停滞から脱出し,中長 期的効果から日本経済が成長軌道に乗ることを展望できる。 ( )リフレ構造改革派の診断と処方箋 同派は,「失われた十年」の要因として,デフレ,金融システムの機能不全, 構造調整の遅延の何れの要因も重視する。これらのうち,金融システムの機能 不全を重要な要因とみることについては概ね認識が一致しているようである が,デフレと構造調整の遅延の何れをより重視するかについては,論者により 診断が分かれている模様。然り乍ら,長期停滞脱出の処方箋が概ね共通してい るのは,不良債権処理と構造改革は中長期的な経済成長を齎す有効な政策であ るが,短期的には不良債権処理・構造改革過程で企業倒産や失業発生等を通じ て一層景気を悪化させる負の効果があるため,デフレ下で不良債権処理と構造 改革を推進するのは不適切,との共通認識があるからのようである。同認識に 基づいて,デフレ脱却のためのインフレ・ターゲット付き量的緩和政策を不良 債権処理・構造改革に先行させるか,或いは,インフレ・ターゲット付き量的 緩和政策と不良債権処理・構造改革を同時に推進すべし,という処方箋が示さ れる。 .「失われた十年」の要因 上記論争から「失われた十年」の要因の候補としては,金融システムの機能 不全を齎した不良債権処理の遅延,バブル崩壊後の逆資産効果や金融システム の機能不全に起因する総需要不足に対する消極的財政・金融政策,構造調整の 遅延の三つが挙げられる。これらの三つから「失われた十年」の要因を特定す るに際しては,小泉政権下で,「失われた十年」から脱却し,「いざなぎ景気」 の規制緩和,株式売買委託手数料の自由化等が挙げられる。 !

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94 大谷欣也教授退職記念論文集(第 号) 平成 ( )年 月 を超える戦後最長の景気拡大を齎した要因を探求することが判断材料を与え る。 小泉政権下では,不良債権処理の遅延による金融システムの機能不全を回復 させる政策として「金融再生プログラム」が,デフレを脱却する政策として日 銀が実施した量的緩和政策が,構造調整を促進する政策として公共支出の削減, 行財政改革(特殊法人の統廃合・独立法人化・民営化),規制改革(起業促進 を企図した最低資本金制度の特例措置の導入,「対日投資促進プログラム」の 策定,人材派遣市場の規制緩和,国内航空の規制緩和,株式売買委託手数料の 自由化等)の三つの政策を含む構造改革がそれぞれ採られた )。従って,「失 われた十年」から脱却し長期景気拡大を齎した政策要因候補として,「金融再 生プログラム」,量的緩和政策,構造改革,の三つが挙げられる。また,こう した政策要因候補以外に,①デフレと量的緩和政策下で実質実効為替レートが 低下した中,世界景気の拡大も相俟って純輸出が増大したことに加え,②「為 替レート」の減価に伴う対外純資産の増価による資産効果から総消費・投資を 増大させたこと,③民間企業の経営努力による収益基盤の強化,の三つが指摘 される。以下では,これらの政策以外の要因候補を検討した後で,政策要因候 補を検討する。 .政策以外の要因候補 ( )実質実効為替レートの低下による純輸出増大 実質実効為替レート(日銀試算値で, 年 月を に基準化,数値が高 いほど円高であることを表す)の推移をみると, 年 月の .を頂点に 概ね一本調子で 年 月に .まで円安が進行したが,その後は 年 月まで ∼ の低位水準を安定的に推移している。こうした中,実質 GDP 成長率の寄与度分解をみると, 年第 四半期から同第 四半期までは外需 の寄与度が大きいものの, 年第 四半期以降は基本的に内需主導の経済成 )同政策からは,「構造改革派に近いリフレ構造改革派」の主張が色濃く反映しているこ とが窺われる。

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バブル崩壊後の恐慌・長期停滞リスク管理 95 長を続けている。従って,実質実効為替レートの低下による純輸出増大は,「失 われた十年」から脱却した主因とみることはできるものの,「いざなぎ景気」 を超える戦後最長の景気拡大の主因ではないことが窺われる。 ( )「為替レート」の減価に伴う対外純資産増価による資産効果 対外純資産増価を齎す「為替レート」は,実質実効為替レートではなく,「通 貨別の対外純資産価値で重み付けられた為替レート」であろう。同為替レート のデータは手元に無いが,我が国の純資産の過半がドル資産であることを考慮 して,円ドル・レートの推移をみると,たしかに 年初頭に ドル 円を 超える水準まで円安が進行する。然し,その後は円高方向に反転し, 年末 には ドル 円を割り込む水準まで円高に振れた後, 年央迄概ね ドル 円弱のやや円高の水準で推移している。こうした円ドル・レートの推移か ら推測して,「通貨別の対外純資産価値で重み付けられた為替レート」の減価 に伴う対外純資産増価による資産効果は,「失われた十年」から脱却した一因 とみることはできるものの,長期景気拡大の一因ではないと判断される。 ( )民間企業の経営努力による収益基盤の強化 一般に,民間企業の経営努力による収益基盤の強化は,不況が齎す効用の一 つであり,これが次期の力強い景気拡大を齎すことは,良く指摘されている。 今般の景気回復時にも,民間企業がバブル崩壊時に抱えていた債務,設備,雇 用の三つの過剰が解消されていることから,経営努力による収益基盤の強化が 為されていることが明瞭に窺われる。民間企業の経営努力による収益基盤の強 化は,「失われた十年」から脱却し長期景気拡大を齎した要因であると考えら れる。 問題は,こうした民間企業の経営努力がありながら,日本経済が長期停滞に 陥っていた事実である。それは,こうした民間企業の経営努力の裏側で,事実 上の経営破綻状態にありながら銀行の追い貸しを受けていた民間企業や拡張的 財政政策の恩恵に預かっていた公共支出関連の民間企業が景気回復の足を引っ 張っていたからではないのか。結局,前者の企業に対しては「金融再生プログ ラム」が,後者の企業に対しては公共支出削減を一つの柱とする構造改革がそ

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96 大谷欣也教授退職記念論文集(第 号) 平成 ( )年 月 れぞれ市場からの退出を迫り,産業構造調整を促進したからこそ,日本経済全 体の企業収益基盤の強化が図られたと考えられる。これは,「失われた十年」 の要因が不良債権処理の遅延と産業構造調整の遅延であることを示唆してい る。 .政策要因 ( )「金融再生プログラム」による不良債権処理の促進 「金融再生プログラム」導入後,不良債権処理が促進されたことについては, 前章で説明した。ただ,不良債権問題の解決は景気回復後であり,同解決過程 で貸し出しが低下していることから,不良債権問題の解決は直接に景気を回復 させたものではない。寧ろ,「失われた十年」における二回の景気拡大が金融 不安の再燃により短期間で腰折れしていることを考慮すると,不良債権問題の 解決は景気の長期拡大に貢献したとみられる。 然らば,不良債権問題の解決が景気の長期拡大に貢献した経路は如何なるも のであろうか。この疑問に対する厳密な解答は,今後の実証分析の結果を待っ て出される必要があるが,これまでの検討から判断して,銀行が不良債権を処 理し,資本供給機能を回復させることによって,融資先が従来の TFP 上昇率 の低い先からハイリスクではあるが高い TFP 上昇率が見込まれる新興成長企 業等へ移行し産業構造調整を促進した,と解釈し得る。これは,上記 .( ) の結論と同様に,不良債権処理・産業構造調整の遅延が「失われた十年」の要 因であることを示唆している。 ( )量的緩和政策 量的緩和政策については,前章で説明した通り,「中央銀行の購入する資産 構成の変化による効果」と「量拡大の効果」を企図した政策は有効ではなく, ゼロ金利継続を約束することによって民間の期待短期金利を低下させ,やや長 目の金利を低下させる「時間軸効果」を企図した政策のみが有効であったに過 ぎず,デフレを脱却できたのも景気回復後 年以上経た 年 月(消費者物 価指数ベース)であった。すなわち,リフレ派や一部のリフレ構造改革派が主

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バブル崩壊後の恐慌・長期停滞リスク管理 97 張していたような,「デフレ脱却無くして景気回復無し」でも無ければ,「デフ レ脱却には量的緩和政策が有効」でも無かったことになる。従って,デフレと デフレを齎した消極的な金融政策は「失われた十年」の要因として不適切であ ると考えられる。 ( )構造改革 一連の規制改革(起業促進を企図した最低資本金制度の特例措置の導入,「対 日投資促進プログラム」の策定,人材派遣市場の規制緩和,国内航空の規制緩 和,株式売買委託手数料の自由化等)は短期的な需要を掘り起こしつつ,産業 構造調整を促進したとみられる。また,産業構造調整を促進し日本経済の TFP 上昇率を高める,という中長期的な経済成長効果を先読みする市場の期待の上 方修正を映じた資産価値の上昇による資産効果 )についても,小泉政権発足 後の日経平均株価の推移,特に所謂「郵政解散選挙」以後の同株価の上昇に表 れている。構造改革が景気回復・長期拡大の要因であることが窺われる。この 間,景気回復期においても,その後の景気拡大期においても,国内公的資本形 成は実質 GDP 成長率の寄与度が一貫して負であった。以上の議論より,消極 的財政政策は「失われた十年」の要因として不適切であり,産業構造調整の遅 延が同要因であったことを示している。 以上の検討に基づき,バブル崩壊後の長期停滞の主因は,金融システムの資 本供給機能を停滞させた不良債権処理の遅延と日本経済の生産性を停滞させた 産業構造調整の遅延であると結論付けられる。 )ここでの総需要拡大経路の論理展開は, 厳密に言えば, 次のように為されるべきである。 すなわち,長期的な経済成長効果を先読みする市場参加者は,期待を上方修正するほか, これまで抱いていた将来の不確実性に対する警戒度を低下させる。前者は資産価値の上昇 による資産効果とリスク許容度の上昇を通じる間接的な経路で,後者は直接的な経路で総 投資・消費を増大させる,という短期的な景気拡大効果を期待し得る。これら三つの経路 のうち,よく指摘されるのは本文で挙げた資産効果のみである。然し,残りのリスク許容 度の上昇を通じる間接的な経路も,不確実性の減少に伴う不確実性警戒度の低下も,近年 の不確実性下の効用理論の発展を踏まえると,当然の経路であり,しかも相当程度の効果 があるとみられる。

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98 大谷欣也教授退職記念論文集(第 号) 平成 ( )年 月 .長期停滞リスクと再発防止策 上記検討により特定された長期停滞の二要因のうち,不良債権処理の遅延に ついては,「失われた十年」の経験から速やかに適切な金融システム安定化策 が打たれることが期待できる。また,後者の産業構造調整の遅延に対しても, 市場経済の自律的な発展を促すよう,政府を肥大化させず,適宜適切な自由化 を推進すれば,産業構造調整が遅延に陥るリスクは小さいと考えられる。 然し残念ながら,同問題に対する社会の一般的な認識は未だに低いほか,Ra-jan and Zingales( ) が指摘するように,資本主義社会では,「社会的成功」 を掴み取れなかった人々や進歩的知識人が市場の統制を要求するばかりでな く,同社会で「社会的成功」を収めたはずの経営者らも自己の保身動機から参 入障壁等の規制強化を要求する傾向がある。こうした市場経済統制の政治的圧 力が恒常的に働いている以上,長期停滞リスクを齎す主因とみられる産業構造 調整遅延リスクは「政治リスク」にほかならない。このような市場経済統制の 恒常的政治圧力に対抗し,「政治リスク」を軽減するためにも,本稿では十分 な解明にまでは至っていない産業構造調整の遅延と長期停滞の因果関係を解明 することが今後の課題である。 参考文献 池尾和人( ):『開発主義の暴走と保身―金融システムと平成経済』NTT 出版 岩田規久男( ):『デフレの経済学』東洋経済新報社 岩田規久男・宮川努編( ):『失われた十年の真因は何か』東洋経済新報社 大竹文雄・柳川範之編著( ):『平成不況の論点』東洋経済新報社 大村敬一・水上慎士( ):『金融再生 危機の本質』日本経済新聞出版社 黒田祥子・山本勲( ):『デフレ下の賃金変動』東京大学出版会

黒田昌裕・野村浩二( ):「生産性パラドックスへの一つの解釈―Static a nd Dynamic Unit TFPの提案」『金融研究』第 巻第 号

白川方明( ):『現代の金融政策 理論と実際』日本経済新聞出版社

西村清彦・中島隆信・清田耕造( ):「いま,日本のマーケットに何が起こっているの か?」経済産業研究所 Discussion Paper, ―J―

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林文夫編( ):『経済停滞の原因と制度』勁草書房 林文夫編( ):『金融の機能不全』勁草書房

Bold, Michael and Andrew Filardo( ):“Deflation in a Historical Perspeciti ves,”BIS Working Papers,

Chancellor, Edward( ):Devil Take the Hindmost―A History of Financial Speculation,(山岡洋 一訳『バブルの歴史』日経 BP 社, 年)

Hayashi, Fumio and Edward Prescott( ):“The s in Japan:A Lost Decade,”Review of Economic Dynamics, , pp. ―

Kindleberger, Charles P.( ):Manias, Panics and Crashes―A History of Financial Crises, th Ed., John Wiley & Sons Inc.

Rajan, Rag huram and Luigi Zingales( ):Savin g Capitalism from the CapitalistsUnleashing the Power of Financial Markets to Create Wealth and Spread Opportunity, Crown Business, New York

参照

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