数学的活動における生徒の課題意識や関心を高めるための方策
高度学校教育実践専攻 実習責任教員 藤 原 伸 彦 教員養成特別コース 実習指導教員 金 児 正 史 沖 本 直 稔 実習指導教員 江 川 克 弘 キーワード:数学的活動,課題意識,関心,導入の手立て,子どもの支えになる教師 第1章 はじめに 第1 節 研究の背景 (ⅰ)教職大学院入学の動機 私は大学時代から,人間関係,勉強,部活動 などで,悩み苦しむ子どもの支えになりたいと 思い教師を目指してきた。私自身が,高校時代 に苦労した際,私を支えてくださった先生のよ うになりたいと思ったのがきっかけである。大 学時代,確かな専門性も教育に対する知識・考 えもない今の私では子どもたちの前に立つ資格 はないと思った。もっと勉強して,確かな専門 性や幅広い知識を身に付けたいと思った。さま ざまな苦難を乗り越えたくましく生きる子ども を育てるための授業力,生徒指導力をつけるこ とを目標に,教職大学院への進学を決めた。 (ⅱ)研究の方向性 子どもたちがこの社会を生き抜くには,自ら 課題を見つけて考え,課題を解決する力が必要 だと考える。それを普段の授業の中で,身につ けさせていきたいと考える。数学と社会や日常 とのつながりを実感させ,生きていく上で役立 つ数学の資質能力を子どもたちが学ぶことがで きるような取り組みを実践していく。 第2 章 実践研究の分析 第1 節 1 年次実習 対象:鳴門教育大学附属中学校 第3 学年 附属中学校の実習では授業実践を数多く行っ た。授業が上手くいかない中,様々な方のアド バイスを受け,自分や生徒たちの様子が変わっ ていく4 つの段階があった。 ① 授業で生徒との関係性をつくる(10 月上旬) 授業をしても生徒の反応が少なく悩んでいた 際に,メンターの島尾先生から,生徒との関わ りは授業の中でつくるものだということを教え ていただき,授業の中で生徒と対話する機会を 増やそうと意識し始めた。 ② 授業の仕方の変化 (10 月中旬~11 月上旬→11 月中旬) メンターの島尾先生から「授業の導入がつま らない。」と言われ,実習指導教員の金児先生か らも「授業に仕掛けがない。」と指摘をされた。 また当時,副免実習で来ていたT 教生の授業は 様々な工夫をし,生徒たちが悩み考えるもので あった。それらのことを受けて,私自身の授業 のつくり方も附属中学校で使っている啓林館の 教科書,学習指導要領だけでなく,他社の教科 書や数学雑誌を使い,生徒の実態に合わせて教 材研究をするように変わっていった。 ③ 授業の導入の手立ての場合分け(11 月中旬) 生徒の課題意識を育てるための方策を徳島大 学から外部講師として来られていた坂田大輔先 生に相談をした。そして坂田先生のアドバイス を受け,導入の手立ての場合分けをした。 (ア) 具体例や具体物を用いて考える (具体例・具体物) (イ) 既習の内容や前回の内容を確認する(既習事項の確認) (ウ)作業を通して考えたり,実測したりする (作業・実測) これらを取り入れ,生徒の課題意識を育て,本 時の目標もかなえられる授業づくりをはじめた。 ④ 生徒が授業内容に興味をもった授業 (12 月上旬) 授業 円周角と中心角 2014 年 12 月 9 日 3 年 3 組で実践 ○本時の目標 円周角と中心角の関係について 考察し,円の性質を理解することができる。 ○導入の手立て 「(ア)具体例・具体物」を 用いた手立てとして,観覧車を使った導入(図 1)を選んだ。観覧車はぐるぐる回ることから, 円周角の性質(同一の弧に対する円周角は常に 等しい)を生徒に視覚的に伝えるのに最適であ ると考えたからである。そして「教師の観覧車 にまつわる体験談を話し,観覧車を円と見立て, プリントの∠APB の大きさが,点 P の位置にと もなってどのように変わるか,角度を測って調 べる」という内容を考えた。 図1 円周角と中心角の授業の導入課題 ○分析 導入に遊園地の話をしたことや円を観 覧車に見立てたことで生徒の興味・関心をひく ことができた。展開に入ってからも数学が嫌い な生徒や話し合い活動が苦手な生徒が一生懸命 授業に参加できていた。一方で授業の板書(図 2)がまとまっていないため,この時間で何を 学んだかが後で見直した際に分かりにくくなっ てしまった。 図2 円周角と中心角の授業の板書 第2 節 2 年次実習 対象:鳴門市第一中学校 第2 学年 2 年次の実習では学校生活の中で生徒と関わ る機会が多く,生徒との関係づくりの大切さと その関係の中でどう授業をしていくかを考えさ せられた。2 年次の実習でも私自身の考え方や 生徒の様子が変わった場面をあげていく。 ① 公立の多様な生徒との関わり(4,5 月) 鳴門市第一中学校は生徒数も多く,多様な生 徒がいる。テストの点も高い生徒から低い生徒 まで幅が広かった。生徒との関係づくりでは, 私に興味を示して寄ってくる生徒と,私を嫌う 生徒とがはっきりしている。どちらの生徒とも 上手くつきあう方法に悩まされた。 ② 生徒のつまずきを押さえきれなかった授業 (6 月上旬) 授業 連立方程式(1 時間目) 2015 年 6 月 8 日 2 年 F 組で実践 ○本時の目標 2 元 1 次方程式とその解の意味 や2 つの 2 元 1 次方程式を連立させることの必 要性とその意味を理解することができる。 ○導入の手立て 今回は新しい単元の1 時間目 ということで,「(ア)具体例・具体物」として 回転ずしの食べた個数と皿の枚数の関係を取り 上げる。おすしが1 皿に 2 個のっているものを 3 皿食べたら食べたすしの個数は 6 個というよ
う な 関 係 を 導 入 と し て 確 認 す る よ う に す る 。 「(イ)既習事項の確認」として中学校 1 年生 で習った1 元 1 次方程式について復習する。 ○分析 導入の工夫をしようとしたが,1 元 1 次方程式の復習とおすしの皿の枚数と個数の関 係の話を同時にしてしまったため,今日は何を 目的とした授業であるかが生徒に伝わらなかっ た。この導入をきっかけに数学の話(x と y)と 日常の話を行き来してしまったため,この授業 の目的は何かが見えにくくなった。結局,生徒 に課題意識をもたせることはできず,授業内容 を理解させることもできなかった。 ○改善策 改善策として 2 つのことを考えた。 1 つ目は導入の段階ではおすしの食べた個数と 皿の枚数の具体例をあげていくことで,その関 係性に気づかせる。2 つ目は生徒のつまずきや すいポイントを板書に残すことである。x と y が何を表しているのか,表が何を表しているの かを板書に示す(図 3)ことで本時の授業の流 れが生徒にも見えてくると考えた。 図3 連立方程式の授業 改善後の板書 ③ 考える問題に対して生徒は興味関心をもつ (10 月中旬) 鳴門市第一中学校に実習に行きはじめて,4 ヶ月以上が経っているにもかかわらず,生徒と の距離が縮まっていない気がしていた。そこで 私が自習監督をする際,何かできることがある のではないかと考えた。ただ自習をさせるので はなく,思考力のいるゲームのような問題を行 なった。例えば「9L の水が量れる容器と 4L の 水が量れる容器がある。この二つの容器を使っ て,6L の水をつくりなさい」という問題を出し たところ,生徒は思いのほか集中して考えてい た。数学が嫌いで普段あまり授業を聞かない生 徒でも,「絶対解きたい」と言って必死で考えて いた。また徐々にヒントを出すことで,考える のが苦手な生徒も「そこまで分かったらできる かも」と言って,実際に解けたときはとても喜 んでいた。授業後には,「先生,今日の問題おも しろかったよ。またこんな問題出して。」という 生徒が何人もいた。この出来事を通して,あま り話すことができなかった生徒とも話をする機 会が増えていった。また勉強が嫌いな生徒であ っても,頭を使って考えるという行為そのもの は嫌いではないことが分かった。このようなこ とを数学の授業の中でも取り入れるようにでき れば,関心や課題意識を高めることにもつなが るかもしれない。 ④ うさぎとかめの授業(11 月中旬) 授業 1 次関数の利用 2015 年 11 月 17 日 2 年 F 組で実践 ○本時の目標 うさぎとかめの物語を参考に, 物語を自らつくり,それを自分でグラフに表現 する((ウ)作業・実測)ことができる。 ○導入の手立て 「うさぎとかめ」の物語の読 み聞かせをし((ア)具体例・具体物),うさぎ とかめの競争を表したグラフ(図 4)を見せ, グラフの見方を確認する((イ)既習事項の確認)。 ○分析 物語をつくる活動に生徒全員が意欲的 に参加し,グラフをかくことができていたのが 何よりもよかった。物語をかいてグラフをつく
図4 うさぎとかめの競争のグラフ るという目標に特化したのがよかったのかもし れない。生徒たちもよく考え,おもしろい物語 やグラフかいていたので,授業をしている私に も新しい発見がいくつもあった。ただ生徒の中 で「この授業はおもしろかった」というところ で止まってしまった。「グラフを式にしたらどう なるのだろう。」と考える生徒が何人か出てきて ほしかった。つまり私がもたせたかった課題意 識まではたどりつかなかったということである。 ○改善策 この授業をよくするために,2 時間 構成として生徒の課題意識を高めるためにどう するか考えた。まず1 時間目では,うさぎとか めの競争のグラフを読み取り,その後絵本の話 を聞き,物語とグラフを対応させて説明すると きの方法を教師が見本を見せる。また,うさぎ とかめの競争のグラフの例をいくつか見て,ど んな物語か想像する。そして今度は実際に自分 で物語とグラフをつくってみる。グループで各 自がつくったグラフと物語を対応させながら説 明しあう。2 時間目では,前回の続きとして, 面白い考え方をしている物語は全体で発表しあ い,共有する。生徒がかいた物語のグラフを式 で捉えなおし,式からどんなことが分かるかを 各自で調べる。このような構成にして今後また 実践してみたい。 第3 章 2 年間の省察 第1 節 2 年間の省察 基礎インターンシップで授業をする中で,授 業内容への不安はまだまだ残っているが,生徒 の様子に目を向けられるようになってきた。そ して総合インターンシップを通じて生徒との関 係性をつくることで,生徒の人間的成長に関わ れることができるようになることはもちろん, 授業実践も有意義になることを実感した。今後 は更に,教材は日常のあらゆることに隠れてい ることを意識して,生徒の目線になって興味関 心をもたせる方法を考え,つまずくところを押 さえた授業づくりをしていきたいと思った。 第2 節 めざす教師像 私が大学時代から思い描いていた「子どもの 支えになる教師」になることをこれからも忘れ ずに目指していきたいと思う。「生徒がもっと よくなるためにはどうしたらよいのだろう。」, 「どんな授業をしたら数学に興味をもてるよう になるかな」と常に生徒のことを考えられるよ うにしたい。生徒がよりよく成長していくため に私にできることをすべてすることが「子ども の支えになる教師」だと思う。 そして,今回の私の研究テーマである「数学 的活動における生徒の課題意識や関心をもたせ るための方策」という研究課題はまだ達成され ていない。生徒が自分で課題を見つけてそれを 解決しようとする意欲は,今の変化が激しい社 会では必要である。子どもたちが厳しい社会に 出ても生き抜いていけるように,今後もこの研 究を続けていきたい。 参考文献 板橋 悟(2011) なぜ分数の割り算はひっくり 返すのか?-数学ギライも図に描けばすぐ理 解できる-,主婦の友社. 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 1100 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 220