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音楽アウトリーチのコラボレーションに関する一考察 ─特別支援学校での実践をもとに─

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音楽アウトリーチのコラボレーションに関する一考察

―特別支援学校での実践をもとに―

吾 妻 真 衣

・林     睦

**

A Study on Collaboration in Music Outreach

Based on the Case of Creative Music Making at Special-needs School

Mai AZUMA・Mutsumi HAYASHI

キーワード:音楽、アウトリーチ、コラボレーション、特別支援学校 1.はじめに 「アウトリーチ(outreach)」という言葉は英 語で、「手を伸ばすこと、手を差し伸べること」 という意味をもつ。もともとは社会福祉の分野 で一種の啓蒙活動、教育普及活動という意で用 いられ、現場へ出向いて活動するなど、受け手 の立場に立った手法をとることを特徴としてい る。そこから転じて音楽分野でのアウトリーチ とは、林睦(以下、林)の定義では「音楽家や 音楽団体・機関が普段音楽に触れる機会の少な い人々に働きかけ、音楽を普及すること1) 」で ある。そして音楽の提供者と享受者が対等な立 場で一緒に楽しむ双方向的な活動というスタン スが特徴である(林 2003)。 吾妻真衣(以下、吾妻)は滋賀大学教育学部 在学中に林の指導のもと、音楽教育講座の仲間 と共にアウトリーチ活動に参加したことをきっ かけに、学校における音楽のアウトリーチ活動 に興味を持つようになった。吾妻は在学中に計 3 回のアウトリーチ活動に取り組んだが、1 回目 は小学校での創作音楽劇、2 回目は滋賀県内の 養護学校高等部を対象とした伴盤ハーモニカに よるコンサートであった。二つとも学校からの * 守山市立守山小学校 ** 滋賀大学教育学部 リクエストを受けてあらかじめ大学の教員と学 生とでプログラムを用意し、子どもに提供する という形式だった。アウトリーチの研究を専門 とする林と、どうすればより活動を充実させる ことができるかと議論を進める中で、中心的な 課題となったのは教師・音楽家・子どもの三者 の「コラボレーション」であった。アウトリー チ活動においていかに三者が「コラボレーショ ン」をするかがアウトリーチ活動を充実させる 伴となるのではないかと考えたのである。吾妻 は林の紹介を受け、特別支援学校の教員とし て、音楽家をゲストに招いて音楽づくりを行っ ている岡ひろみ(以下、岡)の協力を得て 3 つ目 のアウトリーチ活動に取り組むこととなった。 この活動は滋賀県内の養護学校中学部の生徒を 対象とした授業であり、構想段階から教師・音 楽家・子どもの三者の「コラボレーション」を 意識して、岡と林、吾妻を含む学生との綿密な 打ち合わせを経て作り上げた。そのため本論文 では、この 3 つ目の実践について、三者の「コ ラボレーション」に視点を置いて述べていくこ ととする。 まずは、学校でのアウトリーチ活動における 教師・音楽家・子どもの三者の関係性について論 じることにしよう。学校にアウトリーチ活動を 取り入れることで、それまでの子どもと教師と いう二者の関係に音楽家が加わることとなり、

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新たに三者の関係が生まれる。林(2003)では、 この新たな関係を下記図 1 のような図を使って 説明している。そして音楽家という第三者が加 わることによって、教師と子どもという二者間 での学びとは異なる新たな学びや気づきを互い に得ることができるようになることを指摘して いる。 Ꮚ࡝ࡶ ᩍᖌ 㡢ᴦᐙ 図 1 三者の関係図2) 図が示すように三者は対等な立場であると ともに、互いに影響し合う関係である。そして この双方向のやりとりを繰り返す中で生まれる のが、三者の「コラボレーション」である。次 節では、音楽のアウトリーチ活動において生ま れる「コラボレーション」について、吾妻が考 えた定義を述べていきたい。 2.三者のコラボレーションについて 学校におけるアウトリーチ活動の充実には 教師・音楽家・子どもの三者の「コラボレーショ ン」が重要であることは先に記したが、「コラ ボレーション」についての研究はまだ深くはな されていない。そこで吾妻はまず、この三者の 「コラボレーション」について、図を使って定義 づけをした。 2.1 コラボレーションの定義 まず「コラボレーション」の意味について、 そのイメージを共有しておきたい。「コラボレー ション(英:collaboration)」には、「異なる分 野の人や団体が協力して制作すること、またそ の制作されたもの、共同制作・共同作業」とい う意味がある。「コラボレーション」のイメージ はしばしばパズルや歯車に例えられる。ただ、 パズルはある意味で「静的」なイメージである ことから、ここでは「協力し制作する」という 「コラボレーション」の「過程」に注目するに あたり「動的」なイメージがわきやすい下記図 2 のような「歯車」を使って「コラボレーショ ン」の概念について考えていきたい。

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図 2 コラボレーションのイメージ図 (A、B の二者間で生まれる場合) 図に沿って説明をすると、A・B の二者間の 「コラボレーション」では、それぞれが持つ「創 造性」や「専門性」、「能力」などを「歯車」に 例えている。この両者の「歯車」を互いに「回 転させる」ことで「歯車」が「合致」し、「コラ ボレーション」が成り立っていることが示され ている。「回転させる」とは、両者の特性やア イディア(「歯車」)を相互に「主張」したり、 相手の行動や考えを受けて「調整」したりする ことを示している。さらに、「歯車」を「回転 させる」にあたっては、常に「相互に影響を及 ぼし合う」ことで「歯車」が「かみ合った」状 態になる。この「かみ合った状態」とは、「コ ラボレーションによって完成されたもの」であ り、その過程である「コラボレーション」その ものを示している。このことから、本論文で吾 妻が考える「コラボレーション」とは、「それぞ れの特質を生かし相互に影響を及ぼし合いなが ら、アイディアの合致や相互の共感を生み、あ る物や空間などを創造したり共有したりしてい くこと」であることを示しておきたい。 では次に、音楽のアウトリーチ活動における 「教師・音楽家・子ども」という三者間の「コラ ボレーション」について述べていきたい。

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2.2 アウトリーチ活動におけるコラボレーション 林(2003)が述べている「学校でのアウトリー チの関係図」を見ても、教師・音楽家・子ども の三者が相互にかかわりあっていることが分か る。そこで、前述した「コラボレーション」の 図に倣い、三者間の「コラボレーション」につ いても以下図 3 のような「歯車」のイメージ図 を使って説明をしていく。 㡢ᴦᐙ 図 3 教師・子ども・音楽家の三者間で生まれる コラボレーションのイメージ 音楽のアウトリーチ活動における「コラボ レーション」で示す「歯車」については、その 内容や場合によって意味が変化するが、例を挙 げるならば、「教師」・「音楽家」・「子ども」がそ れぞれに持つ「音楽性」や「表現」・「感性」な どを示している。つまり「コラボレーション」 の内容や中心となる三者の関係によって、相互 に作用する歯車の中身は異なってくる。ここで 確認しておきたいことは、音楽のアウトリーチ 活動は、教師と子どもという既に関係性が成り 立っている所に、第三者である音楽家が加わる ことによって完成するということだ。音楽のア ウトリーチ活動における「教師と子ども」の関 係性は既に築き上げられたものであり、両者の 「歯車」は三者間の「コラボレーション」が生ま れる前から「かみ合っている」といえる。この ことから、本論文では三者間で生まれる「コラ ボレーション」について、「教師と音楽家」の二 者を中心として生まれるものと、「子どもと音楽 家」の二者を中心として生まれるものに焦点を あて、アウトリーチ活動の充実について述べて いくこととする。 3.活動の計画と内容 研究対象であるアウトリーチ活動は、2019 年 12 月 5 日に滋賀県内の養護学校中学部の生 徒 13 名を対象として実施した。場所は養護学 校の音楽室とプレイルームである。授業の主指 導を担った教師は岡、そしてサブ指導者は 4 名 であった。この活動に参加した滋賀大学のメン バーは林と、学生は吾妻を含めた当時の音楽教 育講座 4 年生 11 名である。 この授業では子どもと音楽家の「コラボレー ション」を重視したものであったことから、授 業で使用した楽器は生徒が普段の音楽科の授業 で使用していたスリットドラムに加え、学生が 用意したオーボエ・クラリネット・サックス・ ホルン・トロンボーン・ユーフォニアムの各管 楽器と、クラベス・ウッドブロック・オルフ木 琴といった、生徒が使用するスリットドラムと 同じ木製の打楽器である。 対象生徒は、中学部の 2 クラス 13 名(1 組 1 年生 6 名、2 組 3 年生 7 名)、認知発達は 1 歳半 から 5 歳程度である。言葉だけでは理解が難し く具体物を使う等の支援が必要な生徒から、話 し言葉でのやり取りが十分に可能な生徒まで、 その実態は多様である。一方音楽に関しては、 どの生徒も活動を楽しむことができる。 そこでこの活動では、学生の管楽器に触れた り演奏したりする管楽器の体験と、学生と生徒 が一緒になって音楽づくりをする活動に取り組 むこととした。次に、教師と学生の「コラボレー ション」に焦点をあてて、活動の計画について 具体的に記していきたい。 3.1 活動の計画 活動に向けた打ち合わせは計 3 回実施し、平行 して教師と学生がそれぞれに準備に取り組んだ。 まず打ち合わせについて、2 回目までは岡・ 吾妻・林の 3 名で行い、活動の方向性や内容に ついて話し合った。岡からは生徒の実態につい て聞き、吾妻は学生が演奏可能な楽器やこれま でのアウトリーチで取り組んだ活動内容を伝え

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た。互いに情報を伝えあった後に、活動内容や 活動目的・留意事項になどについて具体的に話 し合った。「管楽器の生演奏はなかなか生徒も経 験できない」という岡の意見を受け、管楽器を 使った活動を取り入れることが決定した。さら に、生徒が授業で楽譜を使った音楽づくり取り 組んでいることを受け、生徒が普段使用してい るスリットドラムと学生の管楽器を使ってコラ ボレーション演奏を取り入れることとなった。 3 回目の打ち合わせでは、それまでの打ち合 わせをうけて岡が作成した指導案をもとに、実 際に楽器を使って流れを確認した。活動の内容 だけではなく、学生の登場の仕方や生徒に話し かける際の言葉選び等についても確認し、「視線 の整理」や「わかりやすさ」といった、必要な 支援を意識することができた。 3.2 活動内容について 授業の中で取り組んだ活動は主に 3 つであ る。1 つ目は生徒が楽器のおもしろさに触れる ことができる「管楽器体験」、2 つ目は生徒のオ リジナル楽譜をもとに生徒と学生が互いに演奏 を披露する「楽譜紹介」、そして 3 つ目が生徒 の演奏に学生が入り込むコラボレーション演奏 である。導入部で生徒が初めて管楽器の音色を 知り、各楽器に分かれて体験をした後、生徒の オリジナル楽譜を使って生徒と学生がそれぞれ に演奏を披露しあう。そしてグループに分かれ て生徒と学生のコラボレーション演奏に取り組 み、各グループの演奏を発表した。最後は、教 師も生徒も学生も皆が一緒になって〈森のくま さん〉を演奏して活動を締めくくった。具体的 な活動の流れについては、【図 4: 授業の流れ】を 参照されたい。 次節からは、各活動について、その内容や活 動における教師・生徒・学生の様子について記 していきたい。 3.3 管楽器体験 管楽器体験では実際に楽器を構えたり演奏 したりすることを体験する取り組みが一般的で あると考えられるが、今回の活動では生徒の実 態に合わせてその体験方法も変えていく必要が あった。そこで岡と話し合い、管楽器体験の目 的を吹く・演奏することに限らず、「管楽器の面 白さを知る」こととした。 管楽器の演奏には、正しい奏法を理解するだ けではなく、楽器を鳴らすための呼吸に加え、 音程を操作するための腕や手の運動が必要であ る。楽器に触れる生徒の様子を見ながら、それ ぞれの生徒に合う楽器体験の方法を工夫した。 オーボエを体験した生徒は話し言葉でのや り取りが可能であり、生徒自身から「吹きたい」 という意欲が感じられたことから、楽器の持ち 方や吹き方の説明から楽器を実際に吹くという 一般的な体験の方法をとった。 クラリネットの体験では、生徒のリクエスト に学生が応じて間近で演奏を聴かせるという方 法であった。生徒はクラリネットの生演奏に合 わせて大好きな曲を口ずさみ、サブの教師と顔 を合わせて手拍子をしていた。 サックスの体験では、言葉でのやり取りが可 能であったが、生徒が息を入れて鳴らすことが 難しかったことから、学生が楽器の向きを変え て音を鳴らし、生徒がキーを押さえて協同で音 を鳴らすという対応をとった。 ホルン・ユーフォニアムの体験では、言葉で のやり取りが難しく、比較的発達年齢の低い生 徒が多かったため、学生は「楽器の面白さを知っ てもらう」という観点で対応をした。具体的に は、ベルに顔を近づけ音がどこからなっている かを感じることや、楽器のピストンを押して音 の高さが変わることに気づくこと等、目的を変 えて体験をさせた。またマウスピースを持たせ る場合も、あえて正しい持ち方や吹き方は説明 せず、生徒が自らいろいろな持ち方や吹き方を 試している様子も見られた。 トロンボーンの体験では、学生が息を入れ て楽器を鳴らしている状態でスライドを動かす 体験が主に実施されていた。ほかの管楽器に比 べて楽器を操作する動きが大きいため、生徒に とっても音が変化する仕組みが分かりやすかっ たのではないだろうかと思う。夢中になってス ライドを動かす生徒の姿も見え、その場にいた 学生は「生徒が音を操作している感覚にはまっ ている印象だった」と述べている。 このように、生徒の様子に加えて管楽器ごと の特性によっても、様々な体験の方法があるこ

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とが分かる。一方で、楽器の種類に関係なく管 楽器体験を行うにあたっては、気を付けなけれ ばならないことがいくつかあるということも分 かった。1 つめは楽器の扱いである。生徒の実態 によっては楽器を扱う際の力加減が難しく、楽 器をたたいたりマウスピースを地面に放ってし まったりする場面もあった。そこで、生徒も学 生も安心して体験できるようにサブの教師やア シスタント役の学生が楽器を支えるなどの役割 を担っていた。2 つめは指示の仕方である。言 葉での指示が伝わりにくかったため、「触れる」 「操作する」といった体験については、アシスタ ント役の学生が実際に楽器に触れる姿を見せ、 生徒に体験の仕方を示していた。3 つ目は体験 場所の整理である。生徒の中には同じ部屋でい ろいろな楽器の音が混ざり合う状況に気を取ら れ、目の前の楽器の音色に耳を傾けることが難 しい者もいた。それぞれの楽器の面白さをじっ 図 4 授業の流れ 展開 場所 活動内容 子ども(C)の動き 教師(T)の動き 学生(S)の動き 導入 展開 まとめ 音楽室 木管楽器:音楽室 金管楽器:プレイ ルーム 音楽室 木管楽器:音楽室 金管楽器:プレイ ルーム 音楽室 ・挨拶 ・S 登場 ・ 自己紹介、楽器 紹介 ・管楽器体験 ・楽譜発表 ・ コラボレーショ ン演奏(練習) ・ コラボレーショ ン演奏(発表) ・〈森のくまさん〉 音楽の要素を考えた 挨拶をする。 登場する楽器に注意 を向け、S の演奏に 合わせて歌う。 楽器の音を聴く。 実 際 に 吹 い て み た り、楽器に触れたり して楽器の面白さを 体験する。 二 組 A グ ル ー プ が 作った曲を、作成し た楽譜を見ながら演 奏する。 1 組 A、1 組 B、2 組 A、2 組 B に分かれ、そ れぞれのグループご とに S と練習をする。 1 グループずつ発表 をする。 S の演奏に合わせて 一緒に歌う。 C とのやり取りであいさ つの方法を決定する。 森のくまさんの伴奏を弾 き、C と一緒に歌う。 演奏後 S の紹介につながる ように S とやり取りをする。 C の反応を見ながら楽器 ごとにコメントをする。 体験への意欲を引き出す た め に 声 掛 け を し、 グ ループごとの体験場所に ついて指示をする。 C の様子を見ながら S と共 に C を褒めたり、活動場所 の交代を指示したりする。 楽譜について説明するよ うに C に促す。 C の演奏についての感想 を S に求め、S の演奏へと 場面をつなげる。 C の A グループ以外も作 成した楽譜があることか ら、S と一緒に演奏する ことを提案する。 各グループの様子を見な がら必要な声掛けをする。 グループごとに簡単な感 想を伝える。 S の演奏に合わせ、一緒に 歌う。 プレイルームで待つ。 歌の途中から楽器で演奏に加わり、 登場する。 トロンボーン→クラリネット・オー ボエ→ホルン・ユーフォニアム→ サックス の順に楽器を紹介し、曲の 1 フレー ズを演奏する。 C の様子を見ながら T の協力を得 て楽器体験の対応をする。 C の演奏について感想を伝える。 C の楽譜をもとに作成した楽譜につ いて説明し、楽譜をもとに演奏する。 C の演奏の様子を見ながら音量や 楽器の種類を調整する。 C と一緒に発表をする。 C、T に合わせて一緒に演奏する。

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くりと体験してほしい場合、生徒がその楽器の みに集中できるような支援が必要であることが 分かった。 3.4 楽譜紹介 この活動では 2 組の生徒の一部が音楽の授業 で作ったオリジナル楽譜を教材とした。この楽 譜には、生徒の演奏順序や曲想の変化(繰り返 し・強弱の変化・重なり等)が付箋で記されてい た。まず生徒が楽譜についてほかの生徒や学生 に向けて説明し、実際にスリットドラムを使っ て発表をした。そのあとに学生が生徒の楽譜を 模したものを用意し、同様に説明をして発表を した。実際に使用した楽譜については、次に示 す写真を参照されたい。 図 5 生徒の楽譜〈上〉、学生の楽譜〈下〉 学生は楽譜の作成にあたって、生徒に同じ 楽譜であることが分かるように演奏方法を話し 合った。生徒の楽器はスリットドラムであり音 高の変化があまり大きくないが、学生は管楽器 であったことから、不協和音にならないよう調 性をそろえた。また、楽譜の繰り返しを示す部 分については、生徒にわかりやすいように単純 なリズムと少ない音を使ってフレーズを繰り返 すことにした。 生徒の楽譜と学生の楽譜の構造が同じであ ることや、音楽の作り方が同じでも楽器を演奏 する人が違えば曲の雰囲気も異なることなど、 それぞれの発表と楽譜を結びつけられる生徒は 少なかったように感じた。また参観者からは、 楽譜を使って演奏の違いを感じさせるためには もう少し音楽的な経験を積み重ねる必要があっ たのではないかという意見もあった。しかし生 徒に対する岡の「A さんはオーボエと同じだね」 という声掛けや、学生の「みんなと同じように、 ここで 5 回繰り返します」という説明に対して うなずく生徒の姿も見られた。また楽譜につい て理解していない様子の生徒も、管楽器を体験 した後に演奏を改めて聴いたことに意味があっ たのではないかと思う。 3.5 コラボレーション演奏 生徒は学年とその実態によって 4 つのグルー プに分かれており、グループごとにオリジナル の楽譜が用意されていた。言葉でのやり取りが 難しい生徒も、教師の合図を頼りに楽譜に示さ れた自分自身の演奏順に沿って演奏することが できていた。そして学生がそれぞれのグループ に加わり、生徒の音楽をもとに一緒に演奏する 活動に取り組んだ。 グループごとに演奏の様子は異なり、楽譜紹 介で発表したグループのように楽譜をより高度 な段階で再現できる場合もあれば、グループ内 で演奏する順番を理解し、演奏についてはその 場の気分や興味によって音を探し紡いでいく即 興性の高い演奏をする場合もあった。学生はこ のような生徒の多様な音楽を引き立て、一緒に 演奏していかなくてはならなかった。 この活動において重要なことは、生徒と学 生がいかにしてコミュニケーションをとるかと いうことであった。ただ生徒のタイミングに合 わせて音を発するのではなく、一緒に演奏して いるという感覚を両者が得られることを重視し ていたためである。まず言葉でのコミュニケー ションを図る場合、次の二つのことが必要であ る。1 つ目はオープン・クエスチョンを避ける ということである。「どんな音が欲しい?」「ど んな音楽にしたい?」という質問は言葉でのや りとりが可能な生徒にとっても抽象的で答え方 に悩んでいる様子であった。2 つ目は生徒と学 生の二者ではなく教師・生徒・学生の三者でコ ミュニケーションを図るということである。生

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徒と学生の二者が言葉でコミュニケーションを とろうとするよりも、生徒との歯車が既にかみ 合っている教師を含めて意思疎通を図るほうが やり取りは円滑に進んでいる印象であった。こ れは、教師は生徒の細かな表情の変化を見逃さ ず、少しのつぶやきでも生徒の思いを読み取る ことができることや、学生の発言を生徒が理解 できるように言い換えて伝えることができたか らではないかと思う。言葉でのやり取りでは特 に生徒と学生をつなぐ教師のやりとりが重要で あることがわかる。 一方で、言葉でのやり取りは演奏においてさ ほど必要ではないことが分かった。実際に楽器 を手に取り、生徒と学生が一緒に演奏をし始め ると、生徒の息遣いや手先の動き、目線に注意 を向けることで生徒の音楽的な意図を感じるこ とができた。生徒が発する音に注意を向けられ ると、生徒が紡いでいこうとする「音楽の流れ」 のようなものを感じることができ、生徒の合図 に合わせて一緒に息遣いをそろえたり、生徒の 音楽を模倣したりすることで、生徒と音楽を一 緒に演奏することができていると感じられた。 生徒の中には、演奏中に学生と目を合わせ微笑 む姿や学生の方を見て合図を姿も見られた。学 生からは「ただ生徒の音楽が心地よく、その音 に合わせて楽しむことができた」と感想を述べ るものもいた。コラボレーション演奏において は、その場で生徒と学生が一緒になって音楽を 楽しむことで充分に「コラボレーション」が成 り立っているような印象だった。 4.アウトリーチ活動をより充実させるための コラボレーションの在り方について 本節では、前節で述べた活動をもとに、学 校における音楽のアウトリーチ活動をより充実 させるための視点について、その準備段階や教 師・音楽家・子どもの「コラボレーション」に 関する考察を述べていきたい。また先に述べた ように、教師と子どもの歯車は既にかみ合って いるという前提のもと、教師と音楽家の二者を 中心とした「コラボレーション」、子どもと音楽 家の二者を中心とした「コラボレーション」の 二つに分けて述べていきたい。 4.1 教師と音楽家のコラボレーション 教師と音楽家が「コラボレーション」を成立 させるために必要なことは、活動を構想する段 階における綿密な打ち合わせである。前節の養 護学校における活動でも、岡との打ち合わせは 三回行い、当日の流れについて何度も確認を取 り合った。「コラボレーション」とは異なる性 質を持ったものが協力して物事を成し遂げるこ とであり、教師と音楽家はそれぞれに異なる歯 車を持っているといえる。互いの専門性を活か し、この歯車をすり合わせていく作業が打ち合 わせにあたる。この打ち合わせから活動を迎え るにあたり、以下のような段階を踏むべきであ ると考えた。 ① 教師と音楽家が互いの役割や活動で提供でき る専門性を確認する。 ② 子どもの実態や活動の目的・内容を具体的に 共有する。 ③ 模擬実践をしながら活動の流れを確認し、互 いに調整をする。 アウトリーチの中心にいるのはあくまでも 子どもであり、活動の当日には、音楽家は教師と 子どもの関係にできる限り自然に加わることが 望ましい。そのため、提案したこの段階は教師 と子どもに新たに音楽家が加わり、スムーズに 三者の関係が成り立つための準備ともいえる。 ①の段階にも示しているように、この二者間 における「コラボレーション」では、互いの役割 や専門性を明確にしておく必要がある。前節の 活動の際には、音楽家の立場である吾妻が学生 の演奏できる楽器や演奏形態について報告した ことがきっかけとなって、管楽器体験をするこ とが決まった。①の段階に限らず、アウトリー チ活動全体において、授業を進めていく教師の 役割と、音楽体験を届ける音楽家の役割は明確 に分担するべきであると考える。ただし、互い の役割について理解し、互いの意向を理解した うえでそれぞれが役割を全うしていくことが理 想である。 ②の子どもの実態や活動目的等を共有して おくことは、当日のいかなる状況においても教 師と音楽家が冷静に対応できるようにしておく

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という意味でも、非常に重要な段階だといえ る。今回の活動では、事前に養護学校まで学生 が出向き子どもの様子を見るということはでき なかったが、岡から生徒の実態を細かく聞くこ とができたため、生徒の実態について具体的に イメージすることができた。また実態だけでな く、岡が目指す音楽科における各生徒の目標や 姿、そしてこれまで取り組んできた授業の様子 について映像を含めて聞くことができたことも 活動の様子を具体的にイメージする手がかりと なった。 ③のシミュレーションについては、教師と音 楽家の両者がそろっている状態で行うことが望 ましい。教育的な視点・音楽的な視点の両方か ら活動の流れを確認することによって、当日の 留意点や修正すべき点に気づくことができると 考えるためである。岡と吾妻はこの段階におい て、導入部分の学生の登場の仕方を調整し、学 生が生徒に向けて話すときの支援の方法につい て確認することができた。今回の活動に参加し た学生の多くが特別支援教育に関する知識を十 分に持っていなかったことから、この打ち合わ せにおいては「視線の整理」や「簡潔でわかり やすい話し方」について岡に確認する機会にも なった。シミュレーションを行うことによっ て、当日の子どもの反応をより具体的に想像す ることができたり、互いが想像していた授業の ずれを修正したりすることができる。学生から は、コラボレーション演奏では実際の生徒の様 子を見て柔軟に対応しなければならないという ことが具体的に分かったことで、当日への心の 準備ができたという意見もあげられた。 これらの段階と並行して、教師と音楽家はそ れぞれの役割を踏まえた準備を進めていかなく てはならない。当日までに両者の歯車を噛み合 わさった状態にし、活動では互いの役割を全う することで、音楽家は教師のサポートを受けな がら、音楽による子どもとの関わりに集中する ことができる。そして「教師・音楽家・子ども」 というその活動の時間でしか体験できない「コ ラボレーション」を生み出していくことができ るのである。 4.2 子どもと音楽家のコラボレーション 子どもと音楽家による「コラボレーション」 とは、両者が一緒になって音を紡いだり、音楽 を共有したりすることである。吾妻は、この 「コラボレーション」を充実させるための三要 素について考察した。三要素は、媒体・コミュ ニケーション・即興性である。 媒体とは、「コラボレーション」において子 どもと音楽家が共有するものを指す。例えば管 楽器体験における「コラボレーション」の媒体 は管楽器であり、音楽家が子どもに対して演奏 を披露する場合の媒体は曲である。また、コラ ボレーション演奏における媒体は両者が表現す る音や音楽そのものであった。このように、活 動内容によって何が媒体となるかは異なるが、 媒体を選択するにあたり、「コラボレーション」 を充実させるための基準があると考えた。それ は、子どもと音楽家の両者にとって親しみやす く、扱いやすいもの、わかりやすいものである という基準である。媒体が曲であれば、あらか じめ教師や子どもから曲のリクエストをもらっ ておくと、曲の選択肢を増やすことができる。 ただし、著名な歌手の曲等、オリジナル音源が 多くの人に浸透しているような曲は、編曲や楽 器の編成によって子どもに違和感を与える場合 があるので、演奏形態についても考える必要が ある。楽器を媒体とする場合、トロンボーンの ように操作の方法が一目でわかる楽器は幼い子 どもにも向いており、オーボエやクラリネット 等、指の動きが複雑な楽器や音を鳴らすために 一定の息の圧力を必要とする楽器はその体験の 仕方に工夫が必要である。 コミュニケーションについては、音楽の特性 を生かしたノンバーバル・コミュニケーション が有効である。アウトリーチ活動に限定せず、 他者と一緒に演奏したり歌ったりする場面を思 い浮かべていただきたい。私達はタイミングを そろえるために互いの呼吸を確認したり、目で 合図を出したりする。演奏をするときに行われ るこの音を介したノンバーバル・コミュニケー ションこそが、子どもと音楽家をつなぐ効果的 なコミュニケーションの方法であると思う。言 葉でのやり取りについては、簡潔に、明確にす る必要がある。特に特別支援学校の子どもや幼

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い子どもを対象としてアウトリーチに望む場合 は、具体的な選択肢を示すクローズド・クエス チョンが効果的である。また、子どもとの関係 がすでに成り立っている教師が仲介者となり、 三者間でコミュニケーションを図ることも必要 である。 ここで述べる即興性は、ただ適当に音を発 することではない。音楽のアウトリーチでは、 「生」演奏や「生」音等、「生」という言葉を使っ て説明されることが多いように思う。これは、 音楽のコラボレーションにおいて、互いの音楽 が共鳴したり呼応したりすることで、生み出さ れる音や音楽が常に変化していくからではない だろうか。子どもと音楽家が互いの音や音楽表 現を受け、その場に在る音楽に対して自由に、 思いのままに表現をすることが重要である。そ の場に合う音楽を即興的に表現することが難し い場合は、いくつかの表現パターンを示してお くことや、音楽的な決まりについて部分的に決 めてしまうということも効果的である。 4.3 特別支援学校とアウトリーチ活動 前節の活動を通して、二つの視点において特 別支援学校とアウトリーチ活動の親和性が高い ことに気が付いた。 1 つめは「コラボレーション」に関する視点で ある。特別支援学校での授業は一般的に複数人 で行われている。主指導の教師とサブの教師が 協力し、1 つの授業を成り立たせるのである。複 数人で授業を作るため、授業に関する打ち合わ せも行われる。対象となる子どもの実態も様々 であることから、あらゆる状況を想像しながら 子どもに対して必要な支援や活動目的について 細かく確認をする。異なる価値観や特性を持つ 複数人の教師が意見をすり合わせながらそれぞ れの役割を全うして授業に取り組むということ は、まさに教師による「コラボレーション」で あるといえる。つまり、特別支援学校の教師は 授業における「コラボレーション」の専門家で あり、他者と連携して授業を作ることに慣れて いるのである。小学校や中学校では教師が一人 で授業をすることが一般的であるが、教師と子 どもの関係に新たに音楽家が加わるアウトリー チにおいては、特別支援学校の教師のようにと もに授業を作り上げようとするコラボレーショ ンの過程が必要であると考える。 2 つめは、コミュニケーションに関する視点 である。特別支援学校の子どもの中には言葉で のやりとりが難しい場合が少なくない。しかし 言葉を上手く扱うことができないだけで、彼ら の感受性や表現力には驚くことも多い。伝えた いことはたくさんあるが、うまく言葉にできず もどかしさを感じている子どもの様子もこれま で多く目にしてきた。一方で特別支援学校で は、教師が子どもに対して、あるいは子ども同 士で肩に触れたりハイタッチをしたりすること でコミュニケーションをとる姿を多く見かけ る。また周囲の状況を見てとるべき行動を判断 する子どもや、体の動きで教師に思いを伝えよ うとする子どもも多くみられる。この状況の中 で教育に取り組む特別支援学校の教師は、子ど もの微妙な表情の変化も見逃さずに思いをくみ 取ったり、言葉に加えてジェスチャーや具体物 を使って伝えたりする、言葉に頼らないコミュ ニケーション能力に長けているように思う。 音楽に関しては、演奏をするときや音楽を 聴くとき言葉を必要としない。音楽について言 葉で説明しようとすると、表現しきれないこと も多い。これは音楽が言葉よりも人の思いをよ り直接的に表現することができ、また直接人の 心に触れることができる性質を持っているから ではないだろうか。一緒に音を奏でるときの相 互の視線や息遣い、そして紡がれていく音に耳 を済ませることで、言葉よりもさらに深く通じ 合ったと感じられることがある。このような音 楽の本質的な側面が、特別支援学校における言 葉に頼らないコミュニケーションに合ってお り、音楽のアウトリーチ活動との親和性も高い のではないだろうか。 4.4  特別支援学校における音楽のアウトリーチ 活動の意義 特別支援学校で音楽のアウトリーチ活動を 行う意義についてまとめてみた。次の三点があ げられる。 ① 音楽による音楽家との交流(子どもと演奏家) ② 新たな音楽との関わり(子どもと音楽)

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③ 子どもの新たな一面を知る機会(子どもと教師) ①については、子どもとのつながりが「音 楽」を介することが、特別支援学校においては 有効に働く場合が多い。演奏家の「音楽」→子 どもの「表現」→音楽家の「反応(褒める、喜 ぶなど)」といった過程を繰り返すうちに、子 どもと演奏家の間に音楽によるやり取りが生ま れる。子どもは音楽を通して演奏家の存在を意 識し、子どもの反応や表現が演奏家によって肯 定されることを通して音楽による対話を体験す る。音楽のつながりによって何かを得ることが できるのは子どもだけではない。演奏家は音楽 を媒介としたかかわり方の可能性を交流する中 で身をもって体験することができる。音楽のア ウトリーチ活動は決して「演奏家→子ども」と いう一方向ではないことが分かる。演奏家と子 ども双方向のやりとりがそこに存在する音楽を 介し、その交流によって両者に得るものがあっ て初めて、音楽のアウトリーチが成り立ったと いえるのではないだろうか。 ②について、音楽のアウトリーチ活動では 子どもが学校生活で経験したことがない楽器の 音を経験したり新たな曲に出会ったりすること ができる。音楽のアウトリーチ活動の中で、子 どもの思いや感性が制限されることはない。活 動の中で出会う「音楽」に対してどのような感 想を持つか、何に興味を持つかは子どもの音楽 性に委ねられる。吾妻が最初に関わった小学校 でのアウトリーチ活動の感想の中には、「楽器 が合わさるときれいでした」「僕はサックスの 音がかっこよくて一番好きでした」など、児童 が出会った「音楽」について感じたことをはっ きりと述べている児童が多くいた。活動中は静 かに学生の音楽に耳を澄ませている様子だった が、児童は心の中でそれぞれに「音楽」への思 いを持っていたことが分かった。特別支援学校 における実践では小学校での実践のように感想 を受け取ることはできなかったが、生徒の発言 や表情から音に対する思いをよみとることがで きた。また前節の実践における教師の感想には 「学校では体験できない楽器に間近で触れられ る、生徒にとって貴重な機会となった」という意 見があったように、子どもが新たな「音」と出 会うことも、音楽のアウトリーチ活動における 新たな音楽と子どものかかわりといえる。はじ めてオーボエのリードの音を聴いた生徒が「赤 ちゃんみたいな音」と反応したことも、生徒が 知っている「音」とその日初めて出会った「音」 を結びつけ、自分なりに特徴づけるという「音 と子どものかかわり」といえる。音楽科の授業 の中でも子どもが「新たな音楽」と出会う機会 はあるが、音楽家と共に行うアウトリーチ活動 で子どもが出会う「新たな音楽」とは少し内容 が異なる。「新たな音楽」の内容の違いとはゲ ストティーチャーによる生演奏、子どもが音と じっくりと向き合う時間である。普段の授業の 中でも、子どもが聞いたことがない音楽を紹介 したり、いろいろな楽器を紹介したりすること はできる。しかし、音楽を生演奏で紹介したり 楽器を実際に演奏したりすることは難しい。ま してやアンサンブルや合奏といった複数人での 演奏を生で聞かせることは難しいだろう。さら に授業の中で楽器の実物を見るだけでなく実際 に触ったり鳴らしたりするといった新たな音楽 との出会いの時間をとることは、演奏家という 第三者が加わってこそ可能になる。音楽に関す る知識や発達年齢など子どもの実態にばらつき があっても、その子どもなりに新たな「音楽経 験」を得られるということが、特別支援学校に おいて音楽のアウトリーチ活動を行う意義では ないだろうか。 ③の視点は、①や②で述べた子どもにとって の新たな体験や出会いが関わっている。子ども が新たな体験をしている間、教師はその姿を間 近で見ることができる。今回の実践では、教師 から「B君のあんな表情は初めて見ました」「こ んなことも出来るなんて」といった驚きの声が 多かった。このような気づきは、生徒の様々な 特性や表情をよく知る教師だからこそ得られる ものだ。また、子どもと演奏家・教師と演奏家 という新たな関係性の中で活動が進むことも、 子どもの新たな一面に気づく要因であろう。特 別支援学校では、子どもに対する教師の割合が 通常学級よりも多く、子どもの実態も幅広い。 そのため、実践でも教師が生徒の表情の変化を 非常に細かく見とっていることが感じられた。 演奏を聴いている時の体の動きや発言、楽器を

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体験している時の呼吸や視線など、少しの変化 も見逃さずに指示を出し、働きかけていた。常 日頃から生徒の姿を細かく観察している教師だ が、音楽のアウトリーチ活動では「演奏家」とい う第三者が生徒に働きかけるという点で非日常 的な要素が生まれる。そして「演奏家」と「子 ども」の交流を客観的に観察することも、生徒 に関する新たな気づきに繋がる。さらに子ども は、アウトリーチ活動の中で今までに経験した ことのない「音楽」や「音」に触れ、学校内で はなかった「新たな音楽」との出会いを体験で きるのだ。 5.終わりに 本論文では、学校における音楽のアウトリー チ活動をより充実させるために教師・子ども・音 楽家の三者がいかに「コラボレーション」をす るかということについて、養護学校での活動を 中心に考察してきた。その結果、教師と音楽家 が互いの役割を明確にし、綿密な打ち合わせに よって授業を構想していく過程が重要であるこ とや、子どもと音楽家のコミュニケーションにお いては音を介したノンバーバル・コミュニケー ションが効果的であることが分かった。また、 「コラボレーション」についての考察を深めてい く中で、特別支援学校の教師は授業を作るにあ たって教師どうしのコラボレーションを日常的 に取り入れていることが分かった。そして改め て、「音楽で」アウトリーチ活動を行う事の意義 について考えることができた。この論文を完成 させるにあたり、特別支援学校の子どもたちと 音楽でかかわることについても考察しているが、 障害を意識することはなかった。障害について の見方や障害者理解等、今日に至ってもあらゆ る場所で議論されていることを意識することな く、学生と子どもたちは純粋に音楽を楽しむこと ができたのだ。参加した学生 11 名全員が「楽し かった」「勉強になった」と口々に述べていた。 この活動で出会った子どもたちが出す音や音楽 を純粋に一緒に楽しみ、味わうことができたと いう感覚を、活動後に学生同士共有したことで、 音楽のすばらしさを改めて感じることができた。 今後は教師という立場から、新たに出会う子 どもたちが自分なりの音楽との関わり方を見つ けられるよう、さらに音楽教育について研究と 実践を深めていきたい。 【注】 1 ) 林 睦『音楽のアウトリーチ活動に関する研究― 音楽家と学校の連携を中心に―』(大阪大学博士 論文)2003,p. 2 2 ) 同上 p. 185 より 【参考文献】 吾妻 真衣『学校における音楽のアウトリーチ活動に 関する研究―教師・音楽家・子どものコラボレー ションに焦点をあてて―』(滋賀大学卒業論文) 2019 林 睦『音楽のアウトリーチ活動に関する研究―音楽 家と学校の連携を中心に―』(大阪大学博士論 文)2003 林 睦「音楽教育におけるアウトリーチを考える―基 本的な考え方,歴史的経緯,最近の動向―」『音 楽教育実践ジャーナル』vol. 10 no. 2(日本音楽 教育学会)2013,pp. 16-23 林 睦「学校教育における音楽家活用の調査研究」『文 化経済学』第 3 巻第 1 号,2002 年 3 月,pp. 85-90 林 睦「教員養成大学における地域と連携したアウト リーチ活動―滋賀大学での 8 年間の実践をもと に―」『関西学理研究』2013 年 12 月,pp. 225-234 林 睦「音楽のアウトリーチ活動に関する一考察―日 本における導入の 10 年と今後の課題―」『音楽 教育学の未来 : 日本音楽教育学会設立 40 周年記 念論文集』(音楽之友社)2009,pp. 280-290 野 研治『障害児の音楽療法 声・身体・コミュニ ケーション』(春秋社)2014 佐野 靖『小学校・音楽科 新学習指導要領 ガイド ブック』(教育芸術社)2018 文部科学省 『小学校学習指導要領(平成 29 年告示) 解説 音楽編 平成 29 年 7 月』 (東洋出版社)平成 28 年 2 月 28 日 文部科学省ホームページ 『アウトリーチ活動の推進について』 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/ gijyutu/gijyutu4/008/siryo/attach/1342833.htm 文部科学省ホームページ 『学習指導要領等の理念を実現するために必要 な方策』 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/ chukyo/chukyo3/siryo/attach/1364319.htm

参照

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