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内閣総理大臣の憲法上の地位および権能--解釈論を中心として 利用統計を見る

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内閣総理大臣の憲法上の地位および権能--解釈論を

中心として

著者

名雪 健二

著者別名

K. Nayuki

雑誌名

東洋法学

33

1

ページ

87-116

発行年

1989-12

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00003546/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

(2)

内閣総理大臣の憲法上の地位および権能

        ⋮解釈論を中心としてー

名 雲 健 一一

  目 次 一 憲法上の地位 二 憲法上の権能

㈲㈲日⇔e

議院への出席・発言権 国務大臣の訴追同意権 法律・政令への連署権 内閣代表権 国務大臣の任免権 三 法律上の権能  O 内閣法上の権能  ◎ その他諸法による権能

東洋法学

八七

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内閣総理大臣の憲法上の地位および権能 八八 憲法上の地位  日本国憲法における内閣総理大臣は、広義の国務大臣の一入であり、内閣という合議体を構成する一員である。明 治憲法の下では、内閣の構成員としての国務大臣は、憲法上、天皇によって任命され︵顯囎億縮︶、各国務大臣は天皇の 権能の行使を輔弼し、天皇に対して責任を負うとされていた︵欄飴聡継︶。しかも、その責任は、単独責任であった。そ して、内閣は、憲法に明記された機関ではなく、その根拠はもっぱら勅令たる内閣官制︵顯叢甕㌃勅令︶に基づいてい た。したがって、内閣制度は、憲法上の明示的な根拠を欠いた上に、内閣が軍部、貴族院、枢密院、内大臣府などか         ︵1︶ ら諸々の制肘を受けたことで、議会に対する内閣の政治的責任が極めて不明確であり、その健全な発達をみることが できなかった。明治憲法下では、内閣を構成する国務大臣がすべて対等の地位にあり、天皇の行為を輔弼すること で、内閣総理大臣と他の国務大臣との間に区別を設けず、内閣総理大臣も国務大臣の一人にすぎないとされた。た だ、内閣官制において、内閣総理大臣は、﹁首班トシテ機務ヲ奏宣シ旨ヲ承ケテ行政各部ノ統一ヲ保持シ﹂︵第一霧、 ﹁行政各部ノ処分又ハ命令ヲ中止セシメ勅裁ヲ待ソコトヲ得﹂︵第一黍︶たとはいえ、これさえも、内閣総理大臣を単に        ︵2︶ 形式的な首班とするにとどめ、内閣総理大臣の他の国務大臣に対する指揮命令の根拠を認めたわけではなかった。こ うしたことから、内閣総理大臣は、他の国務大臣との関係において、単に、﹁同輩中の首席﹂︵腰巨霧一葺巽娼震窃︶に すぎなかったのである。この内閣総理大臣と他の国務大臣との問の平等性が、内閣総理大臣の閣内における統制力の        ︵3︶ 弱体、ひいては内閣そのものの弱体化をもたらしたものといえる。結局、明治憲法時代においては、内閣そのものが

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      ︵ε 弱体であり、内閣総理大臣を頂点とした統一体としての連帯責任感も極めて希薄であったといえる。  これに対して、藏本国憲法は、明治憲法下の内閣制度を根本的に改め、明文をもって、内閣および内閣総理大臣を 憲法上の機関とし、とくに、内閣総理大臣をして内閣の﹁首長﹂とした︵劔雛礫遜ハ︶。この内閣の﹁首長﹂をいかに解す るかについては、学説の対立するところである。       ︵5︶  第一説は、﹁首長﹂の意味を明治憲法にいう﹁首班﹂と同義に解する立場である。これによると、内閣は、独立対 等の国務大臣の集まり、すなわち、内閣総理大臣は内閣という合議体の一員として、どこまでも他の国務大臣と対等       ︵6︶ の地位を有すると解すべきであって、そうでなければ、合議体は成立しえないとする。  第二説は、﹁首長﹂の意味を単なる﹁首班﹂としてではなく、他の国務大臣に対する上級行政官庁たる地位を有す      ︵7︶ るものと解する。  このように、内閣の﹁首長﹂の意味をめぐって学説上の対立があるが、第二説が妥当といえよう。いうまでもな く、憲法は、内閣総理大臣に、国務大臣の任免権および訴追同意権、行政各部の指揮監督権など強大な権限を認め、 内閣総理大臣にワン・マン的性格を与えることによって、内閣の統一性や一体性を確保しようとしている。したがっ て、内閣総理大臣は、内閣において他の国務大臣の上位にあり、内閣の中核にある者として捉えることができる。内 閣総理大臣が閣内において、﹁首長﹂という特別な地位にある結果、それが欠けたときは、内閣は総辞職しなければ      ︵8︶ ならない︵惚礪綿︶。すなわち、内閣は、内閣総理大臣を頂点として、しかもその意思によって国務大臣が存在するわけ であるから、内閣総理大臣が欠けたとき、内閣が総辞職するのは当然である。     東洋法学      八九

(5)

    内閣総理大臣の憲法上の地位および権能       九〇  なお、内閣総理大臣は、内閣の﹁首長﹂たる国務大臣としての地位のほかに、法律によって、行政官庁としての地位 が認められている。すなわち、内閣総理大臣は、当然に総理府の長となり︵纐懸糖緻齢灘雛郭籔鱗悌興項︶、また、みずから各 省大臣になることができ︵羅蘇緬鰍識職法︶、この場合には、総理府令または省令を発することができる︵綱塚謂鰍難職囎︶。 ︵王︶ ((

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)) ︵4︶ ︵5︶ ︵6︶ ︵7︶  明治憲法下では、軍部や枢密院の圧力により組閣できなかったり、倒閣された事実があった。これについては、神谷 昭 ﹁内閣﹂、宮沢俊義先生還暦記念、日本国憲法体系第五巻所収、五〇頁ー五一頁。  神谷、前掲論文、五一頁。  神谷、前掲論文、五一頁i五二頁。なお、神谷教授は、明治憲法下での内閣の脆弱性を招来せしめた要因を挙げて説明さ れている。これについては、神谷、前掲論文、四九頁以下。  丸山 健﹁内閣総理大臣﹂、芦部信喜・池田政章・杉原泰雄編、演習憲法所収、四八九頁ー四九〇頁。  高辻正巳﹁憲法講説﹂、全訂第二版、三二二頁。宮沢俊義﹁全訂日本国憲法﹂、芦部信喜補訂、四九九頁。  宮沢、前掲書、四九九頁。  阿部照哉﹁慧法﹂、二三四頁。伊藤正己﹁憲法﹂、五一五頁ー五一六頁。榎原 猛﹁憲法﹂、三二八頁。神谷、前掲論文、 六〇頁。清宮四郎﹁全訂憲法要論﹂、二五四頁。清宮四郎﹁憲法1﹂、︹第三版︺、三一一頁。佐藤 功﹁憲法下﹂、[新版]、 ポケット注釈全書、八一五頁。佐藤幸治﹁憲法﹂、一六一頁。橋本公亘﹁日本国憲法﹂、五二六頁。廣田健次﹁新版日本国憲 法概論﹂、一七八頁、法学協会編﹁注解日本国憲法下巻﹂、一〇〇七頁i一〇〇八頁。丸山、前掲論文、四九一頁。百地 章 ﹁内閣﹂、佐藤幸治編、憲法−所収、二三〇頁1二三一頁。和田英夫﹁新版憲法体系﹂、五六二頁。  なお、小林教授は、β本国憲法における内閣総理大臣の地位および権限が明治憲法よりも強化された結果として、﹁首相 が大統領の補佐機関としての役割をもつ国家とは異なり、内閣そのものが行政の最高機関をなすわが国では、総理大臣の実 質的地位は、むしろ独任制の大統領に近似するといってもよいであろう﹂と指摘される。小林直樹﹁憲講義下﹂、[新版]、

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  二六一頁◎ ︵8︶ 清宮四郎﹁憲法1﹂、 ︹第三版︺、三一一頁ー一三二頁。 二 憲法上の権能  すでに述べたように、明治憲法時代とは異なり、日本国憲法における内閣総理大臣の地位は、著しく高められた。 内閣総理大臣は、国会の議決で指名され︵籍難喋獄七︶、それがなされると、衆議院議長から内閣を経由して、天皇に奏上 される︵姻盤識囎六五︶。天皇は、国会の指名に基づいて、内閣総理大臣を任命する︵籍鰍喋獄︶。この場合の助言と承認は、 従前の内閣が行なう︵徳職鱗︶。そして、内閣総理大臣は、内閣の首長として内閣を代表すべき地位にあり、内閣の中心 にあって、内閣の統一性と一体性を確保するための任務として憲法上諸種の権能が認められている。以下、憲法上の 権能についてみていくことにする。  O 国務大臣の任免権  明治憲法の下では、内閣総理大臣もその他の国務大臣も天皇が任命したが、国務大臣については、実質的には内閣 総理大臣の提出する閣員名薄に基づく奏請により任命された。これに対して、日本国憲法は、第六八条第一項で、 ﹁内閣総理大臣は、国務大臣を任命﹂し、第二項で、﹁内閣総理大臣は、任意に国務大臣を罷免することができる﹂と 規定している。これは、内閣総理大臣に国務大臣の任免権を自由に与えることで、内閣の統一性を確保させるための       ︵!︶ 有力な手段とすると共に、内閣総理大臣の首長性を明瞭に表わしたものといえる。

    東洋法学      九一

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    内閣総理大臣の憲法上の地位および権能      九二  ﹁任命﹂とは、一人の意思に基づいて、ある人をある機関の地位に就かせることをいう。国務大臣の選任方法とし       ︵2︶ てはいくつか考えられるが、日本国憲法は内閣総理大臣による単独の任命とした。すなわち、憲法は、国会によって 指名された内閣総理大臣に、国務大臣を自由に任免することのできる権限を認め、内閣の組織権を内閣総理大臣に一 任している。このことからみて、憲法第六八条第一項にいう国務大臣の任命権は、内閣総理大臣に専属する権限とい      ︵3︶      ︵4︶ うことができる。﹁罷免﹂とは、本人の意思に反して、一方的に退位させることをいう。明治憲法時代においては、 罷免権は、形式的にも実質的にも内閣総理大臣に与えられていなかった。これに対して、日本国憲法は、罷免権を内 閣総理大臣の専権とした。したがって、内閣総理大臣は、罷免という身分を剥奪することもその意思に任されてお り、罷免の理由を本人に通告したり、他の国務大臣の意見を聞く必要もない。このように、罷免権は、任命権と同様 に、内閣総理大臣の専権に属するものであるから、罷免について閣議にかけて決定する必要はない。しかし、国務大 臣の罷免には、天皇の認証を要することから︵鯖雛聯靴︶、認証について閣議にかける必要があるのかどうかが問題にな る。これについては、学説の対立するところである。  第一説は、国務大臣の罷免権が内閣総理大臣の専権である塚上、その認証についても、内閣の議に附すことは無意        ︵5︶ 味であるから、この場合、憲法の明文に拘わらず、内閣の助言と承認は必要ないとする。        ︵6︶  第二説は、認証についても閣議にかけず、内閣総理大臣が単独に助言と承認を行なうものと解せられるとする。  第三説は、国務大臣の罷免に必要な天皇の認証については内閣の助言と承認を要し、認証を求める手続としては閣       ︵7︶ 議にかけなければならないと解する。ただし、内閣は、その認証の助言と承認を拒むことはできないとする。そして、

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認証についての閣議を必要とするとした場合、閣議は全員一致を原則とするところから、罷免される国務大臣は、閣       ︵8︶ 議の一員として助言と承認の決定に参加しえないことは、事柄の性質からみて当然とする。  これらの考えのうち、通説は、第三説である。しかしながら、国務大臣の罷免は内閣総理大臣の専権によって行な われるものであるから、一般に閣議を必要とせず、任免権を有する内閣総理大臣が、単独に認証に対する助言と承認        ︵9︶ を行ないうるものと解するのが憲法の趣旨といえよう。  なお、内閣総理大臣は、すでに任命した国務大臣の中から、行政事務を分担管理する各省大臣を任命する︵鞭蘇獅鰍 朗職法︶。各省大臣の任免は、天皇の認証を必要とする行為ではない。 ︵1︶ ︵2︶ ︵3︶ ︵4︶  伊藤正巳﹁憲法﹂、五一六頁。小林孝輔﹁憲法﹂、一三四頁。佐藤幸治﹁憲法﹂、一六二頁。溝宮四郎﹁憲法工﹂、︹第三版︺、 一三三頁。廣田健次﹁新版日本国憲法概論﹂、一七八頁。  国務大臣選任の方法には、例えば、国会が指名する方法、内閣総理大臣が国会の承認をえて任命する方法などがある。  宮沢俊義﹁全訂日本国憲法﹂、芦部信喜補訂、五二六頁。  これに対して、本人の意思に基づく依願免があり、罷免とは区別される。佐藤 功﹁憲法下﹂、[新版]、ポケット注釈全 書、八四一頁によると、実際の辞令でも、罷免の場合は、ただ﹁本官を免ずる﹂という文言を用い、依願免の場合は、﹁願 により本官を免ずる﹂という文言を用いるとしている。  なお、国務大臣の罷免について、これまでの実例では、三件ある。すなわち、片山内閣における平野力三農林大臣︵一九 四七年二月四臼︶、第四次吉田内閣における広川弘禅農林大臣︵一九五三年三月二日︶および第三次中曽根内閣における 藤尾正行文部大臣︵一九八六年九月九日︶である。罷免の経緯については、中村睦男﹁第六八条﹂、樋口陽一・佐藤幸治・

 東洋法学       九三

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︵5︶ ︵6︶ ︵7︶

((

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))

 清宮四郎﹁憲法1﹂、︹第三版︺、一七〇頁、三一三頁。廣田、前掲書、一七八頁。  伊藤、前掲書、五一七頁。佐藤︵功︶、前掲書、八四一頁。百地、前掲二三一頁。 所収、二三一頁。 行政法講座第四巻所収、三五頁。法学協会編﹁注解日本国憲法下巻﹂、一〇三七頁。百地 章﹁内閣﹂、佐藤幸治編、憲法工 義−所収、一七九頁。佐藤︵幸︶、前掲書、一六二頁。林修三﹁内閣の組織と運営﹂、田中工郎・原龍之介・柳瀬良幹編、 法﹂、三二九頁。鴨野幸雄﹁内閣﹂、清水 睦・吉田善明・高見勝利・鴨野幸雄・野中俊彦・中川 剛・新 正幸著、憲法講  伊藤、前掲書、五一七頁。稲田正次﹁内閣の構成﹂、清宮四郎・佐藤 功編、憲法講座第三巻所収、二一二頁。榎原 猛﹁憲 掲書、一七八頁。山下威士﹁内閣総理大臣﹂、小林孝輔・星野安三郎・和田英夫編、憲法副読本所収、一七八頁。  小林直樹﹁憲法講義下﹂、[新版]、二七三頁。清宮四郎﹁全訂憲法要論﹂、二五五頁。同、前掲書、三二二頁。廣田、前 収、二六二頁。  宮沢、前掲書、五二九頁−五三〇頁。山野一美﹁内閣総理大臣の憲法上の地位﹂、吉田善明・中村睦男編、憲法[新版]所 中村睦男・浦部法穂共著、注釈日本国憲法下巻所収、一五八頁。  内閣総理大臣の憲法上の地位および権能      九四  ⇔ 内閣代表権  明治憲法の下では、内閣制度や内閣総理大臣についての規定は存在しなかった。ただ、天皇の輔弼機関として、 ﹁国務各大臣﹂について規定していたにすぎなかった。しかし、それは、内閣制度を否定する趣旨ではなかったので、 実際的には内閣官制によって、国務各大臣をもって内閣を組織し、天皇を輔弼した。この内閣にあって、内閣総理大 臣は﹁内閣ノ首班﹂としてその任務を果たしたが、内閣総理大臣の地位のところで述べたように、単に、﹁同輩中の 首席﹂として認められていたにすぎなかった。したがって、日本国憲法第七二条が定めているように、内閣総理大臣

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が内閣を代表して国会に議案を提出したり、行政各部を指揮監督するような権限は、保障されていなかったαもっと も、現実には、内閣総理大臣が、内閣を代表したり、他の国務大臣を指揮するようなことが行なわれていた。しかし       ︵玉︶ ながら、これは、憲法に保障された権限の行使としてなされたわけではない。  これに対して、日本国憲法は、内閣総理大臣に内閣における首長としての地位を与えると同時に、それに加えて、 内閣総理大臣が内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務および外交関係について国会に報告し、並びに行政各 部を指揮監督する権限を有することを規定し︵徳叢鱗︶、内閣総理大臣が内部において内閣統一の保持の任にあたるだけ ではなく、外部に対して内閣を代表する権限をもつことをも明らかにした。内閣総理大臣は、内閣の首長たる地位に あるので、憲法の趣旨からいえば、当然に内閣を代表する権限を有する。憲法第七二条は、内閣総理大臣が内閣を代 表して行なう事務を三つ掲げている。すなわち、内閣総理大臣の代表権の内容としてあげることのできる事務の第一 は、国会への議案の提出、第二は、国会への一般国務および外交関係の報告、第三は、行政各部の指揮監督である。 ここにいう内閣総理大臣の代表権は、決して三つに限定されるわけではなく、内閣の代表としてなすぺきとくに重要        ︵2︶ なものを例示したにすぎないといえる。例えば、憲法第九一条に定められている国会および国民に対する国の財政状        ︵3︶ 況の報告も、内閣総理大臣が内閣を代表して行なうべきものと解せられる。  そこで、第一の国会への議案の提出で問題となるのは、﹁議案﹂の中に何が含まれるかである。この﹁議案﹂の中 には、予算や条約など内閣の権限事項であって、国会の議決を要するものが含まれることはいうまでもない。しか し、法律案や憲法改正案が含まれるかどうかについては、意見の分かれるところである。まず、﹁議案﹂の中に法律     東洋法 学      九五

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    内閣総理大臣の憲法上の地位および権能      九六 案が含まれるか否か、換言すれば、内閣に法律案の提出権が認められるか否かであり、これについては、学説は三つ に分かれている。  第一説は、憲法第七二条の﹁議案﹂の中には法律案が含まれないことから、内閣には法律案の提出権は認められ ず、内閣法第五条を憲法違反と解する。この考えによると、憲法第四一条によって法律を制定するのは、国会のみの 権限に属する作用であって、法律案の提出は内閣によってはなしえず、国会だけがなしうるものであるとする。した がって、憲法第七二条の﹁議案﹂の中には法律案は含まれず、法律案の提出を含めて、立法作用は国会のみに属する ものであり、国会以外の機関が立法作用に参加することは、国会単独立法の原則に抵触し、内閣の法律案の提出を認       ︵4︶ めている内閣法第五条を憲法違反とする。  第二説は、憲法第七二条にいう﹁議案﹂の中には法律案は直接には含まれないが、先例や慣習法を根拠にして、内 閣に法律案の提出権を認める。これによると、内閣法の規定および国会で審議される大部分が内閣によって提出され ることからみて、内閣に法律案提出の権能があることは、先例においてすでに十分確立されているとみることができ        ︵5︶ るとし、その根拠を本条に求めるのではなく、憲法全体の精神と先例あるいは慣習法に求めるべきであるとする。  第三説は、憲法第七二条の﹁議案﹂の中には法律案が含まれるとし、内閣の法律案の提出権を認めるとする。この 考えによると、憲法第四一条の国会が唯一の立法機関であるとするとの規定は、内閣提出の法律案についても、国会 は独自に審議決定をなすことができ、しかもそれに拘束されることなく、自由に法律案を修正し、否決しうることか ら、内閣に法律案の提出を認めても憲法第四一条に違反しないし、また、議院内閣制の下では国会と内閣の関係か

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ら、内閣の法律案の提出も実際的には議員のそれと変わりがないといえ、内閣の法律案の提出権は国会単独立法の原          ︵6︶ 則に抵触しないと解する。  塚上のように、学説は三つに分かれているが、﹁議案﹂という表現から、法律案を除外すべき何らの理由もないこ とからみて、憲法第七二条の﹁議案﹂の中には法律案も含まれると解せられる。そして、内閣の法律案の提出権は、 決して憲法第四一条にいう唯一の立法機関としての国会の地位を侵害するものではなく、議院内閣制を採っているこ とからも、内閣の法律案の提出権を認めることができるといえる。したがって、現在、法律案の内閣による提出も憲 法に違反せず、これについての慣習法も、憲法の枠内にあるとみられ、憲法違反にはならないといえる。  ﹁議案﹂について、次に問題となるのは、この中に憲法改正案が含まれるか否かである。内閣法第五条では、﹁内閣 総理大臣は、内閣を代表して内閣提出の法律案、予算案その他の議案を国会に提出し﹂と規定し、憲法改正にっいて は何ら明記していない。したがって、内閣に憲法改正案を提出しうる権限が認められるのかどうかにつき、学説は、 四つに分かれている。        ︵7︶  第一説は、法律案と同様に、内閣には憲法改正案の提出権は認められないとする。これによると、憲法上、立法の ための発議権は国会に属すると解し︵聡融鱗︶、憲法第七二条の﹁議案﹂は、あくまでも予算、条約を意味し、したがっ て、内閣法第五条は憲法違反の疑いがあるとする。        ︵8︶  第二説は、法律案については内閣の提出権を認めるが、憲法改正案については提出権がないとする。この考えにょ ると、憲法第九六条の﹁国会が、これを発議し﹂というのは、憲法改正の発議が直接には政府から独立して、国会の

    東洋法学       九七

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    内閣総理大臣の憲法上の地位および権能      九八 内部だけの手続によってなされなければならないとの意味を含んでいるとみるのが妥当であるとする。したがって、 憲法改正の﹁発案﹂は、﹁国会が、これを発議し﹂という場合の﹁発議﹂の手続の一部をなすものといってよいとす る。こうしたことから、憲法改正の発案権は、国会議員のみがもつものであって、憲法第七二条にいう内閣の議案提        ︵9︶ 出権から、憲法改正案については排除されると解するのを妥当とする。そして、内閣法第五条は、憲法改正案が﹁そ の他の議案﹂の中に含まれるとすることも可能ではあるが、﹁法律案﹂が最初にでていることからみれば、立法者は        ︵10︶ 内閣には憲法改正案の発案権がないと考えていたものと推測されるとする。  第三説は、法律案の提出権と同様、憲法改正案の提出権が内閣にあるのかどうかについて、憲法は明確に規定して いないことから、それは立法に委ねているという立場を採り、法律案の場合と同じように、憲法改正案の提出権も認      ︵且︶ められるとする。そして、内閣法第五条が憲法改正案を明記していないからといって、決してそれを禁ずる趣旨では    ︵扮︶ ないとする。  第四説は、憲法第七二条にいう﹁議案﹂の中には法律案と同様、憲法改正案も含まれることから、内閣の憲法改正案        ︵焉︶ の提出権を認めると解する。これによると、憲法や内閣法が憲法改正案についての内閣の発案権を明記していないか らといって、それを決して禁止していないし、内閣に発案権を認めても、議決をするのはあくまでも国会であり、国 民投票の自主性が損なわれたり、国民主権の原理に矛盾するとはいえず、議院内閣制の現実に照らしてみた場合、内 閣に発案権がないとの前提に立っても、閣僚の多くが所属する与党の議員が代わって発案できることから、それは意 味がないとする。そして、憲法改正の重要性に鑑みて、内閣に発案権を認め、憲法調査会のような組識を内閣に置く

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ごとを可鰍とさせ、それによって、十分に検討することができヤ同時に多くの意見を反険させること分できる改正案       ︵14︶ を作成させる方法をとることが必要であるとする。  以上のように、憲法第七二条にいう﹁議案﹂の申に、憲改法正案が含まれるか否かについては学説の対立するとこ ろであるが、内閣に発案権を認めても、国会の発議や国民投票での国会および国民の自主性は害されないと思われる し、憲法が採用する議院内閣制における国会と内閣との関係からみて、内閣にも憲法改正案の発案権が認められるも のと解せられる。  次に、二般国務及び外交関係﹂とは、内閣の職務に属するすべての行政事務をいう。外交関係の処理もまた、一 般国務に属することはいうまでもないが、外交の重要性からみて、特別に明記したものと思われる。内閣は、国会に 対して連帯して責任を負うことからみて︵難鰍諜財ハ︶、内閣は国会にその行政事務の運営について報告義務を有すること はいうまでもないが、内閣総理大臣が﹁内閣を代表して﹂その報告を行なうべきところに、憲法第七二条は重要な意          ︵お︶ 味をもっているといえる。  第三に、﹁行政各部を指揮監督﹂するとあるが、これは法律の定める各部門、すなわち、総理府、省などの長とし ての内閣総理大臣および各省大臣を指揮監督することを意味し、この指揮監督も﹁内閣を代表して﹂行なわれる。内 閣法第六条は、この趣旨を受けて、﹁内閣総理大臣は、閣議にかけて決定した方針に基づいて、行政各部を指揮監督 する﹂と定めている。この内閣総理大臣の行政各部に対する指揮監督は、あらかじめ閣議で決定された方針に基づい        ︵驚︶ て行使されることを必要とし、内閣総理大臣の単独意思によって行なうことはできない。そL︶て、内閣総理大臣の指     東洋法学       九九

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    内閣総理大臣の憲法上の地位および権能       一〇〇 揮監督権のおよぶ範囲であるが、それは行政各部たる省庁の権限に属する事項におよび、その権限に属しない事項に      ︵”︶ はおよばない。また、憲法上、内閣に対して独立した地位を有する会計検査院は、もちろんここでいう行政各部の中 に入らない。その他、法律の規定によって、または、職務の性質上独立した権限を有すると認められる行政機関、す なわち、人事院、公正取引委員会および国家公安委員会などの行政委員会は、内閣から独立した地位にあることか       ︵18︶ ら、内閣総理大臣の指揮監督権はおよばないと解される。  なお、憲法第七二条は、内閣総理大臣が内閣を代表することを定めているが、この代表権は内閣総理大臣に専属す るものではないと解される。したがって、内閣総理大臣は、その代表権の一部を他の国務大臣に委任することができ       ︵9︶ る。例えば、外交については外務大臣が、財政については大蔵大臣が、それぞれ国会に報告することができる。 ︵1︶ ︵2︶ ︵3︶ ︵4︶

((

65

))

︵7V  法学協会編﹁注解日本国憲法下巻﹂、一〇七二頁ー一〇七三頁。  榎原 猛﹁憲法﹂、三三〇頁。法学協会編、前掲書、一〇七四頁。  伊藤正己﹁憲法﹂、五二〇頁。溝宮四郎﹁憲法1﹂、︹第三版︺、三一五頁。廣田健次﹁新版日本国憲法概論﹂、 一七九頁。 法学協会編、前掲書、一〇七四頁。  酒井吉栄﹁国会の地位﹂、清宮四郎・佐藤 功編、憲法講座第三巻所収、一九頁。佐々木惣一﹁改訂日本国憲法論﹂、二八 七頁ー二八八頁。鈴木安蔵﹁憲法学原論﹂、四四四頁。小林孝輔﹁憲法﹂、二九〇頁。田畑 忍﹁憲法講義﹂、二七〇頁。  清宮、前掲書、四一七頁。宮沢俊義﹁全訂日本国憲法﹂、芦部信喜補訂、五五三頁。  伊藤、前掲書、四〇一頁。榎原、前掲書、二七九頁。佐藤 功﹁憲法下し、n新版]、ポケット注釈全書、八七〇頁⋮八七 一頁。橋本公亘﹁日本国憲法﹂、五二三頁。廣田、前掲書、一五二頁、一七九頁。  佐々木、前掲書、一二一頁ー二一二頁。鈴木、葡掲書、四四五頁。田畑、前掲書、二七〇頁。

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へ8︶ 小林直樹﹁憲法講義下﹂、︻新版﹃   法学協会編、前掲書、一四四三頁。 ︵9︶ ︵10︶ ︵n︶ ︵姐︶ ︵捻︶ ︵廻︶ ︵1 5︶ ︵賂︶ ︵茸︶ ︵娼︶ ︵19︶ 五五二頁1五五三頁。橋本、前掲書、六五五頁。廣田、前掲書、一七九頁、二二四買α  法学協会編、前掲書、一四四三頁。  法学協会編、前掲書、一國四二頁。  清宮、前掲書、三九八頁1三九九頁。宮沢、前掲書、五五四頁、七九二頁。  清宮、前掲書、三九八頁。  伊藤、前掲書、五〇七頁、六二九頁ー六三〇頁。榎原、前掲書、四二七頁。佐藤、前掲書、八七一頁、一二五八頁;一二 五九頁。中村睦男﹁第七二条﹂、樋口陽一・佐藤幸治・中村睦男・浦部法穂共著、注解日本国憲法下巻所収、一〇八○頁。  伊藤、前掲書、六二九頁ー六三〇頁。  伊藤、前掲書、五〇七頁。中村、前掲一〇八○頁。  榎原、前掲書、三三〇頁。佐藤、前掲書、八七六頁。法学協会編、前掲書、一〇七六頁。山内一男﹁内閣総理大臣の責 任﹂、清宮四郎・佐藤 功・阿部照哉・杉原泰雄編、新版憲法演習第三巻所収、一照六頁  したがって、内閣総理大臣の権限に属しない事項についてなされた指揮監督は、違法である。佐藤、前掲書、八七七頁。 山内、前掲論文、一四七頁。  稲田正次﹁内閣の構成﹂、清宮四郎・佐藤 功編、憲法講座第三巻所収、一二八頁。  伊藤、前掲書、五一二頁。榎原、前掲書、三三〇頁。法学協会編、前掲書、一〇七六頁!一〇七七頁。  ㊧ 法律・政令への連署権  明治憲法の下では、法律および勅令の制定には天皇の裁可を必要とし、その裁可には国務大臣の副署を要した。す なわち、明治憲法第五五条第二項は、﹁凡テ法律勅令其ノ他国務二関スル詔勅ハ国務大臣ノ副署ヲ要ス﹂と規定し、      東洋法学       一〇一

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    内閣総理大臣の憲法上の地位および権能      一〇二 さらに、公式令︵鯛鯖細鎗躰︶で、法律および勅令の上諭には、内閣総理大臣がその他の国務大臣または主任の国務大臣と 共に副署することなっていた︵舩械聯彿勧︶。  これに対して、日本国憲法は、内閣が国会に対して責任を負うことから、法律および政令に主任の国務大臣の署名 と内閣を代表する者としての内閣総理大臣の連署を必要としている︵憾鷹鱗︶。すなわち、憲法第七四条の趣旨は、法律 の執行、政令の制定と執行の責任が内閣にあるところから、主任の国務大臣の署名および内閣の首長である内閣総理       ︵1︶ 大臣の連署を要求することで、その責任の所在を明らかにしようとしたものである。        ︵2︶  憲法第七四条にいう﹁法律﹂とは、形式的意味の法律をいい、国会が制定し、天皇が公布する法形式である。ま        ︵3︶ た、﹁政令﹂とは、憲法第七三条第六号により、内閣が制定する法形式をいう。  署名の主体であるが、それは﹁主任の国務大臣﹂である。﹁主任の国務大臣﹂とは、その法律および政令の内容に 関する行政事務を分担管理する国務大臣をいう︵蹴糊舷礁綻糠聯無顕争塑猟条︶。﹁主任の国務大臣﹂間における権限に疑義 があるときは、内閣総理大臣が閣議にかけてこれを裁定する︵勲欄鰍︶。そして、行政事務が相互に関連する結果とし て、﹁主任の国務大臣﹂が一人に限られない場合もある。内閣総理大臣は最後に連署するが、内閣総理大臣自らが総       ︵4︶ 理府の長として自ら主任の大臣である場合、最初に署名して、最後の連署はしないことになっている。  署名および連署の客体であるが、法律と政令がその対象になることは明白である。その他に、条約についても同様         ︵5︶      ︵6︶ に取り扱われている。憲法改正については実例がないが、それも同様に取り扱われるであろうと解される。  憲怯第七四条において学説上対立する澗題は、本条にょる署名および連署が法律や政令の効力の要件となるのか、

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換言すれば、署名および連署を欠いた法律や政令は、効力を有するのかどうかである。これについては、二つの意見 が対立している。  第一説は、法律および政令は国会と内閣の意思で確定されるのであって、正式に公布されれば、直ちに効力を発生 する状態にあるから、署名や連署は単に公証の趣旨を有するだけで、それが欠けたとしても、その効力には関係がな    ︵7︶ いとする。  第二説は、法律については、国会の議決によってその実質的要件を完うするが、署名と連署がなされることはその 形式的要件であり、それを欠いたときは外部に対して効力の発生が停止されると解し、その根拠として、憲法第七四 条が署名と連署を必要とすると規定していることから、これは能力規定であるとし、そして、政令については、署名       ︵8︶ と連署を欠いたときは実質的要件を欠くものとして、有効に成立しないと解する。第一説が、今日の通説である。 ︵1︶ ︵2︶ ︵3︶ ︵4︶ ︵5︶  榎原 猛﹁憲法﹂、三三二頁。溝宮四郎﹁憲法1﹂、︹第三版︺、三一五頁。佐藤 功﹁日本国憲法概説﹂、全訂新版、三三 六頁i三三七頁。佐藤幸治﹁憲法﹂、一六三頁i一六四頁。廣田健次﹁新版日本国憲国概論﹂、一七九頁。中村睦男﹁第七四 条﹂、樋口陽一・佐藤幸治・中村睦男・浦部法穂共著、注解日本国憲法下巻所収、一二〇頁。  有倉遼吉・時岡 弘編﹁条解日本国憲法﹂、改訂版、四四五頁。宮沢俊義﹁全訂目本国憲法﹂、芦部信喜補訂、五八一頁。  有倉・時岡編、前掲書、四四五頁。宮沢、前掲書、五八一頁ー五八二頁。  佐藤 功﹁憲法下﹂、[新版]、ポケット注釈全書、九一六頁。  宮沢、前掲書、五八四頁。中村、前掲一二一頁。

 東洋法学      

一〇三

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︵8︶  内閣総理大臣の憲法上の地位および権能      一〇四  宮沢、前掲書、五八四頁。  伊藤正己﹁憲法﹂、五二三頁。榎原 猛﹁憲法﹂、三三二頁。鴨野幸雄﹁内閣﹂、清水 睦・吉田善明・高見勝利・鴨野幸 雄・野中俊彦・中川 剛・新 正幸著、憲法講義−所収、一八一頁。溝宮、前掲書、四一九頁。佐藤、前掲書、九一七頁。 佐藤幸治﹁憲法﹂、一〇八頁。平松 毅﹁国会﹂、佐藤幸治編、憲法工所収、一五九頁ー一六〇頁。法学協会編﹁注解日本国 憲法下巻﹂、二〇四頁ー二〇五頁。宮沢、前掲書、五八四頁。  浅井清﹁新憲法と内閣﹂、一七三頁ー一七四頁。佐々木惣一﹁改訂ヨ本国憲法論﹂、二八九頁。俵 静夫﹁逐条憲法要 義﹂、二七〇頁。  ㈱ 国務大臣の訴追同意権  憲法第七五条は、﹁国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない﹂と規定し、国務大 臣の特典を定めている。これは、内閣の統一性と一体性を確保し、国務大臣が検察機関によって不当な圧迫を受ける のを防ぐための制度であり、内閣の首長としての内閣総理大臣の権限強化の現われといえる。  まず、憲法第七五条にいう﹁訴追﹂であるが、これはいかなる意味であろうか。﹁訴追﹂というのは、本来、刑事 訴訟法上の起訴、すなわち、検察官が公訴を提起することをいう。この﹁訴追﹂の意味をめぐって、意見が対立して いる。  第一説は、﹁訴追﹂とは起訴ばかりでなく、本条の趣旨が検察機関の圧迫から国務大臣の身体の自由を保護するこ        ︵1︶ とにあるので、起訴を前提とする逮捕や勾留なども含まれると解する。そして、身体の拘束を伴なわない差押、捜 索、検証などは、これに含まれないとする。

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 これに対して、第二説は、﹁訴追﹂とは公訴の提起を意味するものであり、逮捕、勾引、︹勾留は含まれないと解す ︵2︶ る。これによると、﹁訴追﹂というのは、憲法や諸法令の中で、裁判、懲戒および罷免を請求する上での意味で使わ        ︵3︶ れており、逮捕の意味に使われてはいないとすることから、それは憲法第七五条の訴追には含まれないとする。  しかしながら、憲法の趣旨は、刑事訴追の前に国務大臣を保護するところにあるから、身体の拘束を伴なう逮捕や 勾留が﹁訴追﹂の中に含まれると解するのが妥当であろう。  そこで、国務大臣を訴追するには、内閣総理大臣の同意をえなければならず、これは訴追の効力要件であり、同意 なくして国務大臣を訴追した場合、その訴追は違法のものとして無効であり、裁判所によって棄却されることになり        ︵姦︶ ︵調諄藤籍雛聯号︶、また、内閣総理大臣の同意のない逮捕は、違法となる。内閣総理大臣が国務大臣の訴追に対して同意 を与えるかどうかは、訴追の適法性や正当性の正否ではなく、国家的利益とその訴追の同意が内閣の活動をどれだけ 防げるかとを比較衡量して決めるべきである。もとより、内閣総理大臣が同意を与えるかどうかの決定は、内閣総理       ︵5︶ 大臣の裁量に属するものであって、これを法的に争う途はなく、政治的責任が残るだけである。  次に、憲法第七五条により、特典を受けるのはいうまでもなく国務大臣であるが、この国務大臣の中に、内閣総理 大臣が含まれるか否かが問題になる。これについては、学説が分かれている。       ︵6︶  第一説は、憲法第七五条にいう国務大臣の中には内閣総理大臣も含まれると解する。この考えによると、憲法第七 五条にいう国務大臣には、論理上、当然に内閣総理大臣が除外される場合︵濾厳鱗︶を除き、内閣総理大臣も含まれると する。そこで、内閣総理大臣が私人としての自己の訴追に対して、国家機関たる総理大臣の立場から同意を与えると     東洋法学      一〇五

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    内閣総理大臣の憲法上の地位および権能      一〇六 いうことは、法論理的にみて必ずしも不合理ではなく、また、実際問題として、自己の訴追に対する同意を求められ て、不当にこれを拒否したとすれば、内閣総理大臣の政治的責任を追及しうることになり、決して無意味ではないと ︵7︶ する。       ︵8︶  第二説は、憲法第七五条にいう国務大臣には、内閣総理大臣が含まれないと解する。この考えによると、内閣総理 大臣が、自己に対する刑事訴追に同意を与えてそのまま在職するようなことは実際問題としてほとんど考えられず、 多くの場合、その同意を拒否するであろうから、本条にいう国務大臣に内閣総理大臣が含まれるとしても、含まれな いとしても、実際の結果はあまり違わないとし、内閣総理大臣が国務大臣に含まれないからといって、本条の特典が およばないというのではなく、むしろ一層強い保護が認められ、したがって、内閣総理大臣は、在任中いかなる訴追 も受けず、また、逮捕されない特典を受けるものとする。これは、憲法第七五条が明文をもって定めたものではない        ︵9︶ が、本条の精神から生ずるものであり、それは内閣の地位の安定を狙ったものにほかならないとする。  このように、憲法第七五条にいう国務大臣の中に内閣総理大臣が含まれるか否かにつき、学説上、見解の相違がみ られる。もし、第二説が主張するように、国務大臣の中に内閣総理大臣が含まれないとすると、内閣総理大臣には、 摂政と同じ特典が認められることになる︵難輩喚鱒︶。しかし、内閣総理大臣を他の国務大臣と区別して、内閣総理大臣 に、摂政と同じような特典を与えるのが憲法の趣旨とは思われない。また、内閣総理大臣が国務大臣に含まれないと 解した場合、逆に、内閣総理大臣を自由に訴追することができることになり、その結果として、他の国務大臣以下の 保樟しか受けられず、それこそ憲法の趣旨と億思われない。こうし尭ことからみて、第一説が妥当といえよう。

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 なお、内閣総理大臣は、正当な理由があるときは同意を拒むことができる。しかし、﹁これがため、訴追の権利は、 害されない﹂と憲法第七五条但書は規定している。これは、国務大臣在任中の特典であって、国務大臣退任後の訴追 の権利には影響をおよぼさないことを意味する。したがって、国務大臣の在任中は、訴追が実際上行なえないことに       ︵10︶ よって、公訴時効が完成することはなく、その期間中、公訴時効の進行が停止するにすぎないものと解される。た だ、公訴時効の進行が停止する時期については、それがいつからかをめぐって争いがある。  第一説は、国務大臣就任後も時効は進行するとし、内閣総理大臣が同意を拒否したときに、その進行は停止すると       ︵n︶ 解する。したがって、時効停止の時期を内閣総理大臣の同意の拒否に求める。その根拠としては、同意の拒否によっ て、その事件に関し、公訴提起の不可能な状態が確定するからであるとする。        ︵12︶  第二説は、国務大臣の在任中、当然に時効が停止すると解する。その根拠づけとしては、皇室典範第二一条をあげ る。すなわち、皇室典範第二一条は、憲法第七五条但書と同じような規定であり、訴追の同意を要しないから、摂政 在任中、当然に時効は停止するものと解せざるをえないとする。本条もこれに類似している。また、国務大臣が在任 中その訴追の同意を求められるのは、よくよくの場合であることを考えれば、国務大臣の在任中は当然に時効が停止       ︵13︶ するを妥当とする。  このように、時効停止時期がいつかについて、意見が対立している。一般的には、時効停止の開始時期は、内閣総 理大臣が同意を拒否したときと解されている。

東洋法学

一〇七

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   内閣総理大臣の憲法上の地位および権能      一〇八 ︵1︶ 伊藤正己﹁憲法﹂、五一七頁。榎原 猛﹁憲法し、三一三頁。清宮四郎﹁憲法1﹂、︹第三版︺、三二二頁。橋本公亘﹁日本   国憲法﹂、五六八頁。廣田健次﹁新版露本国憲法概論﹂、一九〇頁。法学協会編﹁注解目本国憲法下巻﹂、二一一頁。宮沢   俊義﹁全訂日本国憲法﹂、芦部信喜補訂、五八八頁。百地 章﹁内閣﹂、佐藤幸治編、憲法−所収、二三二頁。山野一美﹁内   閣総理大臣の憲法上の地位﹂、吉田善明・中村睦男編、憲法[新版]所収、二六三頁。和田英夫﹁新版憲法体系﹂、三二四   頁。 ︵2︶ 稲田正次﹁内閣の構成﹂、清宮四郎・佐藤 功編、憲法講座第三巻所収、ニニ四頁。佐藤 功﹁憲法下﹂、[新版]、ポケッ   ト注釈全書、九二〇頁。 ︵3︶ 佐藤、前掲書、九二〇頁。なお、判例も、昭和電工事件において、訴追には、逮捕、勾引、勾留のような身体の拘束は含   まれないとする︵東京高判昭三四・一二・二六判時二二舌写四六頁︶。 ︵4︶伊藤、前掲書、五一七頁⋮五一八頁。溝宮、前掲書、三ニニ頁。法学協会編、前掲書、二二頁ーコニ一頁。宮沢、   前掲書、五八七頁ー五八八頁。 ︵5︶ 伊藤、前掲書、五一八頁。榎原、前掲書、三三一頁。清宮、前掲書、三一三頁ー三一四頁。廣田、前掲書、一九一頁。法   学協会編、前掲書、二二頁。 ︵6︶ 稲田、前掲論文、ニニ五頁。鵜飼信成﹁新版憲法﹂、二〇二頁。鴨野幸雄﹁内閣﹂、清水 睦・吉田善明・高見勝利・鴨野   幸雄・野中俊彦・中川 剛・新 正幸編、憲法講義−所収、一八○頁。清富四郎﹁全訂憲法要論﹂、二五六頁。同、前掲書、   三一四頁。佐藤、前掲書、九一八頁。平松毅﹁内閣﹂、佐藤幸治編、憲法−所収、二三二頁。廣田、前掲書、一九一頁1   一九二頁。和田、前掲書、三三四頁。 ︵7︶廣田、前掲書、一九一頁。 ︵8︶ 伊藤、前掲書、五一八頁i五一九頁。中川 闘﹁内閣の地位と権能﹂、大須賀明編、憲法所収、三八三頁。宮沢、前掲書、   五八六頁。山下威士﹁内閣総理大臣の権限﹂、小林孝輔・星野安三郎・和田英夫編、憲法副読本所収、一七八頁。 ︵9︶ 宮沢、前掲書、五八六頁。

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︵m︶ ︵11︶ ︵E︶ ︵B︶  伊藤、前掲書、五一九頁。榎原、前掲書、三一三頁。清宮、前掲書、二五六頁。同、前掲書、三一四頁。佐々木惣一﹁改 訂日本国憲法論し、二八九頁。佐藤幸治﹁憲法﹂、一六二頁。中川、前掲三八三頁。橋本、前掲書、五六八頁。廣田、前掲 書、一九一頁。法学協会編、前掲書、一二四頁。宮沢、前掲書、五八九頁。和田、前掲書、三三四頁。  伊藤、前掲書、五一九頁。榎原、前掲書、三三頁。宮沢、前掲書、五八九頁。  法学協会編、前掲書、二一四頁。  法学協会編、前掲書、一二四頁。  ㊨ 議院への出席・発言権  アメリカ合衆国のように、厳格な権力分立制を採る国では、議院と政府の権限が区分され、議員と政府職員との兼 職もありえない。そのため、各省長官も、議会に当然には出席することができない。一方、イギリス型の議院内閣制を 採る場合、政府の側からは、内閣は、法律案、予算案、その他の議案を国会に提出するし、また、行政権の行使につ いて、国会に対して責任を負うことから、国務大臣が議院に出席し、発言する機会を与えられる必要がある。逆に、 国会の側からは、内閣提出の議案を審議するため、また、内閣を監督するためにも国務大臣の出席を求め、その説明 や答弁を聴く必要がある。国務大臣の議院出席は、議院内閣制の当然の結果といえる。  明治憲法の下では、﹁国務大臣及政府委員ハ何時タリトモ各議院二出席シ及発言スルコトヲ得﹂︵鯛鵡鷹継︶と、国務大 臣の議院への出席権を規定していた。こうした国務大臣の議院への出席権のみを規定し、出席義務を定めていなかっ        ︵王︶ たところに、明治憲法の反議院内閣制的性格が現われていたといえる。

    東洋法学       一〇九

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    内闇総理大臣の憲法上の地位および権能      二〇  日本国憲法は、その第六三条で、﹁内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとに かかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求め られたときは、出席しなければならない﹂とし、国務大臣の議院への出席権と出席義務を定めている。内閣総理大臣 は、常に国会議員であり︵締雛喋鰍七︶、他の国務大臣もその過半数は国会議員の中から内閣総理大臣によって選任される ︵簸雛喋鰍八︶。いずれも、国会議員であることを在任の要件とするが、国務大臣のすべてが国会議員ではないこともあり うるし、国会議員であっても、両議院いずれかの議員だけである。したがって、本条は、﹁両議院の一に議席を有す ると有しないとにかかはらず﹂、すなわち、出席し発言しようとするその議院の議員である者、他の議院の議員であ る者、いずれの議院の議員でない者の区別はなく、およそ大臣たる者はすべて衆議院および参議院いずれの議院にも        ︵2︶ 出席して発言する権利があり、議院から要求があればこれに応ずる義務がある。  憲法は﹁何時でも議案について発言するため議院に出席する﹂とあるが、ここにいう﹁議案﹂とは、憲法第七二条 に定める内閣が国会に提出する﹁議案﹂だけではなく、議員提出の法律案︵姻鯵難備廉︶や他の議院が提出した法律案︵綱蛤        ︵3︶ 磁条︶などを含み、広く各議院の会議におけるすべての議題を意味すると解すべきである。そして、﹁議院﹂とは、議        ︵4︶ 院の会議を意味し、本会議および委員会を含むと解せられる。国会法も、この趣旨の下に、委員会における手続を規 定している︵咽盤蠣礫七︶。国務大臣は、原則として、どの会議にも﹁何時でも﹂出席できるが、秘密会にはその院の特別       ︵5︶ の許可がなければ出席できないものと解せられる。       ︵6︶  また、憲法は、内閣総理大臣およびその他の国務大臣のみを規定しているが、国会で国務大臣を補佐し、それに代

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わって意見を述べる政府委員の議院への出席については何ら定めていない。しかし、国会法は、内閣が両議院の議長 の承認をえて、国会において国務大臣を補佐するため政府委員を任命できることを定めており︵罫無賠︶、ここから、       ︵7︶ 政府委員が議院に出席し発言することを禁ずる意図はないものとみなされる。もっとも、これは、憲法上保障された ものではないことから、議院はその出席や発言を拒否することができると解される。これに対して、内閣総理大臣お        ︵8︶ よびその他の国務大臣については、議院は拒否することは許されない。国務大臣および政府委員は、議院に出席して 発言する場合、国会法や議院規則の定める議事規則に従わなければならず、発言しようとするときは議長または委員 長に通告するを要し︵羅砿伊賠︶、すべて議事規則の定める制限を守って発言しなけれぱならない︵鎌講難纈胴聯≧嬉縢秘天︶。  なお、国務大臣や政府委員が正当な事由がないのにも拘わらず、議院への出席要求に応じないときは、これに対す        ︵9︶ る法的制裁措置は存在せず、ただ政治的に責任を問われるにすぎない。 ︵1︶ ︵2︶ ︵3︶ ︵4︶

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 明治憲法は、政府委員にも畠席権を保障していた。  清宮、前掲書、二五一頁、二五五頁。 ている。 補訂、四八四頁。なお、西ドイツ・ボン基本法は、その第四三条で、連邦政府の構成員の委員会に出席する権利義務を定め  伊藤正己﹁憲法﹂、五〇八頁。清宮、前掲書、二五五頁。樋口、前掲一〇〇一頁。宮沢俊義﹁全訂日本国憲法し、芦部信喜  樋口、前掲一〇〇一頁。  清宮四郎﹁憲法工﹂、︹第三版︺、二五五頁。  樋口陽一﹁第六三条﹂、樋口陽一・佐藤幸治・中村睦男・浦部法穂共著、注解日本国憲法下巻所収、一〇〇一頁。

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 伊藤、前掲書、五〇八頁。清宮四郎﹁慧法1﹂、︹第三版︺、二五六頁。  伊藤、前掲書、五〇八頁。宮沢、前掲書、四八三頁。 下巻﹂、九六〇頁。宮沢、前掲書、四八二頁i四八三頁。  伊藤、前掲書、五〇八頁。溝宮四郎﹁全訂憲法要論﹂、二二二頁。同、  内閣総理大臣の憲法上の地位および権能 頁。 前掲書、二五四頁。     二二 法学協会編﹁注解日本国憲法 樋口、前掲一〇〇一頁。宮沢、前掲書、四八五 三 法律上の権能  これまでみてきたのは、憲法によって、内閣総理大臣に認められている権能である。しかしながら、内閣総理大臣 の権能は、憲法だけではなく、内閣法をはじめとした諸種の法律によっても認められている。以下、それらをあげて みる。  O 内閣法上の権能   e 閣議主宰権  内閣は、合議機関であるため、その機関としての意思決定をなすには全閣僚の閣議にょる。そのために、内閣法 は、その第四条第一項で、﹁内閣がその職権を行うのは、閣議にょるものとする﹂と定めている。この閣議にょる正 式の意思決定を﹁閣議決定﹂という。閣議は、内閣総理大臣がこれを招集し、主宰する︵納鯛叢聯︶。各大臣は、案件の 如何を問わず、内閣総理大臣に提出して閣議を求めることができ︵細網諾麟照︶、主任の事務についても、法律もしくは 政令の制定・改正または廃止を必要と認めるときは、案をそなえて内閣総理大臣に提出して閣議を求めなければなら

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ない︵耀鯨爾倣麹織︶。  閣議には、毎週二回定例に開かれる定例閣議のほか、臨時に開催される臨時閣議、緊急の場合、閣議書を持回って押 印を求める持回り閣議がある。閣議決定の方法については、憲法および内閣法にも何ら規定はなく、すべて慣習法で       ︵1︶ 決められている。それは、明治憲法と同様に、全員一致の方法が採られている。明治憲法時代には、閣議におけるこ        ︵2︶ うした全員一致制が内閣の不統一を招き、内閣総辞職の原因となったが、日本国憲法の下では、むしろ内閣の統一性 および一体性を確保するのに必要な要件といえる。 ︵王︶ ︵2︶  この閣議決定が全員一致であるとするのは、明治一八年の内閣制度創設の頃からであり、これはプロイセン等欧州の立憲 君主国の制度にならったといわれる。これについては、稲田正次﹁内閣の構成﹂、清宮四郎・佐藤 功編、憲法講座第三巻 所収、︸二六頁。  この全員一致制が何故内閣総辞職の要因となったかについては、稲田、前掲論文、一コ六頁。   ◎ 権限疑義の裁定権  内閣総理大臣は、主任の大臣間における権限の疑義について閣議にかけ、これを裁定する︵期欄継︶。   ◎ 行政処分等の中止権  内閣総理大臣は、行政各部の処分または命令を申止させ、内閣の処置を待つことができる︵撚燗縮︶。これは、内閣総 理大臣の指揮監督の方法の一つであり、現行の制度の下では直接取消または停止をさせることができる。

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一=二

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    内閣総理大臣の憲法上の地位および権能      二四   ㊧ 臨時代理選任権 内閣総理大臣の代理については、憲法上の規定はなく、内閣法で定められている。すなわち、内閣法第九条は、 ﹁内閣総理大臣に事故のあるとき、又は内閣総理大臣が欠けたときは、その予め指定する国務大臣が、臨時に、内閣 総理大臣の職務を行う﹂と規定する。内閣総理大臣の職務を代行するために、あらかじめ内閣総理大臣によって指定 された国務大臣は、俗にいう副総理とよばれる。ただ、内閣総理大臣の代理について、あらかじめ指定された副総理 ではない者、すなわち、単なる臨時代理が認められるかどうかは、内閣法第九条の上からは疑義がある。しかし、内 閣法の趣旨からみて、病気などの事故がある場合は、法文にこだわらず、あらかじめ指定されない単なる臨時代理を       ︵1︶ 置いてもさしつかえないと解すべきであろう。  問題は、副総理または単なる臨時代理がどの範囲まで内閣総理大臣の権限を代行できるかである。すなわち、代理 権の限界の問題である。とくに、副総理または単なる臨時代理が、内閣の組織権、なかんずく国務大臣の任免権につ いてこれを代行できるか否かである。これについて、学説は、否定説と肯定説とに分かれている。  まず、否定説であるが、これは内閣の組織権、すなわち、国務大臣の任免権については臨時代理は代行しえないと  ︵2︶ 解する。これによると、内閣は、国会によって指名された内閣総理大臣を中心として組織されるものであって、それ       ︵3︶ は内閣総理大臣の一身に専属する権能であり、代理にしたしまないとして、臨時代理の権限には属さないする。  これに対して、肯定説は、臨時代理の権限は憲法および法律に定める内閣総理大臣のすべての権限におよぶと解す ︵4︶ る。これによると、代理を置く以上、特別の規定がない限り、内閣総理大臣の職務のすべてを代理させるのが当然で

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あるとする。  このように、臨時代理が、内閣総理大臣の権限をどの範囲まで代行しうるのか、その限界の問題、とくに、内閣の 組織権について、否定と肯定の二つの意見が対立している。たしかに、憲法は、内閣総理大臣が国会によって指名さ れ、その内閣総理大臣が自由に国務大臣を任免することを任せていることからみれば、否定説にも理由があろう。し かし、代理を置く以上、特別の規定がない限りは、内閣総理大臣の職務をすべて代理できるものと考えられるし、組 織権だけを例外とするほどの意味があるとは思われない。また、実際問題として、内閣総理大臣が欠け、他の国務大        ︵5︶ 臣が欠けたようなときでも、一人の閣僚も補充できないとするのは、かえって不合理であると考えられることから も、臨時代理は内閣総理大臣に属するすべての権限を代理できるものと解せられよう。もっとも、臨時代理の代理権 に限界がないといっても、とくに、国務大臣の任免権などは、内閣総理大臣の意に反して行なうことは適当ではな        ︵6︶ く、それは内閣総理大臣の意思を聞いた上で、その代理権を行使することになろう。ともあれ、こうした点について        ︵7︶ は、立法によって明らかにする必要があろう。 ((

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︵3︶  溝窟四郎﹁憲法1﹂、︹第三版︺、一三七頁。  稲国正次﹁内閣の構成﹂、清宮四郎・佐藤 功編、憲法講座第三巻所収、二二二頁。鴨野幸雄﹁内閣﹂、清水 睦・吉田善 明・高見勝利・鴨野幸雄・野中俊彦・中川 剛・新 正幸著、憲法講義1所収、一八二頁。佐藤 功﹁憲法下﹂、[新版]、ポ ケット注釈全書、八五九頁。宮沢俊義﹁全訂日本国憲法し、芦部信喜補訂、五二六頁。  政府の見解もこの立場を採り、昭和三二年二月に、石橋内閣の岸臨時代理について、衆議院の解散のようなことはできる

 東洋法学      一一五

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)) ︵6︶ ︵7︶  内閣総理大臣の憲法上の地位および権能       二六 が、国務大臣の任免や内閣の総辞職などは臨時代理の下ではできないとした。  溝宮、前掲書、三一七頁。丸山 健﹁内閣総理大臣﹂、芦部信喜・池田政章・杉原泰雄編、演習憲法所収、四九二頁。  清宮、前掲書、三一七頁。  なお、小林教授は、臨時代理の代理権について、溝宮教授が主張される﹁他の国務大臣が欠けたようなときでも、一人の 閣僚も補充できないとするのは、かえって不合理であろう﹂とする点に着目して、﹁状況によっては、後者の見方が妥当と される場合もありうるといえよう﹂として、いわば折衷説を述べておられる。小林直樹﹁憲法講義下﹂、[新版]、二六一頁。  伊藤正己﹁憲法﹂、五ニニ頁。  なお、丸山教授は、臨時代理の権限行使が内閣総理大臣の意に反するようなときは、内閣総理大臣が臨時代理の指定を解 くことになるであろうから、実際上、否定説と肯定説の間にはそれほど重要な差異は生じないとされる。丸山、前掲論文、 四九二頁。  清宮、前掲書、三一七頁。  口 その他諸法による権能  内閣法嵐外の法律による権能としては、e 総理府長のとしての権限︵鞭塚蜘鰍難職窮︶、O 緊急事態の布告および警 察の一時的統制権︵籍畷雛彿誌条︶、㊧ 自衛隊の最高指揮監督権︵鮪禰鰐法︶および防衛出動と治安出動の命令権︵相籍磁難擦傭 条﹀、㊧ 国防会議の議長としての権限︵擁毅羅吻購減購ユ醐肘法︶、㊧ 行政処分の執行停止に対する異議︵聞緻譲憐籍訟︶、㊨ 公益事業に関する労働争議の緊急調整の決定権︵餅鯛礪辮翻悌一二︶、㊨ 職務執行命令の判決に違背した知事の罷免権︵耀繊緬 諾幾︶などがあり、憲法上並びに法律上広範な権能が内閣総理大臣に認められている。

参照

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