施設管理権と組合活動--施設利用をめぐる民事上の
問題
著者
門田 信男
著者別名
N. Monden
雑誌名
東洋法学
巻
11
号
2・3
ページ
31-62
発行年
1967-10
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00006150/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja施設管理権
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組合活動
−施設利用をめぐる民事上の問題ー
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施設管理権と組合活動 一三東洋法学
三二施設管理権と企業内組合
ほとんどの組合が企業内組合であるわが国の現状では、組合が団結を維持し運営していくためには、主としてその 企業内に足場をおいて活動するほかない。企業内組合にあっては従業員が組合員となることから、その職場が従業 員としての職場生活の本拠であると同時に、組合員としての組合活動の本拠となるからである。したがっておのずか ら、組合活動の行動範囲は、職場を軸として展開することを要請され、企業をはなれてその活動を展開する余地はほ とんど考えられない。このことは企業の段階をこえての組合活動を否定するものではなく、むしろそれは、企業内組 合という組合組織に規定された企業段階での組合活動を足場にしてなりたつものであることを物語っている。すなわ ち、わが国の企業内での組合活動は、その活動の存立と基盤を企業におき、空間的・時間的・場所的に制約を余儀な くされ、要請されているといえる。 かように組合活動は、組合事務所、集会場所、掲示板その他情宣活動などのいずれをとってみても、場所的制約と 不可分に結びついている。このことは、組合の活動と存立にとって、企業施設の利用を不可欠の前提条件としている ことを意味する。組合に企業施設の利用が許されないとすれば、組合の活動のみならず存立さえも否認されかねな い。企業施設の利用は、組合活動を支える重要な支柱をなしており、組合が団結を維持し運営していくうえで当然に 前提にされているといえる。労働者の団結権は、その国や時代の歴吏に色どられた具体的な内容をもつものとして把握されなければならない。企業内組合組織を常態とするわが国では、団結体の存立と活動に不可欠な一定の範囲にお いて、企業施設の利用権をもふくんで、憲法二八条は保障していると解さざるをえない。かように組合の企業施設の 利用や施設上の活動が団結権の内容をなすとすれば、企業施設の所有や占有から生ずるいわゆる施設管理権とのかね あいが間題になる。 企業施設を利用しておこなわれる組合活動にたいし、攻撃や弾圧の武器としていわゆる施設管理権なるものが使用 者に重宝されている。施設管理権という言葉は、昭和二一年ごろ生産管理を違法とする攻府当局者の案出した経営権 ︵三︶ の一つの内容として、昭和二三・四年ごろより用いられ、二八年の臼経連の﹁労働協約基準案﹂に導入された。施設 管理権なるものは、その誕生の由来とともに、刑事上および民事上の救済による法概念の実益とあいまって、そのカ をふるっている。そうだからといって、施設管理権を経営権と同じように法律上の独立の権利とは認めえないとし て、一概に否認することはできない。問題はあるにしても、所有権の一機能をなし、土地・建物・施設などの物にた ︵2︶ いする所有権の一つの具体的な機能をさすものと、施設管理権をとらえるほかはなかろう。所有権には、所有物の使 用・収益・処分の権能のほか、これを保全・管理し改良する機能がふくまれている。施設管理権は物の保全・管理の 機能と解される。それゆえ、人と人の関係における権利概念と解される指揮命令権とことなり、施設管理権は人と物 の関係における権利概念としてとらえられる。しかも、施設管理権の対象をなす施設は労働力の結合を必然とする。 この結合から生ずる労使関係が、その結合の仕方によって、施設管理権とよばれるものの内容を規定することにな る。ここに施設管理権といわれるものの権利の特質がある。
施試管理権と組合活動
三三東洋法学
三霞 しかし現実には、施設管理権は物の管理・保全のための権限という人と物の関係における本来の機能に、職場にお ける内部規律や正常な業務運営という生産と規律の維持がむすびつけられてくる。人と物の関係における概念が、人 と人の関係における概念を併用し、物を媒介とした人にたいする権利概念として転化した。施設管理権は組合活動に むけて主張される概念として重宝されている。さいきんとみに、組合活動にたいするおどしとして利用され、活動家 のおいだし・しめだしとして活用されているのが現状である。施設の保全管理の権限に職場の内部規律や業務運営が むすびついた一方的な組合活動の制約はー就業規則の類推拡大解釈とあいまってーー権利の濫用であり、不当労働 行為としての支配介入・不利益取扱となる。労働力の結合を前提とした生産施設はその機能においてもおのずから制 約をうける。したがって使用者が、施設を管理するうえで合理的に必要な限度をこえて、組合の企業施設の利用を妨 げるとすれば、施設管理権に籍口した濫用の非難をまぬがれることはできない。施設管理権は、労働者の団結権保障 ︵3︶ とのかねあいから、権利の本質的な場において制約をうけるといわねばならない。すなわち、団結権行使にょる正当 な組合活動としての企業施設の利用により、それによって生ずる使用者の不利益は、使用者においてこれを受忍する のほかない。この受忍の義務は、団結権保障の具体的内容の反射であり、団結権の尊重からする当然の帰結である。 施設管理権と組合活動の関係は、同一の次元において対抗し.かかわりあいをもつという問題ではなく、施設管理 権の︸部が組合活動に抵触し、組合活動の︼部が施設管理権とかかわる性格のものである。民事上の問題は大別して 二つになる。一は、使用者が施設管理権を楯にして組合の施設利用を拒否することができるか、すなわち、支配介入 としての不当労働行為になるかどうかの問題である。二は、使用者は施設管理権にもとづく命令に違反した組合員を、職場規律・作業秩序の角度から懲戒処分にすることができるか、すなわち、不私益取扱としての不当労働行為になる かどうかの問題である。ここでの正当な組合活動と受忍義務の範囲の判断基準は、その施設利用が組合活動に適して おりかつ不可欠なものか否か、施設利用の業務運営や職場規律・作業秩序の維持におよぼす影響、それを拒否するに ついて合理的な理由があるかどうかにあり、これらが具体的なその状況のもとで綜合的に判断されることになる。 ︵王︶ 松岡﹁組合活動と施設管理権についての基本的考え方し季労四四号四ー五頁参照。 ︵2︶本多・業務命令・施設管理権と組合活動一九!二〇頁、片岡・法からみた労使関係のルール一〇九∼一〇頁。吾妻教授 が、﹁何か施設管理権といいますと、法律的には所有権だとか占有権だとかいうことになってしまうのですけれども、とも かくそういう権利をかつぎ出してくることについては、少なくとも、臼本の場合には疑わしい﹂といわれるのは、 ﹁ただ 一枚のビラをはったからすぐ懲戒解雇にするしとか、﹁いきなり国家の法律を持っていって器物損壊になる﹂とされ、門会 社の施設を自分のもののような気分になって、しかも争議行為だからかまわない﹂といった、それぞれの自分勝手な安易 な考え方や行動にたいする警告であると解される︵﹁職湯における組合活動と争議行為の正当性﹂季労四〇号;二頁︶。 まことに適切である。しかし、施設利用の許容の範囲を﹁平常の質的に従業体制の中に足を突っこんだということで判定 せざるをえない﹂とされ、 ﹁平常とは時間的という意昧ではなしに﹂とされるなら、 ﹁就業規則の精神﹂からする作業体 制に視点がおかれ、組合活動の面からする施設利用の正当性、争議時という時期などが看過されるおそれはないかどう か、正当性の判断の基準では疑閥渉のこる。 ︵3︶ 同冒、福岡高判・三井化学三池染料事件・昭三四.二・二一労民集一〇巻六号一一一四頁、名古屋地判・電電公社 東海電気局事件・昭三八・九・工八労旬五一九号、仙台高秋国支判.弘南バス事件・昭三九・四・一閥労民集一五巻二号 二六八頁、大阪地判・東邦紡績事件・昭照一・二一・一五労民集一七巻六号一三六九頁。 施設管理権と組合活動 三五
東洋法学
三六二組合事務所
組合事務所は組合活動の本拠をなし、組合の維持運営にとって欠くべからざるものである。組合に資力があれば、 土地を買うなり借りるな9して建物をたてることができるし、建物を事務所用として買うなり借りるなりすることが できよう。しかし企業内組合にあっては、ほとんどといってよいほど活動の行動範囲や資力などに制約されて、事務 ︵1︶ 所を企業内に求めざるをえないのが現状である。事務所を企業内に設置できないとすれば、組合の存立さえも疑わし くなり、すくなくとも組合活動は大はばに制約をうけることになろう。現実には、団結権の保障も無意味化される。 かような現状に照応して、使用者は当然に設置を義務づけられていないまでも、施設の許すかぎりにおいて、企業内 ︵2︶ に最小限の広さの事務所を設置することを義務づけられているものと解される。 企業内に二組合が併存する場合、そのうちの一組合に事務所を貸与することを拒否するのは差別的扱いであり、支 配介入としての不当労働行為として許されないことはいうまでもない。事務室の貸借関係が、賃貸借の場合には借家 法一条の二、使用貸借の場合には民法五九七条の適用が問題になる。前者では、業務上の必要その他正当な事由のな いかぎり明渡しを求めることはできないし、後者では、組合が存在しており、契約に定めた目的にしたがい事務室を ︵3︶ 使用しているかぎり、無条件に返還を求めることはできない。正当な事由のない組合事務所の明渡の移転要求、事務 ︵4︶ 所の使胴妨害は、疑いもなく支翻介入となる。事務所を利用しようとするものがだれであれ、組合活動上の必要から︵毒 立ちいるものを使用者が妨害することは、組合の良治や内瓢運営にたいする介入として許されない。よしんば の運営にいちじるしい支障を生ずるおそれがある場合であっても、これに必要な措置を講ずることをしないで ︵6︶ 所の利用を全面的に拒否することは許されない。
事業
務務
︵玉︶ この点について、後藤﹁組合事務所の供与﹂季労六三号=三二∼六頁参照。 ︵2︶ 受認義務というのは、会社の建物の︸室を供与するとか、敷地のみを供与するかは、労使間の交渉にゆだねられる。 受認義務が存するというのは、なにも使用者負担でもって組台事務所を設置することまでも要求するものではない。横井 ﹁労働協約における組合活動条項﹂組合活動をめぐる法律問題八一頁、籾井﹁経営秩序と組合活動﹂一九九頁。反対、静 岡地決・近江絹糸富士宮工揚事件・昭二九.七.一〇労民集五巻三号三四九頁、仙台地判・全逓仙台郵便局事件・昭三七 ・九二二労旬四七二号。 ︵3︶ 同旨、東京地決・小糸製作所事件.昭三四・二・三労民集一〇巻一号六三頁、千葉地労委命・松籟荘事件.昭三九. 三・二鷹労旬五三六号、大阪高決.茨木市職組事件・昭四〇.一〇.五労旬五八二号。行政代執行法による庁舎内にある 組合事務所の明渡し・立退きを求めて問題となったのが、茨木市職組事件である︵経緯等については、橋本﹁新たな庁舎 管理権の攻撃﹂労旬五八二号四ー七頁を参照されたい︶。市が組合に提供を申しでた庁舎の一部は、市職組から分裂した 第二・第三・第脳組合の各事務所に隣りあわした部屋であり、その裏側は茨木警察署に隣接した場所である。この点につ いて裁判所は、﹁かくては相手方組合の運動方針、企画など組合運営に関する秘密が漏洩察知されることが懸念され、ま た相手方の組合活動の中心たる組合事務所が敵対的な分裂組合の事務所に囲まれていては組合活動も自ら制約されて萎 縮し、はては強固な団結の維持も困難となり、組合員の脱退あるいは再分裂による組合の脆弱化ないしは崩壊が憂慮され る﹂として、行政代執行手続の続行を停止した。 ︵4︶ 同旨、東京地決・エスエス製薬事件・昭四〇.六.四労民集一六巻三号四五〇頁、福井地決.福井新聞社事件.昭四 〇・七・二九労民集一六巻四号五九四頁。 施設管理権と組合活動 三七東洋法学
三八 ︵5︶被解雇者について、浦和地判・リーダi機械事件・昭三六二二.二六労民集一二巻六号コニO頁、前掲小糸製作 所事件。休職者について、大阪地労委命・昭三八・コ・一三労旬五一二号。友誼団体の役員について、大阪地労委命. 昭三七乙二・二六労旬四七八・九号。 ︵6︶ 公労委命・全逓延岡郵便局事件・昭四〇・三・八労旬五五九号。﹁申立経合の上部組合の役員が事務室に入るのを防 止するためであれば局庁舎の構造上全面的な入局禁止の措置をとるまでもなく、組合事務室の利用を妨げないでしかも局 事務室に入ることを防止することも十分可能であったし、被申立人がそのことを知らなかったとも考えられない。しかも ⋮−上部組合の役員のみならず、さらには延岡郵便局勤務の組合員であっても当日勤務でないものまで入局を拒まれ、組 合事務室を利用することができなくなったことが認められる﹂として、支配介入になるとした。妥当な判断といえよう。 しかし、前掲全逓仙台郵便局事件では、裁判所は、この点の具体的判断をさけ、たんに庁舎全体の秩序に影響するとし て、庁舎管理権による事務所からの退去命令を安易に是認する。賛成しがたい。 三 組合 集 会
組合は、大会、執行委員会、代議員会、青婦部などの各部集会、職場集会、学習会、労働講座、その他情宣.文化 ●リクリェーション活動など各種の組合集会を開催する。組合集会をぬきにした組合活動はありえない。しかも企業 内組合は、活動するうえにおいて、時間的・空間的・場所的制約や資力といったさまざまな制約をうけて、ほとんど といってよいほど企業施設を利用して組合集会を開くほかない。ときには、大会や執行委員会などを企業外の施設を 利用して開くこともある。しかし、組合がすべての集会を企業の外にでて開くことは、経済的にも時間釣にも不可能であるのみならず、職場を軸として展開する組合活動を不能にし、組合の存立の危機に見舞われかねない。使用者に よる企業施設の利用の拒否により、結果的にかような企業外施設の利用を組合にしいているとすれば、組合活動にむ けた施設管理権濫用のそしりをまぬがれない。現状は、休憩時間中にあるいは退社時間と密着して集会が開かれる。 そのことは組合にとって好都合であるという理由によるだけのものではない。むしろ、職場を軸として活動する企業 内組合をとりまく諸制約のあらわれである。組合がその集会を開くために、一定の範囲内で、企業施設を利用する権 利は団結権保障の具体的内容をなしていると解すべきである。この利用権が否認されるとすれば、団結権保障もその 底からくづされてしまう。団結権はこのような具体的な内容をもった意味で理解される。そうだとすれば、団結体の 存立と活動にとって必要とされる範囲内で、使用者はこれを受忍することを義務づけられている。したがって、施設 を利用して開かれる組合集会を、使用者が合理的な正当な理由もなくこれを拒否するとすれば、不当労働行為としての 支配介入になることはあきらかである。ましてや、不当な拒否のもとでの不許可ないし無断の施設利用による組合集 会が強行され、これを理由とする懲戒処分は反組合的意図による不利益取扱としてのそしりをまぬがれない。 組合集会は、企業施設、たとえば休憩室、娯楽室、食堂、集会室、会議室、屋上、広場、空地、寄宿舎、社宅など を利用して開かれる。使用者にそのための施設の利用を拒否するについて、客観的な合理的な理由があれば、それま でも受忍の義務があるとはいえない。受忍義務があるにかかわらずこれを拒否するのは施設管理権の濫用となる。施 設管理権に籍qして施設の利用を不当に拒否するのは、労働力と結合した施設としての性格を看過し、施設の所有や 占有にだけ眼をひらいた使用者の偏見のあらわれである。運動部などのクラブ活動や茶、花、洋裁といった講習会、 施設管理権と組合活動 三九
東洋法学 四〇
親睦会・懇親会の会合には、使用者はすすんで積極的に援助の手をさしのべる.えこぎでない心の広さを従業員のま えにできるかぎり示そうとする。それはまさに狭量さの反映である。すすんで援助の手をさしのべることはとりもな おさず、組合の存在と活動をいみ嫌った日頃の態度の表明であると、おおくの場合はいえよう。そこで、組合が集会 のための施設の利用を使用者はいかなる範囲までうけいれる義務を負うといえるのか、言葉をかえていえば、拒否す るについての客観的に合理的な理由があるとはどういった場合にみとめられうるかを、かんたんにながめておくこと にしよう。 イ 施設の性格・機能 施設の性格や機能からみて、従業員に平生一般に開放されていない施設や客観的に組合 集合に適していない施設であるときには、拒否しても合理的な理由がみとめられよう。・社長室や重役室、無菌室とか 精密機械室、危険な揚所における組合集会は、施設の性格や機能からして、もともと組合の集会に適しない施設であ るといえる。施設がその性格や機能からあまり会合に適さず、かつ客観的にみて業務の運営に支障を生ずる場合に は、組合集会であるか否かによらず、使用者はなべてこれを拒否しうる。しかし、先に挙げた休憩室等の利用を従業 員たる資格を有するものには自由にこれを許し、組合員たる資格では拒否するときびしい条件をつけるとすれば、そ の意図は明瞭である。ここにいう施設の性格や機能から生ずる問題ではないし、施設の効用をそこなうおそれもない からである。 口 業務上の施設利用の必要性 組合集会に適した施設であっても、たまたまその臼時に使用者が業務上の必要 からまえもって会合を予定していたときには、これを理由に拒否しても正当理由があるといえよう。かような拒否するについて、正当な事由が客観的にみとめられるにかかわらず、組合が集会を強行すれば、おのずから業務の運営や 運行に支障を大かれ少かれ与えることになろう。使用者は、職場における内部規律や業務運営における生産と規律の 維持のうえから、それに応じた処分を加えることをしよう。もちろん、業務上の必要からでなく、たんに組合集会を いみ嫌って、その施設の利用を施設管理権に籍口して拒否するものと客観的に判断されるとすれば、支配介入のそし りはまぬがれない。 ハ 施設の利用・方法の条件 使用者は、組合集会のための施設の利用や方法について、火災・盗難などの危険 防止、施設保全、作業秩序の維持から、合理的な範囲内で若干の制限をつけることがある。危険防止・施設保全の立 場から、火気を禁じたり、土足・下駄ばきを禁じたり、危険な場所への立ち入りを禁じたり、あるいは深夜におよば ないよう管理上の必要から夜の終了時間を定めるなどの条件をつける場合がある。また、作業秩序を維持するうえ で、事務所や作業室への立ち入り、会社構内での高唱・騒音にわたることを禁じたり、会社の予定行事の必要から時 間を定めておいたり、集会後の後仕末をするといった条件をつけることがある。こうした条件は施設管理上の必要か らでたものであって、組合嫌悪の意図による条件でないとみられるなら、使用者としてなんら非難されることはな い。しかし、組合集会のための施設利用を他組合や他団体と差別するのは、客観的にみて右にいう合理的な範囲内で ︵1︶ の正当な理由があるとはいえず、組合活動にたいする支配介入になるとのそしりはまぬがれない。また、集会の内容 に立ち入り、議題を何にするかとか、集会に誰が参加するか、すなわち上部団体や友誼団体の役員とか、被解雇者、 休職中の組合員、外来講師の会社構内への立ち入り拒否といったことなどは、客観的に合理的な事由が存しないかぎ 施設管理権と組合活動 四一
東洋法学
四二 ︵2︶ り、もともと支配介入と非難さるべき性格のものである。 二 施設利用に関する規定 労働協約や就業規則に施設の利用に関する規定がおかれている揚合に問題となる。 原則として、その定めるところによることになる。しかし、不許可処分を無視してまたは無断で施設を利用して、組 合集会が強行して開催された場合について、施設の効用をそこなうおそれがなく、かつ業務の運営に特段の支障が生 じない場合、組合活動として保護される価値があるとみられるときには、正当な組合活動であると積極的に評価さる ︵3︶ べきであろう。企業施設の利用ないし方法が具体的に慣行として確立しているときには、就業規則に定める規定に反 ︵4︶ したことを理由として、懲戒処分をなすことは許されない。就業規則の形式的適用は、施設管理権に籍口した組合活 ︵5︶ 動にたいする不当な制限・抑圧と解され、不当労働行為として処分は無効となる。会社の業務運営におよぼす影響を考 慮して、休憩時間申の職場デモやニュースカー運行が、正当な組合活動の限度を逸脱したといえないときは、就業規 ︵6︶ 則の懲戒事由に該当することはない。休憩時問でない営業中の店舗内のデモは原則として違法とみなされるが、その ︵7︶ 時期・時間・方法、客にたいする影響などからみて、違法として問責するにたりないとされる場合がある。まして や、賃金遅欠配の状況のもとでの就業時間中の職場大会やデモ等の組合活動を行なうことは、懲戒解雇の対象とはな ︵8︶ らず、正当な組合活動であることについて疑念の余地はない。 ︵玉︶ 同旨、埼玉地労委命・富士文化工業事件・昭三四・一二二七労旬三七七・八号、鳥取地労委命・塩谷林業事件.昭 三六二〇・二一、大阪地労委命・日刊工業新聞事件・昭三八・一一・一三労旬四九六号。反対、菓京地判.全駐労立川 基地事件・昭三八・五・一四労民集一照巻三号七三三頁。基地内における休憩時間中の組合集会.示威運動などの集団的行動の禁止命令に違反したことを理由とする出勤停止処分について、裁判所は、労基法三四条三項の規定に反しないから 施設管理権の濫用にはならぬとし、かつ組合活動としての行動であるか否かを間わないから労組法七条の目的にも反しな ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ い、という。すなわち、 ﹁使用者は労基法三四条三項の規定により、労働者に対し、休憩時問を自由に利用させる義務を ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ 負うが、使用者がその事業施設に対する管理権を有する以上、使用者がその権利の行使として、施設内における労働者の ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ 休憩時間中の特定の行動を規制しても、それが労働による疲労の回復のための休息という休憩制度本来の目的を害しない 限り、又施設管理権の濫用とならない限り、違法ということはできない﹂ ︵傍点筆者︶と、驚くべき判断をする。使用者 は﹁休憩時問を自由に利用させる義務を負う﹂にかかわらず、﹁休憩時間を自由に利用する権利を有する﹂労働者は、使 用者の﹁管理権にもとずく権利の行使﹂によって、休憩時間の自由な利用を一方的に規制され、義務づけられるのが﹁休 憩制度本来の匿的に反せず、労基法三四条三項の趣旨﹂にもとらないという。組合集会や示威運動と野球や卓球など巡、 いずれも体を動かすうえでは同じであるはずであるが、前者だけが﹁労働による疲労の回復のための休息﹂にはそわない ということになる。行政協定三条に定める基地管理権が濫用されていないから、労基法三四条三項の規定に反するもので ないという、まやかしの論理が、平和憲法体制のもとでぬくぬくとふところでして生きられることを示してくれる。しか も、﹁本件命令は、一般に、駐留軍労務者の基地内における前記のような集団的行動を禁止したものであって、それが組合 活動としての行動であるか否かを問わないのであるから、労働者を組合活動の故に不利益に差別的に取扱をすることを禁 止した労組法七条の目的にも反しない﹂という。本件命令とは﹁駐留軍労務者の基地内における集会、示威運動その他軍 隊の保安に危険を及ぼすおそれがある集団的行動を禁止したもの﹂である。基地管理権とこれにもとづく本件命令は、こ れをすなおに読むなら、集団的行動の対象とその中核が労働組合とその活動におかれていることは疑いえない。﹁組合活動 であるか否かを問わない﹂と、組合活動とまったく別個のものの、異質物のつめあわせの合体物として﹁集団的行動﹂を とらえるところに、土台むりがある。よしんば一歩さがって、判旨にいうように組合活動か否かを問わないとしよう。組 合活動と否とを間わず、いっさいの集団的行動といえるものすべてを禁止するなら、労組法七条の目的に反しないという のであれば、使用者は施設管理権にもとづいてよろこんで禁止の措置にでよう。とすれば、団結権保障はまったく無用○ 長物と化そう。まったく驚くべき判決というほかない。 施設管理権と組合活動 翻三
東洋法学 晒四 ︵2︶使用者が、組合集会のため施設の利用を管理上の必要からでなく、もっぱら組合活動対策から拒否し、許可のない施 設利用の責任を労働者側に帰せしめるのは、団結権侵害として許されない。同旨、東京地判・理研コランダム事件・昭三 五・一〇二三労民集二巻五号二西五頁、公労委命・全逓延岡郵便局事件・昭照〇二干八労旬五五九号、兵庫地労 委命・大和製衡事件・昭四〇・二・二四、同事件・神戸地決・昭四一二丁一〇労民集一七巻一号五二頁、同事件、神 戸地決・昭四一・三・二三労民集一七巻六号二三七頁。反対、東京地労委命・三越事件・昭二七二丁七命令集六集五 二頁、福井地労委命・福井鉄道事件・昭三〇・一〇・二八命令集ニニ集一六一頁。 ︵3︶ 籾井・前掲書一二八ー九頁参照。 ︵4︶協約違反を理由とするのであれば、協約の債務的責任を特定の組合員に負わすことになり、別個の問題を生ずること になる。 ︵5︶ 同旨、福岡高判・八幡製鉄事件・昭三六二二二一八労民集一二巻二号一五三頁、東京地判・順天堂大学病院事件・昭 四〇・二二〇労民集一六巻六号九〇九頁、東京地判・菓京厚生年金病院事件・昭霞一・九・二〇労民集一七巻五号一 ニニ四頁、前掲弘南バス事件。 ︵6︶ 同旨、福岡地判二二井化学三池染料事件・昭三二・七・二〇労民集八巻四号四三九頁。反対、前掲全駐労立川基地事 件参照。 ︵7︶ 名古屋地判・明治屋事件・昭三八・五・六労民集一四巻五号一〇八二翼。 ︵8︶野村﹁労働法ノート﹂一九〇頁参照。最近の事例としては、京都地労委命・葵タクシi事件・昭三九.六・五労旬五 三三号、同事件・京都地判・昭四一.四・一五労民集一七巻二号五九八頁。
四 組合掲示
板 組合の情宣活動は組合活動の重要な部分をしめている。β常生起する組合情報を迅速適切に組合員に伝え、組合員 意識の昂揚をはかることは団結体を維持し強化するうえに欠くことができない。組合の情宣活動の基点をなすのが事 業揚に設置されているこの組合掲示板である。先の組合事務所でのべたと同じく、この掲示板の設置についても、使 用者は組合の維持運営に必要とされるかぎりで設置ないし場所を提供し、または施設を利用させる義務を負うという べきである。これを全面的に拒否するとすれば、支配介入のそしりをまぬがれえない。掲示板は、場所の提供をうけ て組合が設置する、会社掲示板の一部を利用するとか、ときには使用者の費用負担で設置することもあろう。これが ︵1︶ 掲示の方法や内容の規制に大なり小なり影響することがある。 組合が掲示板を使用していかなる文書やビラを掲示するかは、みずからで決定すべき事柄である。組合自治の領域 に属する。使用者の事前の許可検閲制は、組合自治にたいする干渉として団結権侵害となることはもちろん、表現の ︵2︶ 自由検閲禁止を規定する憲法二一条に違反する。たとえこれが労使のとりきめによるものであっても、本来的に無効 ︵3︶ ︵凄︶ であり、これを理由とする懲戒処分は施設管理権に籍口した団結否認といわざるをえない。 使用者は、しばしば届出制にしたがわない掲示物の撒去要求に応じないときには、その責を労働者に帰せしめる。 かように協約または就業規則の事前許可、検閲はもちろんのこと、届出制にあっても慣行が確立しているときにはこ 施設管理権と組合活動 辺五東洋法学 四六
れによる。処分が、業務の運営や施設の効用をそこなうというよりか、もっぱら組合活動対策とみられる処分であれ ば、もとより無効である。そのさいましてや、使用者による一方的な掲示物の撤去が許されないことはいうまでもな い。 掲示物の内容に関しては、組合が自主的に決定すべき事柄である。内容そのものに使用者が干渉したり制限したり することはできない。内容の規制は、すでに臼経連の協約例にみるように、協約や就業規則にさまざまな視角から規 定をおいている。団結否認に通ずる内容規制は団結権侵害として無効である。掲示内容をめぐってことに問題になる のが、会社の信用失墜、名誉殿損、職場秩序の秦乱をまねくような事項や虚偽の事実を掲示した場合である。いかな る場合がこれに該当するかの判断は、客観的にみて明白な場合であって、使用者の主観によって判断さるべきではな い。右事項や事実に該当するとき、掲示物の撤去を要求することができる。しかし、客観的に明白でないような場合 に、使用者による一方的撤去の強行は組合活動にたいする介入である。組合の自主的活動である掲示物である以上、 協約の債務的部分に違反し、権利濫用、信義則違反の問題を生ずるにしても、この責任を組合員に転嫁すべき性格の ものではない。ましてや、管理命令違反を理由とする懲戒処分がみすごされてよいわけはない。 なお、協約や就業規則において、組合の政治活動とみられる文書やビラなどの掲示を禁止しあるいは届出制にする 事例がある。この点については、先にのべたことが原則としてあてはまる。組合は、政治活動を主たる目的とするも のではないにしても、政治的活動を内容とする文書などの掲示を組合活動としておこなうことはもとより自由であ る。組織や機関の決定によるときはもとよりのこと、分派活動としての掲示であっても、組合の民主的活動の助長と解されるときは正当である。たとえ組合の決定に反するような揚合であっても、それは組合の内部問題である。 ︵玉︶ 深山﹁組合掲示板の貸与﹂季労六三号一三七ー照O頁参照。 ︵2︶ 人事院判・全建労北陸地本湯沢支部事件・昭四一・一〇・三一労旬六一二号は、 ﹁建設庁舎における庁内取締に関す る訓令﹂は、﹁掲示方法の規制﹂であって、﹁掲示物自体の事前審査﹂ではなく、包括的許可制度を設けたものである。﹁特 定の揚所に、いちいち掲示物について個別的な審査や検印を受けることなく、自由にビラ・ポスタ⋮等を掲示する道が 開かれている﹂から、憲法二一条に違反しない。また﹁組合の掲示板を確保するに十分であり、β常の広報活動に特に支 障を生じない﹂から、団結活動の侵害にならない、という。訓令は、従来の慣行の変更であり、﹁許可のない掲示﹂は、訓 令違反として当局において一方的にこれを撤去している。訓令は、庁内取締の観点から従来からの慣行を一片の訓令で一 方的に排除した。それは形式的理由によるこじつけ以外のなにものでもない。業務の運営や運行に支障を生じていないに かかわらず、慣行の変更がかえって業務の支障を惹起した。しかも、訓令の強行実施が業務運営に支障をひきおこしたに かかわらず、その責任を労働者側に帰せしめた。慣行を一方的に変更する訓令の強行実施は、まさに施設管理権とよばれ る概念の濫用であり、検閲への道を開くものといわざるをえない。ただ、判定が﹁当局の措置は性急にすぎ、そのためこ とさらに組合の反発を招くに至った等、当局の本件ビラ・ポスター等の撤去措置が必ずしも妥当であったとは考えられな い﹂として、懲戒免職処分を停職三カ月に修正した。この点の判断に僅かながら救いがみいだせる。 ︵3︶新潟地判・国鉄新潟電務区事件・昭三八・二・二七労旬五一五号。前掲全逓延岡郵便局事件では、組合に掲示板使 用を認めながら、一般に事前許可を要求することは組合活動にたいする介入をまねくおそれがあり、支配介入になるとい ︾つ。 ︵4︶前掲弘南バス事件。東京地決・荏原実業事件・昭四一・一二二三労民集一七巻六号一囲五一頁は、掲示板に他組合 のビラニ枚を掲示し、使用者の撤去要求にたいする抗議が懲戒事由に該当するとして解雇したのにたいして、ビラ掲示 は、協約にいう﹁組合の組合員教育に関する事項﹂にあたるとし、解雇は労組法七条一号に違反するとして無効とした。 なお、懲戒免職を停職処分に変更した前掲全建労北陸地本湯沢事件のほかは、すべて懲戒処分は無効とされている。 施設管理権と組合活動 四七
東洋法学 四八 ︵5︶昭和二八年一月の段経連の労働協約基準案三一条二項は、組合掲示板について次のような協約例を示している。 ﹁掲示板の掲示事項は、左の各号に限るものとし、組合は会社の信用失墜、個人の名誉鍛損、職場秩序の紫乱を招くよ うな事実は掲示しない。 一、組合の各種集会の通知及び報告に関する事項 二、組合役職員の任免異動に関する事項 三、組合の選挙に関する事項 餌、組合の教育、文化、厚生、娯楽、親睦に関する事項 五、その他会社の許可を得た事項﹂
五 ビラ配布。ビラはり
一 組合の文書・ビラ配布は、直接に組合員に周知徹底させるうえで組合掲示板の利用より有効であり、組合員にた がいに手渡されるだけに企業施設の利用の面ではビラはりのような直接性はない。ビラ配布が問題になるとすれば、 その時期、目的および方法についてでである。 しばしば間題になるのが就業時間中のビラ配布である。かかる配布は就労義務に違反し、仲間の組合員の作業秩序 や職場規律をみだすものとして、使用者はそのものを懲戒処分にする。しかし、休憩時聞や就業時問外におけるビラ配 布は、職場における内部規律や業務への支障を与えない場合には問題はない。たとえ若干の支障を生じたとしても、 組合活動としてなされたものであるなら、積極的に評価さるべきである。これをも懲戒処分をもってのぞむのであれ︵王︶ ば、施設管理権に籍昌した組合活動対策というほかない。協約、慣行その他使用者の明示または黙示の承認があると 認められるときには、たとえ就業時問中の配布行為であっても.、問題はない。就業時間中のビラ配布を禁ずる就業規 則がありながら、使用者においてこれに反する行為をなすかぎり、組合の配布のみを責めるいわれはない。また、就 業規則に違反する配布ではあるが、その違反が軽微な作業秩序、職揚規律をみだしたにすぎないとき、釣合のとれな い重い不利益処分を課すのは、一号または三号違反として無効である。 ビラ配布の時期と関連して問題になるのが、配布の目的である。組合のおかれた状況により、その目的はさまざま である。経営方針を批判しへ人事労務管理を非難したり、法規や協約違反の事実を暴露し、これを除去しようとする ためにでることもあろうし、使用者の反組合的意図を非難攻撃することもあろう。人権侵害があった湯合にこれを黙 認することはない。なかんずく労使関係が緊張した時期にあるとき、ことに争議時には活発になろう。配布の目的 が、諸般の目的からみて正当な組合活動としてみとめられるなら、使用者の組合活動対策は団結否認のそしりをまぬ ︵2︶ がれない。組合が配布行為にでた巨的が、客観的にみて妥当なものであると積極的に判断されるときには、その責を おうことはない。沢の町モータープール事件について東京地裁が、﹁組合活動としてなされた文書の配布であって も、文書の記載自体、配布の状況等によりその配布員的がもっぱら他人の権利、利益を侵害する悪意を有し、または 有するものと認められるときは、文書配布行為は不当なものと解すべきである﹂とする判断は是認されよう。ビラの ︵3︶ 内容については、本題の主題をはなれるから、別の機会にゆずる。 さい.こに、無許可のビラ配布がしばしば問題になる。ビラ配布について、協約や就業規則で届出や協議制を定め、 施設管理権と組合活動 四九
東洋法学 五〇 ときには事前許可制の規定をおくことがある。ビラ配布は、何人の指示をうけることなく、組合が決定する事柄であ る。就業規則の定めが、配布する印刷物の内容にわたる事前の許可、検閲を意味するものでないかぎり、︸応有効と 考えられる。しかし、ビラの内容を事前に検閲し、これに許可を要すると定める協約や就業規則は、表現の自由、検 閲禁止に反するし、自主的活動を否認する団結侵害となる。無効である。配布について、これら規定の適用はない。 右事項に該当しない届出や協議制に反する手続違反の配布が問題になる。慣行が確立しているときはこれによる。慣 行を一方的に無視し、就業規則条項を思いだして適用することは、死人の復活であり、かつ不当労働行為としても 処分は無効である。配布が就業規則条項にふれる違反があっても、目的、時期、内容など綜合的にみてささいな違反 ︵5︶ であるとき、重い処分をもってのぞむことは許されない。また、使用者は就業規則をみだりに類推拡張解釈して、労 働者の印刷物の配布に高姿勢をとることがしばしばある。印刷物の配布がもともと就業規則の規定にあたらないので ︵6︶ あるから、処分は懲戒権なき処分である。 ︵王︶ 東京地決・鷺本曹達二本木工場事件・昭二六・囲・二七労民集二巻三号三二五頁では、 ﹁工揚内においてこのような 労働者の行動︵文書の配布・注︶が制限を受けるのは、主として使用者の管理する土地建物の利用関係や従業員の就業時 聞申の能率に及ぼす影響等の考慮に基くものというべく、従ってビラの配布の如き直接物件を利用又は汚損しなくてもで きるものにあっては、就業時間外はみだ9に禁止できないものといわねばならない﹂と判示し、 ﹁むしろ問題は、そのビ ラの内容が業務を阻害する悪質のものであるかどうかにあるといわねばならぬ﹂という。就業時聞以外のアカハタ配布が 問題になった日本ゴム工業事件︵東京地判・昭三四.六。二七労民集一〇巻三号四七〇頁︶でも、 ﹁配布は主として就業 時問外になしたものであり、また解雇当時は僅か五、六部を配布したに止まりかつ、就業時問中の僅かの配布の印刷物と
共に配布したもので、そのため特に他の従業員の作業を阻害した9職場秩序を甚だしく乱す程度のものでないことが認め られる﹂とした。組合員の府議会議員立候禰のための休暇申入拒否に抗議する内容の文書配布行為について、沢の町モー タープール事件︵東京高判・昭三霞・六二六労民集一〇巻三号五〇五頁、同旨、同事件・東京地判・昭三三・五.二六 労民集九巻三号二九八頁︶では、﹁本件組合ニュ⋮スの配布は、正午から午後一時までの昼食のための休憩時間内に、臼 本人食堂の附近で、僅か数人の労務者を相手になされたものにすぎず、しかも休暇時問内の組合活動の原則として承認さ れている以上、その違反たるやまことに軽微なものというべきであり]、軽微な職場規律違反に重い不利益処分を課する 本件は不当労働行為として許されないと判示する。正しい判断といえよう。 しかし、同事件について最高一小︵昭三七・五・二四訟務月報八巻五号九二六頁︶は、米軍基地内におけるビラ配布行 為が軽微な職揚規律違反であるとしても、所定の手続を経なかった以上、労働組合の正当な行為をしたことにはならず、 その行為により解雇されても、労働組合の正当な行為をしたことの故をもって解雇されたことにはならない、という。反 組合的意図のあるなしをとわないとする見解には、とうていしたがうことができない。蜜ことに最高裁らしい判断という ほかない。 会社と組合の協力になる生産合理化運動に反対するビラを就業時問中に数回にわたり配布したことを理由とする解雇が 問題になった日本硝子事件︵名古屋地判・昭三七.五・二一労民集ニニ巻三号六四二頁︶では、就業時間中の職場離脱は 就業規則一条の職揚秩序維持義務に反するだけでなく、生産合理化運動にたいする公然たる反対は、会社の重要方針にた いする反抗にして、職場秩序維持義務と生産昂揚の義務に反するとして、解雇は有効と判示する。 ﹁会社としては会社の 営業成績の向上に寄与することを期待して従業員を雇傭する﹂と解する判示の基本的前提はきわめて一面的であり、労働 力を売らなけれぱ生活できない労働者の職場における生活や権利はすべて捨象され、ましてや明るい職揚で快適な労働を する権利は一顧だにされない。生産合理化運動の反対を理解しようとする態度は一かけらもなく、会社の重要方針、生産 昂揚の建前から、頭から無視する。裁判所の論旨の展開からすれば、考慮の余地さえないのであろう。 ︵2︶ 組合機関誌の記事に会社製品の晶質低下、昇給、人事移動の不合理、組合員にたいする不当な圧迫などを記載したの が、会社の信用失墜・名誉殿損として間題になったβ本ビクタi事件︵横浜地決.昭二九・七二九労民集五巻四号三八 施設管理権と組合活動 五一
東洋法学 五二
三頁︶、会社の経営方針を批判する宣伝活動は不当な目的にでないかぎり、組台の正当な活動といえるとした昭和電工川崎 工揚事件︵東京地決・昭三丁八・一五労民集七巻四号七八○頁。ただし、虚偽の事実を宣伝したとして違法とされた︶、 就業時間後に許可なく部屋にたちいり、組合加入用紙を新規に採用された者に配布した駐留軍追浜事件︵中労委命・昭二 九・一〇・ニニ命令集二集二五三頁、東京地判・昭一三・一〇・一〇労民集七巻五号八九五頁、東京高判.昭三二.一 〇・二︶、女子軍寧を裸にして服装検査したことに抗議した文書を配獅した呉市交通局事件︵広島地労委命・昭三吸.一 二二九労旬三七一号︶、会社の基本的編集方針を頁向から批判した宣伝ビラを配布したについて、新聞社という特殊性 から組合の宣伝ビラの真実性を厳格に判断し、正当とした山陽新聞社事件︵岡山地判.昭三八.一二二〇労民集一四巻 六号一四六六頁︶、組合委員長が執行委員会の討議を経ることなく一存で、守衛を組合員にするとの協約改訂で了解を与 えたのに反対し、書記長がこれに反対する内容および原水爆禁止運動を内容とする臼本原水協の旗のもとにと題するビラ を配布して問題になった東邦紡績事件︵大阪地判・昭郷一・一二二五労民集一七巻六号ご二六九頁︶、前掲沢の町モー タープ⋮ル事件︵ただし最高裁判決はのぞく︶では、いづれもビラ配布の目的は組合の正当な活動の範囲を逸脱しないと して懲戒解雇を不当労働行為にあたるとして無効とした。最高裁は、右ビラ配布の行為は、政治運動を臼的とするもの で、正当な組合活動の範囲をこえるから、不当労働行為にならぬという。組合活動における情宣活動の重要性が認識され ておらず、組合活動を極度に狭く解する。賛成できない。 ︵3︶宮島﹁労働者の文化活動﹂労旬五八九、五九三、六︸三号、鍛治﹁労働組合のビラ・文書活動の自由し労旬五五七号 参照。文書に虚偽の事実を記し、懲戒解雇が認められた事例として、前掲昭和電工川崎工場事件、名古屋地判.顕本アセ テート事件・昭三八・三・二労民集一四巻二号四一六頁がある。会社の経営方針を批判したことが職揚秩序をみだしか つ生産昂揚の義務に反したとして懲戒解雇が認められたものに前掲臼本硝子事件がある。 なお、会社の機密事項をもらしたのが懲戒解雇の事由とされたものにコドモわた事件︵札幌地小樽支判・昭三八.八・ 二六労民集一四巻四号一〇二九頁︶がある。事案は、不当労働行為審問の席上で、支店長の営業報告書︵﹁今後従業員組 合の育成について大いに協力して会社発展のため奮闘致したいと存じます﹂︶の写しを支醜介入の証拠として提出したの が、就業規則﹁会社の秘密又は会社の不利益になる事実﹂に該当すると主張したのにたいし、裁判所は﹁右就業規則に恥う秘密又は不利益となる山畢実とは会社の取引上或は経済上のものをいうものであって、会社の組合対策に闘する事項の如 きはこれに含まれないと解するのを相当とする﹂と判示し、懲戒事項に該当しないと正当に判断する。 文書の内容が、社長や会社の幹部にたいする非難、攻撃にわたることがときたまある。たとえば、鳥取地判・沢タクシ ー事件・昭三〇二・二〇労民集六巻一号一九頁、高知地判・高知新聞社事件.昭三一.一二二一八労民集七巻六号一〇 一八頁、東京地判・銚子醤油事件・昭三三・七.一八労民集九巻照号四三四頁、同事件・東京高判.昭三六.二.二七労 民集コ一巻一号一〇一頁、東京地判・順天堂大学病院事件・昭四〇.二.一〇労民集一六巻六号九〇九頁は、いづれも 激越にわたり、あるいは破壊的な字句が用いられ、侮辱的な言辞がろうされたりしており、文宇どおりに読めば違法であ るが、それも全体としてみるときには、組合員の団結を結束し、強化する意図からでてきたもので、軽微な違法行為をと らえて重い懲戒処分を課することは許されないとしている。 ︵4︶ たとえば、協約において﹁組合活動のため会社構内において印刷物の配布または貼付掲示を自由に行なうことがでふさ る。ただし、その内容については、事実を曲げたり著しく誇張してはならない。会社施設を利用するときはあらかじめ協 議する﹂と定める場合がある。 就業規則では、を D﹁従業員が次の各号の一に該当する場合においては懲戒解雇に処する。情状しゃく量の余地あると認 められるときは出勤停止又は減給に止めることがある﹂とし、その一つに、 ﹁許可を得ないで事業場内又は施設において 従業員として不適当な集会の開催、演説又は印刷物若しくは図画の配布若しくは掲示をしたとき﹂を挙げたり、あるいは が ㈲﹁従業員は会社内においてパンフレット、ビラ・広告その他宣伝文書を配布し、または会社所有物にそれ等を貼付掲示 するについては、事前に所属担当課長の許可を受けなければならない﹂と規定し、の﹁従業員で次の各号の一に該当する 者は懲戒解雇の処分を受ける﹂とし、その一に﹁予め会社の了解がなくて工場又は工揚附属物に伝単を掲示し又は撒布し た者しといった規定がおかれている揚合が多い。 ︵5︶ 右注︵4︶の⑲が問題となった許可をえないでビラを配布した書記長を懲戒解雇したものに、前掲東邦紡績事件があ る。裁判所は﹁使用者は当該ビラの配布が経営秩序に影響ボなく、また若干影響があるとしても経営者として忍受すぺき 限度のものである場合には就業規則等を根拠にこれに介入することは許されない﹂との基本的立揚から、 ﹁就業規則の規 施設管理権と組合活動 五三
東洋法学 五四
制の対象となるのは、会社の経営秩序を侵害し、またその怖れのある態様におけるビラ配布等に限定されるものと解すべ く、そのような場合でない限り、かりに会社の許可を得ずに組合ビラを配布しても、これをもって懲戒解雇の事由となす ことは許されない﹂と判示し、当該ビラ配布による経営秩序侵害の有無、ビラの内容、配布の場所、方法においても組合 活動としてのゆきすぎは認めえず、慣行についても﹁従前から慣行的に会社の許可を受けずになされたことを考え合せれ ば、申請人が本件ビラの配布について会社の許可を受けなかったとしても、申請人に前記就業規則六九条=音万の懲戒解 雇事由にあたる非道があるものとは到底なし難い﹂と判断する。些細には疑問や明瞭と、おもえない部分がないではない が、まことに妥当な見解である。賛意をおしまない。 ︵6︶印刷物の配布について、許可制を定めた右の注︵4︶に挙げる就業規則事例ωが問題となった事実としては、新三菱 重工業事件︵神戸地判・昭三六二二・四労民集一二巻六号一〇四〇頁︶がある。事案は原告ら二名が、昼の休憩時問中 に、﹁神船若者の﹃生活白書﹄を作るために!﹂と題する民青作成になるアンケートを求める文書を、同僚の数名に配布 したのが、懲戒事由にあたるとして減給五等の処分をうけた。判示は、アンケートを求める行為は、協約にいう﹁交渉﹂ には該当しないし、アンケートを発すること自体を政治活動と断定することは困難であり、かつ宣伝活動の目的をもって なされたとは認められないから、不適当な文書の配布に該当しないと判断する。 印刷物の配布の許可制を規定した右の注︵4︶に挙げる就業規則事例@が問題となった事案に、旭化成工業事件ひ宮崎 地判・昭三八・照・一〇労民集一脳巻二号五一四頁︶がある。原告が政防法案反対の趣旨を印刷した。ハンフレットを許可 なく就業時問中に職場、寄宿舎において署名を求めた行為が、就業規則に違反するとして解雇された事案である。裁判 所は、① 就業規則に規定する﹁﹃配布﹄とは、特定または不特定の人に文書等を配9思想の伝達を行なう行為を指すも のであって、文書等を騰配る﹄点に重点が置かれているのに対し、 ﹃署名を求める行為隔は、一定の趣旨に賛成してくれ るよう特定または不特定の入に呼びかけ、その趣旨に賛成する者から、任意に一定の用紙等にその署名または署名捺印を してもらうことを目的とする行為である﹂から、﹁﹃配布﹄の概念中に﹃署名を求める行為﹄を包含させることはできな い﹂。 ⑧ 就業時間中の行為であっても、諸事情を総合して考えた場合、企業の経営秩序を乱しまたは乱すおそれのあっ た行為とは認められない。⑧﹁労基法九四条が寄宿舎生活の肖治を保障しているのは、事業の衛属寄宿舎において営まれる労働者の私生活は労働関係と切離された個人としての自由な活動領域ーつまり作業から開放された状態での作業に関係 のない、労働者の個入としての生活領域ーに属するものであって﹂、使用者の干渉や介入による弊言を除去し、﹁労働者の 私生活の自由︵この私生活の自由ということは憲法によっても保障されているところである︶を確保することにその目的 がある﹂。㈲ 寄宿舎は使用者の設置する施設であり、建物設備にたいする管理権は本来使用者に属している。この管理 権にもとずいて、使用者はその建物設備の利用に関して具体的に必要な規制を加えることができるが、規制はその維持・ 管理に必要な範囲をこえてなすことはできない故、寄宿舎規則が寄宿労働者の市民的自由を奪うものとすれば、規則は労 基法に抵触し、その効力は否定される︵この点については、横井﹁寄宿舎の自治﹂別冊ジュリストコニ号二五六ー七頁参 照されたい︶。⑤ 署名を求める行為は寄宿舎内における私生活の自由の範囲内に属する行為であり、就業規則、寄宿 舎規則の適用はない、と判示する。本判決のすぐれた見解は、q のはもとよりのこと、⑧および㈲にある。寄宿労働者の私 生活の自由、自治の原則が使胴者の権利!管理権により現実に多かれ少なかれ奪いとられている状態のもとで、寄宿舎 における労働者の生活は管理権からとき放たれ、労働契約の拘束から解放され、自由な市民としての自由と自治をはっき りとー当然のことながらー確認したことにある。 二 組合のビラはり活動は、組合員にたいする情宣活動として、使用者にたいする示威運動としても、重要な活動 上の地位をしめている。ビラはりは、組合員に直接に訴えるということではビラ配布に類し、施設利用の面では情宜 活動の基点をなす組合掲示板に近いが、直接にこれを利用することでいっそう問題を生じやすい。企業別組合は、時 問的・場所的制約から、組合掲示板の利用だけでは十分な成果をあげえない場合がある。ことに争議の準備段階や争 議時には、組合運営の必要から掲示板のほかにビラはりが重視される事情もありえよう。組合をとりまく諸般の状況 を考慮すると、一定の事惜のもとで、掲示板以外にビラはりがある程度まで容認されないと、組合の存亡にかかわる 危機に見舞われかねない。そのかぎりで使用者にあっても、その所有する施設の管理権を施設と結合した労働力によ 施設管理権と組合活動 五五
事ハ 洋 法 愚干 五六 る制約から、ある程度その内容に制限をうけざるをえない。使用者は組合のビラはりを一定の限度まで容認すべきこ とを義務づけられているといえよう。しかし、ビラはりは直接に施設を利用しておこなうほかない。施設管理権をめ ぐる紛争もビラはりを頂点として展開するといってよい。ワダ・れだけに、使用者がビラはりにきびしい規制を設け、管 理命令違反につよい態度でのぞむわけである。・てのうえ、権力による刑事罰の威嚇に支えられて、いっワ∼、う勇気づけ られているようにさえ思える。 問題は、労働協約や就業規則で定めがなされている場合である。組合掲示板以外の場所にはいっさいの掲示をしな い、掲示板以外の揚所に掲示するときは協議する、あるいは事前に届出る、事前に使用者の許可をうけるといった規定 ︵1︶ ︵2︶ がおかれているときである。許可制に問題があるほかは、原則として組合はこれに拘束されることになる。しかし、 協約や慣行が存しない揚合には、ビラはりが組合活動の枠をこえていないかどうか、団結権保障の反射として使用者 に受忍義務を課することがやむをえないかどうか、が判断される。すなわち、ビラはりの臼的、場所、表現内容、方 法︵枚数、回数、寸法、紙質、文字の体裁、はりつけの材料や仕方、剥離にょる現状回復の難易︶、ビラはりによるその施設の 性質、機能、効用や美観の有無、作業秩序や職場規律にあたえる影響の程度、ビラはり時の労使関係やそれまでの慣 ︵3︶ 行など、綜合して立体的に具体的に判断するほかない。 協約や就業規則に、ビラはりについての届出や協議制の定めがなされていても、会社がみずから会社掲示板以外の 場所にみだりに掲示したり、日頃各種のクラブ・親睦会などの文書、ビラの掲示を黙認している場合に、そこに同じ ように組合がはったとしても、その非を使用者は責めることはできない。協約や就業規則の定めはそのかぎりで形骸
︵畜 化していると解するのがふさわしいであろう。 ビラは墾の手続や場所に関する協定は、争議までも予想して定められているとはかぎらない。そうしたさいに、ビ ラはり活動が、組合のおかれた状況における必要度、ことに争議の準備段階や争議時、内部分裂や脱退といった緊張 状態のもとで、日常と同じように画一に協約を適用すると、組合の内部運営や争議に不当に介入するとのそしりをま ねくおそれがある。もちろん、ビラはりが野放しにされてよいというわけのものではなく、そこにはおのずから組合 活動にある程度の合理的な枠があることはいうまでもない。組合のおかれた状況における必要度、争議にいたる経緯 ︵5︶ やその実態、使用者の業務運営や施設の機能・効用などに与える支障などを綜合して判断される。 ビラの表現内容、懸垂幕、組合旗・赤旗の掲示、貼付掲示物の一方的撤去など、施設管理権と組合活動のそれぞれ の一部がたがいに抵触し、日々紛争を生じている。これらについては、これまで検討してきた判断に準じて考えてさ しつかえないであろう。 ︵エ︶ビラの内容に介入し干渉する意味での許可制は、すでに各所でふれてきたように、検閲禁止にふれかつ組合活動への 不当な介入であるがゆえ、たとえ協約に定めがなされていようとも、本来、無効である。また、ビラはりの揚所について の許可制は、施設の性質、機能、効用とか美観といったビラはりに適しない合理的な理由によるときは、組合もこれに拘 束される。しかし、日頃、各種サークル、親睦会などのビラがはられているにかかわらず、使用者の指定する場所以外に はりつけることを禁じたり、組合の自主的活動をもともと封じこめる意図から、施設の管理上の必要からするなんら合理 的な理由もなく、もっぱら組合活動対策としての反組合的意図が客観的に推認できる場合には、たとえ協約にかような定 めがなされていたとしても、これに拘束されるいわれはない。 施設管理権と組合活動 五七