• 検索結果がありません。

鷺流狂言『宝暦名女川本』「盗類雑」「遠雑類」翻 刻

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "鷺流狂言『宝暦名女川本』「盗類雑」「遠雑類」翻 刻"

Copied!
100
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

鷺流狂言『宝暦名女川本』「盗類雑」「遠雑類」翻

著者 永井 猛, 稲田 秀雄, 伊海 孝充

出版者 法政大学能楽研究所

雑誌名 能楽研究

巻 44

ページ 67‑165

発行年 2020‑03‑25

URL http://doi.org/10.15002/00023226

(2)

67 鷺流狂言『宝暦名女川本』「盗類雑」「遠雑類」翻刻

鷺流狂言『宝暦名女川本』 「盗類雑」 「遠雑類」翻刻

永井   猛 稲田秀雄 伊海孝充

   凡 

一、鷺流狂言『宝暦名女川本』のうち、「盗類雑」「遠雑類」(法政大学能楽研究所蔵)の二冊を翻刻する。

一、底本を忠実に翻刻することを原則としたが、通読の便宜を考慮し、左の方針に従った。

 

1はたしとり通本底名、仮り送、い遣名仮。

 

2はたしとままの本底、記、表の音促・音拗・点濁。

 

3、合字等は通行字体に改めた。

  

  (例)ゟ→より、ヿ→コト、→トモ

 

体のめた。ただし、一部そまにまとしたものもある。改 4 字、漢字の異体字や旧字体は、原則として通行の字体や新    

  (       例) 哥嶋嶌附躰喚皷

 

  。仮漢字には適宜振りを(名く)に入れて傍記したい 5 読は漢字の振り仮名の表記底、本のままとした。特ににみ

 

。たし刻翻てしと名仮片 」「」」「6 で通片仮名と平仮名の共、あはのミ書ハ体、「るニ

 

。が難な場合は判、平困仮定名にした 」「」「」「」「」「「」7 のリ片仮名のセツとり平仮名のせ、つ

 

た「しと」ゐ」「わ」「も」「み」「の」「え 8 文・得・之・見・茂・和居意の類は、宜適てっ、によ

 

。たし一統 し」、ゝ「は繰返り名の字仮片一はに字ヽ「」し返り繰の 返一名仮平」、々「はしりそはの字一字漢、い用ままの繰 9 反復記号に二ついては、、字以上の繰り返の「〳〵」し

 

。つ、文の切れ目(句点を打べ合き個所)を一字空きとしたは 10、し句読点は底本のままとたいが、それが施されていな場

(3)

68 

  れは、()に入。て傍記した 役に記されているる名に誤りがあそ場合こ、たいてし落り 11の「は\のめ初改役各に、めた。本においてそれが欠底

 

。右たしとせ寄 12れを役名(またはそ、しと落トにンイポ、)は号記るわ代、

 

。るにくって傍記すくか本文中に示した、   断になると判、【した場合は】参考も部消抹、がたっ従分 13チむ含も抹ケセミ消(分)部、は示さず、正された本文に訂

 

  〔入れ、演出注記等も。の〕でくくって示したは 14入に書き落とし部分の細字よ、る書き込み等も本文にもる

 

  。〔たし示てっくくで〕 15本底ト書き、言いかえ等、はに分部たれさ記、形の注割で

 

。節たし略省は号記付 16〽等節付けのある部分はの下〽で・上・点、ゴ、りくくマ

 

17  言たっくく〉では〈名曲の狂、・能るくて出に中文本。

 

。□たし示てっよに 18等数虫損・汚損・難読の分字に定推は分、能不読判りよ部

 

。のて校訂者べ付である加   とし示をあこるでり通りた)でしたすは分た部っくく。( マ文原てし)とマを昧、?添えて曖な、(字体あることやり  19読難文字や誤写の定推、などを()でくくって傍した記

 

※入傍記のがそれがる個所である。 本を付け。〔て文中に入は※換のもい※〕が言いたえで、れ 20、は傍記されている言い換え、長できるだけ傍記したが、  

21、装束付等は、二字下げとした。

 

22、各曲曲名はゴチック体にした。

 

。翻してと刻した がているものがあるれ、それぞと「饅」「腥」し」「を旁生 23米遠雑類」で曲名等に、、「偏にを「曼」、また、月偏に旁

一、書誌等については、「新出鷺流狂言『宝暦名女川本』の離れについて」を参照されたい。

一、翻刻は、「盗類雑」の一〈連歌盗人〉~八〈茶壺〉を永井、九〈筍〉~一七〈棒縛〉を稲田、一八〈合柿〉~二五〈颯花〉を伊海、

。、が担当して原稿を成し作全覧た員検点し閲を体全が 拄海伊〉を閑泥〇〈三〉~杖三〈〉~聟、田稲〉を蔵地六二〈二二   「雑類」の一〈一〈縜粥〉~一遠折紙聟〉を永井一二〈無縁、

一、法政大学能楽研究所には、貴重な蔵書の翻刻公開許可ばかりでなく、研究所紀要『能楽研究』の紙面まで提供していただき、篤く感謝申し上げる。

稿れ()に」()の。〕

(4)

69 鷺流狂言『宝暦名女川本』「盗類雑」「遠雑類」翻刻

(「 」)

      

  ( 目次)

一   連歌盗人     拾四  舎弟   二   子偸児      拾五  鵆 (ちどり)

三   瓜賊徒      拾六  仁王  四   盆山       拾七  棒縛  五   金藤左衛門    拾八  合柿  六   磁石       拾九  隠狸    七   長光       廿   八句連哥八   茶壺       廿一  胸突  九   筍        廿二  包橘  拾   太刀奪      廿三  附子  拾一  真奪       廿四  口真似  拾二  文山立      廿五  颯花拾三  昆布売     一  連歌盗人

「是ハ此他りに住居致者で御座ル  某似合ぬ事ながら初心講を結んで御座る  某斗でも御座ない  爰に相当が御座ル程にあれへ参り談合致さうと存て罷出た  先急で参らふずる  何としたくをせられたかしらぬ迄  定てゆだんハ有ルまひと存ル いや参る程に早是じや  物もふ  案内もふ   「表に物もふと有か案内とハたそ   シテ「物もふ   アト「物もふとハ  「いゑそなたか  「中々身共じや   「何としてわせたぞ

   「夫ならバ追付申さふ  内々のしよしんこうがそなたと身共の当番にあたつた  さだめてそなたハ日比才覚な人じやに依て何ぞしたくをさしましで (ママ)有ふ   「身共も方々と御無心の申せ共今においてとゝのわぬ   「扨夫ハにが〳〵敷事じやな   「又そなたハ何ぞ才覚さしまして有ふと思ふてあてにしていた   「才覚せぬでもなひ  きうにハ成まひとおもふて杉楊枝を二三百本けづつておいた   「杉やうしを   「中々   「杉楊枝ハ今と云ても成事じや

   「やあ〳〵成事じや   「中々   「扨わごりよハ何を用意さしました   「身共ハかひしきを馬に二三駄きつておいた   「かいしきの切置がなんの役に立物じや

   「やくにたゝぬ   「中々   「是ハ両人ながら何も用意せいでハ何とした物であらふぞ  「されば何とした物であらふぞ  いや夫に就てわごりよと談合する事が有つて

(5)

70    誰ましら通ふこ先ひなもいやき「かひなハ客がたせ

   「心得た

   たせ得心「   〔  下ならハ通ふか〕 ましさいニ夫先「

   共様ハなひわごりよハ何誰のをおたつ知ふし「かたつアト 合で事の別ハ云と談ハあ座の上ニ下ニくハらをかきて〕 扨笛   〔テりテトアト入替アシトシテ柱の方ニシ

   「其所へ  ゐひにくひハ   「いやくるしうなひ   「其所へわごりよと身共と同道していて案内なしに何ぞ一色か弐色とつてくれば今度の当ハざつと済と云物じや  「ふん  わこりよハ心 (真)実さふ思ふて居るか   「何が偽りであらふぞ   「何をかくそうぞ 【な】  某もそふ思ふていてな  「やあ〳〵わごりよもそふお (ママ)思ふて居るか   「中々  「当が相番なれば心迄〔が〕相腹中じや  「其通りじや  「夫ならバ追付行ふ  「一段とよからふ  「さあ〳〵おりやれ〳〵  「心得た

  〔ト云テ右ヘ一返廻ル〕

  「此様な事ハ宵からついたかよひという  「いやわごりよハ殊外こうしやじや  「ゐや〔ツネニ〕皆の咄を聞た

  「さふであらふ  「いや参る程に是じや  「此びゞしひでハ中々はいられまひ  「尤表ハ此躰なれ共裏ハ殊外ろはな  こちへおりやれ  「心得た  「是見さしませ 表とちごふて格別な事でハなひか  「誠に相違した事じや

  「此垣をやぶれば其まゝ座敷じや  「さらばやふらしませ  「わこりよハ何ぞ道具を持しませぬか  「いやなにももてこぬ  「身共ハ此様な事があらふと思ふて是を持てきたハ  「よひ心懸じや  さらば急でやぶらしませ  「心得た〔ト云テ扇ヲはものゝ心にしてかきをきるてい  尤かきのなわをずかり〳〵ずか〳〵〳〵ト云テ三所程きる〕〔さあ〳〵なわを切た  是へよつてかきをやぶらしませ  (「)心得た  ト云テ二人寄てかきへ手をかくるていをして両方へ(「)めり〳〵〳〵  ト云テ二人共ニうろたへて下にいる みゝをふさき〕 

「是ハいかな事某ハ殊外うろたへた事かな  今のしたゝかになつたを人に聞すまひとおもふて身共の耳をふさいだ あゝ殊外うろたゑた  誰も聞付ぬそうな  「其通りじや シテ「さあ〳〵急でかきをこさしませ  アト「心得た〔シテさきへかきをこすてい  両手ニてかきを分て右の足を上へあけてこし又左りの足を入テこしテアトもシテのごとくにしてこす  シテとハちとちこふようにしてよし〕

「此せうじをあくれば其まゝ座敷じや

〕るい   「二い()其通りしト云テや人とは共見とくててかすニし 「かてしほと〕〔)火(てつル有テには仍まらいれハしうれに 〔い〕 人二〳「火が〵るて〔くあテ寄人二共ニ跡へよ云ト     「ごりよも是へよらませし心「〳〵〳らさ〵た得    や「〕 共さじきしらゝまさたばせわ得明「心ましさ   〔此其とる明を戸

「誰もなひ  是ハなぜに火をともいておいたぞ  「さればふしぎな事じや  急ではいらしませ  「心得た  是ハ宵に客が有たそうな  見さしませ  茶湯道具が取ちらいて有よ 「誠にわごりよのいわします通道具がちらいて有よ 

(6)

71 鷺流狂言『宝暦名女川本』「盗類雑」「遠雑類」翻刻

「是を一色かりてゐても此度の当ハざつとすむ  「中々  「きれひな道具でハなひか  「誠にきれひな事かな  「是ハ床じやハ  掛物などハ見事な事じや  是になにやらかいた物が有  なんじや  かゞくじやさふな  「何じや  よふでみさしませ  「水に見て月の上成木の葉かな  十月二日  是ハ移徙の懐紙さふな  「是ハ移徙の懐紙にハ殊外できたな

   葉木らふ「はやくな「か末れ紅下んせちやわらあり     ちにが致出「さうに「よからふたこふもあ「互     に得心「せましさ居下らか〳あさ「〵か「ふよ るじ故是もにく迄是の某と程やせにいざそへ発句をうでハなひ     〔ごふンジテミテ〕 「のよわ「なんじやり「キアトシテシテ

  「あゝ殊外出来た  「何と有ぞ  「が其中に少指合が有ルよ  「やれ爰なもの  発句に指合ハ有まひぞ  「尤じやが  ハごりよと身共がこよひ是へ〔しのふで〕来に依てあらハれやせんがいやじや  「夫ハわごりよが聞様がわるひ  あらわれやせんでハなひ  せぬじやよ  「ぬか あゝなをつたれ〳〵  「さあ〳〵わごりよ付さしませ  「此あとでハこわ物じやが何としてよからうぞ  こふもあらうか  「何と  「時雨の音を盗む松風  「はゝあできたぞ  「とてもの事にゆるりといて面八句を致さう  「よからふ  「此様な所でハせう〳〵でさする事でハないぞ  「中々よせつくる事でハなひ

  〔ト云内ニ亭主太刀持出ル〕 

「座敷がさわがしひ  何事じや  是ハいかな事  さればこそ盗人がはいつた  やる事でハないぞ

  〔ぬトたのかきたかテ云 〵だを松ひた其い〳いや〕 てぬをせ

ぞひハ身共がにかて居るへ 先シテ柱のテニイ〕 是云テて太云を方の柱臣大きぬを刀見テ   〔て見を方のわきくま

  ふ事でハなひ「どたにてままり参しふよ    に夜中に座敷を見物すくると云事ハなひのが「る座て御   イル〕 せ盗人で御座りま「ハぬにおまり参し物座見を敷   〔ニ方のシ臣大ニ共人二トアテ柱

かま物有が事云とたふよにふど「〕 ル   〔ト出少テ云

ゝる仰被といしさ    云ハと人盗「ハ等汝らぬがなややさあは「やじ物ひし 付まり座御て松迄と風むすがすま楊ハ枝したいせへち本一をが    者此ぬせ座まり御ハでつがをれ時で音の雨ぬるまり座御す    「る座御とて申やじいやおれのか出盗小「人いまるを (ママ) やらわれしせんがさがあすま人〔レば爰に一〕小人が御座り盗   ちらありぞ末木「たれわせやま座御てし葉付と紅下ん   て依にしま座り御が紙懐に夫た添た発付何「とし句致をま ぬせまり座でハ人盗お「が御座を見物に参ましたが是に敷   ふ人とハい盗へども物をこ事せうに云たが何を云たぞる〕    〔上りふ刀太テ云ト

  〔おるよふこちれの「二〕 トル出少人な

〵でもはや「そうな〳   た程に是によふ付すならば命をたせけううを第てれこが三   〔りるくあ太ふヲ刀二テ云トト人共ニとへ引也〕 やい身共あ

なる   〔テ又少出ル〕 ト「ちこふ寄お云

   ひ出「天神なりますまひもま「人丸もなります   忍とれわあを月比のミや「あるすまり座御ふよはおゝ「ひ   〔  る云テ又太刀ヲふりあくト「こふもあらふか〕

る寄おりよふこちだまな〔るおふこちゝあ「〕 ル出少テ云   〔ト

(7)

  たな「ちとこをおひらきそなれませひ「心得 (ママ)     るせゆ鐘の音「八「弓矢ゆ幡かいたるす急で通れで     夢きべむとさ「哀テ出ひ忍とをた月比のミや「    何付う早とさ「せまし付ぬ72かま「今のハ何しで御座り    た〕 「早う付ひ「わごかよ付さしませ「先そなり

  〔少開テ〕

  「さあ〳〵急でとをらしませ

ぬあ云テ「は〕 面も御座ら目   へくてあテ顔を袖シとる見亭主袖を取テ顔ヲ云る名ヲテト〔    やにあて通ル〕 「何者じゝを少顔を見てやらふと存ル (ママ)  〔かを袖の右ニ共トアテシ

〕もへあてくるを是そかてを取テ顔見るを袖右ニウヤノテシの   〔  云開クトあとへアもト

  「いゑわこりよか  「はゝ私で御座りまする  「先下にいさしませ   「何としてわせたぞ  「いや私ハ参るまひと申て御座ルが此者が是悲 (非)共と申て御座ルに依ふつと参て御座る  「いや左様でハ御座りませぬ  「先さむからう程に酒を一ツのましませ  「いやもふ被下ますまひ  侘 云致ませう  「ひらに一ツ呑ましませ  先夫にまたしませ

  せせ「はゝ是ハたそ被仰付まひで「さあ〳〵呑しま    やじかテ鼓座へ行テ〕「すりぬ事じやな「其通太   〔云ト

  せ返座に「おじぎを申せバルてた両まかゞしい程な外に (慮)  「ぞるにすまおよりやい下もふ御酒を被るゝさへ御わご    をとたふ〳〵何ぞ肴おませう思な合持を是へひもにな共   けゝあ「に〕てしきしこつなうな御酒で御座ります「いシテ   〔かた

  「夫ならハいたゞこうか  「なふ〳〵わごりよにも何ぞおませたひけれ共何もなひ  是 コノハきざしふるばひたれ共わごり よにおまする  「はゝあれにやらせらるれバ同じ事で御座る  御無用で御座る  「いわれぬ事をいわず共いただかしませ  アト「夫ならバいたゞこふか  「も一こんツヽ参れ  シテ「それならば被下ませふ  「なふ夫に就いてわごりよ達に云たひ事が有  今度わするをりハ案内をこふておもてからきさしませ  か様に夜中にわすれバわごりよ達とハしらいて殊外きづかひな シテ「重て参ると申て〔も〕あれが参ならでハ参りませぬ  御気遣を被成る ゝな  「でも気遣な程にさふ心得さしませ  「心得て御座る  「もふおいとま申ませう  「おりやるか  二人「侘 云致まする  「よふおりやつたぞ  三人「さらば〳〵 〔三人一所ニ居テ亭主ハ太鼓座ニ下ニイル  二人ハふたいにいて〕

  「なふ〳〵おりやれ  夢のさめたよふな事じや  「其通りじや  「何とおもわしますぞ  これと云も日比わごりよと身共が和哥の道に心をよするに依て天神か玉津嶋の御利生でかなあらふ  「其通りでおりやる  「さあらば此よろこびに和哥を上て帰らう  「先わこりよあけさしませ  「夫ならば某が上う  実和哥の道ニハ鬼かミ迄ものふじうとハ〔○ふし〕か様の事をや申覧 「実よの常の習にハ盗人をとらへてハ切こそ法と聞物を此盗人ハさわなくて連哥にすけるやさしさに〔ムカイ合テ〕〔㊨〕喚入てげんざふし酒一ツ呑せて

  「太刀  「かたな

りたけにびた「〕 きゞ   〔二いニ手両テし出しさに共人て

〵かおいと云事ハゝ人る事おや申覧〳に盗へとたに   〔ルへ小廻リス右」是やことのか

  〔返シよ

(8)

73 鷺流狂言『宝暦名女川本』「盗類雑」「遠雑類」翻刻

り早ク出テよし〕 「なふ聞しますか  「何事ぞ  「そなたと身共ハ五百八拾年  「七まわり  「一段と目出たからふ  「いざこちへおりやれ  「心得た  「早うおりやれ  アト「参る〳〵

〔わたましの発句

  水に見て月の上成木葉かな引のけての発句

  木末ちりあらわれやせん下紅葉ワキ

  時雨の音をぬすむ松風第三

  闇の比月を哀としのびいて四句目

  さむべき夢そゆるせ鐘の音〕

   シテアト  共ニ嶋の物  狂言上下  腰帯  扇  そゝを成出立よし

   主  紅段熨斗目  小サ刀  扇  太刀ヲさけテ出ル  尤長上下  

〔すゝをぬすんでみゝをふさくと云か  あゝ身共ハ殊外うろたへた  惣してとのぬす人事に入テ云テもよし〕  二  子偸児

「扨も〳〵能う御寝なる事かな  少座敷へおよらせまして置ふ

  〔せけかを袖小へ上てねトへ上の座笛ヲ子テ云て

ぞて息をたしい参りませう   ヽ休少て参へ次おらハ是ね〳〵ト云〕 でよう御寝なれよわ   (「ん)ね

  るたずふら参で急先   出一罷が御座る今宵汰なしに沙色参てかとふら存てりか色二 何とうさ致とにて依致ぬさル存仁所に爰に誰殿と申て大有徳意   用何もので御座る夫ニ当月ハ某就番るにだまいが座御てつ当   住座御で者「にり他此ハ是るな某んよはずおがら初心講を結   〔ト〕 ルイニ下ニ座鼓太テ云

うらわまへ裏     ハ普ひ近なれことか普請請見いへまれらひはで分此たハ    はたへ見たとれらせ表をや〵ハたな麗奇扨々立く〴とこ    内請普に見ぬ】 であれしじや【とか参程に是じや此中ル    らがためつびか宵ハ忍にひ能漸と守申暮に及んだあわれ留   〔るトをさわうの皆々常〕 行道テ云承

  〔うら座御にはろハらてト定〕 てし廻小て云う

  さればこそろはなわ  まだ塀の手もろくになひ  是ハ垣ばかりじや  つつと念の入た人なれ共どこやら愚かな所が有ル  某の為にハ垣斗がよひが此様なことも有ふと思ふて刃物を用意した  先縄を切う

    り縄〳〵まんまと切が〳たさらば破うめ〵か〵〳ず   〔を云テかきのなわト三程きる〕 ずかり所

〳〵〳〵  扨も〳〵したゝかになつた  誰も聞付ハせぬがしらぬ  是ハいかな事  某ハ殊外うろたゑたことかな  今のし

(9)

やじ敷座ゝま    と付ろたへた其誰も聞ぬるそうな外此戸をあくう74殊あゝ   まゝかになつたを人に聞すたひとふて身共が耳をふさいだ思

〵〳    〔戸〵云が火テ〵〳〳ヲらト〕 イテル明ざ    かや秘蔵で有ふどれを一ツ済りのてつざハ当と度此もて参    かハ是な事釜なら見〵〳あ碗れ茶じが見も事此なうそま    取も扨よ有ていらち具がた宵に客が有ハそうな茶湯道     ハはにゐられまひもなひ誰是是なぜハに燈て置たぞいや   〔尓火云テあとへよりて〕 が聊ともしてあるト依てに

   ふが結構な小袖がある是座則是によひ物じや是に致さにや   〔  る云テ道具を立テいて見トていをする扨小袖を見て〕 い

   〵物此様な所に長居いらぬハじ〵や〳れ座御〳がだふお     さいだしかを手て云とた〳おりやれだこういやう〵れ      だよるひ子や目があひて居ハやちとだこふかしをらし    〔云テ小〕 袖ヲ取テ見付ルト爰に子をねせて置たなふ〳〵

  どこゑも行ませぬぞ  のふいとおしや  定て二親ハ秘蔵てあらう  「いや是ハ誰殿にハ似ぬ  あゝよいうまれつきじや

  此大事の子を広ひ所へひとりねせて置たぞ  ち いがわざであらふ  ちとわらや〳〵  くツ〳〵〳〵  をゝ誰が〳〵  身共が大に笑ふたに仍テきもをつぶした  たが〳〵  おじひじやぞ〳〵  何ぞ芸がなるか  とゝの目やとゝの目や  にぎ〳〵やにぎ〳〵  つむりてん〳〵や  れろ〳〵〳〵や  おゝきげんがなをつた  扨々人おくめんをせぬよひ子じや  くツ

〳〵〳〵や  おふだか〳〵  しをらしや  かいつくツてさらば今度ハ肩車に乗 う  やツとな

  〔へトてせの〕 た云の右テか    めぬ〳ころ〵〳〵がさのめたまろこゑの殿いかむや

  うの見て参やしんぶじめさ目おがた置て    「わこさまを座敷にねさせ女立テ〕たにのせておどりて   〔か

ぞる居て    い〳裏盗人がやはつた〵いへ人をまわせ是にハ某がつい    うらあで人盗ハ夫「りるすまおがいだを様子お男ぬらて    か御〕 申まてミ方のくり座何まする「見事じや「して   〔ヲいたふテ云ト

ひ皆「なふ〳〵の出衆でさせられ〕    〔きた云テかたきぬのかをシぬき太刀ヲぬへ柱トテ

  ぞかハひのなすでハなひ事   またしにりいま物夜「る中に見物にくをという事見敷座お    う〕 「おいれやる事てなのハぞ座ぬら「盗人でハ御   〔はいてニりゝかし

ぞうらやてしにりわ    しも「たにまり参にりりにきたとハくいやつのから竹も   の子様やしゆの方とめ〕 「いル真ハ実ぬら座御御で人盗   〔  て女いル上りふ刀太テ云ト

  事おいなもてんお「かひまく   〔女ハとめる〕 「とふでもきらずに

  (

「)申〳〵おこさまがあふのふ御座る  其お子をこちへ返せ   (

「)のけ〳〵

すともへち らすくるな子ハ此ををそた命ついを某「〕 くりとへゆし (ママ)  〔て女

  たれやつとこちへ座れや御〳事〵座御でついなふあ      いのふのとおしち「〵くぞ〳そひまるやのつやひに   〔云テ子にヲ下ニ置テトけて行〕 (「ちへ行)と

   シテ出立  嶋の物  狂言上下  こしおひ  扇  又かたきぬなしにもきどうにてする     アト主  のしめ  長上下  小サ刀  刀  太刀さけて出ル

   女  薄 (箔)の物  さけ帯  ひなん 

(10)

75 鷺流狂言『宝暦名女川本』「盗類雑」「遠雑類」翻刻

   ○子ハ人形也  薄 (箔)かうつくしき小袖にても

   三  瓜盗人   

「是ハ此他りで田はたを数多持た者で御座ル  此中ハかれ是致してはたへも見舞まらせなんだ  今日ハ参ツて様子を見うと存ル  いや是からが身共のはたじや  最早瓜などもじつくり致ス時分じや  なふ〳〵見事になつた  殊外色づいた  いやしぜんけだ物なとがまいつてつるやなど切れハわるひ  案山子を致て置ふ

〕ゆに二所ほど青小縄にて程ひけるすに程たの鼓もサ長    置をなせつに方の下也い今ハ鼓ハもちずわらを鼓を持へつ かせノ面をけすわふの上をき大臣ゑほし前の方折テかぶせ竹吹    〔うく云テかゝしをつるしそ昔ハ鼓ニ竹を通ト

「是ハ此他りの者で御座る  今晩去ル方へ夜咄に参る  先急で参らふずる  いやあれへ参ればいつも夜がふくるに依て今晩ハはやく帰様に致たひが  いや是ハ垣が有  なんの垣じやしらぬ

  うらぶやを垣で是有    い人ハ見へぬ他かしらぬにりやわ人が物ひはいさぬへ見ハ    な御ハで事ハぎふ頃近れ時座ら共ぬがう是盗もれらへこハ   を申とずさゝた下冠にたひがい〳〵瓜田やクをとりず李ツ    ゆわくつかじ外殊なをた致しそうなどうぞ是を壱ツ弐ツ取 (ママ)   〔ひ〕 云テ他りヲかぎて瓜ま畠じやに扨も〳トむ〵

  うひ々おびたゞし事〕 じや急でとら扨るい   〔云テ常のことくトかきをやふりはに

  たいやいやじ葉のこハ是や〕 ひるすをねま取ツ出し〔よ〕思   〔二ト一テ云ツ    承よいとでた急たうとがびツうをろこハにるとお瓜の夜ふ

  〔ツ有やはも〕 テ打トをひろこテ云ハ

ハ入ル有もに爰又〕 ルへろ   〔トことふテ取テ云

けおてしず     よぶふなのよひきも人つをさにせきつしくくもさくにた     腹〵の立事かな〳かせゝたじふゝま其作ぞよやいハや    。。やあ。申扨是ハいかな事も仰ひと被惑するゆる座御に   迷ひハふつつりと参々ますまり左ればねせま弥らを物に様仰   つま〕 しふテをもき付見ひつ重らてるさせられて被下ひゆ   〔トしゝかテ入へろことふテ云を

う足ら参で急に時いかあの本   〔しゝ云テかゝしをくすまてねを〕 也ク置ト下ニ

うせまい    が扨い〳〵にくいかなも事やゝ今つなにせてか某ハ度が   もてしをたゝどなせか切も置ぬ是ハら座御ハでさわの物だけ     をるぞつやル是ハいかな事い何と者が此様な事をした存   う様日見舞ましたれさ瓜が殊外ばな致ましたり弥じゆツくわ   〔ト「〕 ル入へヤ楽テ云先

   〕ぶじや是ハいか事夜前やなつ其てア〔ゝまルが垣たい置 何ねむらやとにて依おる座御がるとひツ。ひゑ。是がびきてわ   さわいめらく今てつてつも参夜致もすしふつをてき殊も前外    参に取る御る座でづはふら先と事存し致をてぬルい々扨ら   依にたしツやおとに約て則束を致した今晩持て参る様参持て の座たに依て中々身共手作で御ルり又に程ひまとむ余ばれた申 いばまむ外殊げれた致にやじ瓜かやとツがしおや瓜のちそハ是 け御が瓜にのたはツ道てとる座少たてみてつまいつ取とて依に てかをしこなへそ持をわてけ夕いる〕 「へ去ル方へ参杖と   〔竹り云テゑぼしヲかぶ面てをきすほふの上をきト

(11)

う稽さ致古    あらうよいわひ人も見ずさいにけばさざいら程いじばこや    に所在身の共日近りふ鬼うが有若某のになる事もした出ひ     76たて置た是ハやう人ににへハ是ハ何ぞにならふがいや思     をま是ハいかな事ら扨々手めな事でハ有ルしこかゝせ又

  んとゝむとゝまね打ば杖にてちやうと (ママ) てかへ首持テニ手両縄云てけす引はりて〕ゆかんと〔れバ引ト     れうぜん罪人に成事もししひさい人の方も稽古致さぬ   〔るや云テせめ〕 なんとらわ責ぢからかのふてト

   たに云たればゑひつがひうきしふつをつもテ仍にた   やと打どうちハ事ゝく〕 是ていかなとをゝまねんば杖にた (ママ)  〔たかテニ杖しゝか

やじ   物たへらしこにんげかひよやじ是〕 ルシテ引取ヲわなテ云   〔ト

打とうやちてに杖ば    〔とれふしを付テ〕 ゆかんますゝとんむ又と引ハれゞ

  ぞ取ひまるやめきつか「〕 テ   〔謡ろの内ニアトそ〳面〵とすわふやヲ

       シテ嶋の扇物言上下腰帯狂       ひて下被や「けるまひそ〳〵アト    すあたの「是ハだまされ「なんただたはまハと「され   〔ニ云テ杖トテうつ〕 

   アト  出立シテ同前〔後ニアトかゝしニ成時すわふの上ヲキテ面を懸大臣ゑほし前へ折つへとつなとを右の手ニ持テイル〕

四  盆山

 「是ハ此他りの者デ御座る  爰に〔アトノ名ヲ云テ〕と申 人が御座る  是が見事な盆山を持れまして御座る  度々所望いたせ共ついにくれられませぬ  今日ハ案内なしに盗ん〔デ〕参らうと存ル  先急で参らう  何と宿にいらりやうかいられまひかしらぬ事じや  ゐやはや是じや  此中見ぬ内に普請のせられたと見ゑた  此びゝしいでハ中々はいられまひ  さりながら近ひ普請と見ゑた  うらへまわろふ

  うろきを縄先たし    やな様此是じ斗垣ハも事ひあらふとな思ふてはものを用意    くにそろはに御座らふればこさろひはもてのろへなだまわ   〔ハ裏ト定〕 り廻小テ云て

    縄〵〳〵まんまとう〳切たさらばやぶろをずかり〵〳   〔かわ云テかきのなをず三ト程きる〕 所

  めり〳〵〳〵

〵の〳〵〳〵〳りめ〕 テりふやへ方   〔  るきを手ニてやふかかずゐぶんしつ左に

  あくは〕 いてるふやにきりむきつ是るぶ   〔両やへ方の右てニ手

うそこを    誰へたろ外う聞の殊ゝあもた付垣せぬハそふなさらバ急で   ひだいさふを耳が共身てふ思とます今かきに人をたつなの   扨に下ニいてみをふさぐ〕〳ゝも〵したきかにうろたへたわ (ママ)  〔の柱テシテ云ト

  やをんまとこゑた此戸あ〕くると其まゝ座敷じまる   〔お云テ両手ニてかきをトいわけてかた足つゝはし

  〵〵〳が火〵〳〳らさ〕 イテル   〔戸明

なか山盆ひよ〵〳も    つ見てもあく石でハなひぞみくうれれなり扨どこぬれそら      有に爰へゑぬ見ハル事扨も〳〵見な盆山かない盆山    尋る取有たそうな茶湯道具がち客らいて有よして身共のが   にしともしてあるに依宵りやうてにひハ是やいハまはれらい   〔が火トテ引へとあテ云〕

  〔るル出主亭に内いトてめほ々色テ云〕

(12)

77 鷺流狂言『宝暦名女川本』「盗類雑」「遠雑類」翻刻

  「座敷がさわがしい  何事じや  さればこそぬす人がはいつた

   れはやうまわぞつ是にハ某が居るた   〔人をたきぬの右のかたぬかく〕 やい〳〵盗いはが

事なかいハ是〕 ゝる   山ゝほんかのかけに其くまテ行トル付見ゝをかひあシに   〔アテへたろうテシ

  ひ「にしてらうや是ずハま成ハかな    らが様致ば有な人ひまハ有わルでさ一たつた打刀此いい太 まりたひふゝ見其てを人ハどおねす物こで物ハぬさどおがやじ     ゆじとこかげねやいにハや何るや猫野らやじんな見ハ云     すく思やうに云たわがるいひし出山盆やぎのふあたしら   ぬらやの某ゝしにるらが依にうてわせた物であら何とぞめい   〔ほシ山盆のあ々内〕 テ云ヲ名ノテの

  るれじやと云たばね其まゝまねをすこ「すを〕う笑トアるアト   〔ねまのこねテ云ト

  是ハよひなぐさミじや  今のね こハやうないた事かな  是ハめがちごふた  猿 じやハ  さ ると云物も人を見るとなく物じやが  なかずハ人かしらぬまで  人ならば致様が有ル  から竹わりにしてやらう  「是りやなかずハ成まひ

   あとひ生鯛じやハいやたひ敷云物さが物じやすのをれひハ     ふよハ猿たの今々扨いな又た事かな是ハちごふた珍だし   ひれが〔ト云テ又笑テ今度ハあ〕が云ゑひいた思をぬわい物    テ笑トアまるすをね「〕 の人がに様物とよふち見と猿   〔トのるさテ云

〳〵のそうぞ

よぞうてたも尾   〵物じやかさあ〳ぞたてうつよ〕是からるたれひおハ物云を   〔テれひテ開を扇すのシまねをる〕 〔たいとす

   鳴ひ物ふな程ハらか「たのや鳴様をしらぬが「おじ   〔してりをのまね扇ニてする〕 おひれをのし 〳そい〵     のなあゝ「助て被下「ひんひまるやのやれけすた     が物いを云た事い有「鯛「たひにくひやつがつた      てこひ「是ハもをずなかハ成またひ〳〵「鯛ひ    ハ〕しか人〔シ但やきならなぬ人らハ致様が有ぞやりらず

   シテ  嶋の物  狂言上下  腰帯  扇   ○アト  無色段のしめ  長上下  小サ刀  扇  太刀さけて出ル〔仁右衛門方ノ勤方「是ハ此他りに住ひ致者テ御座る  此間かなたこなたの盆山くらべハおひたゝしい事て御さる  某ハいつれもとくらべまするやうな盆山を持ませぬ  又爰に誰殿と申て盆山ずきが御座るが此仁ハ数を持ていられまする程ニ今晩さたなしに参てかりて参らうと存ル  先急テ参らう○かきを越テいやれいのせんすい  むかいより見れバちいそう見ゆるがついにうしろより見た事ハないか  是ハ大きなせんすいじや  いや此せんすいへ月のくまなくうかんた所ハあゝおもしろいていじや  是ハおひたゞしい木どもかな  爰なさゝハよい所へうゑられた  いかさま爰へハうへずハ成まい  あゝよい物つきな人ぢや  扨あれにはしが見ゆるがあれまでまハろうか  いや〳〵あれ迄ハまわりぢや  ゑ  爰にとびこへが有ル  先是をど (ママ)ひこよう  よいとな  まんまとこへた  よいとひ石かな  こふ見た所ハよいけいぢや  あゝ浦山しい事かな  さて身共の尋る盆山

(13)

78そル有に是〕    ゝどこに有ぞこハれさがるいかおてハ出多数にんゑもつし 五  金盗 (ママ)左衛門

「是へ罷出る者ハ雲の上の金藤左衛門と云てだひいたづら者で御座る  此比ハ打続て仕合がわるひ  けふハ山中へ参て仕合を致さうと存ル

ふとまに是に程   里が則爰元が人のも遠し座き場もよひる御仕ふよハれあが合    〔〕 先急行らで参道うと存ルと今日も何

ふら参    まに程ぬせ敷舞見ハ久るけふ見まで急先するひもおとふ舞   親座御て持を里にハ者此山のふもとのでた御座る山のあなヽ   〔らニ云テ笛座の上下わに居る〕 「ト

   〔にる廻返一行道ク置てせのり小むつりよ初はお袋〕

  山道とハいゝながらいつもかよひつけた道で御座るに依て人もつれずわらハひとり出て御座る  此度もゆるりとなぐそふで帰らふと思ひまする  「やい〳〵そこへ行女  おのれハどこへ行者じや  「どこへゆこふとかまふての用ハ  「其袋をおいてゆけ  「なふをそろしい事を云者が有ル  他りに誰もないかのふ  「やい〳〵何をかしましういゝをる 其袋さへ置て行ば命を助てとらせう  「是ハわらハが手道具で御座る程に進ずる事ハ成まひ  「扨ハおのれハ某がとうぞくを 事をしらぬと見へた  さらば書た物をよふできかせう

事門のくぞうとが   〔り金云テふところよ衛左藤の文上の雲々ト〕 むよてし出何

  〔ずひらともに何〕 てらによにんなつよと たもを物此いかな様れたつををしらいで其つれお云と見へのた    手るゝ物あらばとるべしごしわき物ならはないてやるべバ

  どうでもとらいでハおかぬ  早ふおこせい  「其義ならばわらハ女成共おめ〳〵とやる物でハないぞ  「しかとおこすまひか  「思ひもよらぬ事  やる事でハないぞ

〵〳まいか   のすこおもで是うれくてせになテ長れのおばら刀夫「〕    〔メツ   〔ト云テ切テかかる〕

  「あゝやりませう〳〵

  「急でおこせ  「夫ならバ進上

〵〳〵〳かるおにこそだ    ふどち「へなりとゆけ早もおぬるま事でハ「御座ら   事ならば爰元にいまする「でハ御座らぬ夫ならば下ゝる   ち共助てやる程にはやうど被へ「ぞ助へさ命てれおせう しよ引テニ付刀いの長テシるせと〕 とへもうらおもお命「    〔ト置ニ下ヲ袋テ云

ぬ ニ方ニ下にいて長刀をばノ方右置何らしぞ有〕 がハにかな此    への柱臣大行い下ハてたニいるシテあとを見おくりてふに    〔の一松行てけにへりゝかしは女

  〕事の小袖をだしおつた何がとぞして取たい事じやが大ハら   〔  見袖を取出して見ルを女小付「)是ハいかな事わて(

  (

「)是ハいかな事  けつこうな小袖が有ルハ  女共が上ぎをほしがつた程に先是をや ミやけに致うらう  扨も〳〵見事な鏡が有 〔(「)又かゞミをだした  あれハたいせつなかゞみじやが くもらせねばよひが  きのとくな事じや〕 (「)女共の鏡は銭のまわり程ハなひに依て大きな鏡をほしがつたに是を女共にとらせう  まだ何が有ぞしらぬ  かもじもある

  々ぞ猶ハ)是「(〕 かいよバれをとれしゝあたしだもをた   〔も)か「(

(14)

79 鷺流狂言『宝暦名女川本』「盗類雑」「遠雑類」翻刻

女共が調法じや  おれが女房ハかミが十すじ程ならでハなひ 是を入させたらばよからふ  べにざらまで有

行と刀いしづきをそつのとて又はしがゝりへり りりよはゝかしたぶ足いへぬきにて出長〳〵りそて付見をろ   たやと何がたじ事いりとしら物であしうと云テ其内ニ長刀て   〔ぞと)何「(

うしたば定てらをしうならら 見しるく依々常てにといに思ふたに此べをを付させひあハるび    (ればよいと云テいて〕 「を)幸ひの事じや女共が口と   (刀長此)先「

  〵た一打にしてやらふつぞをかへすまひか〳夫   とふよのを具道手ふらあと思ふたなおのれた大事がらわふハ   出い長テへ女たぶを時ル刀てつい皆〕 「やいわ男めよ入   〔へ袋に様の元又て見々段テシ

    る様ちへ帰せ返さす仕有が「にくいことを云おこた ヲコセイ 見てりせる〕ふ刀長刀長「ハをなぜとつや其れのお〵〳い   〔ト女テ云

  早う手道具を帰せひ  返さずハおのれ切ころしてのきやうぞ

  「おのれ女だてらだいたんな事を云  しかと長刀をおこすまいか

るつお云をれ   〔こ「云テにぎり其だまゝぶ〕 るトかてしヲし

  〔およきのてしと打おを手其〕れのう

るやをしを事ひなぶあ〵〳い「〕 るゝかてつき   〔きにう

  かいますこおいせこ    ふらせひお「女だて刀よを何にするを「はこおたい   い〵〳よる女すくわいめきしよ「さがれのくお〕るすを   〔トテ云

〵〳や    〔〕 「や切ぞ〳〵ルこりゝかる

す返も是〵〳あ    〔〕 「取テこしにささしひせこ女も袋其「お

    れをおかいよがもとぐひりきはなさねばきかぬの   〔皆〕 々なげて返たス「をつなぶはらわ 〳ぞいまるや「〵     れいけすた〕ヲうせおるどへ「あゝ助てくれひ    めば「あゝかなしやて命をて助命くれひ「なんの〔せ

   シテ  厚板  狂言袴括ル  麻くず頭巾  髭掛ル  小サ刀 上ニ厚板ヲつほ折ニして文懐中する  長刀ヲ持テ出ル

   アト女  薄 (箔)の物  さけ帯  びなん  小袋  中ニはく  かもし  かゞミ  べに

ルへ出でいつか   〔はき入おつむりへま〕 いろしテ

六  磁石

「是ハ東国方の者で御座る  某都を一見致さうと存て罷出た  先急で参らうずる  若ひ時に国を広う見ておかねば年寄て物語がなひと申に依てふと思ひ立て御座る  参る程に是ハどこじや  尾張じや  誠ニ尾張ハ山も見へず  たゝびやう〳〵と広ひ国じや  先急て参らふずる  殊の外道のはかが参る  是ハどこじや  近江じや  誠に近江ハ二十四郡拾二郡ハ海じやと申が誠で御ざる  あゝ打ひらひた海で御座る  其元のにぎやかなハ何ンじや  坂本の市じや  是〔ハ〕幸の所へ参た  少と見物致そうと存ル  是は茶湯道具と見えた

ルぐ此他で心のすに是もなひ者で御座ハ「シ〕 乗名テ出テ   〔内ルイテ見を具道此

  此間ハ打続て仕合が悪う御座る  今日ハ罷出一仕合致うと存ル  先急で参らふずる  何と仕合があれバよふ御座ルが

る是居て入見に具道らや者何に〕 テ付見ヲるいて見を具道ト   〔ア

(15)

80   久やりおうしのふル有が様致る

た見へ   とひかゝつてハやる事でハなひ某「是ハ子共のもて遊の    がらりなさる〕是ハいか事めのなややのやじつさたれつは   〔アいてしほかぬらしト

   や「「お某ハ物の物じやふそ「なじの河三者ハた    「共身ハしらぬぞややそなたハ物の人じハルか〕〔や   さでおふたふ「そなたハないしんから久しひ〳ぜ〵とお   〔うしトのまねをして〕 「はて扨わごりよア久ハ

  シテ「夫々三河の者 ヒト〳〵  アト「三河にとつても岡崎  シテ「岡崎  「おかざきの橋を渡つて  「わたる〳〵  「右へきりりと廻ツて  「廻ツて

   のが内の家のりなと「のりも高「   〔ア〕 云リヨトア云ノト

ウ〕 者で   〔シテモ同しヤウニイ

たしましらし   「様にいわしませわはてにこりよハよふ有程るゐてつし     〔某ひテハ候ト云〕 なふ〵「なシ〳よがひ

   「某の付見々夫「やじ者の付見の江遠ハ人

〳〵  「見付の町をつうといて  「ゐて  「左りへ 「ひだりへ  「廻りそふでまわらぬ  「まわらぬ〳〵

  「はてわこりよハよふしらしました  「おふしつてゐる  「白壁作りの隣の  「となりの  「ちいさい家の内の  「内の  「者て  「者て  「候  「候々

  夫でおりやる  「はてわこりよハよふしらしました  「そなたのおばにおふ  「お寮か  「おふ其お ヲリヤウ寮様ハ御息災なか  「中々息災でおりやる  「身共ハ其お寮様にだきそたてられた物じや  「扨ハ頭にたいじなひちか〔づ〕きが有ル〳〵といわれたが扨ハわごりよが事であらう  「おんでもない事  みが事〳〵   「ひとたびハ参つてお礼をも申筈じやが其段ハゆるして呉さしませ  「少もくるしうなひ事でおりやる  「扨わこりよハ今時分くる人でハなひが何としてきさしましたぞ  「親共が知つて御座らふならば中々おこす事でハなひが忍で登つておりやる  「そふ見ゑた  定て爰許不案内にあらふ  某が引廻しておませう 「夫ハ忝なふ御座る  「さあ〳〵おりやれ〳〵  「心得ました  「是が大津松本と云てつつと不用心な所じや 細ものなどがあらバ某におわたしやれ  「成程わたしませう  「是ハ石山の観世音と申てげんぶつしやじや  是へもお参りやれ  「心得て御座る  「是に某のいつも泊る定宿がある  是へとまらしませ  「心得ました  「こふ通しませ  「通つてもくるしう御座らぬか  「中々  「某ハ草臥てふせりとふ御座ルが寝る事ハ成ますまひか  「安事  おねやれ  某ハ是ニ居るぞ

   あ度「わこりよを待兼て居た先立やのやつハ役にぬ「      中々「「いルか誰で御座御ルやそなたか座   〔主亭〕 ルねトアト云ト

〳〵役にたゝぬ  「中々  「たまらぬりはつそうなものじやが  「見かけハりこうそうなが仕ふてみてつつと鈍な物じや  「夫ならバよひ事が有ル  けふつかひざかりの若ひ者を同道して表にねかせて置た  あれと取替ておませう 〔シテトていしゆとはなしの内ニアトヲキテはなしをきゝ〕 

「して国ハどこ元じや  「云まいとしたを漸とひ落たれば遠江の見付の者じや  「先国がゆかしひ  「夫ならば取

(16)

81 鷺流狂言『宝暦名女川本』「盗類雑」「遠雑類」翻刻

かへてくれさしませ  「夫に就てあした六ツ太皷の時分に鳥目が弐百疋入程にかしてくれさしませ  「心得ておりやる  「きや が心元ない  某ハあれへ行ぞ

た   い得心「せましかゆうやは「る〕 てしらねかほぬて又   〔トしトアニ前云

  ぞらるぬに是も某やかぬ   〔きへ云テアトのねている所やてミのおもでトもで湯〕 茶

ル存とうさ致   取さ渡のう分請にの時皷太ふのと取申銀路てにをる座御て是 に某ばれ承去いよ乍〕 鳥ルをね目ツ百疋にないて弐あした六   う存とぎやよれば日本一人売に出のふ足をはかりに〔にた   是なかいハ柱「〕 テ行へこよと者某存とかたたをつしふ   〔テシテシてきヲトアトルねテ立

うす請取テこしまくていへる「先急て参ら〕    ていするてアトたまつ出スて云〔心たせのニ上の手両テニト   〔  云たテ下ニイテふトいたゝく〕 「ひお

う   がもろどまニ是先なかふ夜外殊〕 行へ方の柱臣大りよ柱付   〔ト目テ云

   た明が夜わゝむ「    〔キテ云テ下ニイルトシヲル〕 テシブツトモキヲ

  せましさ明を爰先ぬ取請ハ     わ「夕への者ハ〵「した渡「やあ〳たした共身中々 (物)   「くゝ(たじ)たれやト云〕 〵〳物のへ)夕「(   〔て云テシテ柱ニト下ニテふたひをイ

   せゆふ「あゝ夫合点がハかたましぬ「先ま    のらあで物たいして々「そなか「中たあが夕へのゝやつ   〔亭〕 テ云ト〵〳らざ主

ふ段是ハ一「とよから    ハが如来はだな某みおつかけてねうと思ふ所たがつ   をりくさた所てねノトアミ〕 ゆやともとをひハ行くまひき   〔テ云ト

  〔〕 シ刀無ハ某「がてうゆこテとし   り何が扨心得ておまやるはやうゆかし「せ     をまぞ頼ハ事のあた得心「せとしにうやぬ付さ    まぞきれ物をやじかさし何是せ「代じや程にきずハ十 (重)

るずうら参と〵〳り     てら参御急先る座う夜「もはや事が明た先そろでひ   く皷座ニイルシテ目付柱方よのり「に扨て正は〕 行へ面   〔ト太ハ主亭テ云

  う延たやじやつ少とおどそ    つに打一たそたれな売人てしこやらのいやひま「ぞふ (ママ)    れおのい「がつきやる事でハなめぞ「「人売よ〳〵   〔〕 ん云テ正面のま中ニて行合テト

うつらたわりにたけた打にしてやら一    も此れあしてにくやぎ刀太れがみのせましさかでのばまふ     う〳ゝあしらやてミの〵にれあ「いかに磁石にても   きゝゑた物とミゑたきつさかかてとひたつたらまさごかなき   にてへかつ金喉で唐ばれわだひる刀汝ツ一ハ銘太たいぬが   疋さも弐百ふの鳥目をのがけル成其云が有ル山山住む磁石ニ   ら唐「ぬゝしやい「天とに竺のさかひぎしやくせんと    者ゝるにあゝ〳と云ハ何か〵じ某やからしをぬハ扨「   じやんれおのれは何者な「ハき此打ろしてて太ぬを刀い    〳ゝあ〕 をてきあ口て〵や「やいそこなつ「なへあ   〔らはこよりきにを手両テ云ト     夫〳〵となる「かくせばひ「きがとほふなる「    が見じ心「此太刀をこふすやれば何と有ぞんな「「せ    しどりと致やたどひ磁石んが刀た今水の迄る様な太   やが〕ツ〔かき事なゝいあハ〳て〵ばれ座御見て依に申と   刀又ト引をか太テ引ゝをいト向〕 出〳是ス〵「ゝあ「   〔ト時ルゝか打テ云ア

(17)

  ひ「なんたすけひの「あゝ助てくれ    めうのい夫の某ハで「るすく事てひじれけすたや   のふけ82てら殺て気がとふなるなおばゑ指おてしさやされの    迄是を汝ひやじ事の幸か追ハくるもがひせぬが為じ隠しや (ママ)

    石テ「又磁石が笑ますやひ磁だテ廻小ルねてしりシ   〔テせ合ヲ手テ云ト

  おきてゆけやい〳〵

〵〳石磁にかいてり廻 なひハへた磁あを上が石こらりな〳と〵〳〵飛りひハへたら く石磁げろつ寸きぬ三二元枕が唱元々にを文のへ活置どうとき    石生氏がい磁にかル存も沙聞慥好にを刀太此鎺り元へ給よ   う沙生氏がるか座御で祈へれ誓ゑをとそゑかぶんう度二けか    うらあゝあ思ひ出したれか時が存生に有し此太刀を望物で     したれらぬやい磁おきてく石ひ〵やと何ハ是〳〵〳い 申めゝどなた刀としを方のふさ足なこら御も様う座ぬが某ばの く御て致つおまつてし人ル座おが道無持一を具テ人人刀無ハ壱   しば御きがひへちぎつてしの座若二る者ひがに御た納此代 ヒキ〕  な石磁事〕 かいハ是るしがだます〳〵と存て御座れば太刀   〔いトとあてニきしハしの刀太テ云を

りな理     「きかじ恨めしや声「る恨おも道理なり実恨るも道も    らよ〵〳たそるたのやあたりに音すハい「にしへ「    〔鳴〕 テイニ下テ云ト

  ルくにテ云トた   「「と云打めきつ)かを(たかの()南無三宝たまされテ   〔はいトそろ〳〵とおたぬてか太刀を持きシテアてた

  (

「)やれおふちやく者  やるまいそ

〳〵〕     七  長光

「是ハ東国方の者で御座ル  今日ハ町表へ罷出売物を見物致さふと存ル  先そろり〳〵と参らふずる  小者をも持て御座れ共けふハ方々ゑ遣して御座ルに依て自身太刀をさげて参る

  先急て参らふ  是から売物店じや  見物致さう

ル何今日町表へ罷出ハぞ存仕合致さう一と    の此ぐにもなひ者で御座るす合がうハる打続て座仕御間悪     此心てり他是ハ々き金んどんす色らのが有る〕 「物     たう々扨せへみとみくくつじしいしにやあやんななか事   〔是ふこハ

ル有   い念ものふ見てつに居る致様が余物テ付らや者何ニ爰〕 売   〔見ヲトアテ云ト

    ま「入「茶入茶「釜「か   〔  ろト云内ニ(「)爰元ハ茶湯道具と見へたふ〕 

ひやかゝつてのるでハな事   とさの目「つつ〕 テのやじはづいたやつテや乍去某開ハ   シをて太刀をひゝテみるトかアゝヲしを見りとな刀太へ右て   〔シしをねまノトアテ

  〵有ゐ子のもち遊ひ道が具ルふ〳ハ有共お「 ゝさいち「〕 てきとをろまねしなからそを〳け太刀の〵さ   〔てニ茶テ云々色を事の具道湯爰

  〔

「ひな

  はりこ  ぶり〳〵  「ぶり〳〵  「土で作たゑのころも有  「あるとも〳〵  「是をハ求てみやげにいたそう  「おふみやげにめさつたかましじや  ト云なから  我かこしにはいたよふにはやくゆひ付テ其まゝのこふとするをアト〕 「爰をはなせ  「是ハ身共のじや

  〔ト云テ太刀へ

参照

関連したドキュメント

ても情報活用の実践力を育てていくことが求められているのである︒

The Moral Distress Scale for Psychiatric nurses ( MSD-P ) was used to compare the intensity and frequency of moral distress in psychiatric nurses in Japan and England, where

オリコン年間ランキングからは『その年のヒット曲」を振り返ることができた。80年代も90年

[r]

 TABLE I~Iv, Fig.2,3に今回検討した試料についての

一丁  報一 生餌縦  鯉D 薬欲,  U 学即ト  ㎞8 雑Z(  a-  鵠99

 中国では漢方の流布とは別に,古くから各地域でそれぞれ固有の生薬を開発し利用してきた.なかでも現在の四川

[r]