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Ⅱ これからの日本企業の経営に求められるもの

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日本企業の戦略経営高度化に寄与する マネジメント・コントロールのあり方

──事業業績を決定付ける戦略活動要素の管理可能性向上を目指して──

小 松 原 聡

はじめに

Ⅰ 日本の失われた20年間と企業の経営実態

Ⅱ これからの日本企業の経営に求められるもの

Ⅲ 戦略経営におけるマネジメント・コントロールの考え方

Ⅳ 戦略を実現する活動要素に着目したマネジメント・コントロールの実現 おわりに

は じ め に

日本は成熟化社会を迎えており,バブル経済崩壊後日本企業の業績は振るわず世界に おける日本の経済的な地位は長期低下傾向にある。しかし,企業は経済的・社会的な価 値の創造を通じて社会の高度化に寄与すべき存在であり,効率的で持続的な成長を遂げ ることが求められる社会的な機関である。企業が戦略経営を実践する大きな目的の一つ は,このような社会の要請に応えることにある。

これからの社会が必要とする価値創造を企業が実現するための戦略経営の方向性は一 つではない。高い経済成長ポテンシャルを持つ海外市場深耕のための国際事業戦略,顧 客の高度でより本質的なニーズを充足するためのサービス価値提供に軸足を移したビジ ネス・モデルの実現等が考えられる。さらに,戦略経営を実現するためには,事業モデ ルや競争優位要因を先鋭化するための戦略コンテンツを充実するだけではなく,適切な 戦略のマネジメント・コントロールのための環境を整備する必要がある。

本稿は,日本企業が価値創造のための戦略経営をより効果的に展開するために必要な 戦略マネジメント・コントロールのあり方について,将来日本企業にとって有望と思わ れる事業モデル例をベースに考察する。

Ⅰ 日本の失われた 20 年間と企業の経営実態

日本企業の今後の戦略経営のあり方を検討するのに先立ち,その前提となる過去の日

1015)13

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本企業経営の実態について概観する。バブル経済崩壊後,日本企業は業績改善に向けた さまざまな努力を展開してきた。それはグローバル・スタンダード経営への接近を意識 した株主価値重視の経営の実現という側面が強かったが,実現できたことはリストラ的 対応による経営効率改善であったと捉えることができる。

Ⅰ-1 日本の企業業績とマクロ経済の動向

近年の日本企業の経営実態を振り返ると,「失われた20年間」といわれるように,バ ブル経済の崩壊以降のほとんどの期間において,多くの日本企業は縮小均衡型のリスト ラ的な対応を余儀なくされてきた。第1図の金融保険業を除く売上高10億円以上の事 業会社の業績推移(売上高と経常利益額)が示すように,経常利益は若干ではあるが増 傾向を示しているのに対して,売上高は2005年度〜2007年度を除くとほぼ横ばいであ った。しかし,第2図にあるように,この間OECDの国別生産性比較調査等の結果を 見ても,日本企業の生産性が向上したという証拠は乏しく,利益増の源泉はリストラ的 対応であった可能性が高いことを示唆している。

1図 日本企業の業績推移

出所:財務省「法人企業統計(金融保険を除く売上高10億円以上の企業)」

14(1016 同志社商学 第69巻 第6号(2018年3月)

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その他にも日本の地盤沈下を示す事象はある。例えば,米国のFortune誌が毎年発表 している「Fortune Global 500(世界の500大企業)」に占める日本企業数は,2005年に は81社と米国に次ぐ世界第2位であったのが,2015年には54社にまで減少し中国に 次ぐ第3位に後退した。Fortune Global 500にランク・インする日本の企業数がそのま ま日本企業の業績を反映するものではないが,大きな潮流として日本企業の世界市場に おけるポジション低下を表しているといえる。

このように企業業績が振るわなかったこともあり,日本経済全体の低迷も続いてい る。OECDによる世界GDPの動向と将来予測を第3図に示す。世界のGDPは1996〜

2016年にかけて年率3.4% で成長し,今後2017〜2030年にかけては年率3.2% の成長 が予測されている。同じ期間の日本のGDP成長率はそれぞれ0.7% と1.1% と,世界 の経済成長を下回る。日本の経済成長は米欧の先進諸国に比べても低水準にある。その 結果,日本のGDPが世界に占めるシェアは1996年の10.0% が2016年には5.9% に低 下し,2030年にはさらに4.4% にまで低下すると予想される。

2図 主要国の全要素生産性上昇率

出所:日本生産性本部,オリジナルデータはOECD。

日本企業の戦略経営高度化に寄与するマネジメント・コントロールのあり方(小松原)1017)15

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Ⅰ-2 日本企業による経営改革とグローバル・スタンダード経営への接近

バブル経済崩壊後の業績低迷から脱却するための日本企業の経営改革を振り返ってみ ると,それはグローバル・スタンダード経営に接近するための取り組みであったといえ る。それは従来の従業員主権を重視した日本型経営から株主主権を重視した経営への転 換であり,そのために事業構造の改革や事業の競争力を高めるコア機能の革新が行わ れ,それと同時にこれら戦略の実効性を高めるためのマネジメント改革が同時に進めら れた。マネジメント改革の基本的な方向性は,分権経営の徹底とグループ本社機の強化 であった。第4図に日本企業による経営改革への取り組み概要を示す。

これらの改革を進める上での前提となった価値観は「グローバル・スタンダード経営 への準拠」でありそれを実現するための「制度・仕組み・標準・可視化の整備による経 営の健全性・透明性の確保」であった。

4図 日本企業の経営改革への取り組み概要 3図 主要国の名目GDP推移比較

出所:OECD

16(1018 同志社商学 第69巻 第6号(2018年3月)

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Ⅰ-3 日本企業の強み要因に対する考察

次に多くの日本企業に共通する強み要因について整理する。日本企業の強みの根幹に あるのは強い現場力であり,日本企業は強い現場の継続的な改善努力により,品質・コ スト・納期面における高い優位性を実現してきた。さらに,強い現場力は,環境変化の 不確実性に対する高い適応力や知識創造面における優位性にも寄与していたと考えられ る。日本企業の経営上の強みを第5図に整理する。

日本企業の強い現場力を支える主たる要因は三つあると考えられる。第一の要因は,

長期的な雇用慣行という制度上の特徴である。従業員の長期的な能力構築が可能であっ たため,一つのスキル領域における専門性を高めるだけではなく,多種類の仕事をこな す能力を持つ「多能工化」が進み,高い組織間の調整能力や問題解決力が発揮された。

第二の要因は,組織運営上における特徴である。日本企業は同質的な人材による協調 的な経営行動が大きな特徴の一つであり,組織のヒエラルキーや権威に対する認識が比 較的緩く,身分の階層的な分離よりも全員が一体化した協調的な行動が重視されてき た。日本企業では,「考える人(意思決定者)」と「実行者」が明確に分離することな く,全員が考える人であると同時に実行者としての性格を併せ持ち,組織特殊な能力に 基づく現場力が鍛えられた。このことは,形式化されたルールに依存しない暗黙的で柔 軟な業務運営を可能とし,さらには創発的な戦略行動や未来傾斜の意思決定を促した。

第三の要因として,制度と組織運営上の特徴と表裏一体の関係において形成された日 本企業の経営陣・社員が共有する価値観がある。日本企業では経営陣も社員は同じ共同 体の構成員として対立的な関係よりも協働して企業経営にコミットする意識が強く,組 織の運営が未来傾斜で現場主導の改善が促進されるのも,「我が社をよくしたい」とい う内発的な動機付けが強く働くからである。

このような日本企業の経営上の強みを形成する本質的な要素は,「共同体同調規範・

5図 日本企業の経営上の強み

日本企業の戦略経営高度化に寄与するマネジメント・コントロールのあり方(小松原)1019)17

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共同体存続規範」と,「統合志向の思考様式」という二つの要素に収斂すると考えられ る。第6図に示すように,共同体同調規範・共同体存続規範があるため組織としての価 値共有が促進され,その実現に向けた協調的な行動が加速する。また,統合志向の思考 様式に基づく意思決定と行動が採られるため,部分最適な行動に陥ることなく全体最適 に向けて調整された組織行動が実現する。但し,これら日本企業の強みは弱みと表裏一 体の関係にもある。特に,これらの要素の何が本質的に重要であるのかを見極める姿勢 が求められ,事業の国際展開に当たっては,強み要因の移植可能性に対する十分な配慮 が必要である。

Ⅰ-4 これまでの日本企業の経営改革成果に対する評価

経営改革への取り組みが数多く展開されたものの,IT不況,リーマン・ショック,

東日本大震災等の危機が続き,実際にはコスト削減努力がもたらす成果が最優先され,

縮小均衡型のリストラ対応に追われ続けたというのが実態であった。第7図に日本企業 によるこれまでの経営改革を総括する。外部環境要因の悪化によって日本の企業経営が 収益性を回復するための縮小均衡型のリストラ的対応を優先せざるを得ない状況が長く 続き不可欠な取り組みではあった。しかし,企業が社会における存在価値を発揮するた めには,社会の発展と満足度の向上に寄与するための中長期的な対応としての成長に向 けた布石が重要である。これからの日本企業に求められるのは,成長戦略を実現するこ とであり,社会が必要とする新たな価値を創造することである。

6図 日本企業の強みを形成する本質的要素の二面性 18(1020 同志社商学 第69巻 第6号(2018年3月)

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しかし,企業がこれまでの効率性追求の縮小均衡型の経営から成長路線に舵を切り替 えるのは,それほど容易なことではない。第8図に示すように,効率追求型の経営と成 長追求型の経営では質的に大きな違いがあるからである。さらに,これからの成長戦略 においては,世の中の大きな潮流としての知識社会化と不確実性増大への対応が求めら れるからである。成長路線の本格的な追及には,経営の諸局面における意識改革が必要 である。

日本企業は,これからの時代に求められる知識創造とそれに基づく価値創造を支える 人的資源に恵まれているという利点を持つ一方で,それらの利点の根底にある特質を単 純に維持したままでグローバル事業を展開するのは困難であるというジレンマを抱えて

8図 成長戦略のための経営の質的な転換 7図 日本企業が取り組んできた経営改革の総括

日本企業の戦略経営高度化に寄与するマネジメント・コントロールのあり方(小松原)1021)19

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いる。これからの経営では,現状の強みの状況適合的な要因を無視して単純な横展開を することを避けなければならないが,それは過去を全否定することでもない。価値創造 の本質を理解した上で,新時代が必要とするマネジメント要件を正しく認識することが 大事である。

Ⅱ これからの日本企業の経営に求められるもの

日本企業がこれからも社会における存在価値を保ち続けるためには,社会が求める価 値の創造を増大させることによって成長を実現することが不可欠である。これからの日 本企業の経営に最も必要とされるのは,社会が必要とする価値を発掘・創造しそれを効 率的に提供するためのイノベーションを実現することである。本章では,企業を価値創 造システムとして捉え,価値創造を効果的に実現できる戦略経営のあり方を確認した上 で,近年のマネジメント改革への取り組みを考察する。

Ⅱ-1 価値創造システムとしての企業経営

企業の定義方法は複数あるが,ここでは企業を第9図に示す「価値創造システム」

(小松原,2013)として定義する。

企業の第一義的な役割は,事業活動によって顧客が必要とする価値を産出すること にあり,顧客は企業が提供する価値に対してそれに見合う対価を支払う。

企顧客価値の生産には経営資源の投入を必要とし,経営資源の獲得には費用支出あ るいは成果配分が求められる。経営資源の獲得に必要な費用または成果配分の原資 は顧客価値提供の対価である売上高でまかなう。

企業は顧客価値の効率的な提供を通じて,社会的価値増大に寄与する。

よい企業経営とは次の要件を満たすことである。

9図 価値創造システムとしての企業経営 20(1022 同志社商学 第69巻 第6号(2018年3月)

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・より多くの価値産出で社会の満足度を増大させる:提供価値の質・量的拡大によ る成長を実現する。顕在化ニーズのみならず,潜在的なニーズを発掘し新たな価 値提供機会を自ら創造する能力が求められる。

・効率的な価値生産を実現する:提供価値が大きいだけではなく,最小の資源投入 で最大の価値産出を実現し,高い経営効率を実現する。提供価値の増分が消費す る経営資源の増分を上回ることを目指す。

・価値創造システムをよい状態で持続させる:環境変化に対して常に有効な価値創 造システムであり続けるための継続的な進化を実現し,ゴーイング・コンサーン としての責任を果たす。

Ⅱ-2 戦略経営のフレームワーク

戦略経営とは,第10図に示すフレームワークに沿って,経営の諸活動を展開するこ とである。戦略経営は,価値命題としてその企業が実現しようとしている顧客・社会価 値の意義・目的(=企業目的,経営理念)を明確に定義することが起点となり,それを 実現するために,(1)企業目的を達成するための合理的な手段(=戦略施策)を決定す ることと,(2)戦略施策の実現を制御するための適切な手段(=戦略マネジメント・コ ントロール・システム)を構築することである。

戦略経営では「顧客が求める価値を理解・発掘する能力に長け,それらを効率的に製 品やサービスとして具体化し,製品やサービスに体化した価値をタイミングよく顧客に 提供すること」を実現しなければならない。戦略経営を高いレベルで実現するための条 件としては,(1)より高いレベルの顧客満足(さらには社会的満足)を実現する価値発 掘・創造能力,(2)価値実現のための具体的な製品・サービスの商品化能力,(3)商品

10図 戦略経営のフレームワーク

日本企業の戦略経営高度化に寄与するマネジメント・コントロールのあり方(小松原)1023)21

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生産における高いQCD実現能力,(4)顧客認知向上のための効果的な商品情報発信能 力,等が挙げられる。

戦略経営には経営諸機能(開発・生産・マーケティング等)の個別的能力のみなら ず,それらの連携が優れている必要がある。これら一連の機能の活動を高度なレベルで 発揮可能とすることが,戦略マネジメント・コントロールの目的である。戦略のマネジ メント・コントロールには,(1)価値創造システムを進化させること,(2)策定した戦 略目標や計画の実現に向けて組織(組織の管理者と構成員)の活動を誘導すること,と いう二つの側面がある。現在の日本企業の大きな経営課題が「社会の成長・進化に寄与 する成長の実現」であるとするのであれば,戦略マネジメント・コントロールも企業の 成長を加速させることを意識したものである必要がある。

Ⅱ-3 近年のマネジメント改革の動向

戦略経営には戦略施策の充実とその実現と整合する戦略施策制御の仕組みが必要であ る。戦略施策は階層的な構造を持ち多数の機能の関与と連動が必要とされるので,マネ ジメント・コントロールでは多様な階層の戦略をいかに整合的にコントロールするかと いうことが大きな課題である。戦略マネジメント・コントロールでは各戦略レベルにお けるPDCAサイクルを構築するだけではなく,その上下にある戦略階層のPDCAサイ クルとの整合を図るためのインタフェースも適切に設計する必要がある。マネジメント 改革はこのような認識の下で進められるべきものである。第11図に戦略マネジメン ト・コントロールの階層構造例を示す。

管理会計領域での取り組みを中心とした近年のマネジメント・コントロールに関する 議論を第12図に整理する。「管理会計が財務会計に過度な接近をしたことにより本来の

11図 戦略マネジメント・コントロールの階層例 22(1024 同志社商学 第69巻 第6号(2018年3月)

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マネジメント目的への適合性を喪失した」との指摘(Johnson and Kaplan, 1991)が大き なインパクトを与えた。しかし,グローバル・スタンダード経営の一環として株主価値 に連動した業績指標の採用と,それに基づく業績評価制度の導入が普及した。その一方 で,原価企画とそのための費用認識方法における工夫,ミニ・プロフィット・センター

(MPC)における時間当たり採算性による管理等,日本企業が採用していた取り組みが より普遍的・体系的な管理会計手法として理論化された。また,スループット会計,プ ロジェクト/プロセス会計,ABC/ABM, BSC等の新たな管理手法も提唱された。

日本企業によるマネジメント改革に焦点を当てると,バブル経済が崩壊し企業業績が 悪化したことを受けて,自律分権経営の強化とグローバル・スタンダード経営への接近 というのが大きな潮流であった。またこの時期の日本企業における管理会計領域への取 り組みは,戦略事業組織(SBU)の事業連結による自律分権経営の強化のための改革

(カンパニー制導入や分社経営への移行等)と一体化したものであり,その具体的な取 り組み内容は以下のようなものであった。第13図に分権事業組織が目指していた姿を 示す。

戦略単位(Strategic Business Unit : SBU)としての分権事業組織の括りの見直し。

⇒事業が自立可能な組織単位への大括り化。

コア事業(中核事業)や機能を強く意識した選択と集中。

事業連結管理体制を確立するためのグループ企業再編。

企業価値志向の業績評価制度(バランス・シートやキャッシュ・フロー等を意識し た業績評価指標)の導入。

12図 管理会計領域における近年の議論

日本企業の戦略経営高度化に寄与するマネジメント・コントロールのあり方(小松原)1025)23

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分権事業組織の管理では,資本市場を強く意識した事業価値重視のマネジメントが強 く志向された。企業レベルではROEやEVAといった株主価値を反映した業績目標の 導入が盛んであったが,それらの指標がそのまま分権事業組織の責任業績として展開さ れるケースが増えた。本来,各戦略階層レベルにはそれに適したPDCAサイクルがあ るので,上位階層の業績目標をそのまま下位階層の業績目標に展開することは避けるべ きである。しかし,第14図に示すように,企業がグループとしてコミットした連結業 績目標と連動した個別事業業績目標が設定され,それをSBUの責任業績にするという マネジメント方式が多くの企業で採用されるようになった。

SBUの業績目標は資本市場に対する責任の性格が強くなったが,SBUに移譲された 権限と整合した責任業績には必ずしもなっていなかった。このような対応は,企業全体

14図 分権経営における業績管理 13図 分権事業組織が目指していた姿 24(1026 同志社商学 第69巻 第6号(2018年3月)

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の経営効率を向上させたという成果が得られた反面,SBU の活動が短期成果指向・縮 み指向になるという弊害も発生した。

Ⅲ 戦略経営におけるマネジメント・コントロールの考え方

現在の戦略経営においては,グループ経営戦略と個別事業の自律分権的な事業戦略活 動が相補的な関係において高度に連動して展開できる必要がある。本章では,グループ 経営視点から階層的な戦略マネジメント・コントロールのあり方を検討する。

Ⅲ-1 事業の三次元要素を考慮した戦略マネジメント・コントロール

事業が多角化した構造を持つ企業では,組織を編成する上で,(1)製品事業領域,

(2)機能領域,(3)市場(あるいは顧客セグメント)領域,の三次元要素を考慮する必 要がある。通常,これらの組織編成要素の中から最も戦略的重要度の高いコントロール 軸によって組織の基本構造が決定される。しかし,たとえ製品戦略が最重要なコントロ ール要素で製品別事業部制組織が採用されていたとしても,機能別業績の視点や市場・

顧客別業績の視点を併せ持つ必要がある。

戦略マネジメント・コントロールでは,これら事業の多次元的要素の業績管理を実現 することが大事である。概念的には第15図に示すように,業績を三次元のマトリック ス構造で把握し,それぞれのメッシュの業績情報を必要とする業績軸で集計することで 事業の多次元的な戦略マネジメント・コントロールを実現することになる。

15図 事業の3次元要素に基づく戦略マネジメント・コントロール

日本企業の戦略経営高度化に寄与するマネジメント・コントロールのあり方(小松原)1027)25

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多次元的な事業要素の戦略マネジメント・コントロールを実現する上では,近年の ICTの進歩が大きく寄与している。ICTの進化を戦略マネジメント・コントロールにお ける多次元的な経営情報活用に適用できるための業務プロセス設計が重要である。

Ⅲ-2 SBU内部の戦略マネジメント・コントロールのあり方

戦略マネジメント・コントロールのもう一つの重要な課題として,SBU内部の戦略 のマネジメント・コントロールの適正化がある。SBU内部の活動実態に即した業績評 価システムを実現するためには,経営レベルの戦略目標項目とは異なる視点のマネジメ ント・コントロールが必要とされる。各SBUが経営から与えられた業績目標を達成す るためには,SBUの業績目標を内部組織のマネジメント目標向けに変換することがで きる,財務会計視点からは独立した管理会計目的のための仕組みを構築し,階層的な PDCAサイクルを確立することが求められる。

通常,SBUの内部を構成する組織は機能別の構造となっているので,機能別組織の 戦略マネジメント・コントロールには事業価値的な業績目標を適用することは妥当では ない。第16図に示すように,SBU内部の戦略マネジメント・コントロールは,事業を 構成するバリュー・チェーン機能のパフォーマンス目標によるPDCAを確立すること が大事である。

Ⅲ-3 会計期間を超越した業績評価による戦略マネジメント・コントロール

業績評価システムは,一般的には会計期間(年度)と組織区分とに連動したPDCA サイクルとして構築される。企業の全ての管理過程を,会計期間と組織区分に従って構 築するというのが基本的な考え方であり,業績評価活動(予算統制,財務分析,事業部 業績評価,等)はこの仕組みにおける予算−実績の差異分析という形を採る。会計年度

16 SBU内部の戦略マネジメント・コントロールの展開 26(1028 同志社商学 第69巻 第6号(2018年3月)

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単位での組織業績評価は経営目標を確実に達成するという意味において重要な意味を持 つが,財務指標による組織別期間業績評価への過度な傾斜は,組織の部分最適行動の増 長,あるいは部門固有の管理ニーズに即した裏管理の発生等の弊害も想定され,経営の 戦略目標達成を促進するという業績評価活動の本来的目的を妨げるという結果をもたら す危険性もある。「バジェットレス(予算統制のない経営管理)」という考え方が提唱さ れた一つの理由もここにある。過度な単年度組織業績評価がもたらす弊害について第 17図に整理する。

環境変化がそれほど激しくなく比較的単純な戦略経営においては,全体目標を組織別 に展開し各分権組織の自律的な活動結果の計画乖離を修正することで全体目標を達成す るという従来の業績評価活動は効果的であった。しかし,環境変化が複雑かつ不確実性 が高くなり,戦略行動が複数の機能組織の柔軟かつ多元的な相互連携を高める必要があ る現在は,新たなマネジメント・コンセプトに基づく業績評価が必要である。従来のマ ネジメント観にとらわれない,イノベーションを加速する新たなマネジメント観を確立 する必要があり,その一つの考え方を第18図に示す。

18図 マネジメント観の転換に関する一つの考え方 17図 単年度組織業績評価がもたらす弊害

日本企業の戦略経営高度化に寄与するマネジメント・コントロールのあり方(小松原)1029)27

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Ⅳ 戦略を実現する活動要素に着目した マネジメント・コントロールの実現

本章では,新しいマネジメント観に立脚した戦略マネジメント・コントロールのあり 方について考察する。企業の戦略的行動そのものに対する管理可能性を高めるというの が一つの有力な考え方となる。それぞれの事業が持つ固有の特性に基づき,事業の成果 を大きく左右する業績決定要因を識別し,その要因に直結する業務・機能の活動をマネ ジメント・コントロールの主たる対象として位置付ける。

Ⅳ-1 戦略マネジメント・コントロールのための業績評価要件

戦略マネジメント・コントロール目的の業績管評価制度の設計では,評価結果が事業 のパフォーマンス向上に寄与することが求められる。そのためには,組織の行動メカニ ズムと業績評価結果が整合していることが求められる。第19図に戦略マネジメント・

コントロール目的の業績評価が満たすべき要件を整理する。

戦略マネジメント・コントロール目的の業績管評価は,組織の活動が業績評価結果に 反映していることが体感できる仕組みであることが第一に求められる。業績評価結果が どのような活動に基づくものであるのかを組織が理解でき,かつそのような業績評価結 果をもたらす活動に対する組織の管理可能性が担保されている必要がある。さらに,業 績評価における組織の活動に対する管理可能性は,事業業績の達成に直結する活動を対 象としている必要がある。即ち,事業業績を決定付ける戦略的重要性を持つ活動を「パ フォーマンス・ドライバー」として認識し,パフォーマンス・ドライバーを核とする

19図 戦略マネジメント・コントロール目的の業績評価要件 28(1030 同志社商学 第69巻 第6号(2018年3月)

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PDCAサイクルを構築することである。

Ⅳ-2 戦略の活動要素視点を加味した業績評価

業績評価は成果指標を把握すること自体が目的ではなく,活動をコントロールして事 業パフォーマンスを高めることが目的であるので,事業のパフォーマンスに核心的な影 響を持つ活動に着目した業績評価が重要である。事業のパフォーマンスに核心的な影響 を持つ活動要素である「パフォーマンス・ドライバー」に着目し,それに対するPDCA サイクルを構築することが戦略マネジメント・コントロール・システムの柱となる。戦 略マネジメント・コントロールのための業績評価では,戦略の組織階層と時間軸階層を 意識した業績評価だけではなく,第20図に示す活動要素にも着目した業績指標に基づ くPDCAサイクルを確立する必要がある。

事業には,それぞれ固有のバリュー・チェーン構造と重要なバリュー・チェーン機能 が存在するので,ビジネス・モデルによって異なる事業のパフォーマンス・ドライバー を正しく認識し,それを戦略マネジメント・コントロールに反映することが重要であ る。事業パフォーマンスは,ビジネス・モデルに固有の特定の活動要素によってその大 勢が決定するので,パフォーマンス・ドライバーに直結しない活動をいくらコントロー ルしてもその効果は限られる。

パフォーマンス・ドライバーは,事業モデルがどのようなものであるかによって決定 するが,通常パフォーマンス・ドライバーとなる活動としては次のようなものが考えら れる。

製品(技術)力が競争優位の源泉となる事業:開発行為がパフォーマンス・ドライ バーであり,開発を起点とする製品ライフサイクルを通じた活動における投資回収 が重要なコントロール指標となる。

提案(ソリューション)力が競争優位の源泉となる事業:顧客を囲い込むための諸

20図 活動要素視点を加えた業績評価

日本企業の戦略経営高度化に寄与するマネジメント・コントロールのあり方(小松原)1031)29

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活動がパフォーマンス・ドライバーであり,アカウント別の投資回収が重要なコン トロール指標となる。

設備形成が競争優位の源泉となる事業:装置型の事業では設備投資がパフォーマン ス・ドライバーであり,設備投資を起点とする設備ライフサイクルを通じた活動に おける投資回収が重要なコントロール指標となる。

パフォーマンス・ドライバーに基づく戦略マネジメント・コントロールでは,パフォ ーマンス・ドライバーを起点とする活動全体のビジネス・プランを元にしたPDCAサ イクルを構築する。パフォーマンス・ドライバーに対する戦略仮説・検証能力を強化す ることで,パフォーマンス・ドライバー視点での戦略策定能力の高度化による事業の競 争力・収益力の向上が期待できる。

一般に事業は,その活動の初期段階においては戦略的な投資活動が先行しその後の活 動で収入が発生する構造となっているので,戦略マネジメント・コントロールではパフ ォーマンス・ドライバーによる活動単位ごとの投資回収の状況を計画化し,その実現度 合いを測定・評価することによって戦略をコントロールすることが望ましい。従って,

パフォーマンス・ドライバーに基づく戦略マネジメント・コントロールでは活動単位で のキャッシュ・フローを管理することが中心的な考え方となる。

パフォーマンス・ドライバーを起点とする一連の活動は通常複数の組織を横断し,か つ複数の会計期間にまたがる活動となる。従って,従来の会計期間と組織をコントロー ルする管理とは大きく異なるものであることを認識する必要がある。但し,それと同時 に,従来の組織と期間を対象とする業績の管理とのインタフェースを確立しておく必要 も認識する必要がある。

Ⅳ-3 製品技術優位事業におけるライフサイクル・マネジメントの例

最後に,製品技術力を競争優位の主たる要因とする事業を例に,活動視点に基づく戦 略マネジメント・コントロールのあり方を検討する。製品技術優位の事業では,製品の 企画開発工程が事業のパフォーマンスを決定付け,製品上市後に打てる手は限られる。

従って,製品技術優位を目指す事業では企画・開発行為を事業のパフォーマンス・ドラ イバーとするマネジメント・コントロールが有効である。

製品技術力優位事業では,(1)顧客価値を実現する製品開発,(2)差異化された開発 製品の市場投入,(3)製品販売後のアフター・マーケット(サービス・保守・メンテナ ンス)価値の提供,といった製品のライフサイクルを通じた戦略対応を製品の企画段階 において計画化する必要がある。製品企画時に,ライフサイクル全体を通じてどのよう な投資回収を実現するのかを計画化することが大事であり,製品企画時のライフサイク ル全体を視野に入れた戦略計画が事業のパフォーマンスを決定づける。期間業績の実現

30(1032 同志社商学 第69巻 第6号(2018年3月)

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も大事であるが,戦略実現という視点からはライフサイクルを通じた投資回収計画の実 現度合いがより重要な意味を持つ。第21図表に製品力優位事業の戦略マネジメント・

コントロールの考え方を整理する。また,製品力優位事業の研究開発から廃棄回収にい たるまでのライフサイクル全体を通した収支(キャッシュ・フロー)状況のイメージを 第22図に示す。

開発製品機種ごとに,ライフサイクルのそれぞれのステージにおける収支計画に基づ く業績を管理する。製品ライフサイクルの初期段階では支出が先行し,上市後に収入が 発生するという収支構造となるので,研究開発からアフターサービス・廃棄回収に至る

22図 ライフサイクル・マネジメントにおける収支(C/F)のイメージ 21図 製品技術力優位事業のマネジメント要件

日本企業の戦略経営高度化に寄与するマネジメント・コントロールのあり方(小松原)1033)31

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までのライフサイクル期間全体を通した投資回収による業績を管理することが基本的な マネジメント対応となる。戦略単位である製品ライフサイクル単位で,投資と回収状況 に関する計画・実績差異を把握することで戦略の実現度と予実績差異に対する打ち手が よりよく見えるようになる。

ライフサイクル業績把握の構造例を第23図に示す。費用処理(範囲と賦課方法)が 主たる論点となる。要素技術以外の費用賦課は,ABC(Activity Based Costing)視点を 適用する。要素技術開発費の賦課は,最初の商品企画において当該要素技術の適用が決 定した機種に直課する等のルールを設定する。要素技術は複数の機種で利用されるのが 一般的であり,機種別の業績は開発費の賦課方法により大きく左右されるが,業績の絶 対値ではなく計画実現度を重視した評価が望ましい。

実際のマネジメント・コントロールにおいては,第24図に示すように,製品のライ フタイムを通じた投資利益率(リターン・ファクター=累積利益額÷累積投資額)や BET(Break Even Time;損益分岐時間)を管理することが中心的な管理ポイントとな る。

個別製品戦略のマネジメント・コントロールにはライフサイクル・マネジメントを採 用しても,企業の経営管理には財務会計視点と整合した期間業績管理も不可欠である。

本稿の最後に,ライフサイクル業績と期間業績の連動のあり方を第25図に示す。期間 業績を個別ライフサイクル業績の当該期間部分を集計することで把握するというおのが 基本的な考え方となる。プロジェクト間でのキャッシュ・フロー状況等を分析すること で,開発案件への資金配分のあり方やそのタイミング等の判断に活用することができる ようになる。

23図 ライフサイクル業績の構造例 32(1034 同志社商学 第69巻 第6号(2018年3月)

(21)

お わ り に

近年の戦略経営とマネジメントに関する議論では,連結経営における企業価値向上や 分権事業組織の自律的な活動を加速する業績評価のあり方が中心的な課題となってい た。今後は,企業にとって重要な戦略対応とそれを促進するためのマネジメント・コン トロールのあり方に対する議論を深化させていく必要がある。

本稿ではライフサイクル業績管理に焦点を当てたが,今後の戦略課題としては,事業 の国際化対応,サービス付加価値化対応,ICT・AI等の革新的技術活用ビジネス・モデ ル対応等さまざまなテーマが存在する。いずれも組織・機能間の有機的な連携が求めら れるようになることが想定され,それだけ戦略のマネジメント・コントロールも複雑性 を増すものと考えられる。

さまざまな事業モデルにおける各組織部門の機能発揮のあるべき姿を探求すること で,戦略に適合的なマネジメント・システムを構築する必要があり,この観点からの研 究と実証をさらに深化させることが望まれる。

【主な参考文献】

・Johnson, T. H., and Kaplan, R. S.,Relevance Lost : The Rise and Fall of Management Accounting1991(H.

T.ジョンソン,R. S.キャプラン(著),鳥居宏史訳『レレバンス・ロスト 管理会計の盛衰』,白桃書 房,1992年).

・Porter, M. E., and Kramer, Mark R.(2011), Creating Shared Value, Harvard Business Review. January- February 2011 Issue, Harvard Business Publishing.『共通価値の戦略』DIAMONDハーバード・ビジネ ス・レビュー,20116月号。

・Simon, R.,Levers of Control 1995(中村元一,他訳『ハーバード流21世紀経営 4つのコントロールレ バー』産能大学出版部,1998年).

24図 ライフサイクル・マネジメントにおける 管理ポイント

25図 ライフサイクル業績と期間業績管理の連

日本企業の戦略経営高度化に寄与するマネジメント・コントロールのあり方(小松原)1035)33

(22)

・Simon, R.,Performance Measurement and Control Systems for Implementing Strategy 2000(伊藤邦雄監訳

『戦略評価の経営学』,ダイヤモンド社,2003年).

・浅田孝幸「組織変革のための管理会計」『企業会計』,中央経済社,第56巻第7号,2004年。

・小松原聡「事業連結体制と今後の展望」『グループ企業の管理会計』日本管理会計学会グループ経営専 門委員会編,日本管理会計学会,税務経理協会,2005年。

・小松原聡「図解価値創造の経営学 グローバル競争時代の理論」,言視舎,2013年。

・小松原聡「図解戦略的経営のメカニズム ICT時代における価値創造の理論と実践」,言視舎,2017 年。

・小松原聡「図解企業の戦略マネジメント・コントロール ICT時代の実践的マネジメント論」,言視 舎,2017年。

・高橋伸夫「日本企業の意思決定原理」,東京大学出版会,1997年。

・門田安弘,李健泳「プロセス・マネジメントの概念枠組みと管理会計」『企業会計』,中央経済社,第 57巻第5号,2005年。

34(1036 同志社商学 第69巻 第6号(2018年3月)

参照

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