著者 林 馨
雑誌名 同志社政策科学研究
巻 1
ページ 145‑172
発行年 1999‑10‑20
権利 同志社大学大学院総合政策科学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000004714
を包含した利己最大化の情報選択肢の選択が可 能になる。この選択は意思決定機関としての経 営者会議が社内取締役と社外取締役との議論か ら、最適の選択を行う。自他の均衡したステイ クホールダーの代表者会議は利己最大化を求め、
経営環境変化に適応した企業政策あるいは企業 戦略を次々に意思決定する。これをハイブリッ ド政策と呼ぶ。ハイブリッドは自企業とステイ クホールダーとの利益最大化合意の最小公倍数 である。
1. はじめに
日本におけるバブル経済の終焉から、現代企 業経営は供給サイドの応用技術を基盤とする大 量生産、大量販売形態から、需要サイドの基礎 技術に裏打ちされた需要適応技術を要求する適 量生産、適量販売のリサイクル経営へと変化し てきた。言い換えれば、現代企業経営は利便性 の追及による利益至上主義から、自然と共存出 来る社会環境での利他を含んだ利己最大化企業 政策を模索しなければならなくなったのである。
自然環境との合意領域内における企業経営は情 報選択の重要性が増大し、企業政策策定プロセ スをハイテクに支援された情報選択の連続行動 に求め、基礎技術と応用技術の双方を基盤とし たものづくりと供給サイドと需要サイドの合意 領域をハイブリッドした企業政策の提案と企業 行動が要求されるようになった。
人々は常に、過去の生活よりベターな精神的、
物質的豊かさを求める。この前提条件のもとで 所属する人々の共生共同体である企業が次世代 にもサステナブルであるための条件と問題点を、
あらまし
人々は常に、過去の生活よりベターな精神的、
物質的豊かさを求める。この前提条件のもとで 所属する人々の共生共同体である企業が次世代 にもサステナブルであるための条件と問題点を、
環境、情報、そして技術の面から考察する。次 に企業が環境変化に適応するための企業運営シ ステムを提案する。
現代企業の経営環境は複雑であるだけでなく 変化も激烈である。これは価値観の多様化が原 因である。人々は自分の価値観を他人に伝えよ うと努力する。これは個人間だけでなく、企業 間、個人と企業の間、国家間でもみられる現象 である。技術革新は情報の伝達を広域に瞬時に 行い、何時でも何処でも、誰でも夢を実現する のが万能である。それが方法論、価値観をも激 しく変化させるからである。
複雑で変化の激しい経営環境に適応するため 企業経営には情報の選択と意思決定、そして情 報公開並びに行動責任説明の開示の二つが要求 される。
この情報公開は結果報告ではなく、意思決定 プロセスの公開である。このことは最適情報を 得るための最善の手段であると考える。手段を 有効にするためには、自企業の実績データのみ の公開ではなく、計画データ、すなわち、創造 情報を公開し、全てのステイクホールダーから の創造的情報の発信を求める企業運営システム の構築が必要である。
発掘受信した情報は自組織内だけでなく、異 業種、異文化、異組織と組織間組織のコミュニ ケーション確立に活用すべきである。この情報 のスパイラル・サブリメーションの中から利他
環境変化に対応する情報選択と企業経営
林 馨
環境、情報、そして技術の面から考察する。次 に企業が環境変化に適応するための企業運営シ ステムを提案する。
現代企業の経営環境は複雑であるだけでなく 変化も激烈である。これは価値観の多様化が原 因である。人々は自分の価値観を他人に伝えよ うと努力する。これは個人と個人の間だけでは なく、企業間、個人と企業の間、国家間でもみ られる現象である。技術革新は情報の伝達を広 域に瞬時に行い、何時でも何処でも、誰でも夢 を実現するのが万能である。それが方法論、価 値観をも激しく変化させるからである。
複雑で変化の激しい経営環境に適応するため 企業経営には情報の選択と意思決定、そして情 報公開並びに行動責任説明の開示の二つが要求 される。
第一の情報の選択と意思決定は、発掘した情 報源から目的に合致する情報を選択し、目的を 満足させる政策を決定する。その目的達成過程 の方法と手段は全てのステイクホールダーへの 情報発信と、そのフィード・バックによって選 択される。しかし、政策決定時点において、結 果としての最適情報の選択は不可能である。選 択情報が最適であったかどうかは政策の実施結 果として評価される。だからして、その最適性 は意思決定(企業政策立案)の時点では不確定 であり、その選択は期待的観測でしかあり得な い。情報選択のフィールドではステイクホール ダーとの合意領域内のハイブリッド政策を連続 的に暫定政策として提案する。これが政策立案 時点における最適な情報選択である。
このハイブリッド政策は決定プロセスにおい て、最大限の発掘範囲から選択された情報を、
最少限の時間内に、二つ以上の最適化情報とし て抽出しなければ、有効に機能しない。提案さ れた政策は瞬時に、全てのステイクホールダー へ配信、コミュニケートされ、利害の異なるス テイクホールダー間の合意領域を抽出しなけれ ばならない。
全てのステイクホールダーとのコミュニケー トは合意領域を抽出するという事実において、
企業政策を結果的に、最適情報の選択へ導く最 善のプロセスだと考える。全てのステイクホー ルダーは「自」が関与する多くの「他」に、譲 れる部分と譲れない部分を明確に提示すること から、企業政策におけるステイクホールダー間
の合意領域の発見を可能にする。企業の価値観 は常に変化するが、情報公開による条件提示と 意思表示の双方向通信がステイクホールダーと の価値観の共有に有効である。これが私が提示 する第二の企業の計画情報公開と行動責任説明 の情報開示である。このような情報をステイク ホールダーは要求していると考える。
前に述べた意味での情報公開は最適情報を得 るための最善の手段であると考える。手段を有 効にするためには、自企業の実績データのみの 公開ではなく、計画データ、すなわち、創造情 報を公開し、全てのステイクホールダーからの 創造的情報の発信を求める企業運営システムの 構築が必要である。
発掘受信した情報は自組織内だけでなく、異 業種、異文化、異組織と組織間組織においての コミュニケーション確立に活用すべきである。
この情報のスパイラル・サブリメーションの中 から利他を包含した利己最大化を求める情報選 択肢の選別が可能になる。この選別は意思決定 機関としての経営者会議が社内取締役と社外取 締役との議論から、最適の情報選択を行う基盤 となる。この基盤から、自他の均衡したステイ クホールダーの代表者会議は利己最大化を求め、
経営環境変化に適応した企業政策あるいは企業 戦略を次々に意思決定する。これをハイブリッ ド政策と呼ぶ。ハイブリッドは自企業とステイ クホールダーとの利益最大化合意の最小公倍数 である。ハイブリッド政策は利己最大化を追及 する最適政策に至るまでの暫定政策であるため、
連続的に提案されて、継続的企業行動とならな ければならない。
地域を越えて、グローバル企業として未来に 生きる企業は、民族が独自に持ち続けてきた独 自の性格、あるいは固有の文化を企業体の中に 生かしつつ、常に変化するグローバルスタンダ ードに対応の必要があるかどうかの考察を行い、
瞬時、利己最大化の選択をする。
アメリカンスタンダードは今世紀のこの時点 の経営環境下では、グローバルスタンダードに 近いモデルであることは否定できないが、世界 の歴史が語るように、永久不滅、サステナブル なグローバルスタンダードではない。アメリカ ンスタンダードがそのままでグローバルスタン ダードでないことは明白であるから、安易に、
この身近なものに同期すべきではない。
日本の企業経営はその独自性を保持しつつ、
経営環境激変に適応する経営戦略を長期に展開 できる企業運営システムを構築する。その上、
地球規模で人々の共生共同体である企業が合意 できる企業会計、環境保護基準等スケールに属 するものから初めてグローバルスタンダードを 生み出すのがフィールドにおける総合政策科学 である。
総合政策科学は人々にとって、生きる目的と 方法を多くのフィールド事例から合理的、体系 的に究明するものである。このことは生きるた めのフィールドからの問題発見と知識集積から の知恵の創造である。いいかえれば、人々は価 値の多様化の中で調和と統合から、価値を共有 するのである。
人々は他の動物と差別化された地球上での生 きかたを求める。これは精神的、物質的豊かさ の中に総合政策科学の存在価値を自ら見つけだ すことにほかならない。
なぜ総合政策科学は人間が形成する社会に必 要なのかという疑問が既存学問領域内でおこっ ているが、この問題をさほど重要なことではな いと認識する風潮があるとすれば、それこそ問 題である。これを学際、あるいは国際として見 直してみると、人間の存在肯定という根本的、
原点回帰へのタイムリーな問いかけと認識する。
それは「人間は考える葦」(パスカル)と言う厄 介な動物だからである。人間は右脳と左脳を働 かせて富の蓄積、労働プロセスから富の分配を する経済なるものを生みだした。
アダム・スミスの「見えざる手」(富国論)は 市場取引を通じて需要と供給が自然に一致する 神の手なるものを信じたが、神の手まかせの市 場経済では恐慌、不況の現象、分配の不平等に よる貧富の拡大、環境破壊等の現象が避けられ なくなった。考える動物という人間は、このこ とを自分自身が神の手になって解決しなければ ならなくしてしまった。
人間は生活の豊かさ、利便性の基準を大幅に 押し上げた。人々は自然界を中心とした農耕、
狩猟生活に戻ることを一部の宗教集団以外には 求めなくなった。人々の美意識は形式的に整理 された美しい論理を求めてきたが、技術革新が 環境と情報の流れを時空を越えて激変させた。
この結果、人々は複雑、多岐なスキームを通じ て営まれている経済の流れをドロドロとした生
臭い、醜さも含んだ現実として直視しなければ ならなくなった。
このように経営環境が複雑、混沌と激変を加 速するフィールドは現状の問題発見と解決の方 向性を探る総合政策科学を要求する。このこと はフィールドにおける具体的現象の発生、プロ セス、結果の再帰事実を客観的にみて、多くの 事例の中から問題発生の共通性を見つけて、一 般概念を抽出する。これは問題発見と問題解決 の方向性をポジティブ、ネガティブ両面を含ん だ理論として速やかにフィールドへ提示するこ とである。また、総合政策科学はフィールドか ら常に求められる学問となってこそ、その存在 の意義が認められる。
フィールドから求められる総合政策科学は既 存学問の統一された存在としての上位概念では なく、既存学問との位置関係はフラットなもの である。社会から要求された学問として、哲学、
法学、経済学、理学等が生まれ、社会的ニーズ の高い経済学から経営学、商学が生まれ、理学 から工学が生まれた。社会の進展と環境の変化 が既存の学問領域、全てにまたがる学問として 学際的な情報科学、環境科学、政策科学を生み だした。これらの誕生から数年が経過して、バ リアフリーとしての超学際的学問である総合政 策科学がフィールドから要求された。
フィールドに立脚した総合政策科学は既存の コア学問領域だけでは無理な問題の発見、ある べきはずで表に現れない潜在するリスク情報の 発掘、共生共同体のステイクホールダーとの合 意範囲の抽出等による問題提起を多くの組織間 組織とのコミュニケートから、利己最大化情報 の選択として企業政策を提言する。
企業政策提言は激変する経営環境における問 題発見、問題解決の方法、手段を総合政策科学 の領域だけでは解決出来ない時がある。この場 合問題解決の方向性を見出すだけで、出発点と みられるコア学問領域にフィードバックして解 決する場合も生じる。このことはフラットな関 係にあるコア学問との回帰システムが有効には たらき、総合政策科学を超学際的学問として 人々の生活基盤であるフィールドに生き生きと 存在させる。
総合政策科学と既存学問は文明と文化との関 係である。この前提から総合政策科学と文明は 既存学問と文化の上位概念ではなく、その位置
関係はフラットなものである。前者は普遍的で 人々が生きようとする姿であり、時空を超越し たグローバルなものである。また、前者は後者 を人々の生きる目的のために地球規模に調和さ せて統合(synthesis=人が造り出す統合)する 核、あるいは媒体の役目を果たすものである。
後者は人々が生きようとする術であり、土着の純 粋な個の集まりで、価値の多様性を含んでいる。
文化は各民族がその民族特有の言語を持って 生きてきた歴史と風土によって形成された個性 的なものであり、決められた平面としての土地 に執着したものである。その多様性は普遍的な 世界文明という概念で統一、統括することは出 来ない。文化は個性的であり、その多様性を認 めた文化をグローバリゼーションとして包み込 んで調和させるのが文明である。文明は普遍的 なものであり、時間、空間を超越した地球規模 の存在である。このことは土地への執着の放棄 を意味する。いいかえれば、技術革新が人々を 土地への執着から解放した。といえるかもしれ ない。いや、そうにちがいない。
文明は文化を拡大したもの[Huntington98a]
であり文明は文化の総体[Huntin-gton98b]であ ると「文明の衝突」は語る。
しかし、文化(culture)は本来、農耕や養殖 を基とする耕作(cultivate)を意味するものであ り、地に根ざした心身の耕作を意味し、農耕、
牧畜生活の上に言語や文字が発達して、教養や 修養が生まれてきたのである。文明(civilization)
は、都市(city)や市民(civil)からきた言葉で あり、市民が都市を形成し、富の蓄積が始まり 経済が生活の中に包含された形態を現わしてき たのと平行して起こった。
今日、アメリカが戦略的に情報を操作してい るといわれるアメリカ文明のアイデンティティ は文化の延長線上にあって、文化的統一が文明 であり、今、文明と文化は質的において変わる ところはなく、その規模において大きいものが 文明といわれる。しかしこれは、語源、発生の 歴史的事実から否定される。さらに、個々の小 さな文化の破棄は文化そのものの否定である。
文明の衝突[Huntington98c]が破壊を招くこと は起こり得ない。これは土着の文化が隣接する 異文化と激突して、土地を浸食して、自らの文 化の領域を拡大する侵略で、これを言うならば 文化の激突である。
経営環境変化の激しいフィールドにおける、
総合政策科学は現代企業に問題発見と解決の方 法、手段を政策として意思決定させる。これは コア学問と隣接する学問群との調和の媒体とし ての働きを主とするが、時にはコアたる位置を 要求され、それに応えることもある。
この視点から、フィールドにおける政策を意 思決定する企業ガバナンスはハイ・テクノロジー により加速された経営環境の複雑な変化、価値 の多様化から情報、環境、と技術を含めた現状 分析を要求される。その結果、人々の生活の原 点を確認して、ハイブリッド政策として提言す る。これは、企業ガバナンスが人々の豊かな生 活の未来提言をステイクホールダーの合意を得 て、現代企業としてサステナブルに存続するた めの経営者サイドの提言である。
2. 現代企業と情報公開
2. 1 サステナブル社会と企業ガバナンス わが国の企業が現代企業[南86]として、存 在価値を認められるためには、経営環境の変化 にスピードをもって適応し、企業体としてその 周辺に及ぼす社会的責任を持ったビジョンの構 築、意思決定を企業政策(企業戦略)として打 ち出し続けることである。これに反して、政策 がタイムリーに決定されなかったり、連続的に 戦略が出てこなくなったとき、現代企業は消滅 する。
現代企業はすべてのステイクホールダーへ情 報発信権[三森95a]による情報公開の行使、
そして情報発掘権を使って、最適化情報の発信 を促進する。そのための会社運営機構[森田95a]
のあり方、すなわち、企業ガバナンスは経営の 基盤となって、サステナブル社会に存続する企 業の姿を政策として提言する。
企業政策が経営環境の変化に適時、対応する ためには、自らの企業情報をステイクホールダ ーのすべてに発信する。これが企業ガバナンス の日常の活動であり、同時にステイクホールダ ーとその予備軍の情報を張り巡らせた受信用ア ンテナから収集する。この双方向情報の受発信 が情報公開の企業にとっての目的達成の手段で あり、意義である。
双方向受発信機能は市場に密着した企業ガバ ナンスから生みだされる。そのために、政策を 決定する経営者会議は経営責任取締役と執行責 任取締役に分離し、意思決定のスピード化と企 業行動責任の所在を明確化する。このことは、
激変の経営環境に適応する政策をリアルタイム に組識間組識を縦断したコミュニケーションか ら利己最大化戦略として施策する。戦略を決定
する経営責任者会議は社内取締役と社外取締役 を同数で構成する。社外取締役は各ステイクホ ールダーのグループから選出されることが望ま しい。このことから会議は利他と利己両者の最 大化への譲れるスペースを明確化し、情報の選 択を客観的に行う。この意思決定は情報のコミ ュニケーションから生まれた企業政策として、
全てのステイクホールダーのコンセンサスを得
自 然 環 境
従 業 員
監 査 役 会 代 表 取 締 役 社 長
監 査 債
監 査 役 取締役会
権 人 事 権 専務取締役 者
常 務 会 常 務
選 任 選 任 取 締 役
取 締 役 株 主 総 会
株 主 代 表 訴 訟 株 主
社 会 環 境
︵ メ イ ン バ ン ク
︶
内容的関与
図1 日本の企業ガバナンス(日本型)[林99b]一部修正
自 然 環 境
監 査 役 会 代 表 取 締 役 社 長 監 査
経営者会議 社 内 監 査 役
経 営 責 任 社 外 監 査 役 人 事 権
取 締 役 社 内 取 締 役 社 外 取 締 役
選 任 選 任
株 主 総 会 経営執行取締役
株 主 代 表 訴 訟
社 会 環 境
従 業 員
株 主
内容的関与 債 権 者
図2 日本の企業ガバナンス(グローバル型)
たことになる。
さらに企業ガバナンスは取締役会から完全に 独立した機構として監査役会を設置する。監査 役会は会社運営の正当性をチェックする機能を もつもので企業内容を熟知した社内監査役とス テイクホールダーのグループから社外監査役と して、総会で同数選出されるのが望ましい。こ れにより、チェック機能がすべての方向に、常 時働くシステムの確立となる。そこで、タブー とされていたリスク情報の受発信が適正化への 第三者的視点から、経営責任部門、執行責任部 門へリスクを含んだ情報としてフィードバック される。このことが環境変化に対応する企業の 意思決定の支援システムとして有効な機能をは たすことになる。
2. 2 情報公開とインベスタ・リレーションズ 情報公開には大きく分けて法律あるいは準法 律的な開示とそれ以外の任意の公開の二つがあ る。これを私の分類から、第1次情報公開と第 2次情報公開と呼ぶ。
第1次情報公開は法律で義務づけられた開示 と、証券取引所が上場引き受けのための条件と して企業に要請する会社情報の適時開示である。
これらは必要最小限の消極的なもので基本的情 報公開である。企業情報開示制度、あるいは企 業内容開示制度と呼ばれる。いわゆるディスク ロージャーである。
第2次情報公開は前者に比べて、積極的な創 造的情報公開である。これは、リスク情報を含 めた企業戦略、企業政策を公開して、現状と将 来ビジョンを投資家と未来投資家のいる生きた 市場に発信する。ここから、新しい創造的な情 報がフィードバックされて、情報選択から政策 決定への最適化は促進される。第1次、第2次 情報公開の同時公開は企業の財務機能とコミュ ニケーション機能を結合して行う戦略的、全社 的なマーケティング活動である。これは表面的 に投資家、未来投資家を対象とするが、実質的 には、その企業のステイクホールダーとその予 備軍のすべてに対して、企業の業績や、将来性 に関する正確な姿を公開する。
これはIR活動と呼ばれるインベスタ・リレー
ションズ(以下IRという)であり、コーポレー
ト・リレーションズ(以下CRという)を呼応 させるものである。これらは企業が間接金融か ら直接金融を窺い、機関株主が世界的な市場で 重要性をおびてきた今、シェアホールダー、デ ィレクター・リレーションズへと発展するもの である。
IR活動、CR活動を含めた第2次情報公開は サステナブル社会における企業存続の価値創造 性、生産性向上につながるものであり、経営環 境のめまぐるしい変化に対応する最重要ポイン トである。このことは利他を包含した利己最大 化を求める企業として、自企業が欲しい情報を 市場から情報発掘権を行使して、積極的にグロ ーバルに探しだし、獲得する。
現代企業存続の基本はグローバル情報を積極 的、タイムリーに公開し、欲しい情報を市場か ら、発掘することである。
このようにステイクホールダーの意思が反映 されるシステムは次のような機能を備える必要 がある。
① 多種多様のネットワーク確立
(異文化、異民族、異業種等の組織間組織)
② 情報のコミュニケーションの場の確立
(情報発掘のアンテナ設置)
③ 場の情報のスパイラル・サブリメーション 確立
④ 最適化への選択肢の選択
⑤ 情報選択肢の内容・質的濃度の高度化 この五つの機能は企業とステイクホールダー のための利益最大化の合意スペースを発見して 政策決定のスピードを早める。ときに、自企業 の情報を全く、クローズして、自企業に有益な 情報だけ発掘しようとする企業をみるが、発信 なくして、有益な情報受信はない。情報発信機 能を持たない企業は他企業の情報、市場からの タイムリーな情報の受信は不可能であり、環境 適応企業ではなく、次世紀には存在し得ない企 業といえる。
情報技術の革新は時間、空間、距離を超えて 経済の流れを地球規模に拡大し、今日の企業体 のあるべき姿を変化させた。このことは、現代 企業の経営環境の変化に瞬時に対応できる運営 システムを構築することにある。昨今のグロー バル規模に経済が発展した中で、日本あるいは 関西経済が他の干渉を受けずに、独自で存在す る事は、利他を含まない自企業の富の蓄積の拡
大化を求めようとする利己企業で、鎖国以外に その企業政策は見あたらない。政治体制がどう であれ、鎖国政策を維持したまま近代化を果た した国家などこれまで世界中に一国もなかった。
[Pye85]人々が物心両面の豊かさを求める今日、
法治国家の中でステイクホールダーの満足を得 ながら企業活動を行うものに鎖国を政策として 望む者は誰一人としていない。
ここに変化の激しい経営環境に瞬時適応する ための現代企業は積極的な情報公開を行うと同 時に、すべてのステイクホールダーから情報を アグレッシブリーに発掘して、その情報をステ イクホールダーとコミュニケートする機能を全 開させる。その機能は、スパイラル・サブリメー ションを異なる人々と何回も、繰りかえして、
最適化情報を選択、企業政策としてタイムリー な決定を実行する企業ガバナンスに内包されな ければならない。
物質的、精神的豊かさを求める日本の人々が 生活の基盤として属している企業は大企業とい われる企業に属する人々より、中小企業に属す る人々の方が遥かに多い数である。企業ガバナ ンスは基本的には大企業、中堅企業そして中小 企業も運営機構の姿は同じと捉る。あえて、違 いを探すなら、数の違い(形量的差異)であり、
含む内容は変わらない。総合政策科学の視野か らの企業ガバナンスと情報公開は、あえて企業 統治からは距離を置いた企業ガバナンスとして 柔軟に考察するものである。企業ガバナンスは 一専門分野で構成できるシステムではなく総合 政策システムとして、はじめて有効、かつ学際 的な範疇を生みだす。
「中小企業論は学問的にみても、特に学際的な 色彩が濃い領域である。自然科学の発展の吸収 と、社会科学の隣接学問の成果の吸収に努め、
その成果を反映させる必要があろう」[太田87] から、企業ガバナンスは中堅・中小企業を含ん だ企業体の運営機構と考える。そこで中堅・中 小企業の運営機構は双方向な情報の公開を基盤 として、オーナー社長の独断的政策決定のみに 偏らずに、ステイクホールダーとコミュニケー トできる場を確立する。このことが全ての人々 が期待するサステナブル社会における、企業の あるべき姿と考察する。
2. 3 日本の企業ガバナンスとアメリカの 株主行動
「コーポレート・ガバナンス」が、日本で市民 権を得るようになったのは1990年代に入ってか らである。66年にアメリカ法律協会の理事長が
『コーポレート・ガバナンスの原理』として提唱 して、68年に評議会が承認した。82年から首席 報告者メルビン A・アイゼンバーク教授を中心 に共同研究として、学者、企業家、市民と幅広 く意見を求めて、92年『コーポレート・ガバナ ンスの原理:分析と勧告』にまとめた。
この翻訳本は94年に証券取引法研究会国際部 会の龍田教授(京大)をリーダーとして、森田 教授(同大)等多くのメンバーの共同作業から 出版された。これを契機に経営者の関心が異常 に高まった。
コーポレート・ガバナンスは直訳すると「企 業統治」である。誰が企業を統治・支配するかの 問題であるとされているが、日本語の統治者・非 統治者、支配者・非支配者から受けるイメージに 訳語として抵抗があるので「企業ガバナンス」
として使用する。
法律上は会社は株主のものである。しかし、
法律的観点からのみでは企業ガバナンスのフィ ールドでの生の姿を語ることにはならない。こ のことは企業経営の活性化、経済の健全な発展、
サステナブル社会の構築はいかにして可能なの かという観点から企業ガバナンスを捉えて、問 題解決の方向を探ることにある。
現代企業経営は企業ガバナンスをコア運営機 構として位置づける。すると、企業ガバナンス は多くのステイクホールダー間のバランスのあ り方としてとらえることになる。企業ガバナン スの意義はサステナブル社会、あるいは地域コ ミュニティの一員として企業の存在価値を調和 から統合のプロセスに見るとき、鮮明となる。
企業ガバナンスは60年代にアメリカで提唱さ れたものを30年遅れで日本に採り入れた。ここ で、日本経済は資本市場に一連の企業不祥事
(リクルート事件、ゼネコン汚職等)から企業経 営の構造的問題を露呈した。また、バブル経済 の崩壊により経営環境の激化、東西冷戦の終焉 による資本市場の内部問題が顕在化してきたこ とから、資本市場の歪みを表面化した。これら の構造的問題を企業ガバナンスという原理・原則
に立ち返って、柔軟に考察、実践するのが企業 ガバナンスの今日的意義である。[林95a]
企業ガバナンスはアメリカにおいては「株式 会社の所有者は株主である」という前提のもと に所有と経営の分離[吉川94]が行われた。こ のことから、経営者支配が成立するに伴ない各 種の弊害が生ずることに対して法律、判例でど のように対処すべきか、という会社法の分野に おける議論のテーマとして「コーポレートガバ ナンス」が使用されたにすぎなかった。ところ が会社法の分野にとどまらず産業界でも広く議 論が行われるようになった。
最近、日本においても企業ガバナンスは経営 の立場から柔軟に考察、実践を始めた。80年代、
アメリカ産業の国際競争力が長期に渡り低下す る中で、その再生方策の一つとして企業ガバナ ンスの観点が、注目されだしたのである。アメ リカではそれまでマクロ経済の観点から論じら れてきたが、具体的な成果を上げるまでには至 らなかった。そのような状況の中で、アメリカ 企業経営の現状、急激な成長を遂げた日本の経 営との比較を行い、差違を抽出した。その結果、
産業の国際競争力の低下は、アメリカの企業ガ バナンスのあり方に問題があるのではないかと いう議論が経営学者を中心に急激に高まってき た。これと同じ現象がバブル経済崩壊以後の日 本で起こり、その当時のアメリカと同じような 視点の変更を行った。
企業ガバナンスは法律的視点からの「会社は 株主のもの」から出発して、それだけでは解決 されない諸問題を、経済学的に「会社は利潤を 追求するもの」を包含してステイクホールダー 間のバランスのあり方を考察する。また、商学、
理学、工学にアプローチして、究極的にはサス テナブル社会における精神的、物質的豊かさを 求める人間としての生きる哲学まで翻って考察 する。しかし、形式的に美しく整理された論理 だけでは、生々しく、醜いフィールドの問題提 起は解決されない。ここに、総合政策科学は企 業ガバナンスの「私の会社」から「みんなの会 社」へのコンセンサスを生みだす、調和の核、
あるいは、媒体として存在の価値、あるいは今 日的意義をもつ。
98年5月、経済同友会のコーポレート・ガバナ ンス・フォーラムは「良きコーポレート・ガバナ ンスの実践は、現在および将来のグローバル社 会において、企業が競争力のある効率的な経営 を行うための必須条件」と宣言した。また、「企 業を取り巻く市場環境のグローバル化は、統治 システムの良否と、その国際的整合性の適否が 企業そのものの生存を左右するといっても過言 ではない事態となった」[鈴木98a]と経営者側 からの宣言を鮮明にした。
このことは経営者自身が企業ガバナンスをサ ステナブル社会にキーとなる運営機構としてフ ィールドに表面化させた。
自 然 環 境
株 主
選 任 株 主 総 会 選 任 選 任
C E O 取 締 役 会 会 長 監 査 取 締 役 会
経 営 社 外 取 締 役
執 行 社 内 取 締 役 監 査
役 員 委員会
報 告
社 会 環 境
従 業 員
債 権 者
図3 アメリカのコーポレートガバナンス[林99c]
ラテン語のgubernare(舵取り)を語源とする ガバナンスは、社会における権力の誘導、行使、
制限を意味するものである。ある組織の中に存 在する権力が持つ権利義務関係の明確化と、行 使した行動のアカウンタビリティー(正当性)
を決める機構をさすものである。
企業ガバナンスには、企業権力の社会に対す る正当性を求めるシステムと、企業内部におけ る責任のあり方のシステムが含まれている。前 者は企業の社会と自然環境への貢献である。後 者は、いかに行動の正当性を説明するかを問題 としている。これが重要である。
企業は利己最大化を求めて集まる多くのステ イクホールダーから成り立っている。これを大 きく分けると社会環境(地域コミュニティ)と 自然環境である。社会環境の中における企業環 境を細分化すると、株主、経営者、債権者、従 業員である。これらの優先順序は国によって異 なる。
アメリカにおいては「株主→経営者→債権者→
従業員」であり、日本では「従業員→債権者
(メインバンク)→経営者→株主」という順序で ある。
よく企業ガバナンスに関してステイクホール ダーによるガバナンスという議論がなされるが、
企業のステイクホールダーは、単に従業員や株 主だけでなく、自然環境、地域社会、消費者、
取引先とすべてを包含した共生共同体の利害関 与者として存在する。
現代企業の企業政策は92年〜93年の株主パ ワーに揺れたアメリカの歴史的事実を直視する ことから、経営環境激化への適応の重要性を再 認識して施策されなければならない。
カルパース(CalPERS;カリフォルニア州公 的職員退職基金)等の機関投資家が株主提案権 の行使あるいは最高経営責任者の交代を要求し た2年間であった。この間のアメリカ主要企業 の経営トップの主な更迭は次の5つである。(ニ ューヨーク・タイムス、ワシントンポスト、ウ ォール・ストリート・ジャーナル、日経、朝日 新聞等より抜粋)
①1992. 10. GM(ゼネラル・モーターズ社)
CEOステンペル氏独立取締役の圧力により 辞任する。
②1993. 01. WH(ウェスティングハウス社)
会長兼CEOレゴ氏辞任。取締役会はモロー
取締役を役員を兼任しない会長に任命。取 締 役 会 か ら 強 要 さ れ た も の で は な い が、慰留もなかった。CalPERSは書簡を送 付、面談を要請した。WHは株主行動の標 的12社のうちの1社である。
③1993. 1-2. AE(アメリカン・エクスプレ ス社)ロビンソン会長辞任。取締役会は後 任に社外取締役のリチャード・ファロード 氏を指名した。既に1月にCEOを辞任して いたロビンソン氏がその後も会長として残 り取締役会を取り仕切ることに対して機関 投資家や一部取締役が不満を表明してい た。
④1993. 03. IBM 会長兼CEOエイカーズ氏辞 任。取締役会は後任として、社外からガー スナー氏を任命。業績悪化に対し機関投資 家が取締役や経営陣との会合を要請する等 エイカーズ氏に対して多方面からのプレッ シャーが働いていた。なお、社外からの人 選は同社の約80年にわたる伝統を破るもの である。
⑤1993. 08. EK(コダック社)独立取締役、
会長兼CEOウィトモア氏の解任を公表し た。数週間前のフェデリティ等の機関投資 家 と の 会 合 で ウ ィ ト モ ア 氏 は 部 門 売 却
・大量解雇等による業績改善を強く求めら れていた。なお、同社の独立取締役は9名、
社内取締役はウィトモア会長を含めて4名 である。
このような機関投資家の行動はアメリカ企業 の企業再構築に大きなパワーとなり、その後の 経済成長を急進させた。株主パワーに揺れだし たアメリカの2年間で、機関投資家の姿は変貌 した。これら機関投資家は今までは保有株のパ フォーマンス等がよくないときは、これを売却 して、他の会社の株式を買うというウォール・
ストリート・ルールによって行動してきた。し かし、この機関化現象は機関投資家の保有する 株式量が大きくなり、機関投資家がウォール・ス トリート・ルールによって行動することは、株 式市場への影響を考えると単純に動けず、行動 を控えるようになったことが背景にある。それ ゆえに、アメリカの機関投資家はコーポレート・
ガバナンスに関与しだしたのである[森田95b]。
【アメリカ機関投資家による株主行動】
(1992〜93)
〈1 9 9 2 年 〉 CoPERS, CalPERS, CREF・・・・・
業績不振等を理由にいくつかの企業の取締役 選任投票を保留。
NYCERS・・・・・
独立取締役で構成する指名委員会の設立等の 株主提案をいくつかの会社に提出。
〈1 9 9 3 年 〉 CalPERS・・・・・
California Public Employeers’ Retirement System
(カリフォルニア州公務員年金基金)
業績不振企業を中心とする12社に書簡送付
(92年に発送)独立取締役との面談要請。12
社全てがCalPERSとの会合を受け入れ、多く
が改革に同意。
PSERS・・・・・
Pensylvania School Employees’ Retirement System
(ペンシルヴァニア州学校職員退職年金基金)
業績不振の5社を選定、うちコダック社に書 簡送付、面談要請。
FSBA・・・・・
Florida State Board of Administration
(フロリダ州運営委員会)
業績不振の5社のCEOとの話し合いを要請。
NYCERS・・・・・
New York City Employees’ Retirement System
(ニューヨーク市職員退職年金基金)
多数の会社に対し秘密投票の採用等を求める 株主提案提出。
SWIB・・・・・
State of Wisconsin Investment Board
(ウィスコンシン州投資委員会)
9社に株主提案提出(最終的には1社)。 CalPERS・・・・・
業績不振企業への働きかけを実施。
CREF・・・・・
College Retirement Equity Fond
(教職員退職年金基金・株式ファンド)
2社に株主提案(最終的にはゼロ)多数の企 業に秘密投票採用を要請。
CoPERA・・・・・
Colorad Public Employees’ Retirement Assosiation
(コロラド州公務員退職年金協会)
業績不振10社への取締役選任投票保留を検 討。
SWIB・・・・・
パラマウント・コミュニケーションズ社に対す る取締役選任投票を保留する意向を書簡で他 の大株主に通知。
Fedelity・・・・・
株主利益に沿わない役員報酬プランに反対す る書簡を約100社に送付。
CREF・・・・・
ガバナンスに係わるガイドライン公表、投資 先企業に送付(約1500社と推定される)
CII・・・・・
Council of Institutional Investors
(機関投資家評議会、米国年金基金の団体、
1985年設立)
業績の悪い50社のリスト公表、会員に送付。
CalPERS・・・・・
ディロンリードが設立予定の経営改革ヴェン チャー・ファンド(改革に同意した企業の株を 所有するとともにヴェンチャーのパートナー を当該企業に送り経営改革をはかるもの)へ の投資決定。
CalPERS・・・・・
業績不振企業改革のrelationship investing fund設 立を決定。[荒巻94]
このように年金基金の機関投資家の行動は評 価を得るようになった。これは機関株主に企業 経営にたいするチエック機能を持たせ、その機 能のあり方、機能強化をどのようにするかに焦 点が移ったのである。それは二つの動向として 現れた。
第1は企業はあくまでも株主のものであり、
経営に対するチェック機能は基本的に株主が果 たすものという強固な認識の高まりである。企 業経営は株主の求める方向を目指すものと考え られ、企業経営者は銀行が株主になれないアメ リカで最大の株主である個人株主の望む短期的 な企業業績に合わせすぎる傾向にあったが、機 関株主の台頭により株主のトップが入れ替わり、
株主要求が長期的な経営戦略へと変化した。
第2はその機関株主が大株主として企業経営 にその影響力を行使し始めたことである。その 行動様式は旧来の投資家としてのものではなく、
企業の所有者としての株主行動に変化した。
このような背景から、株主としての自己の利 益を守るため積極的に企業経営に影響力を行使 する年金基金機関が出現した。カルパースなど がその代表的なものである。カルパースは、全 米最大の公的年金機関である。カルパースの性 格・活動状況、企業ガバナンスへのステイクホー ルダーとしての関与は次のようである。
(1)取 締 役 会 の 会 長 職 と 最 高 経 営 責 任 者
(Chief Executive Officer)の職とを分離さ せる
(2)取締役会の過半数及び重要な委員会のすべ てが非役員取締役から構成されるべきこと を要求する
(3)非役員取締役に会社の長期的成果の責任を 持たせる
(4)株主代表委員会を創設して取締役に対して 拘束力のない勧告を与える
(5)役員の指名、業績、報酬に対する非役員取 締役の監視を改善させる
(6)社外の独立の業務監視を要求する
以上6つの行動[森田93]を起こしており、社 外取締役の活用が訴えられる。
企業所有者としての株主が、外からのチェッ クにより、短期的な業績による利益を要求する のではなく、企業経営内部にまで入り込んで、
チェックし、提言する企業所有者としての株主 を主張し、長期的経営戦略による利益最大化へ の関与を始めた。世界的に広がりつつある機関 株主の市場への関与形態は企業ガバナンスにア カウンタービリティと情報公開、特に第2次情 報公開を求め、健全性を訴えつつ、長期的業績 の向上と利益最大化の挑戦を始めた。[林99d]
2. 3 創造を期待する積極的情報公開 第1次情報公開は前に述べたように企業とし ての基本的な情報公開である。これは投資者が 適切な投資判断を行う上で必要な会社情報が、
遅滞なく、正確、かつ公平に提供されることを 要求している。このような、重要な会社情報の 適時開示は、流通市場における公正な価格形成 を確保し、投資市場の健全な発展のためには極 めて重要なものである。
このディスクロージャーは企業情報開示制度、
あるいは企業内容開示制度と呼ばれ、企業が、
一般に対し、その企業の経営等の内容を知るの に必要な情報を開示する制度である。日本では 一般投資家保護を目的とした証券取引法に基づ くものと、主として株主への受託責任、債権者 保護を目的とした商法に基づくものとが併存し ている。今や日本の投資市場は国内に限らず世 界に開かれた市場であるから、グローバルな見 地に立った企業情報の開示が要請される。
95年は企業群の一形態の金融業界に情報開示 の本質を理解しない事件が多発した。これは倒 産するはずのない神話の中の銀行群、木津信用 組合、兵庫銀行等の金融機関の経営破綻であり、
内部監査のチェック機能の形骸化による大和銀 行の巨額損失事件である。このことは大和銀行 等の特殊事情ではなく、日本の金融システムそ のものの不透明さが暴露された。また、海外に おいては邦銀に対する上乗せ金利(ジャパン・
プレミアム)が常態化した。これは体力のある 銀行、力のない銀行を同列に扱う大蔵省の護送 船団方式や、外部からは窺い知れない密室行政 が生みおとした起こるべくして起こった事件で ある。
情報開示は電子マネー、CALS、インターネッ トなどマルチメディアの発展レベルに即応する 必要がある。しかし、94年12月に決められたイ ンターネットへの情報開示を公式開示12時間後 とする規制は理解しがたい規制である。[林95b]
法律による開示は証券取引法・証券取引法施 行令・会社関係者等の特定有価証券の取引規制 に関する省令、企業内容等の開示に関する省 令・財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関 する規則・上場有価証券発行者の通告等に関す る規則等に基づくディスクロージャーである。
これは「隠してはダメ」といわれるから行う消 極的な情報公開で、最低限のチェックである。
現状の事実報告であり、法人としての現状維持 だけの開示である。ここには未来を視野に入れ たサステナブル企業としての創造的情報は含ま れていない。
第2次情報公開は前に述べたように積極的に 情報を発掘する公開である。これは企業が投資 家に企業内情報を発信するIRである。これに呼 応して投資家はCRという企業へのアクセスを 持ち、双方向情報通信を行う。企業は自らの存 続、発展、サステナブル社会に存在価値を認め
られるために、法あるいは制度的な消極的情報 開示だけでなく、戦略的、自発的、積極的な情 報公開を行う。これを創造を期待する積極的情 報公開という。
企業がアカウンタビリティの自覚を持ち、積 極的な情報公開を実践することにより、第2次 情報公開は投資家と投資家予備軍はもとより、
未来のステイクホールダーをも囲い込んだ新し い企業体を生みだす。
98年に作られた、経済同友会の新しい日本型 統治を考える「コーポレート・ガヴァナンス原 則」は次のように経営者側から、アカウンタビ リティとディスクロージャーについての原則を 表明している。
〔原則1A・〕
取締役会は、株主に対して有用かつ信頼でき る情報提供を適時行うために株主及び取締役会 に対するアカウンタビリティの自覚と実践をも とめると共に、内部管理に基づく情報システム の構築と、シェアホルダー・リレーションズの 体制を確立し維持していく責任を有する。
〔原則2A・〕
取締役会は、リスク管理を徹底し、事故、訴 訟、買収、合併、業績不振など、株主の利益に 重大な影響を与えると判断した情報は、ネガテ ィブなものも含めて、速やかに公表しなければ ならない。
〔原則3A・〕
取締役会は、経営内容の国際比較を可能にす るために、現在検討中の国際会計基準が確定し 次第、早急に連結決算や時価会計など、それに 準拠した決算報告を開始する。さらに、可能な 限り速やかに四半期決算を導入すべきである。
〔原則4A・〕
取締役会は、株主の利益を代表する代理人で あると同時に、各ステイクホールダーの利害を 調整するという重大な社会的使命と責任を負っ ている。各ステイクホールダーにたいしては、
たとえばポリシー・ステートメントや環境報告 書の公表など、それぞれの関心に適った情報提 供を積極的に行うべきである.
[鈴木98b]
IR活動は、究極的に資本コストを下げる効果 を持つ(全米IR協会)と定義されている。これ は社会制度や資本市場の状況などの環境条件に よって異なるのが当然であり、日本におけるIR の定義があって当然なのだが、議論はあるが未 だ合意には至っていない。しかし、日本のIRの 定義は企業ガバナンスにおける情報公開という 観点から、企業が目指す世界に開かれた市場で の姿として、フィールドのニーズから定義づけ られるべきである。
アメリカにおけるIR活動は、既に企業の重要 な経営戦略として定着している。このことは形 式的な情報提供から戦略的コミュニケーション へと大きく変化したことを物語っている。日本 ではディスクロージャー制度の範囲内を形式的 な情報提供とした行動を持つ企業が多い。しか し、現代企業はその存続の為に必要なものとし て戦略的なコミュニケションの場を作る創造的 情報公開の必要性を痛感しだした。投資家及び その予備軍はフィールドである市場の要求、市 場の基本原理として企業に第2次情報公開を求 め始めた。IR活動の根底にあるのは、市場にお いて正当な企業評価を得ることであり、その前 提は、投資家に対していかに投資魅力のある企 業経営を行うかである。
アメリカでは、69年にIRの普及促進、会員へ の 情 報 提 供 を 目 的 に 、 全 米IR協 会 (National Investor Relations Institute)が設立された。当初
のIR活動は、アニュアル・レポートや決算報告
書等の基本的な情報を証券会社のアナリストに 対して提供することであった。アメリカでも始 まったばかりの頃は企業のIRに対する取り組み も受動的・形式的であり、証券会社の主導であっ た。日本では戦後、証券民主化の進展で多くの 人が株式を所有するようになり、株式市場は大 きく成長した。しかしそのプロセスで株主尊重 という大原則が忘れられ、特にバブル形成期に は企業の情報過疎の中、企業のファンダメンタ ルズにそれほど神経質にならず、株を買う事態 が進んだ。ところがバブル経済がはじけて株式 が暴落、投資家は怒り心頭に達した。だがその 反面、投資家の自己責任原則も声高く叫ばれ始 めた。このことは企業情報を投資家にディスク ローズすることを前提条件として、納得の上、
株式を買ってもらわなければならない。より多 くの企業情報が投資家に伝達される第2次証券
民主化の時代に入ったという理念がIRのバック ボーンになっている。これは「自己責任」と
「他の人の自己責任」が共存することを意味す る。
IRが注目される背景要因の基本に、自社の良 い面をくどくどと説明することは、日本伝統の 美意識に反するという日本企業の経営スタイル の転換がある。しかし、語らない経営姿勢をグ ローバルな企業理念に照らしたとき、多くの疑 問が提示される。IRは、語らない経営から語る経 営にシフトすると捉えていいのである。[伊藤94]
投資市場は経営者と投資者の自己責任の二つ が共存して機能する。この2つの原則がバブル 経済崩壊以降、投資市場において相互確認出来 たことは意義のある前進といえる。これは市場 原理と市場はいかに動くかを双方が理解した証 拠でもある。
IR活動は双方向のコミュニケーションが重視 され、企業側から情報提供を積極的に行うと同 時に、株主投資家からの意見、企業へのイメー ジなどを経営トップが吸収して経営に役立てな ければならない。これがインベスタ・リレーショ ンズとコーポレート・リレーションズの有機的な 伝達とフィードバックである。
「物言わぬ株主」はアメリカと同様に、日本で も90年以降の株式市場の低迷を契機に、機関投 資家を中心に「物言う株主」に変身した。また、
企業経営者はキャピタル・ゲインで株主に報い
ることができなくなり「物言わぬ経営者」から
「物言う経営者」に変わらざるを得ない状況とな った。経営者は積極的な情報公開により、密室 経営から脱皮してプロセスを重視した経営に取 り組みだした。プロセス重視の経営者会議は利 己最大化の情報選択による意思決定をする。こ のことは企業を取り巻くすべてのステイクホー ルダーと情報を共有して、企業政策とその方向 性を敏速に各ステイクホールダーとの合意へ導 くことになる。
日本における株式会社の経営構造は、株式持 ち合いが浸透する中で、「従業員−債権者−経営 者−株主」という優先順位で構成されてきた。
いわゆる「My Company」であった。しかしここ に来て、「美しい日本型経営」とアメリカから揶 揄された相互扶助の「株の持ち合い制度」は積 極的に解消されて、「Your Company」に変身しよ うとする行動が経営者側にも現れた。含み益の 減少に直面した機関投資家は利益還元の不足し ている企業の株式を売却し始めた。そのことは 企業にROE(Return On Equity:株式資本利益 率)、配当性向を高めるなど株主重視の経営姿勢 を取らざるを得なくした。物言わぬ投資家は株 主への利益還元などを主張するなかで物言う株 主に変身して、企業に定量的情報のほか、経営 方針、経営判断の根拠、企業グループの状況、
将来の自社製品の市場見通し、株主優遇策など の定性的情報の公開を要求する。ここに法に基
→ → → → インベスタ・リレーションズ → → → → → → → → → → → → → → → → → → ← ← ← ← ← ← ← ← ← ← ← ← ← ← ← ← ← ← ← ← コーポレート・リレーションズ ← ←
⇒ 制度面での ⇒ 株式投資単位引下げ イ ベ ン ト 個
経営戦略 アプローチ 端株特別買増し 決算説明会
企 株主優待制度 ⇒ アナリスト ⇒ 人 投
資本戦略 ⇒ 株主還元での ⇒ 株式分割 マスコミ
業 アプローチ 増配 会社説明会 株
新商品開発戦略 国内 資
経 ツール 海外 主
⇒ 株主還元策 会社案内 証券営業マン
営 リレーション
事業報告書 個人投資者 者
業績の推移 活動による
ファクトブック 機関投資者 機
者 ⇒ アプローチ ⇒
4半期決算短信 ⇒ 工場見学会 ⇒
会社現況 ビデオ 技術開発説明会 関
インターネット ライブラリールーム
ホームページ 株
← ← ← ← ← ← ← ← ← ← ← ← ← ← ← ← ← ← ← ダイレクター・リレーションズ ← ← ← 主 → → → → シェアホルダー・リレーションズ → → → → → → → → → → → → → → → → → →
図4 投資者への伝達とフィードバック[林99e]一部修正
づくディスクロージャーだけでは経営の前進は なく、経営者はIRの重要性を認識する。
PRはイメージアップ、製品宣伝などの目的で 良い情報だけでも許され、企業の裁量に委ねら れている戦略的な広報活動で、自企業の顧客、
一般消費者が対象である。
IRは投資家との間に友好関係を構築するもの である。これは自企業の株主、一般投資家、ア ナリスト、ファンド・マネージャー、格付け会 社、投資予備軍を対象とするもので、制度開示 はもちろんのこと、自主的により詳細な情報を 提供する。そして、株主・投資家などからの意見 を発掘する双方向のコミュニケーション機能を 持ち、経営最高責任者が積極的に関与する。IR はただ単に、情報を伝達するだけでなく、自企 業に対する株主・投資家を中心とした、あらゆ るステイクホールダーからの情報を経営に取り 入れるプロセスを重視し、インタラクティブな コミュニケーションの場を設けて、積極的に信 頼関係を構築する。
現代企業は経営状況の好・不調に関わらず、解 決困難な諸問題に遭遇したとき、日本人の持つ 自企業への「美意識」あるいは「恥の意識」を 表面的、形式的に捉えて、情報をクローズする のではなく、内面的、内容的な理解から、自企 業の利他を含んだ利己最大化のために情報を公 開する。このことは機関投資家が機関株主とし て台頭している今、IR、CRのコミュニケーショ ンにとどまらず、シェアホールダー・(株主)リ レーションズ、ディレクター(経営者)・リレー ションズへと発展し、全てのステイクホールダ ーとのコミュニケートを喚起する。これにより 全てのステイクホールダーとの関係が密になり 無数のコミュニケーションの場が設定される。
ここから、経営者会議は最適化された選択肢を 複数個選択する。複数の選択肢は可及的速やか に同数の社内外取締役によるコミュニケートか ら情報を浄化して、利己最大化の創造的企業政 策の意思決定を行う。
最近の日本企業の経営者に意識変化がみられ、
積極的な情報公開を意識しだした結果、企業政
策はM & A(合併・買収)を戦略として使いだ
した。98年年度における1月から9月までの日 本 企 業 の 合 併 は 日 興 証 券 調 べ に よ る と657件
(前年比149件増加)、とくに、過半数の株式を 取得する「株式取得案件」は229件、事業部門
や営業権を譲り受ける「営業譲渡案件」が139 件と、いずれも前年同期を3〜4割上回る高い 水準である。今後の企業ガバナンスとしての観 点から株式持ち合い比率の低下、日本型雇用慣 行が変化して行く過程における現象と捉えると ころであるが、この傾向はこれまでのような単 純 な 救 済 型 や 規 制 緩 和 へ の 対 応 で は な く 、
M & Aを企業の業態変換、リストラの有効な手
段として経営戦略に位置づけている。
2000年3月期から公表が義務づけられる連結 決算は開示する連結範囲が親会社の実質支配力 基準で広がるため、関連の経営不振会社を連結 対象から外す粉飾は許されない。企業ガバナン スはグループ経営手法としてM & Aを活用し、
一見、欧米型に近づいていくように見えるが、
日本の風土と文化によって培われた企業哲学は 米国型世界標準に統合されるのではなく、日本 民族の勤勉さ、美の意識、恥の文化を残しつつ、
日本型世界標準をつくりだすのである。この企 業哲学のもとに大企業は勿論のこと、中堅企業、
中小企業にも存在の価値を見つける。企業の積 極的な情報公開は、ただ単に大企業だけに求め るものではなくこれら中堅中小企業を含めた全 ての企業群に企業ガバナンスとして求めるもの である。これはステイクホールダーとのコミュ ニケーションが内容を伴なって、潜在している 情報の発掘と価値の創造を行うことである。こ こに、過去の経験を生かし、慣習を乗り越えて、
総合政策科学の視点から、新しい理論としての 企業政策を打ちだすことになる。そして、より 豊かな人間生活を文化と知価のなかに求め、企業 は結果として自らの評価を創りだす。[林99f]
3. 企業ガバナンスにおける情報選択 3. 1 コミュニケーションと創造知
ヒューマンリレーションは共生共同体のステ イクホールダー相互の積極的なコミュニケーシ ョンを基盤として生まれる。コミュニケーショ ンは人々の生きる姿であり、人々の生きる術と してのポリシーを生みだす。ポリシーはステイ クホールダーとのコミュニケートから情報選択 と政策決定を企業体のリーダーに要求する。
企業の政策決定プロセスにおいて、情報は誰