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「社 会 福 祉 の 人 間 観 と潜 在 能 力 ア プ ロ ー チ 」 岩 崎 晋 也
〔要 約 〕
社会福 祉 は、福 祉 国家 成 立以 降、 そ の対 象 を国民 全 般 と規 定 して きた。 しか し一般 国民 を前 提 に シス テム を構 築 した結 果 、従来 対 象 と して きた 、児 童 、 障 害 を有 してい る人 を、 平均 的 な市 民 に対 す る例外 的存 在 と して、原 理 的 に位 置 づ け る こ とに な った。 つ ま り、 社会福 祉 にお け る 自由や平 等 、公 正 とい った基 本 原 理 を語 る場 合 は、平均 的 な市 民 を前 提 と して そ の原 理 を構 築 し、例 外 的 な 存 在 につい て は、可 能 で あ れ ば拡 大解 釈 を し、 で きなけ れ ば異 な る原理 を適 用 して きた と思 われ る。 だが 、 これ らに人 々 を本 当 に例 外 的 な存 在 と して扱 わ な けれ ば な らない の か、平均 ・例 外 とい う二分 化 され た 人 間観 は所 与 の もの なの か、 とい う点 につ いて、 社 会福 祉 の領 域 で 十分 な検 討 が な され て きた とは思 わ れ ない。
本稿 は、社 会 福 祉 にお け る統 合 的 な人 間観 の構 築 とい う視 点 に立 ち、近 年 多 様 な領 域 で注 目 されて い るセ ンの 「潜 在 能力 」 ア プ ロー チの意 義 と課 題 を検 討 した。 特 に、検 討 すべ き点 と して、 これ まで選 択 能力 の制 限か ら自由 を行 使 す る資格 が ない と見 な され て きた知 的 ・精神 的障 害者 等 の問題 を と りあ げ、健 常 者 を含 め て 、選 択 す る能力 自体 を、 「機 能」 の評価 をす る際の可 変 的要 素 と し て と りあ げ る こ との必 要 性 を提 示 した。
〔キ ー ワ ー ド〕
潜 在 能 力 ・機 能 ・自 由 ・社 会 福 祉 理 論
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1.は じ め に
イ ン ド出 身 の 経 済 学 ・哲 学 者 で あ る アマ ル テ ィア ・セ ン は 、1980年'Equality ofV》hat?'と い う論 文 で ニ ー ズ を 「基 本 的 潜 在 能 力(basiccapability)」 と解 釈 す る
こ と を 提 案 した(Sen,1980)U。 そ の 後 セ ンは 、 「潜 在 能 力 」 ア プ ロ ー チ を 、 福 祉(well‑being)、 貧 困 、 自 由(libertyandfreedom)、 生 活 水 準 と開 発 、 ジ ェ ン ダ ー バ イ ア ス と性 的 分 業 、 正 義 と社 会 倫 理 とい っ た 社 会 問 題 を分 析 す る 際 に も 活 用 し、 そ の 応 用 範 囲 を広 げ て い る2)。
こ の よ う に 、 多 様 な 社 会 問 題 を 分 析 す る概 念 と して 展 開 して い る 「潜 在 能 力 」 ア プ ロ ー チ と は い か な る概 念 で あ ろ うか 。 一 言 で 言 え ば 、 多 様 な環 境 ・個 体 条 件 に あ る個 々 人 を、 実 際 に そ の 人 が 何 を な しえ る の か に着 目 して捉 え る概 念 で あ る と言 え よ う。
た と え ば 、 権 利 義 務 関係 と い っ た 形 式 的 な 資 格 で 人 を と らえ る こ と は 、 法 の 下 の 平 等 を守 る 上 で は重 要 で あ る が 、 そ の 者 の 多 様 な 環 境 ・個 体 条 件 の 多 くを 捨 象 しな け れ ば な ら な い 。 ま た 、 満 足 や 自 己 実 現 とい っ た 主 観 的 感 情 や 評 価 で 人 を と ら え る こ と は 、個 人 の 主 体 性 の 重 視 と い う点 で は 重 要 で あ る が 、平 等 の 観 点 か ら社 会 が 個 人 に対 して ど れ だ け コ ミ ッ トメ ン トす る こ とが 公 正 な の か 、 と い う問 い に 答 え る こ と を 困 難 に して し ま うだ ろ う。 こ れ に対 して 、 「潜 在 能 力 」 ア プ ロ ー チ は 、 個 々 の 多 様 性 を捨 象 す る こ と な く、 ま た 相 対 主 義 に陥 り相 互 比 較 を 困 難 に す る こ と もな く、 人 の置 か れ て い る 状 態 を評 価 で き る ア プ ロ ー チ で あ る とい え る 。
社 会 福 祉 とい う立 場 か ら、 対 象 を どの 側 面 か ら捉 え る の か とい う問 題 を考 え る と き、 こ の 「潜 在 能 力 」 ア プ ロ ー チ は 、 他 の ア プ ロ ー チ に な い 魅 力 を有 して い る と考 え る 。 とい うの は 、 社 会 福 祉 は 「大 量 生 産 的 サ ー ビ ス を 高 度 に個 別 化 され た 成 果 と して 分 配 す る か 」(Marshall,1975)と い う問 題 を常 に 抱 え て お り、 抽 象 的 ・形 式 的 な 個 の と ら え か た と 、 具 体 的 ・個 別 的 な個 の と ら え か た の 、 い ず れ の 極 に組 み す る こ と もで きず に、 独 自 の 個 の と らえ 方(人 間観)を 模 索 し続 け て き た と言 え る 。 この 点 で 、 セ ンの 「潜 在 能 力 」 ア プ ロ ー チ は 両 極 の 中 間 に位 置 す る も の で あ り、 社 会 福 祉 の 人 間 観 と して 十 分 に検 討 す る に値 す
「社 会福 祉 の 人間観 と潜在 能力 アプ ロー チ」
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る も の と思 わ れ る。
そ こ で 本 稿 で は 、 こ の 「潜 在 能 力 」 ア プ ロ ー チ を紹 介 す る と と も に 、 社 会 福 祉 の 基 本 的 な 人 間 観 と して 、 こ の ア プ ロ ー チ を 措 定 す る こ との 意 義 と 、 そ の 際 検 討 す べ き課 題 を 論 ず る も の で あ る 。
2.セ ン の 「潜 在 能 力 」 ア プ ロ ー チ
(1)財 ア プ ロ0チ と 効 用 ア プ ロ ー チ
セ ン の 「潜 在 能 力(capability)ア プ ロ ー チ 」 は 、 対 象 と な る 人 の 福 祉(well‑be‑
ing)と い う側 面 を評 価 す る 際 に 、 何 を情 報 の ベ ー ス と して 評 価 す れ ば よい か を まず 明 ら か に して い る 。
人 が どれ だ け の福 祉(well‑being)の 水 準 を達 成 して い る か を評 価 す る既 存 の 方 法 と して は 、 二 つ の 大 き な ア プ ロ ー チ が あ る 。 一 つ は 、 そ の 人 が どれ だ け財 を 有 して い る の か に 着 目す る ア プ ロ ー チ(ex.ベ ー シ ッ クニ ー ドや ロ ー ル ズ の 基 本 財 な ど)で あ り、 も う一 つ は 、 そ の 人 の 幸 福 や 欲 望 充 足 に 着 目 した 効 用 ア プ ロ ー チ で あ る 。 しか し、 セ ン は そ の い ず れ も不 適 切 な ア プ ロ ー チ で あ る と論 じ て い る(Sen.1985a;1985b;1987)。
まず 財 に着 目 した ア プ ロ ー チ につ い て は 、 確 か に 、 人 は 財 の 特 性 を 利 用 して 福 祉(well‑being)を 実 現 す る 。 しか し 「財 貨 の 支 配 は 福 祉 と い う 目 的 の た め の
「手 段 』 で あ っ て 、 そ れ 自体 と して は 目 的 に な り難 い 」 。 財 貨 を 目 的 とす る こ とは 、 「豊 か さ」 と福 祉(well‑being)の 混 同 で あ り、 「物 神 崇 拝 」 の 落 と し穴 に は ま る もの で あ る。 例 え ば 「あ る ひ とが 栄 養 の 摂 取 を 困 難 に す る よ う な寄 生 虫 性 の 病 気 を も っ て い れ ば 、 他 の ひ とか らみ れ ば 十 分 過 ぎ る ほ どの 食 物 を消 費 し
え た と して も、 彼/彼 女 は 栄 養 不 良 に 苦 しむ か も しれ な いJと 述 べ て い る 。 そ して 効 用 に着 目 した ア プ ロ ー チ に つ い て は 、 確 か に 、 苦 痛 や 悲 嘆 に 明 け 暮 れ て い た り、欲 求 不 満 に常 に 陥 っ て い る 人 が 福 祉(well‑being)を 実 現 して い る と は い え な い 。 しか し効 用 とい う心 理 的 反 応 は 、 「実 現 可 能 性 」 や 「現 実 的 な 見 通 し」 に よ っ て 影 響 を受 け る もの で あ る 。 た と え ば 「食 物 に 欠 乏 し栄 養 不 良 で あ り、 家 も な く病 い に伏 せ る 人 で す ら、 彼/彼 女 が 『現 実 的 』 な 欲 望 を も ち 、
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僅 か な 施 し に も喜 び を感 じる よ う な 習 性 を身 に つ け て い る な らば 、 幸 福 や欲 望 充 足 の次 元 で は 高 い位 置 にい る こ とが 可 能 」 と な っ て しま う(「 物 理 的 条 件 の無 視 」)。 さ ら に 効 用 は 、 主 観 的 な もの で は あ る が 、 感 情 に 関 わ る も の で あ り、 知 的 な 活 動 で あ る評 価 とは い え な い 。 感 情 の み を情 報 の ベ ー ス に して 、僅 か な施 し に も喜 び を感 じた 場 合 で も福 祉(well‑being)が 実 現 され て い る と判 断 す る こ と は 、 そ の 人 の 「あ る種 の 生 き方 を他 の 生 き方 と比 較 して 評 価 し よ う とす る知 的 活 動 」 を無 視 して い る こ と に他 な ら な い(「 評 価 の 無 視 」)と 論 じて い る。
(2)「 機 育旨」
こ の よ う に セ ン は 、 財 と効 用 の い ず れ を情 報 の ベ ー ス と して 人 の 福 祉(well‑
being)を 評 価 す る こ と も 不 適 切 で あ る と 論 じ た 上 で 、 新 た に 「機 能 (functionings)」 と い う概 念 を提 起 して い る 。
セ ン の 定 義 に よれ ば 、 「機 能 」 と は 、 「彼/彼 女 の 所 有 す る財 とそ の 特 性 を 用 い て ひ とは な に を な し う る の か 」 を 意 味 して い る 。 財 は 、 そ の 財 が 存 在 す る (社 会 的 ・政 治 的 ・文 化 的 ・物 理 的etc.)環 境 に規 定 され る特 性 を有 して い る。
例 え ば 、 パ ン とい う財 は 、 栄 養 素 を与 え る こ とや 、 一 緒 に飲 食 す る集 ま りを可 能 に す る とい う特 性 を 有 して い る 。 そ の パ ン とい う財 の 特 性 を 用 い て 、 人 は 、 カ ロ リー の 不 足 な しに 生 存 す る こ とや 、 他 人 を もて なす こ と な ど を 、 実 際 に な
し え る の で あ る 。 こ の 実 際 に な しえ る こ と を セ ン は 「機 能 」 と呼 ん だ 。
も し財 の 特 性 の 水 準 が 、 そ れ を用 い る 人 の 「機 能 」 の 水 準 に 比 例 す る の で あ れ ば 、 こ と さ ら 「機 能」 とい う概 念 を提 起 す る 必 要 性 は 薄 い 。 しか し、 一 定 の 財 の 特 性 の 水 準 に よ っ て 実 現 で き る 「機 能 」 の 水 準 は 、 そ れ を用 い る人 の お か れ て い る状 況 に よ っ て 大 き く異 な る と言 わ ざる を得 な い 。 先 の パ ンの 例 で 言 え ば 、 二 人 の 異 な る個 人 が 、 同 一 量 の パ ンに よ っ て 、 同 一 レベ ル の 「機 能 」 を 実 現 で き る と は 限 ら な い 。 そ う した 個 体 の 差 異 に も とつ く人 の特 性 の他 に も、 た と え ば 施 設 に 隔 離 収 容 され て い る障 害 者 は 、 栄 養 素 とい う点 で は 他 の 人 と同 程 度 の 食 料 を与 え られ て い た と して も、 他 人 を もて な す とい う 「機 能 」 を実 現 で き な い よ う に 、 環 境 の 差 異 に規 定 さ れ る 人 の特 性 の 違 い に よ っ て も、 実 現 で き る 「機 能 」 の 水 準 は 異 な る の で あ る 。
「社会福祉の人間観 と潜在能力 アプローチ」53
つ ま り、 人が財 を用 い て実 現 で きる 「機 能」 の水 準 は、財 の特 性 と人 の特性 の相 互作 用 に よっ て決定 され るので あ る。 この 関係 を図 示す れ ば図1の 様 に な る。
そ して人 が財 の特 性 を用 い て実現 した 「機 能」 の水 準 は、効 用 の水準 と も比 例 しない。 仮 に効 用 を満足 と とらえ てみ た場 合 、実現 され た 「機 能 」 の水準 に
よって そ の 人が満 足 で きるか どうか は、 その 人 の置 か れ てい る物 理 的 条件 や価 値 観 に よって大 き く異 な るか らで あ る。
図1「 機 能 」 と は何 か 一 パ ン を例 に と っ た 場 合
財 の 特 性
・栄 養 素 を与 え る
・飲 食 の 集 ま りを 持 っ
環境の特性
社 会 的 ・物 理 的 ・ 政 治 的 ・文 化 的
etc
人 の 特 性
・代 謝機 能 の 低 下
・施 設 に隔 離 され て い る
機 目ヒ
・カ ロ リー の 不 足 な し
に 生 存 す る こ と が 困 難
・他 人 を も て な す こ と が
で き な い
よ っ て 「機 能 」 と は 、 財 の 所 有 と も、 効 用 と も、 同 一 視 す る こ と は で きず 、 そ の 両 者 の 中 間 に位 置 す る もの と い う こ とが で き る 。
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(3)「 潜 在 能 力 」
だ が 、 上 述 の よ う に 「機 能 」 とい う概 念 を提 起 す る だ け で は 、 評 価 す る 際 の 情 報 の ベ ー ス を ど こ に 設 定 す る の か とい う領 域 を 規 定 した に過 ぎず 、 そ の 領 域 を い か な る 目的 に 基 づ い て 評 価 す る の か とい う 問 題 が 残 され る 。 た と え ば キ ャ ビ ア を 食 べ る こ と に よ っ て も た ら さ れ る 「機 能 」 、 特 定 の 銘 柄 の ス ポ ー ツ シ ュ ー ズ を使 う こ と に よ っ て もた ら され る 「機 能 」 な ど 、 多 様 な 、 そ して 大 多 数 の 人 と っ て は ほ と ん ど重 要 性 を持 た な い 「機 能 」 も同 定 す る こ とが で き る 。 そ こ で 、 そ の 人 に と っ て 実 現 可 能 な 多 様 な 「機 能 」 の 内 、 評 価 す る 目的 に 照 ら して 、 関 係 す る 「機 能 」 の 束 を 「潜 在 能 力(capability)」 とセ ンは 呼 ん だ3)。
た とえ ば 、 開 発 途 上 国 の極 貧 を評 価 す る場 合 は 、 良 好 な 栄 養 状 態 ・住 居 を確 保 で きる か 、 避 け られ る疾 病 や 早 す ぎ る死 を 回避 で き る か 、 とい っ た 比 較 的 少 数 で 重 要 な 「機 能 」 に よ っ て 構 成 さ れ る 基 本 的 な 「潜 在 能 力 」 を措 定 で き る4)。
しか し、 人 の 福 祉(we11‑being)を 評 価 目 的 とす る 場 合 に は 、 こ う した 基 本 的 な
「機 能 」 の 他 に 、 自尊 感 情 の 達 成 や 、 社 会 的 に統 合 され て い る こ と 、 とい っ た 、 よ り複 雑 な 「機 能 」 の 束 を 内 容 とす る 「潜 在 能 力 」 を評 価 す る 必 要 が あ る の で あ る(Sen.1993)。
「機 能 」 の 束 を 、 あ え て 異 な る用 語 で あ る 「潜 在 能 力Jに 置 き換 え て い る こ と に は 、 意 味 が あ る 。 そ れ は 、 人 の福 祉(well‑being)を 評 価 す る 場 合 の 自由 とい う 要 素 の 重 要 性 に 関 係 して い る 。
「機 能 」 を 、 ひ とが 実 際 に な しえ た 状 態 ま た は行 為 と と ら え た場 合 に は 、 そ の 実 際 に な しえ た 「機 能 」 の 束 に よ っ て 「潜 在 能 力 」 は 構 成 され る。 しか しこ の よ う に 実 際 に な しえ た 「機 能 」 に の み 着 目す る だ け で は 、 人 の 福 祉(well‑be‑
ing)を 評 価 す る 場 合 に 不 十 分 な 場 合 が あ る 。 と い うの は 、 本 人 に と っ て 実 現 可 能 な い くつ か の 「機 能 」 の 選 択 肢 の 中 か ら 、 あ る 「機 能 」 を達 成 した場 合 と、
そ れ しか 選 択 で き る 「機 能 」 が な か っ た 場 合 とで は 、 結 果 と して 達 成 さ れ た
「機 能 」 は 同 じで あ っ て も、 後 者 の 方 が そ の 人 の 福 祉(we11‑being)の 水 準 は低 い と評 価 で きる か らで あ る 。 た と え ば 、 在 宅 高 齢 者 が 、 結 果 と して 施 設 へ の 入 所 を選 択 した と して も、 他 の 在 宅 を支 え るサ ー ビ ス が あ っ て 施 設 を 選 択 した場 合 と、 施 設 へ の 入 所 しか 選 択 肢 が な か っ た 場 合 と で は 、 選 択 した 結 果 は 同 じで
「社 会福 祉 の 人間観 と潜 在 能力 ア プ ローチ」
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あ っ て も、 そ の 人 の 福 祉(wel1‑being)の 水 準 は 後 者 の 方 が 低 い と い う こ と が い え る 。 そ こで セ ン は 、 選 択 肢 の 数 や 内 容 を 考 慮 した 「機 能 」 の 定 義 を 、 「洗 練 さ れ た 『機i能』(refinedfunctionings)」 と呼 び(Sen。1985a;1993)、 こ う して 「機 能 」 の 概 念 に 自由(選 択)と い う要 素 を組 み 入 れ た の で あ る 。
だ が 、 こ の よ う に 「機 能 」 の概 念 を 洗 練 させ た と して も、(選 択 した 上 で) 実 際 に な し え た こ と 「達 成 」 と、 な しえ る 可 能 性 が あ る こ と 「自 由 」 に は 、 大
き な違 い が あ り、 後 者 を評 価 す る こ との 方 が よ り重 要 な場 合 が あ り う る 。 た と え ば 、 分 別 の あ る大 人 同 士 で あ れ ば 、 実 際 に 分 配 さ れ た 社 会 資 源 を利 用 して 、 ど れ だ け 人 の福 祉 に 関 す る 機 能 が 達 成 で き た か を評 価 す る よ り も、 そ の 機 能 を 実 現 す る 自 由度 を評 価 す る 方 が 望 ま しい 。 なぜ な ら主 体 の 自由 な 選 択 の 結 果 と して利 用 せ ず に 、 人 の 福 祉(well‑being)の 達 成 の 点 で 、 他 者 と違 い が で た と して も、 そ れ は 不 公 平 とは い え な い か らで あ る 。 よ っ て 人 の 福 祉 と い う観 点 か ら社 会 資 源 の 分 配 を評 価 す る 場 合 に は 、 「福 祉 的 達 成(well‑beingachievement)」 よ り
も 「福 祉 的 自 由(well‑beingfreedom)」 を 評 価 す る 方 が 望 ま しい と セ ン は 主 張 し て い る(Sen.1985a;1993)。 そ して 「福 祉 的 自 由 」 を評 価 す る場 合 の 「潜 在 能 力 」 は 、 実 際 に どの 「機 能 」 が 選 択 さ れ る か は 別 に して 、 選 択 可 能 な 「機 能 」 の 束 に よ っ て 構 成 され る こ と に な る5)。
こ の 意 味 に お い て 、 「潜 在 能 力 」 と い う概 念 は 、 単 に 「機 能 」 の 束 と い う意 味 合 い を越 え て 、 「自 由」 とい う側 面 を よ り強 調 し、 付 与 した概 念 と して セ ン は提 起 した の で あ る 。
こ の 実 際 に な し え た こ と(「 達 成 」)と な しえ る 可 能 性 が あ る こ と(「 自 由」)の 関 係 、 お よ び 「機 能 」 と 「潜 在 能 力 」 の 関 係 を 整 理 す る と、 図2の よ
う に な る と思 わ れ る 。
ま ず 一一番 下 の 「財 」 の次 元 で と ら え る と、A1,A2と い っ た 領 域 は 、個 々 の財 の 特 性 を表 して い る 。 しか し人 は 、 そ の 財 の 特 性 を す べ て 生 か し切 る 条 件 に あ る と は 限 らな い 。 この 財 の 特 性 と 人 の 特 性 の相 互 作 用 に よ っ て 、 そ の 人 が 実 現 可 能 な 「機 能 」 の 幅 が 限 定 され る。 そ れ が 「自 由 」 の 次 元 で と ら え ら れ る BlジB2な どで あ る。 さ ら に 、 そ の 実 現 可 能 な 「機 能 」 の 選 択 肢 の 中 か ら実 際 の 選 択 とい う要 素 が 加 わ っ て 達 成 さ れ た 「機 能 」 が 、C1,C2で あ り、 そ
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図2「 潜在 能力 」 と 「機 能」 及 び 「達成 」 と 「自由」 の 関係性
/
〔 ・勧 の次元
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「自 由 」 の 次 元
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「財 」 の 次 元
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A1,A2財 の 特 性
B1,B2財 の 特 性 を 用 い て 実 現 し う る 可能 性 の あ る機 能 C1,C2実 際 に 選 択 さ れ た 機 能
b'1,b'2洗 練 さ れ た 機 能
A1+A2+An形 式 的 に 利 用 可 能 な財 の 集 合 B1+B2+Bn(広 義 の)潜 在 能 力
C1+C2+Cn潜 在 能 力 の 基 礎 的 評 価
れ は 「達 成 」 の 次 元 で と ら え られ る もの で あ る 。
ま た 「洗 練 さ れ た 機 能 」 と は 、Cユ,C2と い っ た 実 際 に選 択 さ れ た 「機 能 」 を 「自 由」 の次 元 に投 射 し(b量1,b'2)、 選 択 可 能 で は あ る が 実 際 に選 択 さ れ な か っ た 「機 能 」(bl,b2)と の 関 係 性 に お い て と ら え る こ と を意 味 して い る 。 そ して 、A1,A2,An(nは 財 の 個 数)と い っ た 個 々 の 財 の特 性 の 集 合 は 、 そ の 人 が 形 式 的 に利 用 可 能 な財 の集 合 をあ らわ して お り、Bl,B2,Bn
とい っ た実 現 可 能 な 「機 能 」の 集 合 が(広 義 の)「 潜 在 能 力 」を あ ら わ し、C1, C2,Cnと い っ た 実 際 に 達 成 され た 「機 能 」の 集 合 は 、 「潜 在 能 力 」の特 殊 な 評 価 例(基 礎 的 評 価elementaryevaluation)(Sen,1993)を 表 して い る の で あ る。
「社 会福 祉 の人 間観 と潜在 能力 ア プ ロー チ」
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3.「 潜 在 能 力 ア プ ロ0チ 」 の 意 義
(1)近 代 市 民 社 会 が 有 し て い る 人 間 観 の 問 題 点
この よ うに、人 の福 祉(well‑being)を 「機 能」 や 「潜在 能 力」 で と らえ る 「潜 在 能力 ア プ ローチ」 は、社 会福 祉 に とって いか な る意義 を有 して い るの だ ろ う
か 。
基 本 的 に近代 の人 間観 は、 そ の人 の地 位 ・身分 ・階級 とい う属 性 か ら個 を解 放 して 、市 民 とい う資 格 にお い て 自由 で あ り平 等 であ る とい うこ とを起 点 と し
てい る。確 か に、 この よ うに個 体 の特 異性 を捨 象 して抽 象 的 に個 を とらえ る こ とは、形 式 的 な機 会 の平等 の正 当性 を主張 し、多 くの形 式 的不 平等 を社 会 問題 化 す る力 を有 してい た。 しか し、 そ の こ とは 同時 に、貧 しき者 も富 め る者 と、
能力 の低 い者 も能 力の 高 い者 と、 同一 の ス ター トライ ン上か ら競 争 す る こ とを 意味 し、 自由 な競 争 と言 い なが ら常 に富 め る者 や 能力 の高 い者 のみ が競 争 の果 実 を獲 得 し、 実 質的 な不 平等 を固定 化 し拡 大 す る側面 も有 して いた 。
同 一 の ス ター トラ イ ン上 か ら競 争 す る こ とが 、結 果 と して の不 平 等 の 固 定 化 ・拡大 化 す る こ とを改 善 しよ う とす る場 合 、一 つ の解 決 策 は 、競 争 の結 果 得 られた果 実 の多 寡 に着 目 し、結 果 と して の不平 等 を縮小 す る よ うに介 入す る こ とが考 え られ る。
しか しこ の様 に競 争 の結 果 の平 等性 にのみ着 目す る こ とは、個 々人 の競 争 の 過 程 にお け る主体 的 で 自由 な営 為 を捨 象 す る危 険 性 が生 じる。
そ こで、 個 々の おか れ てい る状 況 の不 平 等性 と個 々人 の 自由 な営為 を調和 さ せ る解決 策 と して 、ス ター トライ ンに立 つ 者 の条 件 に着 目す る こ とが考 え られ る。 つ ま り、そ の条 件 の不 平等 を縮小 させ るた め に国家 は働 きか け るが 、一 定 の競 争条 件 の 平等 が か な え られ た上 で の結 果 と しての不 平等 は容 認 す る とい う 考 え方 で あ る。
こ う した修正 自由主義 的 な思 想 家 の代 表 格 と しては、19世 紀 末 か ら20世 紀初 頭 にお いて イギ リスで活躍 した ホ ブハ ウス が あ げ られ る。 ホ ブハ ウス は その代 表 的 な著作 で あ る 『自由主義 』(Hobhouse,1911)に お い て、平均 的で健 全 な市 民
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は 、 市 民 自 らが 能 力 を発 揮 し う る 条 件 を国 家 が 整 え さ え す れ ば 、 十 分 に 人 格 発 達(自 己 実 現)し う る の で あ り、 そ う した発 達 条 件 の 整 備 は 国 家 の 義 務 で あ る
と主 張 して い る 。 確 か に こ の よ う に 、 平 均 的 な 人 間 が 市 民 権 を十 全 に行 使 で き る 条 件 整 備 ま で は 国 家 の 責 任 で あ り、 そ の 条 件 を生 か す か ど うか は個 人 の 責 任 で あ る と 区 別 す る こ とは 、 結 果 と して の 平 等 論 を明 確 に 排 除 し資 本 主 義 との 整 合 性 を保 ち な が ら、 実 質 的 な市 民 権 を 享 受 し う る主 体 を 拡 大 す る 理 論 的 基 盤 を 提 供 した とい え る 。
しか し、 ホ ブ ハ ウ ス が 考 え た 条 件 は 、 平 均 的 な 人 間 を想 定 して あ くまで 強 制 的 な均 一 性 に よ っ て 保 障 で き る 平 等 な 条 件 で あ り、 条 件 を利 用 す る個 体 の 側 の 差 異 は 考 慮 され な い 。 この 意 味 に お い て 、 この 条 件 を利 用 して競 争 の ス ター ト
ラ イ ン に 立 て る 「平 均 的 な」 市 民 と、 均 一 な 条 件 の 提 供 だ け で は 同 等 の ス ター トラ イ ン に 立 て な い 「平 均 的 で な い 」 非 市 民 と に 、 実 質 的 に 人 間 を二 分 化 す る 要 素 を有 して い る の で あ る 。
ホ ブ ハ ウ ス 自身 、 後 者 の 人 々 は 、 人 口 の 一 定 割 合 存 在 す る こ と を 認 め て お り、彼 の 「自 由 原 理 」 の 対 象 に は な ら ない と述 べ て い る 。 「自 由 原 理 」 か ら除 外 され た 人 に対 して は 、 異 な る 原 理 を適 用 す べ きで あ る と して 、 道 徳 的 逸 脱 者 (た とえ ば フ リ ー ラ イ ダ ー な ど)に 対 す る 「刑 罰 的 訓 練(punitivediscipline)」 、 知 的 ・精 神 的 障 害 者 に対 す る 「介 護(life‑longcare)」 、 知 的 ・道 徳 的 に 問 題 の な
い 身 体 障 害 者 に 対 す る 「公 私 の 慈 善(privateandpubliccharity)」 を提 唱 した 。 ホ ブハ ウ ス の 『自 由 原 理 』 に 見 られ た 、 人 間 を 平 均 的 な市 民 とそ うで ない 者 に 二 分 化 す る 人 間観 は 、 現 代 の 福 祉 国 家 に お い て も大 き な影 響 を持 ち 続 け て い る の で は な い だ ろ うか 。
た とえ ば福 祉 国 家 設 立 以 前 は 、 社 会 の 周 辺 に追 い や られ て い た 貧 困 者 や 障 害 者 とい っ た特 定 の層 の み を 社 会 福 祉 は対 象 と して きた が 、 設 立 後 は ナ シ ョナ ル ミニ マ ム や 予 防 的 福 祉 、 ニ ー ドとい う概 念 の も と に 、 そ の 対 象 を 国 民 一 般 に広 げ た と一 般 に 説 明 さ れ て い る 。 しか し実 際 に は 、福 祉 国 家 と い う シ ス テ ム に よ っ て 、 市 民 権 を 享 受 し う る対 象 者 は 増 え た も の の 、常 に例 外 と な る 者 を生 み 出 して き た 。 そ の例 外 と な っ た 者 は 、 実 質 的 に 市 民 権 を 享 受 で き な い か 、 制 限 さ れ た市 民 権 しか 享 受 で き な か っ た6)。
「社会福 祉 の人間観 と潜 在能 力 アプ ローチ」
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特 に、 主 体 の意 思 が ど こ まで 尊 重 され る の か と言 う 「自 由」 とい う問題 で は、 社 会福 祉 の パ ター ナ リズム性 との 関係 にお い て必 ず し も明確 な原 理 的 な位 置 づ けが な され て こなか っ た ので は ない か7)。 た とえば 障害者 や児童 の主 体 的 な意 志 を尊 重す る こ との価 値 は、年 々強調 され て きてい るが 、 そ の尊 重 は 国民 一般(平 均 的 な市民)と 同一 の原 理 に基づ くの か
、 そ して仮 に同一 の原 理 とす る な らばそ れ はい か な る原 理 なのか が 、必 ず し も明 らか に され て こ なか った 。 単 に理 念 的 に、 これ らの者 も自己決定 の主体 で あ る とか 、 同一 の 人権 を有 して い る と宣 言 す るだ けで は問題 の解決 には な らな い。 「平均 的で ない」彼 らの置 か れ てい る環 境 や個 体 の 「特 異性 」 に どう配慮 す る のか検 討 され な けれ ば な ら ない。 そ して その配慮 は、 「平 均 的 で ない」 人 々にのみ 適用 され る特 殊 な原 理 で あっ て は、 基本 的 な二 分 化 された 人 間観 を克 服 で きない の であ る。 もち ろん 単 に不 平等 の解 消 の み に着 目す る な らば、結 果 と しての 平等 を追 求す る こ と に よって解決 可 能で あ る。 しか しそ れで は主体 の 自由 とい う要 素 を捨 象 して しま う問題 点 が あ るの は上 述 の通 りで あ る。
(2)「 潜 在 能 力 」 ア プ ロ ー チ の 人 間 観
この 困難 な問題 に対 して、結 果 と して の平等 とい う枠 組 み を使 わ ず 、主体 の 自由 とい う要 素 に十 分 配慮 しなが ら、 一 定 の 解 決 の枠 組 み を提 供 して い る の が 、 セ ンの 「潜 在 能力 」 ア プ ロー チ とい え る。
まず 、 「機 能」 とい う概 念 を使 う こ とに よって 、個 々 人 の置 か れ てい る環 境 的 ・個 人 的差 異 を考 慮 した上 で 、 そ の ひ との実 際 の状 態 や な しえてい る こ とを 評 価 す るこ とを可 能 に した。 そ の結 果 、上 述 の平 均 的 で ない市 民 に も、他 の 平 均 的 な市民 と同 じ概 念 装 置 を使 って 、 評価 す る こ とが で きる ので あ る。
さ らに、 「潜 在 能力 」 とい う概念 を使 うこ とに よって、 人 の福 祉 に とって 重 要 な 自由 とい う要 素 を と りこみ 、実 際 にそ の 人 が どの程 度 の 「福 祉 的達 成」 を な しえてい るか を問 うだ けで は な く、 その 人 が どの程 度 の 「福祉 的 自由」 を有
して い るか とい う評価 を可 能 に した。 その結 果 、 社会 的 サ ー ビス や資 源 分 配 の 公 平 さを見 る場 合 、 この 「福 祉 的 自由」 を評 価 す る こ とに よって 、 その対 象 者 が環境 的 ・個 体 的差 異 にお いて平均 的 で あ るか に関わ らず 、 そ の人 の福 祉 を達
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成 す る 上 で の 実 質 的 な 条 件 の 平 等 を 問 う こ と を可 能 に した 。
つ ま りセ ン は 、 自 由 とい う観 点 か ら結 果 で は な くス タ ー トラ イ ン に 着 目 し て 、 そ の ス タ ー トラ イ ン に お け る 条 件 の 平 等 を 図 っ た点 で は ホ ブ ハ ウ ス ら と変 わ りが な い 。 しか しホ ブ ハ ウ ス が そ の 条 件 を平 均 的 な市 民 を 想 定 して 一律 的 に 提 供 し よ う と した の に対 して 、 セ ンは 「機 能 」 とい う評 価 領 域 を 設 定 し、 人 の 福 祉(wel1‑being)と い う評 価 目的 に関 わ る 「機 能 」 の 東 一 「潜 在 能 力 」 の平 等 を 評 価 す る こ と に よ っ て 、 条 件 を 一 律 的 で な く個 々 の環 境 的 ・個 体 的 差 異 も考 慮
して提 供 す る こ と を可 能 に した の で あ る 。
社 会 福 祉 は 、 個 々 人 の 環 境 的 ・個 体 的 差 異 を 大 切 に し、 個 別 の 生 活 問 題 を 援 助 す る 一 方 で 、 権 利 義 務 関 係 に象 徴 され る 匿 名 的 ・形 式 的 な 人 間 観 を前 提 とす る法 制 度 を援 助 手 段 の 一 つ と して 利 用 して き た 。 こ の 二 つ の 人 間 観 の 乖 離 を調 整 す る 一 つ の 方 法 が 「裁 量 」 で あ っ た 。 マ ー シ ャル は 、 「どの よ う な給 付 で あ れ サ ー ビス で あ れ 、 真 に特 定 の個 々 の ニ ー ドを満 足 させ る よ う企 画 され た もの は 、 大 抵 の 場 合 裁 量 とい う 要 素 を含 ん で い な け れ ば な ら な い の で あ る。 と言 う こ と は 、 個 々 の ケ ー ス に お け る ニ ー ドと 、 そ の 対 応 に最 も適 した 手 段 の査 定 は 、 個 別 的 な判 断 とい う行 為 を伴 うの で あ る 。」(Marshall,1965)と 述 べ て い る8)。
「裁 量 」 が 、 二 つ の 異 な る 人 間 観 をつ な ぐ一 つ の 方 法 で あ る の に 対 して 、 セ ンの 「潜 在 能 力 」 ア プ ロ ー チ は 、 個 別 的 な要 素 を考 慮 しな が ら他 者 との 比 較 可 能 な基 準 を 設 定 す る こ と を 可 能 にす る こ と に よ っ て 、 こ の 二 つ の 人 間観 を統 合 す る新 た な 人 間 観 を提 供 して い る。 こ の 点 で 「潜 在 能 力 」 ア プ ロ ー チ は 、 社 会 福 祉 が 前 提 とす る 人 間 観 と な り う る可 能 性 を 示 して い る と 考 え る 。
4.「 潜 在 能 力 ア プ ロ0チ 」 の 問 題 点
しか し、 セ ンの 「潜 在 能 力 ア プ ロ ー チ」 は 、 セ ン 自身 が 認 め る よ う に理 論 的 に詰 め 切 れ て い な い 点 もあ り、 い くつ か の 問 題 点 を抱 え て い る。
ま ず 、 「潜 在 能 力 」 の リス ト及 び項 目の 重 み 付 け は 、 誰 が ど う い う観 点 か ら 決 め る の か と い う問 題 が あ る 。
サ ム ナ ー(Sumner,1996)は 、 セ ンの 人 の 福 祉 の 「潜 在 能 力 」 に対 す る リス トに
「社会福 祉 の人 間観 と潜 在 能力 アプ ローチ」
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何 を入 れ て 何 を 入 れ な い の か 、 つ ま り自 らの福 祉 に対 す る価 値 に よ っ て 個 々 人 が 決 め る の か 、 社 会 的 な標 準 に よ っ て 決 ま る の か が 、 明 ら か に な っ て い な い と 論 じて い る 。 も し前 者 だ とす る と 、 セ ンが 主 観 的 で あ る と い っ て 退 け た 功 利 主 義 の 問 題 点 が 自 ら に返 っ て くる こ と に な る し、 も し後 者 な ら、 個 人 の価 値 が 反 映 され る 要 素(自 由 とい う要 素)が 少 な くな る ば か りか 、 「人 間 の 機 能 に対 す る客 観 的 で 規 範 的 な判 断 」 を セ ン は 示 さ な け れ ば な ら な い と指 摘 して い る9)。
しか しセ ン は 、 た と え ば ア リス トテ レス 学 派 の ヌ ス バ ウ ム の 「人 間 の 善 き生 に寄 与 す る た め の 客 観 的 で 規 範 的 な 機 能 の リス トを作 成 す る」 とい う提 案 に対 して 、 決 定 的 な 反対 は しな い もの の 、 人 間 の 本 質 的 な見 方 を特 定 しす ぎ る こ と に な る の で は と い う危 惧 を表 明 して い る(Sen,1993)。 確 か に 、 ヌ ス バ ウ ム の 主 張 す る 客 観 的 で 規 範 的 な リス トが 一 人 歩 きす る と、 「そ の 規 範 に そ ぐわ な い 価 値 を有 して い る 個 人 の 選 択 は 、 そ の 人 の 善 き生 を もた ら さな い の で 、 そ の 人 の 真 の 選 択 で は な い 、 よ っ て 真 の 規 範 に 照 ら して 本 人 以 外 の 者 が 本 人 の た め に 選 択 をす る」 と い う、 パ ター ナ リ ズ ム の 問 題 が 起 き る危 険 性 が 発 生 す る 。 セ ン は 功 利 主 義 を 批 判 す る理 由 の 一 つ に 、 パ タ ー ナ リ ズ ム の 問 題 性 を取 り上 げ て お
り、 簡 単 に は ヌ ス バ ウ ム の 主 張 に 同 意 す る訳 に は い か な い と 思 わ れ る 。
セ ン は 、 個 人 の 評 価 に よ る の か 、 社 会 的 標 準 に よ る 評 価 な の か とい う 問 題 に つ い て は 、 い ず れ の 評 価 が 優 れ て い る か は 、 評 価 の 内容 と 目的 に よ っ て異 な る と しな が ら も 、 も し社 会 的 標 準 が 広 く個 々 人 に 共 有 され て い る の な ら、 両 者 の 評 価 は そ れ ほ ど異 な る もの に は な ら な い で あ ろ う と述 べ て い る(Sen,1987)。 さ
ら に 、 な ぜ 特 定 の 規 範 に 従 っ て リ ス トを完 成 さ せ な い か と い う 問 題 に対 し て は 、 全 て の 人 の 同 意 を仮 定 した完 全 な価 値 の 序 列 を設 定 しな くて も、 個 々 人 の 評 価 序 列 の 一 致 す る 部 分 を取 り出 し、 そ の 部 分 序 列 の 範 囲 で 評 価 して も 「潜 在
能 力 」 ア プ ロ ー チ は 実 質 的 な 意 味 を 持 て る と論 じて い る(Sen,1985b;1993)。
仮 に こ う した セ ンの 主 張 に 同 意 した と して も、 共 通 す る部 分 序 列 の 形 成 に す べ て の 人 が 参 加 で き る の か とい う 問 題 が 残 る。 こ の 問 題 は 、 「潜 在 能 力 」 ア プ ロ ー チ の 重 要 な 構 成 要 素 で あ る 「自 由」 を行 使 し う る 資 格 とい う 問 題 と深 く関 わ っ て い る 。
コ ー エ ン(Cohen,1993)は 、 セ ンが 財 と効 用 の 中 間 領 域 に 着 目 した こ と は 正 し
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い が 、 そ れ を評 価 す る 際 に 自 由 と い う要 素 を付 け加 え た こ と に よ っ て概 念 上 の 混 乱 を もた ら して い る と主 張 して い る。 コ ー エ ン は 自 由 の 重 要 性 に疑 問 を投 げ か け る例 と して 、 赤 ん坊 は 自 らの 主 体 的 な選 択 で 食 べ た り、 飲 ん だ り、 着 た り す る わ け で は な い が 、 食 物 や 衣 類 とい う財 の 特 性 に よ っ て 利 益 を得 て い る 例 や 、 自 ら害 虫 駆 除 を 主 体 的 に行 わ な くて も、 殺 虫 剤 とい う財 が 直 接 的 に望 ま し い 状 態 を もた らす 例 を あ げ て い る 。 コ ー エ ン は こ れ らの 点 か ら、 「潜 在 能 力 」
に変 わ っ て 「ミ ッ ドフ ェ ア(midfare)」 とい う概 念 を提 案 して い る10)。
コー エ ンの 主 張 の 根 底 に は 、 セ ンが 主 体 の 自由 な選 択 と い う要 素 を過 大 視 し す ぎ る こ と に 対 す る 懐 疑 が あ る 。 も し真 の 自 由 な 選 択 とい う も の が な け れ ば (ま た は 、 も し くは そ れ を 過 大 視 しす ぎ る こ と に 問 題 が あ る の で あ れ ば)、 「福 祉 的 自 由」の 平 等 を 問 題 に す る よ り、「好 機 へ の ア ク セ ス(accesstoadvantage)」 の 平 等 を 問 うべ き だ と主 張 す る の で あ る。 つ ま り実 際 に そ の 好 機 へ の ア クセ ス が 主 体 の 自 由 な選 択 行 為 で あ る か は 別 と して 、 結 果 と して ア クセ ス で き る こ と を 問 題 に して い る 。
5.お わ り に
マ ー シ ャ ル は 「福 祉 サ ー ビス は 人 々 を幸 福 にす る こ と と して 乗 り出 す こ とは で き な い 。 そ れ は 借 越 な こ とで あ る か ら で あ る 。 しか し、客 観 的 に 測 定 し得 る 様 な 改 善 を生 み 出 す た め に状 況 を う ま くや り く りす る こ とは で き る し、 個 人 と 環 境 と が 影 響 を与 え 合 う部 分 に着 目 し、 両 者 を 考 慮 に 入 れ る こ と に よ っ て 、 状 況 に 対 す る個 人 の 対 応 を 変 化 させ る こ と もで き る」(Marshall,1966)と 述 べ て お り、 社 会 福 祉 は 、 あ る意 味 で セ ンの い う 「機 能 」 の 部 分 に着 目 し続 け て きた と 言 え よ う。
しか し福 祉 国 家 以 後 に 登 場 し た 平 均 的 な 人 間 観 を所 与 の も の と した た め 、
「裁 量 」 とい う権 利 義 務 関 係 で は 規 定 で き な い 特 殊 な 方 法 を使 い 、 集 合 的 サ ー ビ ス を個 別 具 体 的 な 問 題 の 解 決 に役 立 た せ て き た 。 こ の こ と は 、 単 に社 会 保 障 な どの 平 均 的 集 合 的 なサ ー ビ ス が 現 実 に あ る か ら、 そ れ を前 提 と して き た と い う意 味 以 上 に 、 自 由 ・平 等 とい う近 代 の 理 念 か ら見 た場 合 、 平 均 的 な 人 間 観 が
「社 会福 祉 の 人間観 と潜在 能力 アプ ローチ」
63
有 す る正 当 性 に 十 分 な 反 駁 が で き な か っ た とい う こ と を意 味 して い る の で は な い だ ろ う か 。 そ の 結 果 、 社 会 福 祉 は 、 「平 均 的 」 「例 外 的」 と い う二 分 化 され た 人 間 観 を 引 きず りなが ら、 そ の 対 象 を 国 民 全 般 に広 げ た た め 、 原 理 的 に 、 自 由 な 意 思 と結 果 に対 す る 自 己 責 任 を前 提 とす る 「契 約 型 」 の サ ー ビス と、 自 由 原 理 を 適 用 除 外 した 他 者 か ら の パ タ ー ナ リス テ ィ ック な介 入 とい う 「保 護i型」
の サ ー ビ ス に 分 裂 す る 危 険 性 を常 に 有 し続 け て き た の で あ る 。
こ れ に対 して セ ンの 「潜 在 能 力 」 ア プ ロ ー チ は 、 「平 均 的 」 「例 外 的 」 の 区 別 な く、 す べ て の 人 間 を対 象 と して 、 「機 能 」 そ して 「潜 在 能 力 」 に着 目す る こ とが 、 自 由 ・平 等 とい う近 代 の理 念 か らい っ て も、 正 当 で あ り公 正 で あ る こ と を強 く主 張 して い る 。 も し この 主 張 に 正 当 性 が 認 め られ る の な らば 、社 会 福 祉 に と ど ま らず 、 社 会 サ ー ビ ス全 般 に 共 通 す る 、 統 合 的 な 人 間 観 と な り うる 可 能 性 が あ る とい え よ う。
しか し、 セ ンの ア プ ロ ー チ を採 用 した と して も、 統 合 的 な 人 間 観 に発 展 させ る た め に は 、 「自 由 」 「選 択 」 をめ ぐる 困 難 な 問 題 が 残 っ て い る 。 特 に コ ー エ ンが 投 げ か け た 自 由 の 意 義 に対 す る疑 問 に対 して 、 自 由 の 有 資 格 性 の 問 題 を持 ち 出 して 答 え よ う とす る と、 逆 に 新 た な 二 分 法 を 生 み 出 す 危 険 性 を有 して い る の で あ る。
こ れ まで 自由 な選 択 を 問 題 とす る 際 に は 、 個 々 の 選 択 す る能 力 、 そ して そ の 結 果 を引 き受 け る 責 任 能 力 、 つ ま り 自 由 を行 使 す る資 格 が よ く問 題 と され て き た 。 こ う した 自 由 の有 資 格 性 をめ ぐる 議 論 は 、 個 人 の 能 力 の 問 題 に還 元 され 、 必 ず 資 格 を持 つ も の と持 た な い もの の 区 別 を生 み 出 す こ と と な る 。 実 際 、 セ ン 自 身 も、 主 体 と して の 自 由 と い う問 題 は 、 主 体 と して の 責 任 の 問 題 と関 係 して い る の で 、 意 思 能 力 が 十 分 に発 達 して い な い 児 童 や 、 そ の 能 力 に 障 害 を有 して い る 知 的 ・精 神 的 障 害 を有 す る 人 の 場 合 、 「福 祉 的 自 由 」 よ り も 「福 祉 的 達 成 」 が 重 要 に な る と述 べ て い る(Sen,1985a,1993)。
だ が 、 こ こで 改 め て 考 え な け れ ば な ら な い の は以 下 の 点 で あ る 。 第 一 に 、 セ ンが 自由 と い う要 素 を 重 視 した の は 、 個 々 人 の福 祉(well‑bcing)の 構 成 要 素 と し て 重 要 で あ る と考 え た か らで あ り、 そ の 重 要 性 は 、 選 択 す る 能 力 に制 限 の あ る 児 童 や 障 害 者 で あ っ て も変 わ りは な い と い う点 で あ る 。 そ して 第 二 に 、 仮 に選
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択 す る 能力 に制 限 が ない と して も、 そ の選択 行 為 や結 果 に対 す る責任 を完全 に 個 人 の単独 事 項 と見 なす こ とはで きないの で は ないか とい う点 で あ る。 た とえ ば、尊 厳 死 、堕胎 、臓 器提 供 とい った問題 につ い て、現 代 社 会 は個 人の単独 事 項 と して全 面 的 な 自 由 な選 択 を認 め て は い ない 。
それ で は、 人 に とって の 自由 の重 要性 と、単 独行 為 と して の 自由 に対 す る懐 疑 を、 両 立 させ る ため に は ど う した らよい の だ ろ うか。
も と もとセ ンが 主張 す る 「機 能」(よ り正確 に は 「洗 練 され た機 能」)と い う概 念 は、単 に提 示 され てい る選 択肢 か ら選 ん で実現 され た状 態 とい う意 味以 上 に 、選択 す る もの に とっ て の選 択肢 個 々 の実現 可 能性 を も問 う概念 で あ る。
だが 、 そ う した実 現 可 能性 は 、人 の有 す る多様 な選択 能 力 お よび それ に影響 す る財 の特性 に よ って も大 きな影 響 を受 け るので あ る。 この能 力差 は障害 者 と健 常 者 の 問 のみ な らず 、健 常 者 と呼 ば れ て い る 人 同士 の 問 に も存 在 す る ので あ る。 とす れ ば、 人 の 「機 能」 を評 価 す る場 合 は 、選択 能力 を固定 値 と規 定す る の で は な く、 選択 能力 の 可 変性 を認 め、 変数 に加 え る必 要 が あ ろ う。
この場 合 、選択 能 力 は、個 体 の特 性 と財 の特性 の相 互 作 用 に よ り決定 され る と考 え られ る。 そ して この能 力 を高 め るた め には、単 に教 育 な どの方法 で個体 の 一般 的 な選択 能力 を高 め る だ けで な く、多様 な財 の 開発(選 択 の過 程 に対 す
る援 助 サ ー ビス な ど)も 考 え る こ とが 必 要 に なる。
も し選択 を単 に個 々人 の単独 行 為 と見 る ので は な く、決 定 の過 程 に関 わ る他 者 の存 在性 を前 提 と した 、相 互 関係 性 の 中 の行 為 と して捉 え直す こ とが で きれ ば 、 その結 果 に対 す る帰責 性 の 問題 も、 それ に応 じて再 考 され な けれ ば な らな い だ ろ う。
こ う した検 討 を通 して 、セ ンの提 起 した 「潜 在 能力 」 ア プ ローチ を さらに深 化 させ 、児 童 ・障 害者 ・老 人 も含 め て 多様 な環 境 ・個 体 条件 にあ る個 を、同 一 の ア プ ローチ で理解 す るこ とがp7能 になれ ば、社 会福 祉 にお け る 自由 ・平等 ・ 公 正 とい った 問題 を検 討 す る際 に、有 力 な視 点一 人 間観 に な りうる と考 え る。
追記
筆者が、障害者施設 にいた頃か ら抱 き続けてきた問題意識 を、社会福祉 の原理論の問 題にまで導 き、ご教示 くださった小林先生 ・岩田先生に、深 く感謝いた します。
「社会福 祉の 人 間観 と潜在 能 力 アプ ローチ」
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注
1)ニ ー ド概 念 の 検 討 に お い て 、 タ ウ ン ゼ ン トの 相 対 的 剥 奪 と セ ン の 潜 在 能 力 ア プ ロ ー チ を 比 較 検 討 し た も の と し て は 、 山 森(1997)を 参 照 。
2)潜 在 能 力 ア プ ロ ー チ を利 用 した こ れ ら の 文 献 は 、Sen(1993)を 参 照 。 ま た 障 害 を構 造 的 に と ら え た 場 合 、 そ の ハ ン デ ィキ ャ ッ プ を と ら え る 視 点 に 「潜 在 能 力 」 ア プ ロ ー チ の 応 用 を検 討 した も の と して は 、 拙 稿(1997b)を 参 照 。
3)Capabilityの 訳 は 、 他 の 訳(Sen,1980;1985bの 邦 訳)に 従 い 「 潜 在 能 力 」 と し た が 、 潜 在 能 力 と い う 用 語 は 、 日常 的 に は 個 体 や 財 の 個 々 の 能 力 を 意 味 し 、 セ ン が 定 義 す る そ れ ら の 相 互 作 用 に よ っ て も た ら さ れ る と い う ニ ュ ア ン ス は 伝 わ り に く い 。 他 の 訳 と し て は 、 単 に 「 能 力 」 と訳 し た も の(UNDP,1997の 邦 訳)や 、 「生 き 方 の 幅 」 と い う 訳 の 紹 介 が な さ れ て い る(山 森,1997)。 ま た 原 語 のCapabilityと い う用 語 自 体 も 、 セ ン 自 身 が 適 切 な イ メ ー ジ を 与 え て い な い と考 え て お り 、 他 に 適 切 な 用 語 が 見 つ か れ ば 変 更 す る こ と を い と わ な い と 述 べ て い る(Sen.1993)。
4)デ ザ イ は 、貧 困 測 定 す る た め の5つ の 具 体 的 な 潜… 在 能 力 を 提 案 し て い る(Desai,1995)。
ま たUNDP(国 連 開 発 計 画)は 、 貧 困 や 人 間 開 発 の 捉 え 方 に お い て セ ン の 「潜 在 能 力 」 ア プ ロ ー チ の 影 響 を受 け て い る 。UNDPは 人 間 開 発 指 標(HDI)を 開 発 し 、 こ の 指 標 に 基 づ い た 各 国 の 測 定 結 果 を 年 次 報 告 に 掲 載 し て い る(UNDP,1997)。 た だ し こ の 人 間 開 発 指 標 が セ ン の 潜 在 能 力 ア プ ロ ー チ を 生 か し切 れ て い な い と い う絵 所 の 批 判 が あ る(絵 所,1996)。
5)た だ し、 こ の 人 の 「 福 祉 的 自 由 」は 、 い わ ゆ る 「機 会 の 平 等 」と は 異 な る 。 両 者 は 、 機 会 と い う 自 由 を 有 し て い る 点 で は 、 共 通 で あ る が 、 潜 在 能 力 ア プ ロ ー チ の 場 合 は 、 環 境 と 個 体 の 相 互 関 係 に お い て 、 そ の 機 会 を 実 質 的 に 利 用 で き る 可 能 性 が あ る の か 、 そ れ を 利 用 し た 場 合 に どの 程 度 の 「機 能 」 が 実 現 で き る の か と い う こ と ま で 考 慮 し て お り、 こ の 点 に 大 き な 違 い が あ る 。
6)特 に 障 害 者 が 、 実 質 的 に 市 民 権 の 対 象 か ら排 除 さ れ て き た 点 に つ い て は 、Oliver(1996)、
0'Sheaら(1996)を 参 照 。
7)社 会 福 祉 と 自 由 原 理 と の 関 係 性 に つ い て は 、 拙 稿(1996;1997a)を 参 照 。
8)「 裁 量 」 が 官 僚 制 と 結 び つ く と 、 異 議 申 し立 て の 権 利 が あ い ま い な ま ま 、 機 械 的 に
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判 断 さ れ て し ま う 危 険 性 を 有 し て い る 。 こ れ ら の 危 険 性 に つ い て は 、 マ ー シ ャ ル の
「 福 祉 に 対 す る 権 利 」 追 論(Marshall1981)を 参 照 。 仮 に 「潜 在 能 力 ア プ ロ ー チ 」 を 採 用 し て も 、 す べ て の 判 断 か ら 「裁 量 」 的 要 素 を 排 除 す る こ と は 困 難 で あ る 。 た と え ば 分 配 で き る 財 の 総 量 が 、 全 員 の 基 本 的 潜 在 能 力 を 満 た す こ とが で き な い 場 合 や 、 人 の 福 祉(wen‑being)以 外 の 目 的(セ ン は こ う し た 側 面 をwell‑beingaspectと 区 別 し てagencyaspectと 呼 び 、 自 ら の 高 給 を な げ う ちwell‑beingaspectを 低 下 さ せ て も 、 献 身 的 に 途 上 国 で 働 く こ と に よ っ てagency‑aspectを 向 上 さ せ る 例 を あ げ て い る)(Sen, 1985a;1992;1993)の 実 現 に 対 し て 、 社 会 福 祉 サ ー ビ ス が ど こ ま で 関 わ る の か 問 わ れ る 場 合 が あ り 得 る か ら で あ る 。
9)佐 藤(1997)は 、 セ ン の 潜 在 能 力 ア プ ロ ー チ を 、 開 発 援 助 に お け る 生 活 水 準 の 指 標 とす る こ と を 検 討 し 、 そ の 問 題 と し て 、 潜 在 能 力 を 集 計 に 関 わ る 問 題 と 、 こ の 誰 が リ ス
トを 選 ぶ の か と い う 問 題 を 提 起 し て い る 。
10)コ ー エ ン の 説 明 に よ れ ば 、 財 が 人 に と っ て 多 様 な も の で あ る 様 に 、 「ミ ッ ド フ ェ ア 」 自体 も 複 合 的 な 概 念 で あ る と し て い る 。 ① 潜 在 能 力 を 与 え る 、 ② 潜 在 能 力 の 実 行 を 通 し て 財 が 価 値 の あ る 活 動 の 実 施 や 望 ま し い 状 態 の 達 成 に 貢 献 す る 、 ③ 恩 恵 を 受 け る 人 の 潜 在 能 力 の 実 行 な し に 、 財 が 直 接 的 に 望 ま しい 状 態 を 引 き起 こ す 。 こ れ ら の 複 合 を ミ ッ ド フ ェ ア と と ら え る 時 、 潜 在 能 力 は ミ ッ ド フ ェ ア の 一 部 と な る 、 と 述 べ て い る 。
文 献
Cohen,G.A.{1993)EqualityofWhat?OnWelfare,Goods,andCapability,inNussbaum,M.C.&
Sen,A.K.(eds.).TheQualityofLife,Oxford:ClarendonPress
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