わかりやすい
ウイルス性肝炎のおはなし
宮崎大学医学部附属病院
肝疾患センター
1. ウイルス性肝炎とは
ウイルス性肝炎とは、肝炎ウイルスに感染して、肝臓の細胞が 壊れていく病気です。ウイルスの中で特に肝臓に感染して肝臓の 病気を起こすウイルスを肝炎ウイルスとよび、主な肝炎ウイルス にはA型、B型、C型、D型、E型の5種類があります。これら のウイルスに感染すると肝細胞が破壊されていきますが、病気の 持続する期間で、急性肝炎と慢性肝炎に分けられます。急性肝炎 はA型、B型、E型が多く、通常は2,3ヶ月で回復します。慢 性肝炎はB型、C型の肝炎ウイルスが感染し、長期間にわたり肝 障害が持続するもので、肝硬変に進んだり、肝がんができること があります。
これらのウイルス、特にB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス による慢性の肝障害が現在の肝臓病の中で大きな割合を占めて います。
2. 宮崎県には約 2 万人のウイル ス性肝炎の患者さんがいます
現在、日本には C 型肝炎ウイルスに感染している方が 150~
200万人、B型肝炎ウイルスに感染している方が100~150万人 いるといわれています。全国で肝炎・肝がん対策の一環として、
肝炎ウイルス検診が5カ年計画で実施されましたが、その結果で は HCVキャリア、HBV キャリアともに 1.16%の割合で発見さ れています。我が国における肝炎ウイルスの感染は東日本より西 日本で多く、感染率は高齢者ほど高く、若年者ほど低いという傾 向はありますが、これらの結果から人口110万人の宮崎県ではB 型、C型あわせて約2万人の感染者がいるのではないかと考えら れます。しかしながら自分が感染している事実に気づいていない 方々が多くいらっしゃいます。肝臓は沈黙の臓器と言われ、肝炎 を起こしても特徴的な症状が出ることはなく、自覚症状では診断 できません。ウイルス性肝炎は症状が出ないまま病気が少しずつ 進行し、症状を自覚した時には肝硬変や肝がんなど重症になって いることもあります。早期の段階で発見し治療を開始できれば、
ウイルスの排除や、病気の進行を抑える治療が可能です。
3. ウ イ ル ス 性 肝 炎 の 検 査 は 、 HCV 抗体、HBs 抗原の検査か らはじまります
肝臓は沈黙の臓器と言われ、肝炎を起こしても特徴的な症状が 出ることはなく、自覚症状では診断できません。肝炎ウイルスに 感染しているかどうかは血液検査で行います。C型肝炎では感染 後約2ヵ月目よりHCV抗体が陽性となります。約3割の方は一 過性感染でありウイルスが自然消失しますが、7割の方は持続感 染します。ウイルスが消失した場合でもHCV抗体は陽性のまま ですので、現在 HCV ウイルスに感染しているかの確認には HCV-RNA を検査する必要があります。HCV 抗体陰性の場合、
感染の既往はありません。HCV 抗体陽性、HCV-RNA 陰性の場 合は過去の感染、HCV 抗体陽性、HCV-RNA 陽性の場合は現在 の感染と考えられます。
B型肝炎の場合、HBs抗原を用いて感染の有無を判断します。
HBs 抗原が陽性であれば B 型肝炎ウイルスに感染している状態 であり、慢性肝炎もしくはキャリアーと診断できます。肝炎ウイ ルスの感染が強く疑われる場合は、さらにトランスアミナーゼ値、
HBe 抗原、HBe 抗体、HBV-DNA、血小板などを測定し、肝炎 の有無、炎症の程度、ウイルスの活動性などを検査します。
いずれにしろウイルス肝炎の検査は、HCV抗体、HBs抗原の 測定から始まります。
4. インターフェロン治療で C 型肝 炎の 70%の患者さんが治癒し ます
C 型慢性肝炎の主な治療法は、C 型肝炎ウイルスを体の中から 排除して治癒を目指す原因療法と、肝機能を改善して肝炎の悪化 を防ぐ対症療法(肝庇護療法)の2つです。原因療法の主役は、
インターフェロンです。いくつかの種類がありますが、いずれも 注射剤です。最近では週 1 回の注射で優れた効果を示すペグイン ターフェロンという新しい製剤が登場しています。抗ウイルス剤 であるリバビリンは単独で使用しても効果がありませんが、イン ターフェロンとの併用でウイルス排除効果を飛躍的に高めます。
以前インターフェロン単独療法を行ってウイルスが消失しなか った方でも、この2剤を併用するとウイルスが消失する可能性が あります。治療抵抗性の場合、特殊フィルターを用いたウイルス 除去療法の併用や、高脂血症治療薬であるスタチンの併用も行わ れます。
5.2008 年 4 月から、ウイルス肝炎 治療の公的助成制度が始まって います
2008年4月からは公的医療費助成制度が始まり、インター フェロン治療を受ける際にはこの制度を利用することができま す。2010年4月からは内容が改正され、B 型肝炎の核酸アナ ログ治療も対象となり、助成額も変更になりました。さらに患者 さんの経済的負担を軽減でき、治療をより受けやすくなっていま す。ました。
対象:B 型・C 型ウイルス肝炎のインターフェロン治療、または B 型ウ イルス肝炎の核酸アナログ製剤治療を予定している方、または治療 されている方
階層区分 世帯あたり市町村民税(所得割)
課税年額
自己負担上限額
(月額)
A 市町村民税非課税の方 なし B 235,000円未満 10,000円 C 235,000円以上 20,000円
6.B 型肝炎に感染している方へ
B 型肝炎は、ウイルスに感染しても一過性で治る急性肝炎と肝 炎が持続する慢性肝炎とに分けられます。急性肝炎の場合は重症 でない限りは自然に良くなっていきます。
慢性肝炎のほとんどは 3 歳以下の時期の感染によるもので、一度 感染してしまうとキャリアになります。すぐには発病しませんが、
成人になるころからウイルスの活動性が高くなり、慢性肝炎を発 病します。肝炎を発病しない無症候性キャリアとして一生を過ご す方もいますが、肝炎が持続して肝硬変に進行し、肝機能が悪化 したり、肝がんを発病します。
慢性肝炎の場合は、ウイルスを体から排除するのは困難であり、
治療の目的は「ウイルスの増殖を低下させ、肝炎を沈静化させるこ と」となります。治療法には、インターフェロンや抗ウイルス剤
(核酸アナログ製剤)を使用しますが、ウイルスの活動性や患者 さんの年齢により治療法は大きく異なりますので、実際の治療に 関しては肝臓専門医に御相談ください。
7.宮崎県では毎年500人の方が 肝硬変・肝がんで亡くなっています
わが国では、年間約 4 万人の患者さんが肝臓病で亡くなってい ます。このうち約 3 万 5 千人は肝がんで死亡されており、肺がん、
胃がん、大腸がんについで、わが国における悪性腫瘍死因の第 4 位となっています。
1975 年以降肝がんによる死亡は増加の一途をたどり、2002 年 になりようやく頭打ちの状態となりましたが、低下傾向にはあり ません。男女別でみると、男性が女性の約 2 倍となっています。
男性では 70 歳代前半、女性では 70 歳代での死亡が最も多くみら れます。
肝がんに対する根治的治療がなく再発しやすいこと、肝硬変を 合併していることが多く治療法が制限されること、前がん病変で あるウイルス性肝炎の患者さんが多いことなどの理由により、肝 がんの長期生存者は少なくなっています。
宮崎県の肝疾患死亡者数は約 500 人、そのうち肝がんによる死 亡は約 330 人です。
8.肝がんの原因の80%は ウイルス性肝炎です
肝がんの約 8 割は、ウイルス性肝炎が原因となって発症します。
C 型肝炎が 6 割、B 型肝炎が 2 割の割合です。
B 型肝炎による肝がんの発生数は、ここ 30 年ほとんど変化して いませんが、C 型肝炎をベースにした発がんは増加傾向にありま す。C 型慢性肝炎の患者さんが肝がんを発症する割合は、初期の 方では 1 年間で 0.5%程度ですが、進行とともに高率になり、中 期で 3%、後期で 5%となり、肝硬変では 7%にも達します。つま りウイルス性肝炎は前がん病変です。
肝がんを早期発見し、肝がんによる死亡を減少させるためには、
ウイルス性肝炎の患者さんを高危険群として適切にフォローす ることが重要となってきます。
9. ウイルス性肝炎の検査はお近 くの保健所で受けることができま す
肝炎ウイルスの検査はお近くの保健所で、無料で受けることが できます。宮崎県内の保健所での検査は下記の通りです。電話で の予約が必要ですので一度お電話でご確認ください。
保健所においての肝炎ウイルス検査
保健所名 検査日 時間 電話番号
中央保健所 第1、3木曜日 13:30~16:00 0985-27-7800 日南保健所 第2、4火曜日 10:00~12:00 0987-31-0888 都城保健所 第1~4火曜日 14:00~15:30
0986-26-7830 第2火曜日 17:00~18:30
小林保健所 第1、3火曜日 10:00~12:00 0984-23-3118 高鍋保健所 第1、3木曜日 9:30~11:30 0983-22-1330 日向保健所 第1、3木曜日 13:30~14:30 0982-52-5101 延岡保健所 毎週水曜日 9:00~12:00
0982-22-9981 第2水曜日 17:30~19:30
高千穂保健所 第2、4火曜日 10:00~11:00 0982-72-2168
宮崎保健所
第1、3、5月曜日 13:30~16:00
0985-23-7333 第2、4月曜日 13:30~16:30
第1月曜日 18:00~19:30
10.感染がわかったら
肝炎ウイルスに感染していることがわかったら、是非一度肝臓 専門医を受診してください。治療法や今後の受診方法、日常生活 の注意点などご相談ください。ほとんどの方はかかりつけの医療 機関で定期検査を受けながら、時期をみて専門医を受診して、診 療内容について相談していただいています。
慢性肝炎では症状がほとんどでないため自己判断では病気の状 態を判断することは困難です。定期的な血液検査、画像検査(腹 部超音波もしくは造影 CT)が推奨されていますので、どれくらい の間隔、タイミングで検査を受ければいいのか、一度肝臓専門医 に御相談ください。
11.肝疾患センター電話相談、宮 崎県肝疾患診療連携ネットワーク をご利用ください
肝炎ウイルスに感染していることがわかったけれども、どの医 療機関を受診してよいかわからないという方には、宮崎大学医学 部附属病院肝疾患センターの電話相談をご利用ください。肝臓専 門医が対応します。相談は無料です。
また、宮崎県では肝臓病の診療を円滑に行うために診療連携ネ ットワークを作成しています。県内各地区に肝臓病に治療を行う、
肝疾患専門医療機関、協力医療機関を指定しています。病院の一 覧は県のホームページで閲覧することができます。
宮崎大学医学部附属病院 肝疾患センター 電話相談窓口 TEL 0985-85-9763
対応時間: 平日午前 9 時~午後 4 時
宮崎県肝疾患診療ネットワークのホームページ
http://www.pref.miyazaki.lg.jp/contents/org/fukushi/kenko/kansika n_network/page00121.html
(県庁 HP トップページで“肝疾患”で検索してください)
本書および肝疾患診療に関するお問い合わせ
宮崎大学医学部附属病院 肝疾患センター TEL 0985-85-9763
http://www.med.miyazaki-u.ac.jp/hospital/about/kansikkan/index.html 宮崎大学 医学部 内科学講座消化器血液学分野
TEL 0985-85-9121, FAX 0985-85-5194
http://www.med.miyazaki-u.ac.jp/2nai/miyazaki/index.html
2011 年 3 月 30 日 第四版 発行