博士論文
環状過酸化物の抗マラリア作用機序の解析
平成 25 年 3 月 森田 将之
岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科
博士後期課程創薬生命科学専攻
1
目次
要約
5
略語表
7
1
章 序論9
1.1.
マラリアとは10
1.2.
マラリア原虫の種類10
1.3.
赤血球内でのマラリア原虫のライフサイクル10
1.4.
抗マラリア薬11
1.5.
抗マラリア作用機序13
1.6.
環状過酸化物13
1.6.1. Artemisinin 13
1.6.2. N-89
及びN-251 14
1.7. N-89
誘導体と親和性を有するマラリア原虫タンパク質15
1.8.
本研究の目的及び意義16
2
章 方法17
2.1.
材料18
2.2.
細胞株18
2.3.
熱帯熱マラリア原虫の in vitro培養18
2.3.1. RPMI1640 (-)
培地の調製18
2.3.2.
ヒト赤血球と血清18
2.3.3.
熱帯熱マラリア原虫の継代培養18
2.4.
熱帯熱マラリア原虫の薬剤感受性試験19
2
2.5.
熱帯熱マラリア原虫の同調培養法19
2.6. N-89
及びN-251
の熱帯熱マラリア原虫に対するステージ特異的阻害の解析20
2.7.
プロテオーム解析21
2.7.1.
熱帯熱マラリア原虫タンパク質lysate
の調製21
2.7.2.
タンパク質定量22
2.7.3.
二次元電気泳動22
2.7.4.
イメージの検出と解析23
2.7.5
タンパク質スポットの切り出し24
2.7.6.
タンパク質のゲル内消化24
2.7.7.
タンパク質の同定24
2.8. Western blotting 25
2.8.1. SDS-PAGE 25
2.8.2 Semi-dry blotting 25
2.8.3.
ブロッキング及び抗体反応25
2.8.4. Chemiluminescent detection (化学発光による検出) 26
2.8.5.
ストリッピング26
2.9. PfERC
と相互作用するマラリア原虫タンパク質の探索26
2.9.1
マラリア原虫タンパク質Lysate
の調製26
2.9.2.
免疫沈降27
2.9.3. MBP (Maltose binding protein)-ΔPfERC 27
2.9.4. Pull down assay 28
2.10.
表面プラズモン共鳴法(Surface Plasmon Resonance; SPR) 28
2.11.
電子スピン共鳴法(Electron Spin Resonance; ESR)
を用いたラジカルの検出29
3
2.12. PfERC
を過剰発現する遺伝子組換え原虫の作製29
2.13.
長崎大学熱帯医学研究所原虫学分野研究室でのマラリア原虫培養29
2.14.
長 崎 大 学 熱 帯 医 学 研 究 所 原 虫 学 分 野 研 究 室 で の マ ラ リ ア 原 虫 タ ン パ ク 質Lysate
の 調 製30
2.15. Real-time PCR 30
2.15.1.
プライマー30
2.15.2. RNase-free
処理31
2.15.3. Total RNA
抽出31
2.15.4. RNA
の定量32
2.15.5. First-Strand cDNA
合成32
2.15.6. Real-time PCR 32
2.16.
免疫蛍光染色による局在観察34
2.16.1. PEI-coated cover glass
の作製35
2.16.2.
免疫蛍光染色法35
2.17.
遺伝子組換え原虫の薬剤感受性試験36
3
章 結果37
3.1. N-89
及びN-251
の熱帯熱マラリア原虫に対するステージ特異的阻害の解析38
3.2. N-89
又はN-251
作用時のプロテオーム解析40
3.2.1. N-89
作用時に変動するタンパク質41
3.2.2 N-251
作用時に変動するタンパク質57
3.2.3.
標的候補タンパク質の選抜76
3.3. PfERC
と相互作用するマラリア原虫タンパク質の探索78
3.3.1.
免疫沈降法による PfERCと相互作用するタンパク質の探索78
4
3.3.2. Pull down assay
による PfERCと相互作用するタンパク質の探索79
3.4.
表面プラズモン共鳴を用いたΔPfERCとN-89
、N-251
との親和性測定80
3.5.
電子スピン共鳴法を用いたN-89
及びN-251
のラジカル産生の解析81
3.6. PfERC
過剰発現原虫の作製と薬効評価83
3.6.1. PfERC
のmRNA
発現量の解析83
3.6.2. PfERC
のタンパク質レベルの解析83
3.6.3.
免疫蛍光染色法を用いた PfERCと PfERC-3Tyの局在観察84
3.6.4.
薬効評価87
4
章 考察88
引用文献
98
謝辞
102
5
要約
マラリアは
2010
年における年間感染者数が2
億1600
万人、死亡者数は65
万5000
人の世界最大の 寄生原虫感染症である。従来治療に用いられてきたChloroquine、Mefloquine
に対する耐性原虫に加 え 、 現 在 、WHO
が 推 奨 す るACTs (Artemisinin
を 基 本 と し た 多 剤 併 用 療 法: Artemisinin-based combination therapies)
に耐性を示すArtemisinin
耐性マラリア原虫がタイ・カンボジア国境付近で出現 したことが報告されており、マラリア制圧において深刻な問題となっている。また、昨今、イギリス の製薬会社をはじめとしてマラリアワクチンの開発が行われているが、未だ実用に耐えうるワクチン の開発は達成されておらず、したがって、新たな抗マラリア薬の開発は国際的な緊急課題である。こ れまでに抗マラリア薬の開発研究から、環状過酸化物N-89
及びN-251
が優れた抗マラリア活性を有 することが見出されている。これらの化合物は不斉炭素を持たない簡単な構造であり、安価に大量合 成できる利点を有している。N-89
及びN-251
の臨床応用へ向けた安全性研究、製剤研究、及び抗マ ラリア作用機序の解析研究が行われている。現在、臨床で使用されている抗マラリア薬には作用機序 が明らかなものは非常に少ないが、併用薬の選択、副作用の回避、薬剤耐性化の克服のためには作用 機序を明確にすることが重要である。そのため、本研究はN-89
及びN-251
の抗マラリア作用機序を 明らかにすることを目的として行った。熱帯熱マラリア原虫は赤血球内で様々に形態を変えるライフサイクルを有し、各ステージで 種々の遺伝子及びタンパク質の発現量が変動していることが知られている。そこで、環状過酸
化物
N-89
及びN-251
の作用機序解析のため、マラリア原虫生育ステージ特異的な阻害効果の検討を行った。その結果、
N-89
及びN-251
はTrophozoite
期の原虫に特異的な増殖阻害作用を 有することが分かった。N-89
及びN-251
と同様の環状過酸化物であるArtemisinin
系薬剤では 全 て の ス テ ー ジ の マ ラ リ ア 原 虫 に 増 殖 阻 害 作 用 を 示 す こ と が 報 告 さ れ て い る こ と か ら 、N-89
及び
N-251
はArtemisinin
系薬剤とは作用機序が異なることが示唆された。N-89
及 びN-251
はTrophozoite
期 の マ ラ リ ア 原 虫 の 増 殖 を 特 異 的 に 阻 害 す る こ と か ら 、Trophozoite
期に発現しているマラリア原虫タンパク質の機能を阻害していることが考えられた。
N-89
又はN-251
をTrophozoite
期のマラリア原虫に作用させた時にどのようなタンパク質が変動するかをプロテオーム解析によって網羅的に解析した。その結果、約
70
種類のマラリ ア原虫タンパク質が薬剤作用によって増減した。これまでにN-89
誘導体と親和性を有するマ ラリア原虫タンパク質が同定されている。その中でも、本プロテオーム解析でN-89
作用時及び
N-251
作用時両方の場合に共通して変動していたマラリア原虫タンパク質 PfERCをN-89
及び
N-251
の標的候補タンパク質として選抜した。PfERCはN-89
又はN-251
の作用によって減少し、
N-89
誘導体と親和性を有するため、N-89
及びN-251
と PfERC の結合がPfERCの減少に 関与している可能性が考えられた。PfERCの機能解析のため、PfERCと相互作用するマラリア原虫タンパク質の探索を行ったが、
相互作用するタンパク質は本研究では見出せなかった。このことから、Pf
ERC
は他のタンパク6
質と非常に弱い相互作用をしている可能性が考えられた。表面プラズモン共鳴法を用いた解析
より、
N-89
及びN-251
は弱いながらも PfERCと特異的な親和性を有することが示された。N-89
及び
N-251
は鉄の存在下で自身の環状過酸化構造よりラジカルを産生することから、産生されたラジカルが直接 PfERC と反応し、PfERC を減少させて抗マラリア作用を示す可能性が考え られた。そのため、原虫内で PfERC を過剰発現させることによって薬剤の作用にどのような 影響が出るかを検討した。PfERC を
2
倍多く発現する遺伝子組換え原虫を作製し、N-89
の感 受性を測定した結果、その感受性は1/2
に低下した。この結果は、PfERCが標的タンパク質で ある可能性を支持するものである。本研究により、抗マラリア薬候補として有望な化合物
N-89、N-251
の標的候補タンパク質 PfERC が見出され、そのタンパク質が薬剤の感受性に寄与していることが明らかにされた。PfERC 過剰発 現原虫作製においては、PfERCを10
倍以上過剰発現させることを期待して研究を行ったが、実際の 発現量は約2
倍が限度であった。これは、PfERC が多過ぎるとマラリア原虫の生育に悪影響を与え るために、発現抑制が起こった可能性があると考えられる。PfERCはその構造内にEF hand motif (Ca
2+結合モチーフ) を有する
CREC (Cab45、Reticulocalbin、ERC-55、Calumenin)
タンパク質ファミリー に属している。PfERCの機能はまだ明らかになっていないが、CREC
タンパク質ファミリーのタンパ ク質は小胞体内でのCa
2+制御への関与、細胞の生存に必須であることが複数の研究グループから報 告されている。PfERC も他のCREC
タンパク質ファミリーと同様の機能を有している、すなわち、PfERCは原虫の生存に必須でありなおかつ
Ca
2+制御へも関与していることが考えられる。そのため、N-89
又はN-251
を作用させるとPfERCが減少し、原虫小胞体内でCa
2+制御異常が起こり、原虫が死に至る可能性が考えられる。
N-89
とN-251
は環状過酸化抗マラリア薬であるArtemisinin
系薬剤と異なり、熱帯熱マラリア原虫の
Trophozoite
期に特異的に作用する。また、N-89
とN-251
の標的候補タンパク質であるPfERC は
Artemisinin
とは親和性を示さなかった。このことはN-89
及びN-251
はArtemisinin
系薬剤とは抗マラリア作用機序が異なることを示している。近年、Artemisinin系薬剤に対する 耐性原虫が出現し問題となっているが、N-89 及びN-251
はArtemisinin
耐性原虫に対しても有 効であり、マラリア制圧に貢献できる有望な抗マラリア薬であると考える。本研究によって新規抗マラリア薬として有望な環状過酸化物
N-89
及びN-251
の作用機序の 一端が提示でき、臨床における併用薬の選択、副作用の回避、耐性の克服に大きく寄与できる と考えられる。7
略語表
論文中で以下の略語を用いた
ACTs Artemisinin-based combination therapies
ATP adenosine triphosphate
BPB bromo phenol blue
bp base pair
BSD Blasticidin S
cDNA complementary DNA
CHAPS 3-[(3-Cholamidopropyl)dimethylammonio]propanesulfonate
CM Complete medium
DAPI 4',6-diamidino-2-phenylindole
DBNBS 3,5-dibromonitrosobenzenesulfonate sodium salt
DEPC diethyl pyrocarbonate
DFO deferoxamine
DMSO dimethylsulfoxide
DNA deoxyribonucleic acid
DNase deoxyribonuclease
dNTP Deoxynucleotide triphosphate
DTT Dithiothreitol
EC
50Effective concentration of 50% inhibition
EDTA ethylenediaminetetraacetic acid
ER Endoplasmic reticulum
ESR electron spin resonance
HEPES HC
2-hydroxyethylpiperazine-N’-2- ethanesulfonic Acid hematocrit
HPLC high performance liquid chromatography
HRP Horseradish peroxidase
HSP Heat shock protein
IEF isoelectric focusing
i.p.
intraperitoneal
IPG immobilized pH gradient
i.v.
intravenous
kDa kilodalton
LC Liquid Chromatography
MALDI Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization
MBP Maltose binding protein
MS Mass Spectrometry
mAb Monoclonal antibody
8
mRNA messenger RNA
PAGE polyacrylamide gel electrophoresis
PBS phosphate-buffered saline
PCR Polymerase chain reaction
PEI polyethyleneimine
pI Isoelectric point
PIPES Piperazine-1,4-bis(2-ethanesulfonic acid)
P. f. Plasmodium falciparum
PMF Peptide mass fingerprinting
p.o.
per os
RBC red blood cell
RNA ribonucleic acid
RNase Ribonuclease
RT-PCR reverse transcriptase-PCR
siRNA small interfering RNA
s.c.
subcutaneous injection
SDS sodium dodecyl sulfate
SPR surface plasmon resonance
TBS Tris buffered saline
TEMPO 2,2,6,6-tetramethylpiperidine-1-oxy
TOF Time of flight
Tris tris (hydroxymethyl) aminomethane
UV Ultraviolet
WHO World Health Organization
9
1章 序論
10 1.1.
マラリアとはマラリアは、Plasmodium 属の原虫がハマダラカ
(Genus Anopheles)
の吸血によりヒトに感染 することで引き起こされる寄生原虫感染症であり、熱帯地域全体のみならず、亜熱帯、温帯の 多くの地域まで広く蔓延している。マラリアの典型的な症状は6~8
時間続く40°C
を超える激 しい発熱であり、重度になると錯乱、痙攣、昏睡にまで発展し死亡の危険もある。世界保健機 構(World Health Organization; WHO)
の報告では、世界107
カ国で30
億人以上がその脅威に曝 されており、2010
年のマラリア感染は2
億1600
万件にのぼり、死亡者数は65
万5000
人(
う ち約86%
が5
歳未満の子供)
といわれている 1)。世界でのマラリアの分布をFigure 1
2)に示す。WHO: Programmes and projects, international travel and health, Chapter 7 Malaria.
Figure 1.
マラリア伝搬地域1.2.
マラリア原虫の種類ヒトに寄生するマラリア原虫は、熱帯熱マラリア原虫 (Plasmodium falciparum)、三日熱マラ リア原虫
(P. vivax )
、四日熱マラリア原虫(P. malariae)
、卵形マラリア原虫(P. ovale)
である。さらに
2004
年にはこれまでサルに寄生するマラリア原虫であったP. knowlesiがヒトにも寄生 することが報告されている 3)。これらの中でも熱帯熱マラリア原虫は感染すると重篤になりや すく、最も致死率の高いマラリア原虫である。1.3.
赤血球内でのマラリア原虫のライフサイクル赤血球内でのマラリア原虫のライフサイクルを
Figure 2
に示す。マラリア原虫はヒトの体内 で赤血球へ侵入後、MerozoiteからRing、栄養体とも呼ばれる Trophozoite、核と細胞質が分裂
した
Schizont
へと成熟し、赤血球を破壊し、放出されたMerozoite
が新しい赤血球に侵入する。11
マラリア原虫は
Trophozoite
期においても形態、遺伝子及びタンパク質の発現が大きく変化 する。しかし、その変化を区別する客観的な指標はないため、当研究室ではマラリア原虫の細 胞 質 の 大 き さ 、 原 虫 内 に 占 め る ヘ モ ゾ イ ン*量 の 割 合 か ら 主 観 的 にTrophozoite
期 をEarly、
Middle、 Late trophozoite
期の3
種類に分類している。*ヘモゾインはマラリア原虫内で遊離したヘムが重合化されたものである。マラリア原虫は栄 養源として赤血球内のヘモグロビンを取り込み、分解してアミノ酸を得る際に遊離する鉄を含 んだ有害なヘムを無毒化するためにヘムを重合化したヘモゾインを生成する。
Figure 2.
赤血球内でのマラリア原虫のライフサイクル1.4.
抗マラリア薬既存の抗マラリア薬には
quinoline
骨格を基本としたChloroquine
やMefloquine
などがあるが これら抗マラリア薬に対する薬剤耐性マラリア原虫が世界に拡散する傾向にある。既存の抗マ ラリア薬の構造式をFigure 3
に示す。12
Quinine Chloroquine Mefloquine Primaquine
Lumefantrine Pyrimethamine
Figure 3.
既存の抗マラリア薬の構造式Figure 3
に示す抗マラリア薬とは異なり、分子内にperoxide
構造というユニークな構造を有する
Artemisinin
という化合物が中国古来の生薬青蒿 (Artemisia) から単離され、優れた抗マラリア作用を有することが分かっている。体内動態の改善を目指して
Artemisinin
の半合成化合物である
Artemisinin
系薬剤が開発され、臨床で使用されている。Artemisinin
の活性代謝物である
Dihydroartemisinin
から脂溶性向上を目的にArtemether
、水溶性向上を目的にArtesunate
が 合成された。Artemisinin
系薬剤の構造式をFigure 4
に示す。
Artemisinin
Dihydroartemisinin
Artemether
Artesunate Figure 4. Artemisinin
系薬剤の構造式これら
Artmisinin
系薬剤は半減期が短く(Artemisinin
が2~3
時間、Dihydroartemisinin
が40~60
分、Artemether
が3~7
時間(Dihydroartemisinin
への変換)
、Artesunate
が2~5
分(Dihydroartemisinin
への変換))、再燃が起こりやすいという問題点がある。そのため2001
年からWHO
より、半減 期の長い既存の抗マラリア薬とArtemisinin
系薬剤を組み合わせた多剤併用療法 (Artemisinin13
based-combination therapies; ACTs)
がマラリア治療に推奨されている4), 5)。今日までACTs
はマ ラリア治療の第一選択として用いられてきたが、近年タイ・カンボジア国境付近でArtemisinin
系薬剤耐性熱帯熱マラリア原虫の出現が報告されている 6), 7)。1.5.
抗マラリア作用機序既存の抗マラリア薬の中で作用機序が解明されているものはほとんどない。現在、唯一作用 機序が解明されている抗マラリア薬は
Pyrimethamine
のみである8)。2003
年にArtemisinin
の標 的タンパク質としてSERCA (Sarco/endoplasmic reticulum Ca
2+ATPase)
が発見されたという報 告 9)があるが、まだ決定的なエビデンスは得られていない。1.6.
環状過酸化物1.6.1. Artemisinin
前項でも述べた既存の抗マラリア薬である
Artemisinin
は既存抗マラリア薬とは異なり、分子内にperoxide
構造というユニークな構造を有することからChloroquine
耐性原虫にも有効である 10)。また、Artemisininはその
peroxide
構造がマラリア原虫内のFe
2+と反応し、ラジカルを産生することが 報告されている11)。さらに、Artemisinin
のperoxide
構造より酸素原子が一つ少ないnonperoxidic analog
であるDeoxyartemisinin (Figure 5)
はその抗マラリア活性がArtemisinin
に比べて1/1000
以下に低下す る12)。Figure 5. Deoxyaretmisinin
の構造式ラジカルのスピントラップ剤である
TEMPO (2,2,6,6-tetramethylpiperidine-1-oxy)
又は鉄のキレート 剤であるDFO (deferoxamine)
をArtemisinin
と併用した場合、Artemisinin
の抗マラリア作用が低下す る12)。これらはArtemisinin
の抗マラリア作用には、ラジカルを産生することと鉄の存在が関与して いることを示している。以上より、環状過酸化物の抗マラリア活性にはperoxide
構造が重要な役割を 果たしていると考えられる。14 1.6.2. N-89
及びN-251
当研究室では
peroxide
構造に注目し、大阪大学工学部野島教授との共同研究により約500
種のperoxide
構造を持つ化合物を合成し、その抗マラリア活性の検討を行ってきた13)。現在までに種々の化合物が抗マラリア活性を有することが確認されており、その中でも
tetraoxan
の環が8
員環であり、cyclododecane
を有するN-89 (1,2,6,7-tetraoxaspiro[7.11]nonadecane)
が in vitro及び in vivoで優れ た 抗 マ ラ リ ア 活 性 を 示 す こ と を 見 出 し た 14)。 また、N-89
に-OH
基 を 導 入 し た 誘 導 体N-251 (6-(1,2,6,7-tetraoxaspiro[7.11]nonadec-4-yl)hexan-1-ol)
をさらに合成し、この化合物はN-89
と同 等の抗マラリア活性を維持していることが分かっている 15)。このことより、N-251
の-OH
基を 用いてプロドラッグを合成するなどの誘導体化が可能となる。Figure 6
にN-89
とN-251
の構造 式を、Table 1、 2
に in vitroと in vivoにおける抗マラリア活性を示す。これらの結果より、N-89、
N-251
は共に高い抗マラリア活性を有しており、選択毒性も高く、さらに、in vivoでもその有用性が証明されている。現在、これら化合物を有望な抗マラリア薬候補化合物として開発研究 及び作用機序の解析を行っている。
Figure 6. N-89
及びN-251
の構造式Table 1. N-89
及びN-251
の in vitroにおける抗マラリア活性と細胞毒性FCR-3
a)FM3A cell
b)Compound
EC
50(M) EC
50(M) Selectivity
N-89 2.5×10
-88.2×10
-6328
N-251 2.3×10
-88.0×10
-6324
a) Plasmodium falciparum b) Mouse mammary carcinoma cell
Table 2. N-89
及びN-251
の in vivoにおける抗マラリア活性i.v. p.o. i.p. s.c.
Compound ED
50(mg/kg)
ED
90(mg/kg)
ED
50(mg/kg)
ED
90(mg/kg)
ED
50(mg/kg)
ED
90(mg/kg)
ED
50(mg/kg)
ED
90(mg/kg)
N-89 12 20 20 40 12 20 2.5 3.8
N-251 22 45 15 40 15 26 7 10
15
1.7. N-89
誘導体と親和性を有するマラリア原虫タンパク質16)これまでに平成
17
年度修了生佐内 仁美氏によりN-89
誘導体と親和性を有するマラリア原 虫タンパク質が同定されている。2003
年のArtemisinin
の標的タンパク質が発見されたという報告 9)から、同様の環状過酸化物である
N-89
及びN-251
においても標的タンパク質があるのではないかと考えられた。この標的タンパク質を同定する目的で
N-89
及びN-251
をカラムに固定しマラリア原虫タンパク質Lysate
中から親和性を有するタンパク質を単離するアフィニティーカラムを用いた解析を行った。しかし、
N-89
及びN-251
には自身をカラムに固定するための側鎖がない。そのため、側 鎖にリジン残基を有するN-89
誘導体 (N-346) を合成し、それをアズラクトンカラムに固定し た(Figure 7)。
Figure 7. N-89
誘導体(N-346)
のアズラクトンカラムへの固定N-346
を固定したカラムを用いて親和性を有するタンパク質を溶出し、同定した。その結果、6
種 類 の マ ラ リ ア 原 虫 タ ン パ ク 質(Merozoite surface protein 7、 Rhoptry-associated membrane antigen、 14-3-3 protein、 Heat shock protein 70、 Endoplasmic reticulum-resident calcium binding protein (PfERC)
、Glideosome-associated protein 45)
がN-89
誘導体と親和性を有するマラリア原 虫タンパク質として同定している。上記
6
種類のマラリア原虫タンパク質の中でも、当研究室では PfERC に注目しており、こ れまでに就実大学薬学部 平岡 修 准教授との共同研究のもと、PfERC の組換え体(ΔPfERC)
及びモノクローナル抗体(anti PfERC mAb)
を作製している。16
1.8.
本研究の目的及び意義WHO
よりRoll Back Malaria Initiative
と呼ばれるマラリア対策が宣言されてから10
年以上が 経過するが、未だにマラリアによる死亡者は65
万人近くにのぼっている。近年においても実 用に耐え得るマラリアワクチンの開発は成されておらず、ACT
療法に対する薬剤耐性マラリア 原虫も出現し始めた。このような現況において、マラリア制圧へ向けた新たな抗マラリア薬の 開発は世界的な急務となっている。当研究室では in vitro、in vivo共に優れた抗マラリア活性を有する
N-89
及びN-251
を新規抗 マラリア薬候補化合物として開発研究を行っている。現在は臨床試験へ向けた安全性研究と製 剤研究が行われているが、これらと並行して抗マラリア作用機序の解析研究も行われている。作用機序を解明することによって併用薬の選択が可能となり、薬剤耐性の克服に大きく貢献 する。また、未だ臨床試験が行われていない薬剤の作用機序が分かれば副作用の予測が可能と な り 、 臨 床 試 験 に お け る 被 験 者 の リ ス ク 回 避 へ と つ な が る 。 そ の た め 、 私 は 本 研 究 に お い て
N-89
及びN-251
の抗マラリア作用機序を解明することを目的として研究を行った。本研究では、
N-89
及びN-251
の熱帯熱マラリア原虫に対するステージ特異的阻害を解析し、化 合 物 作 用 時 の プ ロ テ オ ー ム 解 析 に よ っ て
N-89
及 びN-251
の 標 的 候 補 タ ン パ ク 質 と し てPfERC を選抜した。さらに、PfERC の機能解析及び PfERC を過剰発現する遺伝子組換え原虫
の作製と薬効評価を行った。
本研究で得られた知見は、有望な新規抗マラリア薬候補化合物である
N-89
及びN-251
がど のようにしてマラリア原虫に作用して抗マラリア活性を示すかを知る一助となる。さらに今後、PfERC がどのような機能を有しているかを知ることによって、より詳細に作用機序を解明でき、
N-89
及びN-251
の臨床での使用に向けて大きく貢献できるようになると期待できる。17
2 章 方法
18 2.1.
材料N-89
及びN-251
は株式会社ナード研究所に合成を依頼した。Artemisinin
はSigma
より購入した。各化合物は
DMSO (WAKO)
に溶解して使用した。2.2.
細胞株熱帯熱マラリア原虫
FCR-3
株(ATCC 30932)
はAmerican Type Culture Collection
より入手し、岡山大学薬学部分子医薬品情報学研究室及び国際感染症制御学研究室にて取り扱った。熱帯熱 マラリア原虫
Dd2-attB
株及び遺伝子組換え原虫株は長崎大学熱帯医学研究所原虫学分野研究 室にて取り扱った。遺伝子組換え原虫の扱いに関しては、長崎大学の規定に従い遺伝子組換え 実験講習を受け、実験許可を得た。2.3.
熱帯熱マラリア原虫の in vitro培養 13), 17)2.3.1. RPMI1640 (-)
培地の調製10.4 g
のRPMI1640、 5.95 g
のHEPES
を約800 mL
のmilliQ
水に添加し、約20
分撹拌した。2.0 g
のNaHCO
3を加え、さらに5
分撹拌した後、1 M NaOH
を用いてpH 7.2
に調製した。Gentamicin sulfate (50 mg/mL)
を0.5 mL
添加し (終濃度25 µg/mL)、 1 L
にメスアップした。安 全 キ ャ ビ ネ ッ ト 内 で0.22
µm ボ ト ル ト ッ プ フ ィ ル タ ー を 用 い て 濾 過 滅 菌 を 行 い 、 こ れ をRPMI1640 (-)
培地とし、4°Cで保存し、1ヶ月以内に使用した。実際の培養には終濃度10%と
なるようにヒト血清を添加した
RPMI1640 (+)
培地として使用した。2.3.2.
ヒト赤血球と血清血液は、マラリア原虫培養に血液を提供することに同意したボランティア
(A
型)
より岡山 大学保健管理センターにて得たもの、及び感染症検査が陰性かつ血液製剤の規格に適合しない ものを日本赤十字社より得て使用した。2.3.3.
熱帯熱マラリア原虫の継代培養継代培養は、
24
穴培養プレートを用いてHematocrit
値(HC
値;
全容量に対する赤血球容量 の割合)
が5%
、全量1111 µL/well
になるようにして行った。培養条件はO
2濃度5.0%
、CO
2濃度
5.0%、 N
2濃度90%、温度は 37°C
とした。24穴培養プレートから感染赤血球を1.5 mL
チューブに回収し、2500 rpm (TOMY MRX-150)、5分間、25°Cで遠心後、上清を除いた。感染赤血
球、
RPMI1640 (+)
培地、新鮮赤血球を用いて、感染率が0.3%となるように、HC
値50%の原
虫培養液を調製した。
24
穴培養プレート1well
にRPMI1640 (+)
培地を1 mL
加え、さらにHC
値
50%の原虫培養液を 111 µL
加え、HC値5%として培養した。
液替え注1)は毎日行い、感染率注2)が
3%を超えた際は 0.3%になるように継代培養を行った。
19
この感染率は、スライドガラスに薄層塗抹標本を作製し、Diff-Quik染色注3)
(シスメックス)
を 行い、油浸光学顕微鏡(×1000)
で計測した。注
1)
原虫や赤血球に消費された培地の含有成分を補い、培地中に蓄積された代謝産物や赤血 球の分解物を除くための操作である。プレートの各well
のRPMI1640 (+)
培地を800
µL 除去 後、新しいRPMI1640 (+)
培地を800 µL
加えた。注
2)
全赤血球に対する熱帯熱マラリア原虫が感染した赤血球の割合である。複数の原虫が感 染していても感染赤血球は1
個として計測した。油浸光学顕微鏡(× 1000)
で20
視野観察し、以下の計算式で算出した。
観測した視野の全感染赤血球数 感染率 (%) =
観測視野数
1
視野内全赤血球数 × 100注
3)
固定液、染色液I、染色液 II
から成る。薄層塗抹標本を乾燥させた後、固定液に1
秒間 に1
回の割合で10
回程度浸し、染色液I
では3-4
回、染色液II
では10
回以上、染色を行い、その後、水で洗い流し乾燥させた。染色は約
1-2
分で完了するため、これまで用いられてきた ギムザ染色と比較すると染色に要する時間を大幅に短縮できる。2.4.
熱帯熱マラリア原虫の薬剤感受性試験 18)培養した原虫を回収し、2500 rpm (TOMY MRX-150)、5分間、20°C で遠心し、上清を除去し
た。
RPMI1640 (+)
培地、新鮮赤血球、感染赤血球よりHC
値3%
、初期感染率0.3%
となるように原虫培養液を調製した。目的の終濃度より
200
倍濃く調製した化合物をそれぞれの濃度につ いて、24
穴培養プレート1well
あたり5
µLずつduplicate
で加えた。Negative controlとして化 合物の希釈に用いた溶媒を5 µL、 Positive control
としてEC
60濃度に相当するQuinine
溶液を5 µL
添加した
well
もduplicate
で用意した。化合物を加えたwell
に、上記の通り調製した原虫培養液を
995
µL ずつ加え、培養を開始した。初期感染率はこの原虫培養液から作製した薄層塗抹 標本より算出した。72
時間の培養後に1well
あたり1
枚の薄層塗抹標本を作製し、それぞれ感 染率を測定し、以下の計算式に従い増殖率(%)
を求めた。72
時間後のサンプル作用時の感染率-初期感染率 増殖率 (%) =72
時間後のコントロールの感染率-初期感染率 × 100片対数グラフの
x
軸に各サンプルの終濃度を、y軸に求めた増殖率をプロットし、EC50値を算 出した。2.5.
熱帯熱マラリア原虫の同調培養法 19), 20)これまでに報告されている赤内期熱帯熱マラリア原虫のステージを同調させる方法の中で、
最も正確かつ汎用されているものの一つに、
D-sorbitol
処理による同調法がある。この方法は、Trophozoite
期 、Shizont
期 の よ う なRing
期 以 外 の ス テ ー ジ の マ ラ リ ア 原 虫 感 染 赤 血 球 が20
D-sorbitol
処理により選択的に破壊されるという現象を利用し、マラリア原虫をRing
期に同調さ せ る も の で あ る 。
D-sorbitol
で 処 理 す る と 感 染 赤 血 球 の う ち 、 赤 血 球 膜 が 弱 っ て い るTrophozoite
期、Shizont
期の熱帯熱マラリア原虫に感染した赤血球膜が壊れ、これら原虫は放出されてしまい原虫自体も
D-sorbitol
による膜障害を受け増殖しなくなる。しかし、赤血球膜 が強いままであるRing
期の原虫が感染している赤血球膜は壊れず、そのまま増殖が可能であ る。また、Schizont
期のマラリア原虫より放出されたMerozoite
期のマラリア原虫も、D-sorbitol
障害を受けない。このD-sorbitol
の作用を利用することによりRing
期の原虫を集めることがで きる。培養したマラリア原虫感染赤血球を回収し、
2500 rpm (TOMY MRX-150)、10
分間、25°C
で 遠心し、上清を除去した。5% D-sorbitol
水溶液 (37°C) を赤血球の4-5
倍量添加し、5 分毎に 転倒混和しながら15
分間、室温で静置した。2500 rpm (TOMY MRX-150)
、10
分間、25°C
で遠 心し、上清を除去した。RPMI1640 (+)
培地を加え、転倒混和後、2500 rpm (TOMY MRX-150)
、10
分間、25°C
で遠心し、上清を除去する赤血球の洗浄操作を3
回行った。初期感染率を約1%
、HC
値5%になるように調製し、培養を開始した。 40-44
時間後のRing
期原虫が最も多い時点で再度
5% D-sorbitol
処理を行った。1時間毎に原虫発育段階をモニターして2
回目の処理時間を決めると同調率の高い培養が行える。また、別のステージのマラリア原虫を実験に用いる時は 同調後のマラリア原虫を数時間毎にモニターして観察すれば得られる。
Figure 8
に熱帯熱マラ リア原虫の赤内期形態変化に関する時間を示す。Figure 8.
熱帯熱マラリア原虫の赤内期形態変化に要する時間2.6. N-89
及びN-251
の熱帯熱マラリア原虫に対するステージ特異的阻害の解析マ ラ リ ア 原 虫 は 各 ス テ ー ジ に お い て 発 現 す る 遺 伝 子 と タ ン パ ク 質 が 異 な る こ と が 知 ら れ て
いる 21), 22)。例えばあるステージにのみ特異的に発現するものや、ステージの移行に従って増
減するものである。作用機序を解析する上で薬剤がどのようなステージに作用するかを調べる ことは重要であるため、
N-89
及びN-251
の熱帯熱マラリア原虫に対するステージ特異的阻害 の解析をした。Ring、Early trophozoite、Middle trophozoite、Late trophozoite、Schizont期へ同調 したそれぞれのマラリア原虫に3 µM
のN-89
又はN-251
を作用させた。薬剤を作用させた後、0、6、12、24、48、72
時間後にスメアを作製し、各時間におけるマラリア原虫のステージの割合を観察した。
21
2.7.
プロテオーム解析マラリア原虫は生物学的にあまり研究が進んでおらず、タンパク質研究で用いる抗体で市販 されているものはほとんどない。そのため、1.7.で同定された
N-89
誘導体と親和性を有するマ ラリア原虫タンパク質を個々に解析することが難しい。本項目ではN-89
及びN-251
の標的候 補タンパク質を選抜するため、化合物作用時のプロテオーム解析を行った。N-89
及びN-251
は相互作用するタンパク質に対して作用していることが考えられるため、化合物を作用させた 場合に、化合物とタンパク質の相互作用に起因してどのようなタンパク質が増減及び翻訳後修 飾などの変化を示すかを網羅的に解析した。2.7.1.
熱帯熱マラリア原虫タンパク質lysate
の調製6
穴培養プレート12
枚分(HC
値5%)
の原虫を感染率が約3
%になるまでGIT
培地(WAKO)
で培養した。感染赤血球浮遊液を50 mL
遠心管4
本に回収し、2500 rpm (HITACHI CF 7D2)
、10
分間、4°C
で遠心した。遠心後、ヘモゾインを除去し、pellet
へPBS (-)
と0.3
%Saponin
溶 液(in PBS (-))
を加え、転倒混和し (Saponin終濃度0.15% )、20
分間、37°Cでインキュベート した(5
分毎に転倒混和した)。この過程でSaponin
は赤血球膜及びParasitophorous vacuolar (PV)
膜は透過するが、Parasite plasma membraneを損傷せず、膜透過イオン勾配は維持できるので原 虫を損傷することなく、赤血球膜を特異的に破壊し、溶血させる。溶血後、3300 rpm (HITACHI CF 7D2)、 10
分間、4°Cで遠心した。さらに、0.15% Saponin
溶液で3500 rpm、 10
分間、4°C で遠心し、上清を除去した。再び0.15% Saponin
溶液で3700 rpm、10
分間、4°C
で遠心する。次に
Saponin
溶液を除去するためにice-cold PBS (-)
を用いて4000 rpm (HITACHI CF 7D2)、 10
分間、4°C
で遠心し、洗浄した。この洗浄操作を2
回行った。この洗浄操作の過程で50 mL
遠 心 管4
本 のpellet
を1
本 に ま と め た 。 上 清 を 除 き 、pellet
を15 mL
遠 心 管 に1.5 mL
のRehydration/Sample buffer (Bio-Rad; 8 M urea, 2% CHAPS, 50 mM DTT, 0.2% (w/v) Bio-Lyte 3/10, 0.001% BPB)
で洗い出した。Rehydration/Sample buffer
にはurea
が含まれているので4°C
以下 ではurea
が析出し、30°C以上ではurea
がカルバミル化する恐れがある。よって、その後の操 作は室温で行った。全過程において用いる溶液にはProtease Inhibitor Cocktail for Plant Cell and Tissue Extracts (Sigma)
を1:100
となるように添加した。30
分間室温で静置し、続いて超音波破 砕をBranson Sonifire-250
を用いて行った(
条件; Duty cycle 40
%、Output Control 3.0×5 cycle
、1 cycle
は5
回のシグナルで、1 cycle
毎に30
秒間氷上静置した)。1.7 mL
タンパク質 Low binding チューブに移し、液体窒素中で5
回凍結融解を行った。再度超音波破砕を同条件で3 cycle
行 い、15000 g、10分間、25°Cで遠心し、上清を0.6 mL
タンパク質 Low bindingチューブに分注し、
-80°C
で保存した。二次元電気泳動の直前に100000 g
、1
時間、25°C
で超遠心し、不純物を完全に取り除いた。
22 2.7.2.
タンパク質定量2.7.1.
で調製したマラリア原虫タンパク質Lysate
をRC DC Protein Assay (Bio-Rad)
を用いて 定量した。RC DC protein assayはLowry
法に基づき、界面活性剤だけでなく還元剤を含むサン プルにも適用可能に改良されており、Urea
等を含むタンパク質サンプルにも応用可能となって いる。検量線は、Albumin Standard (PIERCE) を用いて0.2 mg/mL
から1.5 mg/mL
のタンパク質 濃度で作成した。スタンダード、サンプルそれぞれ
25 µL
を1.7 mL
タンパク質Low binding
チューブに入れた。RC1 reagent
、RC2 reagent
それぞれ125 µL
を加えvortex
し、1
分間室温でインキュベーション した。15000 g、5
分間、25°C
で遠心し、上清を除去した。RC1 reagentを125 µL、 RC2 reagent
を
40 µL
加えvortex
し、1分間室温でインキュベーションした。15000 g、5分間、25°Cで遠心し、上清を除去し、
overnight
でpellet
を乾燥させた。A’
試薬127 µL
を加えvortex
し、5
分間室 温でインキュベーションした(A’
試薬; A
試薬:S
試薬=50:1)
。DC protein assay B
試薬1 mL
を加え
vortex
し、15
分間室温でインキュベーションした。分光光度計DU7400 (BECKMAN)
を用いて
750 nm
の吸光度を測定した。2.7.3.
二次元電気泳動i) IPG
ストリップの膨潤マラリア原虫タンパク質
Lysate
をタンパク質濃度80 µg/300 µL
となるように希釈し、フォー カシングトレイ(Bio-Rad)
の各レーンに300 µL
加えた。室温に戻したIPG ReadyStrip pH 3-10
Linear 17 cm (Bio-Rad)
からゲルを保護しているカバーフィルムを剥がし、タンパク質Lysate
を加えたフォーカシングトレイの各レーンにゲル面を下向きにし、気泡が入らないようにセッ トし、ミネラルオイルを
1.5 mL
重層した。ミネラルオイルは膨潤及びフォーカシング中にゲ ルの乾燥と二酸化炭素の吸収によるpH
のシフトを防ぐ役割がある。乾燥した場合、尿素が濃 縮され析出する恐れがある。蓋をしたフォーカシングトレイをPROTEAN IEF Cell (Bio-Rad)
に セットした。IEF CellのRehydration Program
をActive
に設定し、Active mode 50 V、20°C で12
時間IPG strip
を膨潤させた。ii)
一次元目の泳動;
等電点電気泳動(Isoelectric focusing; IEF)
膨潤終了後、ウイック*
(Bio-Rad)
を滅菌milliQ
水で湿らせ、フォーカシングトレイの白金 線とゲル間に挿入した。フォーカシングトレイに蓋をしてIEF Cell
にセットし、次に記す条件 で等電点電気泳動を行った。*
IPG strip
を用いた等電点電気泳動ではサンプル中に含まれる塩、イオン性の成分が多いと電気泳動中に電圧が上がらない場合があり、ウイック
(ろ紙 )
を電極とゲルの間に挟み込むこ とでイオン成分の除去が可能となる。23
○フォーカシング条件
step 1: 250 V 15 min ; slow
step 2: 10000 V 2 hr ; linear
step 3: 10000 V 50000 V-hr ; rapid
step 4: 500 V 24 hr ; rapid iii)
平衡化フォーカシング終了後、フォーカシングトレイから
IPG strip
を取り出しゲル面を傷付けない ように余分なミネラルオイルをキムタオルで吸い取った。Equilibration buffer I (Bio-Rad; 6 M urea, 2% SDS, 0.375 M Tris-HCl, pH 8.8, 20% Glycerol, 2% (w/v) DTT)
を4 mL/lane
加えたディス ポーザブルトレイ (Bio-Rad) にゲル面を上にしてIPG strip
を入れ、室温で20
分間震盪した。震盪後、
Equilibration bufferⅡ (Bio-Rad; 6 M Urea, 2% SDS, 0.375 M Tris-HCl pH 8.8, 20%
Glycerol, 2.5% (w/v) Iodoacetamide) 4 mL
で、同様に室温で10
分間震盪した。iv)
二次元目電気泳動; SDS-PAGE
二次元目のゲルは
PROTEAN II Ready Gels 12% Tris-HCl (Bio-Rad;
ゲルサイズ 160×158 mm) を用いた。ゲルは室温に戻した後、開封しコームを抜いてmilliQ
水で洗いゲルスタンドAny Gel
スタンド (BioRad) に立てかけ固定した。Equilibration buffer II
から取り出したIPG
ストリップを泳動
buffer
で軽く洗浄し、キムタオルで余分なBuffer
を吸い取った後、IPG strip
用のウェルにローメルトアガロース
ReadyPrep
TMOverlay Agarose (Bio-Rad; 0.5% (w/v) low melting point agarose, 1×Tris/Glycine/SDS buffer, 0.001% BPB)
を加えたゲルのウェルにアプライした。マーカ ー用ウェルにタンパク質マーカーPrecision Plus Protein
TMStandard Plugs, Unstained (Bio-Rad)
を アプライし、再度ローメルトアガロースを流し込み、ゲルの封入及び固定をした。ゲルを泳動 装置PROTEAN II xi 2-D Cell (Bio-Rad)
にセットし、20°C
の冷却水を泳動装置のセントラルク ーリングコア(
冷却水循環タンク)
に循環させてPOWER PAC
TM1000 Power Supply (Bio-Rad)
を用いてTris/Glycine/SDS running buffer (Bio-Rad; 25 mM Tris/192 mM Glycine/0.1% SDS)
中、16 mA/gel、30
分間、24 mA/gel、 5
時間の条件で SDS-PAGEを行った。2.7.4.
イメージの検出と解析ゲルの染色は検出感度が銀染色と同等の
1-10 ng
で高い定量性を有する蛍光染色試薬SYPRO
Ruby Protein Gel Stain (Bio-Rad)
を用いて行った。二次元電気泳動終了後のゲルを染色トレイに入れ、固定液
(10% methanol, 7% acetic acid) 200 mL
を加え室温で30
分間震盪した。固定液を 捨て、SYPRO Ruby Protein Gel Stain
を200 mL
加え、室温で16
時間震盪した。染色液を捨て、脱色液
(10% methanol, 7% acetic acid) 200 mL
を加え、室温で1
時間震盪した。脱色後のゲルはmilliQ
水で30
分以上震盪し、Molecular Imager FX Pro (Bio-Rad)
でゲルイメージを検出した。薬剤非作用時と
N-89
作用時又はN-251
作用時のプロテオーム比較解析には二次元電気泳動解24
析ソフトウェア
PDQuest version 8.0 (Bio-Rad)
を用いた。2.7.5
タンパク質スポットの切り出しゲルイメージ上の目的タンパク質スポットに存在するタンパク質を同定するため、目的のス ポットを
EXQuest
TMSpot Cutter (Bio-Rad)
で切り出し、0.2 mL PCR tube
へ入れた。2.7.6.
タンパク質のゲル内消化切り出したゲルの入った
0.2 mL PCR tube
からピペットマンで水を除き、脱水液(50% (v/v) CH
3CN, 25 mM NH
4HCO
3) 200
µLを加え、37°C
で30
分間震盪した。脱水液を取り除き、再度脱水液
200 µL
を加え、37°Cで30
分間震盪した。脱水液をほぼ完全に取り除き、穴をあけた蓋をつけ、
15
分間遠心evaporation
した。遠心evaporation
後、蓋を注意して開け、Trypsin solution (10 µg/mL Trypsin (Promega), 45 mM NH
4HCO
3) 50 µL
加え、30
分間氷上静置した。余分なTrypsin solution
を除き、50 mM NH
4HCO
3を10
µL加え、37°C
で4
時間静置した。ゲルの入ったtube
から液を取り、新しい0.2 mL PCR tube
へ移した。ゲルの入ったtube
に抽出液 (50% (v/v) CH3CN, 1% (v/v) trifluoroacetic acid (TFA)) 50 µL
加え、37°C で30
分間震盪した。液を先程の新しい0.2
mL PCR tube
へ移した。ゲルの入ったtube
へ再度抽出液20 µL
加え、37°Cで30
分間震盪し、液を先程の新しい
0.2 mL PCR tube
へ移した。液のみが入った0.2 mL PCR tube
に穴のあいた蓋 をして3
時間遠心evaporation
し、完全に液体を蒸発させた。遠心evaporation
後、蓋を閉め-20°C で保存した。2.7.7.
タンパク質の同定 16)タンパク質の
Trypsin
消化物(
ペプチド混合物)
のMS
、MS/MS
解析のピークリスト(
質量分 析データ)
と、データベースに登録されているアミノ酸配列解析データから計算して得られた 仮想の質量分析データとのマッチングによりタンパク質を同定するPeptide Mass Fingerprinting (PMF)
及びMS/MS ion search
を行った。NCBInr database
を用いて検索を行った場合、PMF
及びMS/MS ion search
においてMASCOT score
がそれぞれ55
及び28
よりも大きいとき、有意(p<0.05)
に同定されたと判断した。Swiss-Prot database
を用いて検索を行った場合、PMF
及びMS/MS ion search
においてMASCOT score
がそれぞれ56
及び28
よりも大きいとき、有意(p<0.05)
に同定されたと判断した。MASCOT score
は以下の式に基づいて算出された。Score=-10×logP
**
P
は与えられたヒットが無作為事象である絶対確率HPLC-Chip/MS
を用いてタンパク質同定を行った場合、Peptide scoreが11
よりも大きいとき有意
(p<0.05)
に同定されたと判断した。25
用いた質量分析装置、検索エンジン及びデータベースを以下に記す。
MALDI-TOF/TOF/MS
システム; Autoflex III (Bruker Daltonics) LC-MS/MS
システム; HPLC-Chip/MS (Agilent Technologies) 検索エンジン; MASCOT
デ ー タ ベ ー ス
; NCBInr (version 2012_04_15, 17848406 sequences, 6126535335 residues;
P.falciparumタンパク質の検索
)
又はSwiss-Prot (version 2012_03, 535248 sequences, 189901164 residues;
ヒトタンパク質の検索)
2.8. Western blotting 2.8.1. SDS-PAGE
Polyacrylamide gel
はゲル濃度が12.5%
、12
ウェル又は18
ウェルのE-R12.5L (ATTO;
ゲルサ イズ90×83 mm)
を用いた。ゲルプレートからコームを抜き取りTris/Glycine/SDS running buffer
でウェルを洗浄した。ゲルをラピダス・ミニスラブ電気泳動槽AE-6500 (ATTO)
泳動槽にセッ トし、Tris/Glycine/SDS running buffer
を泳動槽に加え、sampleを各ウェルに20
µLアプライし た。タンパク質スタンダードはChemiluminescent detection
用にECL DualValue Western Blotting Markers (Amersham Biosciences)
を、SYPRO Ruby Protein Gel Stain用にProtein Marker Broad Range (BioLabs)
を用いた。電気泳動は定電流20 mA/Gel
、最高電圧250 V
、70
分間の条件で行 った。2.8.2 Semi-dry blotting
電気泳動終了後の
Polyacrylamide gel
をCathode buffer (25 mM Tris, pH 9.4, 40 mM Glycine, 10% methanol) 100 mL
に15
分間浸しゲルの平衡化を行った。Immobilon
TMtransfer membrane
を15
秒間、100% methanol
に浸し、その後2
分間milliQ
水に浸しAnode buffer II (25 mM Tris, pH 10.4, 10% methanol)
に5
分間浸し平衡化を行った。Anode buffer I (0.3 M Tris, pH 10.4, 10% methanol) にろ紙2
枚、Anode buffer IIにろ紙1
枚、Cathode bufferにろ紙3
枚を浸し、Blotting paperを調 製した。平衡化終了後、トランスファーユニットHoefer
TMTE77 semi-dry transfer units (Amersham Biosciences)
のBase (Anode)
側にBlotting paper 3
枚(Anode buffer I
に浸したろ紙2
枚、Anode buffer II
に浸したろ紙1
枚)
、メンブレン、ゲルの順に置き、さらにBlotting paper 3
枚(Cathode buffer
に浸したろ紙3
枚)
を重ねてCover (Cathode)
をセットして0.8 mA/cm
2、60分の条件で トランスファーを行った。2.8.3.
ブロッキング及び抗体反応メンブレンを
5% BSA in TBS-T (20 mM Tris, pH7.4, 68 mM NaCl, 0.1% (v/v) Tween 20)
で25°C、
1
時間インキュベ−ションして抗体の非特異的な結合をブロッキングし、TBS-T でメンブレン26
を
2
回リンスした。一次抗体を5% BSA in TBS-T
で最適抗体濃度に希釈後、メンブレンに添加して
4°C
、overnight
でインキュベーションした。TBS-T
でメンブレンを2
回リンス後、十分量の
TBS-T
で洗浄した。(15分間×1回、5
分間×3回)HRP (Horseradish peroxidase)
標識されている二次抗体をTBS-T
で最適抗体濃度に希釈後、メ ンブレンに添加して25°C、 1
時間インキュベーションし、TBS-T
でメンブレンを2
回リンス後、十分量の
TBS-T
で洗浄した。(15
分間×1回、5
分間×3回)本実験で用いた一次抗体
;
・
Mouse anti-PfERC mAb
・Anti-BiP antibody sc-33757 (SANTA CRUZ)
・
Monoclonal anti-heat shock protein 90 antibody clone AC-16 (Sigma-Aldrich)
本実験で用いた二次抗体;
・
Anti-Mouse IgG HRP linked whole antibody (from sheep) (Amersham Biosciences)
・
Anti-Rabbit IgG HRP linked whole antibody (from donkey) (Amersham Biosciences)
2.8.4. Chemiluminescent detection (化学発光による検出)
メンブレンをラップ上に置き、調製しておいた検出試薬 (ECL plus Western blotting detection
reagents kit (GE Healthcare)
のSolution A:Solution B=40:1
で混合) を添加し、5
分間静置後Versa Doc Imaging System Model 5000 (Bio-Rad)
により撮影し、Quantity One 1-D Analysis Software (Bio-Rad)
を用いて解析した。2.8.5.
ストリッピング検出後のメンブレンを
milliQ
水でwash
後、2 M Glycine buffer (pH2.8)
で10
分間×3
回浸透さ せ、抗体と抗原を遊離させた後、milliQ
水でメンブレンをwash
し、TBS-T
で2
回リンスした後、
2.8.3.
ブロッキング及び抗体反応以降の操作を行った。2.9. PfERC
と相互作用するマラリア原虫タンパク質の探索2.9.1.
マラリア原虫タンパク質Lysate
の調製6
穴培養プレート4
枚分の原虫を感染率が約2-3%
になるまでGIT
培地で培養し、50 mL
遠心 管を用いて感染赤血球を3600 rpm
、5
分間、4°C
で遠心して回収した。遠心後、上清を除去し、PBS (-)
と0.3% Saponin
溶液(in PBS (-))
を加え総量を14 mL
とし、転倒混和した(Saponin 終 濃度0.15% )。転倒混和して溶血後、3600 rpm、 5
分間、4°Cで遠心した。再び0.15% Saponin
溶液を加え、3600 rpm、 5
分間、4°C
遠心し、上清を除去した後ice-cold PBS (-)を用いて 3600 rpm、
5
分間、4°C
で遠心し、洗浄した。この後、pellet
を1.7 mL
タンパク質Low binding
チューブに 移し、ice-cold PBS (-) で15000 rpm、5
分間、4°C で遠心し再度洗浄した。この操作を2
回行っ た。全過程において用いる溶液にはProtease Inhibitor Cocktail for Plant Cell and Tissue Extracts
27
を
1/100
容量となるように添加した。上清を除き、pellet に適量のPBS-T (PBS with 0.1% Tween 20
23))
又はTris buffer-Tween 20 (20 mM Tris, pH 8.0, 0.15 M NaCl, 0.1% Tween 20
23))
を加えマラリ ア原虫を可溶化した後、15000 rpm、5分間、4°Cで遠心し、上清を相互作用解析用sample
とし た。Ca
2+存在の有無による影響を検討するため、タンパク質の抽出は1 mM Ca
2+の非存在下と 存在下の場合で行った。2.9.2.
免疫沈降Dynabeads Protein-G (Invitrogen) 50 µL
を1.7 mL
タンパク質Low binding
チューブへ加え、遠 心後、上清を除去した。200 µL のanti PfERC mAb in PBS-T
を加え、10分間、rotationした。遠 心し、上清除去後、200 µL PBS-Tでwash
した。上清除去後にマラリア原虫タンパク質Lysate 200-1000 µL
加え、室温で10-60
分間rotation
した。上清(=unbound sample)
を回収し、200 µL
のPBS (-)
でのBeads
のwash
を3
回行った。60 µL
の1× Sample buffer (62.5 mM Tris-HCl pH 6.8, 2% SDS, 10% Glycerol, 5% 2-Mercaptoethanol, 0.001% BPB)
を加え、5
分間boiling
し、上清を免 疫沈降サンプル(=IP sample)
として得た。上記の実験を
1 mM Ca
2+の非存在下と存在下の場合で行い、各sample
を20 µL
ずつ泳動した。Ca
2+非存在下の場合のサンプルはタンパク質バンドの分離能向上を目的として、レディーゲ ルJ PII 12.5% (Bio-Rad;
ゲルサイズ160×158 mm)
を用いて16 mA/gel
、30
分間、24 mA/gel
、5
時間の条件でSDS-PAGE
を行った。Ca
2+存在下の場合は2.8.1.と同様の条件で SDS-PAGE
を行った。2.9.3. MBP (Maltose binding protein)-ΔPfERC
当研究室ではこれまでに PfERC の組換え体
(Δ
PfERC) を作製している。熱帯熱マラリア原虫
FCR-3
株のゲノムDNA
からPCR
によって、PfERCの遺伝子配列からシグナル配列を除いた部分
(Δ
PfERC) をpMAL-p
プラスミドに組み込んだ。ΔPfERC を組み込んだpMAL-p
プラスミドを大腸菌に導入し、大腸菌内で
MBP-Δ
PfERCとして大量発現させた。MBP-ΔPfERC
にプ ロテアーゼFactor Χa (New England Biolabs)
を作用させ、ΔPfERC を得た(Figure 9)
。28
Figure 9.
ΔPfERC の作製ΔPfERCを作製する際、大腸菌内では
MBP
タグがΔPfERCに結合した状態(MBP-ΔPfERC)
で 大量発現させており、次項2.9.4. Pull down assay
はこのMBP-ΔPfERC
を用いて行った。2.9.4. Pull down assay
Amylose magnetic beads (New England Biolabs) 100
µL を1.7 mL
タンパク質Low binding
チュ ーブへ加えた。Magnetic Particle Separator (Invitrogen)
にセットし、上清を除去した。MBP column binding buffer (20 mM Tris-HCl, pH7.4, 0.2 M NaCl, 1 mM EDTA, 1 mM DTT) 500 µL
を加えvortex
し、Magnetic Particle Separatorにセットし、上清を除去した。このwash
を再度行った。Sample300
µL を加え、1
時間、4°C
でrotation
した(Pre-clear)
。Pre-clear
後のsample
を新しい1.7 mL
タンパク質Low binding
チューブに移した。wash
した新しいAmylose magnetic beads 50
µL へMBP-
ΔPfERC (またはcontrol
としてMBP) 300 µL
を加え4°C
、1
時間でrotation
した。Magnetic Particle Separator
にセットし、上清を除去した。Tris buffer (20 mM Tris, pH 8.0, 0.15 M NaCl) に よって3
回wash
した。Pre-clear
後のsample 300 µL
を加え、4°C、 1
時間でrotation
した。Magnetic Particle Separator
にセットし、上清をsample
として得た(
上清=Pull down
後sample)
。Beads
をTris buffer
によって3
回wash
した。Beads
に1×Sample buffer 60 µL
を加え、5
分間boiling
した。Magnetic Particle Separator
にセットし、上清をsample
として得た(=Pull down sample)
。 上記の実験を1 mM Ca
2+の非存在下と存在下の場合で行い、各sample
を20 µL
ずつ2.8.1.と
同様の条件でSDS-PAGE
を行った。2.10.
表面プラズモン共鳴法(Surface Plasmon Resonance; SPR)
解析は