Abstract
The Japanese government is encouraging universities nationwide to strengthen students’ “fundamental competencies” to cope with globalizing society. That is because the industry is seeking better human resources who can be a new leader. On the other hand, many first-year students at universities have immature social skills, such as one-way communications, passive attitude, and lack of leadership. Therefore, there is a wide gap between the reality of university students and their employability required by the government and the industry. Although universities are hastily reforming their career educational programs, many are still in the process of trial and error. This paper argues how to promote students’ better employability through experimental project-based learning projects for the first-year students to the third-year students at the university. The project features the collaboration of teachers and a convenience store owner so that students can learn together about mock business operations. The
* 東北文化学園大学総合政策学部准教授
** 東北文化学園大学総合政策学部准教授
企業・大学・学生をつなぐ実験的授業の実践
―社会人基礎力を現実的なものに―
立花顕一郎 *,増井三千代 **
Launching a PBL Project in University: On-campus
Convenience Store, Students, and Teachers Team Up for Better
“Employability Skills.”
TACHIBANA Kenichiro, MASUI Michiyo
outcome is that a rather strong communication network has been built. On top of that, students produced a decentralized decision-making system managed by group leaders responsible for subdivided duties..
1.はじめに
大学全入時代を迎え,確かな目的もなしに漫然と生活を送る大学生が多く 見られる.彼らが就活時期を迎える時に,社会で生きていく力が必要である と急に説いたところで,彼らの不安や焦りを助長するだけである.このよう な状況は,学生の個人的資質や家庭環境によってのみもたらされているわけ ではない.長尾秀吉[2015]は,バブル崩壊による就業機会の減少や日本企業 の国際競争力の相対的低下などにより,企業が古い体制で行ってきた企業内 研修による人材育成を終わらせて,学校に対する即戦力養成を求めるように なってきていると指摘している.さらに,若者自身にも企業の望む「雇用さ れる力」を強く期待していると述べている.もちろん学生が未熟であると指 摘するだけでこの問題が解決するほど単純な話ではない.企業・大学・学生 が今以上に共同して人材育成の新しい仕組みを考える時期に来ている.経済 産業省も「社会人基礎力に関する研究会」 [2006]においてこの問題に関する 議論の中間とりまとめを発表し,企業・大学・学生のつながりを今以上に強 化することを提唱している.なぜなら,学生の自己評価と企業側の評価には 大きなギャップがあり
1),それを埋めるには「社会人基礎力」を共通の土台と して3者のより良いコミュニケーションを図る必要があるというのである.
1. 1 「社会人基礎力」は本当に企業・大学・学生の共通言語と言えるのか?
既述の中間発表が説明している社会人基礎力の「能力要素」の具体に関し ては,大きく分けて,「前に踏み出す力(アクション)」,「考え抜く力(シンキ ング)」,「チームで働く力(チームワーク)」の3つを挙げている(表1参照).
1) 経済産業省は2006年1月に発表された「社会人基礎力に関する研究会」による中間とりまとめ を受け,企業人事部に対して「社会人基礎力に関する緊急調査」を実施した.同年4月に発表され た調査結果参考資料によると,「主体性」「実行力」「課題発見力」の3項目において,企業側と若者 の間には特に大きなギャップがあることが示された.
このように社会人基礎力を「明確化」することは,企業・大学・学生の3者す べてにメリットがあるとのことである.
社会人基礎力を養成する学修プログラムの例としては,既述の経済産業省 の研究会による中間報告[2006]にプロジェクト型授業の2モデルが紹介され ている.1つ目は,慶應義塾大学 SFC 研究所によって行われた企業の課題解 決プロジェクトに教員と学生が参加した例である.2つ目は,武蔵野大学と 高知大学が共同で学生のみのヴァーチャルカンパニーを設立し,運営をシ
表 1 社会人基礎力の能力要素
分 類 能力要素 内 容
前に 踏み出す力
(アクション)
主体性 物事に進んで取り組む力
例) 指示を待つのではなく,自らやるべきことを見つけて積極的に取り組む.
働きかけ力 他人に働きかけ巻き込む力
例) 「やろうじゃないか」と呼びかけ,目的に向かって周囲の人々を動かして いく.
実行力 目的を設定し確実に行動する力
例 ) 言われたことをやるだけでなく自ら目標を設定し,失敗を恐れず行動に 移し,粘り強く取り組む.
考え抜く力
(シンキング)
課題発見力 現状を分析し目的や課題を明らかにする力例) 目標に向かって,自ら「ここに問題があり,解決が必要だ」と提案する.
計画力 課題の解決に向けたプロセスを明らかにし準備する力 例) 課題の解決に向けた複数のプロセスを明確にし,「その中で最善のもの
は何か」を検討し,それに向けた準備をする.
創造力 新しい価値を生み出す力
例) 既存の発想にとらわれず,課題に対して新しい解決方法を考える.
チームで 働く力
(チームワーク)
発信力 自分の意見をわかりやすく伝える力
例) 自分の意見をわかりやすく整理した上で,相手に理解してもらうように 的確に伝える.
傾聴力 相手の意見を丁寧に聴く力
例) 相手の話しやすい環境をつくり,適切なタイミンクで質問するなど相手 の意見を引き出す.
柔軟性 意見の違いや立場の違いを理解する力
例) 自分のルールややり方に固執するのではなく,相手の意見や立場を尊重 し理解する.
情況把握力 自分と周囲の人々や物事との関係性を理解する力
例) チームで仕事をするとき,自分がどのような役割を果たすべきかを理解 する.
規律性 社会のルールや人との約束を守る力
例) 状況に応じて,社会のルールに則って自らの発言や行動を適切に律する.
ストレスコン トロール力
ストレスの発生源に対応する力
例) ストレスを感じることがあっても,成長の機会だとポジティブに捉えて 肩の力を抜いて対応する.
出典:経済産業省[2006]「社会人基礎力に関する研究会」p.14
ミュレーションするというものであった.
しかし,このように「社会人基礎力」を明確化することは,企業・大学・学 生に等しく利益をもたらすと本当にそう言えるのであろうか?確かに,企業 は学生に企業が欲しい人材についての明確なメッセージを与えることはでき る.しかし,そのメッセージを「共通言語」とまで言うのには無理があろう.
なぜなら,社会人基礎力は,「基礎力」と言いながらも実際には企業側の理想 の人物像を述べているだけで,教員と学生に人材育成のほとんどを負担させ ようとしているのではないだろうか.教員と学生は逆に企業にどうやって自 分たちの理想をメッセージとして届けることができるのだろうか?コミュニ ケーションとは本来双方向でなければならない.
この問題に対する企業の反論としては,学生参加型の社会貢献事業を推進 していることやインターンシップの充実などを挙げることができる.しかし,
それらの活動の多くは単発で短期間に終わるので,半年または1年間の評価 が基本となる大学の授業形態とは違う.さらに,インターンシップは実際に は企業の新卒学生採用活動の前倒しという色合いが年々濃くなってきてい る.企業はインターンシップで学生に社会人基礎力の一端を示すことはでき るであろうが,時間をかけて社会人基礎力を育成せず,学生を選抜するため の根拠として使うだけになるのではないだろうか.
このように企業側のイニシアチブが強くなっている状況で,あえてイニシ アチブを大学に取り戻して大学主導の就業体験プログラムを強化する必要が あるのではないか.企業・大学・学生のコミュニケーションが双方向のもの となるには,企業の人材育成担当者が大学で教員と半年や1年といった比較 的長期の協働授業を行う機会を増やすべきではないだろうか?そうすること で初めて,企業・大学・学生が共通の土台に立つ学びの機会が実現するので ある.本田由紀[2009]は,教育は若者を無防備に社会に送り出すのではなく,
生活者として社会への「適応」と「抵抗」の両方の振る舞いができる人間とし
て育てることが今後必要だと述べている.いずれ社会を構成する学生にとっ
ては,教員や企業への疑問提示能力と3者で対等な立場の議論ができるプロ
グラムを早い段階で経験することが極めて重要である.
2.大学で企業の指導者と協働授業を始めるためには?
受動的な学びから主体的な学びに変えるには,学生が高校のときよりも言 葉を駆使して意見を主張する技術の習得と実践から始めなければならないの は明らかである.このような状況からいわゆるアクティブ・ラーニング形式 授業を導入する大学が増えてきている.少人数でのディスカッションやワー ルドカフェなどを大学で多く経験することは,「大学生基礎力」への第一歩で あると同時に,のちの就活や「社会人基礎力」につながる.入学後なるべく早 い段階で着手すれば,学生は受動的な学習態度を改めざるを得なくなる.1 年次に始まる早期キャリア教育と併せて,社会での自分の立ち位置を相対化 する学びの機会が必要である.筆者はそれを「基礎ゼミナール」の授業で実 施している.
2. 1 学生とカフェプロジェクトを開始
筆者が所属する東北文化学園大学総合政策学部(以下,本学部)では,2017 年度から学生が主体となってキャンパス内で期間限定のカフェを運営するプ ロジェクトベース・ラーニングを行なっている.学生は教員のサポート以外 にも学内にあるセブンイレブン店長および東北文化学園専門学校のインテリ ア科長と頻繁に話し合いを行って,専門家の意見も取り入れた擬似的企業組 織を運営している.教員はカフェビジネスについてはほとんど専門知識をも たず,店舗の内装に関しても学生に有効な助言ができない.そのため,教員 と学生だけではカフェは学園祭の出店のようになってしまう.そこで,企業 経営の経験が豊富なセブンイレブン店長と内装の専門知識を有しているイン テリア科長の助言は,通常の授業では得ることのできない貴重な学びの機会 となっている.カフェの企画と準備は授業時間に通年で行っていることから,
インターンシップのような短期の就業体験とは明らかに異なるスキームであ る.特に,セブンイレブン店長は,カフェプロジェクト開始以前から教員と 協働して学生指導にあたっており,これまでに合計4年間も人材教育に携わっ ている.
このカフェプロジェクトは,しかし,今の形になるまでは2年間の試行錯
誤を経ている.その要因としては,学生の学力や学習意欲が多様化して,教
員がこれまで大学一年生に求めていた「大学生基礎力」を一律に期待するこ とが難しくなってきたという現状がある.この状況は企業が社会人一年生に
「社会人基礎力」を一律に期待できなくなっていることと符合しているのであ る.本学では学生に多くを求めることをせず,まずは受動的な学びから主体 的な学びに転換させるための取り組みに絞って新たな試みを開始した.その 過程がどのようなものだったのかを2015年度に遡って時系列的に振り返り たい.
2. 2 学生の能動的な学びを志向してアクティブ・ラーニングを導入 本学部では1年次に「基礎ゼミナールⅠ」,2年次に「基礎ゼミナールⅡ」が 必修科目としてある.現在は隔週で大学生活に必要な基本的な学びのスキル を1教員あたり6 〜 8名の学生が学んでいる.当初は講義形式で授業を行っ ていたが,学生はそれでは高校での受動的な学びと大差がなく,新鮮味を感 じないために欠席者が少なくなかった.しかも,学生の側から授業に対する 不満や改善要求もほとんどなかった.これらの問題に対処するため,基礎ゼ ミナールで様々な試みがなされ,本学部教員3名(秡川信弘教授,立花顕一郎 准教授,増井三千代准教授)は,それぞれの基礎ゼミナール生を集めて,チー ムティーチングを始めた.この時点では学生に多様な要求はせず,授業目的 を以下の5つに設定した.
• 学生が自分で問いを立てることができる.
• やりたいことだけをする学生の集団から,やらなくてはいけないことを 理解して行動する組織へ変える.
• 学生の中からリーダーを育てる.
• 学生に他者から感謝される喜びを体験させる.
• 理論から実践という順番ではなく,実践から理論の順番で学ぶ.
上記の「問いを自分で立てる」ということを学生に求めても,当初はそれが なぜ重要なのかという疑問をもつ者が多かった.それに対して教員は,「そ のような疑問提示力の養成こそが高校の学びと大学の学びの違いである」と,
大学入学後なるべく早期に説明するようにしている.なぜなら,他者の言説
には事実と意見が混じっているのが一般的であり,両者を見分けるためには
疑問をもち批判的考察を行う必要があるからである.他者の説明に対する疑
問の提示は聞き手の主張の一形態であると言えるが,学生のなかには高校時 代に主張する方法を学んできている者とそうでない者とがいる.そのため,
いきなり主張せよと言われても何をどう主張すればいいのか分からないとい う学生がいる.そのような場合には,疑問から主張へと展開するスキルを学 ばせることで,自分の主張を明確に表現させることを目指した.
また,主張する手法を学ぶ以前に,自分の本心を他人に話したくない,授 業で知らない学生と話し合いをさせないで欲しいという学生を能動的に変え るためには,アクティブ・ラーニングで対話をせざるを得ない環境にあえて 学生を置く必要があった.そのため,彼らを教室から連れ出してプロジェク トベースの学びを行ったり,グループ活動を通して学生どうしの対話を増や すと同時に,学生個人の自己内対話を促したりすることにした.なぜ大学で 勉強するのか分からないという学生は,自己省察力や他人への興味および社 会への関心が高くないという傾向が見受けられる.今日では他者と交流しな くても一方向的なコミュニケーションだけで日常生活を成立させる手段を彼 らの多くが所持しているからである.
しかし,彼らをただ強制的にグループに所属させたとしても,ばらばらな 個人の集まりにしかならない.その問題を解決するためには,彼らの中から リーダーを育成しなければならない.まず少人数のグループを複数つくり,
それぞれが並行してプロジェクトの成果を競えば,各グループからリーダー として頭角を現す学生が出現するという予測が正しいかどうか検証すること とした.そのためには,教員はリーダーとして頭角を現す学生の登場を根気 強く待って,支援する必要がある.グループ活動は自分の殻に閉じこもるタ イプの学生には強い拒否反応を引き起こす可能性が高い,しかし,彼らは同 時に自分を肯定してくれる環境を必要としていて,それができるのは自分自 身ではなく第三者だけであることをいずれ認めざるを得ない.リーダーとな る学生はその状況を理解し,すべての学生がプロジェクトに貢献し,そして 第三者から評価されれば,リーダーを含めた学生全員の自己肯定感を上げる ことができる.それゆえに,リーダーの養成はグループ活動にとって不可欠 なのである.
一方,アクティブ・ラーニングは教室に座って90分間講義を受けることが
苦手な一部の学生にとっては好評であった.1年次はどうしても専門科目の
概論的な授業が多いので,そのような抽象的な学びが苦手な学生に対しては,
ケーススタディーのように様々な事例を擬似体験してみてその後にフィード バックを得るスタイルが有効である.基礎ゼミナールで新たな試みが必要に なる際には実践とフィードバックを中心に据え,学生が自分自身で振り返る ことを通して学びの内省化を促すという発想も必要である.この実践例につ いては本稿の第3章で詳細を述べる.
3.プロジェクトベースでフィードバック中心の学びを実際に開始
第2章で挙げた5つの目的を果たすために,3教員は2015年度から新たな プロジェクトに着手した.その内容を検討するに際しては,まず以下の3つ の案が検討された.一つ目は,大手のパンメーカーに協力を打診して本学の 学生が大学ブランド入りのパンを開発・販売するという案であった.既にい くつかの国立大学や東京六大学等の私立大学が同様の製品開発を行っていた ので,それをヒントに考えたものであった.二つ目は,コンビニエンス・チェー ンと提携してキャンパス内で販売するオリジナル弁当を開発するという案で あった.これは仙台市内の他大学が2015年に地元企業とコラボレーション して被災地向けのランチメニューやプロ野球球場販売向けの弁当メニューを 開発しているとの報道から着想を得たものだった.第三の案は,大手ファス トファション・メーカーが販売しているジャケット用の手づくりワッペンを 基礎ゼミナールのグループで製作するというものであった.
教員はこれらの3つの案を一つに絞り込むための検討を重ねたが,それぞ れの案は専門外であるため,容易に決めることができなかった.そこで,物 品販売については専門家の助言を得る必要があると判断せざるを得なかった が,あいにく本学部には経営学とマーケティング学関係の専任教員がいない.
1年間の授業に一貫してビジネス経営の観点から関わる教員がいないという
問題をどう解決すればいいのか?その答えは容易ではなかった.しかし,解
決の糸口は意外なかたちで見つかった.まずはコンビニ弁当については学内
にセブンイレブンがあるので,その店長に相談してみてはどうかということ
になった.それが今日まで長期に渡る店長参画の合同基礎ゼミナールプロ
ジェクトにつながるとは当初予想もしていなかった.キャンパス内にコンビ
ニエンス・ストアのある大学は全国に数多くあろうが,店長が大学の正課科 目に関わるのは極めて稀なことだと言える.そのため,初めてのプロジェク トは弁当メニューの開発ということに決まった.
3. 1 教員と経営者のコラボレーションによる新しい教育
手始めに,1年次合同基礎ゼミ生17人を4グループに分けて,「商品企画〜
セブンイレブンへの提案」というテーマのもとで,プロジェクトが開始され た.具体的には,東北地方の特産品を用いたランチメニューの企画内容をグ ループで競い合う形でアイデアコンテストにしたのである.なぜグループど うしを競わせる必要があるのか?その理由は2つある.一つは競争に勝つと いう共通の目的を各自が共有することであり,もう一つは学生がもつ地元の 食材についての情報を駆使してこれまでにないメニューを創り出すことの楽 しさを知って欲しいからであった.各グループは自分たちのつくった案を2 回プレゼンテーションすることを求められ,1回目の案を発表した時点で,
セブンイレブンの店長から以下のような厳しい指摘を受けた.
• 販売商品は発想のユニークさだけではなくビジネスモデルとして考え た時点で,採算が取れるコンセプトか?
• 購買層は誰か?
• 季節的な需給変動の予測は織り込み済みか?
• 損益分岐点をどこに置くのか?
• 売れ残った商品の廃棄をどうするのか?
• 販売結果の原因分析はどうやって行えばいいのか?
これらの項目は経営の基本的な知識であったが,アイデアの奇抜さを売り 込むことに終始していた学生にとっては,ビジネスの厳しさを実感する契機 となった.さらに,学生はセブンイレブンの店舗スタッフが行う「仮説・検証」
の手順や採算性の検討方法
2)などについて,店長から多くのフィードバック を受けた.こうして見直した二度目のプレゼンテーションを実施した結果,
キャンパス内で身近にあるセブンイレブンが実は大学と社会との重要な接点
2)勝見明[2014]『なぜ,セブンでバイトをすると3カ月で経営学を語れるのか?実践ストーリー編』
プレジデント社.第1章:セブンイレブン流「仮説力・演出力」をつける(p.8-p.27)参照
であるという気づきを学生と教員で共有した.
しかし,教員にとっては反省すべき点が多かった.2015年度当初に設定し た5つの目標のうち,次の3つについては期待したほどの成果をあげられな かったのである.まず,アイデアを出すというクリエイティブな面はある程 度学生から引き出せたが,学生が協働して仕事を遂行するための組織に変え られなかった.リーダー不在という問題が最初から最後まで解決できず,統 括の仕事を自ら進んで引き受ける責任感のある学生が現れなかった.
次の問題点は,弁当メニューの企画ではアイデアを出しただけで,実際に 販売を行わなかったので,アイデアを評価するのは店長と教員だけになり,
学生がグループの垣根を超えて評価し合うということがなく,プロジェクト に無関係の第三者から感謝されるという機会もなかった.この点については 教員がプロジェクトの再考を迫られることになり,実際に販売まで行うプロ ジェクトを検討することにした.第3の問題点としては,学生どうしで縦と 横のコミュニケーションネットワークをつくれず,互いの距離を埋められな かったことである.これまでも常にプロジェクトベース・ラーニングにおい てはコミュニケーション不足は大きな問題であり,機能不全のグループには 必ずチーム作業に馴染めない学生と事前学習を怠るいわゆるフリーライダー の学生がいる.この問題は田宮[2018]をはじめ,初年次教育に関わっている 多くの教員が指摘している.
3. 2 実際の店舗スペースを借りて顧客からフィードバックを得る
2016年度前期には,新一年生に対して初めからアクティブ・ラーニングの
基礎を指導するという明確な意図があり,ワールドカフェと KJ 法の実践か
ら始めたが,学生の反応は予想よりも鈍かった.この結果を受けて,抽象的
な議論を学生に強いるよりも,彼らが即時的なフィードバックが得られるプ
ロジェクトをすぐに実施すべきとの意見が強まり,セブンイレブンの販売ス
ペースの一部を借りて商品販売コンペティションを行うことになった.もち
ろん,このような実践が可能になった背景には前年度から基礎ゼミナールに
関わってきたセブンイレブン店長が学生指導になお一層協力してくれたから
である.しかも,このプロジェクトは営利目的ではないため,学生の収益予
測ミスをあらかじめ織り込み,そのリスクを承知で学生にビジネスを体験さ
せたのであった.
具体的には,3-4人の少人数グループが上限額500円以内でセブンイレブン の商品を組み合わせたランチ用丼メニュー(「TBGU 丼」)を開発し,店頭で の販売個数を競い合うことになった(写真1).事前に販売数を予測し(売上 目標の設定),販売の実数とどの程度の差異が生じたかを記録した.その結 果を受けて,各グループが検証を行い,二度目のコンペティション(テーマ は冷凍パイナップルを用いて500円のワンコインで楽しめるデザートセット を開発して顧客満足度を投票数で競う)に向けて改善点を議論した(写真2).
最終結果については,参加学生が全員の前でプレゼンテーションを行った.
この経験を通じて,学生が初めて気づいたことは,販売当日の天気や気温,
容器の選択,陳列方法などによって,販売結果に大きな差が出るということ であった.さらに問題になったのは,デザートを試作してみたかどうか,グ ループ内で連絡を密に取れたかどうか,POP 広告を作成したかどうか,商品 のネーミングが魅力的かどうかということだった.そして,それらの正確な 予測ができたかどうかが顧客への販売実数という明確なフィードバックの形 で学生に突きつけられた.以上の経験を踏まえ,前期の学びを総括する反省 会が設けられ,教員からなぜ基礎ゼミナールで販売実践に挑戦するのか,そ
写真1 第1回販売実践
ランチ用丼メニュー:TBGU 丼 写真2 第2回販売実践 デザートの陳列方法を検討する学生たち
してこのプロジェクトについて大学生の「学び」について再考して欲しいと の呼びかけがなされた.
結局,2016年度前期においても解決されない課題が見出された.学生たち の中には,「どうせうまくできない」という周りからの視線をはね返すだけの 意欲が湧かない者もいて,全員が成長を実感するまでには至らなかった.グ ループによっては,全員で集まる機会も少ないままで,チームワークも醸成 されずに終わった.さらに,販売実績も総じて低調であり,その原因は無理 な目標を立てて失望が大きくなるのは嫌だという消極性が,不十分な宣伝活 動や営業努力不足を招くなど負のスパイラルを生じさせたからであった.
2016年度後期に入ると,セブイレブンジャパンのオペレーションフィール ドカウンセラーが合同基礎ゼミナールに参加し,セブンイレブンの新規店舗 開店までのプロセスと2,000人を超える専門家の関わりについてレクチャー を行った.このことがきっかけになり,商品の売り上げとロケーションの関 係に学生が興味を示したので,その因果関係を実証的に学ぶこととした.「セ ブンイレブン学内出張販売 @TBGU」と称して,2張りのテントを学内の別々 の場所に設置して,同じ種類の弁当,おにぎり,パンを販売しその売り上げ を競う実験を行った(写真3,4).その結果,売上を左右したものは,教室を 移動する学生や教員の動線をうまく予測できたか,客単価の高い商品をいか に販売するかなどであった.さらに教員を驚かせる販売分析を行った学生は,
「紅しゃけおにぎりがよく売れたグループは教員を主な顧客ターゲットにし たからだ」と述べ,「実際に紅しゃけおにぎりは単価が高くても,教員によく 売れた」,「逆に価格にとても敏感な学生は単価の高いおにぎりを避ける傾向 が強かった」と鋭い指摘をした.
写真3 学内出張販売実践
利用者で賑わうテント 写真4 学内出張販売実践 POS レジを使用して販売する学生たち
このような販売実験を通じて,学生は自分たちが今まで顧客としての視点 にのみ固定されていたことに気づき,販売する側の立場から営業計画を洗練 していく必要性を実感した.ある学生は,「一つのものを売るまでにたくさ んのことを考える必要があった.自分で経験して初めてものを売る大変さを 知った.売る側が工夫をしていることは知っているつもりでいたが,これほ どまでに深く考えているとは思わなかった.」ということを口にした.
この学期には前述の出張販売に加えておにぎり発注プロジェクトも実施し て,グループではなく個人によるおにぎりの仕入れと販売に踏み込んだ.一 人一人の学生に味と価格の異なるおにぎりを3種類ずつ店長が指定し,気候 の変化,午前や午後の仕入のタイミングと個数,さらには曜日ごとの売行き 傾向をも考えさせて,仕入れから販売まで責任をもって行わせた.この頃に は,学生は店長に迷惑をかけるわけにはいかないという責任を強く意識する ようになった.そのため,学生の意識はいかに「売れ残り」を少なくするかと いうリスク回避に集中した.反面,このプロジェクトでは,仕入数が少なす ぎて本来であればもっと販売個数を伸ばすことができた商品が多々見受けら れた.彼らはその体験を通じていわゆる「機会損失」という概念に初めて気 がつくことになった.販売のプロにとっては「売れ残り」よりも顧客の需要 に十分に応じることができない「欠品」という事態がより深刻でありそれを 避けなければならないが,学生の多くは販売チャンスに賭ける挑戦意欲が弱 かったのである.セブンイレブンの経営手法を研究しているジャーナリスト の勝見(2014)は「挑戦した失敗は次に繋がる」,「挑戦しないで失敗した場合 はそこで終わる」と指摘しているが,このプロジェクトで,学生はまさにその ことを教訓として学んだのである.
店長はプロジェクトを総括する際に次のように述べた.「今年度開始直後 の4月に初めて学生さんたちの表情を見たときよりも,今のほうが数段生き 生きしてきた.以前はみんなの前で話をするとき,[みんな]に向かって話し ていた感じだったが,今は一人一人と話していることを強く感じる.」,「い い結果を生むためにはいいプロセスを経る必要がある.たとえ失敗しても,
いいプロセスを経ていれば,必ずその経験は将来生きてくる.」と学生に対し
て助言した.学生からも,発注の際は過去のデータを見ながら頭が痛くなる
ほど考えたが,結果として欠品を出してしまった失敗はこれからどんな職業
についても活かせると思ったという感想が寄せられた.
翌2017年度には,プロジェクトベース・ラーニングを継続しつつも,それ まで個別に行っていた1年生と2年生の基礎ゼミナールを合体させて,学生 間の横のつながりに加えて縦の関係も構築するという新たな目標を立てた.
3. 3 プロジェクトベース・ラーニングの拡大で見えてきた4つの課題 実際に2017年度前期に入ると,前年度まで本学部が企画運営していた新入 生歓迎のための「ランチフェア」を三つの基礎ゼミナールが合同で引き継い で欲しいという要望を受けた.このイベントは入学して間もない新入生の不 安を軽減し,教職員の交流を図るのが目的であるが,プロジェクト運営のノ ウハウと実績が認められ,合同基礎ゼミナールの2年生が新入生全員分の弁 当,飲み物,デザートを決め,セブンイレブンに発注することになった.そ の際,合同基礎ゼミナールは3つの基礎ゼミナールの1年生20名と2年生13 名を合わせた大グループになった.合計33名の基礎ゼミ生は4グループに分 かれて,ランチフェアを準備することになった.そのうち2グループは,企 画を担当し,残りの2グループは発注と広報をそれぞれ担当することにした.
(写真5,6).
各グループともにプロジェクトの経験を積んだ2年生は1年生の指導をす る際に次のような課題を確認した.
1.グループが同じ方向に向かって進むにはどうしたらいいのか?
2.プロジェクトをどうやって効率よく進めるか?
3.1年生から信頼と協力を得るには何が必要か?
写真5 ランチフェア
1年生を迎える2年生たち 写真6 ランチフェア 会食しながらビンゴを楽しむ新入生
2年生がリーダーシップを発揮できるかどうかがプロジェクトの成否を分 ける鍵であったが,早くも予期せぬトラブルが発生する.2年生の弁当発注 リーダーが必要以上の数の弁当を発注してしまい,何らかの対処をしないと 大量のお弁当を廃棄しなければならないという事態に直面したのであった.
このように急に浮上した第4の課題「予期せぬトラブルが発生したときはど う解決するか?」は,以前からの課題であるリーダーシップの弱さを再度浮 き彫りにすることになった.不幸中の幸いにも,この危機的な状況で発注グ ループの2年生2名が危機管理の主役として登場した.彼らは他学部から本 学部に転学部してきたばかりの学生で,それまで他の基礎ゼミナール生と接 点が少なかった.しかし,彼らが機転を利かせて,学内の教員の研究室を一 つずつ訪ねて,弁当をほぼ売りきり,発注リーダーの失敗をカバーすること ができた.この「事件」をきっかけにこの2名は合同基礎ゼミナールにおける サブリーダー的な地位を獲得していく.
このランチフェアと並行してもう一つのプロジェクトが開始されている.
「TBGU Super Wednesday」と銘打った水曜日のセブンイレブンの販売促進 企画を実施した.ランチフェアと同じグループ分けで,それぞれのリーダー となる2年生が販売促進策を考え,実際に店頭にも立った.6月中の水曜日 に4グループが交代で販売企画を実践し,実際の販売効果も店内で確認した.
前年の経験に基づいて天候,顧客の嗜好,価格への敏感さなどを事前に仮説 立てしていたので,各グループともに概ね販売は好調だった.
しかし,2年生のリーダーシップの問題は必ずしも解決されたとは言えな かった.教員によってグループリーダーに指名された2年生たちの,プロジェ クトに対する姿勢の違いが露呈されたのである.消極的で能動的に関わるこ とをしなかった2年生は1年生をまとめられず協力も得られなかった.その ようなグループでは,2年生はリーダーとして育たず,1年生はグループ構成 員としての自覚ももてないままで終わった.当然,チームワークの醸成は望 むべくもなかったのである.
3. 4 大学をより魅力的に変えるプロジェクトができないか?
2017年度後期に入り,合同ゼミを担当する3人の教員の話し合いの中で,
グループベースのアクティブ・ラーニングの手法をもう一度見直し,ゼミ内
の学生のプロジェクトに対する満足度をさらに高めるよりも,学部の垣根を 超えて他学部の学生や教職員,さらには同じキャンパス内にある専門学校の 学生に喜ばれる企画を実行してみてはどうかという意見で一致した.そこで 着目したのが,本学で定期的に行われている学生生活実態調査であった.全 学部の学生を対象に実施しているこの調査で例年目立つのは,学生が授業の 合間に利用できるカフェなどくつろぎの空間が欲しいとの声だった.そこで,
新たなプロジェクトとしてカフェプロジェクトを始動することとし,セブン イレブン店長の協力も得られることとなった.さらに,店長の尽力で東北文 化学園専門学校インテリア科長の協力を得て,場所を確保でき次第,インテ リア科学生にカフェの内装を担当してもらえることになった.カフェの場所 を選定することは予想以上に難航したが,結局,学内の厚生棟2階の小スペー スに的を絞った.以前出店していた飲食店撤退後も厨房が手付かずで使える 状態になっていることが判明し,それを契機にカフェの開店計画が一気に動 き出したのである.
3. 5 カフェ・ポレポレ始動
このカフェプロジェクトの名称は学生の話し合いのなかで,「カフェ・ポ
レポレ」と決まり(ポレポレはスワヒリ語で「ゆっくり」または「ゆったり」を
表す),今に至るまで学内でカフェ・ポレポレの呼称は使われ続けている.カ
フェ・ポレポレプロジェクトでは,まず初めに33名の学生を4つのグループ
に分けて,それぞれがカフェのイメージを決定し,壁紙やテーブルの種類な
どを選定した.その際,インテリア科長からイメージボードを使って, 「イメー
ジスケール」の表を参考に「イメージパターン」,「カラースキーム」,壁紙の
イメージを決定する方法についてレクチャーを受け,内装の統一感をつくる
方法を学んだ.インテリアのプロから学んだこれらの手法を基にして,各グ
ループが運営するカフェのコンセプトを「ウッディー」, 「ヨーロピアン」, 「ナ
チュラル」と「フレッシュ」,「シック」と「落ち着いた」の組み合わせにそれぞ
れ決定した.各グループは専門学校に出向き,様々な壁紙の中から自分たち
のテーマに最適のものを選び,施工を依頼した(写真7).次に学内の各所に
ある椅子とテーブルをリサーチした学生たちは,実際にカフェスペースにそ
れらを配置してみて,事前のイメージと合わない場合には別のものに交換す
るなどの試行錯誤を重ねた.そして,各グループは2017年10月10日(火)に 教職員向けプレオープンを経て,10月11日(水)から毎週水曜日にそれぞれ のテーマでカフェ・ポレポレを運営することとなった(写真8).
カフェ・ポレポレのプレオープンと第1回目のカフェ・ポレポレは前例の ないプロジェクトを成功させたいという緊張感と高揚感もあり,予想以上の 成功を納めたと言っても過言ではない.
しかし,第2回目のカフェ・ポレポレの際に問題が明らかになった.最大 の問題はリーダーが責任を果たさず,欠席が多かったのである.その背景に あるのは,学生がトラブルの原因を過小評価したがる傾向が強いということ と,たとえ問題の重要性を理解していたとしても,リーダーが他の学生を巻 き込んで解決方法を協力して見つける力が弱いという点にある.この時点で は,学生は一人一人孤立し,状況に関する問題意識すら共有できていなかっ た.そのため,早急に何らかの対策を打たなければ,第3回のカフェ・ポレポ
レを開くことさえ困難な状況となった.幸いにもこの状況を救ったのは,前 期のランチフェアで,過剰発注分の弁当を教員に販売した2名の学生であっ た.彼らはこの際にも危機管理のリーダーとして活躍し,最終的にはプロジェ クト統括リーダーの職務を引き継ぐまでになった.残り2回のカフェ・ポレ ポレは既にカフェの運営を経験していたグループの学生が運営を自主的にサ ポートしたため,円滑に実施することができた.
以上の経験を踏まえて,会場のスペースをさらに3倍程度広げてカフェ・
ポレポレを行いたいという学生の要望が強まり,2017年12月6日に「プレミ アムオープン」を開催することを決めた(写真9,10).それに備えて,カフェ
写真7 カフェ・ポレポレ準備
インテリア科学生による壁紙施工 写真8 第1回カフェ・ポレポレ テーマ「シック,落ち着いた」
運営のシステムを見直し,ホール係,キッチン係,洗い場係,客案内係,設営係,
ポスター係,発注係,音楽係の職務ごとのリーダーが週に一度授業時間外に 自主的に集まって教員とともに課題を協議する「チーフ会議」を行うことに なった.
統括責任を引き継いだ新たな2年生リーダー 2人は,教員研究室とセブン イレブン店長室を頻繁に往復して,さらにサブリーダーをも巻き込んだ組織 づくりに活躍した.今まで,授業外で学生が自主的に学事に関するミーティ ングを開いたことがなかったことを考えると,基礎ゼミナールの学生たちの 間に芽生えた協働力は特筆すべきことであった.それが可能になった要件と して挙げておきたいのは,セブンイレブン店長室に集う学生たちの熱気で あった.教室でもなく,教員研究室でもなく,キャンパス内で実社会と学生 をつなぐパスファインダー(指南役)として店長が果たした役割は非常に大 きかった.
しかしながらカフェ・ポレポレの問題点としていまだに解決できていない ことは,リーダーシップ継続の問題である.突出した力量をもつ唯一無二の リーダーがいないため,全体を統率するためには複数リーダー制でソフト リーダーシップ制を採用するしか選択肢がない.そのため,学年が変わるた びに,2年生のリーダーの力量不足によって,プロジェクト全体の出来が大 きく影響されてしまう.それは,2年生が1年次に経験したことを下級生に 伝え指導する力が欠けているということでもある.これらの問題はいまだに 教員間では明確な解決策を見いだせていない.しかし,2017年度後期の特徴 は,この年の2年生の統括リーダーがこの問題を重要視していて,翌年3年生
写真9 プレミアムオープン
バックヤードで準備をする学生たち 写真10 プレミアムオープン クリスマスをテーマにした拡大版カフェ・ポレポレ
に進級して基礎ゼミナールの履習を終了しても後輩を指導して,後継リー ダーを育てるということを教員に申し出たことである.本来は2年間で終わ る基礎ゼミナールの人間関係が,3年生の統括リーダーの登場によって,1年 生から3年生までの比較的強固な協力関係が築かれることになる.
3. 6 5人の女子学生によるシンクタンク方式を開始
2018年度前期に入ると,前年度から浮上した新2年生のリーダーシップ養 成に本格的に取り組むことになった.初めて下級生を指導する立場になった 2年生は,意欲と覚悟はあるつもりであったが,現実には想定外の厚い壁に 直面することとなった.新たに選ばれた統括リーダーの下で,前年度同様に 1年生と2年生が4グループに分かれて,キャンパス内の2ケ所に設置したテ ントおよび校内でセブンイレブンの商品を2日に分かれて昼休みに出張販売 を行なった.その結果は,1グループを除いて残りの3グループは予想外に 悪い販売結果となった.一番の問題は,2年生どうしで安易な意思決定を行い,
その決定事項を1年生と共有する努力を怠ったことだった.2年生は1年生 への連絡を LINE のメッセージで一方的に送りつけ,1年生から返信がほと んどないことに憤りを感じていた.一方で,1年生は2年生の意図や意思決 定のプロセスを知ることができず,送られたメッセージの意味をほとんど理 解できなかった.この状況を受けて,2年生の統括リーダーは,自分だけが 努力しても他の学生が非協力的で一生懸命さが足りないので,統括リーダー の役割を辞したいと申し出た.そこで,教員とセブンイレブン店長が協議し た結果,この状況を救う鍵になるのは2年生女子5人であり,彼らが統括リー ダーを支える「シンクタンク」方式を後期から採用することにした.
後期が実際に始まると,2年生女子5人がセブンイレブン店長室に少なく とも週に一度のペースで集まってカフェ運営のためのミーティングを自主的 に開始した.この学期には,小規模のカフェ・ポレポレ2回と拡大したカフェ・
ポレポレ・プレミアムを1回開催することになり,その成功のために前期に
休みがちで非協力的だった3人の男子学生にカフェオープン時に現場を仕切
る責任者を命じた.これらの対策によって,2年生の指導力が目に見えて向
上することになった.この学期の特徴は2年生と1年生のコミュニケーショ
ンが明らかに改善され,教員が気づく前に学生自身が対策を立てて実行する
ことが増えた.その結果,全3回のカフェ・ポレポレは成功裏に終わった(写 真11,12).学生に育った自主性は,プロジェクトを総括するプレゼンテーショ ンを全学の教職員に対して実施したいという学生自身による提案にもつな がった.授業外に自主的に作成されたプレゼンテーションの内容は,疑問提 示から批判的考察,解決策の提案,意見を補足する事例の引用にいたるまで,
彼らの予想外の成長を示していた.
4.終わりに
これまで3年に渡って,カフェプロジェクトを行ってきて,本学部以外の 教職員から広く認知されるようになった.2018年度後期の学生反省会には 他学部の教職員に参加してもらいフィードバックをもらえるようになった.
特に,学生たちにとってはそれが非常に大きな励みになった.なぜなら,初 めて反省会に参加した教職員が異口同音に学生たちは大人としてフォーマル なビジネスの振る舞いが出来ていた,さらに,体験したことを分かりやすい 言葉で伝えることができていると高評価を与えたからであった.このことか ら言えることは,最初からプロジェクトを指導していた教員と学生のみの参 加する反省会では新たな気づきを得るのが難しい側面があるのに対して,第 三者の意見はそれまで「当たり前」だと思っていたことが「素晴らしいこと」
あるいは「期待以上の成果」だと認識させてくれる.学びにはこのような驚 きが不可欠であるならば,プロジェクトは常に第三者の評価を最終的に制度 化する必要がある.そのような評価を通じて得た学生の気づきは彼らの将来 につながる糧となることは否めないのではないか.
写真11 カフェ・ポレポレ
接客について1年生に指導する2年生 写真12 プレミアムオープン ハロウィンをテーマにした拡大版カフェ・ポレポレ
このカフェ・ポレポレのプロジェクトベース・ラーニングはある種の汎用 性があり,企業の積極的な関与が可能であれば,小学校から大学まで同様の プロジェクトを起ち上げて,早い段階から系統的に生徒や学生の協働力を養 成することができるのではないだろうか.多くの先行研究が指摘しているよ うに,企業がコミュニティの構成員として教育機関と手を携えれば,互恵的 な関係を築くことができる.それは同時に,教育を教育機関の中にとどめず に,コミュニティ全体で人材を育てて,その人材がコミュニティの未来を支 えていくという好循環を生み出すことになる.本研究がそのような新たな教 育システムの発展に寄与することを望む.
参考文献
勝見明[2014],『なぜ,セブンでバイトをすると3カ月で経営学を語れるのか?実践ストー リー編』,pp.8-27,プレジデント社
田宮憲[2018],「社会人基礎力養成演習における授業設計とその問題点」『帝京大学学修・
研究支援センター論集』第9巻,pp.91-105.
長尾秀吉[2015],「今,なぜ若者の社会人基礎力を高める体験活動なのか」『生活体験学習 研究』第15巻,pp.1-9.
本田由紀[2009],『教育の職業的意義―若者,学校,社会をつなぐ』ちくま書房 経済産業省[2006],「社会人基礎力に関する研究会―中間取りまとめ―」
経済産業省[2006],「社会人基礎力に関する緊急調査」