平成 28 年度
野 根 川 ア ユ 生 息 状 況 調 査
報 告 書
2016 年 12 ⽉
たかはし河川⽣物調査事務所
はじめに 四国東南部を流れる野根川は、全国屈指の清流 で、かつては美味しいアユ(清流めぐり利きアユ 会でグランプリを獲得したこともある)がたくさ ん釣れることで、多くの釣り客で賑わう河川であ った。しかし、近年は天然遡上量が減少し、漁獲 量の減少とともに、釣り客も少なくなっている。 アユが減少した原因についてははっきりしたこ とは分からないが、河川内での問題点として、農 業用取水堰や砂防ダムによる移動阻害や渇水時の 瀬切れ現象、産卵期の過剰な漁獲圧等が指摘され ている。また、近年海域の水温が上昇したことで 仔アユの海での生残率が低下していることも指摘 されている。 このような問題に対し、魚道の改修等が始まる とともに、野根川漁協では産卵期の保護強化も実 施されている。さらには天然アユを地域資源とし て見直したうえで、地域振興に活用しようとする 新たな取り組みも始まっている。 本調査は、アユの生息状態を把握し、現在進行 している対策(魚道の改修や産卵期の保護強化 等)の効果を検証するとともに、必要な追加対策 を検討するために行っている。 2016 年 12 月 たかはし河川生物調査事務所 代表 高橋勇夫
目次 はじめに 1.アユの生息状態(分布・成長) ・・・・・・・・・・・ 1 1) 春季 ・・・・・・・・・・・ 2 2) 秋季 ・・・・・・・・・・・ 5 2.アユの生息数の推定 ・・・・・・・・・・・ 7 1) 水面面積の概算 ・・・・・・・・・・・ 7 2) 2016 年 5 月時点のアユの生息数の推定 ・・・・・・・・・・・ 7 3) 2016 年 10 月時点のアユの生息数の推定 ・・・・・・・・・・・ 8 4) 野根川に必要な親魚数の試算 ・・・・・・・・・・・ 8 3.アユの産卵場 ・・・・・・・・・・・ 10 1) 産卵場の位置と形状 ・・・・・・・・・・・ 10 2) 産卵場の規模 ・・・・・・・・・・・ 11 3) 産卵場の環境 ・・・・・・・・・・・ 12 4) 親魚の降下 ・・・・・・・・・・・ 12 5) まとめ ・・・・・・・・・・・ 12 4.魚道の改修 ・・・・・・・・・・・ 13 1. 改修の対象とした魚道 ・・・・・・・・・・・ 13 2. 改修方法 ・・・・・・・・・・・ 14 3. 改修工事 ・・・・・・・・・・・ 17 4. 改修降下の確認(今後の課題)・・・・・・・・・・・ 20 参考文献 ・・・・・・・・・・・ 21 付属資料
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1.
アユの生息状態(分布・成長)
1. 調査方法 1) 調査時期 春季:2016 年 5 月 5 日 2016 年は 4 月から降雨が多く、調査の 2 日前にも 80mm 程度の降雨があり、水位はやや 高めであった。 秋季:2016 年 10 月 24 日 2) 調査地点 野根川の河口(国道)~県境(真砂瀬)までの本川に10 地点の調査定点を設けた(図 1-1 の○ の地点)。春季調査では全地点を対象とし、秋季調査では6.余家頭首工を除く 9 地点で行った。 図 1-1 野根川での潜水観察地点(図中の○印)- 2 - 3) 調査方法 各調査地点とも瀬と淵(トロを含む)において、潜水観察により生息密度、サイズ(全長を5cm ピッチで区分)、異常魚の発生状況を把握した。生息密度は観察個体数を観察面積(観察幅×移動距 離)で除することで算定した。 2. 結果と考察 1) 春季 (1) 調査時の水温と有効視界 潜水調査時の水温と有効視界を表1-1 に示した。 水温は16.4~17.8℃(平均 17.2℃)で、冷水病を発症しやすい温度帯(16~21℃)に入っていた。 有効視界(潜水して魚種を判別できる距離)は、3.5~5.0m(平均 4.1m)と良好であった。そのた め潜水観察の際のアユの発見率(実生息数の何%を実際に発見したかという値)の補正は行わなか った。 (2) 生息密度と分布 2016 年の 5 月上旬におけるアユ(放流を含む)の生息密度を付表 1 に示すとともに図 1-2 には瀬 と淵における生息密度を示した。 5 月時点でのアユの生息密度は 0~12 尾/m2で全地点の単純平均は、瀬で0.62 尾/m2、淵(堰堤直 下を含む)で2.0 尾/m2であった。ただし、鴨田頭首工、長峰頭首工、余家頭首工の堰直下を除いた 淵の平均値は0.36 尾/m2であった(付表1)。淵における生息密度の値(0.36 尾/m2)は普通程度のも のであるが、瀬における密度0.62 尾/m2はやや低く(野根川の現状の河川環境であれば、瀬で1.5~ 2 尾/m2のアユを十分収容できる)、天然アユ資源の少なさが懸念されるレベルである。今後大幅な 増加がなければ、解禁当初はある程度釣れても、その後不調となる可能性が高いと判断される。 アユの分布を概観すると、鴨田頭首工直下と長峰頭首工直下ではアユの生息密度が突出して高く、 水温 (℃) 有効視界 (m) 1. 国道 17.0 5.0 2. 押野橋 16.6 4.0 3. 鴨田頭首工 16.4 4.0 4. 名留川 17.1 4.0 5. 長峰頭首工直下 17.3 4.0 6. 余家頭首工下流 17.4 4.0 7. 黒瀬 17.8 4.0 8. 大斗 17.7 4.0 9. 川口 16.8 4.0 10. 真砂瀬 17.4 3.5 平均 17.2 4.1 地点 2016/5/5 表 1-1 春季調査時の水温と有効視界
- 3 - かつ、これらの地点で観察されたアユの多くが図1-3 に示したようにやや痩せ気味であった(堰堤 をスムーズに遡上できないと、過密による餌不足で痩せた状態となりやすい)ことを考え合わせれ ば、この2 つの堰堤がアユの遡上の阻害要因となっていることは明白である。 図 1-2 5 月上旬におけるアユの生息密度 図 1-3 鴨田頭首工の直下で撮影したアユ(やや痩せ気味の個体が多い) 0 2 4 6 8 10 12 14 1. 国道 2. 押野 橋 3. 鴨田 頭首工 鴨田頭首 工直下 4. 名留 川 5. 長峰頭 首工直 下 6. 余家頭 首工下 流 余 家頭首工 直下 7. 黒瀬 8. 大斗 9. 川口 10 . 真砂瀬 生息密 度(尾 /m 2) 2016/05/05 瀬 渕
- 4 - (3) 成長 瀬において観察できたアユの全長組成を図1-4 に示 した。天然アユと放流アユが混じっているため、地点 間に一定の傾向は見出し難かったが、下流の押野橋や 国道地点では後期の遡上群が多く観察されたため、 5-10cm のアユの比率が高かった。漁獲サイズである 15cm 以上の個体の比率は、0~30%であったが、ほぼ 全地点で確認された。最大サイズは17cm 程度であっ た。 (4) 異常魚(冷水病など)の発生状況 潜水調査時に国道橋上流の淵(右岸側)で、アユの 死体(全部で21 個体)を観察した(図 1-5 左)。一部 を採集し、外観を観察すると、鰭の付け根に出血痕が あり(図1-5 右)、冷水病を発症して斃死した可能性が 高いと考えられた。 図 1-4 瀬におけるアユの全長組成(5 月) 図 1-5 国道橋上流の淵の観察したアユの斃死個体 瀬 0 50 100 押野橋 0 50 100 <5 5-10 10-15 15-20 >20 全⻑(cm) 国道 2016/5/5 0 50 100 鴨⽥頭⾸⼯ 0 50 100 名留川 0 50 100 ⻑峰頭⾸⼯ 0 50 100 余家頭⾸⼯ 0 50 100 ⿊瀬 0 50 100 ⼤⽃ 0 50 100 川⼝ 0 50 100 真砂瀬
- 5 - 2) 秋季 (1) 調査時の水温と有効視界 潜水調査時の水温と有効視界を表1-2 に示した。 水温は16.6~19.2℃(平均 18.2℃)で、冷水病を発症しやすい温度帯(16~21℃)に入っていた。 有効視界(潜水して魚種を判別できる距離)は、4.5~5.0m(平均 4.6m)と非常に良好であった。 そのため潜水観察の際のアユの発見率(実生息数の何%を実際に発見したかという値)の補正は行 わなかった。 表 1-2 秋季調査時の水温と有効視界 (2) 生息密度と分布 2016 年 10 月上旬におけるアユの生息密度を付表 2 に示すとともに図 1-6 には瀬と淵における生 息密度を示した。 10 月下旬時点(産卵開始時期)でのアユの生息密度は 0.01~0.54 尾/m2で全地点の単純平均は、 瀬で0.31 尾/m2、淵で0.16 尾/m2であった(付表1)。5 月時点からは瀬・淵ともほぼ半減していた。 5 月時点では鴨田頭首工直下と長峰頭首工直下ではアユの生息密度が突出して高かったが、10 月 時点では全域でほぼ均等になっていた。通常、産卵期になると産卵域となる下流部(野根川では押 野橋から下流)にアユが降下するために下流部の密度が高くなるが、そのような傾向は認められな かった。 水温 (℃) 有効視界 (m) 1. 国道 18.7 4.5 2. 押野橋 18.7 4.5 3. 鴨田頭首工 19.2 4.5 4. 名留川 18.9 4.5 5. 長峰頭首工直下 18.0 4.5 6. 余家頭首工下流 7. 黒瀬 18.0 4.5 8. 大斗 17.7 5.0 9. 川口 16.6 4.5 10. 真砂瀬 18.0 4.5 平均 18.2 4.6 地点 2016/10/24
- 6 - 図 1-6 10 月下旬におけるアユの生息密度 (3) 成長 観察できたアユの全長組成を図1-7 に示した。いず れの地点でも中心サイズは 15-20cm にであった。20-25cm のアユも 2~40%の割合で観察され、28cm 程度 の個体も観察されたが、春季から生息密度が低かった ことを考えると(餌の競合が少ないため大きく成長し やすい)、成長は“良好”とは言えない。 (4) 異常魚(冷水病など)の発生状況 潜水調査時に疾病などの異常魚は確認されなかっ たが、国道橋上流の淵で、夏季の追加放流と思われる 小型のアユの群れを観察した。 図 1-7 瀬におけるアユの全長組成(10 月) 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1. 国道 2. 押野橋 3. 鴨田頭首工下流 4. 名留川 5. 長峰頭首工下流 7. 黒瀬 8. 大斗 9. 川口 10 . 真砂 瀬 生息密度(尾 /m 2) 2016/10/24 瀬 渕 0 50 100 押野橋 0 50 100 5-10 10-15 15-20 20-25 >25 全⻑(cm) 国道 2016/10/24 0 50 100 鴨⽥頭⾸⼯ 0 50 100 名留川 0 50 100 ⻑峰頭⾸⼯ 0 50 100 ⿊瀬 0 50 100 ⼤⽃ 0 50 100 川⼝ 0 50 100 真砂瀬
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2.
アユの生息数の推定
1. 使用した資料 ① 1/25,000 地形図 ② 航空写真(Google map) 2. 結果と考察 1) 水面面積の概算 野根川の河口(正確には国道55 号線の野根川大橋)~徳島県との県境までを対象とした。この 間の流程を 1/25,000 地形図からプラニメーターで読み取り、平均川幅は航空写真(Google map: 2016/11/8)から読み取った。両者を乗じて区間ごとに水面面積を概算した(表 2-1)。 対象区間の水面面積は約28.5 万 m2であった。なお、この面積はごく概算であるため誤差は大き いと考えられる。今後、より正確にするために簡易測量を行うことが望ましい。 表 2-1 地形図と衛星写真から測定した野根川(野根川漁協管轄区域)の水面面積 2) 2016 年 5 月時点のアユの生息数の推定 アユの生息数は水面面積×生息密度によって算定される。本調査では生息密度を瀬と淵(トロを 含む)で測定したため(付表1)、区間ごとに瀬・淵の平均密度を用いた。 2016 年 5 月上旬における河口~徳島県との県境まで野根川本川のアユの生息数は約 14 万尾と推 定され(表2-2)、平均密度は 0.5 尾/m2と、かなり低い値となった。この中には放流魚が含まれてい ることを考え合わせると、2016 年の天然アユの資源水準は 10 万尾程度で、天然アユの資源水準は かなり低下していると言わざるを得ない。 瀬 淵 合計 1区 国道橋~押野川合流点 25 1,660 7 : 3 29,366 12,585 41,951 2区 押野川合流点~余家頭首工 27 3,250 8 : 2 61,615 17,604 79,219 3区 余家頭首工~大斗頭首工 23 3,500 7 : 3 55,125 23,625 78,750 4区 大斗頭首工~県境 14 5,400 6 : 4 54,270 31,011 85,281 小計 13,810 200,375 84,826 285,201 河川幅:Google Mapからの読み取り 流程:1/25000地形図からプラニメータで読み取り 野根川 本川 河川幅(m) 瀬と淵の比率 河川 流程 (m) (瀬:淵) 区間 漁場面積(m 2)- 8 - 表 2-2 5 月における河口~県境の間の野根川本川のアユの生息数の推定 3) 2016 年 10 月時点のアユの生息数(親魚数)の推定 5 月と同様の方法でアユの生息数を推定した。 10 月におけるアユの生息数は約 7.9 万尾と推定され(表 2-3)、平均密度は 0.28 尾/m2となった。 5 月からの減少数は 6 万尾で、この間の生残率は約 55%と計算される。 表 2-3 10 月における河口~県境の間の野根川本川のアユの生息数の推定 4) 野根川に必要な親魚数の試算 野根川におけるアユの遡上範囲の上限を徳島県海陽町久尾の池ヶ谷川(筆者は過去に池ヶ谷川 でアユを観察したことがある)合流点付近とすれば、漁場面積は表2-1 に示した 29 万 m2のおよそ 1.5 倍の 45 万 m2となる。この間の期待される生息密度を1.5~2 尾(1990 年代の高知県における 標準的な生息密度)とすれば、期待される生息数は下記の通り68~90 万尾と算定される。 1.5~2.0 尾 m2/×45 万 m2=68~90 万尾 この中間的な値である80 万尾を野根川の資源目標とし、これをすべて天然アユで確保するとす れば、表2-4 のように 9~19 万尾の親魚が必要となる。なお、近年高知県では海域での生残率がか なり悪い(0.05~0.025%:筆者未発表データ)年が頻発しており、19 万尾を確保すべき親魚数の 目標値とすることが望ましい。 瀬 淵 合計 瀬 淵 1区 国道橋~押野川合流点 29,366 12,585 41,951 0.96 1.11 42,161 2区 押野川合流点~余家頭首工 61,615 17,604 79,219 0.38 0.15 26,054 3区 余家頭首工~大斗頭首工 55,125 23,625 78,750 0.67 0.17 40,950 4区 大斗頭首工~県境 54,270 31,011 85,281 0.57 0.11 34,345 小計 200,375 84,826 285,201 143,510 2016/5/5 漁場面積(m2) 生息密度(尾/m2) 推定生息数 (尾) 野根川 本川 河川 区間 瀬 淵 合計 瀬 淵 1区 国道橋~押野川合流点 29,366 12,585 41,951 0.39 0.21 14,096 2区 押野川合流点~余家頭首工 61,615 17,604 79,219 0.24 0.02 15,140 3区 余家頭首工~大斗頭首工 55,125 23,625 78,750 0.30 0.31 23,861 4区 大斗頭首工~県境 54,270 31,011 85,281 0.37 0.19 25,972 小計 200,375 84,826 285,201 79,068 2016/10/24 野根川 本川 河川 区間 漁場面積(m 2) 生息密度(尾/m2) 推定生息数 (尾)
- 9 - 19 万尾を目標値とすれば、2016 年の親魚数はその半分にも満たず、海域での生残率が良い年に 当たらなければ、資源の回復は難しい状況にある。ただし、野根川の河川規模を考慮すれば回復 が困難と判断されるようなレベルでもなく、今後とも産卵期の保護対策等を継続すれば、資源の 回復が期待できる*。 表 2-4 野根川に 80 万尾の天然遡上を確保するために必要な親魚数の試算
* 高知県内の河川で、産卵期の保護を強化している新荘川、安田川、奈半利川等では天然アユ資源が増加傾向にあ るのに対して、調整規則に基づいた保護しか行っていない河川では、資源が危機的な状況にある。 項目 計算値 根拠・計算式 池ヶ谷川合流点から下流の野根川本川の漁場面積(m2) A 粗い概算 期待される生息尾数 B 遡上から解禁までの生残率(%) C 90年頃の放流魚の歩留まり 天然比率100%でまかなう場合の目標遡上量(尾) D B/C×100 回帰率(%) E 0.1 ~ 0.05 必要流下量(億尾) F 13 ~ 27 D/E×100 卵のふ化率(%) G 内田(2006)より 必要卵数(億粒) H 22 ~ 44 F/G×100 メス1gあたり抱卵数(粒) I 内田ほか(2006)より 産卵期必要なメスの総重量(kg) J 2778 ~ 5,556 H/I 産卵期のメスの平均体重(g) K 産卵期に必要なメスの個体数(尾) L 46,296 ~ 92,593 J/K 産卵期に必要なアユの個体数(尾) M 92,593 ~ 185,185 L×2 60 450,000 800,000 60 1,333,333 60 800
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3.
アユの産卵場
1. 調査方法 1) 調査時期 2016 年 11 月 22 日 2) 調査地点 例年、アユの産卵場が形成される野根川の河口(国道)~押野橋までの本川を対象とした。 3) 調査方法 調査対象区域内のすべての瀬 において潜水し、産着卵の有無を 確認した。産着卵が確認された地 点では産卵範囲(面積)の概略的 な測量を行うとともに、産卵床へ の砂泥の混入状況、産着卵の埋没 状況(深度)を観察あるいは測定 した。 4. 結果と考察 1) 産卵場の位置と形状 位置 調査対象区域には8 ヵ所の 瀬が存在し、そのうち2 ヵ所(S3: 国道から500m 上流、S5:国道から 1km 上流)でアユの産卵が確認さ れた(図3-1)。 図 3-1 調査対象の瀬とアユの産卵場の位置- 11 - 形状 アユの産卵が確認されたS3・S5 の瀬におけるアユの産卵範囲を図 3-2 に示した。産卵場は 河道がカーブし、流れが変化するような瀬に形成されていた。直線的な瀬(S2、S4、S6、S7)は 河床の礫が大きく、産卵には不適当と判断された。 図 3-2 アユの産卵場の形状 2) 産卵場の規模 確認できたアユの産卵場の面積は、160 m2および185 m2で、2 つの産卵場の合計面積は 345m2で あった(表3-1)。しかし、その全面に卵が認められる産卵場はなく、産卵床が点在する状態であっ た。野根川の河川規模に対しては産卵規模はやや小さく、その原因として、親魚の不足が考えられ た。 表 3-1 産卵場の面積・最小水深・卵の埋没深・水温 10m S5の瀬(国道から1km上流) S3の瀬(国道から500m上流) 産卵面積 水温 (m2) (℃) S3 160 10~12 18.3 S5 185 5~8 17.9 平均 173 18.1 合計 345 埋没深 (cm) 産卵場
- 12 - 3) 産卵場の環境 アユは産卵場として浮き石底の瀬を選択する(石田, 1967)。そのような場所では卵が礫間深くま で埋没しやすく、食害や流失の被害が軽減される。そのため、卵の埋没深は産卵場の良否の目安と なり、10cm 以上の埋没深があれば「良好」な産卵場と判断できる(高橋, 2007)。 野根川の産卵場におけるアユ卵の埋没深(平均値)は、S3 の産卵場では 10~12cm で、S5 では 5~8cm であった(表 3-1)。S3 産卵場の埋没深は 10cm を超えており、自然産卵場としては良好な 値を示した。一方、S5 では礫間に砂分が多く、卵の埋没が阻害されていると判断された。 4) 親魚の降下 調査対象区域とした押野橋下流では、親魚の密度は高くなく(平均的には1 尾/m2程度)、上流 からの降下がかなり遅れていると推察された。調査当日、鴨田堰の上流2 カ所で瀬切れしており (図3-1)、産卵域への降下が完全に阻害されていた。野根川では頻繁にこのような瀬切れが生じ ており、アユの回遊に悪影響を及ぼしている。 5) まとめ 野根川のアユの産卵場の規模は345 m2と、河川規模に対してやや小さいと判断された。これは産 卵環境の悪化によるものではなく、産卵域の上流での瀬切れにより産卵域にまで親魚が降下できず、 親魚不足となっているためと考えられた。 産着卵の埋没深は、10cm 以上と自然産卵場としてはかなり良好な値を示しており、産卵場の造 成等の保全策が必要な状態とはなっていないと判断された。 調査の際に観察された卵のうち発眼しているものはごく少なく、また、水温も18℃前後であった ことから、本格的な産卵に入ってあまり時間が経過していないと推定された。したがって、野根川 では近年のアユの産卵は11 月下旬あたりから盛期を迎えている可能性が高く、12 月中も活発な産 卵が行われると推定される。天然アユの資源量を増加させるためには、親魚の保護は必須であり、 少なくとも鴨田堰から下流は12 月の再解禁は行うべきではない(この区域を再解禁すると、天然 アユは確実に減少する)。さらに、瀬切れ等のアクシデントを考慮すれば、10 月の禁漁以降の再解 禁は、資源量が回復(目安は解禁直前で80 万尾)するまでは見送るべきであろう。
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4.
魚道の改修
1. 改修の対象とした魚道 1) 鴨田頭首工(図 4-1) 中央部階段式魚道では上部隔壁が損壊しており、それを修復する。右岸側魚道では通水量が多 すぎるため、呑口敷高を嵩上げするとともに、植石部に粗石を追加する。 図 4-1 鴨田頭首工と改修対象とした魚道(黄色い枠内) 2) 長峰頭首工(図 4-2) 左岸側の粗石付き斜路式魚道は、植石の方法を間違っている上に、大部分の植石が損壊してい る。今回は、その一部(左岸端から3m 程度)を修復する。 図 4-2 長峰頭首工と改修対象とした魚道(黄色い枠内)- 14 - 2.. 改修方法 2 基の堰堤における改修方法をとりまとめるとともに、施工業者との確認事項などについて以下 に整理した。 1) 鴨田頭首工 (2) 中央部魚道 ◆改修箇所:①上部隔壁損壊部分(図4-3)と②呑口(隔壁の摩耗が激しい) 図 4-3 魚道上部の損壊部分と呑口 ◆改修方法:①粗石石組みをコンクリで巻いて隔壁構造に(図4-4) 図 4-4 石組みの事例とコンクリート打設状況 ◆改修方法:②呑口→残存する隔壁に植石し、コンクリで巻く(呑口の強化) ★確認事項 ・ バックーホーの進入路 ・ 生コン搬入方法 ・ 石材の確保(現地調達)
- 15 - (2) 左岸魚道 ◆改修箇所:①上部植石部分に追加植石と②呑口改良(図4-5) 図 4-5 左岸側魚道の改良箇所 ◆改修方法:①植石追加(中央部魚道と同様の植石方法) ◆改修方法:②呑口→最上段の呑口をコンクリで嵩上げ ★確認事項 ・ 石材の搬入(道路からバックホーで吊り降ろしは可能?) ・ 生コン搬入方法(同上) ・ 石材の確保(現地調達) その他:右岸魚道の最下端(上り口)の簡単な段差(図4-6)解消方法があれば施工 図 4-6 左岸側魚道最下端 呑口の敷高を上げる (コンクリ打設) 植石追加
- 16 - 2) 長峰頭首工右岸側粗石付き斜路式魚道 ◆改修箇所:①植石やりかえ(魚道右岸端から3m 程度)(図 4-7) ②堰堤上流取水口付近への巨石投入(図4-7) 図 4-7 左岸側魚道の改修箇所 ◆改修方法:①列状に植石する(図4-8)。 図 4-8 石組みの事例と完成後の通水状況のイメージ ◆改修方法:②取水口上流側への巨石配置:巨石を斜めに中央部に向けて配置 ★確認事項 ・ 石材の確保(480 個の現地調達は可能か?) ・ 石材の搬入(バックホーで吊り降ろしは可能?) ・ 生コン搬入方法(右岸の平地からクレーン?) 巨石配置(堰堤よりも上流) (洪水時の損壊防止+接近流速の緩和) 植石のやり直し (コンクリ打設)
- 17 - 3. 改修工事 2 基の堰堤における魚道の改修状況について以下に整理した。 1) 鴨田頭首工 (2) 中央部魚道 中央部魚道の改修(損壊した隔壁の修復)状況を図4-9 に、完成した魚道を図 4-10 に示した。 図 4-9 鴨田頭首工中央部魚道上部の損壊部分の改修工程
- 18 - 図 4-10 中央部魚道上部の損壊部分の改修完了 (2) 左岸魚道 左岸魚道の改良(植石追加・通水量制限のための呑口の嵩上げ)の作業工程を図4-11 に示し た。 図 4-11 左岸側魚道の改良工事
- 19 - 2) 長峰頭首工右岸側粗石付き斜路式魚道 右岸魚道の改修(植石)状況を図4-12 に、完成した魚道を図 4-13 に示した。魚道呑口の上流側 には、洪水時に流れてくる土石を魚道からそらすために径1m 程度の岩を配置した。また、魚道下 流側では、河床低下を防ぐために径1~1.5m 程度のコンクリート塊(河原に散乱していたもの) を埋めた。 図 4-12 長峰頭首工右岸側植石魚道の改修工程
- 20 - 図 4-13 改修完了
4. 改修効果の確認(今後の課題)
今回行った2 基の堰堤における魚道改修の効果について、次年度春季にアユの遡上状況を指標
- 21 - 参考文献
石田力三. 1967. アユの産卵生態-V, 産卵場の構造. 淡水研報, 17(1): 7-19.
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