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潜在ランク理論によるHRQOL(健康関連QOL)の解釈可能性の検討

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心理的援助活動を考えるうえで, Quality of life(以 下,QOL とする)は無視することのできない概念となっ ている。QOL のなかでも,健康状態に由来する要素 に 限 定 さ れ た Health related quality of life( 健 康 関 連 QOL: 以下,HRQOL とする)は,すでに医療・保健・ 福祉領域等における援助活動に利用されている。 HRQOL を 測 定 す る 尺 度 は MOS Short-Form 36-Item Health Survey( 以 下,SF-36 と す る )( 福 原・ 鈴 鴨, 2004), World Health Organization Quality of Life Instruments(WHOQOL)(田崎・中根, 1997),EuroQol 5 Dimension(EQ-5D)(日本語版 EuroQol 開発委員会, 1998)などが存在し,日本語訳も示されている。これ らを用いて対象集団の HRQOL を測定する実態調査や, 介入の効果を検討するアウトカム評価がしばしば行わ れている。HRQOL は地域住民やコミュニティの健康 状態を測定し,健康増進に役立てるうえで重要な指標 といえる。 HRQOL を心理臨床や医療・保健活動への指標とし て活用するにあたっては注意すべき点がある。山崎・ 福原(2007)は,HRQOL 研究の課題の 1 つとして,「個 人レベルでの応用」を挙げている。すなわち,「現在 使用されている HRQOL 尺度のほとんどは,グループ 間の比較には役立つが,患者から得た HRQOL スコア に対して解釈を加えて患者に還元することができな い」(Fukuhara, Yamazaki, Hayashino, & Green, 2007)の である。これは言い換えれば,臨床現場や地域での個 別的な援助における利用が困難であるといえる。 個人への適用や臨床的な応用における困難性は QOL という概念の不安定さに起因すると考えられる。

潜在ランク理論による HRQOL(健康関連 QOL)の

解釈可能性の検討

白神 敬介

1 上越教育大学 

川野 健治

 立命館大学

Interpreting health-related quality of life using latent rank theory

Keisuke Shiraga (Joetsu University of Education) and Kenji Kawano (Ritsumeikan University) Health-related quality of life (HRQOL) is a useful evaluation measure of medical, health, and welfare activities, but it is difficult to apply it at the individual level. To solve this problem, we analyzed a widely used HRQOL instrument, the Medical Outcomes Study short form-36 (SF-36), using latent rank theory (LRT) to try to identify findings useful for supporting health care activities. We analyzed data from 2952 people obtained in a population health survey. In Analysis 1, we examined the feasibility of applying LRT. In Analysis 2, we performed qualitative interpretation analysis of the LRT results of Analysis 1 to determine more effective use of support activities in local public health care. Analysis 1 showed that LRT could properly extract information from SF-36 data. In Analysis 2, the LRT results allowed for the classification of each subject based on HRQOL status. The method would therefore be useful for determining appropriate interventions and selecting subjects for interventions. This study demonstrated a new methodology to more effectively use HRQOL measures in health care and psychological support.

Key words: latent rank theory, health-related quality of life, SF-36, assessment. The Japanese Journal of Psychology

2018, Vol. 89, No. 3, pp. 251–261

J-STAGE Advanced published date: July 14, 2018, doi.org/10.4992/jjpsy.89.16212

Correspondence concerning this article should be sent to: Keisuke Shiraga, Graduate School of Education, Joetsu University of Education, Yamayashiki-machi, Joetsu 943-8512, Japan. (E-mail: shiraga@juen. ac.jp)

1 お忙しいなか本研究への助言と激励を頂きました荘島 宏二

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Calman(1987)によれば,QOL の定義が研究者によっ て様々であったり,いくつもの調査票の開発が個別に 行われてきたため,定義や評価方法がいくつも存在し ている。そのため,QOL を測定するための様々な種 類の測定器具(質問紙尺度)や,そのなかの項目,回 答選択肢の多様性によって,臨床実践家は QOL の意 味を理解するのが困難なのである(Schünemann, Akl, & Guyatt, 2006)。 QOL 測定尺度のほとんどは,身体的健康,社会的 健康といった複数の下位尺度からなり,またそれら下 位尺度はさらに複数の質問から構成されるかたちと なっている(松田, 2004)。これは,「QOL は多次元 の要素から構成される」という共通理解によるもので ある。たとえば,HRQOL に関する代表的な尺度の 1 つである SF-36 は,3 因子構造と 8 因子構造の 2 種類 でスコアリングが可能であり,それぞれに尺度得点が 算出される。ゆえに個々の対象者の QOL について細 かいプロフィールを得ることができる。 SF-36 のようないわゆる包括型の HRQOL は,対象 者の状態に関する多彩な情報を提示可能であるが,そ れは必ずしも実際の援助的介入に有用であるとはいえ ない。対象者の HRQOL の状態についての細かい得点 が示されたとしても,それぞれの得点を解釈する基準 が明確でなければ実際の援助活動に用いるには不便で あり,また HRQOL が細かく分類されていることに よって,簡潔に対象者の HRQOL を把握することが難 しい場合がありうる。たとえば,SF-36 の場合では, 身体の領域では比較的高い得点を示す一方で,精神や 社会的領域では低得点であるような状態が考えられ る。 HRQOL の個人レベルでの適用を検討するために は,スコアに対する意味づけが明確でなければならな い。つまり,ある対象者の得点が 10 点であった場合に, それが良い状態なのか,悪い状態なのかについて判断 の基準が必要となる。カットオフ値を設定することは, こうした判断の基準を提供することになるといえる。 しかし,カットオフ値の使用のような二分法的判断 を行うにあたっては質問紙調査によって得られた尺度 得点がもつ誤差が問題となる。心理尺度を用いて得ら れたスコアは,対象者の心理状態や精神健康状態の推 測に用いられ,一般的に尺度得点は連続量として示さ れる。しかし,心理尺度の測定誤差は大きいため,連 続量として扱うには信頼性が低く,カットオフのよう な二分法的な査定を用いる限り,心理尺度における 1 点の変化はほぼ誤差の範囲であるにもかかわらず,そ の変化を過大視してしまう危険性が存在する。ゆえに 誤分類の可能性が大きいと考えられる(清水・大坊, 2014)。 こうした危険性は,HRQOL に限らず,心理尺度を 用いるうえでの基本的な限界といえる。そもそも,現 実の健康状態は,連続量で示されるほど細かく区分す ることはできない。たとえば,尺度得点が 0 点から 30 点の幅を持つ場合,10 点の対象者と 11 点の対象者 に具体的な症状において明確な差異を見出すことは難 しい。つまり,心理尺度は,体重計などのようなスコ アの違いが対象者の状態をかなり正確に反映する機器 と異なり,解像度が低い(荘島, 2009)のである。 HRQOL の臨床的解釈の方法論 質問票を用いた大規模調査として集団全体の健康状 態を調べることを目的とした場合には,個人の回答に 伴う誤差はそれほど問題にならない。同時に,地域や 属性の異なる集団間の比較を行うことで,得点の相対 的な判断が可能となるため,得点の評価に絶対的な基 準点を必ずしも要しない。しかし,HRQOL の得点を もとに,個人への介入を検討するうえでは,誤差を踏 まえて個人に適用可能な得点の解釈が求められる。つ ま り, 得 点 の 解 釈 可 能 性 に つ い て の 明 確 な 方 法 (Schünemann et al., 2006)が必要といえる。 Schünemann et al.(2006)はこうした得点解釈の問 題に対する解法として,3 つの方法を整理している。 1 つ目は,得点分布をもとにした二分化(Dichotomized items) で あ る。2 つ 目 は, 項 目 反 応 理 論( 豊 田 , 2002) を 使 っ た 方 法 で あ る。3 つ 目 が Minimal important difference(MID) を 用 い る 方 法 で あ る。 Schünemann et al.(2006)は,項目反応理論による方 法は尺度の項目に明確な難易度の勾配がつけられるよ うな尺度でなければ適用できないとして,MID の使 用を推奨している。MID もしくは Minimal important change(MIC),Clinically important differences(CID) などの臨床的有意性の指標は,近年の HRQOL 研究に おいて積極的に導入されているものである。しかし, これらの指標についても連続量で示される以上,対象 者への臨床的介入のための判断の基準として分布のど こに境界線をひくか,すなわち閾値の設定をいかに行 うかという問題がある。やはり得点の解釈の問題が存 在するのである。 こ こ ま で の 議 論 に お け る 課 題 を 整 理 す る と, HRQOL の個人レベルでの応用においては関連した 2 つの課題がある。1 つは,HRQOL のもつ多次元的特 性ゆえの複雑性,もう 1 つは得点を解釈する基準の曖 昧性である。個人への適用が困難であるという事態が, HRQOL の援助的介入への利用を限定的なものとして いる。HRQOL は集団だけではなく,個人の健康状態 を把握する重要な指標といえるが,現状においては個 人を対象とした臨床的解釈は困難である。 潜在ランク理論の適用 本研究では以上のような課題を踏まえ,既存の HRQOL 尺度の個人への適用を含めた解釈可能性の検

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討を目的として,潜在ランク理論による分析を行う。 潜在ランク理論とは,自己組織化マップ(Kohonen, 1995)のメカニズムを利用したテスト理論であり (Shojima, 2008),ニューラルテスト理論(Neural Test

Theory)とも呼ばれる。潜在ランク理論は,「学力を 段階評価するためのテスト理論」との指摘がある(小 泉・飯村, 2010)ように,学力テストなどに基づく能 力を複数の段階にランク付けする,あるいはテストの 標準化,等化を可能とするものである。さらに,学力 テストのような正解・不正解で表わされる 2 値データ への適用だけでなく,心理尺度のようなリッカート尺 度(段階評定)に適用可能なモデルも提案されており, 様々な領域での応用発展が進められている。 潜在ランク理論は,クラスタ分析や潜在クラス分析 のように,調査票で得られた得点をもとに回答者をい くつかのグループに分類する。同時にこれらのグルー プには順序性が仮定されるため,単なるグループ分け ではなく,そのグループは他のグループと比較して良 い状態なのかどうかといった状態の程度に関する情報 を含んだランクとして把握される。そのため,ランク 自体が順序尺度の性質をもつという特徴がある。つま り,項目反応理論のような連続量で表示するのではな く,ランクという予め区切られたグループに対象者を 分けることができるため,連続量で示される得点のど こを線引きして対象者を分けるかという問題をクリア できるのである。 潜在ランク理論を用い,ランクごとの特徴を記述す ることで,各ランクに属する調査対象者らがどのよう な状態にあり,どういった介入によってより良い状態 (ランク)に移行できるかを検討することができる。 このことは,ランクごとに異なる介入指針を立てられ るということを意味する(清水・大坊, 2014)。ラン クごとに援助方針を検討できることで,個人レベルで の応用へとつながるだろう。こうした援助方針の検討 においては,量的分析から得られた妥当性の高い知見 をもとにしながら,臨床現場の知見を踏まえた実用的 なツールの作成が求められることが先行研究において も課題とされている(清水・大坊, 2014)。特に,地 域での援助活動を実施するうえで,対象者が理解しや すく,自らの状態改善に活用しやすい情報として心理 的健康に関する情報をフィードバックできることが望 ましい。そのことは被災地のような援助資源が不足し がちな地域において,主体的な健康改善を求めるうえ で重要であるといえる。ゆえに,本研究では,心理面 に関連する健康情報を有効活用するうえで,量的分析 に留まっていた先行研究の課題を踏まえ,地域で活用 可能な情報整理をねらいとした質的分析も取り入れる ことによって地域での援助活動に資する知見の検討を 行う。 研究目的 本研究は HRQOL の情報を再構成し,個人レベルで の応用を可能とすることで,臨床現場や地域での援助 的介入への適用を促進することを目的とする。言い換 えれば,HRQOL の解釈可能性と臨床的実践のための 方法論の検討である。分析対象となる尺度は,代表的 な包括的な HRQOL である SF-36 である。この目的を 達成するために,量的分析の結果を踏まえた質的分析 の実施が有効であると考えた。これにより,新たな質 的分析の枠組みの提示を目指した。 分析方針 既存の尺度のもつ情報を適切に再構成し,臨床現場 の対象者に適用可能なものとすることが目的であるた め,本研究は 2 段階の分析プロセスを持つこととした。 第 1 段階は,量的分析である潜在ランク理論によって, データの二次分析を行う。第 2 段階は,第 1 段階によっ て得られた分析結果を,より現場へ還元可能な情報を 構成するための質的な解釈的アプローチである。 HRQOL の解釈可能性と臨床的実践は,各臨床現場 や地域でどのような情報が使いやすいか,どういう情 報が支援者にわかりやすいかという点に依拠するた め,各地域や支援者ごとに求められる情報の内容は異 なる可能性がある。一方で,情報を再構成する,いわ ば分析のプロセス自体は,心理統計的な手法に基づく ため,どのような地域においても基本的な流れは同じ である。 そのため,本研究は,情報の再構成に至る分析につ いては,一般化可能なモデルとして量的分析に基づく 検討を進める。そのうえで,分析結果をより有効に使 いやすいものとするプロセスについては,援助者の解 釈可能性を優先した解釈的分析を行った。 本研究では,潜在ランク理論による分析を用いて精 神的健康調査票(General Health Questionnaire: 以下, GHQ とする)の検討を行った先行研究(清水・大坊, 2014)と同様に,スクリーニングの枠組みにおける査 定やフィードバックを想定し,検討を行った。スクリー ニング結果のフィードバックは容易ではないが,ラン クによる評価と各ランクの意味的な解釈により,より 有用なフィードバックのあり方について試作的に検討 可能になると考えられる。 方  法 分析データ 岩手県沿岸部A町で行われた住民健康調査で取得さ れたデータを分析データとした。当該地域を研究対象 としたのは,もともと著者らが当該地域への支援活動 に関与しており,住民健康調査の実施における協力を

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関係者から要請された経緯があったためである。住民 健康調査は自治体の事業として単体で行われたもので あり,調査実施にあたっては研究者は技術提供と調査 実施のサポートのかたちで協力した。調査対象者は, A町に住民票を有し,A町に居住する 18 歳以上の者 であった。8,887 人に調査票を配布し,2,952 人から得 られたデータであった(回収率 33.2%)。調査項目は, SF-36,K6 の既存尺度の他,医療受診の有無に関する 項目や,性別,年齢などのデモグラフィック変数であっ た。分析データ内の SF-36 尺度の得点ならびに,関連 する他の変数を本研究の分析対象データとして分析を 行った。調査対象となったデータの平均年齢は 62.62 歳(SD = 15.51),男性の割合は 40.1% であった。 分析項目 SF-36 SF-36 は,対象を限定しない包括的 QOL 尺 度であり,日本人の国民標準値が得られているという 特徴を持つ。36 の質問項目からなり,因子構造とし て 3 因子もしくは 8 つの下位因子が想定されている。 36 個の設問には,それぞれ回答選択肢が設けられ, 設問によって選択肢の数と内容は異なるが,いずれも 3 件法から 7 件法で構成される評定法である。分析に あたっての回答の得点化は,SF-36 マニュアル(福原・ 鈴鴨, 2004)に準じた。 本研究では潜在ランク理論の結果と対比するうえ で,8 つの下位因子と 3 因子のコンポーネント・サマ リー・スコアを用いた。得点は国民標準値をもとに検 査した偏差得点である。数値が高いほど QOL の状態 が良いと解釈できる。尺度得点は,SF-36 の既存プロ グラム(SF-36 ver2 スコアリングプログラム,エクセ ル版)を用いて算出した。 K6  K6 は Kessler らによって開発された抑うつ傾 向のスクリーニング尺度であり,6 つの質問項目から 構 成 さ れ て い る( 古 川・ 大 野・ 宇 田・ 中 根, 2003; Kessler et al., 2002)。K6 は,うつ,自殺を含む精神疾 患に対して高い検出力をもつことが確認されており, 日本語版についても尺度の妥当性と信頼性が示されて いる(Furukawa et al., 2008)。 分析方法 潜在ランク理論の分析には,Exametrika version5.3(荘 島, 2011)を用いた。Exametrika の分析により,Item reference profile(項目参照プロファイル : IRP),Rank membership profile(ランク・メンバーシップ・プロファ イル : RMP)などの指標が得られる。IRP とは,各潜 在ランクに属する対象者らの項目(設問)ごとの期待 得点を示している。RMP は各対象者が,それぞれの 潜在ランクにどの程度所属する可能性があるかについ ての所属確率を示す。 分析にあたっては,SF-36 の 36 項目全てを投入し, サンプルサイズを考慮して分析手法は LRT-SOM とし, 段階モデル(graded latent rank (LRT) model)で分析を 行った。事前分布ならびに単調増加制約は仮定しな かった。 分析 1 では,潜在ランク理論によって SF-36 尺度得 点の再構成を行うことで新たな得点解釈を検討した。 くわえて SF-36 の既存の因子構成との比較検討を行っ た。これにより,新たに導出された得点解釈(潜在ラ ンク)が,既存の因子構成がもっていた情報を失うこ となく,より良い情報の集約が実現できているかどう かの検討ができる。 分析 2 では,潜在ランク理論によって導き出された SF-36 の得点解釈(潜在ランク)を実際の援助活動で 利用しやすいものにするための整理を行った。SF-36 の潜在ランクがもつ数理的情報を毀損することなく, 対人援助に利用可能なものとなるよう,潜在ランク理 論による分析から示された指標をもとに,尺度の設問 や回答の表現内容に着目して各ランクの内容の検討を 行った。 倫理的配慮 本研究で用いるデータについては,調査の実施に先 立ち,国立精神・神経医療研究センター倫理委員会に よる承認を得た。 本研究では,当該自治体と倫理的配慮について確認 を行い,住民健康調査で取得されたデータの二次利用 について許可を得た。住民健康調査の手続きとして, 調査説明書に調査の目的,調査への協力が任意である こと,統計的な数値としての結果の公表,ならびにプ ライバシーの保護についての説明が記載され,自治体 保健師が調査票を担当地域に配布した。調査票への回 答と回収をもって,対象者が調査に同意したものとみ なされた。調査は記名式で行われたが,研究者に調査 データが提供される際に,個人を特定可能な情報はす べて消去された。 分析 1 の結果と考察 潜在ランク数の推定 最初に適切な潜在ランク数を決定するため,ランク 数を 2 から 15 に設定した分析から得られた結果の比 較検討を行った。適合度指標として,情報量規準の BIC と CAIC を検討し,ランク数が 5 の場合に最小で あった。さらにランク数が 5 つのモデルでの RMSEA の値は .044 であり,適合度は高かった。以下,ラン ク数を 5 として検討を行った。 SF-36 の尺度得点と潜在ランクの情報量 Table 1 に,5 つの潜在ランクの SF-36 の因子分類ご との平均値を示した。

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SF-36 の尺度得点は 50 点が国民標準値となるよう 標準化された得点である。ランクの水準が上がるにつ れて,どの因子についても平均得点の上昇がみられた。 よって,潜在ランクの順序性が SF-36 のもつ因子を適 切に反映しているといえる。 また,ランク 4 とランク 5 は概ね 50 点以上の平均 値を示しており,これらのランクが良好な健康状態に 対応しているという解釈の手がかりを得た。 うつ傾向(K6 尺度得点)との関連性 K6 得点と SF-36 因子,潜在ランクとの相関を検討 した。まず,SF-36 の既存の因子構造である 8 因子あ るいは 3 因子の得点と潜在ランクの順位相関係数を算 出したところ,どの項目でも概ね中程度の相関がみら れた(Table 2)。次に潜在ランクと K6 の順位相関係 数を算出した。K6 と潜在ランクの順位相関係数は, SF-36 の既存の 8 因子や 3 因子との順位相関係数と比 べても,同程度以上の相関係数を示した(Table 2)。 ゆえに,5 つの潜在ランクは,5 段階に尺度を縮約し ても,K6 で表される精神的健康度との関連性をもっ た HRQOL に含まれる情報の損失はほとんどみられな いといえる。 分析 1 のまとめ 5 つの潜在ランクは,SF-36 全体が表す QOL を適切 に要約しており,うつ傾向といった QOL に大きく関 連する変数との関係性も十分に反映する,実用性を もったものであると考えられる。 分析 2 の結果と考察 分析 2 では,分析 1 より得られた 5 つのランクと IRP をもとに,SF-36 尺度を用いた QOL 評価の可能 性を探索した。 分析 2 の背景 5 つの潜在ランクを各現場で運用するにあたって Table 1 SF-36 の因子構造と潜在ランクとの関係 潜在 ランク 下位 8 因子(標準化得点) 身体機能 日常役割機能 (身体) 体の痛み 全体的 健康感 活力 社会生活機能 日常役割 機能 (精神) 心の健康 1 M 12.47 21.01 33.63 33.71 34.21 35.88 24.88 34.71 SD (15.88) (12.20) (8.75) (9.40) (9.25) (13.50) (12.97) (10.05) 2 M 32.89 35.08 40.95 41.93 41.10 41.65 38.59 40.84 SD (14.47) (10.24) (8.80) (8.84) (8.83) (11.56) (10.28) (9.42) 3 M 44.40 45.11 45.49 47.23 46.05 47.59 47.46 46.12 SD (10.75) (9.65) (9.62) (8.18) (8.34) (10.21) (8.36) (8.51) 4 M 50.95 52.94 51.37 51.83 49.64 51.72 54.43 50.40 SD (7.37) (5.18) (8.83) (7.77) (7.88) (8.26) (3.68) (7.25) 5 M 55.08 54.77 57.12 59.83 58.27 55.27 55.69 57.71 SD (3.76) (3.61) (6.82) (7.19) (7.27) (5.39) (2.64) (6.48) サマリースコア(3 因子)

身体的 QOL 精神的 QOL 役割/社会的 QOL 1 M 20.41 46.43 31.79 SD (14.67) (10.99) (14.22) 2 M 36.79 46.45 40.81 SD (13.87) (12.27) (13.60) 3 M 45.16 47.30 48.55 SD (11.55) (11.13) (11.75) 4 M 51.21 49.32 53.73 SD (8.64) (8.23) (7.45) 5 M 55.07 58.83 51.45 SD (5.43) (7.02) (4.92)

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は,健康調査の対象者や援助者にとってわかりやすく, かつ実用的なものである必要がある。つまり,各ラン クに属する対象者がどのような健康状態にあり,どう いった働きかけによってより良い状態(ランク)に移 行することができるのかを具体的に理解可能でなけれ ばならない。 ここでは,潜在ランクの意味内容を理解するために IRP を分析する。SF-36 の場合,36 個の設問それぞれ に潜在ランクごとの IRP が示される(Table 3)。IRP は数値化された回答選択肢のリッカート得点に対応す ると理解できる。 たとえば,項目 14 の「仕事やふだんの活動が思っ たほど,できなかった」という設問についてランク 3 の IRP が 4.11 であるので,4 点の回答選択肢「まれに」 を選択する傾向がみられ,あるいはランク 2 の IRP が 3.46 であるので,3 点の回答選択肢「時々」を選択す る傾向にあると解釈できる。 IRP の整理の基準 IRP の整理の仕方については理論的に大まかに 2 つ の方法が考えられる。1 つは,何らかの外部基準を用 いて整理する方法である。既存の方法では分布をもと に設定されたカットオフを用いる場合などがありう る。潜在ランク理論においては,「項目カテゴリ参照 プロファイル(ICRP)」もしくは「境界カテゴリ参照 プロファイル(BCRP)」がこれに該当する。 もう 1 つは,尺度が持つ情報を利用・整理する方法 であり,いわば尺度内に存在する内的な基準を用いる ものである。具体的には SF-36 の設問や回答選択肢の 説明文がもつ意味内容を参照し,IRP を解釈する方法 である。 前者の方法は,数理的な厳密性を担保することを強 調する一方で,解釈の困難性が増すという側面がある。 反対に後者の場合は,結果の解釈と応用を行い易くす る一方で,数値のもつ情報を一部捨象することとなる。 本研究では現場の活動への実践性を重視するという立 場から,後者の内的基準を参照する方法を採用するこ ととした。 IRP に基づく潜在ランクの内容理解 内的基準を参照して IRP を整理する場合,定式が あるわけではない。本研究の場合はデータの特徴を反 映しつつ,援助活動に活かすことを考慮しなければな らないため,各項目の回答選択肢の意味内容を重視し た。以下の作業においては質的分析を専門とする第 2 著者が基本的な方針と分析を行い,分析の過程で第 1 著者と協議を行いながら進めた。最終的な分析結果は 心理統計学の専門家を交えた合議により導き出した。 まず,IRP を各項目の回答選択肢の表現に注意しつ つ概観した。たとえば,項目 6「階段を数階上までの ぼる」の調査票上の選択肢表現は,1「とても難しい」, 2「少し難しい」,3「ぜんぜん難しくない」であるが, IRP を見ると,ランク 1 が 1.91 点で,ランク 2 から ランク 5 は 2.20 から 2.88 点であった。つまり,ラン ク 1 からランク 2 への移行を項目 6 の表現に沿って理 解するならば,「階段を数階上までのぼることが『と ても難しい』」から「階段を数階上までのぼることが『少 し難しい』」へと変化することであるといえる。援助 的介入の内容を検討するうえで,この変化は重要であ ると考えられる。こうした回答選択肢に表現される状 Table 2 K6 得点と SF-36 尺度得点,潜在ランクとの Spearman 順位相関係数 潜在ランクと の相関係数(ρ) 95% 信頼区間 SF-36 下位 8 因子 (標準化得点) 身体機能 .78 ** .77 ─ .80 日常役割機能(身体) .82 ** .81 ─ .83 体の痛み .68 ** .66 ─ .70 全体的健康感 .73 ** .71 ─ .74 活力 .69 ** .67 ─ .70 社会生活機能 .57 ** .55 ─ .60 日常役割機能(精神) .79 ** .78 ─ .81 心の健康 .69 ** .67 ─ .71 SF-36 サマリースコア (3 因子) 身体的 QOL .69 ** .68 ─ .72 精神的 QOL .38 ** .34 ─ .41 役割/社会的 QOL .52 ** .49 ─ .54 K6 得点 –.69 ** –.71 ─ –.67 ** p < .05

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Table 3 SF-36 項目における潜在ランク理論による IRP 項目       設問 ランク 1 ランク 2 ランク 3 ランク 4 ランク 5 1 あなたの健康状態は? 3.81 3.58 3.30 3.05 2.86 2 1年前と比べて,現在の健康状態はいかがですか 3.65 3.43 3.20 3.03 2.91 3 激しい活動,例えば,一生けんめい走る,重い物を持ち上 げる,激しいスポーツをするなど 1.41 1.57 1.80 2.05 2.27 4 適度の活動,例えば,家や庭の掃除をする,1 ─ 2 時間散歩 するなど 1.97 2.25 2.58 2.81 2.91 5 少し重い物を持ち上げたり,運んだりする 1.94 2.23 2.54 2.77 2.89 6 階段を数階上までのぼる 1.91 2.20 2.53 2.76 2.88 7 階段を1階上までのぼる 2.11 2.42 2.72 2.88 2.94 8 体を前に曲げる,ひざまずく,かがむ 2.03 2.30 2.58 2.78 2.88 9 1キロメートル以上歩く 1.85 2.16 2.52 2.76 2.88 10 数百メートルくらい歩く 2.11 2.42 2.72 2.89 2.95 11 百メートルくらい歩く 2.32 2.58 2.83 2.94 2.98 12 自分でお風呂に入ったり,着がえたりする 2.69 2.83 2.94 2.99 3.00 13 仕事や普段の活動をする時間を減らした 2.95 3.46 4.08 4.54 4.76 14 仕事や普段の活動が思ったほど,できなかった 2.91 3.46 4.11 4.61 4.83 15 仕事や普段の活動の内容によっては,できないものがあった 2.99 3.51 4.11 4.57 4.79 16 仕事や普段の活動をすることが難しかった 2.95 3.54 4.21 4.66 4.85 17 仕事や普段の活動をする時間をへらした 3.10 3.65 4.28 4.70 4.87 18 仕事や普段の活動が思ったほど,できなかった 3.08 3.62 4.25 4.68 4.88 19 仕事や普段の活動がいつもほど,集中してできなかった 3.04 3.58 4.19 4.64 4.85 20 過去1ヵ月間に,家族,友人,近所の人,その他の仲間と の普段のつきあいが,身体的あるいは心理的な理由で,ど のくらい妨げられましたか。 2.39 2.10 1.71 1.41 1.24 21 過去1ヵ月間に,体の痛みをどのくらい感じましたか 3.66 3.27 2.81 2.33 1.96 22 過去1ヵ月間に,いつもの仕事が痛みのために,どのくら い妨げられましたか。 3.00 2.59 2.08 1.63 1.36 23 元気いっぱいでしたか 3.35 3.01 2.60 2.26 2.00 24 かなり神経質でしたか 3.15 3.40 3.73 4.08 4.36 25 どうにもならないくらい, 気分がおちこんでいましたか 3.42 3.75 4.15 4.47 4.67 26 おちついていて,おだやかな気分でしたか 3.41 3.18 2.86 2.52 2.22 27 活力(エネルギー)にあふれていましたか 3.94 3.63 3.23 2.79 2.41 28 おちこんで,ゆううつな気分でしたか 3.26 3.57 3.94 4.28 4.54 29 疲れはてていましたか 2.91 3.18 3.50 3.81 4.09 30 楽しい気分でしたか 3.56 3.38 3.10 2.78 2.48 31 疲れを感じましたか 2.61 2.84 3.10 3.39 3.68 32 過去1ヵ月間に,友人や親せきを訪ねるなど,人とのつき あいが,身体的あるいは心理的な理由で,時間的にどのく らい妨げられましたか 3.59 3.85 4.19 4.48 4.67 33 私は他の人に比べて病気になりやすいと思う 3.16 3.51 3.92 4.27 4.52 34 私は,人並みに健康である 3.66 3.37 2.99 2.59 2.22 35 私の健康は,悪くなるような気がする 3.04 3.39 3.77 4.12 4.40 36 私の健康状態は非常に良い 3.79 3.50 3.14 2.73 2.35 注)表中の IRP の数値は,SF-36 各設問の回答選択肢表現に基づき解釈される。SF-36 の選択肢表現は,Table 4 もしくは SF-36 日本 語版マニュアル(福原・鈴鴨, 2004)を参照のこと。

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Table 4 IRP をもとにした SF-36 項目の潜在ランク構造 項目 番号 回答選択肢 IRP ランク 5 ランク 4 ランク 3 ランク 2 ランク 1 1 2. とても良い 2.86 3. 良い 3.05 2 2. 1年前よりは,やや良い 2.91 3. 1 年前とほぼ同じ 3.03 29 4. まれに 4.09 3. 時々 3.81 3 2. 少し難しい 2.05 1. とても難しい 1.80 22 1. 全然妨げられなかった 1.63 2. 僅かに,妨げ られた 2.08 24 4. まれに 4.08 3. 時々 3.73 28 4. まれに 4.28 3. 時々 3.94 27 2. ほとんど いつも 2.79 3. 時々 3.23 30 2. ほとんど いつも 2.78 3. 時々 3.10 33 4. まれに 4.27 3. 時々 3.92 35 4. まれに 4.12 3. 時々 3.77 36 2. ほとんど いつも 2.73 3. 時々 3.14 13 4. まれに 4.08 3. 時々 3.46 14 4. まれに 4.11 3. 時々 3.46 15 4. まれに 4.11 3. 時々 3.51 16 4. まれに 4.21 3. 時々 3.54 17 4. まれに 4.28 3. 時々 3.65 18 4. まれに 4.25 3. 時々 3.62 19 4. まれに 4.19 3. 時々 3.58 20 1. 全然,妨げられなかった 1.71 2. 僅かに,妨げられた 2.10 21 2. かすかな痛み 2.81 3. 軽い痛み 3.27 23 2. ほとんど いつも 2.60 3. 時々 3.01 25 4. まれに 4.15 3. 時々 3.75 26 2. ほとんど いつも 2.86 3. 時々 3.18 31 3. 時々 3.10 2. ほとんど  いつも 2.84 32 4. まれに 4.19 3. 時々 3.85 34 2. ほとんど いつも 2.99 3. 時々 3.37 4 2. 少し難しい 2.25 1. とても難しい 1.97 5 2. 少し難しい 2.23 1. とても難しい 1.94 6 2. 少し難しい 2.20 1. とても難しい 1.91 9 2. 少し難しい 2.16 1. とても難しい 1.85 注)項目 7,8,10,11,12 はランク移行に対応する IRP の変化がみられなかったため表中に記載しなかった。

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態を手がかりとすることで,対象者のランク移行のた めの援助的介入の内容が具体的に検討可能となるから である。 ゆえに,2 つの隣接するランクに対応して IRP の整 数得点が変化している場合に,その項目がランク移行 にとって意味のある項目であると判断し,解釈を行っ た。また,IRP が 2 つ以上のランク移行と関連して得 点変化がみられる場合は,IRP の差が大きい場合を採 用した。 上記の方針をもとに,ランク間の差異の特徴がわか るように項目を並べ替えたものが Table 4 である。各 ランクの意味内容を理解するという視点で Table 4 を 解釈すると,たとえば,ランク 1 とランク 2 の違いは, 掃除や散歩,階段をのぼる,重い物を持ち上げるといっ た日常的な行為が「とても難しい」と感じる人々がラ ンク 1 に含まれ,「少し難しい」と感じる人々がラン ク 2 に含まれていると理解できる。同様にランク 3 と ランク 2 の違いとしては,仕事や普段の活動ができな いといった生活上の支障が「まれに」ある人々がラン ク 3 に含まれ,「時々」である人々がランク 2 に含ま れると理解できる。 こうした解釈をもとに,本研究で示された各潜在ラ ンクの特徴をできるだけ包括的に理解できる表現とな るよう Table 5 にまとめた。各ランクに含まれる人々 がどのような状態であるのかを理解するうえでは Table 4 の内容が主であるが,Table 5 に示したのは各 ランクを理解するうえでのおおまかな特徴を示すもの である。 潜在ランクを用いた対象者の層別化 Figure 1 に潜在ランクごとの対象者の分布を示した。 Figure 1 中には,各潜在ランクに含まれる対象者の所 属確率の分布も示した。所属確率は潜在ランク理論に よって算出される RMP による。RMP が最も高かった ランクを対象者の所属ランクとして,対象者を各ラン クに分類した。5 つの潜在ランクは概ね同程度の数の Table 5 潜在ランクの内容説明の例文 内容説明 ランク 5 ときどき疲れを感じることはあるが,おおむね良好な状態にある ランク 4 普段の活動はできており,自分の健康状態をほとんどいつも良いと感じ,比較的良好な状態である が,昨年と比べて改善された感じがなく,疲れ果てていると感じるときがある ランク 3 普段の活動はできており,健康を感じていることが多いが,活力がなく,メンタルヘルスの不調を 感じるときがある ランク 2 心身の不調で普段の活動ができず,おだやかでいられないことがある ランク 1 全般的な心身の不調に加え,歩く,ものを持ち上げるといった基本的な行動ができないことがある 389 216 242 80 361 58 136 159 227 70 33 88 109 112 51 27 80 79 87 51 38 60 60 77 44 0 100 200 300 400 500 600 700 ランク1 (n = 545) ランク2 (n = 581) ランク3 (n = 652) ランク4 (n = 585) ランク5 (n = 580) 人 数 50%台 60%台 70%台 80%台 90%台 Figure 1. 潜在ランクと所属確率ごとの回答者の数。

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対象者が含まれていた。 対象者の所属しているランクへの所属確率が低いと いうことは,それだけ他のランクに所属する確率が存 在していることを意味する。つまり,所属確率が低い 者ほど,高い方のランクや低い方のランクの両方を含 め,他のランクに移行しやすいと解釈できる。これは, 同一のランク内において,介入の効果が現れやすい者 と現れにくい者を分類していると理解することができ る。潜在ランクを用いることで,介入対象者を選定す る際,介入の優先度を検討する手掛かりが得られると いえる。 分析 2 のまとめ 分析 2 では,IRP と SF-36 の項目内容をもとに潜在 ランクの解釈を行った。結果,潜在ランクごとの HRQOL の違いが明文化され,各ランクに属す対象者 の状態を知ることができた。さらに,所属確率と併せ て検討することで,介入すべき対象者とその手段に関 する手掛かりが得られるものとなった。 総 合 考 察 潜在ランク理論の実施可能性と意義 本研究では 2 段階の分析プロセスを経ることによっ て,潜在ランク理論を用いた分析の妥当性の検証と, 得られた分析結果の実践的利用の可能性について検討 を行った。 分析 1 では,潜在ランク理論によって SF-36 尺度得 点の再構成を行い,新たな得点解釈を検討した。既存 の因子構成や他の尺度との相関を見ると,適切に情報 の縮約が行われていた。そして,分析 2 では,潜在ラ ンク理論によって導き出された SF-36 の潜在ランクを 利用しやすいものにするための整理を行った。特に, 援助的介入における解釈可能性を重視した結果,潜在 ランクの意味内容は具体的な説明文として表現され た。対象者はそれぞれの潜在ランクに所属確率をもと に振り分けられ,対象者の状態を簡便に把握すること が可能となり,介入の必要性についての検討材料が提 示された。 ただし,介入を行うべきグループや個人をいかに判 断すべきかは,地域や臨床現場のリソースに依存する。 そうした実情と Figure 1 で示された潜在ランクの分布 を合わせることで,支援の優先度を検討することが可 能となる。また,潜在ランクは,介入を要する対象者 を判断するだけではなく,どのような介入が適切であ るかの具体的な手がかりを示すものでもある。Table 4 に示されたように,各ランクごとに取りうる回答選択 肢は異なる。もし,ランク 1 に含まれる対象者をラン ク 2 に移行させることを目指すのであれば,関連する 項目への回答パターンが変化しうる働きかけが有効で あろう。具体的には,ランク 2 とランク 1 では身体的 活動に関する項目で回答パターンに違いが現れてお り,散歩をしたり,階段をのぼるなどの活動への困難 性を和らげるような支援が重要であるといえる。同時 に,その支援の評価は,同項目を使い,回答の変化を 見ることによって可能である。 まとめ 本研究により HRQOL 尺度である SF-36 の個人への 適用可能性が検討され,潜在ランク理論は HRQOL の 解釈可能性を促す有用な分析手法であることが示され た。HRQOL 尺度を個人に適用するうえでは,尺度の もつ複雑な情報を適切に整理し,得点の解釈を実用的 なかたちで提示することが必要であった。潜在ランク 理論により,尺度が備えていた情報量を適切に縮約し, HRQOL の状態として十分に理解可能な数として,順 序的情報を備えた 5 つのランクが示された。対象者は 各ランクに分類され,個々に所属確率をもつ。ゆえに, 対象者個人を理解するうえで,当人が所属するランク の内容から,各対象者がどのような状態にあり,どう いった介入が効果的であるかを知ることができるとと もに,他のランクへの移行可能性を推測することがで きる。つまり,潜在ランク理論によって,包括的な HRQOL のもつ情報を適切に縮約し,地域・現場の状 況を考慮した予防的・臨床的介入のための判断基準を 提供できる可能性が示された。 今後の課題 本研究は,潜在ランク理論による順序的評価を行う 手法(清水・大坊, 2014)を参考に,実践場面に合わ せた尺度の利用のための 1 つの試案を提示したもので ある。しかし,対象者のランクを改善するための援助 の具体的内容の検証が十分ではない点は課題である。 ゆえに,本研究成果を実践活動に導入し,今後さらな る分析事例の積み重ねていくことが必要であろう。な お,調査により収集した個人情報をどのように対象者 に還元すべきかについては慎重な検討が必要である。 また,潜在ランク理論は,もともと学校等で実施さ れるテスト結果から得られる正答パターンを解析し, 生徒の学習到達度の把握を行うことを目的として開発 されていた。学校のテストのような状況であれば,各 項目に対する回答は正答か誤答の 2 つに分類されるた め,「できる」か「できない」という判断が比較的容 易である。 本論文で扱った SF-36 尺度は,複数の回答選択肢を もつ評定法の尺度であり,さらに設問ごとに回答選択 肢が異なるため,潜在ランク理論で得られた IRP を 整理する際に,複雑な作業が必要となった。設問に対 して「できる・できない」という二値的な判断ではな く「どの程度できる」という段階的な判断が必要となっ

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たのである。回答選択肢が複雑になれば,IRP の整理 に複数の解釈可能性が存在することとなる。解釈にお いては,その目的を意識しながらより妥当な解釈を検 討する必要がある。 このことは,設定した目的や研究結果の利用者が異 なれば,最終的に得られる結果の解釈は異なったと考 えられる。本研究の Table 5 で示したランクの特徴の 記述よりも,ランク間の比較をもとにした Table 4 の 記述を網羅したような記述が必要な場面もあるだろ う。その意味において,本研究で得られた知見を現実 の援助的介入へ適用するなかで,解釈にかかわる情報 を統合的に扱う方法論や推定のプロセスに関するカス タマイズを記録・検証し,その評価を含めた事例を蓄 積していくことが重要である。 引 用 文 献

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Table 3 SF-36 項目における潜在ランク理論による IRP 項目           設問 ランク 1  ランク 2  ランク 3  ランク 4  ランク 5    1  あなたの健康状態は? 3.81 3.58 3.30 3.05 2.86   2  1年前と比べて,現在の健康状態はいかがですか 3.65 3.43 3.20 3.03 2.91   3   激しい活動,例えば,一生けんめい走る,重い物を持ち上 げる,激しいスポーツをするなど 1.41 1.57 1.80 2.05 2.27
Table 4 IRP をもとにした SF-36 項目の潜在ランク構造 項目 番号 回答選択肢 IRP ランク 5 ランク 4 ランク 3 ランク 2 ランク 1 1 2

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