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新生児消化管穿孔の2例

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(1)

〔臨床報告〕

新生児消化管穿孔の2例

東京女子医科大学第二病院産婦人科(院長 川上博 教授)

助教授吉田 茂子・黄 麗珠・小宮山節子

    ヨシダ  シゲコ  コウ   レイ シユ   コ ミヤマセツコ

(受付 昭和41年9月12日)

       1・緒  言

 新生児における消化管穿孔は,極めて稀な疾患 であり,特に末梢腸管の閉塞を伴わな:い穿孔は最

も稀なものである.1825年Siebold1)の胃穿孔の 報告例を始めとし,1890年B・urrs1)は十二指腸,

       )

同年にTolmatschew1)は4・腸,1863年Bresl aui の大腸穿孔が報告され,1935年Thelender2)は消 化管穿孔85例を集計し,1957年Meyer3)の集計報 告によると,1950年までに70例あると述べ,1959 年目amrick4)は81例を報告している.現在に至 るまで恐らく100例近い報告がなされている.本 邦においては1939年矢内原5)の報告以来僅かに10 数例にすぎないが,実際には相当数の患老がある ものと推測される.この度当科において,胃穿孔 1例,腸穿孔1例を経験したので,その臨床経過 および手術時所見をここに報告する.

      皿・症  例

 症例1:生後4日目の女児.

 母親は39才の初産婦で,妊娠経過は正常.在胎 日数は41週で,分娩経過は分娩第1期31時間,第 皿期2時間,第皿期5分,羊水混油が強く,側切 開,Vaccum使用にて娩出した.

 出生直後は正常で,体重25309,身長47.5C皿で あった.

 生後第2日目より38℃の発熱,胎便,嘔吐があ

り,輸液を行なった.

 生後第3日目は37.2℃に下り,一般状態余り変

化なし.

 生後第4日目の早朝より急激に腹部膨隆を来た し,嘔吐あり,洗腸,ガス抜きを行なったが効果 なく,急性腸閉塞の疑いで,腹部単純撮影を二方 向よりとり,横隔膜下に著明なガス像と,腹腔内 の遊離ガスを認め(写真1,2),本院外科に紹介,

ただちに手術を施行した.

写 真 1 Shigeko YOSHIDA, Reishu KO & Setsuko KOnvAMA (Department of Gynecology, Tokyo Wo−

men ?Medical College Second Hospital): Rupture of stomach and intestine in the newborn infant, re−

port of two cases.

29

(2)

写 真 2

 手術所見:腹腔内は膿性物質で充たされ,大 網,腸管などには全面にEiterbelagが付着し,

これを剥離して胃を見ると,小湾前壁にゾンデが 入るぐらいの穿孔を認め,その部分を一部切除し て,穿孔部を二重縫合し,腹腔内を生理的食塩水 で洗浄し,ドレーンを1本おいて,腹壁を縫合し

た.

 病理所見=穿孔周壁は全層に出血,浮腫が高度 で,穿孔部筋層の欠損,菲薄化,壊死が僅かに認 められた.

 手術後経過は良好で,術後5週目に体重30009 となり,無事退院した.

 症例2:生後5日目の女児.

 母親は28才,1回経産婦,今回妊娠経過は,妊 娠8ヵ月目より妊娠中毒症状が起こり,出産まで 続き,ダイクPSを服用していた.胎令41週目に

自然分娩開始,分娩経過は,分娩第1期9時間40 分,第皿期3分,第皿期5分で,正常分娩であっ

た.

 出生直後は全く正常で何ら変化がなかったが,

7分後に急にチアノーゼを起こし,02吸入,ビ タカン注射を行ない,一反チアノーゼがとれた が,保温器に入れた.体重32509,身長48,5c皿で あった.

 生後第2日目,状態が良くなったので保温器よ

         写:真 3

り出したが,哺乳すると嘔吐する.

 生後第3日目,黄疸が出てきて,胎便ごくわず かにあり,哺乳力なく,輸液を行なった.

 生後第4日目,哺乳力なく,黄疸あり。

 生後第5日目,早朝に今までよりも多量の胎便 があり,黄疸強く,胆汁様吐物を吐き,急激に腹 部が膨隆し,溌腸,肛門ブジーを入れたがガスが 出ず,腸閉塞の疑いで立位腹部単純撮影を行な い,レ像は横隔膜下に広汎に亘る著明なガスの存 在と,Niveauを認めたので(写真3),本院の外 科に紹介,胃穿孔の診断のもとに手術を行なっ

た.

 手術所見:腹腔内に大量の胎便を認め,腸間 膜,腸管壁,腹膜は全体に充血し,浮腫が高度,

胃より下向して腸管を検察して行くと,横行結腸 の前壁中央部にアヅキ大の穿孔を認め,穿孔部位 は壊死になり,その部位を縫合しないで人工肛門 を作り,腹腔内を生理的食塩水で洗浄し,ペニシ リン40万単位を注入して,ダグラス氏窩と腹腔内 に全部で3本ドレーンをおき,腹壁を縫合した.

術後6時間で死亡した.

       m・考  按

 新生児消化管穿孔の原因については,数多くの 報告がなされているが,実際に原因不明の場合が 多い.しかし一般に閉塞を伴った時には,特にそ

(3)

した部位に閉塞により蠕動運動が高まり,穿孔が 起こると考えられ,閉塞を伴わない時には,どこ か腸壁の異常に弱い部位があり,そのため普通の 蠕動運動で穿孔を起こすのではないかと考えられ

ている6).

 胃穿孔の原因については1)胃壁筋層の欠

損,2)消化性潰瘍,3)、幽門部ないし十二指腸 の閉塞,以上の3原因が最も多く,消化性潰瘍は 出生後に出現するもののごとく,かっ肺出血,頭 蓋内出血,核黄疸,感染等重篤な臨床症状と合併 してあらわれる事が多い.その他原因と考えられ るものはには,4) 出生時の外傷,02欠乏症が ストレスとなり,視床下部,下垂体前葉,副腎皮 質,迷走神経を介して過酸症となり穿孔を起こ す,5) 胃チェーブ,02による加圧,6) 胃重 複症,胃憩室,先天的奇型,7) 胃壁の血行障 害,感染,栓塞.その他,1959年佐々木7)の報告 によると,Candidaと思われる糸状菌が,筋層内 にまで多数に認められ,1962年陳8)の報告例で

は,4例中2例にCandidaを認めている,それ

が直接原因となるかは別として,誘因となってい

る事が考えられる.

 腸穿孔の原因については 1)先天性腸管末梢 部閉塞,すなわちS祝状結腸,盲腸の閉塞,2)

腸管の廻転異常,3)潰瘍性腸炎,4) メヅケ ル氏憩室に通過障害が起こり,その部が壊死とな って穿孔する,5)腸壁筋層の欠損および発育不 全,6)西洋に多いMeconium ileus,すなわち Mecoiunが粘稠度を増し,通過障害を起こし,

11eusとなり,更にIleusの部に壊死が起こり穿

孔する.

 以上のように色々と原因が考えられるが,本症 例1の場合は,明らかに胃壁筋層の欠損があり,

Vaccum,哺乳その他何らかのストレスによって,

その欠損部位に穿孔をぎたしtcものと考えられ る.症例2の場合は,はっきりと確定した原因は 分からないが,恐らく腸管に薄弱な部分があり,

分娩第1期がわずかに3分という早急な分娩と,

02吸入,哺乳等が誘因となって,その薄弱な部

例とも他の部には閉塞はみられなかった.

 発生部位:1935年Thelender2)は消化管穿孔85 例の集計より,胃16例(18.7%),十二指腸30例

(35.5%),小腸結腸39例(46%)をあげ,昭和38年 魚育会病院外科9)で取扱った消化管穿孔の集計11 下中,胃5例,空腸3例,廻腸2例,盲腸1例,

S状結腸1例で,以上のように外国では小腸結腸

の穿孔が最も多く,Russello), Agerty11)も廻腸下 部が最も多いと述べている.本邦では胃穿孔が多

い.1963年加藤12)は,胃の好発部位は大齊前壁 で,幽門に近いところ,十二指腸では幽門に近い 後壁,小腸では廻腸の末端部,大腸では特に好発 部位はないと述べている.石田の集計16)による

と, 113例中大蛮66例,小蛮14例,幽門部6例,

前壁中央9例,底部6例,噴門部9例,後壁3例

である.本症例1は小沓前壁,症例2は横行結腸 前壁中央部で,比較的穿孔しにくい場所に穿孔し ている事は,なかなか興味深い事である.

 症状は:新生児が不気嫌となり,呼吸促進,哺 乳力減退,胎便の排泄遅延,嘔吐,チアノーゼ,

腹部膨隆,体温は平熱のことが多く,ときに発熱 を見る事がある.症例1は2日目より38℃の発熱 と嘔吐を来し,第4日目に急激に腹部膨満を来し た.症例2は分娩7分後チアノーゼ,2日目より 哺乳時嘔吐,哺乳力減退,強度の黄疸,5日目に 腹部膨満を来し,ショック状を呈した.

 診断は:以上の症状と,立位腹部単純撮影で,

横隔膜下に広汎なるガス像および腹腔内に遊離ガ スを認める事で,特に腹部膨満開始後には,急激 に全身状態が悪化する故に疑わしい場合には直ち に腹部単純撮影を行なって,本症を診断すべきで ある.Whitei3)は21例中75%にレントゲン検査 上,異常所見を認め,診断上膳も有用な方法であ

るとしている.本症例1および2を比較すると,

腸穿孔の場合,横隔膜下のガス像が特に強く,腸 管が下方にかたまっている.

 頻度=1959年Mc Cormick14)は新生児死亡1778 例中4例(0.23%)に本症を認め,藤井14)(1962 年)も新生児2000人に1人(O.05%)は存在する

(4)

だろうと述べ,1963年若林15)らが昭和33年〜昭和 38年2月までの生後4週未満の新生児総数129例 中,開胸・開腹手術を行なった50例の内,4例は 本症であった.1963年8月第1回新生児研究会に おいて,国立京都病院の新生児91例の剖検成績 中,2例は胃穿孔であった事などから考え,本教 室の場合も症例1は昭和39年7月,症例2は昭和 40年4月に経験した事から,稀のようでもさほど 稀なものとは考えられない.

 男女別の頻度:Castletonによれば,28例中男 が20例を占め,佐々木ら7)も7例中5例が男,石

田16)の集計した11例中9例が男,駿河9),小泉14),

織田17)らも男が多いと報告している.しかし本症 例2例とも女であった.

 成熟度は一般に未熟児が多いが,本症例は2例 とも体重25009以上の成熟児であった.

 症状発現日:織田17)は哺乳力減退,チアノー ゼ,呼吸困難,腹部膨満,その他異常症状を発症 するのは,65例中60例は生後1週間以内,特に第 2,3日に発症するものが高率で,55.3%である と述べ,小泉14)も生後3〜4日(1!時間〜10日)

で,平均3.9〜4.2日であると述べている.本症

例1は4日目,症例2は5日目に穿孔したと考え

られる.症例1は筋層の欠除にもかかわらず,粘 膜や漿膜が強度で,哺乳開始4日目に突然穿孔し たものと解せられるが,症例1,2共に生後2日

目より嘔吐,哺乳力減退等の症状が認められてお り,なお正確な時;期は確定できない.

 母体疾患との関係については,リウマチ,腎 炎,高血圧,妊娠中毒症,その他母体の栄養状態 等が関係するといわれ,本症例2は明らかに妊娠 中毒症があった事から,これが関係するものとも 考える.

 治療:外科的療法による以外になく,1929年 Stern18)が始めて外科的手術を行なったが,術後48 時間で死亡した.1950年にL6ger19)によって始め て手術に成功した.本邦においては1955年玉井20)

の成功例1例を始めとし,石田16),若林15)の各1 例があるのみであったが,本症例1もその成功例 に入るべきである.本症に対する手術の術式は,

総て穿孔部の縫合閉鎖が施行されている.手術後 の予後を左右する最大因子は,発症より手術まで の時間である.過去の成績をみると,術後の生存 例は穿孔より最低2時間,最高16時間で,その平 均は9時間26分,また術後死亡例では最低4時間 30分,.最高48時間,その平均は22時間24分であ り,発症より16時間以上経過したものでは,手術 後生皆野がない事からみても,早期に診断をつ け,早期手術こそ児を救う道で,最近のめざまし い麻酔学および小児外科の進歩によって,今後ま すます成功例が増す事をのぞむ.

      IV・結  語

 1.最近,胃穿孔1例,腸穿孔!例を経験し

た.2例とも手術を施行したが,胃穿孔の1例は 成功し,腸穿孔例は術後6時間で死亡した.

 2. 胃穿孔は胃壁筋層欠損が原因,腸穿孔は原 因不明であった.

 3.性別では2例とも女児であった.

 4. 2症例とも生後4日〜5日目に腹部膨満を 来し,腹部X−Pで横隔膜下のガス像,腹腔内の 遊離ガス像がみられた.

 5.本症は早期診断,早期手術が最も必要であ

る.

 (本論文の要旨は昭和40年6月に四水会において報 告した)

 稿を終るにのぞみ,ご指導ご校閲をいただいた川上教 授,ならびに織畑教授に深謝いたします.

        文  献

1) Filcher, A.E.: Amer J Dis Child 36 774   (1928)

2) Thelender, H.E.t Amer J Dis Child 58   371 (1939)

3) Meyer, J.L.: J Ped 51 416 (1957・)

4) Hamrick, L.C.: J A M A 171 411 (1959)

5)矢内原啓太郎:同仁会学雑誌13109(1939)

6) Anderson, G.S.: Amer J Dis Child 103   166 (1962)

7)佐々木正彦・他:臨躰消化器病学7640(1959>

8)陳 森輝:中華民 国小児科学会雑誌 3171   (1962)

9)駿河敬次郎・他:産と婦38536(1963)

10) Russel, T.H.: Tr New Eng Surg Soc :/L7   286 (1940)

(5)

13) White, R.B.: J Ped 48 793 (1956)

14)小泉博・他:医療18115(1964)

15)若林修・他:産と婦30524(1963)

16)石田正統・他:手術16887(1962)

19) LEger, J.L.: Union med. Canada 79 1277   (1950)

20)玉井研吉=産と婦22639(ユ955)

参照

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