一 は じ め に 二 い わ ゆ る
﹁ 域 外 適 用
﹂ 問 題 の 性 質 三 海 運 同 盟 に 対 す る 政 府 規 制 の 相 違 四 米 国 判 例 の 概 観 五 対 抗 措 置
六同盟政策調整への模索︵国内実質法の調和︶
七 ま と め と 展 望 条文試訳
目
次
奥
海 運 同 盟 に 対 す る 米 国 政 府 規 制 の 域 外 適 用
田
四九
安
弘
6‑3‑395 (香法'86)
めに︑若干の予備的考察を行なっておきたい︒ が具体的な紛争に発展したのは︑それだけ戦後の国際経済活動の拡大︑
いわゆる﹁域外適用﹂の問題は︑米国反トラスト法を中心として︑さまざまの経済法規の適用をめぐる国家間の紛 争に発展している︒しかし︑これらは国際法上︑国家管轄権の行使の問題であるから︑少なくとも理論上は︑民事・
刑事を問わず︑あらゆる渉外的法律関係について起こりうるはずである︒その中でも︑特に経済法規の域外適用問題
およびそれに対応した政府規制の強化が著し
ところで︑経済法規の域外適用問題に限定してみても︑
外適用問題の古典的かつ最新の事例であり︑
いわゆる﹁域外適用﹂問題を整理するた
そこにはさまざまの種類の問題があるわけであり︑本稿で
は︑これをさらに海運同盟に対する政府規制の域外適用問題に限定しようと思う︒というのは︑海運同盟こそは︑域
かねてより外交的抗議および対抗立法の対象となってきたからである︒
そこで以下では︑海運同盟に対する域外適用問題の経緯を知るために︑まず海運同盟に対する政府規制の相違を扱 い︑その後に︑米国判例における域外適用の実例︑およびそれに対する諸国の対抗措置を概観する︒さらには︑域外 適用問題の解決の試みとして︑同盟政策調整の動きを紹介した後︑最後に︑域外適用に対する批判を総括して︑将来
における解決の可能性を探ることにする︒しかし︑これらすべてに先立ち︑ かったことを示している︒
は じ め に
五〇
6 ‑ 3‑396 (香法'86)
海運同盟に対する米国政府規制の域外適用(奥田)
国際法上︑﹁国家管轄権﹂
( s t a
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)
明されている︒そして︑
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)
とは︑国家主権という国家の一般的権限の具体的側面を指す︑
さらに具体的には︑法規範を制定する権限である﹁立法管轄権﹂
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および法規範を適用・執行する権限である﹁強制管轄権﹂
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の二つが区別される︒
しかし︑他の頷似法分野と比較するならば︑これにはさらに説明を付け加える必要があるように思われる︒たとえ
ば︑﹁立法管轄権﹂という用語は︑私法の場所的適用範囲を定めるという意味で︑抵触法規範としての国際私法を指す
ためにも使われることがある︒しかし︑国際私法は︑渉外的私法関係において︑
当であるかを決定しているのに対して︑国際法上の立法管轄権は︑国家が他の国家との関係において︑どの範囲の人
という適用範囲の限界ないし枠組みを定めているように思わおよび事物を自国法の適用対象とすることができるか︑
また﹁裁判管轄権﹂という用語が国際民事訴訟法の一部として︑どの国の裁判所か当該渉外的私法事件について管
轄権を持つか︑という問題を扱うために使われるが︑これに対して︑国際法上の強制管轄権は︑行政および司法を問
わず︑あらゆる適用・執行行為の限界ないし枠組みを定めているように思われる︒
要するに︑国際私法および国際民事訴訟法は︑必ずしも国家主権とは結びつかず︑ れ
る︒ 日
国 際 法 に お け る 国 家 管 轄 権 立 法 管 轄 権 と 強 制 管 轄 権
いわゆる﹁域外適用﹂問題の性質
五
と説
むしろ私人間の利益の調整を目 いずれの国の私法を適用するのが妥
6‑3‑397 (香法'86)
こ ゞ
︑
t ヵ
その場合には当然︑反トラスト法等のいわゆる制限的貿易慣行規制法の適用には︑立法管轄権についても国際
法上の限界がある︑
地主義
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行使することができる︑
もっとも︑属地主義は︑必ずしも当該行為の全部が領域内で行なわれたことを要求するわけではなく︑国内で開始
され国外で完成した行為︑
主義および客観的属地主義として属地主義の範囲内に含ませることができる︒
これに対して︑米国反トラスト法の適用根拠とされてきた﹁効果理論﹂
( e f f
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) は︑全く米国の領域外で
行なわれた行為についても︑それの経済的効果が領域内に及ぶことを理由として︑管轄権の行使を正当化するもので
あり︑これは客観的属地主義の範囲をも越えていると批判されている︒このような意味で︑米国反トラスト法の﹁域
外適
用﹂
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が問題となるのである︒
前述のように︑
いわゆる﹁域外適用﹂の問題は︑主として米国反トラスト法を中心として具体的な紛争となってき
ということが前提となっている︒そして︑ここにおいて国際法の原則として主張されるのが︑属
である︒すなわち︑国家は︑自国の領域内で行なわれた行為に対してのみ︑管轄権を
(6 )
というのである︒
および国外で開始され国内で完成した行為に対する管轄権の行使も︑
(二)
いわゆる﹁域外適用﹂問題の前提ー│̲属地主義と効果理論
的としているのに対して︑国際法上の国家管轄権は︑国家間の利害の対立を解決しようとしている︒したがって︑民
(5 )
とりわけ民事の立法管轄権において︑国際法上の限界が存在するのか争われているが︑たとえ
事管轄権については︑
これを否定したとしても︑国際私法および国際民事訴訟法の存在意義は︑また別の所に求めることができる︒
それぞれ主観的属地
五
6 ‑3 ‑398 (香法'86)
海運同盟に対する米国政府規制の域外適用(奥田)
これに対して︑米国においては︑国内の船主および荷主による同盟反対運動の高まりの中で︑
一九一四年にいわゆるアレキサンダー報告書
( A
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)
を公表した︒そして︑この報告書は︑﹁運賃協定および海運同盟に関する弊害および濫用は︑⁝⁝効果的な政府規制に 海運漁業委員会が同盟調査を行なうことになり︑ るという方針が打ち出された︒ 一般に︑世界最初の海運同盟
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カルカッタ同盟の重要性は︑
うな制度は︑全く初めてであり︑その後の代表的な荷主拘束手段となったからである︒そして︑
まず英国においては︑植民地および自治領からの運賃延戻し制度に対する苦情を受けて︑
同盟調査委員会﹂
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た︒ そし て︑
この報告書においては︑多数意見と少数意見との間に若干の対立があったものの︑運賃延戻し制度を全
面的に禁止するのではなく︑さしあたり荷主同盟の結成および国家の緩やかな介入などによって︑ を機縁として︑英米の同盟政策の対立が明らかとなった︒ 取るという制度はあったけれども︑ る︒というのは︑従来からも︑
(一)
(8 )
英米同盟政策の対比—|ー王立海運同盟調査委員会とアレキサンダー委員会
よ ︑
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むしろ一八七七年に﹁運賃延戻し制度﹂
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を導入したことにあ
一定期間内に特定の船主にのみ運送を行なわせたことにより︑荷主が割戻し金を受け
このような期間が経過した後も︑
海運同盟に対する政府規制の相違
が設けられ︑同委員会は︑
五
一九︱二年に下院の その濫用を抑制す
一 九
0
九年に報告書を公表し 一 九
0
六年に﹁王立海運 この運賃延戻し制度 一八七五年のカルカッタ同盟であると言われているが︑
さらに一定期間の忠誠
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)
を要求するよ
6 ‑3 ‑399 (香法'86)
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ょ ︑
口 米 国 一 九 一 六 年 海 上 運 送 法
この届け出を怠った者は︑
これの違反に
一日
につ
き一
︑
00
0
ドル
よってのみ除去できる﹂として︑大旨次のような勧告を行なっている︒
第一に︑運賃協定は︑州際通商委員会
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または港によって差別的な取り扱いをすることは︑違法とする︒第三に︑競争抑圧船
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)
延戻
し︑
方は
︑
および同委員
会は︑差別的︑不公正または米国の通商に有害であると判断した協定を取り消すことができるとする︒第二に︑荷主
の使用︑運賃
および荷主が盟外船を利用したことに対する報復措置は︑違法とする︒第四に︑州際通商委員会は︑不当な
運賃に対する苦情を調査し︑また職権によっても調査を開始することができるとする︒
王立海運同盟調査委員会の報告書は︑何ら立法措置を伴なわなかったが︑
その趣旨が一九一六年海上運送法
( S
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これ に対 して
︑
(9 )
によって実現された︒
具体的には︑独立の政府機関として︑米国海運局
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d)
この海運局に届け出なければならないとされた︒そして︑
の罰金を科せられることになっている︒
協定の実施は︑違法とされ︑ アレキサンダー報告書の
( 1 0 )
が設
置さ
れ︑
の認可を受けること︑
一定の運賃協定
また海運局の設置後は︑海運局の認可を受けた協定だけが合法であり︑
つ本法により合法とされた協定だけが︑反トラスト法の適用から除外された︒したがって︑認可前または不認可後の
( 1 2 )
その結果︑反トラスト法の適用除外の対象とはならない︒
次に︑運賃延戻し︑競争抑圧船の使用︑荷主に対する報復措置および不当な差別行為は︑禁止され︑
( 1 3 )
対しては︑一件につき二五︑
00
0
ドル以下の罰金が科せられることになった︒そして︑この運賃延戻し禁止により︑( 1 4 )
以後の米国航路では︑二重運賃制度が一般的になったと言われている︒
さらには︑海運局は︑本法の適用を受けるすべての者に対して︑営業に関する情報を提供するよう命じる権限︑
な か 五四
6 ‑3‑400 (香法'86)
海運同盟に対する米国政府規制の域外適用(奥田)
一九一六年海上運送法制定以前の判例
一九一六年海上運送法制定以前の主要判例は︑三件あり︑
( 1 6 )
事例である︒そして︑これらの判決は︑
(二)
も︑少し触れておきたい︒ で
あり
︑
以下では︑米国判例における域外適用の実例を見ていくわけであるが︑
一九一六年海上運送法制定以前の判例および一九一六年から一九五九年までの監督官庁の活動に
その
前に
︑
国の政府規制は︑
(
一)
一九一六年海上運送法に内在する紛争原因
四米国判例の概観
五五
いずれも︑海運同盟に対して反トラスト法が適用された 以上の同盟政策の相違が国家間の紛争原因となるわけであるが︑
このような判例は︑
一九
0
年以降のもの六これ
は︑
後には有名無実 らびに本法の違反を調査するために︑召喚令状
( s
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によって証人の出頭および文書の提出を命じる権限も付
与されてい廷゜
とりわけ米国の一九一六年海上運送法には︑始め
から紛争原因が内在していたと言えよう︒第一に︑監督官庁の権限が広範かつ強力であり︑
に行使されることになった︒第二に︑反トラスト法の適用除外が一応規定されてはいたが︑ それらは︑実際にも頻繁
となった︒第三に︑最も重要な点として︑本法および反トラスト法の域外適用がある︒すなわち︑後述のように︑海
運同盟に対する規制権限は︑欧州側の主張によると︑往航運送
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に限定されるべきであるが︑米
しばしば復航運送
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)
にも及んだのである︒
一九
0
年以降の判決において︑かのアルコア判決と伴に﹁効果理論﹂六の先
6‑3‑401 (香法'86)
このように一九六
0
年代に入るまでは︑一般に︑監督官庁の活動は抑制されていたのであるが︑(四)
一九
六
0
年代の判例( F
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その ため か︑
庁が扱った同盟事件は︑
次に
︑
一九五八年に連邦 一九三六年には︑再び独立の政府機関として︑米国海 一九一六年海上運送法制定当初は︑
( 1 8 )
一件は︑大西洋航路における旅客運送の同盟が問題となった連邦地方裁判所の判決であり︑他の二件は︑
連邦最高裁判所による判決とはいえ︑それぞれ米国本土とアラスカとの間の貨物・旅客運送に関する同盟および米国
から南アフリカヘの往航運送に関する同盟が問題となった事件であった︒したがって︑
以降の判決と一応区別すべきであろうと思われる︒
な く
︑
一九一六年から一九五九年までは︑注目すべき域外適用事件が見当たらない︒事実︑
れた事件も六件にすぎず︑ ︱二七件にすぎず︑うち半分は︑全く処分が行なわれなかった︒また罰金が命じられた例も
わずか四件において︑海上運送法第二二条にもとづく賠償命令が発せられている︒
( 2 0 )
と言われている︒そのいずれもが処分に至らなかった︑
この期間中︑監督官庁は︑
B o
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しばしば改組されている︒すなわち︑
前述のように︑独立の政府機関として︑米国海運局が設置されたが︑その後一九三三年には︑商務省所属となり
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事委員会
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) が設置された︒
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︑
(三)
一九一六年から一九五九年までの監督官庁の活動
しか
し︑
( 1 7 )
例として挙げられているのである︒
さらには︑司法省に付託さ
さらに一九五
0
年には︑再び商務省所属となり一九六一年に独立の政府機関として︑連邦海事委員会
が設置されてからは︑現在に至っている︒ この四三年間に監督官
これらの判決は︑
一九
0
六年 五六6 ‑ 3‑402 (香法'86)
海運同盟に対する米国政府規制の域外適用(奥田)
次に
︑
であ
る︒
( 2 2 )
最高裁判所が二重運賃制度を違法とする判断を示してからは︑議会においても︑
した下院海運漁業委員会︑さらには下院司法委員会の反トラスト小委員会および上院通商委員会が︑同盟調査を行な
( 2 3 )
うことになった︒そして︑これらの調査報告を受けて︑
A m e n d m e n t )
が一九六一年に行なわれることになるのであるが︑それと同時に︑これ以降︑多数の外国船会社を巻き
そこ
で︑
九六
0
年から一九六七年までは︑海上運送法第ニ︱条にもとづく( 2 4 )
情報提供命令および同法第二七条にもとづく文書提出命令に対する異議申立事件が注目される︒そして︑これらの命
( 2 5 )
令は︑時として一
00
社以上の船会社に対して発せられているが︑その中には︑多数の外国船会社が含まれているた
めに︑必然的に外国に存在する文書に関する情報または外国に存在する文書それ自体の提出を要求することになるの
( 2 6 )
︵2 7 )
これに対して︑同盟側は︑あるいは国家機関の権限の問題として︑あるいは海上運送法の解釈の問題として︑
らの命令が外国に存在する文書を対象とすることはできない︑
所の受け入れるところとはならなかった︒すなわち︑裁判所によると︑海上運送法にもとづく監督官庁の調査権限は︑
船会社の国籍または協定の締結地によって限定されないのであるから︑
その対象となる文書の所在地も︑限定することはできない︒そして︑実際に情報提供命令および文書提出命令を執行
しうるかは︑また別問題であり︑このような命令の執行手続の問題と命令それ自体の効力の問題とは︑区別すること
( 2 8 )
ができるのである︒
一部の外国船会社は︑本国の禁止立法を援用し︑これらの法律が情報開示を禁止していると主張したが︑ これらの同盟訴訟事件を見ていくと︑ 込んだ同盟訴訟事件が頻発するようになる︒
五七
こ このような調査の目的を達成するためには︑ と主張したのであるが︑このような主張は︑米国裁判
これ
一九一六年海上運送法の改正︑いわゆるボナー改正
( B o n n e r
かつてアレキサンダー報告書を作成
6‑3‑403 (香法'86)
た︑米国の対外通商
( f o r
e i g n
c o
m m
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c e
)
に重大な影響を及ぼす限り︑
しか
し︑
とこ
ろが
︑
とを証明した場合には︑ これらの船会社は︑のような主張もまた退けられた︒すなわち︑
( 2 9 )
努力すべきである︑と判示されたのである︒
これらの判例によると︑外国政府の禁止立法が存在し︑
たとえ文書提出命令それ自体の効力は影響を受けなくても︑
一九六七年の
F .
M .
C .
V•
De
Sm
ed
tにおいて︑連邦地方裁判所は︑このような禁止立法に刑事制裁が存在する
こと︑および当該船会社が禁止の解除を得るよう努力したことを理由として︑文書提出命令への不服従を免責したの
( 3 0 )
であ
る︒
そこ
で︑
実施に対する海上運送法第一五条の罰金命令︑ この一九六七年の連邦地裁判決を境として︑同盟訴訟事件は︑単なる調査の段階を越えて︑未届けの協定
( 3 1 )
さらには反トラスト法上の三倍額賠償請求へと発展するのである︒
これらの罰金命令および三倍額賠償請求事件では︑ 事
実︑
れることになる︒ このような命令の執行が妨げら かつ船会社が禁止の解除を得るよう努力したこ まずそれぞれの本国政府から禁止の解除を得るよう
とりわけ復航運送が問題となった︒というのは︑同盟側の主張
によると︑海上運送法および反トラスト法は︑反競争的行為が米国において行なわれ︑かつ直接に米国海運に影響を
( 3 2 )
及ぽす往航運送だけを︑適用対象とすべきだからである︒
このような主張は︑米国裁判所の従来からの﹁効果理論﹂と合致するところではなかった︒すなわち︑裁
判所によると︑海上運送法および反トラスト法の適用に関しては︑行為地は問題とならないのであり︑復航運送もま
( 3 3 )
これらの法の適用を受けるのである︒
五八
6 ‑ 3‑404 (香法'86)
海運同盟に対する米国政府規制の域外適用(奥田)
及ぼすものではない 海上運送法第ニ︱条の手続きを終結させることを目的とする︵第五条︶︒但し︑今回の情報提供協力は︑あくまで一九六三年中の同盟情報に限定した暫定的解決であり︑
︵第
四条
︶︒
また︑提供されるべき情報の内容および情報提供手続きに関しては︑第二条および第三条に規定されているが︑こ
こでは︑往航同盟と復航同盟とが区別されている︒すなわち︑往航同盟は︑復航同盟よりも詳細な情報の提供を要求 この合意議事録は︑第一に︑ る解決が試みられている︒
前述のように︑
一九
六
0
年代の前半においては︑五九
とりわけ外国に存在する文書に関する情報または文書それ自体の
提出命令が問題となったわけであるが︑この問題は︑同じ時期に︑政府間レベルの交渉の議題とされ︑国際協定によ
発端
は︑
に抗議する外交書簡がヨーロッパ各国および日本から米国政府宛てに送られたわけであるが︑ 一九六三年︱一月に連邦海事委員会が発した海上運送法第ニ︱条にもとづく情報提供命令であった︒これ
の国の政府は︑連邦海事委員会および米国国務省を招いて︑
OECD
の主催によりパリで会議を開催することにした︒そして︑数回の会議の後︑
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n )
が曲
空止
した
ので
ある
それと同時に︑これら
一九六四年︱二月一五日に﹁海上運送情報の交換に関する合意議事録﹂
( A
g r
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︵後
掲・
条文
試訳
日参
照︶
︒
日
0ECD
海上運送情報交換に関する合意議事録五 対 抗 措 置
一四ヶ国政府が一定の情報提供に協力することを条件として︑連邦海事委員会による
それは︑米国法の域外適用に対する従来からの反対声明に影響を
m i
n u
t e
6‑3‑405 (香法'86)
本件は本当の意味での管轄権の祗触ではなく︑ 慮を払っているのである︒第二に︑米国の復航運送に関しては︑米国と船積国とが競合して管轄権を有する︒また︑
ヨーロッパ各国および日本が海運同盟に任せている問題を︑米国が規 は ヽ 続いて問題となったのは︑二重運賃契約改訂の問題である︒すなわち︑前述のように︑一九一六年海上運送法の改
( 3 6 )
正︑いわゆるボナー改正が一九六一年に行なわれたが︑その主たる改正点は︑二重運賃契約認可基準の新設であった︒
の適用除外を受けることができないため︑従来の二重運賃契約を新しい認可基準に合わせるための猶予期間が設けら
れ︑その期限が最初は一九六三年四月四日︑後に延長されて一九六四年四月四日とされていた︒
このような状況の下で︑
した︒第一に︑新契約に移行するためには︑必然的に現行契約を解除しなければならない︒第二に︑連邦海事委員会
による二重運賃規定の執行行為は︑他国の管轄権を侵害している︑
これに対して︑米国政府側は︑
一九
六一
年一
0
月に制定されていた︒それにもかかわらず︑連邦海事委員会は︑契約改訂に伴う困難に最大の考一九六四年五月︱二日に回答を寄せている︒まず第一に︑旧契約解除を命じた法律 ヨーロッパ各国および日本は︑
九六 四年 七月
︱︱ 一日 まで とさ れた ので ある
︒
委員会が具体的な認可書式を公表したのが︑ そ
して
︑ に)
されているのである︒さらには︑第六条から第九条において︑情報利用方法の制限が規定されているが︑ここでも部 分的に︑往航同盟と復航同盟とが区別されている︒すなわち︑往航同盟に関する情報は︑復航同盟に関する情報より
も緩やかな制限にのみ服するのである︒
( 3 5 )
二重運賃契約改訂に対する共同抗議
これもまた前述のように︑監督官庁の認可を受けなかった協定は︑違法であり︑
一九六四年三月三
0
日であったために︑再び猶予期間が延長されて︑一九六四年四月一三日︑共同抗議文を米国政府宛てに提出
というのである︒ したがって︑反トラスト法
ところが︑連邦海事
六〇
6 ‑ 3‑406 (香法'86)
海運同盟に対する米国政府規制の域外適用(奥田)
その
後︑
'
ノ
一九
七
0
年代に入って︑域外適用に関する紛争領域が拡大したことは︑周知の通りである︒拡大の方向と(四)
対する罰則を定めている︒ を定めている︒
このような命令に従 英国の禁止立法は︑ 前述の情報提供命令に対する抗議文および二重運賃契約改訂に対する抗議文においては︑の服従および連邦海事委員会書式の承認または自国法に従うべき現行契約の解除を︑自国民に対して禁止する権利を留保する旨が表明されていた︒そして︑現実に︑ここでは︑英国の立法を紹介しておく︵後掲・条文試訳口参照︶︒
A c
t )
と略称されている︵第四条第一項︶︒その第一条は︑
C o
m m
e r
c 1
a l
D o
c u
m e
n t
s
邦海事委員会の規制の域外適用に対抗しており︑具体的には︑大臣による第一条適用命令︵第一項︶︑外国法にもとづ
く命令または禁止の大臣への通知義務︵第二項
a )
︑命令または禁止不服従のための大臣による指示︵第二項
b )
など
第二条は︑外国に存在する文書に関する情報または文書それ自体の提出命令に対抗しており︑
ってはならない旨の指示が発せられることになっている︒さらに第三条は︑本法の下で発せられた指示に反した者に
( 3 8 )
本法の適用例は︑約八
0
件あったと言われているが︑D e
S m
e d
t における援用例を挙げることができる︒
( 3 9 )
英国一九八
0
年通商利益保護法とりわけ同盟事件としては︑前述の一九六七年の
F .
M .
C .
v .
(
三)
制しようとしているにすぎない︑
というのである︒
( 3 7 )
英国一九六四年海上運送契約・商業文書法
それぞれ情報提供命令へ
このような禁止立法が幾つかの国において制定されたのであるが︑
一九六四年七月三一日に制定され︑﹁海上運送契約・商業文書法﹂
( T
h e
S h
i p
p i
n g
o C
n t
r a
c t
s a
n d
二重運賃契約改訂問題のような連
6 ‑3‑407 (香法'86)
一九
八二
年一
月︑
五 ︑
1 0
0
万ドルで和解したと伝えられている︒この
申し
立て
は︑
一九
八
0
年 一
0
月一五日に退けられたため︑結局︑ れたとのことである︒さら
には
︑
額 は
︑
四六の米国荷主が大陪審起訴の時と同じ船会社七社に対して︑三倍額賠償請求訴訟を提起し︑その請求
一五億ドルに達した︒これに対して︑船会社側は︑連邦海事委員会の第一次管轄権
( p
r i
m a
r y
j u r i
s d i c
t i o n
)
を
理由に︑訴え却下または停止を申し立てたが︑ また連邦海事委員会も︑一九七九年八月一四日から調査を開始したが︑
この
調査
は︑
一九八四年五月末に打ち切ら
1 0
万ドルの罰金が確定した︒ を決定した︒これに対して︑船会社側は︑ シャーマン法第一条違反による起訴 コロンビア地区連邦大陪審は︑ に協定自体を取り下げてしまったのである︒
一九七九年六月一日︑欧米の船会社七社が一九七一年から この不認可決定を裁判所で争ったが︑後
この
協定
は︑
一九
七
一九七一年に同盟自らが取り下げた︒また一九七七年
一九六九年には︑大西洋航路における同盟を一
しては︑第一に︑海運以外の産業分野への拡大︑第二に︑反トラスト法以外の米国法の域外適用といった両方の面が
( 4 0 )
ある︒しかし︑海運同盟に関しても︑紛争の対象は︑前述のように︑情報提供命令および文書提出命令から︑一九六
0
年代の末には︑未届けの協定実施に対する罰金および反トラスト法上の三倍額賠償へと移っているのである︒( 4 1 )
その後の海運同盟の推移をみると︑
c o
n f
e r
e n
c e
"
が連邦海事委員会に届けられたが︑この届け出は︑
には︑大西洋航路の八つの同盟が共同でニ
' B
r i
d g
e A
g r
e e
m e
n t
"
という︱つの協定を届け出たが︑
八年三月︑連邦海事委員会から不認可の決定を受けた︒そこで︑同盟側は︑
このような経緯の後︑
九七五年にかけて連邦海事委員会の認可を受けずに協定を実施していたとして︑
つ に ま と め た
6伍
s u
p e
, r
一九七九年六月八日︑不抗争の答弁
( n
o
l o
c o
n t
e n
d e
r e
)
を行ない︑計六 r /¥
6 ‑3‑408 (香法'86)
海運同盟に対する米国政府規制の域外適用(奥田)
月九日付けの外交書簡において︑米国政府は︑
'
ノ
これに対しては︑第二条が裁量 を拡大している︒ 以上のような海運における反トラスト訴訟の拡大も大きな要因の一っとなって︑
立法の改正に着手した︒ここでも︑
とって有害であること︑
にもとづいて適用され︑
一九
六
0
年代の対抗その中から︑英国法の改正を紹介するに留めておく︵後掲・条文試訳口参照︶︒
一九
0
八0
年三月二日に制定され︑﹁通商利益保護法﹂一九
八
0
年法第一条第一項bは ︑
(T
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g I
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一九六四年法第一条が海運だけを対象としていたのに対して︑
︱九六四年法第一条第一項bが管轄権の侵害を要件としていたのに対し
それを通商利益の侵害という新しい概念に置き換えている︒確かに︑
年法においても︑管轄権の侵害があったか否かは︑英国政府が国際法にもとづいて判断していたわけであるが︑
八
0
年法においては︑第一条第六項において︑﹁通商﹂( t
r a
d e
)
が定義され︑﹁通商利益﹂
( t
r a
d i
n g
i n t e
r e s t
s )
九六四年法第二条と同じく︑情報提供命令および文書提出命令への不服従を規定しているが︑
も一九六四年法第二条第一項bが管轄権の侵害を要件としていたのに対して︑一九八
0
年法第二条第二項は︑主権にまたは国家の安全もしくは他国との関係にとって有害であることを要件とし︑
このような適用範囲の拡大は︑あるいは英国法の側の域外適用の懸念を生むかもしれない︒事実︑
この第二条︵案︶
第三国に存在していたとしても適用されるのではないか︑ が英国に所在する米国国民に対して︑
と指摘している︒しかし︑
第二
条は
︑
れに対応して解釈するものとされている︒
ま ︑
, 1 ̲
そ
ここで
その適用範囲
一九 七九 年一
︱
たとえ文書が
その適用に際しては︑すべての事情が考慮される上に︑そもそも非英国国民による英国国外
( 4 2 )
での第一条•第二条違反は、第三条第二項による罰則を免除される点が反論として指摘されている。
一 九
て ︑
一九 六四
今回はこのような限定をしていない︒
ま た
︑
A c t )
と略称される︵第八条第一項︶︒その第一条は︑ 新しい対抗立法は︑
一部
の国
は︑
6‑3‑409 (香法'86)
この点に関して︑
どの要件は︑課されていないのである︒ そ
して
︑
第一条から第三条までは︑以上のように改正されたが︑
取り戻す権利を有するというのである︒但し︑
しか
し︑
はみ出していない。すなわち、第一条•第二条の適用は、依然として政府の裁量にかかっており、
措置への不服従だけを目的としている点で︑依然として﹁阻止立法﹂
( b
l o
c k
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s g
t a
t u
t e
)
と言えよう︒ところが︑第四条以下は︑全く新しい規定であり︑とりわけ第五条•第六条は、反トラスト法上の三倍
額賠償に対する非常に厳しい措置を打ち出しているのである︒
まず第五条は︑数倍額賠償判決および特に指定された制限的貿易慣行規制法にもとづく判決の執行を禁止している︒
このような外国判決の執行禁止においては︑当該外国判決が英国の管轄権または主権を侵害していることな
一九七九年︱一月二七日付けの英国外交書簡は︑先の米国外交書簡に答えて︑次のように述べて
いる︒第一に︑数倍額賠償判決は︑刑事判決と考えられるため︑英国の裁判所は︑他の外国刑事判決と同じく︑
を執行することはできない︒第二に︑主権国家は︑他の主権国家の公的経済政策を執行する義務を負わない︒さらに︑
数倍額賠償判決の実損害賠償部分については︑三倍額賠償請求私訴の国際取引に与える望ましくない影響を考えると︑
( 4 3 )
このような判決の一部分の執行さえも認めるわけにはいかないとしている︒
以上の外国判決執行禁止に続き︑本法の最も注目すべき規定︑すなわち第六条が数倍額賠償金の回復訴訟を定めて
いる︒すなわち︑英国国民および英国で商業を営む者は︑数倍額賠償判決の勝訴当事者から︑実損害を越える部分を
これらの敗訴当事者が判決地国に通常居住しているか
( o
r d
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s i ,
d e
n t
) ︑もしくは主たる営業所
( i t s
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b u s i n e s s )
を有 する 場合
︑
において行なった活動
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n i
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y )
また
は︑
について判決が言い渡された場合には︑ これらの者が専ら判決地国
これ
また外国の域外的
という用語の範囲内にある これらの規定は︑基本的には一九六四年法の枠を
六四
6 ‑3‑410 (香法'86)
海運同盟に対する米国政府規制の域外適用(奥田)
広範な管轄権行使の枠内に留まっている︒ さらされている︒ しこ︑:オナカ
このような規定は︑他にほとんど例を見ないものであり︑
本質的に異なっている︒そこで︑従来の対抗立法と区別するために︑
( 4 4 )
s t a t
u t e )
と呼ぶことがある︒この第六条は︑前述の米国外交書簡において︑最も強い批判が加えら
これに対して︑英国外交書簡は︑次のように答えている︒
いずれにしても︑
第一に︑米国政府は︑私人が三倍額賠償請求私訴により﹁私的法務長官﹂
することに︑利益を見出しているようであるが︑英国政府は︑
することが不適当であり
( i
n a
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r o
p r
i a
t e
) ︑多くの点で抗議しうる
( o b j
e c t i
o n a b
l e )
と考
える
︒ の場合には︑社会全体の利益を考慮して裁量権を行使するのに対し︑私人の場合には︑専ら私的利益のためだけ訴訟
を提起するからである︒また︑刑事罰と民事罰とが共存している場合には︑国際取引に従事する者は︑
第二に︑英国政府は︑ 回復訴訟が認められない
その他の点でも︑米国の反トラスト訴訟に疑問を感じている︒まず︑対人管轄権の行使のた
めには︑米国における被告の所在を必要とせず︑また被告の不出頭は︑罪を認めたのと同等に扱われる︒
範かつ不利益な開示手続が強制される上に︑罰金が巨額であり︑実際の損害との均衡を欠いている︒
第三に︑最も重要な点として︑米国の裁判所は︑非米国国民の米国国外での行為に対しても︑事物管轄権を行使し
ている︒確かに︑最近では︑管轄権の行使を抑制するテストが考案されているが︑
以上の理由により︑英国政府は︑国際取引に従事する者に対し︑
︵第 六条 第三 項・ 第四 項︶
︒
六五
一定の対抗的救済措置
( a
l i m i
t e d c o
u n
t e
r v
a l
i n
g
このようなテストは︑依然として さらに︑広 二重の危険に というのは︑行政機関 このような反トラスト法の執行方法を国際取引に適用
( p r i
v a t e
a t
t o
r n
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s '
g e
n e
r a
l )
として活動 このような規定を特に﹁回収立法﹂
( c
l a
w b
a c
k
しかも単に不服従を命じただけの第一条•第二条とは、
6‑3 ‑411 (香法'86)
府規制の調整は︑可能であると同時に必要でもある︒ 解決の試みを幾つか見ていくことにする︒
以上の経緯をみると︑米国の海運規制と欧州側の対抗措置は︑お互いに相乗効果をもたらし︑対立は︑無限に深ま っていくかにみえる︒しかしながら︑他方において︑若干の歩み寄りも見られないわけではない︒そこで︑以下では まず
最初 に︑
第一
に︑
ヨーロッパ︱ニヶ国および日本の海運担当閣僚からなる﹁海運協議グループ﹂
( C
o n
s u
l t
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e S h
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n g
G r
o u
p ‑
ーー以下では
CSG
と略す︒︶の提案を挙げることができる︒すなわち︑
CSG
は ︑
( 4 6 )
宛て書簡において︑従来の経緯を要約した後︑次のような提案を行なっている︒
c s
G
諸国と米国との間の海運規制の相違は︑目的の相違ではなく︑手段の相違である︒第二に︑管轄権の範囲に関しては︑多くの地域で確立した慣行にしたがったストレートな解決は︑各国が自国の往
航運送についてのみ規制することであろう︒もちろん︑他の解決方法も考慮されてしかるべきであるが︑
とえば複合運送の場合に︑米国が最初の出発地または最終の目的地であるからといって︑
まで米国の規制が及ぶような管轄権の行使には︑反対である︒
第三に︑管轄権合意の前提として︑規制内容の調整が必要である︒ 日
海 運 協 議 グ ル ー プ の 提 案
'
ノ
同盟政策調整への模索︵国内実質法の調和︶
r e
m e
d y
)
を与えるべきである︑と結論せざるをえないのである︒
したがって︑政
しか
し︑
た
c s
G
諸国内の陸上運送にたとえば︑米国は︑政府規制の補充として︑荷
一九七八年一月の米国政府
六六
6 ‑ 3 ‑412 (香法'86)
海運同盟に対する米国政府規制の域外適用(奥田)
細則を定めた理事会規則案﹂︵
P r
o p
o s
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f o r a
C o
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f o
( 4 9 )
A r t i
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85
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86
o f
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y ,
o t
m a
r i
t i
m e
t r a
n s p o
r t )
を埠岱出したのである︵後掲・条文試訳四参照︶︒
EEC条約第八五条•第八六条適用除外のための条件を詳細に定め、この規則案は︑第一部﹁実体規定﹂において︑
第二部﹁手続規定﹂において︑
際法
の祇
触﹂
( C o n
f l i c
t s
o f I
n t e r
n a t i
o n a l
L
aw
)
このような祇触がECの重大な「通商•海運利益」
委員会は︑速やかに当該第三国と協議しなければならない︒すなわち︑
そこ
で︑
E C
委員会
は︑
主同盟のような制度のメリットも考えてみるべきであろう︒
CSG
の側としては︑米国の管轄権行使の抑制を条件と
して︑海運同盟に対する監督強化を検討する用意がある︒
これらの点に関して合意が成立した上で︑合意の運用に関して争いが生じた場合には︑協議のための手続
を考える必要があろう︒しかし︑
c s G
の提案
の第
一一
一と
して
︑ 本の同盟規制は︑
E C
条約と
略す
︒︶
六七
この第八条は︑委員会の協議義務を定めてい
c s
G
政府は︑単なる手続の問題ではなく︑むしろ実体の問題が議論されることをc s
G
の側の監督強化が挙げられていたが︑従来は︑確かにヨーロッパ諸国および日( 4 7 )
それほど厳格ではなかったと言えよう︒たとえば︑
の第八五条•第八六条は、海運における競争制限行為に適用されると言われていたが、具体的な適
( 4 8 )
用のための理事会規則は︑存在していなかった︒
一九八一年一0月一六日、「海上運送に対するEEC条約第八五条•第八六条適用のための
口
E
C
同盟規制に関する委員会提案望む
︒ 最
後に
︑
である︒それによると︑
E
C
委員会の調査手続などを定めている︒しかし︑最も注目に値するのは︑第八条﹁国E
C
の同盟規制が第三国の規制と祇触し︑( t r a
d i n g
n a
d s
h i
p p
i n
g i
n t e r
e s t )
を損なう恐れがある場合には︑ ヨーロッパ経済共同体設立条約︵以下では︑
E
6‑3‑413 (香法'86)
賠償 請求 は︑
とができる︒
(三)
るの であ る︒
一九八三年一月二七日の経済・社会評議会の意見は︑
は足りないとしている︒
そし
て︑
E
C
諸国の同盟船主がE
C
法の適用により不利益を被らないために︑ てE
C
法と第三国法との間の調整を行なうことができる交渉権限が与えられなければならない︒このような調整は︑( 5 0 )
というのである︒
これは︑米国との関係では︑
s G
覚書
は︑
さらに理事会規則自体が管轄権の境界を定めるか︑
とりわけ米国法と
E
C
法の二重規制を指している︒すなわち︑E
C
同盟規制採択の見通しを述べ︑請求訴訟の禁止が明示された意義は大きい︒
これに対して︑
いずれにしても︑米国は︑
一九 一六
または委員会が国際協定におい
なおさら必要である︑
もしこれが域外適用されるとしたら︑欧米間の全海上運送は︑両方
の規制に服することになるであろう︑と指摘している︒そして︑それゆえに一段と︑一国の規制が終わるところから︑
( 5 1 )
他国の規制が始まるというように︑重複しない管轄権の配分が必要である︑と再度強調しているのである︒
( 5 2 )
米国一九八四年海上運送法
以上のヨーロッパ側の提案がどれほどの影孵を与えたかは︑明らかでないが︑
年海上運送法を廃止し︑新たに一九八四年海上運送法を制定した︒本法の主要な改正点は︑以下のように要約するこ 第一に︑従来の協定認可制度が廃止され︑協定は︑原則として︑届け出後四五日経過すると︑自動的に発効するこ
とになった︒これにより︑協定発効手続が大いに簡素化・迅速化されるであろう︑と言われている︒
第二に︑反トラスト法適用除外の範囲が明確化された︒
とりわけ︑反トラスト法遡及適用の禁止および三倍額賠償 しかし︑これに代わって︑従来の一九一六年法第二二条にもとづく単純
一九八四年法では︑二倍額以内の賠償請求とされている︒
一九 八一 年一
0
月のC
このような委員会の協議義務を定めるだけで
六八
6‑3‑414 (香法'86)
海運同盟に対する米国政府規制の域外適用
している 理事会規則は︑
六九
EEC
加盟国内の航路には適用しないと
この
への加入に関する理事会規則﹂ まず
E C
諸国は
︑
かなり消極的にみえる︒ た︒その主な内容は︑貿易当事国船ヽEに対する同盟の開放︑
いわゆる四対四対二のカーゴ・シェアリング︑同盟と荷 本条 約は
︑
第三に︑従来からの荷主拘束力の強い一手積契約が全面的に禁止され︑
ービス・コントラストが容認されることになった︒また︑同盟船ヽ下間の関係としては︑
賃率またはサービスについて独自行動を取る権利が付与されなければならないとされている︒
コントラクトおよび独自行動権の導人により︑早くも一九八四法施行直後から︑同盟の運賃調整機能が低下し︑米国
定期船同盟行動規範条約 これらの現状をみると︑部分的には歩み寄りの側面もないわけではないが︑全体として同盟政策調整への道程は︑
一九七四年四月七日︑
主との協議制度︑国際強制調停などである︒
一九七五年五月二五日︑ しかし︑本条約に対する欧米諸国の対応は︑﹁
EEC
加盟国による国連・定期船同盟行動規範条約の批准または同条約
( C
o u
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c o
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L i
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Conferences)~
坪岳
択し
4﹂ が ︑
カーゴ・シェアリングを始め本条約の多くの重要な規定を︑
している︒また︑他の
OECD
加盟国との航路についても︑相互主義を条件として︑同様の規定を適用しないものと
( 5 4 )
︵後掲・条文試訳固参照︶︒
UNCTAD
主催の外交会議において採択され︑一九 八三 年一
0
月六日︑発効し(奥廿I)
f o r
L i
n e
r C
o n
f e
r e
n c
e s
)
かなり遠いように思われる︒
そこで気にかかるのが
五 ︶ の存在である︒
﹁定期船同盟行動規範条約﹂
( C
o n
v e
n t
i o
n o
n a
Co
de
of
C o
n d
u c
t
(四)
航路の運賃競争が激化したと伝えられている︒ このようなサービス・
1 0
日以上前の通告により運
それに代わって︑
より荷主拘束力の弱いサ
6 ‑‑3 ‑415 (香法'86)
これ に対 して
︑
であ
る︒
以上︑海運同盟に限定した考察を行なってきたわけであるが︑
よび海運同盟特有の各論的問題が生じていることが分かる︒
いては︑属地主義の原則にしたがい︑ある国に専属する管轄権が︑米国法の域外適用によって侵害されている︑
う認識にもとづいて︑抗議が行なわれていた︒
一九
七
0
年代以降においては︑管轄権の競合を半ば認めた形で︑このような競合状態の放置が問題となっている︒すなわち︑第一に︑管轄権の競合状態においては︑一方の国が意識的に政府規制を控えている場合︑
( 5 7 )
他方の国の政府規制によって︑このような放任主義
( l a i
s s e z
' f a i
r e )
は︑無効となってしまう︒そして︑放任主義を無 まず総論的問題としては︑
七
で︑米国船の定期船同盟加入など参入を保証するための措置を講ずること︑
まとめと展望
その 中に も︑
いわゆる﹁域外適用﹂問題の変質を挙げることができる︒すなわち︑
たとえば︑海運同盟問題における船積国の専属的管轄権の主張がそれ
一九
六
0
年代にお いわゆる﹁域外適用﹂ 次に︑米国においては︑少なくとも四0
パーセントの積取率が確保できるメリットも︑の総論的問題お かし︑このようなカーゴ・シェアリングそれ自体が反トラスト法の理念に反するとして︑条約加入拒否の立場が大勢
( 5 5 )
を占めているようである︒そして︑条約加入拒否に伴うデメリットについては︑一九八二年以来︑
CSG
との協議が
続けられており︑米国側としては︑第一に︑発展途上国の一方的貨物留保政策︑盟外船排除措置等に対しては︑共同
で抵抗すること︑第二に︑このような共同抵抗が成功しない場合には︑盟外船としての米国船の参入が阻害されるの
( 5 6 )
というような要求を行なっている︒
一部では主張されたが︑
七〇
ヽ4とし し
6 ‑3‑416 (香法'86)
海運同盟に対する米国政府規制の域外適用(奥田)
いないのである︒
( 5 8 )
効とされた国にとって︑これは︑他国による﹁一方的規制﹂または﹁経済政策および法の輸出﹂となるわけである︒
第二に︑双方が同じ対象に対して政府規制を行なった場合︑規制を受ける私人にとっては︑二重規制となってしまう︒
( 5 9 )
これ
は︑
E
C
の同盟規制強化に関連して︑すでに述べたところである︒そして︑第一の場合も含めて︑このような状態における一方の国の管轄権行使は︑他方の国にとって︑自国の管轄権侵害ではなくても︑少なくとも﹁通商利益﹂
等の国家利益が損なわれる結果となるわけである︒
ところで︑域外適用問題変質のもう︱つの例としては︑米国の規制内容および訴訟制度に対する批判の増大が挙げ
られる︒とりわけ象徴的であるのは︑英国一九八
0
年通商利益保護法に規定された三倍額賠償金の回復訴訟である︒( 6 0 )
このような規定の立法趣旨は︑すでに述べた通りであるが︑ここで一言付け加えておくと︑三倍額賠償請求は︑私訴
によるものであるため︑たとえ域外適用問題の解決策として政府間の協議制度が設けられたとしても︑このような協
( 6 1 )
議制度の効果を︑最初からかなり限定したものにするように思われるのである︒
という問題がある︒すなわち︑
七
次に︑各論の問題としては︑前述のような管轄権の競合を︑具体的に海運同盟に関して︑どのように解決するか︑
一九七八年一月の
CSG
書簡にみられるように︑欧州側としては︑必ずしも船積国の
専属的管轄権に固執しないとしても︑それでは︑具体的に管轄権がどのように配分されるべきかの提案は︑行なって
確かに︑船積国と陸揚国の規制内容が全く同じであるか︑少なくとも双方が相手国の規制内容に満足しているので
あれば︑問題は二重規制の回避だけであり︑便宜的に船積国または陸揚国のいずれかに専属的管轄権を付与するか︑
それともいずれか一方の管轄権行使により他方の管轄権行使を抑制する︑というルール作りが可能であろう︒しかし︑
( 6 3 )
域外適用問題の根幹が規制内容の相違にあるとしたら︑前述の
CSG
書簡もいうように︑まず規制内容を国際協定に
6‑3‑417 (香法'86)