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博士論文審査報告書

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Academic year: 2022

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早稲田大学大学院

先進理工学研究科

博士論文審査報告書

論 文 題 目

超弦有効理論に基づく初期宇宙のダイナミクス

Dynamics of the Early Universe in Effective Superstring Theory

申 請 者

分部 亮

Ryo WAKEBE

物理学及応用物理学専攻 宇宙物理学研究

2 0 1 2 年 7 月

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Einstein の一般相対論に基づいて提唱されたビッグバン膨張宇宙論は、Hubble の宇宙膨張則、宇宙マ イクロ波背景輻射の観測、および宇宙初期の軽元素存在比の測定などからその正しさは実証されてお り、宇宙論の標準モデルとして確立されている。しかし、このビッグバン宇宙論は地平線問題や平坦 性問題と呼ばれる理論的困難を内包している。これらの困難を解決するアイデアとして、インフレー ションと呼ばれる宇宙初期の加速膨脹が提案されている。このインフレーションは、観測されている宇 宙の初期揺らぎの起源を自然に説明するなど、重要な利点も合わせ持っている。

インフレーション期の存在を予言する宇宙論的時空解は、インフラトンと呼ばれるスカラー場と適 切なポテンシャルを用意することで得られるが、その多くは現象論的な議論に留まっている。そこで、

このインフラトン場やそのポテンシャルを素粒子基礎理論から導出できれば、インフレーションがよ り自然な理論として、初期宇宙のモデルとして確立される。そのような基礎理論の有望な候補として 超弦理論がある。超弦理論は理論の整合性より 10 次元時空を必要とするが、我々の宇宙は3次元空間で あるので、10 次元時空をコンパクト化した際に得られる有効理論においてインフレーションモデルを構成 することが期待されている。しかし、十分満足のいくインフレーションモデルは未だにわかっていない。

また、ビッグバン宇宙論の困難のうち、インフレーション理論でも解決できない問題がある。宇宙の初 期特異点問題である。一般相対性理論に基づくと、Hawking と Penrose によって証明されたように、宇宙の 初期特異点は避けられない。しかし特異点では曲率が発散し、一般相対論はそこでは破綻するので、宇宙 の始まりを議論するには一般相対論に代わる重力理論が必要となる。そのような小さなスケールでは量子 論的効果も無視できないから、量子重力理論に基づく解析が必要となる。ここでも量子重力理論を内包す ると考えられている超弦理論は重要な役割をすると考えられ、その理論に基づき宇宙初期特異点問題を解 析することは非常に重要である。さらに、超弦理論は素粒子階層性問題を解決する超対称性を持つ理論で あるが、超対称粒子が発見されれば、現在の宇宙論が抱えるダークマター問題の有力な解決策となりうる。

このように、超弦理論により宇宙初期特異点問題やインフラトン場の起源を探ることにより、宇宙論に 対するより深い理解が得られると期待されるが、超弦理論は強重力現象を扱うことがまだ十分にはできな い。そこで、現在では、超弦理論の場の理論極限と考えられる超重力理論に基づいた解析が精力的に行わ れている。本論文は、このような観点から、超重力理論に基づきインフレーションの新しい可能性を探り、

宇宙の初期特異点問題の解決に迫ろうというものである。場の理論である超重力理論では重力場は10次 元 Einstein-Hilbert 作用により記述されるため、エネルギー条件を満たす限り宇宙の初期特異点問題を解 決するすべはない。そこで、近年盛んに研究されている AdS/CFT 対応、およびそのアイデアを拡張した ゲージ/重力対応の考え方に着目する。ゲージ理論の強(弱)結合領域と1次元高い時空の重力理論の 弱(強)結合領域の間に双対関係があるという仮説で、一方の理論で強結合領域にあるため具体的な計 算ができないとき、対応するもう一つの理論で解析することができるという利点がある。これは厳密 に証明されてはいないが、様々な検証がなされている。実際、QCD のクォーク-グルオン・プラズマの 粘性率などの物理量が5次元ブラックホール解を基礎に解析されている。逆に、宇宙の初期特異点の ような強重力現象をこの対応関係に基づきゲージ場を解析することで解明しようという試みがある。

そのような立場に立って宇宙の初期特異点問題を解析するには、まず超重力理論に基づく宇宙の初期 特異点がどのように記述されるかを明らかにしておく必要がある。

以上のことを踏まえて、著者は本論文で2つの課題について解析を行っている。前半では主に超重力理論 に基づく動的時空解の解析に取り組み、後半ではインフレーションの新しい可能性を探っている。

本論文は 5 章と 4 つの補遺から構成されている。以下に各章ごとにその概要と評価を述べる。

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まず著者の研究の背景と動機が第1章にまとめられている。第2章では、ビッグバン膨張宇宙論について簡単 に紹介し、その問題点およびインフレーション理論についてこれまでの研究をまとめている。第3章および第4章 が著者による研究である。

第3章では、超重力理論に基づく新しい動的時空解の導出およびその解析の成果がまとめられている。

超対称性を持つ時空解の解析は、今後 LHC などの高エネルギー実験等でも明らかになってくるであろう 新しい素粒子物理学の解明にも重要で、特に、宇宙のビッグバン初期特異点の物理の理解は非常に重要 である。超重力理論の時空解の静的な性質についてはこれまで様々な研究がなされているが、それらの 解は宇宙論などダイナミカルな時空を記述するのに適さず、時間依存する時空解の構成が必要となって くる。超対称性が破れるエネルギースケールはまだわかっていないが、著者は、本研究で考えている特異 点近傍の領域では超対称性が回復していると考え、超対称性を持つ動的時空解を求めている。そのような 時空解では、ゲージ/重力対応における双対場が存在し、この双対場を解析することで、特異点近傍の ような重力の非摂動効果が研究できると予想される。

超対称性を持つ時空解では、キリングスピノルが時間的か、光的であるかのいずれかであることが、2003 年に Gauntlett 達により証明されている。前者の場合では時空解は時間に依存しないので、本研究では時空 とディラトンなどの場が光的対称性を持つ後者の場合を考えている。

光的対称性を持つ pp-wave 時空は、弦理論の量子化の観点からも重要であることがわかっており、その超 重力理論に基づく時空解の構成は 1990 年に Horowitz と Steif によってなされている。この pp-wave 時空解 では、曲率の高次補正項が現れないため最低次項のみを考えればよく、かつ時間依存性があるという興味深 い性質を持つ。この時空は光的対称性を持つため宇宙論に直接適用はできないが、宇宙初期特異点の解析に 重要な手がかりを与えることが期待される。そこで著者は、超弦理論における重要な構成物である D ブレイ ンも考慮に入れ、pp-wave 的時空のより一般的な解の構成を行っている。これは、D ブレインから離れる極 限で pp-wave 時空を再現し、かつ D ブレインが複数交差している場合の時間依存解である。著者達の研究 と並行して Craps 達は同様の解の構成を行っているが、彼らは 1 種類の D ブレインしか考えていない。

複数交差する D ブレインを含む著者達の解は、交差ブレイン時空から得られる様々な物理的対象につい ても議論することが可能という意味で非常に重要である。実際、この解は時間以外にブレインに垂直な 空間方向の座標にも依存しており、ブラックホール的時空の解析にも適用することができる。

著者は、まず、この時空解の持つ特異性の解析およびブレイン近傍と漸近的な挙動について調べてい る。興味深い点としては、D1-D5,D2-D4,D3-D3 などの交差ブレイン解では、ブレイン近傍極限で曲率お よび物質場が発散しない。その値は時間依存項を含まずブレインの持つ電荷のみで決まっている。この 事実は、超対称性を持つ時空の特徴で、特異点回避の機構解明に繋がる可能性を示している。

次に、D1-D5 ブレイン解を、D5 ブレインの広がる 5 次元空間のうち、4 次元部分をコンパクト化し、

光的座標の空間的な方向に適当な周期境界条件を課すことで実質的に 5 次元時空の解を構成している。

この解は無限遠方からはその質量が周期的に変動する 5 次元球対称ブラックホールのようにみえる。し かし“地平線”に近づくと、6 次元目の構造が現れ、非球対称に時間変動する 6 次元のブラックオブジ ェクトになっている。このように、著者は時間依存する新しい時空解を構成し、それを興味深い対象に 適用することで、新しい現象を明らかにしている点が大いに評価できる。

第4章は、新しいインフレーションモデルの探求に充てられている。インフレーションモデルは、大 統一理論より高いエネルギー領域が関係し、その領域では場の量子論的効果も重要になってくる。超弦 理論や超重力理論に基づくインフレーションモデルが多く解析されているが、十分に満足の得られるモ デルは未だにわかっていない。そこで、著者は、ヘテロティック超弦理論において量子補正項として曲

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率2次の Gauss-Bonnet 項が現れることに着目している。ヘテロティック超弦理論は、素粒子標準模型 を内包し、かつ、Gauss-Bonnet 項はゴーストを含まないので、初期宇宙の解析に向いていると考えられ る。Gauss-Bonnet 項の存在は、ディラトン場を考慮しない場合は、Ishihara によって示されたように、

指数膨張解の存在を保証する。しかしながら、超弦理論にはディラトン場が存在し、Gauss-Bonnet 項と 結合するため、得られた指数膨張解は損なわれ、巾膨張解になる。我々の宇宙を表す4次元時空で見る と加速膨張解ですらなくなっている。これはディラトン場の高次補正項を考えに入れても変わらない。

そこで、著者は場の再定義による有効作用の不定性に着目した。Gauss-Bonnet 項などの量子補正項は 摂動的 S 行列を用いて計算されているが、S 行列は局所的な場の再定義の下に不変であるので、得られ る有効作用にも場の再定義による不定性を持つ。その結果、大きなクラスの有効作用が存在することに なる。著者は、有効作用にはゴーストなど理論に不都合な場は現れないものと考え、基礎方程式が 2 階 微分方程式で記述されると仮定した。その場合、有効作用には場の再定義から来る 2 つの結合定数が残 り、その不定性が宇宙論解に与える影響を解析している。その結果として、我々の4次元時空が指数膨 張(または加速膨張)するインフレーション解を構成することが可能であることを示している。これら の結合定数は、従来の議論では無視されていたか、あるいは場の再定義を導入する前の値に固定されて いた。本研究では、これらの結合定数に特定の関係がある場合に 4 次元で de-Sitter 解が存在し、その まわりのパラメータ領域でも冪の十分大きい加速膨脹解が存在することを明らかにした。この場の再定 義の自由度を考えることで、ディラトン場の影響を考慮しても我々の宇宙においてインフレーション的 時空解が得られることは、非常に重要な指摘である。もちろん本当の有効理論ではここで考えられてい るような不定性は存在しないはずであるが、従来の解析が十分のものではなかったということを明確に 示したという意味で、本研究の意義は大きい。ただし、著者自身が指摘しているように、ここで得られ た解はこの力学系における安定なアトラクターになっているため、加速膨脹期を終わらせる機構を考え る必要がある。また、宇宙の再加熱化や揺らぎの生成など現実的なインフレーションモデルを構築する にはまだ様々な課題が残っている。

第5章では、本研究で得られた成果についてまとめ、今後の展望について述べている。

以上が本論文の各章ごとの概要とその評価である。要約すると、本研究では、 超弦理論の有効作用 である超重力理論を基礎として、動的時空解の解析およびインフレーションの新しい可能性を探ってい る。後者では、場の再定義による不定性を考慮し、曲率高次項およびディラトン場の影響を初期宇宙の 場合について系統的に解析し、新しいインフレーションの可能性に関して重要な知見を得ている。特に、

超弦理論の有効理論において4次元 de Sitter 解の存在を指摘したのは重要な成果である。このように、

本研究は、今後ますます重要となる超弦理論に基づく宇宙論の研究に大きな寄与をすると期待され、十 分に意義深いものと評価される。よって、本論文は博士(理学)の学位論文として価値あるものと認め る。

2012年6月

審査員

主査 早稲田大学教授 理学博士(京都大学) 前田 恵一 早稲田大学教授 博士(理学)東京大学 山田 章一

早稲田大学准教授 博士(理学)広島大学 安倍 博之 近畿大学教授 理学博士(東京大学) 太田 信義

参照

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