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早稲田大学大学院アジア太平洋研究科
博士論文審査報告書
論 文 題 目
原題名
Original Title
The Implications of Societal Forces in China’s Political Decision-Making (2002-2012):
Institutional Transformation, Behavioral Change and Policy Adjustment
英訳
In Japanese
中国政治の意思決定における社会的勢力の含意
(2002-2012):
制度改革、行動変容 、政策調整を中心に
申 請 者
姓Last Name Middle Name 名First Name
氏 名
Name 苗 吉
学籍番号
Student ID
4009 S 316
2016年 1月
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本論文の主旨本論文は、持続的な高度経済成長が続いてきた中国において、一般的な社会変動移行 論によればそれに伴う中間層の増大、市民の台頭、権利意識の強まりなどによって政治体 制移行に連動することが言われてきた。しかし、中国においては共産党執政の一党政治体 制は変わる気配がない。申請者はこのことを踏まえながら、それにもかかわらず政策決定過 程自体の重要な変化が始まっているという問題意識を持つ。そしてその重要なキー・アク ターを
Social Forces(社会勢力)
にあると考え、彼らの政策決定過程に対する様々な行動、発言など直接、間接の影響力、インパクトなどを明らかにし、理論的な意味づけを行うことを 目的とした。ここでいう
Social Forces
とは世論、専門家、メディア、NGO活動家などを指す。分析枠組みに関する理論的整理は行っているが、分析の手法は基本的には、いくつかの ケーススタディによる実証的分析である。
1. 本論文の構成と概要
第1部 研究課題と先行研究
第
1
章は先行研究のサーベイである。中国政治、とりわけ政策決定過程、権力と市民社 会との相関関係などで論争的な理論に関する研究をサーベイし、その上で中国が権威主 義体制であるにもかかわらず、社会が政策形成にどのように、どの程度まで影響力を持つよ うになったのかに関する従来の研究を紹介している。第2章は、中国政治における政策決定が社会の声を取り込んでいく根拠とロジックの分析 である。 執政政権・共産党が革命から経済成長へアイデンティティを変化させ、体制危機 意識、秩序維持を優先するようになったことで政策決定に社会の声・要求を取り込もうとする ようになった。これが根拠になったと説明している。
第3章は、中国の国家権力と社会の関係を描いている。共産党の社会統制の弱体化、世 代交代、派閥政治によるチェック・アンド・バランスの機能、社会の総体的な自立などに着目 し分析している。
第
4
章は、台頭する社会勢力と政策決定の分析を行っている。ポイントは市民社会と社 会勢力の総意を比較考察しながら指摘している。ポイントは市民社会一般ではなく、様々な 出来事に対して社会グループを取り込み、アセスメントをするようになったことである。社会 勢力とは具体的にはメディア、世論、プロフェッショナル、学者、社会的な活動家、NGO、お よび他の潜在的な勢力であり、これらによる社会の力が政府の態度に影響を及ぼすように なった。第
5
章は集体性(集団的)事件と社会勢力グループを扱っている。集体性事件において 社会勢力は政策決定過程に巻き込まれていくが、それを類別するならば、1)巻き込まれた
社会勢力、2)インタラクションパターン:集中化されるか、または分散化される、3)合理性:理 性的か、または非合理か、4)イシュー領域、5)政治的敏感さが分析に基準になり、ここでは 上記のファクターが政策決定過程におけるの社会の関与の結果に影響すると考えた。第2部 制度上の変化: ここでは社会関与の制度上の意味を説明する
2
のケースを扱う。第
6
章は、プロフェッショナル、伝統的なメディアと世論と学者といった社会の勢力が、それぞれ別々に、理性的な方法において、強制的保護と労働教養という制度の廃止に有効 に機能した事例を考察しているする。
第7章では、BoBai 県の社会活動家、地方の学生など社会勢力が参加した計画出産制 度に対する改正要求の動きの事例を取り上げて考察している。ただし、この事例は政治的 にはそれほど敏感な問題ではなかったが、集中的に感情的に社会勢力の関与がなされた ことで、政策転換にほとんど効果があげられなかった事例であった。
第
3
部:政府行動様式の変化第
8
章はアモイにおけるPX
プラント工場建設に対する抗議運動の事例である。この行動 が専門家、学者、メディア、中間層などをどのように巻き込み、組織化し、建設的にアプロー チし、地元政府の政策をどのように変化させたかを論じている。第
9
章は、陳Yunhui
の不可解な死をケースとして考察。ある地域の村民と村政府との重要なステークホルダーであった陳の不可解な死をめぐり、社会的な活動家、プロフェッショ ナル、学者、NGO、マスメディア、世論などの〉の集中的な興味および深い関与を引き起こ した。しかし地元政府は抑圧的で、恣意的で、巧みな対応によって握りつぶされてしまった。
このケースは当村にとって非常に敏感であり、 関係のある利益団体の強い影響があった。
結果は分散化し行動は強く制限されて、彼らの行動の限界性を露呈した。
第
4
部:方針調整政策決定過程において社会勢力が巻き込まれ、決定方針が調整された
2
のケース分析 第10
章は、烏款村Wukan
土地抗議行動で、成功したケースであったWukan
村民(ス テークホルダーとしての)〈NGO によりサポートされた〉の抗議 国際社会とニューメディア、社会的活動家の強いサポートを受けて、不当な土地収奪に立ち上がった農民たちは村民 委員会を解散させて、民主主義的な選挙を行い、新幹部を選出した。さらに広東政府は失 われた土地の返還要求を受け入れ、他の経済援助を提供する。それは、意志の強いス テークホルダーと強い連携をした社会勢力の力を示したが、国際的なメディアの過剰な報 道などでかえって敏感な問題となり、その後好結果をもたらさなくなった。
第
11
章は大連PX
抗議事件を扱っている。大連PX
の抗議活動は、大規模な運動として 展開され、ニューメディア、伝統的メディア、および国際的なメディアが参加し、さらに中間 層がステークホルダーとなり、社会的な活動家、学者を巻き込んだ。大規模で理性的な報 道がなされ、彼らを強く巻き込んだにも関わらず、実際には政府の政策決定は変更されな かった。失敗した事例としてよく用いられるが、比較および詳細な分析をしてみると、強い利 益団体があり、その抵抗によって社会勢力はの影響力は挫折を余儀なくされた。中国のク ローニー・キャピタリズムの強い影響を表したともいえる。結論
本論文は、今日の中国の政策決定過程における社会的な活動家、プロフェッショナル、
マスメディア、世論、学者と知識人、NGO、および他の社会勢力の役割を一般的な現象とし て扱い、制度上、行動の試験的なアセスメントをするを試みた。政策決定過程において、社 会勢力はどのように、どのような条件において巻き込まれるのか、いかなる条件において社 会勢力の行動は成功するのか、失敗するのかを考察した。今日の中国における政策決定 外の社会アクターが政策決定システム自体に影響力を持つようになった政治社会学的な実 証研究をベースにした政治社会学的な考察である。
4
2. 口述試験での質疑応答本論文審査委員会は、申請者から提出された学位請求論文を査読し、2015 年
12
月8
日に2
時間余にわたり口述試験を実施した。主たる論点は以下の通りである。(1)
理論的構成における曖昧性の問題: 中国政治体制論及び政策決定過程論、政治 社会変動論をめぐる研究は、必ずしも従来の一般的な政治学、政治社会学の枠組 みで分析できるものではないが、学術的な研究の手続きを重視するなら、こうした理 論のサーベイを軽視できない。先行研究が概説過ぎるとのコメントがあった。(2)
論証のためのケーススタディ選択の問題:政策決定過程における社会勢力のインパ クト、その意義などを明らかにしようとする限り、ケーススタディは最も重要な考察であ り、ある意味で本論文の評価にかかわる最需要部分である。しかし考察した事例は わずか3件にとどまり、しかも社会勢力の動向が政策決定の転換・修正に成功した例 ばかりであった。また選択した理由が十分に説明されていないため、これらの事例に よって中国の政策決定過程における社会勢力のインパクトやその意味などが十分に 説得的に論じられていないとの指摘がなされた。(3)
本論文のオリジナリティをめぐる問題:上記2つの問題はつまるところオリジナリティの 問題に帰着する。もともと政策決定過程分析は、決定メカニズムがブラックボックスと いわれ、一般的にもその実態を明らかにすることは困難であるが、中国の場合は他 国に比べてはるかに不透明である。したがって、このテーマが極めて重要であるが、研究自体が当初から難しいイシューであることは言うまでもなかった。申請者は切削 っ決定過程において従来の共産党体制では見られなかった社会勢力のインパクト、
影響力の重要性が高まってきたことの論証をオリジナリティにしようとしたが、理論的 にも実証的にもそれがまだ不十分であることが指摘された。また「社会諸力の重要性 が高まっている」と指摘するのみでは、従来の国家社会論フレームワークによる先行 研究を超えることはできず、学に対する貢献にも乏しい。寧ろ、各ケースにおける「社 会勢力」の影響プロセス/メカニズムおよび各社会勢力間の相互作用等を描き出す ことが求められるとのコメントがあった。
(4)
文章表現の問題:英語の文章として、誤字、脱字、文法的な誤りなどが目立ち、全面 的に文章のチェック修正をすることが求められた。★以上のような審査委員からの疑問、指摘を踏まえて、理論的な先行研究のサーヴェ イを行ったうえで、申請者自身の理論的な枠組みをクリアにすること、ケーススタディではで きるだけ数を増やすと同時に、社会勢力のインパクトが政策変更に成功した事例と失敗した 事例を合わせて行い、全体としてどのような効果と限界性がみられるのかを交差すすべきだ とのコメントが出された。修正・改訂すべき点については、最終提出までに適切に修正・改 訂することとなった。申請者の改正版を受けて審査委員会は修正・改訂に関して、適切に 処理されていることを確認した上で、論文自体が大幅に改善されていることを確認した。
3. 評価と審査結果
以上のように本論文は、中国政治の決定過程における動態的な変動を、いくつかの典型 的なイシューを取り上げ、これに関連する社会勢力のかかわり方の態様、効果などを分析し、
論じたことによって、政策決定メカニズムの中で各社会勢力のインパクト、影響力が政策決 定過程において重要な意味を持つようになってきたという新たな構造的特徴を説得的に描 き出すことできるようになった。この点が本論文の重要なオリジナリティであるといえる。
また口述試験でのコメントを受けて修正・改訂された最終版においては、理論的・分析的 な枠組みも精緻化されている。現代中国の政策決定過程における社会的勢力の役割に注 目する先行研究には二つの弱点があった。一つは、国家・社会関係を敵対的なゼロ・サム・
ゲームとしてのみとらえ、政策変更の成功には社会の側からの一方向の「反発」が必要であ るという見方。二つ目は、国家あるいは社会をそれぞれ一枚岩のアクターとしてとらえ、国家 内あるいは社会内のアクターの多様性を軽視する傾向。この二点について、本論文は、複 数の事例研究を詳細に分析することによって、1)国家・社会関係の在り方自体を変数として とらえ、それと政策変更の成功・失敗との複雑な因果関係メカニズムを明らかにしようとし、さ らに、2)さまざまなレベルや部局の政府官僚の行動様式に着目することによって国家内の アクターの多様性を明らかにし、他方、世論・メディア・NGO活動家・一般市民といった社会 内の多様なアクターの相互作用にも焦点をあてている。この二点は、現代中国を対象とした 政治社会学的研究における大きな貢献となっている。
残された課題としては、本論文が対象とした「事件」性ケースを超えた正規(conventional
and regular)レベルにおける社会勢力の政策決定への関係態様一般へと分析視座を拡大
することが求められる。また、社会勢力それ自体の定位も、国外アクターはもとより、いわゆる 黒社会、宗教勢力等組織アクターへと拡大することで中国政治が直面する構造的緊張関 係をよりダイナミックに描き出すことができるであろう。とはいえ、言うまでもなく様々な厳しい制約要因によって資料収集、インタビューなどによ る実証的研究が極めて困難な中国の政治社会学分野で、このように果敢に学術的な研究 を試み、極めて冷静な考察を進めながら、一定の成果を上げたことは特筆すべきであろう。
口述試験の内容及びその後の修正への取り組みを踏まえ、論文に関して慎重かつ総合的 に審査を行なった結果、博士学位請求論文としての水準を十分満たしているものと判断し、
これを受理することに全委員が合意した。
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申 請 者 名 : 苗 吉 博 士 論 文 審 査 委 員 会
主 査 Ch ie f Exam in e r:
氏 名 N am e: 天 児 慧
㊞
( S i g n a t u r e )所 属 A ffi lia tio n: 早 稲 田 大 学 大 学 院 アジア太 平 洋 研 究 科
職 位 Tit le: 教 授
学 位 De gr e e: 社 会 学 博 士 取 得 大 学 Co n fe r r e d by: 一 橋 大 学
専 門 分 野 S pe c ial ty: 社 会 学 現 代 中 国 政 治 論 副 査 H e ad De pu ty Ex am in e r
:
氏 名 N am e: ファーラー、グラシア
㊞
( S i g n a t u r e )所 属 A ffi lia tio n: 早 稲 田 大 学 大 学 院 アジア太 平 洋 研 究 科
職 位 Tit le: 教 授
学 位 De gr e e: PhD.in Sociology 取 得 大 学 Co n fe r r e d by: University of Chicago 専 門 分 野 S pe c ial ty: 社 会 学
副 査 De pu ty Exam in e r
:
氏 名 N am e: 中 嶋 聖 雄
㊞
( S i g n a t u r e )所 属 A ffi lia tio n: 早 稲 田 大 学 大 学 院 アジア太 平 洋 研 究 科
職 位 Tit le: 準 教 授
学 位 De gr e e: PhD.in Sociology 取 得 大 学 Co n fe r r e d by:U.C.Berkeley
専 門 分 野 S pe c ial ty: 社 会 学 副 査 De pu ty Exam in e r
:
氏 名 N am e: 菱 田 雅 晴
㊞
( S i g n a t u r e )所 属 A ffi lia tio n: 法 政 大 学 法 学 部
職 位 Tit le: 教 授
学 位 De gr e e: 学 士 取 得 大 学 Co n fe r r e d by: 東 京 大 学
専 門 分 野 S pe c ial ty: 社 会 学
2016年 1月 22日