• 検索結果がありません。

計測に関する研究 循環器系を対象とした生体信号の

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "計測に関する研究 循環器系を対象とした生体信号の"

Copied!
188
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)循環器系を対象とした生体信号の 計測に関する研究 A Study on Vital-sign Measurements for The Circulatory System. 2003 年 10 月. 武田. 1. 朴.

(2) 第1章 1.1. 序章. 1 2. 本論文の医学的背景. 1.1.1. 本論文のテーマに関する歴史的背景. 2. 1.1.2. 医療的背景(バイタルサインの重要性). 3. 1.1.3. バイタルサインモニタの課題. 3. 1.1. 4. 医療と医学(バイタルサインモニタの役割). 4. 1.2 1.3. 本研究の目的 本研究を進める上での基本的了解事項. 4 5. 1.3.1. システムとしてのヒト. 1.3.2. ホメオスタティクス. 1.3.3. 血液. 7. 1.3.4. 血液成分の制御. 8. 1.3.5. 血流量の制御. 10. 本論文の構成. 11. 1.4. 第2章. 5 (体内環境を一定に保つシステム). 電磁血流量計の開発・検討. -電磁血流量計の基本性能向上を目的とした検討 および 特殊な部位の計測を目的としたプローブの開発2.1 本章の背景 2.2 本章の目的 2.3 電磁血流量計の感度に関する検討. 6. 15. 16 18 18. 2.3.1. 本節の目的. 18. 2.3.2. 検討. 18. 2.3.3. 方法. 24. 2.3.4. 結果. 27. 2.3.5. 考察. 28. 2.4. 電磁血流量計ゼロ安定度の向上に関する検討. 31. 2.4.1. 本節の目的. 31. 2.4.2. 検討. 32. 2.4.3. 方法. 34. 2.4.4. 結果. 36. 2.4.5. 考察. 37. 2.5. 41. 脳血流量測定用プローブの開発. i.

(3) 2.5.1. 本節の目的. 41. 2.5.2. 検討. 41. 2.5.3. 測定. 43. 2.5.4. 結果. 44. 2.5.5. 考察. 46. 2.6. 47. 三尖弁流量測定用プローブの開発. 2.6.1. 本節の目的. 47. 2.6.2. 検討. 47. 2.6.3. 測定. 53. 2.6.4. 結果. 53. 2.6.5. 考察. 53. 小括. 55. 2.7. 第3章. 血圧計測装置の開発・検討. 57. -観血式血圧センサの開発および非観血血圧計計測能力の向上3.1 本章の背景 3.2 本章の目的 3.3 観血式血圧計の開発. 58 59 59. 3.3.1. 本節の目的. 59. 3.3.2. 検討. 60. 3.3.3. 試作設計. 70. 3.3.4. 結果. 75. 3.3.5. 考察. 79. 3.4. 非観血血圧計測定能力の向上に関する検討. 81. 3.4.1. 本節の目的. 81. 3.4.2. 検討. 82. 3.4.3. 測定. 91. 3.4.4. 結果. 92. 3.4.5. 考察. 92. 小括. 95. 3.5. 第4章. 光学的手法による血液成分計測装置の開発・検討 -血液中色素濃度計測精度の検討、 パルスオキシメータの精度検定 および 色素濃度図から計算した生体情報の精度検討-. ii. 97.

(4) 4.1 本章の背景 4.2 本章の目的 4.3 血液中色素濃度計測精度の検討. 100. 4.3.1. 本節の目的. 100. 4.3.2. 検討. 100. 4.3.3. 測定. 110. 4.3.4. 結果. 111. 4.3.5. 考察. 114. 4.4. 98 99. 116. パルスオキシメータの精度検定. 4.4.1. 本節の目的. 116. 4.4.2. 検討. 116. 4.4.3. 測定. 117. 4.4.4. 結果. 118. 4.4.5. 考察. 119. 4.5. 色素濃度図から計算した生体情報の精度検討. 120. 4.5.1. 本節の目的. 120. 4.5.2. 検討. 120. 4.5.3. 測定. 122. 4.5.4. 結果. 123. 4.5.5. 考察. 124. 小括. 130. 4.6. 第5章 5.1. 自律神経系モニタリング装置の開発・検討. -アラームシステムの開発および脈拍計数技術の検討本章の背景. 133. 134. 5.1.1. ストレスと自律神経. 134. 5.1.2. 社会的状況. 134. 5.1.3. 既存の技術. 135. 5.2 5.3. 135. 本章の目的 アラームシステムの検討. 136. 5.3.1. 本節の目的. 136. 5.3.2. 検討. 136. 5.3.3. 測定. 139. 5.3.4. 結果. 139. 5.3.5. 考察. 146. 5.4 自律神経系用脈拍計数技術の検討. iii. 147.

(5) 5.4.1. 本節の目的. 147. 5.4.2. 検討. 147. 5.4.3. 測定. 155. 5.4.4. 結果. 156. 5.4.5. 考察. 158. 5.5. 第6章 6.1 6.2 6.3 6.4. 162. 小括. 総括. 165 166. 本研究の特徴 本研究成果の波及効果 今後の課題 結語. 166 167 168. 参考文献. 169. 謝辞. 177. 業績. 179. iv.

(6) 第1章 序章. 1.1 本論文のテーマに関する医学的背景 1.2 本研究の目的 1.3 本研究を進める上での基本的了解事項 1.4 本論文の構成. 1.

(7) 1.1 1.1.1. 本論文のテーマに関する医学的背景 本論文のテーマに関する歴史的背景. 医用計測(診断治療を目的とする計測)は生体計測(研究を目的とする計測)から始ま った。生体計測の歴史は、1616 年に William Harvey が Exercitatio anatomica de motucordis et sanguinis in animalibus に Hemodynamics(血行力学)に関する実験的科学的記 述を行い,Stephen Halls(1711 年)は流体力学を実験的に応用して、動物の循環系を最初に明 らかにしようとした 1)。1750 年に J.G.Sulzer が「2 種の金属接触が味覚を引き起こす。 (電 気刺激が味覚神経を刺激する。) 」と報告した。これに引き続いて 1780 年に A.Galvani が「切 断した蛙の足に電気刺激を行い筋肉が収縮する。 」と報告したのは非常に有名である。 その後、E.du Bois-Reymond(1818-1896)などが磁針型の装置を用いて電気生理学の発展 に努めた。また、非観血血圧計も 1896 年に報告されている。C.Ludwig は水銀圧力計に浮 き を 浮 か せ こ れ を キ モ グ ラ フ に 接 続 し 血 圧 脈 波 の 動 的 記 録 に 成 功 し た 。 (1847 年 ),E.J.Marey(1875) が 膜 を 張 っ た タ ン ブ ー ル を ゴ ム 管 で 接 続 し た transmission sphygmograph を考案し、脈波の記録が進歩した。さらに 1907 年に W.Eintoven が Saitengalvanometer をもちいて心電図の記録に成功した。1896 年には現在の血圧計の発 明者である S.Riva-Rocci は側圧と全圧の概念を紹介した。その後電子管の発明により、電 子管増幅器を用いた研究が進み、1929 年には人体脳波が記録された。またブラウン管オシ ロスコープが普及するのに伴い J.Erlanger と H.S.Gasser が神経活動電位を記録した。心 臓カテーテルの発明、電磁血流量計の発明、観血式血圧計の発明、など 1960 年代までには、 実用的な生体計測装置あるいは検査装置が一通りそろった状況になった. 2),3),4) 。さらに、. 1970 年代には、集中治療室、患者監視装置(現在は患者情報モニタ)などの導入 5)、パル スオキシメータの発明、レントゲン透視装置を必要としないスワンガンツカテーテルの発 明など、生体計測装置の患者モニタへの応用が始まった。患者モニタはそれまでの生体計 測装置、あるいは生理検査装置と測定項目は変わらないものの、対象となる患者が、生体 計測装置あるいは生理検査装置の対象である麻酔下における動物、検査に協力できる意識 のある成人患者と異なり、意識のない患者、計測に協力できない患者である。したがって、 患者の体動、また治療あるいは看護行為による雑音混入、病態生理学的状況下にある、著 しく強度の下がった信号をなどに対する対策を講じる必要があり、信号の通過帯域幅を制 限して雑音を防ぐ、センサの装着法を改良するなどの改善を行ってきた。最近(1990 年代) になって、高速な CPU と大容量のメモリを生かした適応フィルタ等を用いた信号抽出技術 の導入などが始まった。 著者が本研究に着手した 1970 年代は生体計測装置がモニタに応用され始めた時代である。 生体計測装置は電子技術が発明される以前から先駆的研究がなされ、研究成果を厳密なも のとする目的でアナログ電子技術が導入されほぼ臨床検査技師が用いる実用的な検査装置. 2.

(8) たとえば心電計、脳波計などが完成していた。電磁血流量計など、信号の大きさが 10μV 以下の装置は内部雑音の小さな FET あるいは BiFET が組み込まれたアナログ IC の商品化 まで十分な S/N 比は言えない状況であった。本研究は医師が測定を行う臨床用電磁血流量 計の開発から始まり、技師が不在な状態で使用される院内使用モニタの実用性向上を図る 研究まで行い現在も継続して行っている。 1.1. 2. 医療的背景(バイタルサインの重要性). 疾患の原因が科学的に明らかにされる以前から医師は、患者の苦痛を押さえる、発熱を 下げる、脈拍を一定に保つ、等の対症療法的な治療を施してきた。言い換えると、バイタ ルサインを一定に保つ手段を講じて治療を行ってきた。18 世紀以降になって、疾患の原因 あるいは臓器の役割が科学的に明らかになるに従って、医療は臓器別に分離され、疾患別 に治療を行うようになってきた。 1970 年代に至り、重症患者の治療においてまず、患者の生命維持を重点的に行い、患者 自身の快復力を増強しつつ重症に陥った原因疾患を治療するいわゆる集中治療という治療 方法が始まった。これは原因疾患あるいは、その重症度、患者の個性により最適な治療法 は個々の症例で異なるが、生命維持を目的とした、バイタルサインを一様に保ち、体内の ホメオステイシスを一定に保つ手段は余り変化しないので、重症患者を重症に陥った原因 疾患を問わず、集中治療室に収容し、バイタルサインを一定に保つ対症療法を講じて、治 癒に効果を上げようと試みであり、現在大きな成功を収めている。 バイタルサインを一定に保つ努力を支えてきたのが患者モニタである。患者モニタにお けるバイタルサインとは、心電図による心拍と致死性不整脈の監視 5)、血圧計による血圧監 視 5)、パルスオキシメータによる動脈血酸素飽和度、体温計による体温、熱希釈法による心 拍出量、炭酸ガスセンサによる呼気炭酸ガス濃度などである 5)。バイタルサインモニタリン グは患者の原因疾患に関わらず、生命維持の手段として、成分が一定の血液を一定の流量 で循環させる目的で行われる治療が適切に行われているかどうかを医療従事者にフィード バックし、さらに患者の急変に際し適切にアラームを発生することが目的で行われる 5)。 いかに治療法が進歩しても治療の効果を確かめずして医療を行うことはできない。患者 の訴えによって治療の効果を判定できない状況下においてはバイタルサインのモニタは非 常に重要である。 1.1. 3. バイタルサインモニタの課題. バイタルサインモニタは当初生理学の研究用として開発された計測システムあるいは生 理機能検査用として開発された機器 5)が応用されたが、これらの装置は麻酔下における動物 実験、意識のある成人が検査に協力することを前提に開発されており、意識のない患者で. 3.

(9) 計測に協力できない患者の体動、また治療あるいは看護行為による体動等の雑音に弱く、 さらに、著しく強度の下がった信号、(病態生理学的状況下にあるバイタルサインの性質は 健常人と大きく異なっている。 )などにより実用性が著しく損なわれていた。これらの課題 に対処するには、アナログ的な波形認識から、デジタル化しマイクロコンピュータによる デジタル信号処理を導入する必要があった。 さらに、ふつうの計測器は計測技術に長けた技術者あるいは科学者が使用することを前 に開発される。しかし、医療機器は医学という自然科学の分野における専門家であっても、 必ずしも計測技術に長けたとは言えない医療従事者が操作しても、速やかに正しい測定結 果を提示する必要がある。すなわち、疾病、外傷などによって著しく減弱しかつ雑音を含 むバイタルサインを誰が操作しても安定に計測あるいはモニタできる医療機器を作り上げ ることが課題である。 1.1.4. 医療と医学(バイタルサインモニタの役割). 医療は病気や外傷をうけた患者の生命を救い、傷害を残さずに治療する。目的で行われ、 最悪の場合であっても、手を尽くしたが、天命で仕方がないと受容できる状況を作ること が使命である。 医学は科学の一分野であり、現象の因果関係を検証し、科学的根拠に基づいて行動する のが原則であり、医療の重要な一環である。しかし、生命が危険にさらされ一刻の猶予も ないときに、科学的根拠がないものは実行しないとできる当事者は(医療側、患者、その 家族)にいるであろうか。 突然、倒れたといって運びこまれた意識の無い患者を前にした場合、本質的な疾病の原 因を探求する前に、意識がない理由を調べ、そして、対策を取るのが医療の行うことであ る。意識がない原因が血圧低下にあれば血圧上昇を、心停止であれば心マッサージを、な どとりあえずの生命維持活動を行うのが医療である。 医学は生命現象を客観的に捕らえることを目的とし、その結果が医療に有用であること を期待して行われるのであるが、直接医療を行う立場はとらない。生命現象を因果律で理 解し、生命もしくは生命を維持する機構(生体)の本質を探るのが目的である。 医療は多分に経験によって実行される。医療の結果を臨床的な経過に基づいて判断し、 これを利用して次の医療に向かう形で医療と医学の進歩が支えられてきた。医療の経験を 数値化し共有していくために活用される道具の一つがバイタルサインモニタである。 1.2. 本研究の目的. 本研究は外形的には医療への応用を目的とした循環動態計測用装置の実用性を高める研 究及び、循環を制御する自律神経系の循環に対する作用を計測する装置の研究である。そ. 4.

(10) の本質的な目標は、1.3 で述べるとおりシステムを構成している人の疾病(故障)に対して、 医療は疾病(故障)によるシステムの変化を把握し、これに対応する処置を行うものであ る。医療計測はその最終目的を名医の診断と同じ診断を下し、その治療もまた名医が行う のと同じ質の治療を施せることである。このためには、優れたモニタシステムが必要であ る。モニタシステムの質は目的を達成するのに必要且つ十分な計測装置とその統合判断機 能が組み合わされて初めて完成する。優れたモニタシステム開発という目標達成の手段あ るいはその手順は様々な考え方がある。著者は人というシステムを診断する目的を念頭に 置きつつ個々の測定装置の性能向上を図ること(電磁血流量計の開発検討および血圧計測 装置の開発検討がほぼこれに当たる) 、今まで測定し得なかった必要なパラメータを補うこ と(光学的手法による血液成分計測装置の開発検討および自律神経系モニタリング装置の 開発検討がこれに当たる。 )を進めてきた。この考えに沿って開発検討を進めてきた成果を 報告することが本研究の目的である。表現を変えると、本論文が対象とした測定項目は流 量、圧力、生体成分およびリズムと工学的にみれば一貫性を欠くが、医療的に考えると、 ホメオステイシス保つ生体の機構、特に循環器系に関わる、心臓、肺、肝臓、腎臓などの 機能計測機器とモニタリング装置の開発を有効に行うために、個々のパラメータにこだわ らず、生体のホメオステイシス維持機構に着目してその特性把握に必要なパラメータを対 象として開発改良を行い、バランスのとれた患者モニタシステムを提供することが本研究 の目的である。 1.3. 本研究を進める上での基本的了解事項. 最初に本研究を進めるに当たり、その対象であるヒトをシステムとして捕らえることと し、そのシステムについて整理する。2章以下に報告する内容は以下のシステムを可能な 限り、リアルタイムでモニタする目的で開発検討を行った。 1.3.1 (1). システムとしてのヒト 細胞. ヒトは基本的な生きている単位としての細胞から成り立っている。臓器はさまざまな種 類の細胞が細胞間の支持構造に支えられて寄せ集まったものである。それぞれの細胞は特 定の機能を発揮するように適応している。たとえば、赤血球は 230 億個あるが、酸素を肺 から対組織に運ぶのに適している。その他の細胞は体の中に 750 億個あり、体全体では、 1兆個の細胞を含んでいる。 人体にあるたくさんの細胞はそれぞれ異なった働きをしているが、共通する部分もある。 たとえば、個々の細胞は生存し続けるために栄養が必要であり、かつ、その栄養ほぼ共通 している。すべての細胞はその機能を発揮するために必要なエネルギを酸素と炭化水素、. 5.

(11) 脂肪、あるいはたんぱく質を結合させることにより得ている。栄養をエネルギに変化させ る機構はほとんどすべての細胞に共通している、そして化学反応の最終的な産物を周囲の 液体に放出する。 ほとんどの細胞には再生能力があり、細胞が何らかの理由で破壊されると残りの同じ種 類の細胞が分裂し妥当な数の細胞が破壊された細胞に置き換えられる。このように人は多 数の細胞からなるシステムと考えられる 6)。 (2). 細胞間質液(体内環境). 成人の体重の 56%が液体である。細胞内にある液体を細胞内液と呼ぶ。細胞の外にある 液体を細胞間質液と呼ぶ。細胞間質液はイオンと細胞の活動に必要な栄養が溶けている。 細胞間質液は全身を常に動き回り、循環する血液と拡散により混和している。したがって、 すべての細胞は本質的に同じ環境の中で生きている。このため、細胞間質液は体内環境と 呼ばれることがある。フランスの生理学者 Claude Bernard は、 「酸素とグルコースといく つかの電解質が体内環境内において、一定に保たれる限り、細胞は生きて、成長し、彼ら の特別な機能を発揮し続ける自動機械である。」と述べている。 従って、人というシステムはその機能を維持するために細胞間質液すなわち体内環境を 一定に保つシステムでもある 6),7)。 1.3.2. ホメオスタティクス. (体内環境を一定に保つシステム). ホメオステイシスとは体内環境の恒常性を意味する用語として生理学者に使用されてい る。本質的にすべての臓器とすなわち、細胞に酸素と栄養を供給し、代謝産物である二酸 化炭素と代謝産物を除去することにより、細胞内における浸透圧、酸素分圧、炭酸ガス分 圧、糖質、タンパク質、脂質、電解質などのバランスをとりかつ温度を一定に保つ事によ. Fig.1.1. 人体各部の酸素分圧. 6.

(12) り成り立つ。本質的に臓器あるいは生体組織はそれらの環境が一定になるように動作する。 たとえば、肺は細胞から要求される酸素を取り込み、腎臓は電解質濃度を一定に保つ、消 化器は栄養を供給する。細胞間質液は二つの段階を経て体内に輸送される。最初は血液の 循環であり二番目は毛細血管と細胞の間における移動である 6)。 細胞は細胞間質液に包まれていて形質膜を介して細胞間質液に接触している。形質膜に おける選択性透過と拡散により栄養を摂取し、タンパク合成、増殖、エネルギ産生など基 本的な生命活動を行っている。細胞間質液にこれらの栄養を供給し老廃物を除去する運び 手が血液である。血液と細胞間質液は毛細血管を介して存在し拡散により物質交換を行っ ている。従って、細胞に酸素と栄養を供給し炭酸ガスほかの代謝産物を除去するには、細 胞の近傍に必要な表面積を持つ毛細血管が存在し、毛細血管に流入する血液の成分が一定 に保たれていて、かつ十分な流量で流れていることが必要条件となる。6) 参考に外気酸素分圧 159mmHg が鼻・気管において加湿され、肺胞気に達し、動脈血を 酸素化し、細胞内のミトコンドリアまで達するまでにどのように酸素分圧が変化するか を.Fig1.1 に示す 6)。 1.3.3. 血液. 必要な物質を細胞間質液まで搬入し不要な物質を運び出す血液について考える。血液は 血球と血漿から成り立っている。血球には赤血球と白血球、血小板などからなる。人の血 液量はおおむね5Lと言われている。また、犬などでは、脾臓に血液が貯留されており、 不時の出血に備えているといわれている。健常人の場合も 500mLの血液を輸血すると循環 血液量が 500mL 増加するのではなく、また、500mL 出血すると循環血液量が 500mL 減少 するのでもないと報告されている 8)。さらに、細胞間質液、細胞内液と血漿の間で水の交換 が存在し、水は細胞間質液、あるいは細胞内液に貯留されるので、500mL の出血があった 場合でも、通常であれば血漿量は細胞内液あるいは細胞間質液などから補充され循環血液 量が保たれるが、この場合、血液中の血球量(ヘマトクリット値)は低下すると予測され ている。 確かに出血に伴いヘマトクリット値が低下する傾向が認められるが、出血量と循環血液 量から計算されるような低下にはならないことが知られている。従って、人においても血 球を貯留する機能が、いずれかの臓器、脾臓、肝臓、骨随などに存在することが予測され る。血液は酸素を赤血球中のヘモグロビンにより、その他の栄養分と代謝産物は血漿によ り運搬している。従って、栄養分、老廃物、炭酸ガスなどが運搬できる量は血漿の流量と その含量により決まり、酸素の運搬能力は赤血球の流量と酸素含量によりきまる。Table 1. 1に主な血液の成分を示す。また、犬における体内の血液分布を Fig.1.2に示す。Fig.1.2 に示すとおり血液は静脈にその大部分が存在することがわかる 6),7)。. 7.

(13) 1.3.4 (1). 血液成分の制御 血液に対する酸素の供給. 肺の換気量、ガス交換能力と肺血流量と混合静脈血酸素含量によって決まる。正常人の場 合、肺においてヘモグロビンはほぼ 100%酸素化され、混合静脈血(右心房に戻ってくる静 脈血の酸素飽和度は 80%程度といわれている。)血液の酸素供給量の最大値は心拍出量と単 位体積あたりの酸素含量による 7)。 Table1.1. 主な血液の成分 体積mL. 大 太 動脈 い 太 動 1 い 脈 太 動 0.3 い 脈 動 脈 0.1 細 0 毛 動脈 .06 細 0 血 .00 管 2 細 0. 太 00 静 い 静 脈0 8 脈 .0 03 太 い 0 .0 静 15 太 脈0 い .2 静 4 大 脈 静 0.6 脈 1.2 5. 3 00 2 50 2 00 1 50 1 00 50 0. Fig.1.2. Fig.1.3. 犬における血液の分布 3). 酸素と二酸化炭素の調整. 参考までにヒトの体内への酸素供給量を計算してみると次の通りである。 心拍出量はおおむねヒトで 5L/min 程度、血液中のヘモグロビン含量は 700g〜800g、ヘ モグロビン1分子には、酸素が4分子結合する。ヘモグロビンの分子量 66,439、酸素1モ ルは 22.4L、36g である。従って、体内に供給される酸素は一分間に最大で約 1L(標準状. 8.

(14) 態換算)である 6),7)。 (2). 血液中炭酸ガスの排出. 血漿内に溶解して運搬され主に肺、残りは皮膚及び腸から排泄される。肺においてはやは り換気量とガス交換能と肺血流量により炭酸ガスの排出能力が決まる。Fig.1.3 に血液中の 酸素と炭酸ガス含量の調節機構を示す 6),7)。 (3). 血液栄養含量. 血液の栄養含量は肝臓の機能により決まる。肝臓は腸から供給される栄養と体内に蓄え られた栄養及び老廃物を分解・再合成して得られる栄養分を血液に供給する。不要な代謝 産物(老廃物)は胆汁あるいは血液中に排出し、これを腎臓が排泄する 6)。 心臓. 体組織 グルコース、アミノ酸などを摂取 乳酸等を排出. 食物. 便. アミノ酸、糖類、 脂質など. 動脈. 門脈. 肝臓. 胆汁とし て排泄. 静脈. 門脈からアミノ酸、糖類、脂質 動脈から乳酸、その他 アミノ酸、糖類、脂質などを産生 アンモニア性窒素などを産生. 尿として排泄 Na、K等の電解質 アンモニア製窒素 尿として排泄 Na、K等の電解質 アンモニア製窒素. Fig.1.4 (4). 栄養と老廃物の制御. 血液中代謝産物. 分子量の少ない老廃物は、主に腎臓から尿として排泄されるほか発汗によっても排泄さ れる。分子量の多い代謝産物は肝臓で分解され、再合成されて栄養となるほか、分解され て小さな分子量の老廃物として血液中に戻され、分子量の小さな老廃物として腎臓から排 泄されるか、胆汁として小腸に排泄し、腸で分解再吸収されるものと便として排泄される ものに分かれる。Fig.1.4に栄養と老廃物の調整機構を示す 6)。. 9.

(15) 1.3.5. 血流量の制御. 血液循環は心臓の収縮による血圧の拍出と血管系の流体インピーダンスによりきまる。 血圧は全身で必要とされる量を自律機能が判断し、心臓が必要量の血液を拍出し、弾性血 管(大動脈)の容積コンプライアンスと、筋性血管(末梢動脈)の流体抵抗との関係で決 まる。これをウインドケッセルモデルと称する。ウインドケッセルモデルは本来分布定数 で記述されるべき血液循環システムを、集中定数回路に置き換えている。実際には分布定 数回路を構成しているので、中枢から末梢に伝達していくのに従って波形が変化する。末 梢動脈における血圧波形と血流量波形の変化を Fig.1.5 に示す。Fig.1.5 に示すように、末 梢に行くに従って血流量は各臓器に分流するため減少するが、血圧波形は増大する。これ は下流からの反射の影響と考えられている 8)。 生体が置かれた状況により各臓器の栄養所要量が決まるので、たとえば運動を行う際に は筋肉に重点的に配分され、食事をとると消化器に、また、苦痛を感じる場所あるいは傷 害を受けた場所にも血液が集中して配分される。たとえば、ボクシングでボディを打たれ てノックアウトされるとき、腹部臓器に加わった大きな打撃に対応して腹部に大量の血流 量が配分され、結果的に脳血流量が不足し、失神すると考えられている。 このように生体のホメオステイシスを保つために心、肺、肝、腎が大きな役割を果たし ていてこれらの機能がどのような状況にあるかモニタすることが医療上有用であることが 生理学的な意味での本研究の背景である 6),7),8)。. Fig.1.5 末梢動脈における速度パルスおよび圧力パルスの波形 (D.A.McDonald;R.L.Whitemore). 10.

(16) 1.4. 本論文の構成. 本論文は、6 章から構成されている。まず、第 2 章においては各臓器に供給する酸素及び 栄養を供給する血流量を測定する電磁血流量計に関する研究の成果をまとめた。電磁血流 量計は著者らの研究成果により、直径 30mm を越える病的な大動脈から、直径 0.3mm の 細動脈までの血流量を最も精度良く測定できる装置として知られるようになった。大動脈 起始部にプローブを装着すれば、心拍出量が、冠動脈に装着すれば心臓に栄養を供給する 血流量など主要臓器に供給される血流量が測定でき、前述の通り栄養、酸素、二酸化炭素、 代謝産物の運び手としての血液の供給量を実時間で検査できる。本章では、計測器として 最も重要な精度の向上、及びゼロ安定度の向上に関する研究の成果をまとめた。また、そ の応用範囲を拡大あるいは確定する目的で従来計測例の無かった、浅側頭動脈−中大脳動 脈吻合術による血流量回復効果の確認や、動脈瘤破裂防止のために行う血流遮断の影響確 認など開頭術中に使用できるプローブの開発、右心機能研究を目的とした三尖弁流量の測 定用プローブの開発に関する研究もまとめた。 本研究の成果により著者らは 1981 年度日本エム・イー学会科学新聞賞新技術開発賞を受 賞した。 第 3 章では血流量の駆動力である血圧の計測装置、すなわち、観血式血圧計 7)及び非観血 血圧計に関する実用化研究の成果についてまとめた。この成果の一部は、JIS T1116 (1985). 臨床用観血式血圧計の制定に反映されている。. 第 4 章では血液成分を非観血的に計測する目的で開発されたパルスフォトスペクトロメ トリ法を応用した、パルスオキシメータ、ICG 色素希釈計(心拍出量、循環血液量及び肝 機能が計測できる。)に関する精度向上を目的とした研究成果をまとめた。 心拍出量とは一分間あたりの心臓からの血液拍出量であり、これが不足すると生命維持 が危ういという意味で重要な測定項目である。循環血液量は心血管系を充満できるだけの 血液量があるかどうかを示す量であり、これが不足する場合は心拍出量の減少につながり 死に直結するので、輸液もしくは輸血が必要である。一方、肝機能は血液に栄養を補給し 代謝産物を分解再利用、あるいは排泄する機能を現すものとして重要な計測項目である。 第 2 章、3 章、4 章に報告する研究の対象は循環動態を維持し、酸素供給を行い、栄養を 供給する自動能を腎機能の計測をのぞいて網羅している。ただし、実際に腎機能計測を試 みたが、残念ながら計測器として十分な精度を得るに至らなかった。腎機能は採血法によ る血液分析、あるいは尿の分析により、連続的ではない方法で検査可能であり、かつ病態 の進行が早くても数日単位である。従って、ここに報告した技術と心電図モニタにより生 命維持機能を十分モニタすることができる。 すなわち、臓器の血液環流、血圧、末梢動脈の酸素含量、心拍出量、肝機能、腎機能を 維持する機能をモニタできる状況となった。これらのモニタ結果に基づいて治療を行うこ とにより、生命に関する危険は非常に低下する。さらに、呼気炭酸ガス濃度が測定できる. 11.

(17) と血液成分の制御と血液の流量制御に十分なデータが得られることになる。 第 5 章では、第 2 章、第 3 章、第 4 章で述べた研究成果の対象である循環動態あるいは 肝、腎への血流量配分などを制御している自律神経系の活動をモニタする目的で研究を進 め、歯科領域における治療による苦痛とそれに伴う血圧と心拍数の早い変化から、いわゆ る歯科不快症状予測装置の研究に関する成果について報告する。さらに、自律神経系の活 動をモニタする上で重要な脈拍係数技術の研究の成果を述べる。 本論文においては、実験的な比較研究を多く多用した。工学系のスタッフのみで動物実 験を行った場合も数多くある。生理学的な実験を行う際には文献(10)を参考にした。また、 不明な用語、略語については”ME 用語辞典”11)を参照した。さらに、二つの医療用装置に対 する同一性評価の方法として、医学系の論文で多用されている Bland Altman Plot12)を使用 した。第 6 章ではこれらの研究成果を総括するとともに今後の展望についても触れた。 以上論文の構成フローを Fig.1.6 に示す。. 12.

(18) 第1章. 序論. 第2章. 電磁血流量計の開発検討. 電磁血流量計の感度に関する検討 電磁血流量計のゼロ安定度に関す る検討 脳血流測定用プローブの開発 三尖弁流量測定用プローブの開発. 第3章. 血圧計測装置の開発検討. 観血式血圧センサの開発 非観血血圧計測定能力向上に関す る検討. 第4章 光学的手法による血液成 分計測装置の開発検討. パルス式生体成分測定装置の原理 パルス式色素濃度形の精度向上に 関する検討(ヒトにおける血液中 ICG 濃度測定) パルスオキシメータの精度評価 色素希釈曲線から得られる生体情 報の精度に関する検討. 第5章. 自律神経系モニタリング. 自律神経系の疲労による発作に対. 装置の開発検討. するアラーム装置に関する検討 自律神経系用脈拍数モニタの開発. 第6章. Fig.1.6. 総括. 本論文のフロー. 13.

(19) 14.

(20) 第2章 電磁血流量計の開発・検討 -電磁血流量計の基本性能向上を目的とした検討 および 特殊な部位の計測を目的としたプローブの開発-. 2.1. 本章の背景. 2.2. 本章の目的. 2.3. 電磁血流量計の感度に関する検討. 2.4. 電磁血流量計ゼロ安定度の向上に関する検討. 2.5. 脳血流量測定用プローブの開発. 2.6. 三尖弁流量測定用プローブの開発. 2.7. 小括. 15.

(21) 2.1. 本章の背景. 血管内の血流量を測定する試みは 1860 年に Chauveau et.al1.がブリストルフローメータ を用いて馬の血流量を測定したのが最初である。次に 1881 年に E.H.Marey がピトー管を 用いて測定した。報告された波形は現在の計測器を用いて記録した波形と比較すると、例 えば頚動脈あるいは股動脈の波形で逆流が観測できるのとほぼ同じである。電磁血流量計 については 1936 年に Kolin が Soc.Exp.Biol.Med に報告したのが最初と考えられる 13)。. Fig.2.1.1 電磁血流計の原理 その後 Kolin が電磁血流量計のゼロ安定化について 1953 年に R.S.I.に報告した。さら に A.B.Denison & M.P.Spencer が矩形波電磁血流量計について R.S.I.に報告した 14)。当初 の血流量計は現在の用語で言うと挿管型に属するものであって、適用部位が限られたもの である上に現代的感覚で言えば、電気的安全性に問題があり、臨床的に人に適用できるも のではなかった。その後改良が加えられ、1963 年にはカフ型と呼ばれる血管を切らずに装 着できる血流量計が開発され、循環系の計測に用いられるようになった。 この当時の電磁血流量計には正弦波励磁と矩形波励磁の二種類があったが、いずれもゼ ロの安定度が悪く、血流量ゼロを確認するには末梢側をクランプして血流を止めて確認す る必要があった。従って、ゼロの安定な血流量計の開発が必要であった。本研究によりゼ ロが安定な血流量計が発売された後、血管にプローブを装着して測定すると計測される血 流量が実際よりも少ないのではという医学側からの指摘が多くあった。これが電磁血流量 計の感度に関する研究を行った背景である。 この二つの研究の成果と安全対策(励磁回路、入力回路のフローティング化その他)を 十分行い臨床用として使用可能な血流量計が市販された。この後電磁血流量計は心臓外科 領域における術前術後の測定に広く使用された。 その後、脳神経外科手術のように術野が狭い場合にもバイパス手術、動脈瘤閉塞術など が行われるようになり、この分野に適用できる流量計が望まれた。 頸動脈血流量の内頸動脈と外頸動脈への配分はヒトが内頸動脈 3,外頸動脈 1 程度の割合 なのに比し、他の動物は、内頸動脈 1,外頸動脈 3 の割合でありほぼ逆転している。このた め、児が他のほ乳類と比較して未熟な状態で生まれる産婦人科と脳循環について動物実験. 16.

(22) の結果は非常に限られた範囲にのみヒトに適用可能であると言われている。 また、血液供給の面においても、頭蓋内に血液を供給する動脈は左右の内頸動脈および 左右の頸椎動脈の4本であるが、他の臓器の場合と異なり、これらの動脈は頭蓋内で、前 交通動脈、左中大脳動脈、左後交通動脈、後大脳動脈、右後交通動脈、右中大脳動脈と環 状に構成されている血管系に血液を供給している。内頸動脈は中大脳動脈と前交通動脈と に分岐し頸椎動脈は後大脳動脈につながっている。そして、脳に血液を供給している4本 の動脈のいずれかが閉塞しても脳への血流量が不足しないように補償される 7)。いずれかの 血管が閉塞した場合、生来の血流と逆方向に血流が流れると言われている。 さらに、内頸動脈の前交通動脈、中大脳動脈への分岐部周辺は動脈瘤の多発部位であり、 脳溢血の大部分はこの部分の動脈瘤の破裂もしくは、クモ膜(脳表全てを覆う膜)下(従 って脳表にある)動脈瘤あるいは動静脈奇形の破裂によるものである。 動脈瘤の治療にはいわゆるクリップによる血流遮断が一般的であるが、クリップした後 脳血流量が十分確保できていることを確認した上でなければ、その後に脳機能障害を残す 可能性がある。 また、中大脳動脈の閉塞性疾患(いわゆる脳梗塞)に対し、頭蓋外にある浅測頭動脈(STA) などの動脈を脳表面にある中大脳動脈脳表分枝(MCA)に吻合し、頭蓋外から血流量を補充 する手術が行われ、治療効果を上げている。この STA-MCA 吻合術においても同様に術後 十分血流量が脳に供給されていることを確認する必要がある。このようないわゆる血管外 科(マイクロサージェリー)と呼ばれる領域においても血流量測定の必要性が高くなり、 これらの用途に使用できるプローブの開発が必要であった。 次に、心機能研究の発達とともに、内圧が低く左心系に大きな影響を受けつつ動作して いる右心系に関する研究が必要となり、三尖弁、肺動脈などの流量計測が重要となった。 肺動脈は従来型のプローブが適用可能であったが、三尖弁については雑音源となる心電 図の影響を強く受ける、形状が複雑などの課題があった。右室は肺循環を分担しており肺 動脈圧は健常人の場合 50mmHg 前後であり、全身の循環を分担する左室が 120mmHg 前 後大動脈圧の圧力を発生するのと比較すると低い。従って右室を構成する心筋壁は左室を 構成する心筋壁と比較すると厚みが少なく収縮力も弱い。この結果右室の拍動は常に左室 の影響を受けている。しかし、右室は前に述べたとおり血液の酸素化に必要不可欠な肺循 環のみを担当しており、左室のように末梢を収縮させ収縮力の低下を補って血圧を維持す るような補償は期待できない。さらに左心と右心の拍出量が同じでないと、肺に鬱血する 場合もあり、肺に鬱血を生じると、肺水腫などを併発して、予断を許さない病状となる。 従って右心の房室間流量は左心の房室間流量がわかれば推定がつくといった性質ではな いので、これを計測することは循環動態把握の目的で重要である。従って、三尖弁流量を 測定できるプローブの開発が必要であった。. 17.

(23) 2.2. 本章の目的. 本章の目的は体組織への栄養供給量、老廃物排出量を決定する要素の一つである血流量 の絶対値を実時間で測定できる装置である電磁血流計について感度、ゼロ点安定度に関す る検討結果と特殊な部位である頭蓋内の血流量および心腔内にある三尖弁血流量測定用プ ローブの開発について報告することである。 電磁血流量計の基本性能は他の計測装置と同様にゼロ点の安定性と感度の正確さである。 背景でふれたとおり、従来は金井らの研究成果. 15)に従って感度表示を行っていたが、感度. について医学側から疑問を呈され、あらためて東海大学沖野教授、上智大学金井教授とと もに電磁血流量計の感度について検討した結果を報告する。また、ゼロ点の安定度につい ては背景で説明したとおり測定対象血管の末梢側をクランプして血流ゼロ位を確認しなが ら測定を行う状況を改善する目的で検討を行った結果について報告する。さらに、重要な 臓器である脳あるいは心の血流量を把握する上で重要な脳血流量測定用プローブと三尖弁 流量測定用プローブの開発成果について報告する。この報告は計測対象である生体側の条 件、例えば形状、或いは信号源に付随する雑音などに十分配慮した装着部の設計に関して まとめてある。これは人工的な装置であれば、計測と制御を目的とした被測定部の設計を 行うことが可能で、これにより精度の良い測定が可能であるが、すでに自然界に存在し、 測定のために改造することが許されないヒトの臨床計測においては、原理の研究と同様に 計測対象の形状、特性にあわせたセンサの設計が計測精度および能力を支配するからであ る 16)。 2.3 2.3.1. 電磁血流量計の感度に関する検討 本節の目的. 本節は電磁血流量計の感度についての検討結果を報告する。従来行われていた研究は、 ゼロが安定化される以前の電磁血流量計を用いて行われていたので、本検討ではすでに発 表された理論に基づいて感度の実験的検証を行った結果を報告する。 2.3.2 (1). 検討 円筒形絶縁管内の流量測定. 磁場の中で導体が動くと起電力を生じるというファラデーの電磁誘導の法則による。こ の法則によれば導体としては固体でなく流体であっても良い。磁場の中に導電性を持った 流体を流すと起電力を生じる。その大きさは、磁束密度B及び導体の速度即ち流速Uに比 例し、磁場と流速に直行する方向に電極を置いて検出すると起電力は最大となる。. 18.

(24) 一般に磁束ベクトル B 、流速ベクトル U としたとき、線素 dl に発生する起電力 v は. v = B × U × dl 従って Fig.2.3.1のように、磁場を流れに直交させ、磁場と流れに直交する方向に電極を 置くことによって最大の起電力が得られる。磁場が一様で、流速も管内で一様とすれば磁 束密度B、流速U、電極間距離をDとしたとき、それぞれの方向が直交していれば、起電 力は. v = BDU. (1). である。 ガウス単位系を使うと. v = BDU × 10 -8. (2). となる。. 円柱座標上の点(r、θ) θ 流れの方向 流速v. 起電力の方向 起電力 E 線素 dl. 直径 2a. 磁場の方向 磁束密度 B. Fig.2.3.1. 電磁血流量計の原理. 半径 a の円管で管外の導電度を0とする。円柱座標をとり、任意のr、θ点の起電力が電 極 に お い て 検 出 さ れ る 電 位 に 寄 与 す る 割 合 を 重 み 関 数 W ( r ,θ ) で 表 す と 、 W ( r ,θ ) =. a 4 + a 2 r 2 cos 2θ a + r 4 + 2a 2 r 2 cos 2θ. (3). 4. が得られている。(3)に基づいて円筒状管内における起電力の電極における重みを Fig.2.3.2 にしめす。流速分布をU(r、θ)とすると全体の起電力は. 19.

(25) V =. 2B 2π a W (r , θ )U (r , θ)rdrdθ πa ∫0 ∫0. (4). で与えられる。 軸対象流であれば. U (r ,θ ) = U (r ). (5). であり、. ∫. 2π. 0. W (r ,θ )dθ = 2π. (6). より. V =. 2π 2B • 2π ∫ U (r , θ)rdr = 2aBU 0 πa. (7). が導かれる。17). 寄与率の分布. 0/12×π 23/12×π 1 1/12×π 22/12×π 2/12×π 0.8 21/12×π 3/12×π 0.6 20/12×π 4/12×π 0.4 19/12×π 5/12×π 0.2 18/12×π. 0. 6/12×π. 17/12×π. 7/12×π. 16/12×π 15/12×π 14/12×π 13/12×π. 8/12×π. 12/12×π. 9/12×π 10/12×π 11/12×π. 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1. Fig.2.3.2 (3)式による電極で検出される電圧への管内各位置の寄与率の分布 (2). 血管への適用(金井の報告). 金井は導電性の管内を導電性の液体が流れる場合について研究し次のような解を導いた 15)。感度計算の結果得られた管壁の厚さと相対感度の関係を. e f = αβBDv. Fig2.3.3 に示す。 (8). e f :起電力 20.

(26) α:血液の導電性と誘電率による影響 β:血管と血液の導電性による影響. α= β=. σ + jϖε 0 (ε s − 1) ≈1 σ + jϖε 0ε s 1 t  t  σ 1 − 2 1 − 1 − 1 D  D  σ 2. σ1 :血液の導電度 σ2 :血管の導電度 t :血管の厚み. 相対感度. (9). D:. (10).    血管の外径. B :. 磁束密度. v :. 平均流速. 感度(金井). 1.2 1.18 1.16 1.14 1.12 1.1 1.08 1.06 1.04 1.02 1 0.98. 血管の抵抗率144 (Ω・cm) 血管の抵抗率173 (Ω・cm). 0. Fig.2.3.3. 0.1. 0.2 0.3 壁圧/血管径. 0.4. 0.5. 金井モデルによる電磁血流量計感度計算結果. (血管の抵抗率をパラメータとする。 ) (3) 血管外に付着する体液の影響. (Wyatt の報告). Wyatt らは血管外に付着する体液を考慮に入れた三重層モデル(Fig.2.4 に示す)をたてて感 度計算を行い(12)に示す解を得た 17)。. 2 S=.  σ1  σ  2.  a2 1 + 2  c.  a2  + 1 − 2 c .  1  c2  + 1 − 2  2 b  .  σ 3   σ 2. σ1 σ2.  σ1  σ  2.  a2  a2 1 − 2  + 1 + 2 c  c .   σ1 −  σ   2.  a2  a2  1 + 2  + 1 − 2   c    c  (12). a:血管の内径 径. σ1:血液の導電度:b:血管の外径 σ2:血管の導電度:c:付着水層の外. σ3:付着水層の導電度. 定数に実際の数値及び現実的な予測値を代入して計算した結果、原理式からの誤差はせい ぜい数パーセントと報告されていた。. 21.

(27) (4). 実際. 近年電磁流量計のゼロ安定化技術が確立し、以前とは比較にならないほどゼロが安定な 血流量計が市販された。この結果、実際に血流量を測定してみると、血流量が少なく表示 されるのではないかと言う疑問が医学者から呈されるようになった。これをきっかけとし て、電磁流量計の感度を bleed out 法によって計測してみると確かに感度が低いことが確認 された。bleed out 法は動物が弱るので繰り返し実験しにくい事などを考慮し、牛、豚など の血管を用いて、in vitoro における実験を試みた。. Vessel c Blood a b Body fuleid. Fig.2.3.4 Table. Wyatt が用いた三重層モデル. 2.3.1 基準プローブの感度. カニュレーション型プローブ 実測値 表示値 感度比 72.0 75.5 1.05 52.5 55.5 1.06 32.5 32.5 1.00 18.0 16.9 0.94 94.5 90.2 0.95 70.5 63.2 0.90 80.5 73.3 0.91 85.5 83.4 0.98 67.5 65.9 0.98 142.5 137.0 0.96 62.5 62.3 1.00 (5). 問題点. 原理モデルが成立する電磁流量計用挿管型プローブを製作し感度を確認した結果を Table 2.3.1に示す。Table 2.3.1に示すとおり、校正流量とほぼ一致した出力が得られ, 電磁血流量計プローブの感度が経時的に安定であることが間接的に証明できた。次に、ス ロットを切る前に、あらかじめ校正した、血管外から装着するカフ型プローブ(Fig2.3.6) をブリードアウト法により測定した感度を Table 2.3.2 に示す。Table おり、感度が平均して 20%低下している。. 22. 2.3.2 に示したと.

(28) Table. 2.3.2 ブリードアウト法による測定結果. 実測値 表示値 感度比 34.0 24.0 0.71 32.0 22.5 0.70 32.0 23.0 0.72 28.4 20.0 0.70 18.4 15.0 0.82 16.0 13.0 0.81 44.0 34.5 0.78 46.0 35.0 0.76 44.0 34.5 0.78 41.5 33.0 0.80 40.0 33.0 0.83 39.0 33.0 0.85 40.5 32.0 0.79 38.0 31.0 0.82 37.0 32.0 0.86 37.0 30.0 0.81 36.0 31.0 0.86 36.0 30.0 0.83 36.0 31.0 0.86 34.0 27.5 0.81 平均 0.795. 測定流量 (L/min). y = 0.8462x + 0.0049 血管周囲の状況と感度 R2 = 0.9975 2.5. y = 0.7977x - 0.1041 R2 = 0.9773. 2 1.5 1. insaline outofsalin. 0.5 0 0. 0.5. 1. 1.5 2 基準流量 (L/min). 2.5. 3. Fig.2.3.5 血管周囲の状況による電磁血流量計の感度 次にブリードアウト法を実行しつつプローブを装着した血管を生理的食塩水に浸漬した 状態(in saline:実際の測定においては体液内に血管が沈んだ状況で、ふつうはプローブ装 着部位が見えるように体液を除去して測定するので、使用する上ではあり得ないほど血管 外のインピーダンスが低い状態)で測定した感度と、生理的食塩水の外に出した状態(out. 23.

(29) of saline)で測定した感度を比較して Fig2.3.5 に示す。図中赤は通常の状況に置ける感度 を示し、青は体液にプローブを装着した血管が浸かっている状態における感度を示す。 Wyatt の式を用いて予測した感度と比較して、感度の低下が大きいことがわかる。用いた パラメータは 2.3.3 で述べる。 Table. 2.3.3. NaCl 溶液の濃度と抵抗率. Table. 2.3.4 血液のヘマトクリット値と導電. 度. 溶液の濃度 抵抗率 (重量%) (Ω-cm) 10 5.68 5 10.5 2 23.3 1 44.6 0.9 49.4 0.8 54.9 0.7 62.2 0.6 72.4 0.5 85.9 0.4 106 0.3 139 0.2 204 0.1 399. 2.3.3 (1). ヘマトクリット値と血液の導電性 ヘ マ ト ク リ ッ ト 抵 抗 率 抵抗率の比 値 (Ω/cm) 生食水/血 0 54.7 6.58 5 60.8 5.93 10 67.5 5.33 15 75 4.8 20 83.3 4.32 25 92.5 3.89 30 103 3.51 35 114 3.16 40 127 2.84 45 141 2.56 50 156 2.3 55 174 2.07 60 193 1.87 65 214 1.68 70 238 1.51. 方法 血液に変わる流体. 凝固能を持ち、溶血、腐敗などを起こす血液と血管を用いた実験は、生理的状態には近 いが、再現性などで問題が生じたので、血液に変わるものとして、導電性を血液と等しく した食塩水を用いることとした。食塩水の導電度と濃度の関係を Table 導電性とヘマトクリット値の関係を Table. 2.3.3 に、血液の. 2.3.4 に示す。. また血管は導電性ゴムなどを調べたが、適切な代用物がないので、牛、豚などの摘出血管 を用いることとした。さらに、体液と同じ導電度を持つ液体として、生理的食塩水を用い ることとした。 Nacl 溶液濃度と電気抵抗率の関係. ρt ≈. 56.1 × C −0.928 1 + 0.0125 × (t − 25). C : 食塩濃度 (mol/L), t :. (13). 温度(℃). 24.

(30) (2). プローブの校正. 実際に臨床で用いることができるプローブの外観を Fig.2.3.6 に示す。Fig.2.3.6 に示す とおり、実際のプローブには血管にプローブをはめ込むためのスロットと称する開口部が 必要で、その開口部は動脈硬化を起こした(可撓性を欠く)血管を挿入しやすくするため 70°程度の開口角が持たせてある。 この状態では校正できないので、プローブ製造時にスロットを切る前に Fig.2.3.7 に示す ようにプローブの両側を専用の治具ではさみ込み、Fig.2.3.8 に示すような校正装置を用い て生理的食塩水を流して校正する。校正装置そのものは一定の期間ごとにメスシリンダと タイマーを用いて校正を行う。校正値の経時的変化が 3%以内であることは 2.3.2 検討です でに述べたとおりである。ここで得た校正値を基準として議論を進める。. スロット. Fig.2.3.6 電磁血流量計用プローブの外観 校正装置は Fig.2.3.8 に示すように、上部にオーバーフロータンクを備え、落差を一定に 保つ様にした落差式の流量発生器である。基準の流量計には挿管式のプローブと電磁血流 量計を用い、被校正プローブは Fig.2.3.7 に示すジグに固定する。ジグとプローブを接続す る際には流路が直線になるようにプローブの内径と同じ内径を持つジグを使用するととも に、内径にあわせた円柱をジグの一側、プローブ、ジグの反対側に通して組み立てる。 (3). 実験. 血管には、牛、あるいは豚の血管を長さ 5cm から 12cm 程度切り取り、分枝を結紮して液 漏れを防いだ。また、流体にはヘマトクリット(Hct)40、10、0 以下に相当する導電性を 持つ 0.3、0.6、0.9 重量%の.食塩水を用いた。血管径は食塩水を流す際に外周に糸を巻き外 周長を測定して円周率で除して求めた。また、血管壁の厚みは実験前にノギスで血管壁を 圧迫しない程度の力を加えて測定した。 血管は血管径 3mm から 28mm の範囲を用い、校正流量の 1/5,2/5,3/5,4/5,5/5 を数回にわ たって、繰り返し測定した。 血管の周囲は生食水に浸した状態(in saline)生食水から血管をはなした状態(out of saline)において行った。用いた実験装置の概念を Fig.2.3.9 に示す。. 25.

(31) 被校正プローブ. ジグ. Fig.2.3.7 流量校正装置への被校正プローブ取り付け状態. オーバーフロー. 上部タンク. 供試プローブ. 血流計. 基準流量計. 基準プローブ. 揚水ポンプ. 流量調整弁 生理的食塩水. Fig.2.3.8. 電磁血流量計用プローブの校正装置. 26. 概念図.

(32) 塩水容器 供試プローブ. 食塩水 牛血管. 供試プローブは切り出した血管に装着した。 流体には食塩水を用いた。 Fig.2.3.9 (4). 血管を用いた流量校正概念図. 実験装置の精度. (a) S/N 比 電磁血流量計の入力信号は校正流量(プローブの口径によって異なるが、ほ ぼ実際に測定する際に流れると期待される流量たとえば、20mm 前後の大動脈用プローブ であれば5L で校正する。大動脈の血流量は平均で 4〜5L 程度である。 )を流したときに 10μVである。次に、電磁血流量計の入力換算雑音は入力短絡時で 0.3μVp-p 以下(DC〜 30Hz)である。平均流量表示の場合は入力換算 0.01μVである。従って信号対雑音比は校 正流量の 1/5 を流した状態で(最も S/N が悪いとき)46db である。 (b). 容積の測定精度. メスシリンダは測定容積の2倍程度の容量を使用した。従って容積. の誤差は 1%以下と考えられる。 (c) 時間. ストップウオッチは 0.1 秒表示の市販品を使用した。測定時間を1分と設定し. たので、誤差は操作の遅れを含めても 1%以下と考えられる。 (d). 導電度の測定. 血液、血管、体液などの導電度は文献によった。食塩水の導電度は交. 流ブリッジ(1KHz)を用いて実測した。 2.3.4 (1). 結果 Hct. 41%相当の流体を用いた場合の感度. Fig.2.3.10 に体液内でプローブを血管に装着した場合と体液外でプローブを血管に装着 した場合の感度差をまとめて示す。体液に浸した状態における感度が基準値の 80%、体液 に浸さない状態における感度は基準値の 84%であった。 また、流体の導電性(ヘマトクリット値)と感度の関係の一例を Fig.2.3.11 に示す。図中 0.3%食塩. 27.

(33) 水を用いたときの感度はヘマトクリット 40%(正常な人に相当する)場合の感度である。 また濃度 0.6%食塩水を用いたときの感度はヘマトクリット 12%に相当しこれは人工心肺を 用いる際、あるいは腎機能障害の患者に起こるヘマトクリットが異常に低下した病的状態 に相当する。ほとんどの患者はヘマトクリット 12%から 40%の間に分布するので、電磁血 流量計はこの感度の範囲で動作すると考える。また、これらの結果から、感度とヘマトク リットの関係は Fig.2.3.12 のように考えた。従って電磁血流量計の感度は人に適用した場 合校正感度の 90%から 80%で動作していると考える 19)。 (2). プローブの径と流体の導電度による感度変化の関係. Fig.2.3.13 にプローブの径と感度の関係を流体の導電度をパラメータとして図示した。 全体として、感度の導電性依存性は、血管径によらないことを示している。 プローブの径は、血液の導電度による感度変化に対して影響がない 19)。. effect of body fluid 0.3% 5000 in out. Out (ml/min). 4000. y = 0.8415x R2 = 0.9867. 3000 2000. y = 0.7975x R2 = 0.9933. 1000 0 0. Fig.2.3.10. 1000. 2000 3000 Flow (ml/min). 4000. 5000. 被測定血管を体液内においたとき(in)と体液外においたとき(out)の感度. Table. 2.3.5 ヘマトクリットと感度の関係 濃度(%) 0.3 0.6 0.9 Hct(%) 40 12 0 標準偏差 0.066564 0.076189 0.083719 平均値 0.815945 0.893985 0.916763. 2.3.5 (1). 考察 感度低下のモデル. プローブを体液が付着した血管に装着した際の感度低下原因は等価的に Fig.2.3.14 に示す ように考えられる。実測がきわめて難しい付着体液の抵抗として Fig.2.3.14 に示される抵 抗には次の要素が含まれると考えられる。 ①. 血管の表面に付着する血液:血管とプローブは電極が血管にしっかり接触するように. 血管外径にたいしプローブ内径が 80%程度として使用している。従って、血管とプローブ. 28.

(34) EMF. FB260T out of saline. 5 4.5 4 3.5 3 2.5 2 1.5 1 0.5 0. 0.9% 0.6% 0.3%. y = 0.91x R2 = 0.99 y = 1.01x R2 = 0.995 y = 1.06x R2 = 0.995. 0. 1. Fig.2.3.11. 2. 流量. 3. 4. 5. 血液の導電度(ヘマトクリット)と感度の関係. 相対感度. ヘマトクリットと感度の関係 y = -2E-05x2 - 0.0016x + 0.9168. 0.94 0.92 0.9 0.88 0.86 0.84 0.82 0.8 0. Fig.2.3.12. 10. 20 30 ヘマトクリット. 40. 50. ヘマトクリット値と相対感度の関係. probe dia vs Sensitivity out of saline Relative Sensitivity. 1.2 1. 0.9 0.6 0.3. 0.8 0.6 0.4 0.2 0 1. 10. 100. 1000. Diameter. Fig.2.3.13. プローブの径と流体の導電度と感度の関係. 29.

(35) の間に存在する体液層の厚は 0.3mm 以下と考えられる。 ②. プローブの端面と結果表面の間に表面張力によってできる体液リング:プローブ端面. は血管を傷つけないように大きな R をつけて仕上げてある。従ってプローブの端面には比 較的量の多い体液がリング状に付着している。 ③. 血管中心軸方向の磁束分布(Z軸) :プローブの磁束分布をZ軸方向に考えると、磁束. の分布は一様でなくプローブ磁気回路の中心をピークとする分布となる。従って Z 軸方向 にプローブ中心から遠い血液における起電力は小さく、プローブ端部に付着する比較的厚 い体液層は中心における起電力を短絡する効果が大きいと考えられる。. 血液と血管の抵抗. V. 付着体液の抵抗. 血流による起電力. Fig.2.3.14 (2). 感度低下の等価回路. ヘマトクリット値と感度の関係. ヘマトクリット値が変化すると血液の導電性が変わる。その結果、Fig.2.3.14 に示す血液 と血管の抵抗が変化したこととなる。このために感度が変化すると考えられる。 (3). 血管径と感度の関係. 血管径が変化しても、血管壁厚と血液の比が変わらなければ、感度に影響を与えない。 これは、血管の厚さが血管径に比例していれば、金井の式から考えても、Wyatt の式も比 で表現されているので変化しないことが予測される。. 30.

(36) 2.4. 電磁血流量計ゼロ安定度の向上に関する検討. 2.4.1. 本節の目的. 電磁血流量計のゼロを安定化する目的で、励磁波形を矩形波断続励磁とし、励磁 On 時の トランスフォーマー効果成分を、Off 時のトランスフォーマー効果成分でうち消す方法を考 案した。励磁 On、Off 時のトランスフォーマー効果成分を電極周辺のインピーダンスを変 えつつ測定した結果、電極周辺のインピーダンスが変化するとトランスフォーマー効果成 分は大きく変動すること、および On 時と Off 時の大きさの比が常に 1:0.8 であることを確 認しこの性質を用いて、励磁 On 時におけるトランスフォーマー効果成分を、励磁 Off 時に おけるトランスフォーマー効果成分でうち消す血流量計を開発し評価した。評価した結果、 従来の血流量計のゼロ不安定を 1/20 程度に抑えることができた。この性能をもってすれば 大動脈弁置換術前後で逆流量が定量的に判定できることなど実用的に十分な安定度が実現 できたので報告する。. コイル 電極. Rot I=∂B/∂ t 磁束. 渦電流. E. Fig. 2.4.1. 渦電圧の発生. Fig.2.4.2. 電極周辺の電位分布と電流分布. Fig.2.4.4. トランスフォーマー効果成分の. et. e. Fig. 2.4.3. e. 電極周辺の等価回路. 変形. 31.

(37) 2.4.2 (1). 検討 トランスフォーマー効果成分の発生と変形. トランスフォーマー効果成分とは磁束密度の変化により導体中に発生する渦電流による 起電力のことで交流励磁を行う電磁流量計においては雑音となる。電磁血流量計の信号 es は前節で述べたとおり es = BDv であるが、トランスフォーマー効果成分 et は et = k ∂B ∂t で与えられる。トランスフォーマー成分発生の様子を Fig.2.4.1 に示す。この起電力による 電流は Fig.2.4.2 に示すように、電解液と接触する電極を通して流れる。これを等価回路で 表すと Fig.2.4.3 に示すようになる。 Fig.2.4.3 に示す容量はいわゆる電気二重層容量である。 また抵抗は電極広がり抵抗と考える。この分布するインピーダンスの影響で、磁束をステ ップ状に加えた場合、Fig.2.4.3 に示す e は Fig.2.4.4 に示す et に相似な波形となるが、実 際に電極において観測される電位差は Fig.2.4.4 に示す d/dt(et)に示すように大きな時間遅 れが生じた波形となる。 また、電極周辺のインピーダンスが変化すると Fig.2.4.3 に示す等価回路の定数が変化し 遅延する時間が変化し、この変化により電磁血流量計のゼロ点が変化すると考えられる。 実際の設計に沿って説明を加えると、励磁電流波形は理想的な矩形波電圧源を用い、 Fig.2.4.5 に示すような回路において回路に流れる電流は、次式で与えられる。. V exp(− t ) τ R L τ= R i=. (1). L:コイルのインダクタンス R:電流源の出力抵抗 R. L. E. Fig.2.4.5. 励磁の等価回路. 磁気回路に発生する磁束密度は B = ni / Rm が示すとおり電流波形と相似なので、発生す るトランスフォーマー効果成分 et は. et = k ∂B ∂t = k ' di dt となる. 20)。E. (2). にステップ状の電圧波形を考えると、L を流れる電流はステップ状の電圧を. 32.

(38) 加えてから 10τ程度の時間が経過すれば、(2)の電圧は 1/10000 以下となる。実際のプロー ブのインダクタンスは 1mH 励磁回路の出力抵抗を 40Ω程度とすれば、τは 25μsec とな り 250μsec 後には、10mV のトランスフォーマー効果成分による起電力があっても、1μ V 以下となり起電力 et は問題とならない。電極において測定される電圧は、Fig.2.4.4 に示 すように、電極インピーダンスによる位相ひずみを受けた結果、血流量信号と比較して無 視できるほど減衰するまでの時間が一桁増加する。経験的に検出電極を白金3φとした場 合、実用的にトランスフォーマー効果成分が十分減衰するために必要な時間は、5msec 程 度で、このときのキャリア周波数は 100Hz 程度となる。 理論上はサンプリング定理によりキャリア周波数 100Hz の場合再生できる信号の周波数 上限は 50Hz となるが、 実用的には 20Hz 程度の高域周波数特性を持たせるのが限界となる。 血流量信号自身は数十 Hz まで信号成分があるので、波形を正しく再現しようと考えると 100Hz 程度の周波数特性が必要である。そこで積極的にトランスフォーマー効果成分をう ち消して、キャリア周波数を上げてもトランスフォーマー効果成分の変動による血流量ゼ ロ位の変動をなくす方法を考案した 21),22)。 (2). ゼロ安定化の原理. Fig.2.4.6 に従来型の連続励磁電磁血流量計プローブの出力電圧を示す。励磁波形が立ち 上がるときと立ち下がるときにトランスフォーマー効果成分(図中変成器成分)が現れ、 励磁波形と血流量の積に相似な血流量信号波形と重なって現れる。励磁波形に励磁ゼロの く感をもうけたゼロ安定化血量計におけるプローブの出力波形を Fig.2.4.7 に示す。励磁波 形が on の時は励磁波形と血流量信号の積に相似な波形とトランスフォーマー効果成分の和 が、励磁波形が off の時はトランスフォーマー効果成分のみが検出される 20)。従って、励磁 on の時の信号を off の時の信号の差をとれば、トランスフォーマー成分を除去し、ゼロの 安定な電磁血流量計が実現できると考えた。. Fig.2.4.6. 連続励磁におけるプローブの出力信号. 33.

(39) 2. 励磁on:信号と変成器成分の和が検出される. 1.5. 振幅(相対値). 1 0.5 0 0. 1000. 2000. 3000. 4000. 5000. 6000. 7000. 8000. 9000. -0.5 磁場 血流 変成器成分 合成信号. -1 -1.5 励磁off:変成器成分のみが検出される -2 時間 (相対値). Fig.2.4.7 2.4.3 (1). ゼロ安定化血流量計におけるプローブの出力電圧. 方法 トランスフォーマー効果成分の測定. 励磁 on 時のトランスフォーマー効果成分と off 時のトランスフォーマー効果成分が電極 周辺のインピーダンス分布が変化しても、うち消すことができることを確認する目的で、 Fig.2.4.8 に示すように、電極の近傍に絶縁物性の円柱を挿入し、電極周辺の導電性分布を 変化させ、従来からある励磁 on 時と励磁 off 時の位相検波の出力を比較した。 絶縁棒送り 装置. 電極インピーダンス 測定装置 絶縁棒. 電磁血流計. 電極. 励磁コイル. 励磁 on. 励磁 off. 信号. 信号. X-Y レコーダ. Fig.2.4.8. トランスフォーマー効果成分の測定. 34.

(40) 比較した結果を Fig.2.4.9 に示す。Fig.2.4.9 は縦軸に励磁 off 時の変成器成分を、横軸に 励磁 on 時の変成器成分を Fig.2.4.8 に示す装置の絶縁棒をプローブ上端から電極中央まで 移動させ元に戻したときの変化を示す。励磁 on 時と off 時のトランスフォーマー効果成分 は絶縁棒の移動に伴って増加し、比例関係を持っていることがわかる。またその比は 1:0.8 であった。この比はプローブを交換しても再現する。. Fig.2.4.9. 励磁 on 時と励磁 off 時のトランスフォーマー成分 が比例関係にあることを示す。. (2). ゼロ安定化血流量計の試作. 検討結果に基づき、試作したゼロ安定化血流量計のブロック図を Fig2.4.10 に示す。試作 した電磁血流量計は Fig2.4.10 に示すとおり復調回路と保持回路を二つ持ち、一つの復調回 路は励磁 on の成分を、もう一つの復調回路は励磁 off の成分を検出し補償回路で演算して、 血流ゼロ位を補償する装置である。. Fig.2.4.10. ゼロ安定化血流量計のブロック図. 35.

(41) 2.4.4 (1). 結果 トランスフォーマー効果成分の消去. この関係を用いてトランスフォーマー効果成分をうち消した結果を Fig.2.4.11 に示す。 Fig.2.4.11 に示すとおり、励磁 on 時のトランスフォーマー効果成分はデモジュレータ出力 で入力換算 20〜30μV を示す。 これを off 時のトランスフォーマー効果成分でうち消すと、 1μV 以下となる。血流量信号出力は平均流量で 10μV 程度なので電極周囲の条件が劣悪な 場合であっても、実用上十分なゼロ安定度が得られる 20)。. Fig.2.4.11 (2). トランスフォーマー効果成分を消去した結果。. 臨床評価. 以上の結果を用いて設計した電磁血流量計を用いて、ヒト大動脈の血流量を測定した結 果を示す。 Fig.2.4.12 対象 35 歳女性大動脈弁狭窄がある患者の術前(大動脈弁置換術)における 大動脈弁直下の血流量波形である。大動脈弁直下の血流量は拡張期にゼロであることが知 られているので、血流量計のゼロ位と、血流量ゼロ位を比較し同じであることがわかる。 Fig.2.4.13 50 歳男性の大動脈弁閉鎖不全症の患者に対する、大動脈弁置換手術直前直後 の大動脈血流量波形と血圧波形を示す。術前は拡張期早期に逆流が見られるが、術後は拡 張期中血流量がゼロであることが示された。. 36.

(42) Fig.2.4.12. 大動脈血流量測定結果1(僧帽弁閉鎖不全症). Fig.2.4.13. 大動脈血流量測定結果2. (大動脈弁閉鎖不全症、術前 pre-ope 上段、術後 post-ope 下段) 2.4.5. 考察. 本報告におけるゼロ安定化技術は実験による観察結果「電極周囲の等価回路が成立して いること。 」が成立し、 「トランスフォーマー効果成分の励磁 on 時と励磁 off 時の比が 1:0.8 である。 」 (1). と言う実験結果が普遍的に成立していることを前提にしている。. 励磁 on, off 時のトランスフォーマー効果成分. 37.

(43) トランスフォーマー効果成分の大きさが励磁 on、off で 1:0.8 であることを実験的 に示す目的で各種の電極寸法、口径のプローブについて再現性試験を行ったが、 電極表面が清浄であれば、この関係は再現することがわかった。この原因につい て量的な考察を示す試みを行ったが成功しなかった。定性的には励磁波形の立ち 上がりと立ち下がりが対象であり、同じ経路をたどって電流が流れる限り、本来 同じ電位差を示すと考えられるにも関わらず、再現性よく励磁 on 時と off 時のト ランスフォーマー効果成分の比は 1:0.8 であった。これは Fig.2.4.2 に示す電流分 布が、励磁 on 時すなわち磁界が存在するとき、励磁 off 時磁界が存在しないとき に電流の流路が磁界の影響で異なっていると考えると説明できる。 (2). 電極インピーダンス. 本研究に用いたプローブは Pt 製の電極を使用している。Pt を用いた貴金属電極の 等価回路は一般に Fig.2.4.14 に表される。さらに流れる電流が交換電流に比較し て十分小さければ、ファラデーインピーダンスを無視し、C と R の直列回路で表 すことができる。Fig.2.4.15 に示すとおり、電極表面が汚れた状態のトランスフォ ーマー効果成分は電極近傍に絶縁棒. 電気二重層容量. Cs. 電解液の純抵抗. Rs. ファラデー インピーダンス. Fig.2.4.14 貴金属電極の等価回路 Table. 2.4.1. 研磨による電極インピーダンスの変化. 研磨剤 Cs(μ F) Rs(Ω) Cs(μ 石鹸液 F) Rs(Ω) Cs(μ クレンザー F) Rs(Ω) Cs(μ 歯磨き粉 F) Rs(Ω) Cs(μ 中性洗剤 F) Rs(Ω) Cs(μ 超音波研磨剤 F) Rs(Ω) アルコール. 研磨前 |z|Ω 研磨後 |z|Ω. 研磨による|Z |の減少(Ω). 1.6 203. 226. 1.65 199. 221. 2.2. 1.74 168. 191. 1.89 164. 184. 3.6. 1.59 204. 227. 2.01 186. 202. 11. 5.91 217. 218. 5.71 181. 183. 16. 1.97 207. 222. 2.04 189. 204. 8.1. 1.62 198. 221. 1.91 181. 199. 9.9. 38.

参照

関連したドキュメント

を,松田教授開講20周年記念論文集1)に.発表してある

学位授与番号 学位授与年月日 氏名

<第 1 会場> 総合研究棟 III 132L 9 月 7 日(水)13:30 〜 16:24..

J-STAGE は、日本の学協会が発行する論文集やジャー ナルなどの国内外への情報発信のサポートを目的とした 事業で、平成

検索対象は、 「論文名」 「著者名」 「著者所属」 「刊行物名」 「ISSN」 「巻」 「号」 「ページ」

年度 テクリス登録番号 業務名及び 担当・役割 発注者

助成者名 所属機関:名称 所属機関:職名 集会名称 発表題目 開催国 助成金額.

欄は、具体的な書類の名称を記載する。この場合、自己が開発したプログラ