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第 8 章 総括

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Academic year: 2022

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第 8 章 総括

 地球上には多くの有機硫黄化合物が存在する。これらの化合物には工業的利用価値の高い ものが多いが、生体に有害なものや生分解性の低いものも存在する。前者の中でもジメチル スルホキシド (DMSO) の用途は広く、各種の無機および有機化合物を溶解するため、近年 では電子工業分野における微細加工時の洗浄剤・レジスト剥離剤として使用されており、そ の量は年々増大している。一方、DMSO の分解産物の一つであるジメチルスルフィド (DMS) は毒性の高い悪臭物質である。DMS は自然界に低濃度で存在するが、DMSO の還元 によって局所的に高濃度の DMS が発生すると、悪臭問題だけでなく生体への毒性が懸念さ れる。

本研究は、微生物を利用した効率的な DMSO 含有廃水処理プロセスの構築を目的としたも のである。液晶や半導体製造の洗浄とすすぎの工程からは、DMSO 10-1,000 mg/l を含有す る低濃度廃水が大量に排出されている。その処理法として、既に物理化学的および生物学的 な方法が実用化されている。紫外線や薬剤を利用した分解処理は悪臭物質であるDMSの蓄 積を回避するために行われているが、これは特別な設備が必要なうえに処理コストが高く、

低濃度廃水を処理するには経済的ではない。一方、活性汚泥を用いた微生物処理は、低コス トで設備が簡便なことから多くの有機化合物含有廃水の処理に適用されている。しかし、

DMSO は生分解性が低くまた嫌気的な雰囲気ではDMSも蓄積するため、通常の微生物処理 では DMSO の残留や悪臭の発生を引き起こす場合がある。著者は DMSO 分解活性が高い特 定の微生物を用いることで、DMS 蓄積を抑えた効率的な DMSO 分解プロセスが構築できる と予想した。本論文は、DMSO 分解微生物の分離から菌学的特性の解析、さらに優良株を 用いた DMSO 連続分解系の構築に至るまでの過程で得られた研究成果をまとめたものであ る。

 本論文は 8 章より構成されている。

 第 1 章では、自然界に排出される有機硫黄化合物について、微生物の分解特性やその分解 経路、および微生物を利用した処理法を解説した。さらに、既存の DMSO 含有廃水処理法 における問題点を明らかにし、本研究で解決すべき事項を明示した。

 第 2 章では、本研究で使用した基本的な実験操作を記述した。具体的には、主な供試菌の 培養方法、および DMSO や代謝産物などの分析方法をまとめた。

 第 3 章では、DMSO分解微生物の分離から同定までを記述した。液晶や半導体製造工程か ら排出される DMSO 含有廃水は、組成が変動しにくい点で一般家庭や食品製造業などから 生じる排水とは異なる。このように組成変動の少ない廃水の処理には、活性の維持や処理条

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件の制御が容易であることから、特定かつ単一の微生物を用いる処理法が適していると考え た。また、従来の報告から DMSO 代謝の第一段階が、DMSO を硫黄源として生育する微生 物では酸化反応、炭素源として生育する微生物では還元反応であることを見出した。これら の点を踏まえて二種類のスクリーニング系を構築し、それぞれの系から目的の DMSO 分解 微生物を取得した。DMSO を硫黄源として生育する微生物は自然界に広く存在したが、そ のほとんどが DMSO 分解活性の低い株であった。一方、生育が良好な株は DMSO 代謝産物 であるジメチルスルホン (DMSO

2) を蓄積することを見出した。こうした生育が良好な株の

中から、DMSO を全て消費し、かつ DMSO

2蓄積量の最も多かった株として WU-2 株を分離 した。形態学的および生理学的特徴から、本菌株を酵母 Cryptococcus humicolus と同定し た。なお、DMSO 分解活性を有する酵母の報告は、本研究が初めてである。一方、DMSO を炭素源として生育する微生物の中から、DMSO 分解速度が最も高い株として WU-K217 株 を取得した。WU-K217 株は生育に伴って DMSO を分解し、菌学的性質ならびに 16S rDNA の塩基配列の解析結果から Hyphomicrobium denitrificans と同定した。以後、主な供試菌と して WU-2 株および WU-K217 株を使用した。

 第 4 章では、C. humicolus WU-2 の DMSO 分解特性を記述した。DMSO およびその構造 類似体に対する分解特性や代謝産物の同定結果から、WU-2 株は DMSO

2およびメタンスル ホン酸 (MSA) を経由して DMSO を分解することが推測された。また WU-2 株の DMSO 酸 化活性は高く、48 時間の培養で初期濃度 2.56 mM の DMSO を全て消費し、70 % のモル変 換率で DMSO

2を生成した。また生育を伴わない休止菌体反応でも、初期濃度 6.40 mMの DMSOを24時間で 96 % 消費し、そのほとんどを DMSO

2 へと酸化した。DMSO

2および

MSA は無臭の化合物であり、これらの化合物を経由して DMSO を分解処理する方法は、悪 臭物質の発生を抑えた実用的な分解処理法になると考えられた。さらに著者は、蓄積した DMSO2を完全に無機化するために、DMSO

2を唯一の炭素源として生育可能な微生物 WU- OM3 株を新たに取得した。WU-2 株の休止菌体反応によって処理した DMSO 含有模擬廃水 に対し、WU-OM3 株を用いて引き続き休止菌体反応を行った結果、廃液中の DMSO

2が消失

して当量の硫酸イオンの生成を認めた。このように二種類の菌株を組み合せた DMSO 分解 は新規な処理法で、悪臭物質を発生しないため実用性が高い。

 第 5 章では、H. denitrificans WU-K217 の培養菌体および休止菌体のそれぞれの DMSO 分 解特性を記述した。WU-2 株に比べて高濃度の DMSO にも高い DMSO 分解活性を有してお り、DMSO 初期濃度が 20 mM の場合には、WU-K217 株は 60 時間の培養で DMSO を全て 分解した。また、DMSO だけでなく DMS を分解して硫酸イオンを生成したが、DMSO

2およ

び MSA は分解しなかった。DMSO 分解によって DMSO

2の蓄積が認められないことや、嫌 気条件下では DMS を蓄積したことからも、WU-K217 株における DMSO 代謝の第一段階

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は、 WU-2 株とは異なり還元反応であることが推測された。さらに、休止菌体反応で逐次添 加を行ったところ、添加 12 回までは終濃度 0.64 mM の DMSO が 15 分の反応で分解され た。換算すれば、DMSO 7.68 mM を 3 時間で分解したことになる。従来の報告では生物膜 法により 15 時間で DMSO 7.68 mM を分解した例があるが、この報告と比較すると WU- K217 株の DMSO 分解速度は約 5 倍に相当した。本章の結果から、WU-K217 株は従来にな い高分解活性を有することが明らかになった。

 第 6 章では、WU-K217 株の固定化法を検討し、包括固定化菌体の DMSO 分解特性を評価 した。固定化は、連続的な物質変換や分解処理プロセスにおいて、菌体や酵素が反応系から 漏出するのを防いで単位菌体量当たりの処理量を高めることを目的として広く利用されてい る。一般に、菌体の固定化に用いられる物理吸着法や包括法に関して種々検討した結果、

WU-K217 株の固定化には高い菌体濃度を維持できるゲル包括法が適していた。WU-K217 株 のアルギン酸カルシウムゲル固定化菌体では、遊離菌体の場合と同様に DMS を分解して当 量の硫酸イオンを生成した。さらに、固定化菌体の DMSO 分解活性における温度安定性な らびに保存安定性を調べた。温度安定性を 0.64 mM DMSO に対する分解活性で評価する と、20℃から 35℃ の温度範囲で遊離菌体および固定化菌体のいずれにおいても DMSO 分 解活性が最大のレベルに維持されていた。しかし、反応温度を 40℃とすると、遊離菌体で は反応開始後 1 時間で DMSO 分解活性が失われたが、固定化菌体では活性が維持されてい た。保存安定性に関しても同様の系で評価したところ、遊離菌体では 30℃、48 時間の保存 で分解活性は保存前の 50 % 未満に低下した。この活性の半減期は 4℃で保存しても延長さ れなかった。一方、固定化菌体の場合、活性の半減期は30℃保存では 9 時間で、4℃保存で は 240 時間にまで延長された。また固定化菌体は、取り扱いが容易で、かつ系から回収し 易いため、再利用可能である。実際にこの固定化菌体では、活性を維持した状態で 10 回以 上の再利用が可能であった。以上の結果より、固定化菌体は遊離菌体に比べて温度安定性、

保存安定性、および再利用可能な点において優れていることが明らかになり、WU-K217 株 を用いた DMSO 含有廃水処理における包括固定化の有効性が示された。

 第 7 章では、リアクターを作製して DMSO の連続分解試験を実施した。包括ゲル内の菌 密度と DMSO 分解活性の関係から、WU-K217 株は菌密度を低くすると単位菌体量および単 位時間当たりの DMSO 分解量が高まることが明らかになった。そこで最適な包括ゲルの調 製条件を決定した。この条件で調製したゲルを組み込んだ通液型の処理装置を用いて、

DMSO 0.64 mM を含む模擬廃水の連続処理に成功した。この固定化菌体は 20℃を含む広い 温度範囲でも高い分解活性を有することから、屋外においても安定した処理効率が維持され る可能性が高い。本研究で確立した DMSO 分解株の取得から DMSO 連続分解までの一連の 方法は、DMSO だけでなく他の有機硫黄化合物の処理にも適用可能と考えられる。また、

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環境負荷低減をめざした微生物利用技術の確立の観点からも本研究は意義深い。

 第 8 章では、本研究で得られた結果を総括した。

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