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第7章 総括
薄鋼板の成形性向上の方法として、固溶元素の積極的な活用、析出物制御によりフェラ イト相の成形性を向上させることを目的として、析出物の溶解、析出挙動と延性、r 値(塑 性変形)の関係を見直した。さらに、本研究では析出物を活用し、変態、粒成長を制御し、
微細組織鋼によるフェライト相の細粒強化と局部伸びに優れた熱延鋼板を開発すること を目的とした。
従来は、成形性の向上には固溶元素低減が不可欠であり、低炭素鋼から極低炭素鋼へ、
さらに固溶元素を低減するためにTi、Nbなどを添加して固溶元素を析出物とするIF 化が進められてきた。しかし、最近の高張力鋼板の需要拡大に伴い、鋼の組成は極低炭素 鋼から低炭素鋼に変化し固溶 C が増加し、成形性は低下している。これを補うため、組織 の複合化(複合組織鋼板)により対応が進められてきたが、780MPa 以上の高張力鋼板では 成形性を確保するのが困難になっていた。
本研究の目的は、フェライト相の強度上昇とフェライト相の延性向上を同時に達成させ ることができれば、高強度化しても成形性の優れた高強度鋼の開発であった。このための 方法として薄鋼板の製造過程で起こる析出物の溶解、析出を活用することをポイントとし、
固溶元素を活用することにより高い成形性、特に局部延性に優れる鋼板を開発することを 目的とした。
第1章では、薄鋼板に求められるプレス成形性、薄鋼板の製造方法をまとめるとともに、
成形性に及ぼす因子を明確にするため、固溶元素低減による成形性向上の考え方をまとめ た。その上で従来の研究は固溶元素の悪影響を排除する方向で成形性向上を実現してきた 事を明確にした。固溶元素低減方法としての析出物制御を本研究の課題とし、固溶元素の 活用法としての析出物制御法は、新たな高張力鋼板の開発に有効であることを明確にした。
第2章ではフェライト相の成形性に及ぼす固溶元素の影響を明らかにするため、フェラ イト相以外の第2相が存在しない極低炭素鋼を対象とし、析出物による成形性の向上効果
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を研究した結果をまとめた。対象とした鋼では固溶元素としてC、N、Bが存在するが、
NbN、AlN,BNの析出が競合することにより延性、r値に大きな影響を与えること を明確にした。
低N化により熱延板での微細析出物が減少し、窒化物はAlNからBNへと変化する。
これは固溶元素であるN量の低減による効果である。またB添加によって、熱延板の結晶 粒径微細化、析出物粗大化、BN析出による固溶Nの低減によって成形性が向上すること を示した。また、窒化物をAlNからBN主体へ制御することにより、炭化物はNbC単 独での析出が促進される。このことにより、冷延再結晶焼鈍時のNbC再溶解、冷却時の NbC再析出抑制により、フェライト相に固溶Cを適量残存させ、良好な深絞り性と高焼 付硬化性を有する薄鋼板が得られることを明確にした。
これらの結果から、固溶元素のC、N、Bは成形性向上に寄与する析出物として析出さ せることが可能であり、窒化物がNbCと共存する場合は、AlNよりBNとして存在さ せた方が塑性変形特性の向上と焼き付け硬化性のこれまで相反するとされてきた特性を 同時に向上させることができると結論した。
本章で開発した鋼種は主に自動車のパネルとして使用されている。
深絞り鋼板、特に円筒深絞り成形では、塑性変形の指標であるr値の面内異方性(Δr)
がカップ成形後の耳発生(イヤリング性)に対して大きな影響を与えるため、Δrを低減 することが必要である。そこで、第3章では固溶 B の面内異方性向上効果に主眼をおいて 研究した。3種類の B 量の異なる鋼を用いて、冷延焼鈍後のΔrに及ぼす B 量および焼鈍 温度の影響を検討した。その結果、B 添加により冷延焼鈍板のΔrは非常に小さくなり、
カップ成形時には全くイヤリングが発生しなくなることがわかった。これは、熱延時の変 態集合組織が強く影響しているとの知見を得た。すなわち、固溶元素の全く存在しないB 無添加のIF鋼の熱延板は特定方位への集積がほとんどないランダムな集合組織である のに対し、B 添加によって、γ‑fiber、α‑fiber 特に{001}<110>、{113}<110>、{332}<113>
に集積の強い集合組織を生じる。このような集合組織を有する熱延板の r 値はrL、rCの 値が小さく、rDの値が大きくなり、面内異方性は大きくなる。これらの集合組織は冷延
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後に、{001}<110>→{001}<110>、{113}<110>→{112}<110>、{332}<113>→{111}<112>が安 定方位となる。{001}<110>、{112}<110>はrL、rCを低下させる方位であるため、B添加 によってΔrが小さくなると結論付けた。この結果から、粒界偏析元素を固溶させること で、カップ成形におけるイヤリングが小さくなり、ブランク板から製品への歩留りを向上 させると共に、耳部の板厚変化を小さくし割れを抑制することができ、成形性向上が可能 である。本章により開発した鋼種は小型ガスボンベや消火器などの深絞り容器に使用されて いる。
第2章における B を BN として析出させた場合の塑性変形性向上効果を踏まえ、第3章 では、B が固溶状態で鋼中に存在した場合に、面内異方性を小さくすることにより成形性 向上効果があることを明確にした。そこで、第4章では固溶元素としての B がフェライト 粒界に存在した場合のフェライト粒界強度上昇による二次加工脆性向上のメカニズムを 明確にし、成形性向上に及ぼす固溶 B としての効果を検討した。
高強度化のために添加するP量の増加によって二次加工時に割れが発生し易くなるが、
B添加によって割れを抑制できる。割れ抑制に寄与する固溶 B の効果とそのメカニズムを 検討することにより、適正な B 量と熱履歴を明確にすることを目的とした。数水準の P と B 量の異なる鋼を加工量や熱処理を変化させ、P と B の粒界偏析量の変化を調査した。P 量増加による脆化温度の上昇、高温保持による粒界へのPの偏析量の増加はB量に寄らな い。一方、B無添加鋼では高温短時間でPが粒界に偏析する。また低温長時間保持では粒 界でのB量が低下し、P量が増加する。すなわち、B添加によって粒界強度が上昇し割れ を抑制するが、熱履歴によってはBの粒界偏析量は減少し、Pの粒界偏析が起こるため、
Bを添加しても粒界強度が上昇しない場合がある。よって、B添加による粒界強度上昇の メカニズムはBの粒界偏析による粒界強化が支配的ではあるが、BとPの粒界への競合偏 析すなわち Site Competition も同時に生じている。よって、成形性向上には添加する B 量と同時に熱履歴を考慮する必要がある。
2章〜4章において C,N,B の固溶元素を炭窒化物として制御すること、および粒界偏析
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元素として固溶させることにより、薄鋼板の成形性が向上することが明らかとなった。こ れらは固溶元素の存在形態制御により成形性向上が可能であることを明確にしたもので ある。5章では C を TiC として析出させることにより組織を微細化させ、局部伸びに優れ た熱延薄鋼板を開発した研究について報告する。高温加熱時に TiC を析出させオーステナイト粒 を微細化することにより、熱間圧延での動的再結晶を発現させ、微細フェライト組織を得 ることができる。穴拡げ成形時の亀裂伝播は従来鋼では粒界あるいは粒界と第2相の境界 を亀裂が進展しているが、微細粒鋼では従来鋼に観察されるような亀裂の進展はなく、亀 裂の伝播が抑制されている。これはフェライト粒自体の微細と第2相を微細分散によるも のである。フェライト粒を2μm に微細化した鋼では従来鋼で 50%の穴拡げ率が 120%に 向上し、TiC の析出を利用して微細化した鋼は局部伸びが向上するため、穴拡げ性に有効 であると結論づけた。
本論文の研究成果の実業化例
第2章〜第4章を元に極低炭素鋼に Ti,Nb,B を添加し、伸び、深絞り性に優れる薄鋼板 を開発した。その1例として消火器、小型ボンベ用深絞り成形品に本成分鋼は使用されて いる。また、第5章を元に低炭素鋼に Ti を添加し、TiC 析出による動的再結晶を発現させ ることで、薄鋼板の製造プロセスにおいて微細組織を有する熱延高強度鋼板を開発した。
その1例として自動車のホイールディスクへの適用が検討されている。これまでホイール ディスクは引張強度(TS)590MPa 鋼が使用されていたが、TS/780MPa の微細組織鋼を適用す ることで、ホイールディスクの薄肉化による軽量化が可能となることが期待されている。