平成28年度創価大学教職大学院連絡会総会ワークショップ
防災教育をみんなで考える
北海道教育委員会
松 浦 賢 一
1.はじめに
「防災教育」を学習指導要領に盛り込み,災害時に身を守る方法や日ごろの備えな どを学校の授業でしっかり教えようという議論が中央教育審議会で本格化してきた。
各教科に分散している教育内容を整理し,学年に応じて身につけるべき知識や行動を 示す考えである。一定の授業時間を確保するため,防災教育の教科化も視野に入れる という
1。
すでに,文部科学省においては,東日本大震災を契機として,改めて防災教育・
防災管理等を見直すため, 「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有 識者会議」を設置し,2012年(平成24年)7月に最終報告が取りまとめられ,さらに,
国においても,2012年(平成24年)4月には,防災を含む学校における安全に関する 取組を総合的かつ効果的に推進するための「学校安全の推進に関する計画」を閣議決 定した。この「学校安全の推進に関する計画」において,「国は学校における安全に 関する指導が系統的・体系的になされるよう,各教科等における安全に関する指導内 容を整理し,学校現場に対してわかりやすく示す」ことや「安全教育のための指導時 間を確保するための方策について,国は,その必要性や内容の検討を行う」ことなど が示されている
2。
また,2016 年(平成 28 年)1 月 18 日の中央教育審議会総則・評価特別部会「健康,
安全等に関わる育成すべき資質・能力」の中で出された「防災を含む安全教育の今後 の在り方について(検討素案)」では,防災を含む安全教育を通じて育成すべき資質・
能力を明確化し,その育成に必要な各教科等における指導内容を系統的に示している。
主体的に行動する態度や,共助・公助に関する教育の充実も図るとしている
3。 今後,学校教育における防災教育については,安全教育の一環として内容を充実さ せるとともに,児童生徒等の発達段階を考慮して,育成すべき資質・能力を明確化し,
関連する教科,総合的な学習の時間,特別活動など学校教育活動全体を通じて展開し
ていく必要がある。そのためには,先進的な取組をしている学校等の実践を参考にし ながら,各学校,地域の実情に応じた効果的な実践をしていくことが重要であると考 える。
2.「防災教育」に関する実践と調査研究
筆者は,防災教育について以下の実践とその実践に基づいた調査研究を行った。
(1)小・中学生を対象にした防災教育プログラムの開発と調査研究
1つ目は,小・中学生を対象にした防災教育プログラムの開発と調査研究である。
2011 年(平成 23 年)の東日本大震災以降,各地で防災教育の必要性が叫ばれ,小 中学生を対象にした防災教育プログラムの開発が求められた。文部科学省(2012)は,
防災キャンプ推進事業として,災害や被災時の対応等の理解,学校等を避難所とした 生活体験などを行い,防災教育の観点に立った青少年の体験活動を推進している。
そこで,北海道教育委員会では,東日本大震災の翌年の 2012 年(平成 24 年)に,
道立の青少年教育施設において,小中学生の生きる力を引き出し,さまざまな課題や 困難に立ち向かっていく力を養うための防災教育事業を実施した。防災教育プログラ ムの開発については,当時,北海道教育委員会の社会教育主事をしていた筆者が駐在 する青少年教育施設において行った。
災害に関する理解を深め,キャンプや炊飯などの災害時を想定した体験活動をとお して他者とコミュニケーションを図りながら,仲間と助け合う豊かな人間性を育むと ともに,災害時において適切な行動を取れるようにすることを目的としてプログラム の開発を行った。
その実践をもとに,2013 年(平成 25 年)に,科学研究(奨励研究)として,「生 きる力の実質化を図る防災教育プログラムの開発-青少年教育施設における調査研 究-」をテーマに調査研究を行った。
本研究の目的は,生きる力の実質化を図る防災教育の構築を目指し,青少年教育施 設における実践・調査研究から,防災教育の観点に立った青少年集団宿泊体験活動の 効果的なプログラムについて明らかにすることである。
まず青少年教育施設における防災キャンプの実例を収集した。その中から「生きる 力」の向上を試みた実践を抽出して質問紙調査を実施し,定量的な分析と質的な研究 を同時に試みた。
その結果,災害時を想定した活動における「自助」「共助」の精神を大切にし,「協 同」の原理に基づいた教育活動を多く取り入れた取組が,「生きる力」を向上させる のに有効であることが明らかになった。
とりわけ,協同教育に基づいた取組は,次の3つの教育効果をもたらすことが明ら
かになった。
1つ目に,キャンプや野外炊飯等アウトドアでの体験活動を多く取り入れたことか ら,開放的な環境の中で仲間と自然に交流を図り,無理なく慣れ親しむことができ,
促進的相互交流の活性化をもたらした。
2つ目に,災害時を想定して「共助」の精神を重視し,グループ活動を多く取り入 れた。その際,互恵的目標を設定し,個人の責任を明確にした。そのことによって,
他者と協同するためのコミュニケーションを促進し,仲間と助け合い協力する態度を 養う可能性が見られた。
3つ目に,防災力を高めるために,「学習」「想定」「訓練」の 3 要素を様々な活動 プログラムに組み込んだ。そのことにより,災害や防災に関する知識を深め,防災意 識が高まるとともに,科学的な思考力が養われ,様々な課題を分析・対処していく能 力が高まった。
防災教育の観点に立った集団宿泊体験活動の効果的なプログラムについて,現場の 実態に即し,かつ参加者の変容データに基づく実証的な研究から明らかにしたことが 本研究の重要な発見である。
なお,本研究の成果を日本協同教育学会第 10 回全国大会(2013 年,札幌大学)に おいて発表し,さらに,それを論文にまとめ,『協同と教育』第10号(2014年,日本 協同教育学会)に掲載された
4。
(2)教職員等指導者を対象にした防災教育に関する指導者養成研修会
「防災教育」に関する実践の2つ目は,教職員等指導者を対象にした防災教育に関 する指導者養成研修会の実施である。
2014年(平成26年)9月の長野・岐阜県境の御嶽山において発生した噴火では,火 口周辺で多数の死者・負傷者が出るなど甚大な被害が生じた。その翌年も,口永良部 島をはじめ,阿蘇山や箱根山,桜島でも火山の噴火が確認されるなど,全国各地の活 火山で活発な火山活動が記録された。
学校における防災教育について,小学校・中学校・高等学校の学習指導要領には,
教科等の特質に応じた位置付けがなされており,火山に関する内容については,特に
「社会」や「理科」で扱われている。しかしながら,生涯にわたって,災害に適切に 対応できる能力を育て,生きる力を育むためには,家庭や地域における実践的な教育 が重要であると言われている。
中央防災会議防災対策実行会議火山防災対策推進ワーキンググループの「御嶽山噴
火を踏まえた今後の火山防災対策の推進について(報告)」では,「次期学習指導要領
の改訂に向けた審議において,地域の実情に応じた火山災害を含む自然災害に関する
防災教育の在り方について,防災教育に関する指導内容のまとまりや系統性の観点も
含め,教育課程全体の議論の中で検討すべき」との声もあがっている
5。
そこで,2015 年(平成 27 年)に,筆者の勤務先であり,青少年教育のナショナル センターとしての役割を持つ国立の青少年教育施設において,活火山の理解と安全対 策について学ぶ内容を織り込んだ登山指導者養成研修会を実施した。
2日間の日程で実施された研修会では,気象庁の火山防災官による「活火山の理解 と安全対策」をテーマにした講義をはじめ,火山防災情報センターを訪問し,火山活 動の監視機器の視察や火山防災についての理解を深める内容,さらに,北海道山岳連 盟の理事による「安全な集団登山」についての講義などを行った。
また,2日目は,各自が防災用の折りたたみヘルメットを持参し,前日に学んだこ とを実際に確認しながらの登山実習を通して,集団登山の実際を学んだ。
全国各地で火山活動が活発化しており,活火山に関する理解や安全対策が求められ ている中,火山災害に対する防災教育の指導法が学べる研修プログラムは,登山指導 者にとって有効であると考える。
なお筆者は,本実践を論文にまとめ,その内容が,ジアース教育新社が発行する『教 員を育て磨く専門誌[シナプス]SYNAPSE vol.50 2016年4・5月号』に掲載された
6。 また,安全に体験活動を実践するために,国立青少年教育振興機構が編集した『体 験・遊びナビゲーター 2 安全に体験活動を実践するために』の「登山編」の原稿を執 筆した
7。
3.おわりに
防災教育を含む安全教育が各学校において確実に実施されることが重要であるとの 認識の下,中央教育審議会スポーツ・青少年分科会学校安全部会では,研究開発学校 等における実践の状況も踏まえつつ,そのための時間の確保,指導内容のまとまりや 系統性,中核となる教科等を位置付けることの効果・影響,教材の在り方,学習評価 の在り方などの諸課題について,今後,次期の学習指導要領改訂に向けての審議にお いて,教育課程全体の議論の中で検討するとしている
8。
防災教育の実践については,近年,防災ポスターコンクール(内閣府,防災推進協 議会),防災教育チャレンジプラン(防災教育チャレンジプラン実行委員会),ぼうさ い甲子園(兵庫県,毎日新聞社, 財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構),小学 生の防災探検隊マップコンクール(日本損害保険協会,朝日新聞社,ユネスコ,日本 災害救援ボランティアネットワーク)など,児童・生徒を対象とした多くのコンクー ル形式の行事も実施され,高い教育効果を上げている。
2015年(平成27年)8月に行われた中央教育審議会教育課程企画特別部会における
論点整理において,これからの時代に求められる資質・能力を育むためには,各教科
等の学習とともに,教科横断的な視点で学習を成り立たせていくことが課題となるた
め,各教科等における学習の充実はもとより,教科等間のつながりを捉えた学習を進
める観点から,教科等間の内容事項について,相互の関連付けや横断を図る手立てや 体制を整える必要があるとし,「カリキュラム・マネジメント」を通じて,各教科等 の教育内容を相互の関係で捉え,必要な教育内容を組織的に配列し,更に必要な資源 を投入する営みが重要としている
9。
近年の急激な社会情勢の変化によって児童生徒等を取り巻く安全に関する状況が変 化する中で,安全で安心な社会づくりの基盤となる資質・能力を児童生徒等に育むこ とが重要である。
今後,各学校では,防災教育を含む安全教育を通じて児童生徒の育成すべき資質・
能力を明確化し,その育成に必要な各教科等における指導内容を系統的に示すととも に,教育課程の全体構造を念頭に置きながら,各教科等において防災教育をはじめと した安全教育の充実を図っていく必要があるだろう。
注