再構築が求められる日本の生損保兼営 グループの戦略
⎜⎜ 規制緩和後の日本の保険グループの生産性評価 ⎜⎜
久 保 英 也
■アブストラクト
保険業法の改正を受け誕生した日本の保険グループは,横並びで形成され たものが多く,規制緩和の効果を生かしきれていない。生命保険会社は子会 社による生損保兼営より本業特化による縮小均衡を,損害保険会社は個人年 金シフトなど利益効率より売上重視の経営を選択したものの,確率的フロン ティア生産関数が示す生産性の推移は芳しくない。
同時期に
EU
統合など日本以上に規制緩和と国際競争にさらされた欧州の 保険会社は,グループ化を軸に明確な経営戦略を打ち出すことにより高い成 長性を確保している。日本の保険会社は約10年の遅れを背負うものの,幸い にも競争体力は有しており,新たな保険グループ戦略を再構築すれば,再び 成長性を確保できる。■キーワード
生損保兼営,確率的フロンティア生産関数,グループ戦略
第1章 日本の保険会社の規制緩和への対応
1995年度の保険業法改正(以後,改正保険業法と呼ぶ)は,生命保険業界,
損害保険業界に大きな影響を与えた。約1世紀ぶりの大改正となった改正保
*平成19年3月19日の関東部会報告による。
/平成20年2月27日原稿受領。
険業法は,金融の自由化・国際化に対応するため,①保険会社の健全性の確 保,②子会社方式による生損保兼営など保険事業の規制緩和の促進,③公正 な事業運営の確保を目的にしている。ただ,改正時期が日本経済のバブル清 算時期と重なったため,日本の生命保険会社は,その後の5年間に7社が経 営破綻する事態となった。損害保険会社についても,日米保険会議の政治決 着により損害保険料率算定会の料率の使用義務の廃止と主力保険の料率自由 化が一気に実現する。このような混乱の中で規制緩和が進み,保険子会社に よる相互参入や破綻会社の受け皿となった外資系保険会社の本格的な参入が 起こった。また,相互会社から株式会社への組織変更,大規模保険会社どう しの経営統合も加速した。生命保険業界の保険会社数は1995年度の31社が 2000年度には49社に,損害保険業界も同23社が34社に達し,保険会社数は規 制緩和の前後で約1.5倍に増加した。外形的には,護送船団行政の中でほぼ 同一の戦略で競争してきた日本の保険会社が,本格的な競争を開始したこと になる。
規制下では,類似の保険商品や販売チャネルなどを有する保険会社が,激 烈な販売競争を展開してきたものの,市場勢力図が大きく変わることはなか った。図1は,生保,損保両業界の過去26年間に及ぶ産業の集中度をハーフ
図1 生損保業界のハーフィンダール指数の推移
ィンダール指数(以下,HDと呼ぶ)で示したものである。
両業界の基礎利益 の
HD(棒グラフ)は,改正業法が施行される1995年
度までは凪のように変化がないものの,改正保険業法施行後は損保業界を中 心に大きな変動を示している。収入保険料についてのHD
についても,損 保は経営統合に伴う規模の拡大により,生保は新たな大型チャネルである銀 行の窓口販売により,変動が大きくなっている。規制がもたらす産業の硬直 性・非活性化と本格的な規制緩和が生む市場の活性化が明確に表れている。大規模な規制緩和に対し,日本の保険会社が取った経営戦略は,主に,① 本業への経営資源の集中,②子会社による実質生損保兼営,③経営統合・
M&A
による規模の拡大,の3つである。生命保険会社は,本業への経営資 源の集中と損害保険子会社などによる生損保兼営を,また,損害保険会社は 国内企業間の経営統合と生命保険子会社による生損保兼営を,ほぼ横並びで 採用した。一方,外資系保険会社は主にM&A
を中心に規模を拡大した。国際的にも規制緩和に対応する有効な経営戦略としてグループ化戦略があ り,日本の保険会社がこの時期に同戦略を採用することに違和感はない。
2005年度末で生損保を実質兼営する,もしくはしたことのある保険グループ は,表1に見る15グループ(包括提携を含む)である。内訳は生保系6社,
損保系6社,外資系2社,事業会社系1社となっている。
規制緩和やグループ化の程度を評価するには, 進出分野比率(例えば,
損保系グループなら生保分野の割合) と グループ規模の変化 の2つの 指標が考えられる。後者のグループ規模は,経営統合や生損保兼営が一般的 に企業規模の拡大を伴い,また,契約数の増加による保険事故発生率の安定 化を考えれば,規模は利益を押し上げる重要な要素となる。まず,進出分野 比率は,損保系トップでグループ順位4位の
MIグループが30.9%と生保分
1) 基礎利益は,2000年度以降の生命保険会社についてしか公表されていないた め,それ以前と損保会社の基礎利益を算出する必要がある。ここでは,筆者が ほぼ同じ概念で各社の損益計算書から独自に作成した 修正基礎利益 を使用 している。修正基礎利益については,久保(2005)に詳しい。
野の収入保険料がグループ全体収入の約3割を占める。同6位の
MS
グル ープも35.6%と欧州の保険グループ並みに事業分野を複合化している。一方,グループ規模の変化については,日本と同じく90年代後半に規制緩和への対 応に追われた欧州の保険会社の規模とを比較することにより,日本の保険会 社の規制緩和への対応速度やスケール感を把握できる。
フォーチュン誌 グローバル500 の世界売上高(保険業界の場合,収入 保険料)順位の2008年版(2007年決算,もしくは2006年度決算)と保険業法 施行の直前の同1996年版(1995年決算,もしくは1994年度決算)とを比較す ることで,日本の保険会社の規制緩和対応について,世界との相対的な位置 関係が摑める。
2008年グローバル500における生命保険会社部門のトップは,表2のとお り保険会社を中心とした金融コングロマリッドの
ING
グループである。収表1 生保・損保を併せ持つ保険グループ
(100万円,%)
グループ名 収入保険料 基礎利益
1 2 3 4 5 6
NDグループ(生保系)
Dグループ(生保系)
Sグループ(生保系)
M Iグループ(損保系)
M Yグループ(生保系)
M Sグループ(損保系)
5,117,265 3,347,068 3,006,604 2,717,713 2,630,281 2,141,731
6.7 0 1 30.9
0.5 35.6
672,454 471,971 264,914 122,503 467,732 154,167 7 Aグループ(外資系) 2,042,613 0.7 ‑2,265 8
9 10 11 12
SJグループ(損保系)
F/Kグループ(生保系)
Mグループ(生保系)
AIグループ(損保系)
NKグループ(損保系)
1,694,535 1,041,601 953,435 937,840 801,509
15.1 17.5 0 7.7 9.4
104,772 52,278 114,966 78,413 27,779 13 AXグループ(外資系) 655,130 3.1 43,580 14
15
Sグループ(事業会社系)
Fグループ(損保系)
624,203 350,896
7.2 9.6
19,255 37,891 (注1)2005年度までに生保事業と損保事業を行う会社を共に有した企業
群をグループとして選定。
(注2)損保の基礎利益は,異常危険準備金の繰入・取崩を反映し,生保 の基礎利益の概念に沿い筆者が計算したもの。
(出所)H18年度インシュアランス生命保険統計号,同損害保険統計号
(共に2005年度決算値)から筆者が作成。
進出分野 比率
表2 フォーチュン500にみる世界の保険会社
($ millions,%)
保険会社
順位 会社名(生命保険会社) 会社
形態 全産業
順位 収入
保険料 利益 売上高
利益率
1 ING Group 株式 13 158,274 9,651 6.10
会社名(損害保険会社) 平均利益率 5.07
1 Allianz 株式 19 125,346 8,809 7.03
4.57 2.96 4.88 2.43 4.61 2.59 11.81
7.62 3.77 7.46 4.20 0.52 10.55
2.28 11.61
7.10 1.90 3.65 1.84 8.72 4.60 5.09 8.80 4.00 1.59 1.70 6,380 3,017 4,075 1,608 2,611 1,437 6,293 3,499 1,512 2,878 1,538 174 3,428
736 3,499 2,128 544 1,035
521 2,334 1,228 1,266 1,883 829 325 332 139,738 101,811 83,487 66,134 56,624 55,584 53,275 45,939 40,146 38,574 36,646 33,712 32,488 32,320 30,137 29,979 28,639 28,365 28,240 26,757 26,709 24,863 21,405 20,726 20,436 19,545 15
30 50 79 107 108 113 133 157 162 173 192 199 202 219 220 229 233 236 247 249 274 333 339 343 361 株式 株式 株式 株式 相互 株式 株式 株式 相互 株式 株式 株式 株式 相互 株式 相互 株式 相互 株式 相互 株式 相互 株式 相互 株式 株式 AXA
Assicurazioni Generali Aviva
Prudential 日本生命 CNP Assurances Met Life Aegon 第一生命
Legal & General Group Old Mutual
China Life Insurance Prudential Financial 住友生命
Manulife Financial 明治安田生命
Samsung Life Insurance New York Life Insurance Standard Life Assurance TIAA-CREF
Power Corp.of Canada
Massachusetts Mutual Life Insurance Sun Life Financial
Northwestern Mutual Cathay Financial Holdings T&Dホールディング 2
3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27
12.41 11.18 6.96 8.78 7.42 2.20 13.95 11.32 10.36 16.77 6.91 4.21 9.50 2.87 14.46
3.26 14,048 11,015 4,527 531,550
4,316 795 4,993 3,637 2,745 4,208 1,626 945 2,113
520 2,491
530 113,194
98,539 65,000 60,528 58,183 36,067 35,796 32,118 26,500 25,090 23,520 22,442 22,253 18,100 17,228 16,258 23
33 85 93 100 177 181 206 251 271 292 316 318 399 425 460 株式 株式 株式 相互 株式 株式 株式 株式 株式 株式 株式 相互 株式 株式 株式 株式 American International Group
Berkshire Hathaway Zurich Financial Services State Farm Insurance Cos.
Munich Re Group
ミレアホールディング(東京海上日動)
Allstate
Swiss Reinsurance Hartford Financial Services Travelers Cos.
Liberty Mutual Insurance Group Groupama
Nationwide 三井住友海上 Loews 損保ジャパン 2
3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17
8.80 平均利益率 (注1)フォーチュン500,2008.1.23号のデータ(グローバル500)より,筆者が加
筆修正。
(注2)シャドーは,相互会社形態の会社を示す。
入保険料は1582億ドルと日本トップの日本生命(566億ドル)の約3倍,利 益(97億ドル)も同4倍の規模となっている。同第2位の
AXA
も売上で同 2.5倍,利益で同2.4倍の規模である。1996年(1995年度決算)においては,ING
の売上は359億ドル,利益は20億ドルと日本生命の各5割,7割であっ たことを考えれば,為替の影響を勘案しても成長性の差は歴然である。ちな みに,日本生命の全産業順位は107位と1996年の18位から大きく順位を落と し,保険以外の産業と比較しても相対的な地位の低下は否めない。利益率でみても,事業を急拡大させた
ING,AXA
の売上高利益率(同誌 に掲載されている利益を売上高で除した値)は,各々6.10%,4.57%と日本 の生保のそれを上回る。1996年当時,欧州系生命保険会社が小規模・高利益 率(当時のING
の売上高利益率5.5%)に対し,日本の生命保険会社は大 規模・低利益率(日本生命で同2.6%)とされたが,現在では,規模でも利 益効率でも後塵を拝している。ただ,死亡保障など保障性商品の割合の高い 日本の商品ポートフォリオを考えれば,フォーチュン誌の採用した利益概念 より,2000年度から公表されている 基礎利益 がふさわしいと考えられる。基礎利益を用いて売上高利益率を計算すると日本生命は12.4%と高い数値と なり,同じく保障性商品の割合が高い米国系生命保険会社であるプルデンシ ャルの10.5%に近い水準となる。すなわち,日本の生命保険会社は,主力の 保障性商品の収入保険料が減少する中で,利益率の低下を食い止めようとす る,いわば縮小均衡型の経営行動を取っている。ただ,世界の生命保険会社 の上位27社中に5社が入る事業規模と高い売上高基礎利益率は,日本の生命 保険会社が国際競争力を未だ有していることを示している。
一方,2000年前後に経営統合を大胆に進めた日本の損害保険業の世界にお ける相対的位置を見てみよう。表2に見る通り,世界のトップ3の規模は生 損保とも変わらず,規模に関して生保損保の業種間格差を特段考慮する必要 はない。日本の損害保険業界でトップのミレアホールディングが,7位に入 っているものの,全産業順位は177位にとどまる。また,三井住友海上保険 は同399位,損保ジャパンは同460位と規模において優位性を有するとは言え
ない。1996年調査は,トップの東京海上火災の売り上げが同201位,安田火 災同330位,三井海上火災同494位であるから,この10年間で大手3社の世界 における規模の順位はさほど変わっていないことになる。一方の売上高利益 率は,ミレアホールディングが2.2%,三井住友海上が2.9%と1996年の売上 高利益率1.2%,0.9%とからやや上昇したものの,2007年の世界の上位17社 の平均利益率である8.8%を大きく下回る。生保と同様に,この利益率を前 述の基礎利益率に置き換えても,ミレアホールディングで3.5%と同水準に は遠く及ばない。
日本では大胆な経営統合を進めた日本の損害保険会社であるが,規模でも 利益率でも優位性を確保するまでは至っておらず,世界水準から見れば,引 き続き 小規模・低利益率 の構造は変わっていない。同時に,大規模な経 営統合など経営戦略の大胆な変更を見送った日本の生命保険会社が順位を落 としたのは,世界の動きから見れば自然である。
一方,シャドーをかけた相互会社の退潮も明確となり,生命保険会社でラ ンクインした相互会社は27社中7社,損害保険会社では同17社中2社にすぎ ない。1996年には,生命保険会社の上位35社中16社が,損害保険会社の上位 22社中2社が相互会社で,かつ,生命保険会社の上位4社はすべて日本の相 互会社であった。規制緩和と競争の国際化が進む中では,世界の主要相互会 社が相次いで株式会社化するなど,大規模相互会社が相互会社理念を実践す るには困難が伴うことを示している。
世界で行動する大手保険会社は,逆に日本市場に攻勢をかけている。損害 保険会社世界順位第2位のAIGや生命保険会社第2位のAXAは,従来の外 資系企業が𨻶間商品を携え小粒に参入する戦略とは異なり,破綻保険会社の 受け皿として資本力を背景に正面から参入している。例えば,AIGグループ は,直系会社の売上高で7位,資本関係のある保険会社(株式保有比率22%
の会社)を含めれば収入保険料は2.5兆円に達し,実質5位グループに成長 している。その背景には,日本市場をアジア戦略の一部として明確に経営認 識していることがある。後述する多国籍保険会社の経営戦略である 進出先
の市場シェア上位5位以内 を日本でも実践している。
第2章 欧州保険会社の規制緩和対応
この10年で最も大きな規制緩和と国際化に直面した欧州の保険会社は2つ の戦略をとってきた。第1が,保険という分野や国という枠を超え,銀行・
証券・資産運用サービスなど金融ビジネスの中で収益を追求する 金融コン グロマリッド であり,もう一つが保険業の中で最大収益を得るように生・
損保分野や国別調整を行う 保険事業の国際的再編成 である。ここでは,
前者を代表してINGとAXAを,後者を代表してAVIVAを取り上げる。い ずれも欧州を代表する保険会社であるが,本国での保険業務の割合は小さい。
ING
グループ(2006年度,総売上1583億ドル,フォーチュン500社ランキ ング13位,従業員数11.9万人)の利益総額に占める,本国のオランダも含め た欧州保険事業でのシェアはわずか23%である。これに,アメリカでの保険 事業の20%,日本を含むアジアの6%を加え,保険事業合計で49%となる。これにコーポレート・リーテイルバンキングの同44%とダイレクトバンキン グの同7%が加わる。その結果,保険事業と銀行・投資事業の比が49:51と バランスに優れた複合金融機関となっている。
一方の
AXA
グループ(総売上高1397億ドル,同15位,従業員数約11万 人)は,保険と資産運用サービスとを軸とするグループである。2006年の売 上構成を見ると生保17%,損保事業55%,国際保険事業10%,資産運用サー ビス12%とこちらも多角化している。とりわけ,主力の保険事業は,本国で あるフランスの保険料収入は全体の27%にとどまり,ドイツ・ルクセンブル グが16%,イギリスは12%,イタリア・スペインは7%,日本を含むアジア その他は14%と地域バランスを考えた売上構成としている。2社の経営戦略の差は,対米戦略にもはっきり表れている。INGは,オ ランダエイゴン(生命保険会社)の売却資金により,多数の中小生命保険会 社を買収,全米収入保険料のランキングで4位まで順位を上げている。販売 チャネルは自前ではなく,独立代理店20万店を軸とした独立チャネル重視の
販売戦略を進めている。一方,AXAはアメリカ国内で知名度の高い大規模 生保2社を買収し,一気に企業ブランドを高める戦略をとった。変額年金の 大手で,不良資産償却に伴う資金不足で窮地に陥ったエクイタブルと1843年 創業の老舗生命保険相互会社でありながらハイイールド債投資で失敗したミ ューチュアル・ライフ・インシュランス・カンパニー・オブ・ニューヨーク
(以下,MONYと呼ぶ,1998年に株式会社化)の2社である。それぞれ自 前の専属代理店を有しており,旧エクイタブルの4800名と旧
MONY
の1200 名を併せた6000名の専属販売チャネルをAXA
は手にすることとなった。これに対し, 保険事業の国際的再編成 の戦略を取った 保 険 会 社 が
AVIVA
である。AVIVAは,欧州大陸で強い力を持ち生保と損保とのバラ ンスに優れたCU
(Commercial Union)とカナダ・北米と損保業務に強いGA(General Accident),そして,英国基盤で生保に強い NU
(NorwichUnion
)が2002年に合併し,誕生した。保険事業の地理的分散と生損保事業のバランスを考えた戦略をとり,2006年の収入保険料収入はイギリス47%,
欧州大陸41%,北米その他12%とし,生保と損保の収入保険料シェアは,ほ ぼ半々となっている。グループの主な戦略は,①イギリス国内では市場のリ ーダーとしての資本力強化,②欧州大陸では成長性と規模の確保,③アメリ カでは販売商品の拡大を通じたトップ5入り,などを掲げている。
ここで,取り上げた3社の規制緩和への対応と比べれば,日本の保険会社 の出遅れ感は否めない。ただ,一方で,日本の特殊性も勘案する必要がある。
日本の保険業にとって戦後最大の規制緩和の時期が日本の不良債権処理など バブルの清算時期と重なったため,市場全体の落ち込みが各社の経営努力を 見えなくしている可能性もある。前述のとおり,規制緩和への対応も業界横 並びで行う日本の保険会社の戦略は,欧米の保険会社以上にマクロの保険市 場の影響を受けやすいと考えられる。そこで,生損保兼営を進めた日本の保 険グループについて,規制緩和の効果を計量的に把握することが重要となる。
第3章 先行研究
日本の生命保険会社の効率性について計測した先行研究は,数多く存在す る。井口富夫(1985)は,産業組織論の観点から1977年度のデータを用い,
生命保険会社の規模の経済性を検証している。また,筒井善郎・関口晶彦・
茶野努(1992)は,1976〜1989年度のデータを用い,コブ・ダグラス型とト ランスログ型の費用関数を推計することにより規模の経済性と資産運用業 務・保険業務に関わる範囲の経済性とを求めている。中馬宏之・橘木俊詔・
高田聖治(1993)は,1990年度のデータを用い,本格的な計量分析手法を持 ち込み,生命保険会社の効率性を計測している。北坂真一(1996),(2002)
は,1989〜1993年度,1996〜1999年度のデータを用い,商品ごとの収入保険 料(4商品)を生産物に見立てた費用関数を計測し,大手生命保険会社や個 人保険分野において規模の経 済 性 が 喪 失 し て い る と し て い る。茶 野 努
(2002)は,1975〜1996年度の長期データを用い,フロンティア生産関数と ノン・パラメトリックな分析手法である
DEA(Data Envelopment Analy- sis
)により,生命保険会社の効率性を計測している。その結果,バブル崩 壊後から1990年代半ばまでは,効率性の改善は横ばいと結論付けている。一方,日本の損害保険業における生産関数・費用関数については,規制緩 和や改正保険業法における監督のあり方が議論された90年代前半に多く見ら れる。井口富夫(1993)は,産業組織論の観点から1991年度のデータを用い,
コブ・ダグラス型とトランスログ型の費用関数を推計し,損害保険業には規 模の経済性が存在するとしている。また,吉野直行・郭賢泰・沖田剛一(1994) は,1970〜1990年度の5年ごとデータを用い,元受収入保険料と代理店数の 間に規模の利益が存在するとしている。また,柳瀬典由(2007)は,DEAを 用い,保険料自由化後は各社間の効率性格差が縮小していると指摘している。
また,個別会社の効率性分析については,フロンティア生産関数を用いた 効率性の評価が複数存在する。中馬(1993)は,1990年度のデータを用い,
生命保険業各社の効率格差を示し,松浦(1997)は証券業の効率性をバブル
期とそれ以降に分け推計し,上場25社間の格差が開いていることを実証して いる。一方,久保(2006)は伝統的な大手生命保険会社の約100のサンプル を用い,また,久保(2007)は,損害保険会社の約280ものサンプルを用い て個別会社の効率性格差を算出し,規制緩和後は,相対的には大手会社の生 産性が高いことを実証している。
手法的には出揃った感のあるものの,規制緩和の象徴である生損保を併せ 持つ保険グループを評価した先行研究は見当たらない。そこで,本論文では,
改正保険業法や損害保険料率の自由化により誕生した生損保を実質兼営する 15の保険グループの効率性の変化について,確率的フロンティア生産関数を 用い分析する。
第4章 生産関数の前提と推計結果
今回分析対象としたのは,日本の国内で営業する生損保を兼営する保険会 社(全面提携会社を含む)で,再保険会社や外国損害保険会社の東京支店は 除いている。また,関数推計に当たっては,グループ化の時期がそれぞれ異 なるため,各グループを構成する企業について,1991年度からそのグループ に参加していたと仮定し,グループ全体の効率性の変化を計測している。
生産関数の推計に際して,最も重要な点は生産関数に用いる生産物の選定 である。生産物の選定には,①企業が経営目標として追求してきた対象であ ること,②複数財の換算や中間投入物の考慮すること,などが求められる。
事業会社の主な経営目標は利益の追求にあるので,生産物を利益の概念とす ることに異論は少ない。ただ,保険会社の場合,①保険事業の安定性確保の ための売上高の拡大,②相互会社の経営目的において利益は次順位,③損益 計算書の利益が実態と乖離,などから経営が求めてきた対象にばらつきが存 在する可能性がある。ただ,90年代以降は,バブル清算過程における健全性 確保の要請や1995年の改正保険業法に伴う株式会社と相互会社との同一視化 に伴い,すべての保険会社は利益に軸足をおいた経営に変化している。
複数財の換算については,保険会社の商品・サービスは,生保と損保とで
大きく異なり保険種類も多様であるため,大半の保険会社は単一財を生産す る会社ではない。この場合,商品ごとに生産性を計測するか,複数の生産物 の生産額を同一尺度で換算する必要がある。また,中間投入の考慮について は,同一保険料の商品であっても原価率の大きな差(例えば,生産額は大き くても中間投入も大きい財の付加価値は小さい)など表面上の売上額でその 企業の利益水準を判断できないことが多い。中間投入の差が反映された生産 物を選択することが好ましい。表3は,保険会社の代表的な生産物候補を挙 げ,生産物としての適性を○〜×で大雑把に判定したものである。先行研究 に見られる契約件数,資産額・負債額には△や×が多く,生産物としての要 件を十分満しているとは言いにくい。保険会社の生産物として,最も適合す るのは期間損益を表す基礎利益を中心とした利益の概念となる。
ただ,今回の推計期間のように,計測期間に保険料率の全面自由化や多数 の経営破綻の発生という厳しい経営環境の時期を含む場合には,利益概念を
視点
生産物の候補 ①複数財の換算 ②中間投入物の考慮 ③その他
①契約件数 ×
契約ごとに売上額が異なる ため,多品種商品を扱う保 険会社の生産額としては合 理性を欠く。
× 商品ごとに異なるコス トを反映できない
②(元受)収入保険料 ○ 生保,損保の多様な複数商
品の同一評価が可能。 × 商品ごとに異なるコス トを反映できない
③資産額,負債額 △ 保障性商品と貯蓄性商品の
間で評価が正当にできない。− − × 保険会社が経営目標として いない。
④経常利益
(損益計算書) ○ 同上 ○ 商品ごとに異なるコス
トを反映できる。 × 臨時的な損益もすべて計上 され,期間損益が反映しに くい。
⑤基礎利益
(経 常 利 益−キ ャ ピ タ ル
損益) ○ 同上 ○ 同上 ○
基本収益力を把握できる。
ただ,負値をとる可能性が あり,ログ関数では標本数 が減少。
⑥準備金調整基礎利益
(経 常 利 益−キ ャ ピ タ ル 損益+異常危険準備金の 増減)
○ 同上 ○ 同上 ○ 基本収益力を把握できる。
準備金変動に伴う,キャピ タルゲインの峻別が困難
⑦キャッシュフロー
(基礎利益+減価償却) ○ 同上 ○ 同上 ○
基本収益力を把握できる。
営業用不動産の多寡を調整。
一般企業の収益力評価で重 視
表3 日本の保険会社の生産物
(注)上記の候補以外にも,支払保険金や契約者剰余金を採用した研究があるが,
保険会社の活動の一部しか表わさず,今回の分析目的に合わないため,割愛 した。
表す指標が負の値をとるケースが想定される。対数線形関数を推計する段階 で負値をとる標本は除かれるため,生産性の押上げバイアスがかかる懸念が ある。そこで,中間投入の考慮が不十分ではあるが,保険会社の経営が求め てきた収入保険料も生産物とし複眼的に観察する。すなわち,今回推計にお ける生産物には,①負値バイアスを抑制するため多数の標本数を確保した利 益概念と②全商品の中間投入比率は同じと仮定した収入保険料を採用する。
具体的には,表3の中から収入保険料,基礎利益,準備金調整基礎利益,キ ャッシュフローの4つについて推計した。
確率的フロンティア生産関数は,個別会社の効率性が生産関数の残差項に 含まれると考え,残差項を推計上の誤差部分と効率性を表す部分の2つに峻 別し,効率性を表す部分を抽出したものである。なお,今回は,以下のアル ゴリズム に基づき,TSPを用い算出した。標本数は,生産物ごとにやや
2) 確率的フロンティアモデルをy=xβ+v−u,(i=1,2,…,n)と表す。た だし,vの分布として正規分布,uの分布として半正規分布,v→N(0,σ), u→N (0,σ) を考える。このときyの確率密度関数は,
f(y)=2
σφy−xβ
σ Φ−λ(y−xβ)
σ ⑴となる。
この時,σ= σ+σ,λ=σ
σ ⑵
また,φは,標準正規分布の密度関数,Φは,標準正規分布の累積分布関数 を表す。
今,ε=y−xβとおけば,⑴は,
f(y)=2 σφε
σΦ−λε
σ と表される。
この対数を求めると,
Log f(y)=Log2−Logσ+Logφ ε
σ+Log−λε
σ となる。
したがって,対数尤度関数は,
Log f(y)= Log2−logσ+Logφε
σ+LogΦ−λε
σ となる。
よって,パラメーターβ,σ,λを最尤法により求めればよい。これにより σ・σも求まる。第i主体の効率性は,Battese and Coelli(1988)が次のとお り提案している。
異なるものの,2005年度までの15年間で,約200を確保し,関数の安定性を 担保した。なお,データは,年次ごとのクロスセクションデータを時系列に 束ねたパネルデータである。
表4に示した推計結果は,各推計式における資本,労働 ,σ,λについ てのt値が高く,フロンティア生産関数の推計精度は高いものと考えられる。
収入保険料(売上高)を生産物とした場合,資本のパラメータは0.169,労 働のパラメータは0.812と労働の寄与が大きいことが特徴的である。販売チ ャネルにかけるコストの多寡が売上高に大きく影響することを示している。
一方,基礎利益を生産物にした場合は,パラメータは資本0.427,労働0.604 と資本の寄与が高まる。また,事業会社の収益力分析でよく用いられる当期 利益に減価償却を加えた キャッシュフロー を生産物とした場合,資本 0.576,労働0.427と資本の寄与が更に大きくなる。これは,保険会社の収益 力は販売力が決定するとする通説とは異なり, 保険会社の利益効率には,
資本ストックが重要な役割を果たす ことを示している。
フロンティア生産関数が導出する生産性は,資本と労働を投入した時にも っとも効率的に生産物を算出する会社の最適生産性からのそれ以外の会社の 乖離度合を表すもので,数値が高いほど効率性が高い。ここでは,収入保険 料と修正基礎利益を生産物としたケースについて分析を進めた。直観的に売
TE=E exp(−u v−u)>=
1−Φ σ−u σ 1−Φ−μ
σ
exp−μ+1 2σ
ここで,μ=−εσ
σ ,σ=σ σ σ
したがって,パラメーターの最尤推定量をβ,σ,λとすれば,
^ ET =
1−Φ σ−μ σ 1−Φ−μ
σ
exp−μ+1 2σ
ただし,μ=−εσ
σ σ=σ σ
σ ε=y−xβ である。
3) 資本と労働の定義は,久保(2007)39ページを参照。
上げ効率が向上としたと考えられるのは,大規模な経営統合を繰返した損害 保険会社を中心としたグループ(以下,損保主軸グループと呼ぶ)であろう。
日本の損害保険業界は,1948年に設立された損害保険料率算定会の料率制度 による価格競争のない世界で,長らく安定成長を続けてきた。90年代の日本 のバブルの清算過程においても,生命保険業界が抱えた逆ザヤ(運用利回り が予定利率を下回る状況)の重荷も,不良債権問題など影響も軽微であった。
前述のとおり,1998年度以降,保険料率の実質全面自由化を迎えたが,こ の動きに対応するため,元受会社31社(2000年度)からなる業界の約半数に あたる15の損害保険会社が経営統合に参加し,結果として6つの統合会社に 整理された。うち,生損保を経営する保険グループは5グループである。図 2は,損保主軸グループの売上の効率性を過年度ごとに表している。 損保 計 は,日本の損害保険会社全体の売上の効率性 を表すが,その水準は,
2000年度以降急速に上昇している。ただ,グループごとに見ると,上昇のペ
4) 損保計は,損保各社の数値を単純合計した保険会社が1社存在すると仮定し,
表4のパラメータを利用して算出した。
表4 生損保グループのフロンティア生産関数
生産物
(注)推計期間は,1991〜2005年度。LIは,Log likelihoodの略
収入保険料 基礎利益
パラメータ t値 標準誤差 パラメータ t値 標準誤差
定数項 資本 労働 σ λ
2.53541 0.168634 0.81241 1.20072 6.93263
4.2132 3.02752 9.24994 13.1174 4.28213
0.601778 0.055701 0.087829 0.091537 1.61897
0.042907 0.42698 0.604027 0.588002 6.41005
0.028932 2.57637 2.58708 21.7306 4.10658
1.48301 0.165729 0.233479 0.022387 2.13912
標本数,LI 221,−143.867 198,−270.738
生産物 準備金調整基礎利益 キャッシュフロー
パラメータ t値 標準誤差 パラメータ t値 標準誤差
定数項 資本 労働 σ λ
−0.78724 0.519555 0.578033 0.659103 4.18343
−0.60173 3.78328 2.79828 21.328 4.41146
1.30829 0.137329 0.206567 0.030903 0.94831
0.541704 0.576341 0.42689 0.692345 4.47088
0.409613 4.63855 2.13504 15.6622 4.38281
1.32248 0.12425 0.199949 0.044205 1.0201
標本数,LI 192,−251.161 204,−255.5631
ースにばらつきがある。最大手の
MI
やMS,SJ
グループなど大手企業を 中心としたグループの効率性の上昇ペースが高く,中堅会社を中心としたAI
,NKグループは,損保業界全体の平均をも下回る状況となっている。売上効率を押上げるには,大型の経営統合が効果的であることが窺われる。
それは,重幅した資本ストックの整理など資本の効率化と個人年金販売の主 力チャネルとなる銀行との提携関係(窓口販売)を構築しやすくなるからで ある。
次に,図3は利益の効率性について, 損保計 , 生保計 に加え,生保 主軸グループ最大手の
ND
グループと損保主軸グループ最大手のMI
グル ープについて,利益の効率性の変化をプロットした。ND
グループは常に業界平均を超える利益の効率性を有しているが,90年 代前半 に お い て,そ の 差 は さ ほ ど 大 き く な か っ た。北 坂 真 一(1996),(2002)などの大手生命保険会社の規模の利益は確認できないとする先行研 究とある意味整合性が見られる。しかしながら,1990年代の終わりから利益 の生産性は大きく改善し,業界平均との差が急速に広がっている。NDグル ープの進出分野比率は生保主軸グループの中では相対的に大きいものの,水
5) 生保計は,生保各社の数値を単純合計した保険会社が1社存在すると仮定し,
表4のパラメータを利用して算出した。
図2 損保主軸グループの売上(収入保険料)効率性の変化
準はわずか6.7%であり,これによりグループ全体の利益の効率性が大きく 向上したとは考えにくい。効率性を高めた最大の要因は生命保険事業への資 本・労働投入量の圧縮と事業費の大幅な削減である。NDグループの戦略は,
生損保統合によるシナジー効果より,生命保険本業の効率化を規制緩和対応 の切り札とすることにあったと考えられる。
一方の
MIグループは,1991年度から2003年度までは,損保業界平均を常
に大きく上回る利益の効率性を確保してきた。しかし,経営統合が完了した 2003年度以降,逆に優位性は急速に低下している。経営統合で規模の拡大を 図り,不要資本や事業費の圧縮を進めたにもかかわらず,利益の効率性は低 下している。これは,前述したフォーチュン誌の売上高利益率が95年当時と さして変わらないという事実に符合する。原因は,グループ全体の商品ポー トフォリオにある。MIグループの進出分野比率は前述のとおり,2005年度 で30.5%と高く,2006年度ではさらに44%まで上昇している。2006年度のグ ループ全体の保険料収入のうち,生命保険事業の個人年金から上がる収入保 険料は,定額個人年金(470億円),変額個人年金(1兆880億円)を合わせ て約1兆1000億円になり,収入保険料全体の32%を占める(これに個人年金 以外の生命保険料を合わせると上記の44%)。一般に,個人年金は,比較的 顧客ニーズが顕在化しやく販売しやすい商品であるが,低い利益率とより慎 重なリスク管理が要請されるという特徴を有する。生保主軸グループは,利益率が相対的に高い保障性商品や医療商品から年 金商品に商品ポートフォリオがスライドすることを恐れ,大胆な個人年金シ フトは取っていない。これに対し,損保主軸クループは,個人年金分野に積 極的に進出し,収入保険の増大と資産規模の拡大を進めた。その結果,保有 契約高を相当積上げないと利益の見込みにくい個人年金を抱え,グループ全 体の利益効率が低下したと考えられる。日本の同グループは,売上の効率が 向上しても当面の利益効率は低下するというジレンマに直面している。
欧米の生損保兼営会社も個人年金を積極的に販売しているが,①個人年金 販売に歴史のある保険会社の買収,②年金事業と親和性が高い資産運用サー
ビス事業などを拡大,③シナジー効果の極大化や地域分散などのグループ戦 略との整合性確保,などにより当面の利益効率の低下を回避している。個人 年金の急拡大に伴う利益率の低下を食い止める戦略の有無が欧米の生損保兼 営会社との大きな差である。
利益の効率が上昇している生保主軸グループも収入保険料や保有保険金額 は減少を続けている。生命保険会社全体の収入保険料は,1995年度の20.5兆 円から2005年度の16.1兆円へ約2割減少し,労働投入量も2兆円から1.4兆 円へ0.6兆円も減少している。労働投入量は,事務職員の給与や販売チャネ ルのコストであり,効率化を図った側面と販売量の減少に伴い自動的に減少 した部分に分かれるが,今局面は後者の要因が大きく,いわば縮小均衡を図 る中で利益率を確保している状況から未だ脱しきれていない。
142ページの 保険会社の利益効率には資本ストックが重要な役割を果た す との分析結果が示すように,成熟化した日本の保険市場に事業基盤を置 く両グループは,資本戦略を軸とした新たな経営戦略の展開が求められてい る。
図3 生保・損保主軸グループの利益効率性の変化
第5章 結語
生損保兼営グループについての売上および利益の効率性分析は,日本の保 険業が行き詰まっている姿を浮き彫りにしている。保険会社の統廃合や生損 保兼営の増加など改正保険業法の規制緩和効果は十分認められるものの,保 険会社の経営戦略が規制緩和を十分生かしきれなかったと考えられる。欧米 の保険業界も
EU
統合や2000年台前半の欧州株の下落期などにおいて大きな 危機に遭遇したが,その都度,資本戦略を軸にダイナミックな経営戦略を打 ち出し,高い成長を確保してきた。また,銀行などを中心とした巨大な金融 グループとの国際競争にも伍してきた。日本国内からみると日本の保険会社 も相応の対応を進めているようには見えるものの,国際的にみれば,そのス ケールもスピードも大きく劣後している。今後,日本の契約者,消費者に良質で安価な保険サービスを提供し続ける には,高い利益の効率性を実現することが必須になる。
逆ザヤや保険金不払い問題などで受け身の対応を迫られ,10年を費やした 日本の生命保険業界も,ようやく大手相互会社の株式会社化や民営化後のか んぽ生命との提携などを開始した。これらの動きをさらに加速し,また,国 際競争に立ち向かえる経営体力を有しているうちに,欧米でも成長性確保の 有効な手段となったグループ戦略を活用することが重要である。金融分野や 国の枠組みを超えた保険グループ戦略を再度練り直し,個性的かつ多様な戦 略に裏付けられた保険グループに変貌することが望まれる。
(筆者は滋賀大学大学院経済学研究科教授) 主要参考 献
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筒井善郎・関口晶彦・茶野努(1992) 生命保険業の規模と範囲の経済性 ファイ ナンス研究 pp.1‑15。
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