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オールタナティブ・ジャスティスのむずかしさ (巻 頭エッセイ)

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オールタナティブ・ジャスティスのむずかしさ (巻 頭エッセイ)

著者 関 雄二

雑誌名 チャスキ : アンデス文明研究会会報

巻 44

ページ 3‑4

発行年 2011‑12‑17

URL http://hdl.handle.net/10502/5131

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オ ール タナ テ ィブ ・ジ ャス テ ィス の む ず か し さ

関 雄 二(国 立民族学博物館教授 ・アンデス文明研究会顧 問)

今 年 は震 災 の影 響 もあ り、予 算 執 行 な どの困 難 にぶつ か りま した が、 な ん とか 例 年通 りペ ル ー北 高 地 のパ コパ ンパ 遺 跡 の調 査 を終 える ことが で きま した。毎 年 、 帰 国 にあ た り、調 査 を振 り返 って み る と、記 憶 に残 る ような事 件 の一 つ や 二つ に遭 遇 し た こ とに気 づ か され ます 。今 年 、印 象 に残 った出 来事 は農 民 自 警 団の デモ で した。

ペ ル ー北 高地 、 カハ マ ル カ州 の チ ョタ郡 は、 ペ ルー 有 数 の酪 農地 帯 で ある こともあ り、牛 泥棒 が多 く、そ れ を防止 す るた め、

1970年 代 に農 民 自警 団 が 結 成 され た場 所 として 広 く知 られ て い ます 。 農民 自警 団 は行 政組 織 で はあ りませ んが 、パ コパ ンパ 村 の場 合 、郡 都 で あ るチ ョタ市 や そ の下 の行 政 単 位 であ るケ ロ コ ト村 レベ ル の 自警 団組 織 の 下 に属 して い ます。 全 国 レベ ル の 組織 もあ るよ うで すが 、 実 際 に交 流 が あ るの は郡 レベ ル まで の よ うで す。 パ コパ ンパ 村 自警 団の ような最小 単 位 はバ セ(ス ペ イ ン語 で 基礎 の意)と 呼 ば れ、 日ごろの 自警 団の 活 動 は このバ セ を中心 に行 わ れ ます 。 一一 方 で 、周 辺 の村 落 の組 織 と共 同 で活 動す ることも多 く、パ コパ ンパ 村 も17の バ セ と常 に連携 して い ます。 そ の と りま とめ役 のバ セ は、全 体 集 会 で選 ば れ ます。 現 在 は、パ コパ ンパ 村 が そ の役 を担 って い ます が 、そ れ は この村

の最 も歴 史 が古 く、 また構 成 員の 数 が多 い か らです 。

バ セ にお け る農民 自警 団 の主 な活 動 は、6名 ほ どで構 成 され るチ ームが 毎 晩2組 ず つ 交代 で行 う夜 警 です 。 また 自分 た ちの 村 祭 りの ときの 喧嘩 や 乱 闘 の防 止 や仲 裁 の 役 も果 たす ば か りで な く、近 隣 の村 の祭 りで の警 備 に出向 くことも多 い ようです 。

毎 月開 か れ るバ セ の全 体 集 会 で は 、そ れ らの活 動 の 報 告 ば か りで な く、義 務 を怠 った構 成 員 に対 して課 され る罰 金 や 義 務 な どを討 議 し ます。 しか しなが ら、村 レベ ルの 組 織 と して は、

最 も活 発 な組 織 で あ るこ とか ら、上 水 道 を含 め 、 日常 生 活 全 般 に わた る問題 もときには扱 い ます。

さて今 年 の9月 下旬 、 この 農民 自警 団、 それ もチ ョタ郡 が 抱 え る全 農 民 自警 団 に声 が か け られ 、 最 も近 い 検 察 局 の あ る町 、 ワンボ スで地 方 検 事 に抗 議 す るデ モ が行 われ ま した。集 会 当 日 は金 曜 日で、発 掘 調 査 も予 定 され て はい ま した が、 重 要 な集 会 とい うことで仕 事 を中止 し、 発 掘作 業 員の 多 くが デモ に参 加 し ました。

デモ の 原 因 は、 地 方 検 事 が 不 起 訴 とした 事 件 に対 す る不 満 か らで した。 もと もとパ コパ ンパ村 に は派 出所 す らな く、 この 村 が 属す る上位 の 自治 体 で あ るケ ロコ ト村 の 警 察署 です ら4名 程 度 の警 官 しか勤 務 してい ませ ん。 道 路 で さえ ろ くに整 備 され て い ない 山岳 地帯 で、 しか もガ ソリン代 な どの予 算 を十分 に確 保 で きな い警 察 は、 パ トロー ル もで きず 、事 実 上 、 治安 活 動 は ゼ ロ とい って もよい状 況 にあ ります 。 そ んな状 況 です か ら、 農 民 自警 団 の存 在 は重 要 で あ り、 この 組 織 が なか っ た の な らば、

村 人 は 安 心 して暮 らす こ ともで きな い と思 い ます 。2年 前 、 金 製 晶 を副 葬 した墓 をわ れ われ が発 見 した と きも、真 っ先 に警 備 を提 案 して くれ たの は、 この組 織 で した。

その 農 民 自警 団 が、9月 初 旬 に、以 前 パ コパ ンパ 村 に属 す る 一 つ のバ セで 起 きた 現 金 泥 棒 の 容疑 者 の 身柄 を確 保 しま した 。

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「 パ コパ ンパ村 農 民 自警 団の夜 回 り」 撮 影:荒 田恵

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かつ て は身 柄拘 東 後 に 自警 団 の メ ンバ ーが 暴 力 的 リンチ な どの 苦 痛 を与 えて いた と聞 いて い ます が 、現 在 で は、 犯罪 が 起 きた 村 のバ セす べ て にお いて1週 間ず つ 、 肉体 労 働 奉 仕 を させ るこ とで体 罰 の代 わ りとして い ます 。今 回身柄 を拘 束 された若 者 は、

日本 円 で40万 円相 当の 盗 難 に加 わ った こ とを認 め 、 また 仲 間 の名 前 も口に した と聞い て い ます 。

そ こで容 疑 者 には、 いつ も通 り、 各 バ セにお け る肉体 労 働奉 仕 を強要 させ た ので す が、すべ てのバ セ での 奉仕 を終 え る前 に、

この地 方 を管 轄 す る ワ ンボ スの検 事 が介 入 して きま した。 司 法 権 力 以 外 の組 織 が 容 疑 者 を 断定 し、拘 束 す る こ とは不 当で あ る として、 身柄 を引 き渡 す よ うにパ コパ ンパ の農 民 自警 団 に強 要 して きた ので す 。農 民 自警 団側 も仕 方 な くこれ に応 じま した。

ところが 、 その 後 、担 当検 事 は、 この容 疑 者 を釈 放 して しまっ た の で す 。 た しか に こ うした パ ター ンは よ く見 受 け られ ます。

今 回の ケ ー ス に限 らず 、警 察 や検 事 に い った ん拘 束 され て も、

す ぐに釈 放 されて しま うこ とが 後 を絶 ち ませ ん。 そ の背 景 には 容 疑 者 の家 族 が 治 安 関係 者 を買 収 す るか らだ とい わ れ て い ま す 。 今 回 の ケ ー スで も、 地 方 検 事 が釈 放 した 時 期 に、 容 疑 者 の 父 親 が 大 金 を銀 行 か ら引 き出 した とも聞 いて い ます 。 結 局、

デ モ は 功 を 奏 し、 非 難 の対 象 となっ た検 事 の上 司 が、 再 び容 疑 者 を拘 束 し、 司 法手 続 きを開始 す る こ とを約 束 し、農 民 自警 団へ の非 難 を引 っ込 め るこ とで合 意 が 成 立 し ました 。

私 が 興 味 を惹 か れ たの は、こ うした事 件 の真 相 とい うよ りも、

事 件 の背 景 に あ るペ ル ー の現 況 で す 。現 在 、 ペ ルー で は、 政 治 的意 味 合 い が強 い に して も、 フジモ リ元 大 統 領 時代 の 人権 侵 害 が暴 か れ 、司 法 制度 や そ の執 行 も先 進 国並 み に近づ け ようと 関係 者 が 努 力 して い ます 。 司法 だ け でな く、社 会 全 体 の シス テ ム もそ うな りつ つ ある とい って も過 言 で は あ りませ ん。 人 間 関 係 の ネ ッ トワー クを利 用 して解 決 してい た社 会 か ら、 そ うした 個 人 的 ネ ッ トワー クに頼 らず とも、 誰 もが 同 じス ター トラ イ ン に立 って 、平 等 の権 利 を確 保 で き、恩 恵 に与 か れ る社 会 へ と移 行 しよ うともが い てい る とも言 え ます 。 あ る意 味 で よい 方 向 に 向 か って い るの で し ょう。

今 回の事 件 もこ うした社 会状 況 を反 映 して いる と考 え られ ま す。 腐 敗 や買 収 が あ ったの か もしれ ませ んが 、そ れ 以上 に、パ コパ ンパ の ような警 察 権 力 が脆 弱 な場 所 で す ら、国 レベ ル の司 法権 力 が 拡 大 しつ つ ある こ とを知 らされ ました。 もち ろん これ が、 うまく機 能 さえす れ ば、 国民 の権 利 の確 保 、法 の 下 での 平 等性 は保 た れ そ うです が 、 現 実 はそ ううま くはい か ない よ うで す。 事実 、 今 回 のケ ース で はろ くな捜 査 もせ ず に容疑 者 の無 罪 放 免 とい うとん で もない結 果 を もた らしました。

い ず れ に して も、 ペ ルー に限 らず 、 こう した在 来 の治安 ・司 法 組 織 と公 的権 力 との対 立 や 矛盾 は、途 上 国各 国で起 きてい ま す 。 しか し、 そ こで は、 一方 が 他 方 を排 除 す る とい う形 態 か ら 共 存 させ てい こ うとい う形 態へ とい う変 化 の 兆 しが 見 えつ つ あ

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ります。 この場 合 、 国の 司法 制 度外 の紛 争解 決 手 段 の方 を、 最 近 では オー ル タナ テ ィブ ・ジ ャステ ィス と呼 ぶ こ とが あ ります 。

代 表 的 な もの としては 、裁 判 とは異 なる さまざ まな紛 争 処 理 手段 として、 過去 の政 治 犯罪 や 集 団暴 力 の真 相 解 明 と被 害 者 ・ 加 害 者 和 解 の 実 現 を 目的 として 設 置 され る真 実 和 解 委 員 会 が

あ ります。 じつ は、ペ ル ー で もテ ロ リズ ム時代 にお け る犯 罪 を 解 明す るた め に この 委 員 会 が 設 置 され ま した。 この ほ か に も、

国家 が 定 め る裁 判 制 度 に頼 った場 合 の コス トや 時 間が 馬 鹿 にな らな い ことか ら、 村 落 社 会 の人 々 の生 活 に密 着 した イ ンフォー マ ルな紛 争解 決 の方 法 と して コ ミュニ テ ィ ・ジ ャステ ィス なる ものが 認 定 され てい る国 もあ ります し、 日本 国 内 で も裁判 外 紛 争 解 決 手続 の制 度 が拡 大 しつ つ あ ります 。

こうして み る と、ペ ル ーで は まだ そ の過 渡 期 とい え るのか も しれ ませ ん。 真 実和 解 委 員 会 は ともか く、村 落 レベ ルに お ける 紛 争 解 決 手 段 を国 の 司法 制 度 に代 わ る もの と して合 法 化 す る には至 って い ませ ん。 た しか にオ ー ル タナテ ィブ ・ジャス テ ィ スは万 能 で はあ りませ ん。 男性 優 位 主 義 が 目立 つペ ル ーの よ う な国 で は、 コ ミュ ニテ ィに とって正 義 であ って も、 女性 の権 利 侵 害 を招 くケー ス も出 て きまし ょうし、 そ の 適 用 に は慎 重 さが 求 め られ ます。 しか しなが ら、現 実 に国 の司法 の 手 が行 き届 か ぬ 場 所 が あ る こと も事 実 で す か ら、 オ ー ル タナ テ ィブ ・ジ ャス テ ィスの導 入 は 、必然 と言 えま しょう。

じつ は、 今 回の デモ 事件 か ら学 ぶ こ とは、 単 な るペ ル ー社 会 の 分析 に とどま らず、 私 が現 在 進 め るパ コパ ンパ遺 跡 や 出土 遺 物 の保 管 に関す る計 画 とも関係 して きます。 仮 に、 一 昨年 発 見 した金 製 品 を収 め る博 物 館 施 設 を村 人 が望 む ように建 設 した と して も、警 備 が 必 要 とな ります 。安 全 が 確 保 され な けれ ば、 文 化 財 の保 管 を文 化 省 は許 さないか らです 。そ こで 問題 となるの は 「 警備 」の定 義 で す。 現 在 の文化 省 の方 針 や規 則 か らす れ ば 、 警 備 とは警 察 もし くは専 門 の警 備 会社 の ことを指 し、 農 民 自警 団 は 念 頭 に は あ りませ ん。博 物 館 建 設 を始 めれ ば、今 回 の事 件 と同 じよ うな問 題 が浮 上 す るこ とは 目に見 えて い ます 。

国 レベ ル の法律 と現 実社 会 にお け る実践 との乖離 、乗 り越 え るべ き課 題 は、ペ ル ー に とって も私 たち の調 査 団 に とって も山 積 みで す 。

関 雄二(せ き ・ゆ うじ) 1956年 東京生 まれ。

国立民族学博物館研 究戦略センター教授 ならびに総合研究大学院大学教授 。 専攻:ア ンデス考古学、文化 人類学。アンデス文明の成立 と変容の解明に取 り 組 むかたわ ら、文化遺産 をめ ぐる問題 を人類学的に考察する研 究を進 め、 さま ざまな開発 プロジェク トに携 わってきた。

単著 として 『 ア ンデスの考古学』(同成社)、 『 古代 アンデス 権力の考古学』(京

都大学 学術出版会)、編著書 として 『 文明の創造力』(角川書 店)、『 アメリカ大

陸古代文明事典』(岩波書店)、 『 他者の帝国一インカはいかにして 「 帝国」となっ

たか』(世界 思想社)、『 古代 アンデス 神殿 から始 まる文 明』(朝日新聞 出版)

などがある。

参照

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